● 「―――――」 囁き声と共に、怯える一般人の瞳を射抜く弾丸が二発。 黒目の部位を狙った其れが貫通し、衝撃と共に一般人の身体が後ろへと倒れこむ。 弾丸の主はさも興味もなさそうに次の標的を探し銃口を揺れ動かした。彼女――『ネケシタス』御陵・岬の隣で幸せそうに唇を吊り上げた『裁縫屋』会津・左院はスキップ等を交えながら絶命した一般人の許へと近寄っていく。人が一人死んだと言うのに、彼らは何ら感傷も覚えない様だった。 「あーあ、この子、綺麗な目しとったのに……。岬ちゃんはせっかちすぎて困るわぁ」 「約束したでしょ、私が心臓と瞳を射抜けなかったコだけあなたにあげるって」 左院が手にしたチェーンソーは戦闘には使わない物なのか、異様な加工が施されている。まずは一断ち。ゴリゴリと骨を削る喧しい音が路地裏で響き渡るが、同行者である岬は何も思わない。 「それで? 僕らはどうやって達成するん? こっちが罰ゲームになったら洒落にならんよ?」 人間を『解体』しているというのにフランクな会話を楽しむものだ。 顔色一つ変えないで人間の体を『解体』し続ける左院の声に岬は小首を傾げて首を振った。 『チャオー! みさっちゃんとサイン君、元気? 俺様ちゃんは超元気! なんたってこれからタノシイ事があるんだからね! 勿論、強制参加だYO』 声を思い出すだけで頭痛がする。黄泉ヶ辻首領の思い付きは何時だってこうだった。 弾を放ち、『恋をする』だけで満足するのにこんな課題どうやって応えればいいんだか。 「楽しい事って僕がやるみたいに人を解体して、繋ぎ合せてチョー可愛いお人形作るとかやあかんの?」 「そりゃあなたはいいでしょうね」 「岬ちゃんやって僕と同罪やろー? 岬ちゃんが殺して、僕が解体する!」 そうだ、これからもずっと二人で殺し続けられる。黄泉ヶ辻京介の課題だってクリアできるはずだ。 楽しい事。採点基準は黄泉ヶ辻京介。そんな莫迦げた宿題でオシオキされて人生からリタイアなんて許されない。 だって―― 「獲物発見。『裁縫屋』、あの子はとっても素敵な瞳をしてるわね。 でも、残念……今回も私が恋してあげる。だって――」 ● 「食中りだわ、間違いなく。趣味が悪いし吐いちゃいそう。ついでにその辺の壁でも殴りそうだわ」 開口一番、『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)から感じられたのはあからさまな嫌悪感。 食中りと彼女が称する事件も少なくはないが――多くもない。大方、黄泉ヶ辻の事件が多い様に思えるが……。 「黄泉ヶ辻のフィクサードへの対応をお願いしたいの」 黄泉ヶ辻だった。 世恋にとって『食中り』となるのは気色の悪い上に夢見が悪いと分類されるものなのだろう。黄泉ヶ辻のフィクサードの凶行は心の底から嫌悪する者が多い。無論、排他的なあの場所ではある程度『マトモ』な人間もいるのだろうが。 「『ネケシタス』御陵・岬と『裁縫屋』合津・左院。ペアで活動してるフィクサードね。 今回、私が食中りだと感じたのは『裁縫屋』の行いの方かしらね。『ネケシタス』は両眼と心臓を狙って射撃を行うの。眼と心臓を射抜く事で恋に落ちる錯覚がすると言うからこれも……まあ、黄泉ヶ辻かしら」 意味が解らないと言わんばかりに竦めた肩。 大きな桃色の瞳に嫌悪を浮かべたまま世恋は幾つかの写真を机の上へと並べて行く。 「ああ……こういうの、苦手な人は見ないでね。気持ち悪いからね。 これが『ネケシタス』に両眼と心臓を射抜かれた死体。瞳と胸以外に外傷はないわ。 それから……これが『裁縫屋』が手を加えた死体ね。『ない』わね」 写真には両眼と心臓を射撃されたであろう人間と、体の部位を盗まれた死体が写って居る。 裁縫屋というからには何かを縫い合わせるのであろうが、悪趣味な黄泉ヶ辻では何を縫い合わせるのだと聞きたい様で、聞きたくはない。