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海の底に珍宝を獲りにいこう

●サンゴだよ
 絵にも描けない美しさがあるならば、言葉に出来ない美しさもあるだろう。
 筆舌に尽くし難いとでも言うべきか。
 文章表現の限界を超えているというか。
 とにかく、素晴らしく綺麗だったのだ。その海は。
 それもそのはずでここは沖縄領海。
 透明度の高いエメラルドグリーンの大洋に、南国特有の彩り豊かな魚達が華を添えている。
 中でも見事なのが底に広がる珊瑚礁である。
 目に鮮やかなのみならず、様々な熱帯魚の生息地となっているそれは、まさに貴重な自然資産と言えよう。
 ――そんな穏やかな海にも、人知れず異変が起きていた。
「何だァ、あれは!?」
 フル装備で海へと潜り、10m程の水深で魚の群れと戯れていたダイバーが海底に何かを見つけた。
 本来、珊瑚礁は浅瀬に造られるとされる。
 栄養の受け取りを目当てに造礁珊瑚が体内で飼っている褐虫藻が光合成を行うためには、大陽の光が届きやすいロケーションでなければならないからだ。
 しかしこの海は水質があまりに透き通っているおかげで、太陽光線が海中を突き抜けやすくなっており、水深30mの場所でも問題なく造礁珊瑚が繁殖できたのであろう。
 さて、ダイバーは土地勘のない遠征者である。
 こんなところに珊瑚礁が形成されているとは全く知らなかった。
「これは凄い。あそこまで潜ってみよう。面白い生き物も住んでるかも知れないしな!」
 独り言のたびに、酸素ボンベを装着した口元から息が漏れてごぼごぼと泡が立つ。
 彼は地形に馴染みがないとはいえ、潜水の技量は大したものであった。フィンを巧みに操って、瞬く間に珊瑚の集落が広がる海底へと到達してしまった。
 心から魅惑的と思える光景だった。
 一面を覆う古代遺跡めいた珊瑚礁。その隙間を縫ってゆるゆると泳ぐ色とりどりの熱帯魚達。
 美麗な雰囲気の中に現実離れした幻想性が同居していた。
「いやあ壮観だ。これぞまさに、地球の神秘ってやつだなァ」
 感動も束の間。
 スカイブルーの熱帯魚を集めていた指先に、何か針のような物体がちくりと刺さる感覚が走った。
「いてっ! な、なんだ?」
 その針が、まさに眼前の珊瑚から放たれたものだという事実を、ついぞダイバーは知ることはなかった。
 何故ならば。
 彼の背後から伸びる幾本もの触手が、するりと首に絡みつき。

