●猛々しい 夜。暗い路地。 塾帰りの女子高生二人が、外灯の明かりの下にいた。 「やっぱさぁ~、頭使った後は甘いのが一番だよね!」 「だよね~」 腰かけているのは古びたベンチ。足元には可愛らしいキーホルダーをたくさん付けた鞄を置いて、幸せそうな表情で甘いクレープを頬張る。 太ったらどうしようとか、ムッチリぐらいが丁度いいってとか、平和で平凡で幸福な時間を満喫している二人。 ……そんな彼女らに、ズシリ、ズシリと近付いて行く巨影が一つ。 「違うだろ……」 「……え?」 突如、暗闇からかけられた声に女子高生達は目を丸くした。 「違うだろオイィ……」 ――果たして、暗闇から彼女らの前に姿を現したのは。 「頭使った後はプロテインだろォオオオオオ!!!」 マッチョだ――ブーメランパンツ一丁でスキンヘッドで――身長は3mぐらいあるだろうか――手に持った瓶から錠剤型プロテインをザラザラ出してボリボリ貪っているテカテカマッスルのベリーマッチョだ―― 「いやぁああああああああああああああ!!!」 夜の路地に、少女達の悲鳴が響き渡った……。 ●むさ苦しい 「………。」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、完全な無表情でモニターからリベリスタ達へと視線を移した。 「……そういう訳で」 ヤレヤレとでも言いたげな口調で一言告げると、彼女は早速説明を始めた。 「今回の依頼は、このノーフェイスの討伐。フェーズは2で、配下エリューションは無し。 見ての通り……肉弾戦を得意とするわ。体力がある程度減ったら、所持しているプロテインで回復して、かつ身体力をアップさせるみたい。 見た目はアレだけど……、その一撃はとても強力。攻撃のショックで動きにくくなったり、吹っ飛ばされたりするから、油断は禁物よ」 イヴの忠告に、勿論とリベリスタ達は頷く。彼女はそれを見届けると、更に説明を続けた。 「このノーフェイスは、油断さえしなければそう手こずる相手じゃないと思うけど……、問題は、この女の子達」 言いながら、イヴの白い指がモニターの女子高生を示す。 「ノーフェイスが来る前に、まずこの子達を何とかしないと。 二人はただ楽しくクレープを食べてるだけだから、苦労はしないと思う」 説明が終われば、イヴはリベリスタ達に向き直る。その顔を一つ一つ見遣ってから、静かな声で告げた。 「それじゃ、宜しく頼むわね。――気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月15日(月)23:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●アイツのウワサ 「女の子にとってお菓子は特別……。JKさん達の楽しいおやつタイムを邪魔するなんて許せないよ……」 ちょっとお灸を据えてやらないとね、と続ける『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)に頷き同意するのは『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)。憤るままに愚痴を零す。 「クレープタイムの邪魔?! ふざけんな、甘いもの食べてるときくらい空気読んでよ! なんだって変態はいなくならないのかなー。変態はいくら殴っても罪に問われないとか、そういう法律ないのかな」 至福のスイーツタイムを邪魔するとは乙女の敵。彼女らに並んで水色の瞳に冷徹な光を宿した『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)も彼方を言い放った。 「少女を脅かす不埒者は、完膚なきまでに撃ち抜いてあげる」 「ただ排除する。それだけ」 山川 夏海(BNE002852)も静かに言葉を放つ。 女子高生らを説得する為に幻視などを駆使して女学生に扮した乙女達の心は今、一つとなっていた。 その『保護者役』の一人である『闇狩人』四門 零二(BNE001044)は懐中電灯を片手に路地の彼方を見据える。夜の路地。そこには外灯に照らされた女子高生達――クレープを美味しそうに食べて、幸せそうだ――それを視認すると、零二は作戦開始の一言を告げた。 「――保護対象を確認、作戦開始」 『マッチョな漢』がやってくる前に女子高生を帰らせねばならない。