●前座 劇場のレッドカーテンが幕を開ける。 ライムライトが舞台を照らす。 「よーこそ☆」 陽気に歌い踊るのはバニーガールの奇術師だ。小悪魔の羽飾りがついた黒の小さなシルクハットに、垂れ下がったロップイヤー系のふさふさ白い耳。紅いセミショートヘア。薔薇の刺繍の黒い燕尾服の上着に大胆なVラインの白いレオタード。そして何より、ぽわぽわのウサギのしっぽの愛くるしさと真逆の、網タイツ越しの扇情的なヒップだ。張りがあって程よい丸みを帯びたおしりのセクシーさを、軽快なダンスが強調する。 「ボクはバニー・ザ・ローズヒップ☆ 素敵なゲームに遊びにきてくれてありがとね☆」 ラッタッタラッタッ。 舞台の上を遊びまわるバニー。 時おり、両手をうさみみに見立ててコイコイと聞き耳を立てる仕草をしてみせる。 「ボクは退屈だと死んじゃうイキモノなんだ~! わーんわーん! そこでおねがい☆」 イタズラっこで小生意気な顔立ちでアハッ☆と笑い、ほっぺに流星(☆彡)のペイントを強調するように横ピースを決める。 「ボクと“しりとり”で遊んでよ! 最後まで付き合ってくれたら元の世界へ帰る、この世界とはオサラバさ☆ ボクにだって帰りを待ってる家族も居るからね~☆」 観客席にスポットライトが当たる。 そこには臨戦態勢のリベリスタ達が6名余り、剣や弓、銃や杖を携えて各々に油断なく警戒心を露わにしていた。 「捕らわれになった人々をお返しくださいませっ!」 先陣に立つ少女は凛と啖呵を切った。 “落ちる姫獅子”千尋ヶ谷 了子(ちひろがだに りおこ)。 彼女はレオポン(獅子と豹の混血種)のビーストハーフ×クロスイージス。今年12歳になる了子は、2年前にとある依頼(ID:3510)にてアークのリベリスタ達に助けられた過去を持つ。その際にクロスイージスと覇界闘士のある人物に憧れ影響を受け、ひとつの目標としてきた。所属するのは民間のリベリスタ組織なれど、志は同じ。 了子は実戦経験を積み、世間知らずのお嬢様から一人前の戦士の面構えに多少なりとも近づきつつある。 そんな若獅子の眼光を、てんで道化ウサギは意に介さない。 「ごめんソレ無理☆」 バニー・ザ・ローズヒップがヒモをグッと引っ張ると背景の書割がぐるりと回転した。 イースターエッグみたいに飾りつけられた人間大のタマゴの中に、薄っすらと眠りについた人の影が透けてみえるではないか。 「あっ……」 「コロコロするつもりはさらさら無いけど、ボクも電池切れしたら動けなくなっちゃうんだよ、けど一般人じゃ前菜にもなりやしなくって」 にたりと三日月に微笑う。 「ゲームしよ☆ ボクはエナジーが欲しい、キミらはこの人質が欲しい。ああ、ボクの強制退去も目的かな? とにもかくにも乗るしかないんだよね、ボクの遊戯に」 カンッ。 ステッキで床を叩くと、また書割がぐるりと回転してイースターエッグは舞台裏へ。 「うぐ……ルールを聴かせて、くださいまし」 「しりとり」 「はい?」 「し・り・と・り。知らないの? しりとりだよ」 ペンペンと自らの桃尻を叩いて、バニー・ザ・ローズヒップは挑発する。 「この劇場の中はボクの“ルール”が支配してるのサ☆ だって支配人ボクだもん」 カードを投げて全員によこす。 名刺の裏に、ゲームのルールが一目で解るように記されていた。 『0、基本ルールは“しりとり”。 1、挑戦者は“しりとり”を繋ぎ、言葉にして宣言しないと行動できない。 2、挑戦者は“しりとり”を繋ぐ順番をあらかじめ決め、なるべく順番通りに行動する。 3、挑戦者は“しりとり”を宣言する時、間違えると罰ゲームを受ける。 4、間違いの条件は主に四つ。例外アリ。 a、最後に「ん」のつく行動/スキルを宣言する。 b、“しりとり”が連続して繋がっている間、同名の行動は全員で1回だけ。 c、10秒居ないに“しりとり”を宣言、行動できない。繋がらない。 