● 八歳の少女が、見上げていた背中は広かった。 名を――不動峰 獅郎。 身の丈程もあるボウガンを、自在に操るスターサジタリーだ。 三高平には『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)という、名立たるスターサジタリーのシスターが居るのだが、彼女の義父であるという記録と、戦闘の最中で死亡したという記録だけが残っている。他にもまだあるのかもしれないが。 普段は神に仕えている彼ではあるが、リベリスタでもある。口調は男らしくも荒々しい部分はあれど、心は本当に優しい人物で。助けてという声さえあらば、全国各地を飛び回っていたという。 獅郎が行く軌跡を、少女は走って辿った。 「待って、待って」 「駄目だ。子供がナニ言ってんだ。笑話にもならねぇからよ、大人しく神様に祈りを捧げてろ」 「嫌。私も行く。足手纏いには、ならないようにするから」 「駄目だ……、駄目だ!!」 「嫌!」 「解ってくれよ、俺を困らすな」 振り向いた大きな身体は逆光で、少女の目線からは彼の表情がよく見えない。ただ、頭にポンと置かれた大きな手が優しかった事だけはよく解っていた。 「良い子でな。お前は良い射手に成れる。ちゃんと飯は食えよ。歯ァ磨けよ。友達を作れ」 愛している。じゃあ、な。 それから、獅郎が少女のもとへ帰る事は永久に無かったと言われているのだが。 ● 「何、これ」 「多分、過去の世界みたいな感じです」 集まったリベリスタに『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)はそう言った。 そう、三高平に突如発生したDホール。其の先は過去へと繋がっている。 其の中で、これから起きる事件が上記の事態だ。 「不動峰獅郎は、……『教会で一緒に過ごしている少女を危険に晒したくなければ、一人で来い』とフィクサードに呼び出しを受けて、其の儘フィクサードに……殺さ、う、えっと、はい。 名立たるリベリスタであった彼ですが、同時にフィクサードから恨まれる事も増えていった。其の、報復でしょうね。甘んじて受けたのは、きっと、それが、……んん」 其の先は杏理はあえて言わなかった。 今回の依頼の内容だが、突如三高平に出来たDホールを通って、過去の日本らしき世界で此の『不動峰獅郎』を助ける事である。 時期は未だ、かの世界では七月。 悪夢のナイトメアダウンが発生するまでまだ、時間がある。 其処で少しでも名立たるリベリスタを生かして、ナイトメアダウン(静岡で発生したミラーミス『R-type』による日本至上最悪の事件)が発生するという危機を伝えるのだ。 ―――ただし。 「私達が、未来の世界から来た事は決して明かさないで下さい。明かして良い事は、ナイトメアダウンが発生する事くらいです。 ナイトメアダウンを防ごうというのは、未来を改竄する事と同義ですが。それだけでも歴史的影響が大きいのに、他のものでその綻びを更に広げる事は出来ないのです。 フォーチュナも居る世界なので、私達がそれを告げた所で世迷い事だと笑われる事は無いかと思います。今や、バロックナイツや七派を退ける皆様です、力さえ示せば真実も聞き受けるはずです」 「彼、不動峰獅郎は四肢を拘束された状態で、フィクサードから拷問にも近いリンチを受けて死亡寸前です。 最中にフェイトも使っているので……私達が手を出さなければ、命が持ちません。持って、恐らく、100秒くらい……でしょうか。彼の命のタイムリミットがございますが、其の中で不動峰獅郎を救出して下さい。回復とかがあれば、まだタイムリミットは伸びるはずです。 ただ、……皆さんにあげられる時間は最高150秒。其れを超えると、時限爆弾が爆発します。150秒というのは、撤退をする時間を含めた時間ですので、お気をつけてくださいね」 今から行けば、まだ間に合うのだ。 されど敵も狡猾だろう、助けに来たと判れば不動峰獅郎を人質にする事も十分に考えられる。 彼の世界の未来が、せめて、少しでも光刺すものであるように。 「どうか、少女のもとに親を返してあげてください。