● ここは『剣林』の本部に当たる百虎の屋敷。すっと月明かりが差し込む。 事の顛末を報告しながら、『剣林』のフォーチュナ赤坂は背筋が冷えるような感覚を味わっていた。 『恐怖神話』と呼ばれるアザーバイド群とリベリスタ達の戦い。 結果はリベリスタ達の勝利に終わった。そう、『箱舟』ことアークの勝利だ。これは単にアザーバイドの軍団をリベリスタ組織が倒した、という話ではない。 バロックナイツの1人でもあり、ミラーミスでもある存在をアークは打ち破ったのだ。 もはや、アークの武名を疑うものは、国内におるまい。 赤坂個人としては予想外も良い所であった。リベリスタ組織の再編自体はある話だ。とは言え、アークが主流七派を敵に回した時点で決着はついたと思っていたし、バロックナイツ第七位『The Living Mistery』ジャック・ザ・リッパーと事を構えた時には正気を疑ったものだ。 だが、そんな絶望の嵐を『箱舟』は乗り切ってしまった。 最初は百虎も面白がっていたはずだ。 しかし、気付けば敵と認めた相手に向ける目を向けるようになっていた。このような目を向けられたものはほとんどいないし、生き残ったものに置いてはどれ程のものかという話である。 「……以上だ」 「おう、ご苦労だったな」 赤坂の話が終わると、百虎の部屋に沈黙が降りる。 時折、ししおどしの音が響くだけだ。 2人の男はそれぞれに黙りこくる。 『箱舟』が勝利を重ねるごとに、日本の神秘界隈には衝撃が走る。『あり得ない勝利』に各組織は少なからず方針の修正を要求されるからだ。ましてや、『裏野部』を失った神秘業界は緊張に包まれている。いつ何時、爆発を起こしてもおかしくないような状況なのだ。 迂闊に動けば、自分達が極東の火薬庫に火をつけかねない状況である。 「雅の字よぉ、ちょっと用事を頼まれちゃくんねぇか?」 「お前の『ちょっと』がちょっとだった試しはないが、言ってみろ」 そんな沈黙を破って百虎が口を開く。 「アークの連中を酒に呼びてぇんだが、どうよ?」 「どういうつもりだ?」 友人の言に赤坂は眉間を押さえる。 百虎の無茶は今に始まったことでもない。そもそもその無茶についていける人材でもなければ、『剣林』は務まらない。 それにしても、である。 リベリスタとフィクサードの関係は、警察と犯罪者のそれに似ているが、ある程度緩い。過去、逆凪黒覇がアークのリベリスタを招待した例もある。 だが、常識的な感性を持つ赤坂としては、にわかには受け入れ難い行動といえる。 「なに、雅の字よ。ミラーミスを倒したすげぇ奴らを労おうって話さ。土産話も聞きてぇしよ?」 怪訝な表情を浮かべながらも、赤坂は納得する。『剣林』の人間は単純に強者を尊敬する。それを思えば、百虎なりの礼儀にかなった行動だ。 「それにな、近々思い切り戦う相手よ。その前に、面くらいちゃんと合わしておきてぇじゃねぇか」 百虎が牙を剥きだして笑う。 その言葉に納得する赤坂。それが本音か、と。 時間の停滞していた日本の神秘界隈。しかし、時計の針は再び動き始めたのだ。一度動き始めた以上は、砂時計の砂が尽きるまで時は止まらない。 「気軽に言ってくれる……分かった、手配してみよう」 「なに、お前以外にゃ頼めねぇよ」 ため息をつきながら席を立つ赤坂。 それを見送りながら、百虎は1人きりの部屋で自分の顎を撫でる。 「さてさて、是非とも聞いてみてぇもんだ」 それは戦士であれば、誰もが求めるもの。 最強と呼ばれる男であっても、それは例外ではない。 「てめぇにとって、強いってのは何なのかをよ」 戦い合うからこそ知らずばなるまい。何を目指し、何のために力を求めるのか。 それがただの獣としての戦いではない。リベリスタとフィクサード、自分の力を知り、追求しようとする者達にのみ赦された戦いなのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月05日(火)22:10 |
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■メイン参加者 27人■ | |||||