ろくなものを縫っているのだろうという事だけが良く解る。 「裁縫屋の趣味は気に居る部位を合わせて最高の人間をつくる事よ。 例えば、貴女の腕が綺麗だからほしい。貴方の足が欲しい……こんな感じに『切って』奪っちゃうわ。 殺すのは『ネケシタス』。彼女が瞳と心臓を射抜く代わりに他の部位は『裁縫屋』へ。 『ネケシタス』は言ったそうだわ。瞳と心臓は私が恋(う)てなかった相手だけをあげる、って」 瞳と心臓以外は現状ではツギハギの人間の出来上がり。しかも悪趣味だ、と世恋は馬鹿にした様に毒吐く。相変わらず、幼さを感じさせる外見には似合わずに毒を吐く事だけが得意なフォーチュナだ。 「彼らが今、如何してこんなにも『多く』の人間を狙っているのかは分からないわ。 一部、解ったのは何だか宿題を課されている……のだそうよ。黄泉ヶ辻のフィクサード全員に」 それ以外は解らないけれど、と小さく首を振った世恋は言い忘れていたとリベリスタへと向き直る。 「『ネケシタス』はかなりの命中精度を誇るスターサジタリー。口癖は――」 「『私の弾丸は避けられない』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月02日(土)23:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 繁華街から一つ路地を折れる。ネオンの煌めきは少しずつ差しこんでいる――だが、薄暗い路地裏に人々の目は届かない。 人は、他者の視線により己を律する事が出来るらしい。人の眼すら届かないこの場所は所謂『無法地帯』であろうか。 「幸せモノやなぁ……死後も愛されるって幸運やない?」 くつくつと笑う若者の声に座りこんでいた中年男性が悲鳴を上げる。彼の指先が路地の汚れた地面を擦り、何かに触れた。柔らかいソレは弾力性を有している。視線を送ってしまっては―― 「おっかなくて気持ち悪い事をしてらっしゃるんですね?」 愛らしい少女の囁き声に混ざり、跳びこんだのは黒き闇の武具を纏った青年。手にした刃を二つ重ねて作られた鋏が奇妙な音を立てて鈍色に輝く。 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の血色の瞳が向けられたのは座り込んだ中年男性の更にその奥、チェーンソーを握りしめた青年と、銃を握りしめた女の瞳。 「黄泉ヶ辻のネケシタスちゃん――だっけ? 宿題とかチョー怖い。 そっちの彼と、俺様ちゃんたちの眼と心臓。恋に落ちるならどっちがいーい?」 肩を竦めわざとらしく告げる葬識へと加速を付けて跳びこむソードミラージュ。一般人を囲っているフィクサードの上空を越え、弾丸を伴って投擲された閃光にチェーンソーを手にした黄泉ヶ辻フィクサード、左院は目を覆う。 「私の弾丸は避けられないってね」 肩を竦め、煙草の火を消した『足らずの』晦 烏(BNE002858)はその手に馴染む二五式・真改の感触を確かめる様にその手でなぞる。彼の視線が向く先は左院のその奥、銃を構えた御陵・岬その人だ。 「ええ、避けられないわ。これは恋慕の怨念が籠った弾丸」 響き渡った発砲音。その音にいち早く反応した『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が手にした錆び付いた白で弾丸を弾く。魔銃バーニーを握りしめた指先に幾ばくかの力が込められた。 「避けられない弾丸――か。それは非常に興味深いが、残念だけど探究する趣味は私にはないんだ」 「それは、どういう?」 「見逃せないな。どうやらげんこつ程度じゃ済まなさそうな程に性根が腐ってそうだ」 杏樹の言葉にからからと笑った左院が前進する。フィクサード達の狙いはこの現場の『混入物』。