宜しくお願い致します」 杏理は深々と、頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年08月09日(土)22:59 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● あの日失ったものを取戻しに行こう。 リベリスタ達は過去の世界への扉を抜けると、一目散に依頼の場所を目指した。 此処が過去であろうが、周囲の様子や懐かしさに現を抜かす暇なんて彼らには与えられていなかったのだ。 ● ゴリ、と当てられた感触は拳銃か何かであろうが実物をこの眼に宿すことは無い。 ――不動峰獅郎、その本人は既に閉じた瞳を持った頭はうなだれて、数分前まで雄雄しくあったその姿も今ではこのザマだ。 「愛しい愛しい女なんぞ一人の為に死を選ぶか、其れも傑作。だがなあ、お前を殺した後は其の少女も俺たちが大事に保護して遊んでやるから、安心しな」 柚木の言葉に、獅朗は切り傷だらけの指をぴくりと動かした。 外道め。 だがあの子だけには手を出させるわけにはいかない。本来の語られない史実であれば、獅朗は存在を代価に奇跡を起こして彼らの記憶から少女の記憶のみを消したのではあるが。 黄泉ヶ辻、と言ったか。 裏野部といったか、はたまた六道であったか。 潰したフィクサードの数は今はもう獅朗は覚えてはいない。だがその因果がいまさらになって回ってきた。 されど獅朗は神を恨まなかった。そう、神は乗り越えられない不幸を人には与えない。之は試練なのだ、神が与えた最期かもしれない試練を。 しかし。 足音が響いた。 「なんだぁ?」 「おいてめーら、なんだっつーんだ」 ベキッ。 「グワギィイ!!」 獅朗の耳には音声だけが聞こえる。何かが、そう、何かが来たのだ。 うっすらと、瞳を開けた其の向こう。嗚呼。 家で大人しく、待ってろと言ったじゃねーか。馬鹿が。 そう、呟いた彼の瞳には幼き少女の幻影が見えていた。 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の瞳には確かに「彼」の姿を捉えていた。 言葉にしたいことは山ほどある、けれどもそのひとつも彼には伝えることなど不可能で。そっと噛んだ唇、その手前で『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)が向かってきた男を拳で殴り吹き飛ばしていたところだ。 「こんにちは野郎共。お仕置きの時間だ」 そう杏樹が言ってしまえば、篭った殺意の意識に気づいた『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)が杏樹の肩を叩いた。 「ワタシが絶対にお護りします……ご安心ください」 リサリサが向けた言葉は獅朗に対してでもあっただろう。だがこの時点で敵フィクサードたちは獅朗を助けに来たのだろうと理解してしまった。 「おーっと、てめーらリベリスタですかぁ? んなら、動くなよぉ、この男の頭がふっとぶぞぉ?」 獅朗は人質として扱われれば、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が黄泉ヶ辻だと名乗ることを抑えた。バレたし。 だが『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)はマイペースに言う。 「いえ、恐怖の大王の使者ですよ」 「黙れ、今時ちゃちぃ予言なんぞアテにもならん」 麗が呆れ顔でやれやれと呟いた。 「おやおや、1999年の7の月に恐怖の大魔王が降臨。アザーバイドもフォーチュナもいるこの世界で誰がそれを嘘と思えましょう、ね?」 「うっせえ! だからって今こんなクソ神父がために降臨してくんのもおかしいだろうが、ていうかおめーなんだ? 耳が……エルフ?」 「だから、恐怖の大王の使者ですってば」 逆に、はーとため息をついてみせたシィンが指を敵側へと向けた。合図だろうか、前に出た銀次が声色に力を込める。 「木っ端みてェな覚醒者じゃあるまいに、人質とらねェとたった一人ともまともに戦えねェのか? 情けねェ野郎共だなァ、ええ?」 「てめーらこそ、当の人質に生きて欲しいくせにいってくれるじゃねーのよ。