d、あらかじめ決めた繋ぐ順番を守らない。パスや順番ミスは連続中1度まで。 5、罰ゲームは気分次第☆ 6、挑戦者は“しりとり”を繋いで行動しつつ、出題者の用意した“敵”を倒すこと。 ちなみに敵はしりとりと無関係に行動できる。 7、“敵”を倒しきれたらゲームクリアー☆ 8、罰ゲームが8回、もしく“しりとり”が完全に繋がらなくなったらゲームオーバー 9、バニーちゃんへのおさわりはOKです☆』 「さぁ! DO-DAY!」 「や、やりますっ!」 「オッケーイッ☆」 バニー・ザ・ローズヒップはカンカンと床をステッキで叩く。 舞台が競り上がって、堅牢そうな鉄格子の檻がライトの光に晒される。 「それでは! 本日のキューティ☆エネミーのご紹介! レッツパーリィ☆」 「ごくり」 息を呑む了子。 鉄格子の檻から這い出てきた猛獣は――。 白い。 真っ白い。 「もっちー」 「うさもっちー」 ぴょんぴょん跳ねまわるウサギっぽい何か。白玉だんご、あるいは南天の実と葉っぱで目と耳を形作る雪うさぎ。そんなゆるーい造形の、もちもちとした弾力に富むウサギが跳ねている。 「……弱っ! 失礼ながら明らかに弱卒にございますよコレはっ!」 「これでも“猫神家”ってゆう事故でアークの精鋭リベリスタが死にかけたそーだよ?」 ぽいんぽいん跳ねる白玉うさぎ達。 レオポン了子は深い溜息をつく。 「わたくし、アークという組織が未だによくわかりませんわ……」 「油断大敵だよ! “しりとり”しながらボクらと戦えるかな?」 指が鳴る。 スポットライトが消えては点けば、そこはもう舞台の上である。 大胆不敵な奇術師ウサギのキラッ☆顔ヨコピースを、果たして了子は破れるのか! ● 「ダメでした」 「デスヨネー」 作戦司令部第三会議室。 フォーチュナー『悪狐』九品寺 佐幽(nBNE000247)は雪ウサギ大福に舌鼓を打つ。 もちろんみなさんの分のありますので相談の折、ご賞味あれ。 「以上の通り、民間リベリスタ組織より救援依頼がありました。アザーバイド討伐任務に向かった六名中五名が敵の人質に、残り一名は伝令役に開放されたのだそうです」 「猫神家とは一体……」 リベリスタのつぶやきに、佐幽は遠い目で明後日の方向を見やった。 「それはそれは痛ましい事件(ID:3567)でございました」 雪ウサギをハムり。 「さておき、今回は事前の準備と打ち合わせが重要になりますでしょう。敵はさほど強くありません。が、相手も遊び半分とはいえ、それは厄介なルール縛りを踏まえてのことでしょう。とかく“しりとり”を制さねば」 「なにか対策でも?」 「さうですね、“スキル構成は強弱を問わずアクティブ多めが望ましい”と“最後に「ン」のつくスキルは避ける”あとは……ルールのアバウトさを逆手に取って多少は強引な裏ワザが使えるかもしれない。と、いった程度でしょうか」 「裏ワザ……? 敵を怒らせないか?」 「その点はご安心を。万華鏡を介して確かめた結果、バニー・ザ・ローズヒップの支配空間内での“ルール”は出題者側にも制約があります。彼女自身にも自由に罰ゲームを下せる権限はない、ということです。ズルやイカサマはリスクが伴いますけどね」 淡々と悪狐はアナタたちに一連の情報を告げる。 「さぁ皆さん、イタズラウサギに月に代わっておしおきしませう」 ●敵関連情報 以下は、帰還した民間リベリスタの証言とフォーチュナー情報を元にして告げられた敵情報である。 ・アザーバイド『バニー・ザ・ローズヒップ』 ビスハ(兎)っぽい少女。服装はマジシャン風のタキシード&バニースーツである。尻。 外見年齢は女子高生ほど。イタズラ好きのボクっ娘。悪意的にあざとい。尻。 高等生物の精神エナジーを糧として生きている。悪意はあっても殺意はない。まだ退屈を嫌い、遊びを好む。本人の気質というよりはそういう種族らしい。あと尻。 