●でんでんでんぐりがえって―― 「うるとらそうぅ!」(ハァイ!) |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月30日(水)22:46 |
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●『死にたい』っていうと『それは生きたいって意味だよ!』とか言い出す人が出てくるからあえて『人類を滅ぼしたい』と言うようにしている ハンバーガーショップのソファ席に、院南佳陽がちょこんと座っていた。 「私、アークでは新参者でして……どうしたものでしょうか」 「ラクにしてたらいいんじゃない? 皆最初は初心者なんだしさ」 ナビ子はそう言った。 佳陽の横で一緒になってナゲット喰いながらである。 「あの、店員じゃ……」 「じゃあほら、今日を思い出にしとこうようよ。最初の思い出」 ナビ子は佳陽の手を引いて、店内を歩き始めた。 「チーズむしぱんになりたい」 たれぱん化したエリエリが膝の上でころころしていた。 妙に人で賑わうハンバーガーショップでのことである。っていうかこういうときにしか客が来ない不思議な店である。 「あのね、前にむしぱん依頼が出たでしょう? わたしが行かずに誰が行くって感じだったんですけど、最終的に何も出来なかったんですよ。くやしい、やるせない、ちーずむしぱんになりたい……」 「それは大変でしたね。さ、カルピスオレンジですよ」 エリエリを膝に乗せたサポ子が水商売さながらの手際でストロー付きのカルピスを差し出した。 だれたままちゅーちゅーするエリエリ。 その反対側では風斗がだらけていた。 「最近、人生の岐路に立たされすぎて疲れた。まさか自分が追っていた仇が俺自身だったとは。お父さんお母さん、ごめんなさい……」 「それは大変でしたね。さ、カシスオレンジですよ」 「エリエリと同じテンションで対応するんじゃない」 「だが、後悔だけはしないようにしないとな。SYNCが今の俺を見たら、あざ笑うのかな」 テーブルの前を横切るナビ子。 「……などとフった女をたびたび話題に出す兄風斗であった」 「おい」 「エリエリが実は風斗の母であったことを知るのはまだ先のことである」 「おい」 無視して通り過ぎていくナビ子と佳陽。 「あの、よかったんですか?」 「大丈夫大丈夫ー」 その途中でラヴィアンのテーブルにさしかかった。 「来いよ過去! 武器なんか捨ててかかってこい!」 「野郎ぶっ殺してやぁぁぁぁあある!(←ここが過去)」 「デタラメいってんじゃねー!」 ハンバーガーをもりもり食いながらラビたんは立ち上がった。 暫くもぐもぐしてからストンと座りなおす。 「そーいえば千葉炎上事件とか楽しかったんだけど、本物のホワイトマンってどうなったんだっけ? やっぱ一度は本物殴っとかないとダメだよな?」 「でも俺の本物ってパソコン筐体かなにかだぜ? たぶん殴った手のほうが痛いんじゃねえ?」 「そっかー……」 「ああ……」 「……えっ?」 ハッとして顔をあげるラヴィちゃん。 ナビ子はその後のもんちゃくを放置アンドスルーした。 奥のテーブルにトレーを置くと、ちゃっかりそこに座った。 「お待たせー、冷やし中華でございまーす」 「ここハンバーガーショップだよね?」 向かいの席で割り箸をわる月杜とら。 「印象に残った依頼っていうと、高層ビルの最上階で誕生日間近のおじいちゃんがフォース化してて、お祝いの言葉をあげたら昇華したって依頼があったなあ。平和でいいと思わない?」 「ねー。世の中の依頼全部そんなだったらいいのにねー」 「そうなったら、エンツォもあんな風にならずに済んだのかな」 「さーねー。でも時間が解決する問題ってのもあるんじゃね? 1年でダメなら10年つって」 「そっかあ。あ、むしぱんあげる。はいあーん」 「あーん。佳陽ちゃんもあーん」 「あ、えっと、あ……」 ナビ子がいつも通り仕事してない頃、カウンター席の向こうでは七栄とイドがお皿を洗っていた。 