神父ぶち殺しても俺らは一寸もいたくねぇんだぜ? ええ? わかったら動くなよ?」 七海こそ其の会話に切って入った。 「人質は生きていてこそ人質だ。手を出したら逃がさない。それとも一緒に爆弾で逝っとくかい?」 傍からは見えないが、七海の瞳が殺意の波動に揺れているのはわかる。 アッパーユアハートに、一斉に殴りこみに武器を取ったのは配下のなかでも回避が特段低かった後衛職ばかりだ。そこには麗や日笠も怒りに含まれたのだが、流石の前衛職は怒りには震えなかったようだ。 特に怒りに巻き込まれて欲しかったのは柚木だ。だがそう上手くは運ばない。手のひらの拳銃を獅朗の頭にこすりつけたままであったのだ。引き金さえ、引かれてしまえば一寸にも終わる。 されど、鷲峰 クロト(BNE004319)は既に走り出していた。敵の間を駆け抜け、たった一人では無く『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)と一緒に。 もちろんだが行かせまいとクロトを遮る敵の手。ナイトクリークの男が気糸をくもの巣のように張り巡らせて待ってましたとクロトを抑えかけた。そこには伊吹が類稀なる弾丸裁きで網を吹き飛ばし、「先に行け」とクロトに促しつつナイトクリークを背中でどついた。 「おいてめ!? 動くなって言ったのが聞こえな―――」 「お? 聞こえないがなんかいったか?」 クロトが駆け、そして刃を振り回す姿は芸術にも似たものがあっただろう、研ぎ澄まされたスピードで敵を錯乱してから柚木の眼前へと姿を現す。 「見たことねえもの持ってんじゃねえの、手足そぎ落としてペットにしてやってもいいな」 「ふざけんな。怨み辛みが極まって派閥を超えてお礼参りってか、とんだドチンピラどもだ」 其のとき、柚木が「へっ」と笑ってからトリガーを引いた。 ハッとした杏樹やリベリスタたちでもあっただのが、ぜえぜえと荒い息、間に合うかは知れなかったが寸前で飛び込んできた『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)が柚木の腕を少しばかり押してずらしていたのだ。 獅朗はまだ、息がある。 「もはや情状酌量の余地もない、それ相応の覚悟はしてもらおう」 「離せよ、触ってんじゃねぇぞクソガキィィ」 腕を掴む小雷の握力がだんだんと強まっていく。少しばかりの恐怖をぞくりと柚木は感じたものの、怯む程彼は敵として雑魚では無く。 「やってくれるじゃねぇのよ、この」 時間がないときに。柚木の拳が小雷の頬をうがった。 ● まどろみの中で声が聞こえた。 救世主を救うのは、何であろうと。それもまた、救世主であるのだと。 ある意味一匹狼であった神父だ。助けてという声には全国を飛んだものの、自分が助けてという声が誰に届くというのだろうか。 嗚呼、何故もっとあの子にやさしくしてやれなかったのか。不器用な自分にふと苦笑いを零し、神よ、できるならばもう少し彼女の世界を守ってやりたいのだと。 けれど其のとき、リサリサの祝福が彼を包んだ。それがリサリサのものだとは瀕死の彼には気づけなかったのだが、守ると、決めたやまとなでしこの愛は深く。 シィンがびくりと肩を震わせた。 「おややや? ちょっと引き付けすぎではないでしょうかね、大丈夫ですか?」 「問題ねえ、むしろこれくらいの喧嘩の方がやりがいがあるってもんよ」 「いやこれ喧嘩では無くマジもんの殺し合いってやつですよ、もう……まあ、見ててくださいね」 銀次の隣、控えていたシィンの手のひらの上にフィアキィが光輝く。悪戯好きかは知らぬが、フィアキィは敵と敵の間を飛び回る。不思議そうに見たのはもちろん敵だ、始めてみる妖精のようなそれ。フィアキィが天高く舞い、それにフィクサードの一人が矢を放とうとした、刹那であった。 パチン。 シィンの指なりが響いた瞬間、フィアキィが真っ赤に輝き爆発を起こす。一斉に後方へと押し返された敵たちを見て、銀次は鼻で笑った。 「さて道は開きましたよ、アーユーレディ?」 シィンが道化がましく言った。 元々小雷の傍にいなければならない銀次である。敵が後方に押しやられたのであれば自分もそこに身を投じ、なおかつ作戦とおりに彼の近くへといけるのは好都合だ。