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植物園の魔物

●植物園の魔物
 夕日が山の向こうに沈む。
 閉園の時間だが、植物園の作業は続いた。
 繁忙期を迎えた忙しさは大変なものだ。
 カゴに積んだ苗を台車に載せる。
 次は水やり、次は手入れ、次は……。
「ふぅ……」
 人手不足で目が回る。本当はもっと、早い時間に済ませる仕事が多い。
 どうしてこうなのか……そうこぼしてしまうのは人の性だ。
 植物園の中央、直径100mはある、ため池を見やる。
 ため池を囲むようにして植物園はルートを作っている。
 夏休みにもなれば、子供を連れた家族連れが押し寄せて、観葉植物の回廊を案内することになる。
 それはそれで楽しいのだが、もっと人を集める必要がある。
 こんな山奥まで、パートでも来てくれればいいのだが。
 物思いにふけっていると、ため池の中心で泡がボコボコと立ち始めた。
 ははア、さてはカエルか何かだナ。
 疲労した頭でぼんやり眺める。
 しかし、それはカエルなどではなかった。
 鮮やかな緑色の、細っこいツタが現れて、天へめがけて伸び始めた。
 1本、2本、3本……数は8本まで増える。
 8本のツタは早送りのように成長して30mほどの高さになる。
 細かったツタは瞬く間に図太くなり、いまや人間胴回り10人分はある。
 鮮やかな緑色は変色し、毒々しい赤紫の縞模様が浮かび上がる。
 それは明らかに人間の顔だった。

●暴れる魔物
 職員たちは引き寄せられるように集まっていた。
 その数10人。
 みな、怪物の縞模様から目が離せない。
 笑っているが、それは害意に満ちた悪の笑いであり、加虐心で正気を失った形相だった。
 ふと、我に返る。
 これは一体なんなのか?
 怪獣映画を観ていた気分が、潮のごとく引いていく。
 集まっていた職員たちの、一人が悲鳴をあげた。
 示し合わせるまでもなく、一斉に逃げ出した。
 何が気に入らないのか、ツタの魔物が変化した。
 8本あるツタの先端が、イモムシの口のようにパカリと開く。
 中から濃厚な腐臭が噴出した。
 たちこめる悪臭のあまり、逃げていた職員らがむせる。
 死臭を、それもこういった劇しい死臭を、誰ひとり嗅いだことがなかった。
「う……うげぇ!」
 逃げようとしつつも、吐瀉物を吐き散らかす。
 魔物はせせら笑うような咆哮をあげた。
「アアアアァァァァアアァァッ!」
 クサい口に渦を巻く、紫の鱗粉が円を描く。
 光線のように射出し、植物園の回廊を紫色の枯らし尽くした。
 職員たちは、懸命に脱走を試みている。
 しかし、体に力が入らない。
 這って進む手のひらは、小石で傷つき血だらけだ。
 体に金の鱗粉が降り積もってくる。
 ああ、そうか。
 これを吸い込んでしまったから、力が入らないのか。
「たすけて……たすけて……」
 魔物がイモムシのように這いずり寄る。
 腐臭を放つ口が、肉を求めて迫ってきた。