 そしてそのまま締め上げてしまったからだ。

 徐々に意識が遠のく中、死に物狂いでもがくダイバーが最後に見た映像は、自分の身の丈を遥かに上回る、異様極まりない海の捕食者――イソギンチャクの不気味な姿であった。

●ダイビング研修会
 まず最初に、リベリスタ達に水中での心構えを記した冊子が手渡された。
「海で焦ると、大変な目に遭うから」
 そう語るのはアークが誇る天才少女『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)である。表情を変えずに説明を続ける彼女の手元には他に、出没エリューションに関する資料が纏められている。
「場所は沖縄の海よ。皆には頑張って潜ってもらうわ」
 正しい深呼吸のやり方をレクチャーした後でイヴは仔細を話す。
「討伐対象は、革醒した居着きの魚、一部の珊瑚群体、それと、イソギンチャクが二体」
 ささっと電子機器を操作して、プロジェクターでブリーフィング・ルームの壁にスライドを投影する。
 映し出されたのは、海底に住まう恐ろしく巨大なイソギンチャクであった。
 このサイズにもなると独特のグロテスクな外見が一層際立つ。
「キモッ! めっちゃ触手うねうねしてるし! うねうねしてるし!!」
 うねうねのぐにゅぐにゅである。文字にすると不快指数の高い擬音でしか表しようがない。
「この触手が厄介、かな。鞭みたいに振り回して武器になるのは簡単に予測できるけど、もし上手く扱われて捕まったりしたら酷いことになりそうね」
 身体の自由を奪われ、無理矢理に海中へと引きずり込まれる。
 しかもこの気味の悪さだ。想像するだけでおぞましい。
「かといって放置は出来ないわ。環境保全は重要だもの。当然、魚と珊瑚の攻撃にも注意しないとダメ。知性はないみたいだから連携したりはしないと思うけど」
 映像が切り替わる。
 一見すると、普通の珊瑚礁である。
 むしろ浪漫溢れる絶景にすら感じられる。紺碧に染まった海とのグラデーションがなんとも壮麗だ。
「うーん、珊瑚、かぁ。なんだか戦ってるイメージが湧かないな」
「珊瑚は肉食動物だから意外と狂暴よ。毒が入った槍を飛ばしてくるし」
 何となく疑問を零したリベリスタを射竦めるイヴ。
 神秘界隈で侮っていい敵など欠片も存在しないのだ。
 ただでさえ水中深くでの作業になる以上、エリューションが得意とする状況下で戦闘に臨まなくてはならないのだから、警戒心を怠ってはならない。
 溜め息が出るほど美しい海に見惚れてしまいそうになっても、だ。
「それと、珊瑚礁を構成する造礁珊瑚以外にも、珍しく宝石珊瑚が少しだけ生息してるみたい」
 成程、資料に記載された画像には、小さくではあるが図抜けて綺麗なピンク色の珊瑚が写っている。周辺に堆積した造礁珊瑚とは全くの別物である。
 問題はそれが件のイソギンチャクが鎮座するすぐ近くにあるという点だが。
「きっと海神のご褒美ね」
 素敵じゃないかしら、と少女は子供っぽく微笑んでみせた。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:深鷹  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月01日(金)22:31
 深鷹です。凄く暑いです。よろしくお願いします。

●目的
 E・ビースト群の全滅

●現場情報
 ★沖縄県近海
 とても美しい海です。
 このクエストでは前後左右ではなく、主に上下に移動することになります。
 以下は大体のイメージ図です。

           海面側
           □□□
           □□□     ↑
         ~~~~~~ 潜水可能
           □□□     ↓
           □□□
           海底側

 水深は30mとなっています。一度に最大10m、移動後に行動する際は5mの潜水or浮上が出来ます。
 水中呼吸やアクセサリなどの補助がない場合潜っていられる時間は12Tまでです。
 制限ターン数を超えても海面に戻ってこられない場合、浮上するまでHPが毎ターン大きく削られます。
 また海底に近づくにつれ水圧がかかり、10m地点で重圧、20m以降は鈍化相当の修正が入ります。
 これらの状態はBS回復は出来ませんが、減速無効・態勢無効・絶対者・BS無効付与等では防げます。
 また非戦スキルの使い方次第ではある程度マイナス修正値を軽減させられるかも知れません。
 非常に水質が綺麗なので視界はバッチリです。海底では流石にやや暗くなりますが、影響は微小です。
 明るいうちの突入になります。該当水域にはアーク職員が操縦する船で赴いていただきます。

●敵情報
 ★E・ビースト『サカナ』 ×16
 革醒してしまった魚です。一回りほど大きくなっています。
 硬化した頭部を盾に突進するだけの、シンプルな攻撃手段しか持ちません。
 海面から5m~20mの範囲に出現します。総じてフェーズ1。

 『体当たり』 (物/近/単)

 ★E・ビースト『サンゴ』 ×8
 8体、という数字は群体を表します。ある程度珊瑚が固まった箇所で通常のビースト1体相当です。
 珊瑚礁全体が侵食されているわけではなく、実際に革醒した規模はこのくらいです。
 毒を含んだ透明の針を射出して攻撃します。視認が難しいため、若干回避しにくいです。
 海底にくっついており、自律して移動しません。総じてフェーズ1。

 『刺胞』 (神/遠/単/毒)

 ★E・ビースト『イソギンチャク』 ×2
 全長3m前後と、異常に巨大化したイソギンチャクです。
 周辺に起きているエリューション化現象は概ねこいつの仕業です。 
 数本の触手で攻撃を仕掛けてきます。触手はやたら伸びる上、やたら蠢きます。あとぬるぬるしてます。
 絡んできた触手に捕まるとしばらく行動不可能になるためご注意ください。
 こちらも海底の初期位置から動くことはありません。フェーズ2。