リベリスタに愛憎を向けた岬の為に、要らなくなった舞台装置を殺す事だろうか。座り込んで怯えた中年男性の指先にあたったバラバラ死体の腕を蹴飛ばしながら召喚した星の力を帯びた魔剣。 怯えた顔をした男と視線を合わせる様に一気にその顔を上に向かせた『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)の瞳は普段とは違う色を浮かべて見せる。 「暴れず騒がず、素直にオレ達の言う事を聞いてここから逃げろ」 暗示を込めた瞳が俄かに煌めいた。少年の言葉にしきりに頷くのは魔眼が中年男に聞いたと言う事だろうか。しかし、そう簡単に『片恋慕の相手』を逃がすほどフィクサードも短慮ではない。 「相手は此方です――黄泉ヶ辻。『剛刃断魔』、参る!」 童子切を握りしめる『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)の指先に力が籠められる。彼にとって『黄泉ヶ辻』はある意味で特別な相手だ。無論、臣の心境へと影響を与える訳ではなく、ちょっとした感傷なのだろうが。 (確か主流七派の一派の一つで、首領は黄泉ヶ辻京介――冴姉さんを殺した男だったか) 頭の中で合点が行った相手。成程、『姐さんが示した正義の意思』を継ぐ為には目の前の悪を打ち倒す事が必要となるだろう。蜂須賀の血はそれ程までに強固なのであろうか。 黄泉ヶ辻、と呼ばれた事に反応した左院が肩を竦める。閉鎖的な派閥である黄泉ヶ辻は何かと『趣味が悪い』場合が多い。同族嫌悪をするかの様に同じに扱わないでと軽口をたたいたフィクサードへと『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は唇を引き結んで弓を爪弾いた。 (どうしてこうも黄泉ヶ辻がやる事は悪趣味極まりないのでしょうか……十分『気持ち悪い』ですわ……) 言葉にすることなく、シュヴァルツァーフォーゲルをしかと握りしめた彼女が与えたのは小さな翼。 「皆様のお背中に、小さき翼を……」 身軽に動く事の出来る『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)はその加護を得て、しかと敵陣を見据える。火縄銃 弐式から放たれる炎の弾丸に怯む様子も見せず唇を噛んだフィクサードの内、烏の攻撃を逃れ自由に動く事の出来たダークナイトが黒き瘴気を放つ。 仲間達の背後で魔術教本をしかと抱き締めた『オカルトハンター』清水 あかり(BNE005013)は周囲の様子をしっかりと確認し、中年男性の手を掴む。 「こういうことには向いてないんですがね……とほほ……」 肩を落としながらも体を苛む痛みに首を振り、彼女は路地の外へと男を連れるよう走り出した。 ● 「私の弾丸は避けられない」 その言葉は射手にとってどれ程魅力的なものであるかを杏樹は知っていた。決して避けられないと豪語するその『弾丸』。如何程のものかと興味を持つのも仕方がない。 強結界を展開しながら、警戒心を露わにした杏樹の唇の端から尖った牙が見え隠れする。右の瞳に嵌めた竜眼がわずかに杏樹の瞳色とは違う煌めきを見せた。 「『避けられない』――か、興味深いけど、私は、射程に居る限り逃がすつもりもない。そろそろ失恋を経験してみたらどうだ」 「魅力的なお誘いだわね」 くすくすと笑った岬に向けられた魔銃バーニーの銃口。杏樹の挑発は同性であろうとも岬にとっては興味深い相手である事には違いない。 火縄銃を片手に持ち変え、空いた手で印を結ぶ龍治の視線はスピードを纏い前線へと飛び込もうとするソードミラージュへ向けられる。速度では劣るものの前衛を抜け、後衛すらも追い越して一般人の許へと向かう事は難しい。