●ブリーフィングルーム
 怪物が出たよ。
 ウサギのような美少女『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が口火を切る。
 締め付けられるように愛くるしいが、彼女の口はいつも、戦いの情報がひしめいている。
 モニターでは山奥の植物園で、E・ビーストが我が物顔で暴れていた。
 罪もない職員が次々に捕食される。
 少なくとも爽やかな光景ではない。
 食事はすぐに終わる。
 あとはただ、金の鱗粉を巻く植物の魔物が、哺乳類めいた叫び声を上げていた。
「敵はE・ビースト。フェーズは2で、数は8匹……いえ、8本かしら? ……8本のE・ビーストが集まった集合体だけど、体の器官は独立しているから、各個撃破する必要があるわ」
 E・ビーストは口から紫の光線を放つ。これを受けたら猛毒に侵される。
「あと、体から常に金の鱗粉を撒き散らしているわ。致死性ではないけれど、吸い込んだら身体能力が鈍化するでしょうね。……牙にも毒があって、噛まれたら虚弱化するわ」
 懸案事項は他にもある。
「問題点として、植物園の職員さんが10人も倒れていること。もし救助を優先するなら大変だし、護衛しながら戦うと死者がでるかもしれないわ。可能なら、早めに退避させてあげて」
 幸いな点もある。
「敵の知性は皆無よ。欲望が赴くままに捕食対象を探すから、陽動は簡単でしょうね。這いずって動くから、動作も鈍いわ」
 イヴはリベリスタたちに向き直る。
「いつものことだけど、今回も気をつけてね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:蔓巻 伸び太  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年07月27日(日)22:24
 蔓巻です。ご無沙汰しております。
 この度、バロックナイトイクリプスに復帰させて頂く運びとなりました。
 今後はしっかり頑張っていきます。

○成功条件
 (1)E・ビーストの撃破
 (2)逃げ遅れた職員10人の救出

○現場について
 山奥にある植物園です。
 直径100mのため池を中心にした作りであり、円を描くように花や樹木や観葉植物が並んでいます。
 E・ビーストが現れるのは日が沈んだ時刻であり、リベリスタさんたちはイヴから正確な時刻を知らされています。
 また、逃げ遅れた職員以外は自力で逃げ出したため、シナリオには絡みません。
 ため池は『一律1.5m』であるとします。
 仮に無策で飛び込んだ場合、かなり動きづらくなるでしょう。

○敵情報
 E・ビースト×8
 『鱗粉レーザー』:神/遠/単 [猛毒]
 『死臭の牙』  :物/近/単 [虚弱]
 『金の鱗粉』  :付/遠/全 [鈍化]

 30mの長さの、ツタの怪物です。
 絶えず鱗粉を撒き散らしており、吸入すると[鈍化]のBSを受けてしまいます。
 知性は無く、付近に存在する生物を、無差別に捕食します。
 3ターンに1回、ツタの1~3本が『鱗粉レーザー』を放ちます。放ったツタは次ターンに動けなくなりますが、その代わり高威力です。

 赤紫色の縞模様で覆われており、人間の顔が浮かび上がっています。
 先端はイモムシのように開く口があり、吐き気を催す死臭を漂わせます。リベリスタさんはともかく、一般人には耐え難いでしょう。

○その他情報
 職員たちがE・ビーストと遭遇した場合、鱗粉で体の力が入らなくなります。
 リベリスタにしがみつく程度はできますが、自力で走ることは困難です。
 E・ビースト出現前に退避させるには、能力を駆使する必要があります。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
★MVP
ハイジーニアスソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ハイジーニアスレイザータクト
文珠四郎 寿々貴(BNE003936)
ギガントフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)
メタルフレームレイザータクト
緒形 徨(BNE005026)
ビーストハーフデュランダル
蜂須賀 臣(BNE005030)