『しりとりゲーム』の最中は舞台の上でアレコレ攻撃を仕掛けてくる。 ただし、遊び半分で彼女なりにより面白おかしくしようとする。 ルール上の倒すべき“敵”であるが一定以上傷ついたら白旗降参する為、撃破不要。ただしゲームに勝利するには白玉うさぎも撃破すること。 撃滅を狙う場合は、ゲーム中、ゲーム後を問わずチャンスはある。 とりわけ、すばしっこくて回避力が高く、バツグンに運が良い。 ・破界器「月の杵」「月の臼」 バニーの所有する破界器。とても美味しいお餅を作ることができ、また扱いやすい。 戦闘中は使ってこないが白玉うさぎ生産に使われた。劇場の楽屋に放置されてる。 過去に登場した代物と同一種。アザーバイドのウサギ達の間では、もしかすると通販などで流通しているのかもしれない。なんと保証書つき。 ・Eエレメント・フェーズ1「白玉うさぎ」×8 餅の性質を持つ。俊敏で弾力・粘性に富み、自在に硬化もできる。20%サイズ増量。 耐性と弱点がある模様。 炎熱攻撃や火炎系BSを受けるとぷっくり膨らみ、粘度が増して美味しくなるが強化状態(?)に。氷結攻撃や氷結系BSでは硬化、割れやすく弱体化する。 俊敏性と防御力(物理は高い、神秘もやや高い)に優れる反面、攻撃性はいまいち。しかし拘束力には長ける。 鳥もち弾、うさキックを多用する。油断しないこと。……でも再生怪人ですしねー。 その高い耐久面を活かして“しりとり”の回数を増やしミスを誘うことが狙い。 ・Eエレメント・フェーズ1「白玉苺うさぎ」×1 美味しい苺&練餡入り。以上。 ・Eエレメント・フェーズ1「白玉毒うさぎ」×1 美味しい死毒入り。以上。 ・Eエレメント・フェーズ1「白玉仔うさぎ」×1 手乗りサイズでかわいい。以上。 ・Eエレメント・フェーズ1「白玉鋼うさぎ」×1 メタルなアイツ。以上。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月20日(日)22:57 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●それは不慮の事故でした 劇場のレッドカーテンが幕を開ける。 スポットライトが暗い観客席に注ぐ。 「よーこそ☆」 舞台上のバニーはマイクを投げ渡す。 褐色のしなやかで逞しい少年の腕がキャッチする。 「ごきげんうるわしゅう、うさぎちゃん」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は恭しく一礼してみせた。 マイクを握り、ちらりと仲間の様子を伺う。 「1234…YESリベリスタ5☆ ゲームへの参加は大歓迎さ!」 スポットライトが五ヶ所を照らす。 『奇術師』鈴木 楽(BNE003657)。 『夜明けの光裂く』アルシェイラ・クヴォイトゥル(BNE004365)。 『本気なんか出すもんじゃない』春津見・小梢(BNE000805)。 『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)。 一斉に照らし出された四者は、しかし動じず余裕をみせる。綿密な作戦のおかげか。 「どうもどうも、私こちらの世界でマジシャンをやっております、鈴木楽と申します、異世界の同業者の方がいらしていると聞いてご挨拶に伺いました」 奇術師らしい楽の一礼に、バニーもハットと兎耳を垂らして返礼する。 「どーも☆ これはこれはごてーねーに」 タキシードに仮面の奇術師、楽。 月の光に導かれし白兎、バニー。 春津見さん、一言どうぞ。 「ようじょ用カレーの甘口っぷりも頑張ればいける!」 「鉄分たっぷり鋼家特製フルメタルセイヴァーソーセージ(シール全16枚+シークレット2枚)もよろしくな」 需要もないのに作りすぎて在庫はダンボール二山分ほどあるとかないとか。 「美味しいの?」 