● 平和なビーチに迫る影 快晴。熱い太陽がビーチの白砂を、灼熱に焼く。 海開きから暫く、夏真っ盛り、といった様子で、数百人からなる海水浴客でビーチは大混雑だった。海で泳ぐもの、砂で城を作るもの、ビーチボールで遊ぶもの、椅子に寝そべり身体を焼くものなど、個人個人、好き勝手に夏の海を楽しんでいる。 それは実に、夏らしい光景だった。 誰かが一言『鮫が出たぞっ!』と叫んだ、その瞬間まで。 海面に突き出す、1メートルほどの太い刃が、水を切り裂きながら浜辺へと近づいて来る。誰も実際には見たことのない、けれど映画などでは散々見慣れた光景だ。 巨大鮫。 その一言が、海水浴客の脳裏を過った。 泳いでいた者たちは、その声を聞き、背びれの影を目にした瞬間陸地へと引き返す。浜辺で遊んでいた者たちは、より安全な場所を求めて海面から遠ざかっていく。 そんな中、遥かに沖で海釣りを楽しんでいた小型船舶だけが、陸地へと戻る術を失っていた。 乗っているのは、ある4人親子と、船の総舵手の計5人だ。 声を聞き、鮫の姿を探して海を見渡し、そして気付いた。 鮫の魚影は船の真後ろにあったということに。巨大な刃のような背びれを見た瞬間、船が大きく揺れる。鮫に襲われたのだと気付くのに十数秒の時間を要した。どうやらスクリューを破壊されたようで、船尾のエンジンから黒い煙が あがっている。 どうやら、エンジンが爆発してしまったらしい。火の手があがるのも見える。その炎が船全体を覆い尽くすまでに、どれくらいの時間がかかるだろうか。長くとも、30分は保ちそうにない。 船を捨て、海に飛び込もうにも周囲を巨大鮫が回遊している状態にある。 その大きさは、10メートルを軽く超えるだろうか。明らかに以上なサイズだった。その正体が、エリューションと呼ばれる神秘の存在であると、知るものは、その場には居ない。 絶体絶命の、危機的な状況。彼らはただ、無事に生きてもう一度陸地を踏めることを、祈り続ける。 ● ビッグマウス 「エリューションを得た鮫のようね。Eビースト(ビッグマウス)とでも呼ぼうかしら」 映画みたいね、と溜め息混じりに『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は呟いた。モニターに映るのは船の周りの光景だ。船尾には巨大な歯形が残されている。歯の1本だけでも、長さは10センチ近いだろうか。 「リベリスタでもなんでもない一般人が噛み付かれたら、一度にどれだけの肉を食いちぎられることになるかしら。ビッグマウスの周囲には、他にも3体のEビースト(コバンザメ)が泳いでいるわ」 唯一の救いがあるとするならば、相手は鮫であり、地上にまでは上がってこない、ということくらいだろうか。 とはいえ、ビッグマウスが泳いでいるのは沖である。船に取り残された一家を救うのなら、こちらも海へと出るしかないだろう。上手く岸辺へおびき寄せることができればいいが、そうでない場合は海上での戦闘となるだろうか。 「希望するなら1〜3隻までのクルーザーを総舵手付きで貸し出せるから、迅速に一家を助け出してきて欲しい」 もちろん、救出には危険が伴うけどね、とイヴは言う。 現在、相手は海面すれすれを泳いでいる。しかし、いつ水上へと跳び上がって来るか分からない。盛大にジャンプすれば、船の上に飛び乗ることも可能だろうか。 「一撃一撃が強力で、泳ぐのも速い。範囲攻撃が有効だとは思うけど、海中深く潜られた場合は、命中率が低下するから注意して」 ビーチに平和を取り戻しましょ。 と、そう言ってイヴは仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月26日(土)23:30 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●海から迫る恐怖 沖に浮かんだ船が1隻。エンジンが壊され、進むことも下がる事も出来ずに沈むだけ。