●異界からの来訪者 そこはただただ単一の景色しかない世界だった。白と黒、明と暗の二つしかない世界。二つは決して出会うことがないコインの表と裏の関係。時間が来れば蛍光灯のオン、オフのように瞬時に世界が入れ替わる。同じ世界に住む二つの存在は未来永劫出会うはずがなかった、しかし出会ってしまった。どことも知らない新たな世界で。 この複数の色が存在することが出来る世界で白と黒は初めて互いを確認し、同じ場所からここに来たのだということを本能で理解する。対になる存在がいることを知識として知ってはいたが、こうやって出会うのは初めてだった。そして互いが同時に存在できるこの世界は何なのだろうという疑問が同時に生まれる。言葉は交わさないがお互いの存在を明滅させて意思の疎通が出来ることも新たな発見だ。 鳥のさえずり、林を通ってくるのは緑の香りを含む風、透明な水のたたえる湖。何種類もの色が無数に存在するその景色はこれまで見たことがないものだった。すべてが塗りつぶされた世界からの来訪者は戦慄する、何なんだこの世界は、そしてこれらは何と言うものなんだと。 しばらく観察して知りえたことがある。ここにも元にいた世界のように白の時間、黒の時間はあるらしい。しかし白の時間でも黒い部分があり、黒の時間でも天に浮ぶものが柔らかな白い光で地上を照らす。完全なる白、黒にはなりえないということ。 二つの時間が切り替わる時は曖昧で、その時は白と黒が混ざり合う不思議な光景が広がる。どうやらここを理解するにはもっと観察し、必要なら試してみることが必要だろうと白と黒は考えた。なにせ一つの個体と思われるものでも2つ3つと色を持っているのそこら中にあった、そんなのは彼らからしたらありえないのだから。 初めて色というものを得た彼らは、貪欲にその世界の色を貪っていった。 ●ブリーフィング 「アザーバイドの討伐をお願い致します」 資料を配りながら『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はリベリスタ達に告げる。手渡されたそれには討伐対象のデータと現地の写真が記載されていた。 「別世界からD・ホールを通じてやって来たようです、今のところ人的な被害など大きなものは確認されていません、強いて言えば山林での環境破壊程度です。現在は知的好奇心が先に立って出現場所付近で色々実験を行っているに留まっているようですが、いつそれが人に向かうか分かりません」 そうなる前に先手を打つということだろう、こちらの世界とは相容れない存在ならばご退場いただくのが一番手っ取り早い。 「今回の対象はフェーズ2の相手が2体です、最初は原始的な生物に近いものだったみたいですが急速に知識を得て現在は人型を取っています。それぞれに特徴があり、白く光っている個体はかなり侮れない攻撃をしてくると予想されます。普通物を切断する場合、切断面にひずみやバリといったものが現れるのですがそれが一切確認できません。物理的な防御力は意味を成さないと思っていいでしょう」 なるほど、手渡された写真、不法投棄されたと思われる冷蔵庫が見事に両断されている。 「そして黒く光っているものは相手の精神力を削り取る力を持っているようです、不自然な枯れ方をした植物が確認されています。また両者は昼と夜では能力に上下が生じるようです。いずれも危険な相手ですので気をつけて下さい。」 そう言って、和泉は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ほし | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月19日(土)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● あぁ、この世界はなんて綺麗なんだ。全ての存在は素晴らしい色彩を纏っている。 もっと欲しい、もっと知りたい。そうすれば、自分も綺麗になれるだろうから。 知らなければ現状に疑問を持つ事はなかっただろう。知ってしまったからこそ内側から湧き出してくるのは子供が新しいおもちゃを欲しがるかのごとく狂おしいほどの欲求。 もっと、たくさんの色を持っている者はいないだろうか? 木漏れ日の刺す林の中リベリスタ一行は山狩りを行っていた。林の中は意外と湿度が高い、夏に差し掛かったことも相まって不快指数は急上昇中だ。 