●クラリモンド 黒いドレスに、死人そのものな土気色の肌。げっそりと痩せた肢体は乾燥している。しかし彼女は美しい。朽ちることのない芸術品染みた美貌を持った不死の姫。その肉は仮初のもので、本性は白い骨なのだ、などと誰が知るものか。 彼女はアザ―バイド(クラリモンド)。死という概念の存在しない世界から来た、異形の姫君。 そんな彼女が、偶然手に入れたアーティファクト(聖骸布)を持ってこの世界を訪れた理由は、一重に観光と、そして偵察の為だった。聖骸布をストールのように首に巻いて、軽やかな足取りでクラリモンドは歩いていく。 『ふふん? この布は便利ね。他人の目から、わたしの存在をある程度隠してくれるのだわ』 そう言って笑うクラリモンドを、擦れ違う者達が一瞥して通り過ぎていく。本来なら、見るものをギョッとさせずにはおかない肢体染みた顔色なども、聖骸布は誤魔化してくれているようだ。今現在、彼女の姿は、ドレスを纏った美しい女性にしか見えていないだろう。 彼女が歩いているのは、繁華街の中心だ。これからどこへ行こうか、と足を止めてぐるりと辺りを見渡した。川を渡って東へ行けば、そこは飲み屋街。西へ行けばホテルやマンションの並んだエリア。北には大きなタワーがある。南には、駅や小山があった。 『おっと……。危ない』 聖骸布を巻き直し、彼女は小走りに駆け出した。そこで、彼女の姿はモニターから消える。 千里眼や透視など、神秘に関する能力を弾く聖骸布にも限界はある。月の光を吸収していないと、性能を十全に発揮できないのだ。そのため彼女は、建物内や物影を移動することができない。月の光の届かない場所へ行っては、アークに発見されてしまう。クラリモンドは、この世界に存在しているアークという監視者のことを知っていた。 更に、聖骸布を巻いている間は、彼女の持つアザ―バイドとしての能力も使えない。 その一方で、聖骸布による恩恵もあった。 本来なら、クラリモンドは深夜0時までしかこの世界に滞在できない。けれど、聖骸布を巻いている間に限り、彼女はその制約から解放される。 せっかくの異世界。十二分に満喫しようと、彼女は何処かへ歩いていった。 ●姫を迎えに 「異世界から来たアザ―バイド(クラリモンド)を探して欲しい。聖骸布の効果で、千里眼などの神秘関連の能力はシャットダウンされているから、肉眼で、ね。超直感なんかは、ある程度効果が期待できるかもしれないけど……」 それから、と困ったように『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は呟いて、モニターの映像を切り替えた。 映ったのは、街の南側にある小山の一角のようだ。暗い林の中に、巨大な骸骨が蠢いているのが見える。 「クラリモンドを探しに来たアザ―バイド(がしゃどくろ)を、これ以上街へ近づかせないで欲しい。Dホールが空いているのも、この小山のようね」 クラリモンドを連れ戻しに来たのだろうが、がしゃどくろの体躯は10メートル近い。充分に怪物と呼べる外見と大きさ。それが街へと踏み込めば、大混乱は免れない。小山の、林の中でさえ対策を打たねばそのうち誰かに見つかって騒ぎになるだろうから……。 「クラリモンド同様、がしゃどくろも死ぬことはない。戦闘不能にして、Dホールへと叩きこむことは出来るけど……。結構な怪力と、頑丈な身体を持っているわ」 同じ世界から来た2体のアザ―バイド。 片方は、姿を隠し街中へ。 もう片方は、目立つ容姿をしている。 「クラリモンド、及びがしゃどくろを元の世界へと送還すること。それが任務の達成条件。できるだけ、被害は出さないようにね」 舞台は2か所。ターゲットは2体。 クラリモンドと、がしゃどくろ。 「クラリモンド単体には、戦闘能力などないに等しい。見つければ、比較的簡単に捕まえられるでしょうけど、油断はしないで」 と、そう言ってイヴは仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月20日(日)22:59 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●物見遊山の不死姫 「活き活きとしているのだわ……。私の世界とは大違い」 赤い布を首に巻いた、美しい女性だ。多少顔色が悪く見えるが、それ以外は、御嬢様然としていて、ある意味浮いていると言えるだろう。