 『触手ビンタ』 (物/近/複/隙)
 『触手ストレート』 (物/遠/単)
 『触手キャッチ(EX)』 (物/近/単/捕らえている間お互いに行動不能)




 解説文は以上になります。それではご参加お待ちしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 5人■
ハイジーニアスインヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
メタルイヴプロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
ギガントフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)
フライエンジェマグメイガス
碓氷 朧(BNE004995)
   

●オーシャンスカイ
 胸が空くような麗かなカクテル光線――と呼ぶには、あまりに照り付け過ぎている日射。
「暑い! いや熱いぞぉ!」
 ようやく目的地に到達した船の甲板上で、鬱憤を晴らすように叫んだのは緒形 腥(BNE004852)。
 舞台は海。ただでさえ激しい陽射しを浴びているというのに、液面からの反射光が一層肌を焼く。
 肌を焼く、ならまだいいが、体の大部分が機械化したギガントフレームである腥からしてみれば、全身ホットプレートになったようなもの。熱されたフルフェイスメットの頭部に、唯一感覚が残った左手で触れようものなら、下手すれば火傷を負いそうなほどだ。
「黒は熱を集める……知ってたけどさぁ。ああ、今すぐにでも海に入りたいよ」
「同感! おっちゃん、早く飛び込もうよ!」
 溌溂とした声で『ムルゲン』水守 せおり(BNE004984)は賛成の態度を示した。ポイントに辿り着く前から水着の上に艶やかな『薫衣花』の鎧を纏っていて、準備は万端だ。
 ただまあ色気はない。その傾向は他の女性陣も同様で、四条・理央(BNE000319)は平素の任務と変わらない質実剛健な装甲を取り付けているし、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)は動きやすいダイビング用のウェットスーツだ。
「重装甲タイプに水着は期待しないで」
「ですよねー」
 沖縄。海。夏。開放的なキーワードが目白押しな中での出来事である。
「残念か?」
 わざとらしく肩を落とす腥に『アンフェア・ドミネーター』碓氷 朧(BNE004995)がシニカルな微笑を向けた。
「若干ね。若干だよ? 期待値は低かったよ?」
「私にとっては、久々に海に出られただけで僥倖なのだがな」
 両腕に拘束具を巻いたゴシックな佇まいとは裏腹な、爽やかな発言を朧はさらりと零してみせる。
 ともあれ、まずはエリューションの殲滅が第一。
「アークのお仕事でなければ存分に楽しめただろうけどね」
 透き通った水質に感心しながら理央が言う。
「そうだね……折角だし、任務が終わったら遊泳してみるのもいいかな」
 ゴーグル越しにきらりと輝く海面を見つめて、彩歌は何気なく呟いた。