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● 「この屋敷に来るのも本当に久々だな」 足抜けして云年。 またここの敷居をまたぐことになるなどと、虎鐵は考えもしなかった。 「恐らく話を聞きたいって言うのも本心だろう。そして……これから起こる大きな戦いの果たし状って所か?」 相手はシンプルな人間だ。疑うつもりも無い。 そして、万感の思いを胸に、『剣林』本部たる屋敷に歩を進めるのだった。 ● 麗香は遠慮も無しに百虎に質問を仕掛ける。神秘界隈の『常識』からすると、命知らずも良い所である。 「バロックナイツに興味がねぇとは言わねぇが、その前にやる連中が多いからよ。向こうから来るなら話は別だがな」 「へー。髪型はいつも自分で手入れするんですか? お年は? ちょっとどんくらいカチカチか触らせて~」 律儀に50は超えた、と答える百虎の硬い髪をぺたぺた触る麗香。 そしていい加減周りが止めようとした所で、 「そろそろ晩御飯というAFについてkwsk」 麗香は手を放してにっこりほほ笑んだ。 そうして、宴は静かに始まった。 一応、招待を受けたという体であるためか、結唯が土産としての酒を持ち込む。 「……お前が百虎か。お初にお目にかかる。土産の酒を用意した」 「おぅ、そいつはすまねぇな。これは俺達も負けてられねぇ」 そして、出てきた料理もリベリスタに対しての礼を示してか、中々のものであった。基本和食であるが、十分に金をかけていることは誰の目にも明らかである。 そんな中で任侠者としての作法に従って、烏は百虎と一献交わすと、軽い雰囲気で口を開く。 「剣林って名前が示す通り銃なんかの使い手ってのは、やはり多くは無いものなんで?」 「言われてみれば少ねぇわな。シンヤの件の頃に死んじまった奴も少なくねぇ。ま、俺が銃林百虎だったら話は違ったかもな」 「であれば、強いってのは、生きている事ですかね」 笑い飛ばす百虎に烏は呟くように言った。 最後まで生き残ったものこそ強い、と。死んでしまっては「強かった」というだけで、いずれは色褪せていくものなのだから。 「少なくとも神秘界隈では、武力や知力以上に覚悟が必要だ。何がなんでも生き残る覚悟が、な」 結唯もその場で目を閉じて言う。 戦いに身を置く以上、覚悟がなければ生き残れはしない。 死にたくなければ強くなるしかない。 「なんにせよ、『最強』の前に、なんぞ余計なモンがつくなんてのは『恥』以外の何でもないと、そう思わんかえ? 呼ばれるのも、名乗るのも」 その時、百虎がすぅっと目を細めて「仕掛けて」くる気配を睨む。声の主は真珠郎だ。 「あぁ、すまんの。別に『売ってる』わけではない。少なくとも我の目指すもんが、そうじゃというだけでの」 「気にすんな、俺もそこには同意見でよ」 互いに気配で仕掛け合うも、手を出しはしない。 結局、ここはそう言う場だ。『逆凪』のように腹の探り合いを行う場なのではない。単に戦の前に名乗りを上げる場所なのだ。 「ちゅーことで、剣林百虎。『次に』会うた時は、我がヌシを食い殺そう。『いつか』等とは言わんよ」 そんな場であっても空気を読まないのが結城竜一という男だ。美味い天ぷらを食べて、『剣林』に属する少女達に声を掛けている。しかも、フィクサードの少女達は『音に聞こえたアークの結城竜一』を好感触で迎えてくれる。 しかし、彼を見知る者には常識だが、外に聞こえる情報と実体は違う訳で。 最終的に愛想を尽かされ、外れにいた赤坂の横に落ち着くことになる。 「お疲れ様です、お互い苦労するっすよね。赤坂さんはなんで剣林に? ずっと百虎とともに?」 「お前さんと似た様なもんだ。偶然からの腐れ縁で20年来の付き合いだ。もう表社会には戻れない身さ」 「大変っすね。ちなみに、赤坂さんご娘さんとかお孫さんとかいます?」 「別れた妻との間に出来た娘が高校に上がったと聞くが……お前には絶対やらん」 その一方で、百虎の傍は修羅場となっていた。かつて『剣林』と争い、潰されかけた城山組の組長が姿を見せたからだ。 「ほぉ、城山の。これはご足労痛み入るぜ」 「いちいち配下が潰した相手を覚えているとはご苦労だな。受け取れ、慣れたもんだろう?」 銀次が差し出すのは宣戦布告の杯だ。 「負けてそのままじゃあ居られねェよ、解らない筈がねェよなァ」 余人には理解出来ないだろう。だが、これは面子の問題なのだ。 