そんな彼女は、異世界から来たアザ―バイドと呼ばれる存在である。それも、その本性は骸骨であり、肉体を持たぬ不死の姫だ。 彼女の首に巻いている赤い布、アーティファクトと呼ばれるそれが、彼女の本性を隠し、また彼女自身のアザ―バイドとしての能力さえもを封印する。 おかげで、彼女の姿は千里眼や透視などによっては発見されなくなっている。 「聖骸布の効果で人目を惹く容姿に見えているのでしたっけ……」 ギターを背にした『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)はスキルによって強化された視力でもって、道を行き交う人々の視線を追いかける。クラリモンドの姿を直接視覚系のスキルで捉えることはできないが、クラリモンドに注目している一般人の姿を見つけることは可能だろう。また、単純に強化された視力は、それだけで索敵範囲を大幅に強化してくれる。 「人探し、か。戦闘よりはよほど慣れてる」 そう呟いて、柴崎 遥平(BNE005033)は道行く人々に声をかけては、クラリモンドを見なかったか、と質問を繰り返す。刑事としての経験からか、彼はこう言った情報収集には慣れているようだった。 一通り、露天商や通行人に声をかけ終えると、今度は携帯を取り出し、どこかに電話をかけはじめた。 「よう、鈴木。柴崎だ。久しぶりだな。お前、まだ繁華街の交番勤務か?ちょっと人探しを頼まれて欲しいんだがな……」 どうやら、知り合いの警察官に電話をかけているようだ。 イスタルテは視力で、遥平はコネクションとコミュニケーションでクラリモンドを探している一方で、『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)は自身の足と直感で捜索を続けていた。周囲の様子を窺いながら、その目は、記憶にあるクラリモンドの姿を人混みの中に求め続ける。 「まぁお忍び観光なら特に言うことも無いですし、付き合ってあげてもいいのですけどねぇ。部下の躾はしっかりとして欲しいものですよ、全く」 南の小山に視線を投げて、彼女は誰にともなくそう囁いた。 シィンの声は、人混みの中に溶けて消えていった。 ●不死の国からの来訪者 「オレの名はアズマ! 推して参る!」 刀を一閃。アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)の刀が、巨大な骨の腕を切り付ける。パキリ、と軽い音を立てて、骨の破片が飛び散るが、アザ―バイド(がしゃどくろ)はさほど気にしていないらしく、まっすぐ街の明りの方へと這い寄っていく。 「姫様をここへ連れてくるまで……ここで我々と戦ってもらう!!」 大上段に振りあげた魔力剣を、がしゃどくろの眉間へと叩きつけるように放つ『アーク刺客人“悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)。渾身の一撃が、がしゃどくろの頭部を地面へと叩き落す。地面が陥没し、がしゃどくろの動きが止まった。 「世界が違うと、生死のあり様も違うんだ……ね」 魔方陣を展開し、魔力を伴った攻撃をがしゃどくろへと撃ち込んだのは『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)だ。がしゃどくろをこれ以上街へと近づけさせないのが、主な狙いとなる。それゆえに、ダメージを与えるよりも行動を阻害することを優先しているようだった。 けれど、頑丈かつ巨大ながしゃどくろを止めるのは容易ではない。 思いついたように、唐突に振り回されたがしゃどくろの腕が、接近していた麗香とアズマを弾き飛ばす。木にぶつかって地面に落ちた2人を無視して、がしゃどくろはゆっくりと立ち上がった。 「言葉はわからない? それもいいでしょ。肉体言語は世界の壁を打ち砕く」 立ち上がったがしゃどくろの頭上から、無数の炎の矢が降り注ぐ。がしゃどくろは、頭を庇うように頭上で腕を交差させ、炎の矢を放った相手へと視線をなげかけた。 そこに居たのは、骨のような翼を持った女性『いつか迎える夢の後先』骨牌・亜婆羅(BNE004996)だ。怪しく光る彼女の瞳は、がしゃどくろの骨の身体を凝視していた。手にした弓を空へと向けて、「骨禍珂珂禍!」と奇妙な笑い声をあげる。 