「鉄の味がするよー」 「まずそー☆」 ちっちっちっ、と剛毅は指を振る。 「いいか、大事なのは味じゃねえ……オマケだ!」 「……あー」 納得して頷くバニーと春津見に、きょとんと戸惑うのはフェリエのアルシェイラだ。 「食料品なのにオマケの方が大事、なの?」 夏栖斗に尋ねると、神妙な顔つきで返答された。 「何が大事かを決めるのは自分自身ってことさ」 「それも、アーシェの知らない世界……」 ――知らなくてもいい世界です。 そうした脱線したやりとりは一見無駄に思えるがしかし、そうではない。 「――さて」 なぜ、鈴木 楽は仮面をつけるのか? その役割はおそらく、素顔を隠すだけではない。視線を隠せる、という明確な利点があるのだ。現に今、楽は仮面の奥底で『透視』を発揮していた。茶番や戯言もまた格好の時間稼ぎになる。 奇術は、種も仕掛けもあってこそだ。 「でさ☆ ルールなんだけどー」 「要するにあなたを楽しませて満足させることが出来ればいいのですよね?」 「そゆこと」 「でしたら私の得意分野です、本日のショーはきっとお気に召すことでしょう」 一瞬、じっとバニーは楽を注視してみえた。警戒か。 タンッと地を蹴り、すかさず夏栖斗は舞台に降り立った。 それもバニーの真横に。視線誘導。楽をさりげなく死角へ。 「ルールは7回までは失敗しても許してくれるってことでいいんだよね?」 笑顔を目眩ましに、バニーの背中に大胆にも手をまわす。 ――そういえば、おさわりOKだっけ。 夏栖斗は少年らしい好奇心に従って、白いぽわぽわのシッポが生えた網タイツ越しのヒップに手を伸ばそうとする。――が、あと少しの勇気が足りず、掴むのは空ばかり。 「罰ゲームは可愛いといいなあ」 「ふわぁ……!」 ごまかしのささやきは甘美に、したたかに。 イケメンヴォイスにバニーはロップイヤーの垂れ耳をピョコンと立てて、興奮気味だ。 「可愛い、可愛い……」 キュンと胸のときめきが聴こえるほど可憐に恥じらい、バニーは見つめ返してくる。 「僕らが代わりに君の遊びに付き合うから、最初に捕まえた人は返してくれるかな?」 「うん、うん……♪」 熱視線。 じーーーーっと、夏栖斗の顔に焦げ穴のできそうなほど紅玉の瞳はまっすぐだ。 (……あ、れ) だれでも知ってる豆知識:ウサギは万年発情期です。 「ボク、キミにだったら遊ばれても、いいよ?」 (……ちょ!?) がしっ。夏栖斗はビビって思わずさっと腕を引っ込めようとするが、時すでに遅し。 手が、バニーの桃尻をむぎゅっと無理やりに。 ほどよく豊かな贅肉に絶妙な弾力を生む大殿筋の織り成す魅惑のハーモニー。むにっと指が沈み、それでいて押し返してくる。ある種、溶けかけたアイスクリームの美味しさに通じている。 瞬間沸騰。ボンと一瞬にして赤面する夏栖斗。 「あ、の、手が……」 「遊んでくれるんだよね? し・り・と・り」 思考回路はショート完全。 「あーあ」 ぷしゅーっと煙をあげた夏栖斗を、春津見はむんずと掴んで水いっぱいの巨大寸胴へポイ捨て。一気に煮え立った御厨鍋でレトルトカレーを温めつつ、春津見はバニーに告げる。 「ストップ逆セクハラ」 腰に手を当て、ビシッと決めポーズ。サリードレス越しに尻尾をツンと突き出して。 「えー☆」 不満気な口許と裏腹に、紅玉の瞳がなぜか春津見を映していた。 春津見=カレーというイメージに隠れがちなれど、彼女の体つきは存外は豊かだ。こと、スレイプニルのアウトサイダーだけあってふくらはぎから太腿、臀部はしなやかさと逞しい膂力を備えている。そうした馬脚の機能美は自然界の研磨した玉石に等しい。 「じーっ」 「んー?」 見惚れる白兎を不思議がる蒼馬。 「キミ、良いカラダしてるね☆」 「え」 もぎゅっ。 大胆不敵にヒップを鷲掴み。まさか女同士でそう来るとは。予想外のことに一瞬ぽかーんとフリーズした春津見の桃源郷を、もにゅっと背後から魔手が蹂躙する。 