「強さなんてェのはあってないようなモンよ。強大な能力があろうと勝つときは勝ち負けるときは負ける。勝者である為に戦うのさ」 『剣林』が最強であっても勝ってみせる。 「いずれその頸を貰う、次の勝者は城山だ」 『悪漢無頼』城山銀次は高らかに宣言した。 棘を孕んだ場であるものの、慧架としてはそれ程苦でも無かった。 友人であるトモエがいるためだ。貴重な時間を使ってお喋りに興じる。 そして、慧架が最近使い始めた携帯電話でアドレスの交換をしようとすると、陽菜もそれに混ざる。 「アタシも良いかな? メアド交換したいな~……なんて♪」 「はい、喜んで!」 縁側で他愛も無い話を行う少女達の姿を見て、これが神秘の闇の中で戦う戦士達の姿だと思うもの羽織るまい。 (剣林の人達とは今まで何度も戦ってきたから、味方っていうのは無理だろうけど友達にだったらなれるよね!) しかし、陽菜はそれと同時に今後の避けられない戦いの覚悟も決めていた。手を抜くのは『剣林』にとって最大の侮辱であろうから。 彼女らの胸にある覚悟とは裏腹に、宴は進むのだった。 ● 事前に注文しておいたカレーを小梢はぱくぱくと食べていた。 「いや~、しばらく本気だせないわーマジ出せないわー」 ただのカレーも良いものだ。 ただ酒が飲めるということで、同様にユーフォリアも思うままに呑んでいた。当初はおちょこだったが、気付けば御銚子から直接だ。それでも、背中を開いて着崩した浴衣姿はそれなりに色っぽいものだ。 同じように浴衣姿のせおりは、百虎へと酌を行いに向かう。 薄浅葱に白い貝殻模様の夏御召、薄黄の地に水色の熱帯魚の帯に竪琴の帯留と、それなりにめかしこんでいる。 「大太刀使いの幻想種として、立場も陣営も違えど百虎おじさまは尊敬する大先輩なのです!」 「そういうお前こそ、若いのに大したもんじゃねぇか。てめぇが強くなれば、世の連中が人魚を見る目も変わるだろうよ」 先ほど疾風に問われて、百虎は自分を『一応デュランダル』と明かした訳だが、それ以外の点では共通点も多い。そのためか、年の差の割に会話は弾んだ。 そこへ瓶を手にユーフォリアがやって来る。既に酔っ払いの表情だ。 「大将~、美人のお酌は如何ですか~。なんなら~、口移しで飲ませてあげても良いですよ~」 「ありがてぇな。それじゃ、頂くとするかね」 そう言って、百虎は盃を差し出した。 「よぉ、百……オヤジ。楽しませてもらっているぜ」 「へっ。うちを抜けてまたここに立つ奴なんざ、掛け値無しにてめぇが初めてだぜ」 面子を重んじる『剣林』は足抜けに厳しい。だから、虎鐵も自分が嫌われているのは知っているが、それでも百虎に対する尊敬の念は消えていないし、恩義もある。 「俺の娘だ。ここを抜けた切欠……でもあるな」 「朱鷺、朱鷺島雷音だ。虎鐵の娘だ。こちらが名乗ったのだ、貴方も名乗れ」 紹介されてビクッと跳ね上がったものの、虎鐵に促されて雷音はつっかえながら挨拶をする。 「ほぉ、膝が笑っているが、大したもんじゃねぇか。俺が剣林百虎だ。虎が100匹で百虎、これを間違えた奴は剣林だと殴って良いことになっている」 百虎の返事に震える雷音を庇うように虎鐵は前に出る。 そして、虎は群れを統べる虎へと吠えた。 「俺は、絶対にテメェを越えてみせる。俺の魂全てをこの刃に乗せてな! それが俺にできる唯一の恩返しだ」 「やってみな。今度会った時、遠慮は無用だ。その矜持ごと叩き切ってやるぜ」 時折、廊下ですれ違うものが殺気を投げかけてくる。 そんな環境に居心地の悪さを感じていると、ふとトモエと目が合った。 「殺気立った目だな、まるで昔の俺のようだ」 ムッとしながら反応するトモエ。だが、小雷はそれをさらりと流すと、軽く対話する。どちらにも似た所はあるためか、思いの外に会話は進んだ。しかし同時に疑問も浮かんだ。 「貴様ほどのまっすぐな人間が何故『剣林』にいる? 俺達のところに来る気はないか?」 「巡り合わせかな。たしかにあなたの言うことも分かるけど、ここの人達から受けた恩もある……そう抜けられない、かな」 「ま、そちらと戦いたくない等と生温い事を言う心算は無い。やる以上はオレも本気でやらせてもらう。……そうそう、あれはいい技だな、重宝している」 話に割り込んできたのは、オレンジジュースを飲んでいた福松だ。