船の上には5人の男女。家族だろうか。船の真ん中で、祈るように目を閉じてガタガタと震えていた。 船の周りを、巨大な魚影が行き来している。海面に突き出した背びれは、鮫のものだ。 『誰か……。せめて、家族だけは助けてくれ』 涙を流し、一家の父親らしき男性が空に向かって、そう呟いた。 ●巨大鮫vsリベリスタ 「邪神をぶっとばしてもあたしたちにやすらぎはおとずれないというのか……かなしいことだ」 海を掻き分け、沖へと進むクルーザーが3隻。その中の1つ、先頭を走るクルーザーの屋根の上に、黄色い髪の少女が立っていた。名を『D-ブレイカ―』閑古鳥 比翼子(BNE000587)という。 「とりあえず、まずは一般人の方々の救出が最優先です」 比翼子の後ろに立っているのは『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)である。その目はまっすぐ、沖に停泊したままの船へと向いている。エンジンが焼けているのか、船の後部からは黒い煙が立ち昇っていた。あと数十分もしないうちに、船は炎に包まれるだろう。 「さてと。ボクの役目はビッグマウスの引き付けだねっ。重要な役目をもらったからにはしっかりと役割を果たさないとねっ」 屈伸運動を繰り返し、戦闘の用意を整えるのは『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)だった。水上歩行のスキルを持つ彼は、水面を自由に移動することが出来る。今回のような、海上での作戦は得意とするところだった。 「全く、正体を隠すヒーローというのも楽じゃないわねぇ?」 紫のローブをなびかせ、白骨で出来た弓を構える『いつか迎える夢の後先』骨牌・亜婆羅(BNE004996)。矢を番え、最後尾を走るクルーザーの上から、海面すれすれを泳ぐE化した鮫(ビッグマウス)へと狙いを定めた。 テテロを筆頭に、以上の4人でビッグマウスやコバンザメを引き付ける。それが今回の作戦の内容だ。仲間が鮫の相手をしている隙に柴崎 遥平(BNE005033)が、海上に取り残された一般人を避難させる手筈になっている。 「海のもしもは118番、ってな。俺は110番だけどよ」 救助用のクルーザーの上で、遥平は呟く。 仲間達の準備は、既に万全だ。現場に到着するまで、十数秒と言った所だろうか。 「さ、行きましょう」 開幕の狼煙をあげるかのように、亜婆羅の矢が放たれた。 船に群がる鮫の真ん中、亜婆羅の矢が着水し盛大な水柱を上げる。 危機察知能力が高いのだろう。鮫達は、一斉に四方へと散開し矢によるダメージを回避する。特に、ビッグマウスの動きは速かった。矢の跳んできた方向。つまり、亜婆羅たちの乗る船へと進路を変え、背びれを海面に突き出して泳ぎ寄ってくる。 ビッグマウスと入れ替わるように、遥平の乗ったクルーザーは大きく迂回し家族の乗る船へと接近していく。コバンザメがそれに反応し移動を始めるが、牽制するように放たれた亜婆羅の矢が接近を邪魔する。 船の影に隠れるように、テテロが海面に降り立った。剣を構えて、ビッグマウスの強襲に備える。 比翼子は、足に剣を持つという独自の戦闘スタイルで体勢を整え、畝傍は油断なく残りのコバンザメの様子に気を配っていた。 ビッグマウスの巨大な口が海面に現れる。歯だけで、人の頭くらいのサイズはあるだろう。濃厚な死の気配がテテロの全身に叩きつけられる。 ビッグマウスが、テテロへと喰らいつく。 テテロはそれを、素早いステップで回避した。ビッグマウスが暴れた衝撃で、水飛沫が巻き起こる。 水飛沫の中、テテロの剣が閃いた。 沈みかけの船に、遥平の乗ったクルーザーが接近する。濛々と黒煙を噴き上げる船尾を迂回して、船の先頭へとクルーザーを付けた。 「警察だ。救助に来た。落ち着いてこっちの船に乗り移るんだ」 警察手帳を掲げ、船の上の5人へと手を伸ばす。