「嗚呼、この手触り! ボクさえ魅了する美尻だなんてずるーい☆」 「あ、んっ」 頬の紅潮しきった三月兎の暴走に、さしもの春津見も頭が真っ白、翻弄される。 得も言われぬ背徳と禁忌の艶宴。 「えっへへっへへー☆」 「やーん」 眼前の酒池肉林に、夏栖斗の浸かっている寸胴のぬるま湯は再び湯けむりをあげる。 「これも、アーシェの知らない世界……」 ――知らなくてもいい世界です。 「さ」 「さ?」 「触るな! えっちっちっ!」 ばちこーん! 羞恥心と膂力を爆発させ、春津見は後ろ脚蹴りを炸裂させた。 会心の一撃はものの見事におさわりに夢中だったバニーの顎に、重い一撃を与える。刹那、宙を舞ったバニーがざっぶんと湯気立つ夏栖斗鍋に突っ込んだ。 「うおわっ!」 「おおっと、これは私のお尻を見た罰なのだ、のーかんのーかん」 だれでも知ってる豆知識:ウマの真後ろに立ってはいけません。絶対に。 「ふにゃあ~」 ぷかーっとレトルトカレーと共に浮かぶ水死体。 当たりどころが悪かったのか、バニーは完全に失神している。 K.O. 「第三部、完」 「あれ!? 僕らの考えてきたしりとりの綿密な作戦は!?」 「ま、まだDホールの確保と被害者の救出が残って――」 声の震えるアーシェに、楽は諦観を込めて首を横に振った。 「舞台の床下、奈落にDホールを見つけました。救助対象者も無事のようです」 「バニーをDホールに叩き込んで、俺のセイヴァーダイナミックで閉じれば終了だな」 ――どうしよう。 言い知れぬ“やってしまった”感に一同、ただただ沈黙するのだった。 ●救世主 「もっちー」 救世主、現る。 主人の窮地を救うべく、わらわらと白玉うさぎ軍団が湧いてきたのだ。 不意の鳥もち弾幕に一同が気を取られた隙に、寸胴鍋に数匹で一斉にタックルをかまして横倒しに中身をぶちまける。「もっちー」とボイル済みの夏栖斗のドタマを次々に踏んづけ、白玉うさぎはバニー救出に殺到する。 「しまったー!」 すかさず、春津見は動く。 目標確保。 春津見はフーっと安堵の一息をつく。 「セーフ、危うくレトルトカレー踏んづけられるとこだったよ」 作戦:カレーだいじに。 「もっちー」 「あ! 忘れてた」 うっかり取り逃がしてしまった白玉うさぎ軍団は防御陣を組み、バニーを守る。そうこうしている間にバニーは意識を取り戻してしまった。 リベリスタ一同は戦闘態勢に入りつつも内心、安堵する。 『これで作戦が無駄にならずに済む』と。 ●罰ゲーム 役者が舞台に揃い、ついに遊戯ははじまった。 「でも、何でしりとりなんだろう……」 アーシェは考える。 バニーには強い害意がない。穏便に帰ってくれるのだったら遊戯に付き合うのもいい。 楽しそうにはしゃぐバニーは同じ異界の者として、少し、理解できなくもない。もしかしたら、彼女なりに寂しかったのかもしれない。 そういう感傷に浸りつつも、だからこそ一生懸命この遊戯の相手になりたいとアーシェは戦意を新たにする。 リボンの紐を外して、髪はサイドテールに結び直す。 「大丈夫」 最近この世界で見た映画のワンシーンを参考に、リボンには作戦メモが書きつけてある。 少々ドジな自分でも失敗しないようにと心懸けている証拠だ。 一番手はアーシェ。先制する白玉うさぎのうさキックを杖で凌ぎ、鳥もち弾をかわす。 「“エ”ル・フリー“ズ”!」 氷精は舞踏する。 輝く冷気の帯がくるりと、7体の白玉うさぎを囲う。あたかもリボンを結ぶように。 氷結。 六花の舞い散る劇場の背景に、凍りついた4匹の白玉うさぎが氷山として加わる。 迅速に、春津見がつづく。 「“頭”突“き”(ヘビースマッシュ)!」 と叫んで全躯の膂力を開放、大きなカレー皿を頭に乗っけて覇気と共に叩きつける。 粉砕! 一撃の元に凍結していた白玉うさぎは砕け散った。 ピピー、笛が鳴る。 『春津見、OUT』 「……あ、やっぱり?」 