早く仕事を終わらせて冷たいビールでも飲みたい。『銀河一後方で強い洗濯機』鳩目・ラプラース・あばたBNE004018)はそう思わずにいられない。 森林浴が趣味ならばまだ苦に感じないのだろうが、この林はそういった行為を楽しむには整備されていないし自分はインドア派なのだ。 そんな皆が辟易する環境であっても『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)の足取りは軽かった。 少女の思いは真摯にして純粋。きっと彼らは綺麗な色のたくさんあるこの世界に来て嬉しかっただけ。 殺さなくて済むのならそっちの方が絶対いいに違いないのだから。 「白と黒しかない世界かぁ、どんな世界なんだろう……マンガみたいなのかな?」 思い浮かぶ単色の世界で一番なじみの深いものがマンガだ。自分がもしその世界に行ったらどんな風にみえるのかなと『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は想像してみる。 色を失った自分。斧の黒はそのままかな、なんて。 マンガの中では自分の着ているカラフルな服装は白と黒、そんなんじゃおしゃれもできやしない。 「ふふ、未知との遭遇に心浮かれているのね」 『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)が口元に微笑を浮かべながら呟いた。 この世界へ来た白と黒は未知なる存在に触れることが出来た、美しさというものの存在を知った。 幾重の偶然を積み重ねて機会を得ることが出来たというのは幸運だったろう、彼らは今それを最大限に享受しているはずである。 しかしその存在をアークに悟られたことも幸運だといえるかどうかは微妙だったが。 「私も彼等の中身がどうなってるのか、気になりますから……ふふ、冗談ですよ?」 向こうがこちらを知りたいと思うならその逆も然り。『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)は後者の部類に入る。 神秘に触れる機会が多いリベリスタ達にとっても未知との遭遇は知的好奇心が働いてしまうのも無理からぬこと。 「未知との遭遇は穏便にいきたいものですよね。ね、イーゼリットさん?」 「うひゃ」 思わずぞくっ、と『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)は背中に走る視線を感じて、蒸し暑さの中にもかかわらず思わず身体を震わせた。今誰かが自分の名前を呼んだような? 振り返ると後ろにいた那由他が微笑を返してくれる、曖昧な感じで自分も返す。何だったんだろう、今の悪寒は。 そろそろ目的地が近いはずだと、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)はブリーフィングで得た現場の状況を今の自然に照らし合わせて推測する。 山道を抜群のバランス感覚ですいすい進んでいくと、自分の考えを裏付けるように写真で見た両断された冷蔵庫を見つけた。 「気をつけたほうがいい、そろそろ近いみたいだよ」 寿々貴は後の事を考え一行に小さな翼を与えた。 目の前に広がる惨状に、どうやら目的のために手当たり次第に荒らしまわっている様子が見て取れる。 「あれこれ弄っていきたくなる気持ちは分からんでもないが、派手にやってくれるね」 「それだけ色というものが興味深いのでしょう。色のない世界から来たのであればなおさらです」 自分が初めて色を認識した時は美しいと感じたのを『月虚』東海道・葵(BNE004950)は思い出していた。 白、または黒も美しいが華やかさがあるかといえば必ずしもそうではない。惨状は白と黒の気持ちの表れだ、きっと色に対する接し方が分からないのだ。 貪って、暴いて。分からないなりに全力で知ろうとする気持ちが葵には手に取るように感じられる。 さぁ、どこにいるのだろう? 何かが来る、たくさんの色を持った何かが。 白と黒は敏感にそれを感じ取った。どうも自分達に近い色を発しながらそれ以外の色彩を持っている存在がいるらしい。 それはこれまでの経験の中にないものだ、どうしようもなく気持ちが高ぶる。 期待に感情を高ぶらせながら、今まで散々貪った木をさらに切り倒して白と黒は踊った。 ● 「わわっ!」 一番先頭で捜索を続けていたルアは突如倒れてきた木を慌てて避けた。それは音を立てながら斜面を滑り落ちていく。 