街へ出ている仲間達が、クラリモンドを連れて戻ってくるまでの間、亜婆羅たち4人で、がしゃどくろをこの場に抑え込まなければならない。 小山での戦闘が本格化の兆しを見せ始めた頃、街中では引き続きクラリモンドの捜索が行われていた。イスタルテ、遥平、シィンの3名はそれぞれの方法で、時折連絡を取り合いながらクラリモンドを探す。 クラリモンドらしき者を見た、というものも見かけるが、どこで見たのかまでは覚えていなかったり、或いは、現場へ急行してもすでにそこにいなかったりと、現状発見には至っていない。 「目的なく歩き回っている感じですねー」 困ったように、イスタルテが呟いた。 「怪しそうなのも見かけませんね」 一旦合流していたシィンも、イスタルテの言葉に肯定の意を示した。クラリモンドを見つけてから、説得して帰って貰うのが目的だが、その為にはまず居場所だけでも特定してしまいたかった。 一方で、遥平は2人から少し離れ、ヤクザ風の男と会話を交わしていた。どうやら、知り合いのようだ。遥平の顔の広さを見て、イスタルテはしきりに感心している。 「ホシは女だ。特徴は黒いドレス。首に布を巻いている……。なに、見かけた?」 どうやら、遥平は手掛かりらしきものを手に入れたらしい。 クラリモンドは、西へ東へと街中を彷徨い、そして最後に街の外れにある大きなタワーに目を付けた。異世界から来た彼女にとって、この世界にあるものは全て見慣れない、珍しいものばかり。特に、キラキラと輝くネオンライトや照明などには心惹かれていた。 「あそこからなら、街が綺麗に見えそうね」 そう呟いて、クラリモンドはタワーへ向かって歩き始めた。 首に巻いた聖骸布に手を触れ、ふふ、と小さく微笑んで見せる。偶然手に入れたこの布のおかげで、彼女は今、リベリスタに発見されずに観光を楽しむことができている、と分かっているのだ。 この奇妙な布を手に入れたことは、彼女にとって幸運だった。 唯一難点があるとするのなら、それは……。 『……………下賤な輩ね』 クラリモンドの進路を塞ぐように、数名の柄の悪い男達が立ちはだかった。どうやら、クラリモンドに目をつけ、ちょっかいをかけるつもりであるらしい。 聖骸布唯一の難点は、この布を巻いている間に限り、クラリモンドは本来の力を使えない、というものだった。 溜め息を零し、クラリモンドは踵を返す。 面倒だ、と思いながらも、彼女は一目散に人混みの中へと逃げこんだ。 携帯をポケットに仕舞い、遥平はイスタルテやシィンへ声をかける。 「街の不良連中からの情報だ……。それらしき女がタワーの方へ向かったらしい。目立つ女だと思って声をかけたが、そのまますぐに逃げ出した、とのことだ」 余計なことをしてくれる。 そうぼやきながら、3人はタワーの方へと足を向けた。 振り回した腕が、木々をへし折り、地面を抉る。カカカカ、と渇いた笑い声をあげながら、がしゃどくろは、目の前の敵を排除するために暴れまわっていた。こんな場所で時間を取られている場合ではない。彼には使命がある。この世界に迷い込んだ、自身の主を連れ戻す、という使命が。 そんながしゃどくろの眼前に、長い黒髪を靡かせながら麗香が迫る。 「まあ、死なぬのであれば思い切りぶちかましても構うまいて」 大上段から振り下ろされた麗香の剣が、がしゃどくろの眉間を打つ。がくん、と衝撃に押され、がしゃどくろの身体は地面に叩きつけられた。 追撃を放つべく、シエナとアズマが倒れたがしゃどくろへと駆け寄っていく。2人を援護するように、亜婆羅の矢が放たれる。2人ががしゃどくろの眼前にまで辿り着いたその時、カカカカと奇妙な音を鳴らしながら、がしゃどくろは上半身を起こした。 上半身を起こす勢いのまま、左右の腕が下から上へと振り上げられる。 「うあっ!」 アズマの悲鳴が上がる。腕に弾かれ、2人は遠くへと弾き飛ばされた。ギシギシと、全身の骨が軋む音がする。内臓にもダメージを負ったのか、呼吸の度に胸に痛みが走る。 シエナは空中で体勢を立て直し、杖を構え、魔方陣を展開する。 「どこからでも……わたしはターゲットを撃ち続けるだけ……っ!?」 魔方陣から現れる、禍々しい鎌。けれど、それを放つよりも速くシエナとアズマの眼前にがしゃどくろが迫っていた。追撃とばかりに、2人の頭上からがしゃどくろの巨大な手が叩きつけれた。 地震の如き衝撃。地面が揺れて、暴風が吹き荒れる。 カカカカ、と笑いながらがしゃどくろが手を退ける。手形に抉れた地面の上で、シエナとアズマは倒れ伏して動かなかった。