●とある失敗依頼 それは、神秘の世界ではよくある話だ。母と子のノーフェイス。それを討つリベリスタ。 「ふっ! ノーフェイスは世界を滅ぼす。親子一緒に我が剣の露となるがいい!」 「おかあさん! おかあさん!」 ノーフェイスの母親に突き刺さる剣。それを見るノーフェイスの少女。 「さぁ、次はキミの番だ。君がフェイトを得ていれば、生かしてあげれたのだがね。汚らわしい世界の破壊者よ。その運命を呪うが――何っ!?」 「千沙子逃げなさい! お母さんが押さえている間に!」 致命傷を負った母親が、子供を逃がす為にリベリスタを押さえ込む。叫ぶ母親の言葉に子供は泣きじゃくって首を振る。 「嫌だよ……お母さんと離れるの嫌だよ……」 「行きなさい!」 強い母親の言葉に、千沙子と呼ばれた少女は闇に足を向けて走り出す。 母子ノーフェイス二人組の討伐依頼。そのレポートには失敗と書かれることになった。 ●それから一ヵ月後 死んだ人間は蘇らない。 そんなことは当たり前だ。だからといって死別の悲しみを誰もが乗り越えられるかといわれれば、否だ。 胸に開いた穴の痛みに耐え切れず、いろいろな事に逃げるのは人として当たり前のことなのだ。 例えばそれは涙であったり。 例えばそれは別の出会いであったり。 例えばそれは酒だったり。 例えばそれは―― 「あそこにいるひとをころせば……ままにあえるの?」 「ああ、そうだ。お前のママを殺したリベリスタとその仲間達。全員殺せばママに会えるさ」 話をしているのはまだ年端も行かぬ少女と、巨躯な男だった。傍目には年の離れた親子だが、神秘を知るものならそれがエリューションだと気付く。最も少女のほうはフェイトを得ていないノーフェイスだ。 「でも……わたし、そんなにつよくないよ」 「大丈夫。私が作ったこれを使えば、君でも勝てるよ。すこしちくっとするけど、すぐに痛くなくなるから」 男がノーフェイスに注射を打つ。その瞬間にノーフェイスの肩甲骨辺りから血が迸る。それは一瞬で凝固し少女の身長を超える巨大な腕となった。 「……っ! わあ、凄い。血が……腕みたいになった」 「あとこの薬をあげよう。さぁ、行くんだ。ママに会いたいんだろう? ママも早く会いたいって言ってるよ」 「う、ん……! いってくる、ね!」 強大な力を得て、少女は母親に会うために歩を進める。それを見守る為に、男も随行した。 例えばそれは復讐であったり。 例えばそれは嘘に浸ったり。 ●アーク 「討伐対象はノーフェイス一体。可能なら随伴するフィクサードも」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「リベリスタ組織『フェザー』……フライエンジェを中心とした組織。そこが狙われる」 イヴの言葉と同時にモニターが写される。地図上の場所と、建物。そしてそこに立ち入ろうとするノーフェイスとフィクサード。 「『フェザー』はノーフェイス母子の討伐を行い、その際に子供のほうには逃げられている。その子供にフィクサードが接触し、力を与えた。 強さ自体はフェーズ1のノーフェイスだけど、背中の腕が別の生き物のように攻撃を仕掛けてくる」 厄介だけど彼女を倒せば腕も動かなくなる、とイヴは付け足した。 「フィクサードは元々六道……研究系フィクサード組織の人間。自分の研究結果を持って逃げたみたい。それを使ってノーフェイスを強化した。 マグメイガスなので遠距離攻撃に長けるけど、接近されれば弱い」 幻想纏いに相手のデータが送信される。成程、イヴの言うとおりだとリベリスタは頷いた。 「『フェザー』は戦闘任務後を襲撃されるので、戦力としては皆無。唯一任務外だった男が参戦できるけど、過剰な期待は禁物」 うわ嫌なやつだなー。幻想纏いに送られた情報を見て、リベリスタは眉を顰めた。 「最低限の目的はノーフェイスの打破。 色々思うところはあるだろうけど、それだけは忘れないで」 イヴの言葉は淡々としているが、皆を気遣う気持ちがないわけでもない。ノーフェイスとはいえ子供に手をかけるような仕事をさせることに、何の抵抗を感じないわけがない。 だが、これは世界の為なのだ。それはリベリスタも分かっている。 