彼の作法は意外な程様になっていた。その言葉に、トモエは苦笑を浮かべる。 福松としては『剣林』のことをそう嫌ってはいないが、立場が違うのもまた事実だ。 「ま、今は美味い飯を共に楽しもうじゃないか」 そう言って、福松はグラスを掲げた。 会話の隙間を突いて、あばたは百虎へ先日の「仕事」の謝罪をする。 「月森紫銅の件に付いて、脇からさらうような真似をして申し訳ありませんでした」 「あん? 気にするこっちゃねぇぞ、あんなもん」 「それでも、横紙やぶりまがいの行いであったことは事実です。そのことには感謝しますし、謝罪を致します」 首領と平和的に遭遇する機会が限られている以上、こうした挨拶の場になることもある程度は想像されていた。 ランディとしてはこうした馴れ合いを好まない。当然、『逆凪』や『恐山』と意味は違うわけだが。 それでも機会は機会と、百虎に質問を投げかける。 「ナイトメア・ダウンの時に参加できた奴らは帰ってきてねぇよ。あの時俺は出遅れちまった訳だが、後で聞かされて、惜しい奴らを亡くしたもんだと思ったぜ。 歪夜の連中に関しちゃてめぇらも知っての通りだ。やりてぇことが違うんだよ、基本的に」 ランディの質問に対して、百虎は隠そうともせずあけすけに返してくる。腹芸は根本的に苦手なのだろう。アークの中でも屈指の武闘派であるランディには共感できることも多い。ただ、最終的に至る結論は二者の戦いが不可避という事実でしかない。 「なるほどな。だから、正面から歯向かってくる俺らの存在がありがたいってことか。七派の約束は有名無実であるが、侠客の頭領としては自分から破るわけにはいくめえ」 だから、『剣林』がアークを逃すはずもない。ならば、精々良い喧嘩が出来るようにするしかないというところだ。 「畑は狭く実りは乏しい……俺達はそれさえ喰らい合い、数を減らす事を止められない、馬鹿な生き物でさぁ」 飲みなれない盃を手に、ツァインは百虎と酒を交わしながらツァインは少ない実りの多くと巡り合って識ったものを反芻する 「剣に込められた四千年の重みを……だからなりてぇ、恥ずかしくない。曲がりの無い担い手に……。 ハハ、その人達にゃ知った事かって言われるでしょうけどね!」 「笑いたい奴には笑わせとけ。俺としちゃあ、そんな担い手になったてめぇを切りてぇんだからよ」 「戴かねぇ内に美味ぇモンはオレ等に全部食い散らかされたヌリぃ方は違うな」 その時、火車が笑う。 如何に戦わないとの約定があっても、ここまでの暴言を吐けるのは彼位のものだ。 もっとも、基本的にリベリスタとフィクサードは敵同士。この場が設けられたこと自体が気まぐれの産物でしかない訳だが。 「アークに好きなだけ仕掛けてきたアンタ等だが、勝率は如何程だよ。なぁ?」 『剣林』の日常を理解出来ない男ではない。 しかし、同時に火車にも火車には一般的で、平和そのもので、尊い日常がある。 「ソレを壊そうとする存在なら、何でもかんでも全潰しだ」 「言い方は違うけど私も近いかな」 会話に入って来たのは安酒だけをもらっていた彩歌だ。単に武器を持たないだけでなく、電子機器も手放した心許ない状況だが臆したりはしない、 彩歌としては目的に対する手段以上のものにはなり得ない。そして、目的は世界を崩界から守ること。 「私にとって敵とは世界を侵すものであるから」 そういう意味では、先日戦った梅泉も「敵」とは言えない。 「だったら、俺は『敵』になるな。俺は世界がどうなろうが、知ったこっちゃねぇ。俺は最強を目指すだけだ」 ソフトドリンクを飲みながら、糾華は騒ぎが大きくなっていく場を眺めていた。 糾華は『剣林』という組織を嫌ってはいない。武術集団に近い組織であり、実態はどうあれそれなりに真っ直ぐな連中に見えるからだ。 だから、フィクサード首領に向かって口を開いた。 「三高平に来てから色々な強さを見たわ。ねえ、百虎さん、貴方の目指す強さは何かしら? 真の強さの頂には1人しか立てないものなのかしら?」 「それは僕も同感だ。最強って一つじゃねぇとそんなにダメなん?」 口を挟んだのは夏栖斗だ。『ヒーロー』にも『最強』にも届かない1人の少年として、素直に想いを口にした。 