初手をアッパーに使い、出遅れた分は取戻す。 高鳴る鼓動、全部をぶった押してもいいのだという底知れぬ武者震いが彼を満たしていた。 「まァ落ち着いていこうぜ。こういうのはビビったら負けなんだぜ?」 自分に言い聞かせたように銀次は敵の中心へと身を投げた。 彼のあとを追うようにしてカースブリット、呪いのそれが宙を駆けていく。七海の攻撃に、一瞬だけ怯んだナイトクリークが恨みがましそうに彼を見るのだが、お構いなしだ。 七海の目線から見れば、ナイトクリークが両手の短剣を伊吹目掛けて投げ出そうとしている最中なのだ、まずはその振り上げた腕を肩から吹き飛ばす。 この弓鳴りから逃げてみろ。 逃げてくれるだろうかという期待と、逆に逃げられても困るという期待半々にも思いながら、されど迷いは無い。 断末魔が響く廃れた建物の中、続いた弓の弦を引き伸ばしたとき七海はふと思う。 そういえば、殺したりしたら未来が変わってしまうのでは? と、よぎったときには既に矢から弓は放たれていた。まあいいか、其のときは其のときである。刹那に終わりを迎えた自問自答が解決したとき、ナイトクリークの胸に刺さった矢が心臓の真ん中を射抜き命を奪っていた。 一人、倒れた。 ゾ、としたマグメイガスと、麗が放ってきたのはチェインライトニングと葬送曲。麗の攻撃に七海は当たらずとも、電撃の其れを受け止めてしまった。彼はまだそれで終わったからいいのだが、特に強力であった麗の葬送曲はリベリスタ前衛の動きをぴたりと鎖で絡め取ってしまったのだ。そこに柚木が大蛇のうねりで飛び込んでくればフェイトこそ飛ばしかけるものも少なくは無い。 続いたデュランダルの攻撃に、回避が高かったクロトはデュランダルの剣こそ蹴って仲間に当てまいと抗うのだが、それも少しばかりの抗いだ。ほかの敵前衛が味方の前衛をとって食おうとするのにクロト一人の力では、弱すぎる。 ――と、も思えたのだがふとクロトの脳裏が敵と味方の位置を立体的に把握した。 右見て、左見て、ちょうどクロトが立っていたのは敵と味方の境界線。そういえば、アークリベリオンのスキルにはこんなものもあるのだ。 「……あいつ、おかしな技ばかりもっているな。警戒したほうがいい」 勘付いた柚木が言う。しかしそれではクロトのそれは抑えられない。 彼の全身から舞い上がった炎。そして続いた、 「やだなあ、一人だけいい所もっていかせませんよー」 シィンだ。 フィクサードからしてみれば、異形たる二人。クロトの炎が最高潮に達した時。 「覚悟しろ。俺のEXはちょっとばかし他とはちげえからよ!!」 二つの爆発が一斉に敵を後方へと押しやったのであった。それだけでは終わらない。 「守ることこそ、私の宿命」 リサリサが、陣を組む。 よく見れば、スターサジタリーの弾丸も、マグメイガスの鎖も、彼女は全てを跳ね返し、なおかつ呪いさえもその身に傷さえつけることが叶わない。 シィンの付与だと敵は誰一人として気づかないし、マギウスを持つ彼女が高位の神秘術師と悟れば敵の手もリサリサから殺せと急ぐのだが、シィンのノックバックが其れを一切許さないのだ。 「これぞ最強の付与術、なんちゃって」 てへぺろと1カメに向かって舌を出したシィンであった。 さておきリサリサの放つデウスエクスマキナ、神の召喚であっても呪いを消し去る確率というものは100%ではないのだが、其の確率はほぼが成功するものである。 勿論、この場でも捕らえられていた前衛たちの赤黒い鎖は一瞬のうちに酸化して綻びて消えていく。全身に鎖を受けて女性らしいラインを見せ付けていた杏樹も、そこで動きだした。 地面を蹴り、敵の間を抜けて出た。日笠の目の前まで瞬きひとつせずに入る、途中では勿論日笠の弾丸や麗の鎖が再び彼女を傷つけに走ったのだが、今の杏樹はそれさえも凌駕した。腕に、足に、腹部に、顔に傷がつこうとも走ったのだ。 そしてたどり着く、日笠のあごの下に魔銃バーニーを突きつけて、一言。 「それはお前には手が余る代物だろう。返してもらおうか」 「……く、くっ、は、はは、誰が!!!」 交渉は決裂だ、ボウガンを前に杏樹の腹部に矢を差し込もうとした刹那、 「穢れた手で触るな、下衆が」 「死ぬ? 一回死んでおく?」 伊吹に七海の弾丸と矢が日笠の手を射抜いた。 