成程、リベリスタ達は命中力に確固たる自信持っているのだ、行動を阻害することだってお手の者。 「――余所見をしている場合かね?」 その言葉と共に、結ばれる呪印。それに足を取られ、足を止めたフィクサードの肩口を貫いた福松の弾丸は神速の連射を伴いソードミラージュだけではない、射線の通る相手全てを貫きだす。 「うおっと……!」 弾丸に慌てた様に倒れていた死体を盾に使うサイン。小さな舌打ちを漏らした福松の瞳がギラついた。 「イカれてやがるとは思ったがやっぱり黄泉ヶ辻か。お前らの宿題がどうとかは知らんが、カタギに手を出すってのは暗黒街に住む者として許せんな」 福松の言葉に小さく頷き、『絶対正義』を示す為に大きく剣を振るい上げた臣が金の蛇目を煌めかせ、彼の前の前で生命をむしばむ光を撃ちこむフィクサードへと放った生と死を分かつ一撃。 「ねぇ、ネケシタスちゃん。愛しにきたよ」 熱烈なその言葉に陣営の一番後方に存在する岬の眉がぴくりと反応する。 葬識は岬の弾丸を『恋する弾丸』と例える。ああ、それは砂糖菓子みたいに甘くてキラキラしている。女の子の可愛くて愛らしい素敵な殺したくなるほどの『弾丸』。舌なめずりをした殺人鬼は逸脱者ノススメを大きく開き、黒き瘴気をダークナイトやホーリーメイガスを巻き込み放つ。 赤い月を昇らせた左院が「怖ぁい」とへらへらと笑いながら見つめたのは後衛に存在した櫻子。神秘の力をコントロールし、自身を力付ける様に頷いていた彼女は「さぁ、参りましょうか……」と力強く頷いた。 戦場に置いて回復手は重要な立ち位置を担う。櫻子の両眼は困った様に揺らめいていた。 眼を心の臓を射抜く射手。黄泉ヶ辻の女はそれを『恋』だと呼んだらしい。その快楽を恋情だと例えるものの、殺してしまっては永遠の片思いに他ならない。 「……片思いより性質が悪いですわね……思いこみと、最低なお人形作り……最低ですわ」 きゅ、と唇を引き結んだ櫻子の言葉に左院が肩を竦める。 アークにも沢山の射手が存在していた。地面を踏んだ杏樹の焔を纏う弾丸が空から落ちる。回復を与えるフィクサード達の背後から複数を狙い打つ弾丸が狙いを定め飛んでくる。 ネケシタスが放った弾丸だと理解した龍治が成程と小さく頷いた。 「本当におっかない……! 黄泉ヶ辻と言いましたっけ?」 資料で見れば碌でもないとあかりは戦線へと復帰し、逃がした一般人を気にする様に背後を仰ぎ見る。浪漫の欠片もない悪趣味な行いから逃れた男性が無事に帰宅できる事を願いながらあかりは後衛位置でフィクサードを背後へ吹き飛ばす様に火焔弾を呼び出す。 (攻撃来ないで下さいよ……! なんたって、避けられませんからねっ!) 後衛に居ようとも射手達の弾丸は飛び交い続けている。それはリベリスタ側もフィクサード側も同じだ。遠距離主体に戦うフィクサード達は岬の戦闘に合わせて居るのだろう。前線に飛び出すソードミラージュ以外は全員が同じ様に遠距離の攻撃技を使用する。 「疑似的に射手をするとはおじさんたまげたなあ。しかし、御陵君。この覆面で眼なんて狙えるのかね?」 意識を奪う様に挑発する烏に岬は「覆面なんて撃ち抜けばいいでしょ」と軽く行ってのける。瞳の位置が分からないなら布を取っ払えばいいとでも言う様に、だ。それは挑発に対する挑発行為なのだろう。 片方のホーリーメイガスが回復を維持し、もう片割れが周囲へ広めた光りの閃光。焼き払う様なそれに舌打ちを漏らしたあかりの指先がふるりと震えた。 「私の弾丸は避けられない、ですって? もとから避ける気ゼロですから、私は狙わないでください」 必ず当たる的なんて――楽しくないでしょう? その言葉に『ネケシタス』は幸福そうに微笑んだ。ああ、それって恋が叶うってことかしら。 ● この場に居る射手。敬虔にて不敬たるシスター、隻眼の狼、幼きロマンチストと己の四人。 誰も彼も相当なる実力者であると烏は知っていた。