「松戸博士、イドは新たなパーツを望んでいます」 「松戸博士、イドさんが新しいパーツを欲しがっていますよ」 「そんなお前さんにドクター中松純正ジャンピングブーツ初期型を」 「違います」 「そうじゃありません」 「じゃあ平泳ぎ練習機を」 「違います」 「七栄、おまえいつもこんなパーツくっつけられてるのか……」 オレンジジュースをすすりつつ、福松は世にも複雑な顔をした。 「ま、いいか。今日こそは千葉半立を――」 「それならワシが喰った」 「お約束だと思ってテメェ!」 松戸博士に掴みかかる福松。 「っていうか何度これを買わせるつもりだ! お土産屋の店員に顔覚えられたぞ! 『コレですよね!』って言われたぞ! あと他殺幇助ラーニングさせろ!」 「他殺幇助は戦場の失敗を一人で被るための――」 「それは前に烏のおっさんが聞いた!」 「そんなこと言ってものう、この場でイエスと言うのは義理が通らんじゃろうが」 「……」 「欲しいものがあるなら実力で勝ち取るのが男じゃろ、のう?」 不機嫌そうに手を離す福松。 その横で、朔がクールにコーラを飲み干していた。あえて瓶で。 「話は変わるが、妖刀のことが気になる。大半の封印が解かれているというが、残りは平気はのか?」 「さあのう。少なくとも廃難はそこにあるが」 と言って、松戸博士は七栄のお腹を指さした。 「……」 「……」 「……」 「戦闘支援ユニットHIDAのオリジナルが搭載されていますが、なにか」 「いるか?」 「いや……」 朔はゆるゆると首を振り、ポテトを口にくわえた。 「えーっと……イド、『フルメタルフレーム零号機』。福松、『おそ松くんちの隠し子』。朔、『実は妖刀・乱(みだれ)持ってる』。これでよし! さー買ってきたDVD見ーよおっと」 ナビ子が仕事せずにアニメDVD見てるのをよそに、郷は鎖と向き合ってポテトを食べていた。 割といつものことである。 「思い出すよなあ、俺たちが最初に出会った依頼。これ見てるとさ、やっぱ丸くなったよね。もしかして俺の前だからかな?」 「そうだよ」 「なんて、ははは冗談! ……え?」 「お前、最近はアークでどんな仕事してんの?」 「いや、最近は……まあ」 「手伝えることなんもねーけど、がんばれよ」 「……う、うん」 「応援してっから」 「……うん。あれ? 今日、なんかテンション違くない?」 「アタシも昔を思い出すことがあんのさ。そうやってナイーブになる時もある」 ポテト加えてぽかーんとしている郷ちん……に全く反応することなく、ナビ子たちはアニメDVDを見ていた。 口にポップ詰め込みつつシュタゲを眺めるヴェイル。 「特殊相対性理論の相対速度の式で物体の速度が光速度より極めて小さいと近似するとニュートン力学と同じ式になるとBorn-Oppenheimer近似は原子核の速度が電子より極めて遅い事を前提にしてるとか、そういうことを考えてくと神秘現象も何がしかの変数を近似する事で既存の物理体系に収まってくはずなんじゃない?」 「あと100年すれば神秘技術も電子レンジみたいに使えるかもってか。ロマンだねー。ワクワクするねー。でも今そういう研究してるひといなくない?」 「フィクサードにしろリベリスタにしろね。そもそも、いてもアークで理解できるかどうか」 「既にいるのに気づかないだけだったりしてね。いたらどうする?」 「おいらだったら……何も考えずにやっつけるかなー。だってもうファンタジーだもん」 同じくポップ喰いながらアニメ見るモヨタ。 「むしろ夏の暑さをなくす研究とか出来ないの? 身体が割と金属だからあっちぃよ」 「考えてみたら深刻な問題だなあ。そんな話は忘れてさ、思い出の依頼の話しよう」 「思い出の? んー……」 モヨタはオレンジジュースをごくごく飲んでから。 「ダオロス戦かなー。熱感知で戦うとか初めてだったし。しかも最後のあれなんだったのかな」 「あ、思い出依頼の話か? だったらキース・ソロモンの話をしないわけにはいかねえだろ」 横からひょっこりと出てきた影継がモヨタのポップを右から奪いながら話に加わった。 「そろそろ魔神うごかねえかな。