●エリューション発生
 フェンスを並べた通路の先に、問題の植物園がある。
 ツタが空へ伸び始めており、野次馬10人が集まりつつあった。
 ツタは変異を始めており、かすかな死臭が漂っていう。臭いは濃くなる一方だ。
 黒服に身を包んだ少女、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼットが言う。
「植物園とか、のんびりゆっくりできる場所の筈なのにねぇ……。何この臭い? さっさと終わらせましょう」
 せっかくの風景がめちゃくちゃだ。リベリスタだから耐性があるとはいえ、平気ではない。さっさと終わらせよう。
 シュスタイナのとなりには、悠然たる態度でタバコを吹かす男がいる。『足らずの』晦 烏(つごもり からす)だ。 
「なんつーか、実にB級ホラーっぽい話じゃあるわな」 
 とは言え、お定まりの犠牲者を出させるつもりはない。静かな炎を燃やす烏の目に、ある張り紙が飛び込む。「園内禁煙」のポスターだ。烏は突然、懐に手を突っ込む。マシンガンでも出すのかと思いきや、あに図らんや、それは携帯灰皿だった。タバコを消して灰皿に捨てる。ニッカポッカで巨大な三角帽子を覆面替わりに被るという、怪しさ大爆発の男だが、これで常識人らしい。
 中央に立つ『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(もんじゅしろう すずき)は、ゆるゆると戦闘態勢を整える。
(植物園な……見るのは、わりとすき……藤棚とか、特にすき……)
 世話はが面倒なので、あまり欲しいとは思わないのだが、まぁ何にせよ、昼間かライトアップ時に来たい場所ではある。
(同行するお相手もいれば言うことないんだけどなぁ)
 見学する時間があればいいのだが。
 それはともかく、自分はため池に先行するチームだ。全員に『翼』を付与するタイミングは今しかない。
 柔和な笑みを浮かべつつ、気だるい表情を引き締める。 
「では。飛びたて諸君」
 その場にいたリベリスタ全員に小さな翼が付与される。
「アアアァァァアアアァァァ!」
 さて、ツタのエリューションがお待ちかねだ。
 寿々貴は一足先に戦場へ飛び立つ。3人の仲間と共に、陽動作戦を開始した。

●職員救出作戦
 死臭がひどい。いまにも吐きそうだ。どうにか堪えているが、いつまで持つか分からない。耐え難い死の恐怖のため吐き気が加速する。
 体の力が抜けるなか、走り寄る足音が聞こえた。重い頭を上げるとそこには、翼の生えた5人の人間がいた。
 どうしたわけか全員、奇妙な格好をしている。特に先頭の男、翼を生やしたロックミュージシャンめいた坊さん、あれは一体誰だ?
 職員の混乱を知ってか知らずか、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha”フツが言った。
「私はフツ、焦燥院フツです。あちらには化け物はいません。さあ、背中におぶさって!」
 見ず知らずの男性だが、とにかく助けに来てくれたのだ。
 促された職員はフツの背中におぶさる。やはり気になるのか、リベリスタたちの翼をじっと見る。
 すると、人形のような黒服の女の子と目が合った。
「あー……翼? 気にしたら負けよ?」
 シュスタイナが言った。
 この、絵本から出てきたような美少女が言うには、この翼と格好はコスプレで、自分たちはたまたま通りがかったのだそうだ。……はて、このお人形のような少女、細腕で太っちょのおばさんを持ち上げたぞ? あ、走った……老人は深く考えないことにした。
 今回が初の任務となる『剛刃断魔』蜂須賀 臣(はちすか しん)は、淡々と任務をこなしていた。
(偶然か、必然か。このような場所で突如覚醒とは、穏やかじゃないな)
 仕事ぶりは機械のように冷静だ。アークの初仕事とは思えない手つきで、職員を担ぎ上げる。しかし傍から見ると、一見して乱暴にも見えた。リベリスタの腕力なら、一般人の骨を折りかねない。折りかねないというのに、臣は一顧だにしなかった。
(死にさえしなければ問題はない)
 担ぎ上げられた職員は、臣に掴まれた箇所が赤く充血していた。それでも臣に感謝の言葉を述べている。緊急時には、通常ではない心理状態になるものだ。
 臣の後方から、少女とも少年ともつかない顔立ちのリベリスタ、『』緒形 徨(おがた こう)が続く。少年のような面持ちなのだが、不思議な愛らしさが漂う。それもそのはず、徨は女の子なのだ。
(おっさんと一緒の仕事か、まあ大丈夫さ)
 嫌な予感しかしないが……いや、これは大丈夫と言っていいのか?
「AWACS【ファイアアイ】として全力でサポ……」
 突然、猛烈なムズムズ感に見舞われる。
(っ、ぶはっ! 何だ!?)
 うばっ、げへっ!
 金色の霧、じゃなくて鱗粉……か? 地味に効果的な嫌がらせをしてくれる。
 徨は呼吸もままならず、職員を担いで地獄の50mを駆け抜ける。安全地帯で職員を下ろすと、涙目で殺気をみなぎらせた。
「……絶対ッ! 根絶してやるッ!」
 安全圏に職員を退避させると、リベリスタ各人は2人目の救出を急いだ。
 ツタのエリューションがどんな攻撃をしてくるか心配だったが、陽動隊がうまくやってくれているらしく、職員に犠牲者は出なかった。
 フツがアクセス・ファンタズムで救出の成功を知らせる。
「こちらフツ。救助に成功した。全員無事だ」
 返事はない。陽動部隊は3人で8体の敵を相手にしている。すでに2体を撃破したようだが、不利な状況には変わりない。
 リベリスタたちは全速力で応援に駆けつけていく。