「おいでなすったかな」 あばたは少し距離をとり愛銃をがちゃりと構え姿勢を固定する。これまでにいくつもの獲物を仕留めてきた使い手だけに無駄な動作が一切省いたプロの動き。 倒木の騒音の後に訪れる静寂に緊張が走る。 突如、ぶわっと切り倒された木の方向から、地面を黒く侵食しつつ黒い影が向かって来る。それはうねりながら、それでも明確な意思を持っていた。 音もなく這い寄るそれはゆらりと影が人の形に盛り上がる。まるでそれは輪郭のはっきりしないマネキン。 捨てられた雑誌で人型を学んだのだろうか、ところどころ歪なその造詣は見るものの不安を掻き立てた。 「おっと、貴方の相手は私ですよ?」 那由他がくるりと魔力槍を廻して黒い人影の前に降り立った、自らの役割を全うするために。 黒は那由他を観察する。目の前にいる者は自分と近しい色を持っているにもかかわらず多数の色で構築されている。 その事へ対する羨望、渇望、そして嫉妬。 ずるい、自分と同じはずなのに自分よりたくさんのものを持っている。何が自分と違うんだ、自分だってこの世界でそれなりに知ったはずなのに。 ずるい、ずるい、ずるい! 黒の放つ声なき咆哮。嫉妬を含んだそれを肌で受け、彼女はそれでも笑みを浮かべる。 「ふふ、イーゼリットさんにいいところを見せないといけませんからね」 那由他の体から黒にも勝るとも劣らない漆黒が吹き上がった。 ティアリアの身体に衝撃が走る。白の放った斬撃を受け文字通り柔らかな胸が潰れ肋骨が軋んだ。 癒し手である彼女は本来ならば最前線まで出てくる事は少ないが、今回は特別だ。 「けふっ……なかなか情熱的な挨拶ね」 血混じりの咳を一つついてティアリアは魔力への干渉を強化させた。 胸の奥にはまだ鈍い痛みが残っている、日の光という後押しを受けて己の存在を高めた白の攻撃は非常に強烈だ。 対峙する白は興味深そうにティアリアを観察していた。 自分と同じ要素を持ちながらさらに色を着飾ったティアリアをとても美しいと白は感じた。これを理解することが出来れば目の前にいる人物のように自分も美しくなれるのだろうか。 黒が負の感情をぶつけて来るのに対し、白はあくまで純粋な欲求で相手を知ろうとする。それはまるで全てを暴き、貪る探求者。 なにせどこにどんな色を隠しているのか分からないのだから、今だって赤い色が飛び出してきたではないか。 「イタダキマス……でも、食べるところはあるのかな?」 不意に聞こえる場違いな言葉。しかし真咲にとってこれは命を奪う前の神聖な祈り。 ティアリアの抑えを無駄にすることなく右から接近して、愛用の斧を振り上げる。唸りを上げるヘルハウンドから放たれるのは漆黒の瘴気。 相反する色に包まれ白の存在が削れて行くのが真咲の目にははっきりと目に映ったが、その存在を大きく揺らがせるには少し足りない。 「ありゃ、これは食べ応えがありそうだね」 そのあどけない顔に浮かぶのは笑み、まだ食べられる、もっと食べられる。 「どうですか、この世界は美しいでしょう? そう感じていただければと思います」 己のポテンシャルを引き上げた葵が暗黒の残り香の影から急襲する。 意識外からの攻撃に白の反応が鈍り、極細の糸が相手を絡め取る。不思議な手応え、まるで羊羹にゆっくりと刃が沈むようなもどかしい感覚。 葵から放たれた戒めの鋼鉄の糸が二重三重に絡みつき、白が硬直する。 このチャンスを逃すような真似はしない、白の頭部から派手に光の粒が飛び散った。 寸分違わぬヘッドショット、狙い違わぬあばたの銃が火を噴く。 リロード。 さらに間髪置かずに2発目のサイレントデスが恐るべき精度で光の身体を撃ち抜いた。 この間わずか1秒にも満たないダブルアクション。人体ならば急所と呼ばれる場所に正確に打ち込まれた攻撃に、白は血の代わりに存在そのものを飛沫の輝きとして辺りに撒き散らしていく。 「ううむ、頭を吹き飛ばしても余裕みたいですね、こりゃ苦労しそうかな」 戒めから開放された白が剣を振りかぶる、横薙ぎに振るわれたそれから飛び出すのは無数の光の刃。 何者も断ち切る鋭さを持ったそれはリベリスタの体に直接届き、緑の木々に赤い飛沫がぶちまけられる。 残る傷跡は見事にぱっくりと口を開けて赤い色を晒した。 「やれやれ、研究熱心なことだ。そんなに魅力的に見えるかい?」 すぐさま寿々貴の癒しがリベリスタ達を包む。幸い回復は手厚い。