世の中の事件もクロスロード絡みばっかりだし」 「リベリスタ中心の運営をしてるとどーしてもねー、トレンドに引っ張られちゃうよねー」 「ところで、最近ファーストフード店の肉が期限偽造してるって話があったがrumor-rumorは平気なの?」 「……ん? 肉がなんだって?」 市販の冷凍ハンバーガーをレンジでチンしつつ振り向くナビ子。 「わー、あんしんだー」 「関わった依頼の話をしてるのか……」 モヨタのポップを左から奪って席につく義弘。 「まあ、俺も今まで依頼で接してきた関係者がどうしてるのかは気になるが、基本的にはそれっきりになる。それが一番いいことなんだろうけどな」 「日常に帰るっていうのはそういうことだしね」 モヨタのポップを後ろから奪いながら参加する夏栖斗。 「ちょっ! 自分のもってこいよー! もうおいらの無いじゃんか!」 「まーまー。ていうか、今のトレンドってやっぱりクロスロードなの? 当時の僕とか幼稚園児なんだけど。ナイトメアダウンの意味だって、アークに来るまで知らなかったしね」 「俺は……中学生か」 腕組みをして考え込む義弘。夏栖斗はハッとしてすぐ後ろのサポ子に話題をふった。 「ねえ、その時のサポ子ちゃんはどうしてたの?」 「さあ? 知ったことじゃないですね」 「ふうん……え?」 二度見で振り返る夏栖斗。 そんな彼を無視して、ナビ子は佳陽にポップコーンを差し出した。 「じゃあここに居る人らの過去をねつ造してみよっか。何がいい?」 「えっ、私が決めるんですか!?」 「じゃーヴェイル」 「……実家がお花屋さん」 「花……?」 「次、モヨタ」 「実年齢が80歳」 「そうそう最近腰が――ってオイ!」 「影継!」 「にんじゃ!」 「なんでだよ!」 「義弘!」 「前職が鳶職の方!」 「そんな雰囲気、あるか?」 「夏栖斗!」 「お、お母様がR-TYPE!」 「恐っ!」 「じゃあ郷ちん」 「う、運送業とか?」 「それはただの事実だなあ」 そこまでどーでもいー雑談をしてから、ナビ子は見かけのDVDを止めた。 「じゃ、私はそろそろ次行くねー。ばいばーい。また遊ぼうね」 「はい、それじゃあ……」 ぺこりと頭を下げる佳陽やポップ取り合うモヨタたちに手を振って、ナビ子は店を出て行った。 最後まで仕事はしなかった。 ●最近はうまいこと言うと引用元を記さずにコピペで流れていくので知らない人から発言の責任追求されずに済む フェイトを持つ島、無為島。 ゆーてもただの無人島である。 快と天乃はビーチチェアに寝そべり、カクテルを手にぼうっと空を眺めていた。 「まさか、こんなに早くくるとは、思わなかった」 「まあ、来たからってやることはないんだけどね」 二人の上を雲が流れていく。 波の音と鳥の声しかしていない。 「ねえ」 「うん?」 「公園で戦ったとき、見た?」 「……なにを?」 「見た?」 「……………………」 快はストローをくわえてそっぽを向いた。 「また」 「……」 「また一緒に、戦えると、いい」 「生きていれば、できるさ」 寝そべったまま顔を見合わせる。 「で、見た?」 「……」 快は帽子を自分の顔の上にかぶせた。 そんな二人からかーなーり離れた場所にて。 「今年はビキニにしてみたんだ、えへへ」 真独楽が片足を上げてビーチボールを掲げた。 「わぁいまこにゃんぺろぺろまこにゃんぺろぺろ!」 その周囲を杏が高速で旋回飛行していた。衛星軌道だった。 「そろそろスーパードリーム大戦の第二期が気になるよね。後継機乗り換えイベントとか、合体イベントがきそうでワクワクしちゃう。沢山スキルも覚えたし、きっと楽しいよね」 「まこにゃんぺろぺろ!(それはそうとまこにゃん誕生日プレゼントありがとう!)」 「じゃ、泳ぎにいこー!」 「まこにゃんぺろぺろ!(春にはアタシからプレゼントするわね。でもどうしよう、自分にリボンを巻くしか思いつかないわ)」 「杏はやくー!」 「まこにゃんぺろぺろ!(はーい!)」 海へと走って行く二人。 そんな光景を横目に見ながら、壱也はビーチにぺったりと座っていた。 「無人島かー。きっとカラオケの練習とかしててもバレないんだろーなー。そうだ、砂浜に名前書こっと!」 壱也は木の棒を持ってきて砂浜にこりこりと文字と書いた。 「よしできた!」 