●陽動作戦
 エリューション・ビーストのツタどもが、ため池の中央で叫び声を上げている。
 濃厚な死臭を放つ怪物に、低空飛行で接近する3つの影があった。
 先駆けするのは『鏡操り人形』リンシード・フラックスだ。
 彼女は先の戦いで重傷を負っている。まだ傷が痛むのか、時折眉をひそめた。
(ここの植物園、結構良さそうです……今度、糾華お姉様と是非一緒に来たいです……)
 そのためにも、閉鎖は避けたいところだ。植物園の健全な運営のためにも、職員を全員助け出してみせる。
 除草開始だ。いの一番に駆けつけたリンシードは、何を思ったのか、スカートをたくし上げた。
「きっと、そちらの方より私のほうが若く、柔らかくて美味しいですよ」
 ツタの魔物たちは、知性ゼロの分際で、にわかに色めき立つ。
「さぁ、どうぞ……私から召し上がってください。……捕まえられるならば、ですが」
 リンシードの太ももに見とれるエロエリューションどもに、『』緒形 腥(おがた せい)が横槍を入れる。
 喉がいがらっぽいのか、少し咳き込んでいる。
(花粉症とか喘息持ちにトドメの一撃だなー、この飛散量)
 現段階で救出活動中の仲間を見やる。そこには、這いずって逃げ出そうとする職員たちの姿があった。
(あー……皆、大丈夫…じゃあないよな)
 助けてやりたいのは山々だが、自分は左手以外の感覚がない。下手に触ると、職員を握りつぶしてしまいかねなかった。できることといったら、一刻も早くこの魔物を駆除することくらいだ。
(まあ、こいつ迷惑だし、イイ趣味してるし、駆除するか)
 とはいえ、リベリスタが揃っていない。まずは救助が終わるまで、防御を主体に置くことにした。
 リンシードはその高速で動き回り、敵のツタをきりきり舞いさせる。魔物を引きつけては華麗に回避し、注意を自分に向けさせた。職員の救出に多大な貢献を果たしたことは、想像に難くない。
「ほらほら……捕まえて……ごらん……なさい……」
 腥は愛用の格闘銃器『黄衣の王』を握り締める。照準は定めない。ナックルガードが黒く輝き、禍々しい呪いを帯びる。
「おっさん、格闘技得意なんだよ」
 ツタの赤紫の縞模様を、瞬速で殴りつける。まだまだ倒れる気配はないが、手応えはアリだ。
 リンシードは加速を続け、最高速度に到達する。彼女はあまりに素早く、ツタのエリューションはとても噛み付くどころではない。
 怪物はうまそうなエサを食べられず、苛立たしげに呻る。見れば1本のツタが、臭う口に紫の鱗粉が渦を巻いている。ターゲットは……寿々貴だ。
「あぶない!」
 腥はとっさに射線に入り、直撃を受けるところだった寿々貴をかばう。紫に輝く微粒子の光線が、腥を焼く。
「ぐあ!」
 鱗粉の毒は受け付けなかったが、なんという威力だろうか。あと一撃くらったら、命も危ないかもしれない。
「緒方……さん……」
 寿々貴のゆるい顔が、わずかばかりに引き締まる。しかし、あくまでもゆるい。ゆるいまま、何事かを詠唱する。どこからか暖かな風が吹いて、リベリスタ3人を包み込む。腥のダメージが復元されていき、鋼のボディはおおよそ元の状態に復旧した。
「文珠四郎ちゃん、感謝だよ」
「いいえ……」
 あのレーザーにさえ回避すれば、戦闘は有利に運べる。寿々貴は戦いの最中、ツタエリューションの深淵を覗き込んだ。
 牙で噛み付く時の動きは乱雑そのものだ。しかし鱗粉のレーザーを放つときは、仲間の陰に隠れて死角を作り、それから撃ってくる。ツタの切りやすい場所は……特にない。
 劇的に有利になる情報は得られなかったが、それでも腥とリンシードは奮戦する。
 やがて腥が呪いを込めたナックルガードで1本を切り刻み、リンシードが凄まじいスピードでさらに1本を細切れの氷に刻み込んだ。
 後衛で癒しの息吹の詠唱を続ける寿々貴のアクセス・ファンタズムに通信が入る。相手はフツだ。通信に応じたいが、いまは詠唱中だ。ほうっておくしかない。
 間もなく、救助を終えた5人のリベリスタたちが到着する。本格的な殲滅作戦が幕を開けた。