子供、女性を優先に船から人を救出し、自分の乗っていたクルーザーへと移動させていく。泣いている子供にもう大丈夫だ、と声をかけ、感謝の言葉を口にする母親に無事でよかったと言葉を返す。 「すまない……。ありがとう」 「構いません。それより、鮫が来ます。急いで」 最後の1人がクルーザーに移動したのを確認し、発進。ゆっくり旋回し、陸地へと向かって進路をとる。浜辺とは別方向から、海上保安庁の救助船がこちらへ接近してくるのを発見し、遥平はそちらへ向かう事にした。 このまま、海上保安庁の船がこちらへ近づいてきたら、彼らまで鮫達に襲われる危険があるからだ。 チラ、と後ろを見るとそこにはコバンザメが1匹。遥平のクルーザーを追ってきていた。 「ちっ……」 銃を構え、威嚇射撃を試みるが当たらない。距離が遠すぎる。 追いつかれるまで、まだ数十秒はかかるだろうか。一般人の受け渡しの為にクルーザーを止めれば、すぐにでも襲いかかってくるだろう。 咥え煙草を、船の甲板に吐き捨てて、遥平は再度、引き金を引いた。 「フカヒレを通り越して骨だけにしてあげる! 骨禍珂珂禍!」 遥平が、一般人を助け出したのを確認して亜婆羅は空へと矢を放った。亜婆羅の矢は空中に魔方陣を描き出し、そこから無数の炎の矢を降らせる。高速で水中を移動する敵の位置は碌に確認できないが、問題ない。全体攻撃だ。矢の降る範囲内に敵がいるのなら、攻撃は当たる。 遥平のクルーザーは十分に遠ざかった。それを見て、亜婆羅は翼を広げて空へと飛んだ。そんな亜婆羅を追って、コバンザメが1匹水面へと飛び跳ねる。鋭い牙が、亜婆羅の脚へと突き刺さった。肉が裂け、血が滴る。苦痛に口元を歪める亜婆羅の元へ、畝傍が駆け寄る。 「サメさん方、あなた方の相手は私です」 大上段から振り下ろした畝傍の剣が、コバンザメを切り付ける。衝撃波と共に、コバンザメの身体が宙を舞う。解放された亜婆羅は、高度を上げてコバンザメの射程の外へ。畝傍はそのまま、海へと落下した。 吹き飛ばされたコバンザメは、水面を何度かバウンドして着水。戦線復帰まで暫く時間がかかるだろうか。1匹は、遥平を追って行ったのを確認している。 もう1匹は? と、視線を巡らせる畝傍。 そんな彼の背後に、魚影が迫る。殺気を察知した畝傍は、剣を掲げて背後へ振り返る。だが、コバンザメの方が速い。鋭い牙が、畝傍の肩に突き刺さった。 「う……っぐ」 畝傍の血が海中へと流れ出す。血の臭いに誘われて、他の鮫達も寄ってくるかもしれない。 ある意味それは好都合。けれど、命の危険を考えるとせめてクルーザー上へと避難しておきたい。コバンザメに喰らいつかれたままでは、それも叶わない。 コバンザメの牙から逃れようともがく畝傍の頭上に影が落ちる。 「水中に引き込まれないように注意しないとな」 小柄な影は、翼を広げた比翼子のものだ。足に握ったナイフを振り抜き、コバンザメを切り付ける。自身の能力で空を飛べる比翼子は、海上での戦闘も比較的自由に行うことができる。 鮫が離れたその隙に、畝傍がクルーザーの上へと避難。比翼子の攻撃に怒ったようで、コバンザメはターゲットを比翼子へと変えて襲いかかってくる。 先ほど畝傍に弾かれたもう1匹も、こちらへ迫る。どうやら、比翼子と畝傍の乗ったクルーザーが、攻撃対象へと選ばれたらしい。 武器を構え、2人は鮫を迎え撃つ。 「へへっ!お前の相手はこっちだぜっ!!」 海上を駆けまわる影が1つ。テテロの剣が、ビッグマウスを切り付ける。顔面を血で赤く染めながら、ビッグマウスは何度も何度もテテロを襲うのだ。痛みに対して恐怖を感じないのだろう。冷や汗を零し、テテロは回避を行うが、そう何度も避けきれるものではない。 ビッグマウスの牙がテテロの腕を掠める。それだけで、テテロの皮膚が抉れて、血が零れる。ドバドバと溢れる鮮血で服を真っ赤に濡らしながら、テテロは片手で剣を振るう。 ビッグマウスの口内に、テテロの剣が突き刺さった。 「よし……。