『おきた はしば あくつ』 <デデドン! 「……わたし知ってるよこのパターン」 砂浜を見下ろす壱也の両肩を、葬識と甚内が同時にぽんと掴んだ。 「そんなことないよー。今日は羽柴ちゃんの慰安旅行だからねー」 「ほ、ほんと? BL本燃やさない?」 「ほんとだよー。ほら慰安椅子」 「それにトロピカルジュース」 椅子とジュースを差し出され、壱也はぷるぷると震えた。 「ほ、ほんとにいぢめない? 毒が入ってたり、拷問器具みたいなのついてない?」 「ほんとほんと。信用無いなー俺様ちゃんたち」 葬識と甚内は自分でジュース飲んだり椅子座ったりして見せた。 「わ、わあ……ほんとに慰安旅行なんだ……よかった、よかったぁ……」 壱也は涙目になりながら椅子にすわり、トロピカルジュースをちゅーちゅーした。 そして手足が椅子に固定された。 「……」 「ごめんね羽柴ちゃん」 「お、おきたさん……?」 「ジュースにアへ顔パウダー(危ない薬の新名称)入れるの忘れちゃった☆」 「どういうことかなあいちやわかんないなあ!」 「でも安心してねー」 「あくつしゃん……?」 「椅子は今からバギーにくくりつけて、羽柴ちゃんの水平線(意味深)に勝利を刻むからねー」 そう言って、海へ向かってエンジンをふかしまくる無人バギーに椅子をくくりつけた。 「わぁいばぎーだ。いちやばぎーだいすきー」 数日後。グレランド。 行き場をうしなったE能力者の働き場として今日も元気に機能していた。 時生がボード片手に作業員の前を右往左往していた。 「出席とるぞー。川出!」 「ヤバイヨー!」 「俣勝!」 「ッシャー!」 「ゆでたばご!」 「ほんばにー!」 「島上!」 「「ッヤー!」」 「ゴリラとリーダーは帰れ。あとこの施設をツバッキーランドと呼ぶのは控えるように。千葉の東京から何か言われたら俺たち存在ごと消されるからね。じゃあ今日の新入りを紹介しまーす。入ってきなさい野狩」 「ラーメンイケメ――」 「新人の洗礼として十三代目にモツ抜いて貰うから」 「えっ?」 「抜かんよ!? うち新人のモツ抜いたりせんよ!?」 それまで朝礼台に立たされていた椿がやっと喋った。 「しょーがないなー。じゃあおでん食って貰うから。あつあつのやつ。ほら持ってきて」 「あ、はい! スタッ――」 「スタッフゥー! スータッフゥー!」 がらがらとワゴンに乗せて運ばれてくる……水揚げされた羽柴壱也。 「「…………」」 「わぁいおでん。いちやおでんだいすきぃ」 壱也の目からは光が消えていた。 「十三代目……」 「もとの場所に、返してきぃ」 椿は目をそらし、悲しみの籠もった声で言った。 ●ここが意味の無いつぶやきをするコーナーだということに、いつから気づいていた? 人里から離れた山中にそのホテルは存在している。 その名も財布ホテル特ノ館。 駅前に作った一般客向けのホテルを遙かに超えたグレードが維持され、厳選されたメイドたちが今日も週休四日の一日六時間労働特別休暇申請有りという異形のホワイトプランで働いている。 「あらあなた、まだここでやっていたのね」 女帝皇は王様かなってくらい豪華な椅子に腰掛け、メイドに紅茶を入れさせていた。 周りのメイドからひときわ浮いてるメイドがぺっこり頭を下げた。 「どうもッス。おかげさまで!」 名前は覚えてらんないので、所有しているアーティファクトから『プレイバック百恵さん』と呼ぶと良い。本名は小銭蒔子。 「最近はどうなの」 「やー、財布さんの財力とウチの百恵が合わさり最強に見えるっすね。だいたい人間以外はまるっと移せるんでもう仕事がはかどるのなんのって」 「あらそう、ごくろうさま」 実はあんまり興味無かったんだろうなというテンションで、女帝皇は紅茶を飲む時間に戻った。 ここはいわゆるVIP向けのラウンジである。 その一角で遥平が煙草を吸っていた。 ちなみにこういう施設に『喫煙席』とかいう概念はない。相手が煙草を吸いたいと考えた瞬間からその施設は喫煙可能になる。分煙に関しては空気をブロックごとに分断するという力業で解決していた。金かけた施設は違えなあと思った遥平である。 