●殲滅開始
 8人のリベリスタ合流すると、シュスタイナが口を開いた。
「見た目が気持ち悪いとか変な臭いだとか。勘弁して欲しいわよね! もうちょっといい感じの敵はいないの」
 シュスタイナいわく、感じの悪い敵の方は、リンシードの剣技で凍りついていた。冷たさが不快なのだろう。人面瘡めいた縞模様がごめいている。
「アアアァァァアアア!」
 氷を破壊して哺乳類をそのまま巨大化させたような雄叫びを上げる。鼓膜が不快で仕方がない。
「全員集合。では、もういっぺん飛びたて諸君」
 寿々貴が言った。
 消えかかっていた全員の翼が光を帯びる。寿々貴が後方へ下がったところで、殲滅ミッションが幕を開けた。
 3本のツタの口で、鱗粉レーザーが渦を巻く。
 しかし、リンシードの方が断然早い。壮絶なスピードで切りつけ舞い、ツタを飲み込む氷刃の霜を作り出す。3本中、2本を氷漬けにした。
 難を逃れた1本が、紫のレーザーをフツへと放つ。レーザーはフツをかすめて、ため池に突き刺さる。逆さに立ち上る滝のような水しぶきが上がった。
「こんなもの、かすり傷だ!」
 敵の注意がフツへと向いたスキに、烏と腥が動いた。
 烏は極限まで正確に照準を合わせ、復元された散弾銃『二五式・真改』の引き金を引き、続けざまに腥が凄まじい早撃ちを披露する。散弾と銃弾が容赦なくエリューションを貫いたが、敵はまだ死なない。
 徨は後衛で閃光弾を構えている。根元から根こそぎ爆破したいが、あまり近づくと返り討ちにあいかねない。距離を確保し、なおかつ動いているツタを優先した場合、攻撃できるのは……2本か。閃光弾のピンを抜いて、投擲の姿勢をとる。
「くらいたまえ!」
 強烈な閃光が視界を包む。ターゲットの2本は麻痺したのだろう、動きが鈍っている。
 チャンスに乗じたフツが言う。
「この臭い、焼いて消毒といこうぜ。焼き尽くせ、深緋!」
 フツの符術に応じた火の鳥が、虚空の中に生み出される。6本のツタを焼き尽くし、そのうち2本が消し炭と化した。生き残った4本も、地獄の業火に焼かれている。
 リンシードがエリューションを凍てつかせ、徨が閃光弾で痺れさせる。戦いはリベリスタが有利に運んだ。
 烏の散弾が、腥の銃弾が、それぞれのターゲットを蜂の巣にして絶命させる。
 残るは2本。口には紫の鱗粉が渦を巻く。レーザーを射ちたいのだろうが、もはや悪あがきだ。
 フツの朱雀が再び、ツタの魔物を焼き尽くす。
 炎の柱のようなエリューションへ、臣が突撃した。獣化した金の右目が殺意に光る。
「消えろ下郎! この世界に貴様の生きる場所なし!」
 その欠片一つ残さず、この世界から駆逐する。電気に変換されたオーラをまとい、唯一にして必殺の剣技を放った。
「チェストォォォオオオ!!」
 捨て身の一撃でツタの怪物を両断する。切り口から火花が散り、焦げ臭い匂いが一面に漂った。燃え上がる残り1本に、臣は見向きもしない。どこかぎこちない残心を行う臣のとなりで、炎に包まれたエリューションが崩れ落ちる。朱雀の炎が致命傷となったのだ。天まで届かんばかりの水しぶきが上り、やがて静けさが訪れた。