それぞれの想いを胸に秘め、リベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月29日(火)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● さて、構図はいたって簡単だ。 フィクサードに強化されたノーフェイスが、リベリスタ組織を襲おうとしている。何とか動ける一人のリベリスタが、かろうじて応戦しているという形だ。 迷う必要など、無い筈なのに。 「警察の仕事は何時だって後手、後手だが……リベリスタも似たようなモンだな」 紫煙共にため息を吐き出しながら柴崎 遥平(BNE005033)が陰鬱な声を上げる。何年も着て体に馴染んだスーツには、遥平の吸った煙草の匂いが染み付いている。何かを払うように頭を振り、足を前に踏み出した。 「胸糞悪いっちゃ悪いが……まぁこればかりは仕方ねぇよな」 『漂う紫煙』烟夢・クローフィ(BNE005025)もまた、ため息と共に紫煙を吐く。咥え煙草を一旦携帯灰皿に戻し、ノーフェイスを見る。大事な何かを失い、騙されるように何かにずがる気持ちは分からないでもない。ましてや年端も行かぬ子供なのだ。 「これもリベリスタの使命だ。世の中ってのは残念ながらそういう事がある」 薙刀を幻想纏いから取り出して葛宮 静夜(BNE004813)が静かに告げる。ある程度割り切っているのか、静夜の言葉に感情らしいものは聞こえない。合理的に考えればそう割り切ったほうが気分は楽だ。……それが可能なら。 「……そうだな。どの道討たなければいけないことに変わりはないんだ」 拳を強く握って『芽華』御厨・幸蓮(BNE003916)が頷く。世界の敵は討たなければならない。それはリベリスタの使命なのだ。ノーフェイスの事情には色々思うところがある。だがそれでも討たなければならないのだ。拳が、強く握られる。 「フィクサードは例外なく有罪ですし、理由はどうあれそれに従っているならノーフェイスも同罪です、情けをかける必要なんてありませんよね?」 『ゼノンパラドックス』新谷 優衣(BNE004274)は静かに微笑んで剣を構える。剣を構えるまではおとなしめだったが、戦いの気配を察して好戦的になる。流れる血の状況を想像し、優衣の笑みが深くなる。 「ああ、この場にいる悪は全て許さない」 『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)は迷うことなく断言する。臣の目には運命を失ったノーフェイスと、悪事を行うフィクサード。ただそれだけだ。親子の情は二の次だ。ただ悪を斬る。それだけでいい。 「まとめて全部、殺っちまえばいいんだろ?」 気だるげな声で篠ヶ瀬 杏香(BNE004601)がナイフを構える。正義だの悪だのと考えるのは性に合わない。そう言いたげな声だ。ノーフェイスを討つ理由は『アークの指令』以上の理由はない。 「……そうだな、それでは交戦しよう」 三線を構えなおし、緒形 徨(BNE005026)が既に繰り広げられている戦いを見る。ノーフェイスとリベリスタ。そして少しはなれてフィクサード。様々な思惑こそあるが、結局のところ構図はそれだけの単純なのだ。 ただ、それに対して自分達がどう思うか。それだけだ。 様々な想いを篭めて、アークのリベリスタは戦場に乱入する。 ● 「何、アークだと……!」 大津は突然やってきたリベリスタに慌てふためく。退くか、留まるか。躊躇している間にリベリスタは展開する。 「蜂須賀 臣、参る」 迷う大津に臣が立ちふさがる。二尺六寸五分の刀を抜き放ち、真っ直ぐに切っ先を天に向ける。蜻蛉の構えと呼ばれた示現の構え。一撃必殺を信条としたその構えは、回避を犠牲としたまさに攻撃のみの構え。 臣に剣士の才能はなかった。血を吐くような努力をしても、得られなかった領域があることを知った。だからこそ、自らの手の届く部分を徹底的に鍛え上げた。刀を構え、振り下ろす。ただそれだけを。そしてその構えのまま、大津に刃を振り下ろす。 「貴様が何を企んでいるのか等もはや無意味だ。今ここで死ね」 「む。さすがにこの状態では難しいか」 大津と交戦している臣を見ながら徨が呻きをあげる。