●第一波
 先陣を切ってせおりが海の中へと飛び込むと、まずは、その爽快感溢れる気持ちよさに頬を綻ばせた。
 滲んだ汗を洗い流す水のひんやりとした感触に加えて、薄らと翡翠色に染まった神秘的な情景がどこを見渡しても広がっている事実に、思わず溜息が出そうになる。
 仰向けの姿勢でゆっくりと沈み、視線を波打つ海面に向けて上げると、雲ひとつない晴れ空で揺らめく太陽に目を奪われてしまう。優しい水のレンズを通して眺めるそれは、粘膜を焼く激しさに満ちた光が取り払われていて、ただただ壮観だった。
 そして海底に目を移せば、そこには幻想的な珊瑚の広場。
「うーん、やっぱり海って最高!」
 活性化した水中呼吸スキルは、気分の高揚と合わせて、海中特有の不安を煽る雰囲気を和らげてくれる。
 まあ未だにクロールの息継ぎだとかは出来ないのだが、それはそれとして。
「十四、十五、十六。数は良し。進路に規則性は見られないけど、問題はない、かな」
 海面付近では防水加工が万全に施された『オルガノン Ver2.0』を操る彩歌の影が見える。
 水の透明度が高いだけあってか、目視でもかなり深い位置まで確認することが出来ていた。
「可能な限り絡め取るよ」
 アサインキーを操作し、兵器としての機能を呼び覚ます。
 十メートル程の深度でせおりが派手に暴れ回ったおかげで、挑発に乗った何匹かのE・ビーストは一箇所に集められていた。その魚群に向けて、幾本もの気糸を一切の歪みなく真っ直ぐに伸ばす。
 神算に基づいた糸の陥穽は、エリューションの弱所を複数纏めて縛り上げた。頭部こそ硬質だが、それ以外の部位は随分と柔らかいらしく、減衰のない威力相応のダメージが与えられる。
 船上では理央が六体の影人を同時使役し、援護攻撃を命じていた。これだけの影の数――眼鏡の奥で左眼が赤く色づいていることからも、かなりの魔力を制御していることが分かる。
「掛かれ!」
 各個撃破を念頭に置いて射撃を行わせる。暗影で象られた弾丸は海面を貫き、遊泳するE・ビーストを背中から腹部に向けて撃ち抜く。
「おー、みんな頑張るねぇ……おっさんは一足先に大物を狙わせてもらうよ。女の子達に、こんな見るからに破廉恥っぽいフォルムの奴とタイマン張らせるわけにはいかないんでね」
 比較的浅い位置で活動する仲間達を差し置いて、一人ずば抜けて深部にまで潜っていた腥は、海底に待ち受ける奇妙極まりない大型イソギンチャクを相手取っていた。
 水中呼吸の恩恵があるため、休息は不要。序盤からエンジン全開で戦闘に没頭する。
 それにしても、だ。これだけの深さだというのに陽光がまだ届いている。視界に不備は全くない。
「好都合ってもんだ!」
 スーツの上着だけを脱ぎ捨てた『いつもの戦闘装束』で臨む腥は、まずは自身の最大射程域に到達したところで素早い抜き撃ちを行う。
 必要経費でカウンターを見舞われ、長い触手による正拳突きが脇腹を捉えるが、怯まない。更に距離を詰め、得手とする接近戦を仕掛ける。周囲に自生する珊瑚から毒を含んだ刺胞の横槍が入るが。
「おっさんを舐めてもらっちゃ困るよ」
 強固な意志を肉体に宿した『絶対者』には通じない。
 負荷を掛け続ける水圧にも屈する様子なく、マイペースを保つ。

 再び場面は海面付近。深度十メートル辺りを直線的に行き交う魚に気糸の洗礼を間断なく浴びせ、時折海面まで呼吸に戻りながら、彩歌は着実に数を減らしていっていた。
 更に、その上。海を飛び出して空に目をやれば。
 フライエンジェの翼を広げた朧が、水中戦の常識を越えて、空中から戦闘に臨んでいた。
 幼い容姿の中で一際目立つ、深淵を覗くオレンジの瞳。
「なるほど、絶景だ。公私混同という言葉は悪とみなされることが多いが、公も私も満たせる現状は実に有益なものだな」
 重ね重ねクリアーな海であった。
 その透明度ゆえに、空中からでも海面下で蠢く魚影がはっきりと視認できている。
「力を付けても所詮は人間に狩られるものだという事を、エリューション共に教えてやろう」
 増幅した魔力を存分に奮い、朧は定点に火種を出現させる。燻るような矮小な火は、不敵に宙を舞う魔術師が舌先で描く、ルーンの曲線が完成を迎えると同時に、大きく弾けた。
 神秘の焔は水中にあっても消え去ることなく、赤々と勢力盛んに燃え広がり始める。
 灼熱は、呼吸さえも奪い取って。
「こっちも火でいくよ!」
 刀を掲げ、勇猛果敢に魚群へと突進したのはせおりである。水守の少女が滾らせた蒼い炎は、僅かに残ったエリューションの生命力を燃焼し尽くしていった。