しかしあくまでも自然に、それでいて迅速に、慎重に。 「ねぇ君達?この辺、変質者が出てくるから怖いんだってー。早くお家に帰った方が良いと思うよー」 「凪沙さんの言う通り……ボクら塾帰りなんだけど、変質者が出るから送ってもらってるの……」 先ずは女子高生らと年齢の近い凪沙、アンジェリカが『送って貰っている塾帰り』を装って彼女らに話しかける。「え?」と声を重ねた女子高生らが顔を上げれば、続けて『鋼鉄の信念』シャルローネ・アクリアノーツ・メイフィールド(BNE002710)が『自治体の見回り』を装って彼女らへ告げた。 「近頃、この辺りで変質者の目撃が多発しているので見回りを行っている。……何か起こってからでは遅い。出来れば人通りの多い道を利用してくれ」 「え……変質者?」 「やだぁ何それ、怖……」 どうやら女子高生らはすっかりリベリスタ達の説得を信じたようだ。その間にも『保護者役』である『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)は零二と共に結界を張り、ミュゼーヌと凪沙は熱感知で『マッチョな漢』をサーチし、他の者も周囲への警戒を張り巡らせている。 「ついでだから、わたし達と一緒に行かない?」 押しの一言に夏海が提案すると、女子高生らは顔を見合わせるや否や立ち上がった。 「是非!」 「お願いしますっ」 「うむ、任せるが良い。……然うと決まれば、往こうか。親御さんも待っているであろう」 女子高生を帰らせるという作戦は上手くいったようだ。源一郎に連れられ、女子高生とアンジェリカ、凪沙、夏海、ミュゼーヌが大通りへと歩き出す。勿論、凪沙とミュゼーヌの熱感知によって漢が来ないと思われる方向に向かってだ。 シャルローネは『引き続き見回る』という名目でその場に留まり、零二もやや離れた位置にて留まり源一郎らを見送った。 「そのクレープ美味しそう……どこで売ってた?」 「ん?えぇっとねぇ……」 なんて凪沙の声をはじめとする少女らしい会話も遠ざかってゆき。 予定では、『自分達は違う方向だから』と理由を付けて彼女らは帰って来る筈だ。 さて。 「プロテインプロテイン、筋肉筋肉言っていれば良いというものではないな……常時プロテインなんてありえないだろう」 チョコレートを取り出して食べ始めたシャルローネが無造作に言い放った。もっきゅもっきゅと甘いそれを嚥下した後も言葉を続ける。 「やはり疲労時に食べる甘いものは素晴らしいな、うむ」 なんて、欠片を口に放り込んだその時。零二がシャルローネに視線を遣った。彼女の鋭い瞳に闘気が宿る。 「オイ違うだろオイィ……」 かくして。重い足音を響かせて。 「そこはプロテインだろーがオイィイイイイ!」 シャルローネの挑発に乗って、巨大なノーフェイス――『マッチョな漢』が姿を現した! ●マッスルがハッスル (初めての戦いの相手がこんな変態だなんて!) 気配遮断によって路地の影に潜んでいた『ヘヴンズレイ』霧島・斑鳩(BNE001577)は嘆いていた。 しかし『汗臭そうな変態なんか大嫌い』なんて毛嫌いしたり戦う敵を選り好みしていたら本気で戦えないか、と思えば早速行動を開始する。 「それじゃあひとつ、力を合わせて頑張りますかぁ!」 どうか汗が飛び散りませんように……なんて思いながら、持参した懐中電灯を『マッチョな漢』目掛けて素早く転がした。それは漢を照らし出すと共に、漢の意識をそちらへと向ける。 「私の鍛え上げた肉体で、貴様の行動原理を完全粉砕して見せよう!」 その隙を突いたシャルローネの業炎撃が真っ正面から漢に叩き付けられた。全力で打ち砕くのみ、と彼女は更に燃え盛る拳を突き付けようとするが。 「ぬぅむ! 見た目倒しかどうかしっかり教えてやろう!!」 漢もまた筋肉を唸らせ、その巨大な拳を振り下ろした。鈍い音と共に二つの拳が合わさり、強く拮抗する! 「くッ……!」 ギリギリギリ……と、少しずつだがシャルローネが圧されていく。しかしその時、彼女の背後から飛んできた鋭い射撃が漢を襲い、結果として漢を後退させた。 「どうだ!」 シューティングスターによって能力を底上げさせた斑鳩の1$シュートである。硝煙の立ち上るショットガンの引き金をもう一度引けば、漢は跳び下がって射撃を回避した。だがこのまま隙を与えるリベリスタ達ではない。 「貴様の肉体、正に『ナイスバルク』……だが、貴様には聞こえぬのか?