閃光を放ち大津を封じたかったが、乱戦になればそれは難しい。仕方なく戦場を戦術的に観察しながら、真空刃を放つ。研ぎ澄まされた刃が大津を刻む。 (何方も悪では無い) 心の中で呟きながら、しかし徨は攻撃の手をとめようとはしない。片や無垢な願いを持つ存在。そしてその願いを叶えようとする者。だがその両方を許すつもりはない。前者はリベリスタの使命として、後者は徨の義憤として。 「そこまでだ大津。お前は逃さない」 大津の退路を断つように遥平が立ちふさがる。銃を手にして魔力を篭める。放たれる弾丸は死神の一矢。疾くゆき魂を刈る心優しき平等な存在。その弾丸が大津の肩を穿つ。この男だけは許さない。その気迫が弾丸に篭められていた。 母への情を利用し、少女を騙して殺人を示唆する。しかしその少女は存在自体が罪なのだ。少女を救う事はできない状況に、苦悶の表情を浮かべる遥平。やるせない事件は慣れたつもりだった。だが、何度経験してもこの痛みに慣れることはなかった。 「こういう出口の無い事件は――堪えるよ」 「だねぇ。ま、アタシは全てぶっ潰すだけさ」 遥平のほうに目をやってから、杏香が大津の押さえに入る。両手にナイフを構え、仲間と動きを合わせて死角に回るように動き回る。接近戦に弱い大津は、その動きについて凝れない。 突如加速する杏香。慌ててそれを目で追う大津だが、一瞬杏香の動きを見失う。時間にすれば僅かな時間。だがその隙を杏香は見逃さない。身をかがめて大津に迫り、両手のナイフを交差するように振るい大津に切り傷を負わせる。 「悪いけど逃がすつもりはないからね」 「ええ、苦しんで痛みながら倒れてくださいね」 薄く笑みを浮かべて優衣が大津に迫る。赤いドレスを翻し、手にした剣を振りかぶった。心の中で生まれた闇を物理的なオーラと化し、優衣自身の体にまとわせる。浮かべていた笑みが、さらに深くなった。 大津がそれに怯えるように魔力弾を放つ。鋭い痛みが優衣を襲い、しかしそれでも優衣の動きは止まらない。むしろその痛みを心の糧として闇のオーラが濃くなる。振りかぶった剣が跳ね上がるように弧を描き、受けた痛みを返す。 「あぁいいです、もっともっと私に傷を! 痛みを!」 「……なかなか難儀な貴婦人だな」 「余所見をしている余裕はないぞ」 少し苛立った口調で烟夢がノーフェイスと交戦しているオールストンに話しかける。余裕がないのは事実だが、烟夢がこの男に関して好印象を抱いていないのも事実だ。行動は間違いなくリベリスタだが、素行はけして褒められたものではない。 ノーフェイスから離れた場所で、二丁の拳銃を構える烟夢。自らの仁義を掲げ、銃口をノーフェイスに向けた。迷いはない。世の中は綺麗な事ばかりではないのだ。左右の銃から放たれる弾丸が、ノーフェイスの胸を穿つ。 「……悪いな」 「今は討伐に意識を注ごう」 砂を噛むような口調で幸蓮がノーフェイスと大津の間に割って入る。味方全てを認識できる位置に立ち、的確な指示を出す。僅かな位置取りが戦場では重要になる。一手一歩の違いが仲間を護ることを、幸蓮は理解していた。 「援護感謝。さぁ、我が剣技を見るがいい!」 そして幸蓮はオールストンも『味方』の範疇に含めていた。彼の人間性に関して言いたいことは山ほどあるが、それでも行動理念はリベリスタだ。死んでいいと思える相手ではない。彼にも『家族』がいるのだから。 「あれは自分が正義と思い込むことで、罪悪感を消しているクチかもしれないな」 気障ったらしく剣を振るうオールストンを見ながら静夜が息を吐く。心折れないために何かにすがらければ、子供のノーフェイスを討つのは難しい。薙刀を構えてノーフェイスの前に躍り出た。 「お譲ちゃん、俺は今から君を殺す。君も『フェザー』を殺そうとしてるんだから、おあいこで」 ノーフェイスに告げてから、静夜は薙刀を振るう。ノーフェイスの爪を薙刀でそらし、そのまま薙刀を回転させるように動かして脚を払うように薙刀を振るう。切っ先に集めた闇の力がノーフェイスに纏わりつく。 「もし殺されても恨んだりはしないから、全力で来て構わない」 「逃げるタイミングを逸したか……!」 