え、いや!?」 口に剣を突き刺されたまま、ビッグマウスは水面へと飛んだ。テテロの身体も、水上へと弾き飛ばされる。テテロの胴へ、ビッグマウスの鼻先が突き刺さる。 ビッグマウスの身体が回転し、テテロの身体を削って行く。このままでは逃げられない。テテロの意識が遠のいていく。戦闘不能に陥る、その直前、急にビッグマウスの動きが止まる。 「体勢を立て直して」 水中へ落ちたビッグマウスの右目に、骨で出来た矢が突き刺さっていた。 水面に着地し、テテロはビッグマウスから距離をとる。剣を構えたテテロの頭上に、弓を引く亜婆羅が舞いおりた。 救助船と合流し、一般人の移動を行う。合計5人。恐怖に身をすくませた女子供も混じっているので、移動には多少時間もかかるだろう。救助隊員にそれを任せ、遥平はクルーザーの船尾へと移動。すぐそこにまで迫っていたコバンザメへと、銃弾を浴びせた。 救助隊員がぎょっとした表情を浮かべるが、警察手帳を見せてそれを黙らせ叫ぶ。 「ここの現場は任せろ。そっちは要救助者を頼む。すぐにここを離れるんだ」 こういった現場では、彼の持つリーガルコネクションのスキルが役に立つ。頷き、作業を再開する救助隊員を尻目に、遥平はコバンザメの警戒に戻る。弾丸を避け、コバンザメが海へと潜った。 何処に行った? と、そう思った次の瞬間にはコバンザメの姿が遥平の背後、つまり救助船の正面へと現れた。船下を潜って行って、狙いやすい一般人を襲うことにしたらしい。 「くそっ」 踵を返し、船首へと走る。コバンザメが跳んだ。間に合わない。牙の先には、子供が居る。銃を構えている時間はない。遥平は腕を伸ばして、跳んだ。彼よりも速く、コバンザメの進路に身を投げ出したものがいる。一家の父親だ。子供の身代わりとなった父親の肩に、コバンザメが喰らい付いた。血が溢れる。誰のものかわからない悲鳴が上がる。 コバンザメの牙が、父親の肉を食いちぎる直前、遥平の拳が鼻先に命中し、コバンザメの身体は遥平の乗るクルーザーの上へと叩き落された。 「行ってくれ」 遥平の指示で、一家を乗せた救助船は発進する。それを見送り、遥平は船の床で飛び跳ねるコバンザメに拳銃を突きつけた。 「……フカヒレは、無理かな」 銃口に展開される魔方陣から、高密度に圧縮された魔弾が放たれる。バン、と渇いた音が響いた直後、コバンザメの頭に大きな穴が穿たれた。 びくん、と一瞬飛び跳ねて、コバンザメは動かなくなる。 テテロの胴を、ビッグマウスの牙が捉えた。テテロの細い体が引き千切られる、とそれを見ていた誰もが思う。現に、テテロの意識は失われその手足からは力が抜けてしまっている。 だが……。 「動けないなら、あたし自身が壁になるわ」 ビッグマウスの咥内に、骨の矢が突き刺さる。ビッグマウスが痛みにもがき、テテロの身体を宙へと投げた。亜婆羅はそれを空中でキャッチし、血塗れのテテロを連れてクルーザーへと戻る。 骨の翼を広げ、弓矢を構え、ビッグマウスに1人向き合う亜婆羅。 比翼子と畝傍は、自分達の戦いを続けながら、それを見ていた。 助けに入れないのが、ひどくもどかしい。 2匹のコバンザメは、連携のとれた動きで攻撃を繰り返す。ヒット&アウェイ。それを交互に。つまり、止まることのない連続攻撃。牙に裂かれて、比翼子の翼は赤く染まっている。 「お前らは、ずっとあたしを追っかけてればいいんだ」 海面すれすれを、滑空するように飛行しながら足に掴んだナイフでもって襲い来るコバンザメを往なしていく。かすり傷を負いながらも、まるで嘲るように跳びまわる比翼子に向かって、コバンザメは何度も何度も攻撃をしかけていた。 コバンザメの意識が比翼子に向いている間に、畝傍はクルーザー上で剣を構え、意識を集中させている。畝傍の周囲に、無数の魔弾が発生。ぴたりと動きを止めて、放たれる時を待っていた。まるで、弦の張り詰めた弓矢のような緊張感。 「思ひあまり、甚もすべ無み、玉だすき……。