ニタァ…と悪どく微笑い、バニーは罰ゲームを宣告する。 「さぁて、罰ゲームの時間だよ☆」 「ねちょる? ねちょる?」 ステッキを掲げ、閃光と共にバニーは罰を執行する。 「刑罰執行! “カレーよ、ハヤシライスになあれ!”」 一見、変化ゼロ。 しーんと静まり返る劇場。 その隙に、そろりと楽はバニーの背後へ廻る。手中には切手。おさわりOKという宣言通り、このままいけばバニーのおしりを堪能することも――。 「ハッハッハッ、あくまで紳士ですよ私は」 第一、夏栖斗の顛末を鑑みれば触ったが最後どうなるかわかったものではない。 フェイトの振りをしてごまかし白玉仔うさぎを平手打ち同然、全力でひっぱたく。 「“切”“手”」 さらに手品の応用(?)で住所指名郵便番号を書きつけ、ポストにボッシュート。 アーク本部に郵送K.O.するのだった。 「“テ”リトリ―オブダークロー“ド”! 我は疾風怒濤フルメタルセイヴァー! 我が剣の錆となれええ!」 質実剛剣グランセイバーを一刀両断に振り下ろす。 氷結した白玉うさぎはものの見事に真っ二つ、魔刃の露と消えた。 「“土”砕掌!」 凍りついた白玉ウサギに抵抗の術はなく、夏栖斗の掌底は跡形もなく敵を消し去った。 砕け散る氷片の光の乱反射の中、夜爵の瞳が金色にギラついていた。 「けど、このパターンはもうダメか」 「ごっめーん」 春津見はてへっと愛嬌たっぷりに悪びれ、こつんと頭を大きなハヤシ皿で叩いた。 「……ん?」 AF展開、装備確認。 防具:制圧型防弾ハヤシルー。アクセ:バニー印のさくらハヤシ。アクセ:ハヤシ人。 登録プロフィール:ハヤシが好き。 「――ふあ?」 ポケットに入れたホカホカのレトルトパウチですらハヤシライスに早変わり。 愕然と膝を落とし、春津見は崩れ落ちる。 「お、落ち着いて小梢さん! きっと倒せば解けるよ!」 「あはっ☆ 罰ゲームはどれも一週間しないと絶対に解けないよ☆」 『絶』 『望』 その二文字を心に刻まれた春津見の魂はぽわっと口から天に召されるのであった。 ●罰ゲーム2 「なんと恐ろしい罰ゲームでしょうか!」 戦意喪失した春津見は魂の抜け殻と化して、舞台の片隅で体育座りしている。 楽はああはなるまい(フラグ)と決意し、次なる先陣を切る。 「天使の“息”!」 癒しの福音が鳴り響き、白玉ウサギ達に多少なりとも傷つけられていた仲間“全員”の傷がみるみるうちに癒えていく。無論、春津見の心の傷は対象外。 「“極”葬細“雪”!」 極寒の鬼気を以って、煌く美技を織り成す。夏栖斗の類まれな瞬発力は巧みに獲物を捉えては一撃の元に氷の芸術を作り上げ、そして破壊の美を体現した。 『鈴木、御厨、OUT』 ピピーとバニーの笛が鳴る。 「は? いや何で!」 「タキシードの仮面クン、答えをどうぞ☆」 急に振られた楽は仮面で表情こそわからないものの、口許が笑っていなかった。 「ハッハッハッ! いやー私にもさっぱりなんのことだか」 「天使の息→極葬細雪やっぱり間違ってな……あ!」 天使の息:単体回復。 天使の歌:全体回復。 活性スキル、間違えてらっしゃる。 「ハハハッ、ホーリーメイガス三大あるあるネタですねーいやー面白い!」 「僕は巻き添えかよ!」 「刑罰執行! “目元にモザイク処理かかっちゃえ!”」 ポンッ。 タキシードモザイク仮面とモザイク褐色美少年の出来上がり。 「あはっ☆ なんだかとってもインモラル☆」 「ハッハハハッ、なんだ視界は見えづらいですけど私はいつもと一緒ですね」 「より変態っぽいんだけど!」 「キミはもう怪しいビデオに出演しちゃってる淫乱娼年って感じだよねー☆」 「泣くよ!?」 罰ゲームに翻弄されるモザイク男子ズをよそに、遊戯はつづく。 「……“キ”ュアリバー“ス”」 「Spring Pop(“す”ぷりんぐぽっ“ぷ”)!」 「“不”滅覚醒! フハハハハハッ!」 