完全に囲まれた大津が呻くように呟く。仮にリベリスタの援軍が来ても、ノーフェイスを優先すると思っていたのだ。 「私、お母さんに、会いたいの……邪魔しないで……」 そしてノーフェイスの矛先は基本的にオールストンに向いている。アーク側リベリスタへの攻撃は、攻撃を仕掛けてきた人に対する反撃程度でしかない。それでも軽い傷ではないのだが。 あくまで母親に会いたいために戦うノーフェイス。それを見て遥平が動く。武装を幻想纏いに収め、ノーフェイスの真正面に立つ。 「手間は取らせない。ロビン、時間をくれないか」 「攻撃の手を止めろと? ノーフェイスは即殺す相手だ。時間をかけるなど論外――」 「この子は人だ。ノーフェイスでも、人の子だろうがよ……!」 叫ぶ遥平の剣幕に押されてオールストンが押し黙る。遥平はしゃがみこんでノーフェイスに語りかける。 「止めるんだ。こんなことをしても、お母さんには会えないんだ」 その言葉に体を震わせるノーフェイス。聞きたくない。認めたくないとばかりに首を振る。 「千沙子ちゃん。お母さんは、君が誰かを傷つけて、喜ぶような人だったか? お母さんは千沙子ちゃんを待ってる――天国で、待っているよ」 「天、国……」 遥平の言葉に忘我するノーフェイス。言葉が分からないわけではない。むしろ冷静になればそれが当たり前だという常識は理解できる。でも、それを認めるということは母の死を受け入れることだ。時間をかければ彼女もそれを受け入れることは、当然できる。 だが、戦闘という空間はそれを許さない。 大津から放たれる魔力の矢。それは武装を解いていた遥平を吹き飛ばす。そのまま地面を転がり動かなくなった。 「殺せ! そいつらのいうことを聞いたら、お母さんには会えないぞ!」 生命の危機を感じ、乱暴な口調でノーフェイスに命令する。動揺したままのノーフェイスは、しかし母恋しさで戦闘を再開する。 戦いは、終局に向かい加速する。 ● 大津は元六道とはいえ研究職系のマグメイガス。近接攻撃に長けた臣と杏香と優衣に囲まれた時点で、退路は立たれたといっても過言ではない。唯一の可能性は三人を倒すしかない。黒の魔弾を放ち、リベリスタの体力を削っていく。 「まだまだ負けないよォ」 体力的に劣る杏香が運命を燃やすことになるが、そこまでである。黒の魔弾による足止めを食らわない杏香の攻めと、一撃に長けた臣、そして追い込まれれば強くなる優衣。三人を組み伏す魔力は大津になかった。 「貴様が何を企んでいるのか等もはや無意味だ。今ここで死ね」 慈悲なく、容赦なく、加減のない臣の言葉。振り下ろされる高重量の一撃。全身の筋肉を振り絞り、解放すると同時に一気に叩きつける。悪を討つ。そのために鍛えられた自らの体。例え才能なくとも、積み上げた努力はそこにある。 「まだまだ痛みが全然足りないじゃないですか。もっともっと私に痛みを与えてください。でないと死んじゃいますよ?」 痛みこそが快楽。相手が苦しむさまを見て、痛みを想像して悦に浸る。それが優衣というリベリスタだ。浮かべた笑みは大津の苦しみと絶望を想像したからか。追い詰められて逃げられない。そんな彼に剣を振りかぶる。生命を奪う一刀が、大津の命を絶つ。 「残るは浜田嬢だけか……」 幸蓮は仲間を回復しながら戦場を見る。ノーフェイスの多段攻撃こそ厄介だが、これで戦いの趨勢は決しただろう。 (命を護る術はない。ならばせめて母子を一緒に……) 母に助けられた自分とノーフェイスの経歴を重ねる幸蓮。それはエゴなのだろうか? それでも。 「言葉だけじゃ届かないのか……!」 遥平は攻撃を受けて抵抗するノーフェイスを見ながら、きつく拳を握る。この状況では頭を撫でて落ち着かせることも難しい。リベリスタは明確に殺意を持ってノーフェイスを攻撃している。もう、リベリスタの言葉は届かないだろう。そして葬ることが最も正しい手法であることが、辛かった。 「このタイミングか」 徨はノーフェイスの腕が周りのリベリスタを弾き飛ばした瞬間を見計らい、閃光弾を放つ。光と音がノーフェイスの動きを止める。その隙を逃さず、リベリスタが攻める。 「ま、リベリスタやってりゃ世の中綺麗事ばかりじゃないってのは嫌でも実感するな」 銃を撃ちながら烟夢が愚痴る。