「ここまで丁寧にされると逆に落ち着けねえなあ……コーヒーだってこりゃあ、マジもんのコーヒーじゃねえか」 「じゃあ缶コーヒー持ってきましょっか? 確か今朝触ったんで今だせますよ」 「お、おう……」 「ヒュー、金持ち施設にビビってるぅーう」 向かいの席でコーヒーがぶ飲みしていたナビ子がダブルピースで煽ってきた。 「うるせえや。あー、ところで、捜査一課のネタって……」 「気づかないはずないよね」 「だぁよなあ!」 目を覆ってのけぞる遥平。 「私だったら伊達って人を加えたね」 「だぁよなあ!」 ブロックをひとつ挟んで窓側。拓真とスケキヨが向かい合って座っていた。 高すぎてどういう種類か分からないような酒を出されているが、二人ともなんともない顔をして飲みかわしていた。 「気になる依頼といえばバロックナイツや七派もあるが……やはりクロスロードか。身内の問題となると、いかな別世界といえど放ってはおけん」 「その世界がボクらの世界に全く影響しないとしても?」 「どうだろうな。仮に影響が無かったとしても、俺は動かざるをえないだろう。俺の根幹に関わる事態だからな」 「根幹ね。ははあ、それじゃあこういうのはどうだい? お互いに一つずつ過去をねつ造しあうんだ」 「下らん。そんなことをしてなんになる」 「やったらわかるよ。そうだなあ……『きみは、本当はお祖父さんを嫉んでいた』」 「……」 「ヤだなあ、そんなに苛立っちゃ」 ケタケタと笑うスケキヨをひとにらみして、拓真はウィスキーのグラスを置いた。 「ならお前はこうだ。『自分に自信がないから仮面を被った』」 「……」 「そんなに苛立つな」 「……ハハ」 二人はグラスを軽く合わせると、中身を飲み干した。 ●お金とか名声とかそういうのいらないから毎日家族とたわむれながらのんびり暮らしたいというある種の理想論 週休零日一日十一時間半労働有給無しで正社員がイッちゃった笑顔を浮かべながら働く居酒屋『黒木屋』。 その座敷席で小梢がカレー食っていた。 カレーを食っていた。 カレーを食っていたのである。 それで全てが満たされる。 そんな女、小梢。 「え、今年の抱負? 『がんばらない』かな」 「そのネタ、語る時期から半年は経ってるよ。もう過去は『ほんとはインド人』でいいよね」 「いーよもーそれで」 「ねえ、この店なんか嫌なオーラが漂ってるんだけど……頭痛くなってくるんだけど……」 ヒロ子が周囲を行き来する店員を横目におびえていた。 何におびえてるって、OL時代にである。 ビールをジョッキで持ってくるナビ子。 「OLってあれだよね。何の脈絡も無くいじめが発生するよね。学校のいじめ問題なんてまさに児戯って感じだよね」 「なんで話を合わせるの?」 二人はビールを乾杯して飲み干した後、盛大にテーブルに叩き付けた。 「焼酎水割り!」 「こっちはロック!」 「「ハイヨロコンデー!」」 ヒロ子はどべーっとテーブルに突っ伏すと、運ばれてきた焼酎のグラスを指でつついた。 「私、まだヒトっていうか……知的生命体と戦ったことないんですよ。なんか恐いじゃないですか、フツーじゃなくなっちゃったみたいで」 「まあ実際法律に当てはめたら無期懲役か死刑モンだしね」 「でーしょー!?」 「いーんじゃない? そのための依頼制なんだし。人外専門のエージェントって響きからしてもカッコイーと思うし」 「そうかな」 「いっそそういう設定つくろっか。前宇宙でコジマ粒子を利用したメカにだね……」 「その技術はダメ、使っちゃダメ」 ンなことしてる部屋で。 「ダークキャノンボールズ、一発芸をやれ!」 「細かくて伝わらないものまねいきます。『自宅が燃えた時の司馬先生』!」 「よしお前は死刑だ。どんな殺し方がお望みだベニー」 「当たり前のように呼ぶのやめてもらっていいですか」 「そんなことより見てみろこのレビューサイト。『このルートだけ雰囲気違うんだけどなんで?』だと」 無表情のまま相手の肩をばしばし叩く鷲祐の姿がそこにはあった。 酔っている。 酔っているんだよね? 「ふー。しかし、パンツレスリング2から逃げきった時のことはいまだに思い出すな」 「ものまねいきます! 