貴様の肉体とプロテインの嘆きが……!」 バサッ…… と、夜風に零二の上着が舞った。 「鍛えた筋肉の正しき使い方! 貴様に教えてやる!!」 かくして現れたのは、零二のパーフェクトなグレートボディ! 直後にグレートソードを構えた零二が強く地を蹴り間合いを詰めて、漢へとオーララッシュを繰り出した。強く地に足を付けた男も真っ正面からそれを向かい討つも、零二の攻撃の合間を埋める様に放たれる斑鳩の射撃とシャルローネの豪打に劣勢気味――に見えたが。 「小癪なァアアーーッ!」 漢がその丸太の様な剛腕を思い切り振るった。正に力任せなその攻撃に、シャルローネと零二が吹っ飛ばされる。そして今がチャンスと言わんばかりに漢がブーメランパンツからプロテインの瓶を取り出した、その時! 「薬でドーピングなんて感心しないわね――叩き壊してあげる!」 怜悧な声が凛と響く。漢がその声の主へ目を向けた瞬間、的確なピアッシングシュートが漢の掌ごとプロテイン瓶を打ち抜いた。 「まったく、ただでさえ暑いのに……余計に暑苦しい相手ね」 リボルバーマスケットを構えた彼女、ミュゼーヌが薄く笑う。その周りには女子高生らを送り終えた面々が布陣していた。 「ぐぬっ、プロテインは薬ではないぞ! 栄養剤だ! マジだぞ後で調べてみろ!!」 「プロテインに頼って筋肉をつけようだなんて根性無しよ。厳しいトレーニングも我慢できないんでしょ?」 「何をー! ムキー! 筋トレ、栄養補給(プロテイン)、休眠の三位一体こそ筋肉の――」 「筋肉の事しか考えてない筋肉馬鹿はちょっとね……筋肉だけつけても肝心のおつむが弱いんじゃ無意味だね」 「ムッキィーーーン!!」 同じく帰還組である夏海の絶対零度な毒舌にマッチョはすっかり怒り心頭なようだ。因みに『筋肉馬鹿』にシャルローネと零二がちょっぴり「ウッ」と来たのはここだけの話である。 マッチョは筋肉をムキムキを轟かせて夏海達を剛腕で薙ぎ払わんと身構えたが、そこに立ち塞がる雄偉な男が一人。 「己が信念を以て動するは良し、然し汝の行いは断罪に値する。 故に、我が拳を以て此処に貴様の自慢の肉体を打ち破ろう」 源一郎が唯一頼るべき自らの豪拳を堅く握り締め、強く跳躍した! 「――古賀源一郎、此度も我道を往く!!」 「! ――ごぶフっ!」 問答無用強烈な一撃が漢を叩き伏せる。漢のバランスが大きく崩れた所で、今度は凪沙が拳に炎を纏って飛び出した。 その赤い拳は、迷う事無く――漢のゴールデン☆ボールへ導かれて。 「ア゛ッーー!」 どういう構造か、漢がゴバンと吐血した。それを見るや否や、ミュゼーヌと夏海と斑鳩の目がドSティックにギラリと輝く。 「男性はそこが弱点なのよね。なら、容赦しないわ」 「縮み上がるような思いをさせてあげる」 「丸裸に出来るかな?」 刹那、二つの1$シュートとバウンティショットとが漢の股間に炸裂した!漢の吐血も炸裂した! 「うぬ……、同情はする!」 微妙な表情の零二が咄嗟に呟いた。 (どうせ大きいのは体だけなんだろうね……) 最中、シャドウサーヴァントを発動したアンジェリカが密かに漢の死角にて息を潜めていた。そのまま透視を発動して蹲る漢のパンツ内のプロテインを確認しようとして…… 「…… ?」 パンツの向こうにまたパンツ、パンツ、パンツパンツパンツ―― 「!!?」 最早ナンジャコリャ状態である。しかしだからと言って諦める事は出来ない、気配を遮断しつつアンジェリカは漢の背後に回り込み、一気に踏み込むとパンツを掴んで思い切り引き下ろした! 「あぁーーーーっとお見せできませぬぞぉおおおお!!」 真っ先に動いたのは零二である。皆の壁となり、禁断のZONEが誰の目にもつかぬよう立ち回った。 が。 ヒラリと赤い布がはためく。 確かに漢はもうパンツを身に纏ってはいなかった。 そこには、真っ赤な褌がはためいていたのだッ……! 「つまり……全年齢対象なのだよ!!」 いつの間にか立ち上がっていた漢が微笑んだ。無駄にいい笑顔で。 次の瞬間、全身に力を込めた漢のダブルラリアットがアンジェリカを、その意志を持つ影を、凪沙を強烈にぶっ飛ばした。少女らの体が容赦なく壁に叩き付けられる。 「そしてここでプロティイイイイイイン!!」 ラリアットの余波で回転しながら漢が褌からプロテインの瓶を取り出した。しまった、とリベリスタ達が思った瞬間にはもう、漢はザラザラザラリと一瓶分のプロテインを一気飲みしてしまっていた。 