●掃除は大変だ
 エリューションは退治したが、後始末が残っている。立ち篭める死臭といい、慌てふためく職員といい、問題は山積みだ。
 まず、職員の対応には、フツが当たった。彼は『記憶操作』でこんなことを吹き込んだのだった。
「オレたち実は、人材派遣会社『アーク』から派遣された、園内清掃のアルバイトだったんです!」
 なんだ、そうだったのか。直近1時間の記憶をまるまるいじり倒し、平和な記憶を植え付ける。立ち篭める死臭は害虫によるものだとして、掃除を引き受けると申し出た。
 虚ろな目つきで帰宅する職員を見送ると、フツはデッキブラシを構える。
「さて、オレの華麗な長柄さばきを見せてやるぜ!」
 まるで見えない敵と戦っているばかりの勢いで、猛然と掃除を開始した。
 シュスタイナとリンシードは顔を見合わせている。フツと同じく、このまま帰るのは気が進まないようだ。
「園内が荒れたままってのは……まぁ忍びない、かしらね」
 シュスタイナが言った。
「被害はどの程度でしょうか……職員さんにとってはとんだ災難でしたね……」
「仕方ないわね。皆で適当に掃除でもしましょうか。人手不足って話だし。専門的な事はさっぱり分からないけれど、手助け程度ならできそうよね」
 二人は掃除道具を探す。フツの手伝いくらいはできるだろうからだ。
「私達が来るまでに元通り営業してるといいのですが……職員さん増えるといいですね……」
 烏、腥、徨、そして臣の4人はエリューション化したツタを根こそぎ掘り返し、徹底的に焼却処分した。
 烏が主導して荒れた園内の手入れやら、草むしりから荷物運びに至るまで、できる限りの復元作業に精を出す。
 戦闘で潰れたり枯れたりした植物はともかく、大穴があいた地面には土を放り込むくらいの工事は行った。
 真夜中までかかって作業に区切りがつく。
 烏は大きく背伸びをついた。植物園から出てタバコを吸う。あれだけレーザーをくらったにもかかわらず、こんなことを宣った。
「何が一番辛いって長い時間吸えなかったのが辛いな、そこは誤算だった」
 最精鋭クラスらしい、タフなセリフだった。
 一方、臣は一路ため池へと舞い戻る。すると、池に飛び込んだ。何をするのかと思いきや、アーティファクトを捜索し始めたのだった。
(ただの偶然なら良し。そうでなければ対処が必要になる。さて……)
 地道に、そして根気強く捜索を続ける。懸命な作業は朝まで続いたが、結局アーティファクトは発見されなかった。
 東から太陽が昇る。アーティファクトはないようだ。臣は仲間に「待たせた」と告げると、アークへの帰路についた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 遅くなってしまって申し訳ありません。『植物園の魔物』のリプレイをお届けします。
 麻痺や氷像などを駆使して戦われた結果、戦闘は有利に進んでいました。鱗粉レーザーは1~2撃で倒れるくらいの威力だったのですが、皆様のプレイングの前に阻止されてしまったようです。
 ご参加くださり有難うございました。次回のシナリオも頑張っていきます。

 それでは。