ごとん、と落ちたボウガン。刹那、青ざめた顔で杏樹の顔を覗いた日笠――「あのひ」とは違うと、目を見開き、迷わない光を映した杏樹の、其の指がトリガーを引き、下顎から脳まで吹き飛ばしたのであった。 ● 「てめぇらなんだっつーんだくそが!!」 日笠の次に、デュランダル、ナイトクリークが倒れて。いや、倒れたというよりは食われたほうが正しいだろうか、銀次という獣に。彼はフィクサードの群れに身を投げ込むや否や、ヤマタノオロチに身を任せかけた。もう既に息のないデュランダルの首を掴んで、其の足を地から離す光景は鬼のようでもある。 柚木の体が神速に染まった、戦場を駆け、後方にいたシィンにヒジひとつ打ち込めばシィンの体に感電と雷陣の呪いが走る。 時間の話にはなるのだが、この時点でおおよそ8ターンは過ぎていた。リサリサの加護があったお陰だからか、獅朗の命のタイムリミットはそれなりに延ばせているものの、いまだに爆弾には手をつけられていない。 小雷が行動を起こすべきときだ。敵の数は減った今だからこそ、爆弾には手が届く。だが、柚木こそ封じんと雷撃を飛ばそうとするのだが、伊吹が其の腕を止める。 「このやろう、てめーらさえ来なければ、此処一帯吹き飛ばして……!!」 「残念だな、だがそろそろ時間だろう、俺らも、貴様らも」 「……っ!」 爆弾のことはリベリスタもとより、フィクサードのほうが100も承知だ。 之の解除に時間がかかることも知っているし、フィクサード的には爆発してもらわないと困るのだ。されど、己の命がかわいいからといって爆弾を解除するのはあまりに滑稽。 勿論、リベリスタたちに撤退の後姿を見せるのも滑稽ではあるものの、もしかすれば解除できずに一緒に吹き飛んでくれるかもしれないという確率もある。 「ッチィ!!! 撤退だ、行くぞ!!」 「あン? どこいこうっつーんだ、まだ終わってねーぞ!!」 銀次が飛び出すが、伊吹が肩を叩いて首を振った。 去るものは追わない、そう小雷は認識していらからこそフィクサードたちには目もくれずに爆弾の解除に移る……のだが。 この時点で残り50秒。小雷は味方にもしものときのためにと獅朗を抱えて撤退するように促したが、誰一人小雷を残すものはいなかった。 「大丈夫かと、手伝いますからね」 ちゃっかりリーディングにて敵から爆弾情報を得ていた七海が軽くそう流した。 結果的には、残り3秒の時点で箱をこじ開け難解な線と線とを切って行き、最後にはよくある赤と青どっち切りますかで、青を切って爆弾は止まった。 止まった刹那、ため息のように空気を吐き出した小雷はその場に仰向けになって安堵する。 其のころには杏樹とリサリサの懸命な処置により獅朗がうっすらと意識を取戻すころでもあった。未だよく見えない霞んだ獅朗の瞳の光景、また、声だけが聞こえる。 「これから起こる災厄を避けるために戦士を集めにここにやって来た。貴方が頼りなのだ、力を貸してくれ」 「我々のフォーチュナが感知した。今回そなたの危機を感知したのも彼女だが腕は確かだ」 ナイトメダウン、悪夢の八月が始まる。 「命の保障はできねぇ、それ以前に信じる信じないは任せるよ。あんたにも家族はいるんだろ? 強制なんて出来ないからな」 強大な敵である、何人も死ぬし、都市だって消え去る。 ふと、死んで来いといっているようなものだとクロトは杏樹をチラリと見た。 行くな、行かないでくれと彼女が言うのもまた仕方ないことだとは思っていたのだが。 「それでも、行く?」 そう、彼女はいったのだ。 行こう。 「個人的な事だが。そなた程のリベリスタがたった1人のために体を張るのは何故か。長く生きのびればより多くの命を救えるのだとしても」 なに、神に仕えるとはいえ。俺もただの、一人の父親ってだけさ。 再び見送ることとなった彼の背中。だが、杏樹は心の中であの日いえなかったおかえりなさいといってらっしゃいを呟いた。 取り返したボウガンは、銀色に光る。まるで、アリアドネの祝福を受けたかのように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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