しかし、己が相手にしてきた強者はアークにだけ存在するものではない。 「独逸の少佐殿や英国の大佐殿をおじさんは見て来たぜ。あれが『本物』って奴だ。 御陵君、君が本物である事をおじさんは大いに期待させて貰うぜ」 くつくつと咽喉で笑った烏の弾丸が周囲へとバラまかれるソレを庇う様に後衛位置から左院は岬を庇い続ける。左院の背から顔を出した岬の弾丸がまず一つ、跳び出した。 「私は『本物』よ」 その言葉は挑発に他ならない。弾丸を避ける事は出来ないと保身的な言葉を発していたあかりの腕を貫いたソレは烏が周囲へバラまいた弾丸と同じ。 黄泉ヶ辻の行いは理解できないと嫌悪感を露わにしながら首をふるふると振っていた 櫻子が癒しを送る様に弓を握りしめる。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 その言葉を耳にしながら前線に走り込んだ葬識が呪いを帯びた鋏の刃を煌めかせる。殺せる相手が増えた事を喜ばしく思うのか相も変わらず笑みを浮かべた彼の体が得た翼でふわりと浮かぶ。 「恋と愛ってどんな差があるんだっけ? 俺様ちゃんなら、めいっぱい愛してあげれるよ」 「恋は与えるもので、愛は与えられるものよ」 「ロマンチック」と左院が相槌を打つ。未だ後衛である岬はフィクサード達が射線を通らせぬ様に気を配って居るのだろう。前線のソードミラージュの体がぐらりと傾いた隙を付き、一気に弾丸を放った福松の掌で黄金のダブルアクションリボルバーが踊っている。 「ネケシタス、恋多きお前の人生もここらで幕引きといこうじゃないか」 誘い文句は多くある。ランタンの光りを纏い、杏樹が地面を蹴る。焔の弾丸を振り翳しながら、シスターは『救済』を諦めた様に瞳を揺らめかせた。 彼女の首筋で揺れている師から授かった弾丸のペンダント。短い金の髪を掠めたホーリーメイガスの魔力の矢にも臆することなく彼女は弾丸を均等にバラけさせていく。 癒し手たる櫻子は懸命なる回復を与え続ける。「皆様……お任せあれ」とかけた声に俄かに霞んだ嫌悪感は岬の『恋愛観』を考えての事だろうか。 恋人の事を想い、やや瞳を細める櫻子は「恋が思い込みと錯覚で出来て居たとしても、二人で貫き通せば真実になりますわ」と囁いた。 その声を嘯くなかれと軽く笑って見せた左院に興味も持たずに臣は目の前で己だけを相手にするダークナイトを敵に取る。 「僕には『ネケシタス』の攻撃を避ける様な器用な真似は出来やしない。 この剣技を莫迦にされようと、そしてこの身へ剣林弾雨が突き刺さろうと。只進み、この立ちで悪を断つ!」 少年は吼える。頬を掠めた傷さえも気にせずに、只、その血を受け入れるが如く、正義を貫き通す様に。 「チェストオオオオオッ!」 雄叫びの様に生と死を分かつ攻撃が前線のダークナイトの身体を揺らめかす。一人倒れれば、ホーリーメイガスの厚い回復手だって居た片割れとて足を震わせる。 その頭上を飛び越えて、弾丸は岬を狙う。避けようと体を逸らした岬の背を――ホーリーメイガスが与えた翼を福松の弾丸が貫いた。 「お前の恋は知らん、だが、お前の必中に対するポリシーだけは認めてやろう。 俺はお前の弾丸は避けられなくても、お前に弾丸を当てることはできる!」 福松の銃口は確かにダークナイトに向いていた。跳躍した弾丸が標的を岬と絞って居たのだろう。不意の攻撃に左院の頭上へと浮かび上がった岬は手にした銃をリベリスタへと向ける。 その弾丸の先に居るのは烏。ぎり、と俄かに力が込められた引き金がそのまま一気に押し籠められる。 「「『私の弾丸は避けられない』」――か」 岬の声と、烏の声が重なる。 真っ直ぐに放たれた弾丸。御陵・岬が『ネケシタス』と呼ばれるが故の弾丸が真っ直ぐに放たれる。 その弾丸は如何程のものか。 (――その弾丸は少佐殿より誇りあるものなのか、その弾丸は大佐殿より苛烈なるものか) 撃つ、と龍治が逃れる隙すら与えぬ様に放った弾丸がホーリーメイガスの腕を吹き飛ばす。 (その弾丸は『八咫烏』より精密なるものか――!) 烏は覆面の下で嗤い、弾丸を撃ち放つ。まさに針の穴をも通すかのように――かの独逸の男が使った技を。精密さを留めたままに打ち出した。 「素敵な弾丸をお持ちね。射抜いて頂きたいわ」 「お褒め頂き結構」 くつくつと笑った烏。相思相愛、殺し愛こそ、この弾丸の交わし合いだ。 重なる様に降り注ぐ焔を抜けて、杏樹へと狙いを定めた魔力の矢を彼女は瞬きを伴って撃ち飛ばす。 「すべての仔羊を――狩人に安息と安寧を!」 彼女の弾丸が狙いを定める。傷を負いながらも自己回復で賄うホーリーメイガスの瞳が杏樹の俄かに煌めいた義眼を鋭く射た。 「――Amen!」 岬の前で立っている左院。その顔を見詰めながら葬識は唇を吊り上がらせる。避ける事を得意としない、あかりが膝をつきながらも周囲を攻撃する。 福松の弾丸が、追い掛けるが、庇い手として存在した左院が全てを受けとめ続ける。攻撃対象となっていたホーリーメイガスが吼える様に声を上げ、回復を与え続けるが、その手を止めたのは真っ直ぐに弾丸を撃った龍治だった。 過去にも、こうして銃技を学ぶ機会があった。素晴らしい腕を持った狙撃手達を彼は全て討ってきた。しかし、真っ直ぐに飛ぶ岬の弾丸も記憶に留めたいものだ。 『性癖』が如何であっても腕が立つことには違いない。 龍治の考えと同じく、烏はその技を盗みたい一心でその一射を打ち出す。 見極め、模倣できれば――そう思えど『ネケシタス』は何度も穿ち出されるものではないようだ。 「お待たせ、お姫様。でもさ、すぐそばにいる王子様には恋をしなかったの?」 「死体をツギハギ合わせる『裁縫屋』なんてキモチワルイじゃない」 吐き出すように告げる岬の瞳にへらりと葬識は笑う。庇い手たる左院の身体を切り裂き、彼を殺す事を目的としたリベリスタ達の攻撃は一心に続いていく。 「最高のにんげんを作るって発想はなかったなぁ。 でも、それ生きてないなら忌みもないただのお人形でしょ? お人形遊びってそんなに楽しいの?」 「素敵そのものやろ? 岬ちゃんにいつか……殺してもらわんとなぁ」 突き刺さった刃を気にすることなく。腕に力を込めて一気に引き抜いた左院は踊る様に刃を振り翳す。 しかし、左院とてそのダメージの蓄積も大きい。背後で逃げださんとする岬へと銃口を当てた杏樹の弾丸が真っ直ぐに飛び込んだ。 通り抜ける事が出来る通路を後ずさる岬が体を逸らすが杏樹の弾丸が彼女の肩口を狙い打つ。酷く罅割れた叫び声を響かせて、岬が振り仰ぎながら弾丸を打ち出す。 「『裁縫屋』! これっきりね! 私はもっともっともっと恋がしたい!」 「そんな恋なんて――ここで止めてしまえ!」 杏樹の声に、サポートする様に両手を組み合わせた櫻子が癒しを送り、翼を与える。 跳びあがった彼女の弾丸が『ネケシタス』の頬を掠め、バランスを崩しながらも傷ついた腕を抱えた女は真っ直ぐに走り出す。 繁華街へ通じる道へと体を投げ出さんとするフィクサードを最後、福松の弾丸が貫いた。 弾丸を受けとめながらも臣は後衛位置から跳躍し多角的攻撃を与えて居たソードミラージュと切り結ぶ。素早い攻撃を受けとめながらも、臣の爪先が地面を擦る。 「貴様らの行いを理解するつもりも、必要もない」 悪を斬滅するのみ。その意志を胸に抱いた臣はその体を切り捨て、繁華街へと逃走した女の背を負い掛けるように鋭い眼光を向けた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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