●第二波
 一方で、最深部で行動する腥は、戦いの最中に、ふと宝石珊瑚の群体を発見していた。
「……ほう、こりゃあ見事だ」
 美しい色合いに思わず感嘆の声を上げる。
「よーし。あれをモチベーションにさせてもらおうぞう」
 気力を充填した腥は身体を反転させ、水を掻き分けてイソギンチャクの背後に回り、軟体質のボディに切れ込みを入れる。ドロリと漏れ出る、血とも体液とも付かない紫色の液体。
 敵方もお返しとばかりに束になった触手で腥を薙ぎ払うが、耐え切った。
「それじゃ、大本命の一撃をお見舞いしようかな」
 コキコキと首を鳴らしつつ、刃物と化した足を大きく振り上げた姿勢を取る。
 患部に『呪刻剣』を喰らわせる構えだ。
 しかしながら、対処すべきイソギンチャクは一体ではない。意識の外から伸びてきた別個体の触手が、腥の腰部に直撃する。先程から削られていた体力と合わせて、かなりの消耗になった。
「……頃合い、だろうねぇ」
 ちょうど、全ての魚の掃討が完了したらしく、海面下でせおりが手を振っている。
 予定通り一旦退き、後半戦に備えねば。
「あともうちょっとだったんだけどな、っと!」
 去り際に一太刀浴びせる腥。
「待ってろよー、ヌメヌメ野郎。そこの綺麗な珊瑚まで汚したらただじゃおかないぞう」
 再戦を誓い、見る見るうちに浮上していった。
 一度船舶近辺にまで戻ってきたリベリスタ達を、理央は手際よく治癒の術式で回復。支援に長けた彼女ならではの澱みない作業風景である。
 更には、念には念を押して防御の懸念を取り除く『守護結界』。
 精神面の疲弊に関しては彩歌の領分。高次演算による効率的な思考術を分配し、意識を立て直させる。
「今からはボクも海に潜るね」
 腰に巻きつけたロープの片端を、船の手摺りに結びつけながら理央は話す。
「サポートが必要になったらすぐに申し出て。即時対応するから。攻撃は影人に専念させるわ」
 一同頷く。
「私も潜らねばなるまいな。命を刈り取る鎌は、多少潜水せねば届かないだろうから」
 突然言い出したのは朧である。
「えっ、泳げるの?」
 せおりが自由の利かない雁字搦めの両手を眺めて言う。
 朧は特に気にせず、海へと身を投げる。
 ――果たして、彼は巧みなドルフィンキックとボディバランスのみで、難なく泳いでみせた。
「体が泳ぎ方を覚えていてくれて良かった。これでもダイバーの資格を有していたのでな。最後に泳いだのはいつだったか――」
 仰向けになって浮かび、在りし日を思い出す心地良い水の感覚に口元を緩める。
「ま、負けた……圧倒的に……」
「水守ちゃん、大丈夫大丈夫、カナヅチだからって気にすることないよ! おっさんなんて腕が物理的にカナヅチなんだから!」
 ひとまずのフォローを入れる腥だったが、正直大して引き摺るようなことでもなかったので、せおりはすぐに頭を切り替えて海中へと沈んでいった。泳法の類はからっきしだが、姿勢の維持は問題なく出来る。
 やがて全てのリベリスタがエメラルドの海に飛び込んだ。
 全速力で最深部に潜っていく腥とせおり。珊瑚の刺胞がギリギリ及ばない、海面近くのポジションを保つ彩歌と朧は、明らかに遠距離攻撃を狙っている。その中間辺りに支援役の理央が布陣した。
「さあて、駆除駆除! 一気にやっつけるよ!」
 海底に根差した珊瑚目掛け、蒼炎を纏ったせおりが猪突猛進。広範囲に渡って被害を与える。
 速度と近接戦闘に長けた彼女は、一番槍がよく似合う。
 その初撃を見守りつつ。
「私としたことが、健康になり泳げるようになっていた……という革醒の恩恵に気付かなかったとはな」
 感慨深げに独りごちる朧。
「挑戦の精神を捨て去るにはまだ早い、か。フフ、今後の楽しみが増えたよ」
 細めた目の先、味方の攻撃を受けて損傷した珊瑚を見据えて、新たなルーンが紡がれる。
 クリティカルに特化した彼らしく、呪術の大鎌『マグスメッシス』による魂の収穫は、しばしば想定を超えたダメージを叩き出す。珊瑚群体に走った僅かな亀裂を拡大し、跡形もなく粉砕した。
「残り七個体か。些事に過ぎないな」
 珊瑚を単なる石灰に変えた朧から少し離れた位置で、同じく遠隔射撃を連発する彩歌がターゲットに選んだのは、海中の大御所じみた威圧感を放っているイソギンチャク。
 触手の付け根に照準を合わせて、直線軌道を描く気糸で精密射撃。
 半端な刃物よりも、張り詰めた糸のほうが切断力が高いことは、今更語るまでもないことだろう。ぶちぶちと生々しい音を立てて、エリューション自慢の触手は千切れ飛んだ。
 好機到来とばかりに邁進するせおりだったが――
「やめ! ちょ! 触手!?」
 もう一体のイソギンチャクから長々と伸びた触手が、海底を駆ける人魚の身体を捉えた。
「はい、入ってくるー!?」
 纏わりつく数多の触手は鎧の隙間を縫って、直に肌に触れる。ぬめった感触に加えて、生物特有の体温が伝わる。一本一本が自律しているかのように蠕動して、柔肌の上を這っていき、甚だ気味が悪い。
 気味が、悪すぎる。
「殺す!」
 流石にせおりもブチギレ。けれど捕まっている限り行動できない。
「貴様のその触手は不愉快なのだよ」
 絡みついた捕獲用の触手はしかし、遥か上で朧が放った魔術の鎌に根元から断ち切られた。
「さんくー! 助かったよ! ホントありがとう!」
 無事救出。すかさず癒しの息吹を届けて、不快感ごと蓄積したダメージを霧散させる理央。
「女の敵ね。遠慮なくやっちゃって」
「当然!」
 窮地を脱したせおりは身を翻すと、その勢いのままに憎き仇敵へと突撃。
 滾る血潮をそのまま爆発させたかのような、強烈極まりない衝撃波をぶつけてイソギンチャクを岩底から引き剥がし、弾き飛ばす。エリューションの息の根をを止めるには十分過ぎた。
 そして、もう一戦。
 こちらもクライマックスを迎えつつあった。
「まったく、いくら呼吸が続くとはいえ、水の中での戦闘は難儀なもんだね。おっさん疲れちゃったよ」
 豊かな珊瑚礁に囲まれて、前衛の腥が対峙するのは、大きな傷口が残った個体。
 トドメを刺すに至らなかった相手である。
 既に何合か打ち合っている。触手の拳と、鋼鉄の拳が交錯するステゴロの喧嘩だ。
 本来は頚動脈を掻く『ナイアガラバックスタブ』の鋭い一閃が、水棲生物の体表に新たな傷を残す。
「終わりだ」
 腥は躊躇なく片足を振り上げる。寒気すら漂うほど、冷酷に。
 禍々しい光を宿した脚部のブレードが袈裟懸けに切り裂き――死を告げた。