三番手、春津見は気力ズンドコで当たるはずもなく不発同然。 四番手、アーシェは白玉ウサギをリボンでデコる。集中力アップできるのだとか。 五番手、剛毅は鋼城鉄壁グランブリガンダインを闇色に輝かせ、一匹ずつ斬り捨てる。 「俺の助けが必要か? 尻を貸すぜ!」 戦況は優位。 アーシェが多数を凍らせたおかげで早期に確実に数を削れた為、元々攻撃面に乏しい白玉ウサギにもはや戦闘結果のみならば負ける道理はない。 問題は、罰ゲームのミスはあと4回まで、パターンは残り二種という点だ。 「きゃっ!」 聖神の息吹の直後、鳥もち弾が直撃した為にアーシェは白いもちもちに捕らわれる。 懸命に抵抗するが、すぐには取れず、かえってねばつき、汚れていく。 「うう、べとべとするのー」 一方、つづけざま夏栖斗はモザイクにも負けず極葬細雪によって白玉毒ウサギを葬る。 そしてハッと仲間の危機に気づき――。 「ねっとりもちで拘束とかエロい!卑怯だ!頑張れ!」 「……」 「いや、違う! 誤解だ! 心の声が漏れた!」 果たして説得力などあるのだろうか? 目元にモザイクの掛かった状態で。 「違うんだってばー!」 ●決着 「これで終わりだな! “リ”スペク“ト”(無明)!」 無限の悪意を滾らせ、質実剛剣グランセイバーは絶望の闇によって舞台上を薙ぎ払う。 が、罰ゲームによって背景に薔薇が咲き乱れる彼の鎧姿は少女漫画風になっている。 罰ゲーム覚悟で最後の一撃を放った結果、メタルな白玉うさぎを含めて残り3匹をものの見事に斬り伏せ、剛毅は勝利を確定させた。 「フッ、俺は罰ゲームなど恐れんぞ」 『剛毅、OUT!』 笛も気にせず、床下をこじあけてDホールを暴いた剛毅はバニーに剣を突きつける。 「覚悟はいいかバニーちゃん? 最後に俺の必殺演出で盛大に強制送還して――」 『刑罰執行! “穴掘れワンワン”!』 舞台の書割が回転、被害者の閉じ込められたイースターエッグが一度に現れる。 一斉に卵が割れて、レオポンこと了子をはじめ無事に被害者たちは開放される。 そして最後の卵が割れる瞬間、舞台中の照明が一点に集った。 これから何がおきるのか。 誰もが息を呑む中、中から現れ出でたのは――。 『やらないか』 ベンチに座った青いツナギのビスハ:犬だ。人面犬ともいう。 ゾゾ、と剛毅の背筋に寒気が走った瞬間、照明暗転――同じベンチの隣に座っていた。 「お前、俺達を助けてくれたんだろう? 礼をさせてくれよ」 「いや、俺には妻子が!」 「遠慮するなよ。聴こえたぜ、さっき『尻を貸すぜ!』と叫んでたろ?」 「妻が! 家族が!」 暗転。 背景の書割が回転、ふたりは舞台裏へ。 ――悲鳴? さぁ記録には残ってませんね。 終わってみれば死屍累々だ。 餅カレーを楽しみにしていた少女は一週間ハヤシという絶望の闇に沈み、久々に再会できた了子の励ましとお礼の言葉も上の空である。 夏栖斗と楽は罰ゲームのモザイクが解けるまでの一週間どう過ごすかを真剣に相談する。 剛毅は――そっとしておこう。 「あー☆ 楽しかったっ☆」 犠牲者達の絶望の闇でも喰らったかのようにツヤツヤした顔つきのバニーの送還を、唯一の生還者、アルシェイラが見送る。 「あーあ、自由に行き来できるキミが羨ましいよ」 「そう、かな」 「そうだよ」 くすりとアーシェは少し悪戯げに微笑み返した。 「そうかも」 バニーは荷物をまとめ、手を振りながら異界の門の向こう側へ去ってゆく。 「ボク、また遊びに来たいな☆ サヨナラ☆」 アーシェはあえて返答せず、手を振って見送ることにした。答えは彼女の胸にある。 『二度と来るな!!』 ――と叫んだのは、さて、誰であったことだろうか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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