「甘いって言われるかもだけど、この先のバロックナイツとの小競り合いで僕はあんたら剣林が削れることがいいことだなんて思わない」 フィクサードとリベリスタを分ける線は断固としてあるが、協力しあえないほど憎み合ってるわけじゃないはずだ。 それはセラフィーナも同じことが言えた。 気を悪くしたらすいませんと前置きすると、真っ直ぐに百虎の目を見て言い放った。 「日本最強であるならば、日本を守って欲しい。日本という看板を背負っているのですから。勝手な考えですが、そういう期待を持っています」 彼女にとっての強さとは、「自分の守りたいモノを守れるかどうか」だ。護るために戦ってきたからこそ、自分は生きて戦うことが出来た。 雷音は勇気を奮って、日本最強にそれを問うた。 「貴方にとって最強の定義とは何か、答えてほしい」 雷音の問いにしばらく黙った後で、百虎はその場にいるリベリスタ達全員を睨むようにする。 そして、口を開いた。 「俺にとっての最強ってのは、一番強さを知ってる奴だ。だからこそ、俺はここまで強くなったてめぇらと戦いてぇのさ」 ● 一触即発かと思われた場ではあったが、最後に流れが変わったお陰で矛は収まる。 そして、人が引いたのを見計らって、リンシードは百虎に声を掛ける。 「純粋な強さっていうのは……憧れなんでしょうね……。私は……戦う事しかできないと言うか。色々な約束もあるので……負けられないと言った感じですね。特に、糾華お姉様の事に関しては」 だから、自分も強くならねばならない。 これからもっと強い敵が現れるのだろうから。 「なら、いっちょやってくか? 手合せなら俺も約定破ったことにはならねぇ」 「す、すみません、遠慮しておきます。お姉様が見てるので……心配かけたくないです」 そうこうする内に、宴も終わりの時間を迎える。 丁寧な礼と共に疾風は百虎に挨拶を行う。彼にとっての強さは、或るべき日常を護る為、悲劇を1つでも減らす為の力を得ること。一言で言うなら正義の味方が目指すべき道だ。故に、平和を脅かさない限りにおいて、彼は『剣林』に悪感情を抱いてはいない。 だから、礼を尽くすのにしくは無い。 しかし同時に、そのヒーローの嗅覚は見逃さない。 「近いうちにアークとやり合うつもりなんでしょう?」 「ま、そういうこったな。日付まで言ってやる義理は無ぇ。てめぇらを信用はしてるがな。それに『神の目』があるじゃねぇか」 ならば、と快が百虎の前に立つ。 「なら、言わせて下さい。提案というか、果たし状、みたいなものです」 快の提案というのは「組織同士で決着を付ける。横槍に対しては共同で対処する」というものだ。如何にアークと『剣林』が戦いたいと言った所で、国内の状況はそれを許すまい。だからこその提案だ。 その言葉に拓真が乗る。 「剣林百虎、あなたも武人であればこそ知って居られる筈。望もうとも、その縁が決して繋がらぬ事がある事を……既にこの身も、それを経験しておりますればこそ」 「まぁ、な」 「だから提案だ。剣林につまらぬ事件は似合わない。最強の名を賭けて、決着を付けるべき時では無いですか?」 「快の字よ。てめぇは俺よりよっぽど政治屋向きだぜ。所詮、ただ俺達は喧嘩集団。いくら俺が言った所で限界があるっちゃぁある。ただ、横槍を排除するってのには賛同するぜ」 「俺からも。百虎さん、ひとつ頼みがあります。首領ではない、一人の剣林百虎という漢と勝負がしたい」 何か百虎が返事をするより早く、ツァインはその言葉を遮る。 「返事はいいです、それでは戦場で……。酒、美味かったです。呑めてよかった」 ツァインの言葉にニヤリと笑みを返す百虎。 拓真も最後に何かを言おうとする。 「俺にとっての強さは……いえ、今は語るのは止しましょう」 しかし、すぐにそれを止めた。 ここで話しても意味はあるまい。 それよりもっと、ふさわしい場がある。 「何れ、縁があれば我が双剣にて語らいましょう。その方が、我らにとっては『らしい』かと」 かくして夜宴は終わりを迎える。 互いに分かっている。次に出会うときは戦場、次に出会うのは死合い。 心の刃を研ぐ戦士達を、月は柔らかく照らすのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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