●海神からの贈り物
 依頼を完遂して。
 海面では、朧と彩歌がゆらゆらと心置きなく泳いでいた。心配事は全て取り払われたのだから、折角遠路はるばるやってきた訳だし、空いた時間で沖縄の海を満喫しない手はない。
 海底にはまだ腥とせおりの二人が残っていた。
「おったから、おたからっ!」
 勿論、お目当ては宝石珊瑚。
「確かこの辺に……おっ! あったぞう」
 狙いを付けて軽く蹴り上げる。
 カチン、と微かに硬化物質が砕ける音が鳴った後で、小さな塊のようなものが転がり落ちた。
 紛れもなく、宝石珊瑚だ。
「わあ、綺麗だなぁ」
 淡い桃色の美麗さに少女はうっとりする。
「珊瑚か……開運長寿の御守りの触媒に良いんだよなあ。市場に回ったら相当高いよこれ」
「みんなに見せてくるね!」
「おう、そうしてきなさいな。少し経ったらおっさんも上がるよー」
 興奮気味に浮上していくせおりを見送りながら、一人佇む腥は、宝石珊瑚を切り取った際に削れ落ちた、歪な形の欠片を拾い上げる。
「おっさんは、こういうので十分だよ」
 それでも、一点の曇りもないコーラルピンクの輝きは、分け隔てなく美しかった。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 参加者の皆様に海神の加護があらんことを。

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レアドロップ『わだつみのおまもり』
カテゴリ:アクセサリー
取得者:緒形 腥(BNE004852)