さぁ、屠ってあげましょう」 畝傍が呟く。それと同時に、比翼子が空へと舞い上がった。比翼子を追って、コバンザメも空へと跳ねる。畝傍が剣を振り下ろすと同時、彼の周囲に浮遊していた魔弾が一斉に解き放たれる。弾かれるように宙を疾駆し、2匹のコバンザメの身体を撃ち抜いていく。 血塗れの、ボロ雑巾のようになったコバンザメが海へと落ちる。 それを見届け、にやりと笑う比翼子の身体も海へと落ちた。 ●巨大鮫の脅威 10メートル。言葉にすれば簡単だが、それが目の前に迫るとなると威圧感だけでもかなりの脅威となる。亜婆羅は、意識を失ったテテロを抱え、空へと飛んだ。ビッグマウスの巨大な牙が、クルーザーの船尾を一撃で食いちぎる。 スクリューを破壊され、沈みゆくクルーザーを眼下に見ながら、亜婆羅はその場から飛び去って行く。亜婆羅を追って、ビッグマウスが移動を開始。クルーザーの操舵手は、比翼子達が助け出してくれるだろう。幸い、亜婆羅は飛行を、テテロは水上歩行のスキルを持っている。 ビッグマウスとの距離を図るべく、亜婆羅が視線を下に向けた、その時。 水柱を巻き上げ、ビッグマウスが跳んだのだ。 片目を潰され、全身には切傷。それでも未だに闘志を失っていないのは大したものだ。 亜婆羅は身を捻り、ビッグマウスの攻撃を回避する。避けきれず、ビッグマウスの牙が亜婆羅の右胴を削っていく。肉が抉れ、血が零れ、亜婆羅はバランスを崩して水面へと落ちて行く。亜婆羅の抱えていたテテロの身体が、宙へと投げ出された。 「テテロくんっ!」 手を伸ばし、亜婆羅が叫ぶ。亜婆羅の手は、テテロにまで届かない。 だが、その時。 「だい……じょう、ぶ」 フェイトを使って、意識を取り戻したのだろう。顔を血に濡らしたまま、テテロは笑う。空中で身を捻り、水面に着地。剣を構え、ほぼ同時に着水したビッグマウスへと剣先を向けた。 着水と同時に、ビッグマウスは水中へと潜る。水中で身を翻し、まるでロケットのように海面目がけて急上昇してくるのが見えた。 テテロは数歩、後ろへ下がる。 「空からなら、きっちり納めれるでしょう」 ビッグマウスが水面に顔を出すその直前、真上から亜婆羅が放った無数の炎の矢が水中へ突っ込む。海水が蒸発し、辺りに白い蒸気が霧散する。 ビッグマウスは、水面へと飛び出す勢いを炎の矢で削がれた。顔中に突き刺さった矢が、ビッグマウスの皮膚を焼く。焼け爛れ、傷だらけになった恐ろしい顔。ぎょろりとした目だけは、未だに戦意を失っていない。怒りに染まった赤い目に、身がすくむ。 震える手足に力を込めて、テテロは剣を振り抜いた。 「これ以上一般人を巻き込ませないよっ! 海の平和はボクが守る!」 水上を駆け抜け、突進の勢いもそのままに渾身の一撃をビッグマウスの喉へと叩きこむ。分厚い皮膚を突き破る感触と、強い抵抗感。剣が折れそうになるほどの反動を感じながら、テテロはさらに一歩踏み込む。テテロの剣が、唾元までビッグマウスの喉に突き刺さる。 ビッグマウスの咥内から溢れた大量の血が、テテロの顔に降り注いだ。鋭い牙は、テテロの頭のすぐ手前で止まっている。 冷や汗と、顔に張り付いた血を拭い、テテロはその場に倒れ込んだ。海に沈みかける彼の身体を、降りてきた亜婆羅が、そっと抱えて助け出した。 遠くから、全速力でこちらへ迫るクルーザーが見える。船首に見える人影は、遥平だ。何かを叫んでいる。どうやら、一般人の救出は上手くいったらしい、と一安心。 すぐ近くで、比翼子と畝傍の乗ったクルーザーも待機している。 任務達成。 そう呟いて、テテロは笑い、そしてゆっくり目を閉じた。 恐らく、疲労が限界に達したのだろう。そんなテテロの頭を撫でて、亜婆羅はクルーザーへと飛んで行くのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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