ままならないのが人生か。それでも人の心を忘れたくはなかった。本当は心をなくしてしまうほうが楽なのに。『粋』な気持ちを失ってはいけないと心に強く刻む。 「生まれつき障害を持ってる子がいる。乗っていた飛行機がたまたま打ち落とされてしまた奴がいる。世の中ってのは残念ながらそういう事がある」 諭すようにノーフェイスに言葉をかけながら、静夜は薙刀を振るった。その動きに迷いはない。リベリスタである以上、ノーフェイスの命を奪うことに躊躇いはない。迷いない心とそれにそった薙刀の動き。心技体全てが備わった一刀。 「謝罪はしない。安らかに眠れ」 躊躇のない静夜の一閃。それがノーフェイスの命を絶った。 ● 「ここまでですね。まだ満足してませんが」 優衣が剣を納めて笑みを浮かべる。体中を走る痛みを味わいながら、戦いの興奮を思い出す。そして熱が冷めていくにつれて、人格も戻っていく。 リベリスタの任務はノーフェイスの打破である。 フィクサードである大津も倒し、、大金星だ。本来なら喜ぶべき状況といえよう。事実、オールストンは大喜びである。 だが、リベリスタの一部の表情は沈痛だ。 「まさかアークから援軍が来るとは。まぁ、私一人でもどうにかなっただろうが」 とてもそうとは思えないが、それは口にせずに幸蓮は喜ぶオールストンに嘆願する。 「頼みがある。彼女の遺体はこちらで引き取らせてもらえないか?」 「世界に影響がないから構わないが。アークも奇異な存在だな。ノーフェイスの死体をどうするつもりだ?」 「おまえにとってはただの『敵』なんだろうが、彼女は『人間』なんだよ」 これ以上論議する気はない、とばかりに遥平が口を開く。オールストンの意見は正しい。だが、だが―― 「ただ良い格好したいだけの餓鬼が粋がっても無様なだけだ。自分の力量を把握するってのも大事な事だぞ?」 烟夢が煙草を吸いながら、オールストンに言葉を吐く。自分の任務に酔って実力が見ええいない。それが仲間の死を招くこともあるのだ。 「うちのお偉いさんの説明じゃ、崩界を防ぐために戦うのがリベリスタで、私利私欲のために力を振るうのがフィクサードだってな」 突然杏香が口を開き、オールストンに近づく。ナイフを今だむき出しにしたまま。 「じゃ、自己陶酔したいっつー欲を満たすためにエリューションと戦うのはフィクサードなんか? それともリベリスタだってか?」 言葉と同時にナイフをオールストンに振るう。刃は真っ直ぐに進み――静夜と巨に止められる。 「一応聞きましょうか。何故彼を攻撃するんです?」 静夜の問いかけに、殺気を収めながら杏香が答える。 「だって自己陶酔で戦う奴なんざ、一歩道を踏み外せばフィクサード通り越して外道一直線だからネ。あたしゃそういうの大っ嫌いなのさ」 「だからといって殺す相手ではない。彼は己の使命に酔った、使命を満足に果たす事も出来ないクズだが素行はリベリスタだ」 杏香にもう攻撃の意図なし、と判断して巨も刀を納める。当のオールストンは突然の攻撃に腰をぬかして座り込んでいた。 「そろそろ、撤収といこう。思うところはあるだろうがね。それでも世界を護るためだ」 三線を手に徨は仲間達に撤収を促す。倒すべき相手は倒し、フィクサードまで捕らえて大金星だ。任務的には言うことはなにもない。 だが、リベリスタの表情は様々だ。納得できるもの、できないもの。ノーフェイスの不幸を嘆くもの、世界の為と誇るもの。同じアークという組織内であっても、個人の感情によりこうも違うものなのか。 互いに言葉なく、リベリスタはノーフェイスの遺体と大津を抱えて帰路に着く。 ――後日 幸蓮の要望を聞く形で、ノーフェイスは親子と同じ墓に入ることになった。その墓前で祈る一人のリベリスタ。 焼香の煙が、空に向かって真っ直ぐ伸びていく。 あの世でママに会えますように。祈りを捧げたリベリスタは、無言で立ち上がり歩き出す。 この経験(いたみ)を背負って、前に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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