意識を失っているようだ。 「ああ夢の先に広がる骨の国よ。そこはあたしの天国かしら。行って暮らしたいわねぇ骨の国……。でもまずは、2人から離れて頂戴ね」 がしゃどくろの全身を、炎の矢が撃ち抜いた。空中を疾駆し、弓を引くのは亜婆羅であった。炎の矢に押され、がしゃどくろはじわりじわりと後退していく。 「街には行かせない……よ」 よろよろと、シエナが立ち上がった。無理矢理意識を取り戻し、戦闘を続行するようだ。 カカカカ、と骨を打ち鳴らしがしゃどくろは腕を広げた。邪魔をする者を排除し、クラリモンドを探しに街へと出ていくつもりらしい。 「探索組! 早く来てくれ~~!!」 麗香の叫びが、夜空に響く。 電飾に飾られ、夜を赤く照らし出す鉄のタワーを下から見上げクラリモンドはほう、と溜め息を零す。タワーの下の広場には、軽食の屋台が並んでいる。 「通りすがりのギタリスト少女なんですけど一曲いかがでしょう?」 タワーの入口を探すクラリモンドに声がかけられた。眼鏡をかけた、金髪の女性だ。ギターを背負っている。イスタルテだ。彼女の姿を見て、クラリモンドは聖骸布に手をかけた。彼女がそこらにいる一般人とは違う、ということに気が付いたのだ。 「待って下さい。無理に戦う必要は感じませんし、一般の方々に余程の迷惑がかかるものでなければ、できるだけ叶えてあげたいですし」 「ローマの休日は楽しめたかい、お姫様。けど残念ながら、そろそろタイムアップだ。エスコートするから、お帰り願えるかい?」 逃げるか、戦うか。そう考え、身構えたクラリモンドを囲むようにシィンと遥平が現れた。敵意はない、と示すように3人は皆、武器を構えるような素振りはみせない。仮にクラリモンドが戦闘体勢に入ろうとしても、聖骸布を外す間に、こちらも十分体勢を整えることができるからだ。 「観光目的ですし……満足して貰えたら、元の世界に帰っていだたきたいですね。貴女を追ってきたがしゃどくろさんも、暴れまわっているようですし」 ギターを掻き鳴らし、イスタルテは言う。 彼女の言葉に目を丸くし、クラリモンドは『え?』と小さく声を漏らした。 ●姫君の帰還 「戦いの潮目。わたしのとっておき……だよ?」 魔方陣から伸びる、半透明の黒い腕が、がしゃどくろの頭を掴む。シエナの放ったソウルクラッシュが、がしゃどくろの精神を汚染し、かき乱した。頭を抱え、身もだえるがしゃどくろの脚元へと麗香が駆け寄る。 「コイツはぶっとぶのか?」 見上げるほどの巨体と、重量を持つがしゃどくろへ、麗香は渾身の一撃を叩きこんだ。がしゃどくろの脚部に罅が走り、その巨体は僅かに浮いた。 「っ! ぁぁぁああ!!」 気合い一閃。麗香は剣を振り抜いた。バランスを崩し、地面に倒れ込むがしゃどくろへ目がけ、麗香が迫る。シエナは魔方陣を展開し、亜婆羅は弓に矢を番える。このまま、がしゃどくろを戦闘不能にし、Dホールから送還しようという心算だ。 一斉攻撃が放たれる、その直前。 『お待ちなさいっ!』 凛とした声が、林の中に響き渡った。 イスタルテ、シィン、遥平の誘導でその場に現れたのは黒いドレスの姫君、クラリモンドだった。クラリモンドの手には、赤い布が握られている。 リベリスタ達が攻撃の手を止めた。 がしゃどくろは、身を起して姫の命に従いその場に制止する。 アイコンタクトをとり合うリベリスタ達。無事に役目を果たした仲間同士、賞賛を送る。 そんな中、亜婆羅だけが嬉しそうに手を叩き、骨の翼を広げてクラリモンドの元へと近づいていくのだった。 『骨の翼……? 同郷?』 「はろープリンセス。あたし達は分かり合えるわ。だからとりあえず触らせてね」 擦り寄ってくる亜婆羅の勢いに流され、クラリモンドの擬態が一瞬だけ解ける。 そこに居たのは、黒いドレスを見に纏った、綺麗な白骨であった。 がしゃどくろは、Dホールを潜って帰っていった。クラリモンドの命令に従った結果である。 一方のクラリモンドは、リベリスタ達の誘導の元、件のタワーへと登っている。 「タワーから街を見下ろすくらいの時間はあっても、いいだろ?」 目を輝かせ、街を見下ろすクラリモンドを見つめながら、遥平はそう呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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