『みさくらみれい』……ひぃぃぃぃんっ! めざめちゃうっ、不滅覚醒してスケフィントンの娘でちゃいまひゅうううううううううう!」 「褒美をとらせる!」 一方こちらは四人がけのテーブル席。 「えっ、みんな未成年なの? じゃあこのテーブルはノンアルコール席ってことにしましょうか」 シィン、陽菜、惟、フィティという妙に異色な四人がテーブルを囲んでいた。 「いいんですか?」 「私って飲んでもろくに酔わないから。かえってつまらなくなっちゃって」 「なるほど」 グラスを打ち合わせるフィティとシィン。 「それで何の話だったかしら……うん、印象に残ってる依頼か。シィンさん何かある?」 「崩壊度修復の依頼ですかね。自分も二つほど参加して、満足のいく戦闘が出来たんですよ。惟さんは?」 「これは、そうだな……魔剣依頼だろうか。なんだかんだで因縁深いというか、かなり頻繁に関わってきたからな。実はまだ根本的に解決していないという所がまた気になる。陽菜はどうだ」 「アタシですか? やっぱり……イデアの世界かなあ」 「「あー……」」 ジト目をして天をあおぐ三人。 「あれはもうニヤニヤが止まらなかったというか……あの事件更におっかけらんないですかねえ」 「えー、無理だよ。世界ごとなくなったんでしょ?」 「でもほら、現実にモデルになった人がいたりしないかな」 「『いるかどうか』の段階で不確定だな。もしいたのなら、世界に常識を喰われていたということになる。それはそれで面倒な話になってくるぞ」 だめかーと言いながら突っ伏すシィンたち。 そこへナビ子がぬるっと加わってきた。 「女帝皇さんに過去をねつ造しなかったのは『ある意味でシャレにならないから』。どうもナビ子です!」 「わーいナビ子さんおっぱい触らせて揉ませてー」 後ろに回り込んで羽交い締めにする陽菜。 「……わかんない。性別がわかんない。こうなったらスカートめくるね。『ひめゴト』みたくわかると思うんだ!」 「でもこれスカートじゃないよ?」 「――ほんとだ! よく見たら半ズボンだこれ!」 「私も気づいたときに絵師の底力におののいたよ」 「でもアタシは諦めない!」 「待て待て」 それでも下から覗こうとする陽菜を、惟がずるずると引っ張っていった。 一方その頃カウンター席。 ツァインと荘園が並んで日本酒を飲んでいた。 「すまねぇなあ毎度。特に用があるわけでもないんだが」 「かまわんさ。アタシもちょうど暇だったしね」 「白田剣山の依頼が出てる今ってすごいタイムリーだけどね」 ナチュラルに混ざるナビ子。 ツァインは持っていたグラスを置いて神妙な顔をした。 「たしかこの依頼の趣旨って『過去をねつ造する』だったよな。俺にどんな過去をねつ造する気なんだ?」 「うーん……『ほんとは栃木県民』とか?」 「おまえ栃木にどんなイメージもってんだよ!」 「『峠の釜めし』の産地だよ!」 「そうなの!?」 「あと特撮の劇場版でよく使うロケ地」 「そうなの!?」 「てか、実際のとこはどうなの」 「実際って……俺もよく知らないんだよ。代々戦闘大好きっ子ばかりだったとか、そういう伝聞ばっかでな」 と、そこへ。 「この機に乗じて『徳川家康とマブダチ』とかいう設定をこじつけちゃったらどうです?」 あばたがナチュラルに混ざってきた。 「それこそねつ造じゃないのか?」 「イヤですね。歴史なんて全部後付けなんですよ? 今ナビ子様がねつ造した過去だって、いくつかホンモノ混じってるかもしれないんですから」 だし汁で焼いた厚焼き卵をはしでわけつつ、あばたはうろんな目をした。 「この世はまこと、ゆめはうつつ。何が嘘で何が真か、決めるは己の心のみ……と」 おおきく切った卵を頬張る。 その半分をパクって喰うナビ子。 「どーする? 異世界からの侵略者とかいう設定ねつ造しちゃう?」 「別に……」 瞑目。 「いやあ、乙な世界に生まれましたねえ、わたしたち」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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