マズイと判断したミュゼーヌがすぐさまピアッシングシュートを放つ。だがそれはギリギリで回避されてしまい、更に彼女は漢の標的となってしまった。 だがそこへ全身に破壊的な闘気を漲らせた零二が立ちはだかる。 「……通さぬぞ!」 瞬間、零二のメガクラッシュが漢を一閃して押し戻す。そこへ追い打ちをかけるのは、着ていた物を脱ぎ払い美しく逞しくダイナマイツな水着姿を晒したシャルローネ。 「ノーフェイス化してその程度とは、鍛え方が足りん!」 攻撃、ポージング(ダブルバイセップスF)、攻撃、ポージング(ラットスプレッド)、攻撃、ポージング(サイドチェスト)、攻撃、ポージング(ダブルバイセップスB)、攻撃、ポージング(ラットスプレッド)、攻撃、ポージング(サイドトライセップス)……怒涛の拳、怒涛の肉体美! 「鍛え上げた本物の筋肉を見せてやる!!」 最後に決まったのは、魔落の鉄槌と――ポージング(アブドミナル&サイ)! 「ぐぬぅ……!」 満身創痍で後退する漢へ、更に源一郎と夏海の無頼の拳が強烈に決まる。それでも漢は倒れず、回し蹴りで源一郎と夏海だけでなく零二やシャルローネも蹴り飛ばす。 しかし。 リベリスタ達が沈黙する事は無かった。 「汝にも譲れぬ物が有る様に、我にも譲れぬ物が有る……!」 フェイトによって立ち上がったリベリスタ達は、血と傷に塗れながらも瞳により強い光を宿らせて漢を睨みつける。 「……!!」 その気迫に漢は無意識に後ずさる。 「――そこッ!!」 瞬間の出来事であった。ミュゼーヌのリボルバーマスケットから放たれたピアッシングシュートが正確に漢を射抜いたのである。 「しまった……!」 漢の体からプロテインの恩恵が抜けてゆく。そこへアンジェリカと凪沙が躍りかかる! 「いくよーアンジェリカちゃん!」 「任せて……」 アンジェリカのブラックジャックが、凪沙の業炎撃が、息ピッタリに漢へ叩きこまれる。それは致命的なダメージとなって、漢を追い詰めた。 その頭部を真っ直ぐ狙うのは、斑鳩のショットガン。 「もらッ たぁあ!」 ズドン。 真っ直ぐ闇を貫き飛んで行く1$シュートは――そのまま漢の頭部も貫いた。 ズドン。 地面に重たいモノが崩れ落ちる音が響く。 そして、静寂が訪れた。 ●ガンバッタアトはモチロン…… 「己の道を往く。我もそうしている故其を止めはせぬ。 然し他者に強要するは愚の行い。誰しも人には人の道が在る故に。 為ればこそ、我は立ちふさがり、打ち砕くのみ」 明るい町並みには背を向けて、暗い路地を見据えた源一郎が呟く。それは彼自身の生き様のかたちであった。 「なんでこんなモノになっちゃったか、少しは興味があるけど……ま、気にしても仕方が無いか」 同じく路地を振り返り見遣っていた夏海はそう呟くと、視線を正面へと戻した。そこではシャルローネが決めのポージングにモストマスキュラーを美しく決めていた。 「うむ、戦闘後はプロテインに限るな………冗談だ、冗談」 一瞬で集まった仲間達の視線に彼女は苦笑を漏らす。 「ねぇアンジェリカちゃん、さっき女子高生達が言ってたクレープ屋さんだけど」 「うん、行こう……」 「……ふむ、クレープ……同行しようか」 服を着つつ、二人の言葉に零二が頷く。疲労には糖分摂取が必要である。 「ところで、街灯の設置について市に投書しようと思うのだが……三高平市の為政者は、市民の声に耳を傾けるタイプかね?」 なんて言うも、少女達の思いはすっかりクレープ一色のようだ。「ボクも」と斑鳩も加わる。 「私は遠慮しておくわ……行ってらっしゃい」 彼女らを微笑ましく眺めていたミュゼーヌは何故か笑いを堪える様にしながら、やけにわざとらしく微笑みかけた。 そうして、リベリスタ達は思い思いの方向へと散って行ったのである。 ●INクレープ屋さん 「営業時間は……」 「終了、」 「しました……」 「だってぇ!?」 そんな馬鹿な、立ち尽くす四人とクレープ屋の間を、空しい夜風が抜けて行った……。 (……ってなってるんでしょうね) その頃、ミュゼーヌは「言わんこっちゃないわ」と密かに微笑んでいたのである。 ちゃんちゃん。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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