メインでブロックを担当しているティアリアが若干辛そうに脂汗を浮かべているが、癒しを切らしさえしなければ何とかなりそうだ。 「二人はきっと綺麗なものをもっと知りたいんだよね。この世は綺麗で満ちているんだもの、わかるよ、嬉しかったんだね」 光の鎌鼬を頬に受け傷口から血を流したルアはそれでも白に微笑んで見せた。 瞳や服、身につけたアクセサリー。そして流れる血液の色でさえ少女は覚えていて欲しいと思う。 たとえこの場限りのものだとしてもそれはきっとあなた達を豊かにしてくれるものだから。 その身体に刻んで帰って欲しいと小さく願う。 そしてそれを刻むのは自分。日の光を反射して輝く刀身を軽やかに振るい与えるのは甘い痛み、そして色彩。 「どれもこれもきっと思い出になるから、忘れないで欲しいな」 ルアの輝きが色の素晴らしさを伝えるものだとしたら、イーゼリットの放つ色は全てを塗り潰す黒。 せっかく得た色を全て塗り潰すかのごとく、己の血液を黒き戒めに変えて。 白い体を黒き鎖が縛り付くように白に襲い掛かった。 「ごめんなさいね、せっかく色を集めているというのに」 くすくす。可愛らしくも陰のある笑いを浮かべて。周りにたくさんの色があるのにも関わらず展開されるモノクローム。 知への欲求はなにも相手の専売特許ではない。 「血は流れていないのかしら?体の中には何も入っていないの?くすくす、ねぇ、教えてよ」 教えてという言葉とは裏腹にイーゼリットは半ば強引に相手の秘密を探っていく。こちらを暴くのならば暴かれても当然だよね、と。 明るい時間帯に行動を起こしたのが功を奏し、那由他は一人で黒を押さえつけることが出来ていた。 黒の刃が那由他の体に沈み込む。それは痛みこそないが、体から力が抜け眩暈と共に闇に潜む恐怖や喪失感と言った負の感情が精神を蝕んでいく。ダークナイトである彼女にとってはある意味慣れ親しんだ感覚だ。 幾重にも折混ぜられた負の感情に慣れない者であれば凍りつき、動けなくなる可能性もあったろう。 だが絶対者たる那由他にとっては感情の再認識以上の意味を与えられる事はない。 「ふふふ、いい感情ですね。これはあなたが抱えているものですか?いいんですよ、もっと教えて下さっても」 那由他の役目は白を倒すまでの間の時間稼ぎ。攻撃は分が悪いものの耐えるという仕事で言うならば彼女以上に適任者はいないだろう。 とはいえその白い顔はさらに白みを帯びて唇の色も悪い。静かに、だが確実に那由他の心は蝕まれつつあったが寿々貴が精神を充実させる。 「ふむ、さすがに騙されてはくれないようだね」 寿々貴は精神力付与の合間に偽りの色で惑わそうと試みてはいたが難しいようだった。白と黒は彼らにとって自らの存在意義そのもの。彼らの絶対たる一色を揺らがせる事は厳しいようだ。 「さて、君達にとってすずきさんは取り込むに値するかい?ちょっと興味あるね」 大いなる存在に呼びかけ消耗の激しいティアリアに癒しの風を吹きかける。彼女自身の癒しと合わせてもなお若干負傷のほうが勝るか。 重ねられる集中攻撃。リベリスタ達の傷も少なくないが多勢に無勢。攻守かみ合うリベリスタ達の猛攻に輝かんばかりだった白の存在自体が揺らぐ。イーゼリットの目にも白の消耗がかなり蓄積していると見て取れた。 ゆらり ひときわ大きく揺らいだ白が一気に膨らむ。 「やばいのが来そうです」 あばたの警告。 白は思った。ここまで来て色を奪われてなるものか、そんな権利は誰にもない。 まるで楽しいおもちゃを取り上げられそうになった子供のような癇癪。 白の持つ剣が伸びる、長く光の尾を引きながら自らを中心にまるでコンパスで測ったように描かれる円。 それは周りの木々を盛大に巻き込み、対応の遅れた葵の体を抵抗なく通過して。 鈍器で横から殴られたような衝撃にティアリアの体が吹き飛ばされる。一瞬の出来事だった。 「くはっ……!?」 葵は小さく息を漏らす。一直線に体を通り抜けていった刃の感覚。腹が熱い、一歩足を前に踏み出して、ずれる。 熱さの所を中心に、体が、横に、奥に。赤に混じって見えてはいけない色が覗く。 白は思った、ほら、やっぱり中にも色を隠していたじゃないか。 暗転しそうな意識の中、葵の脳裏に浮かぶのは自分の主。 燃える運命を力に変えて葵は血に濡れた手を伸ばす。もとより命がけ、自分の中にあるあおは己の世界の中心。 奪われる事があるならばそれはすなわち死ぬ時だ、ならばこの場で奪われるわけにはいかない。 「わたくしの色、奪うことができましたか?」 オレオルの硝子が白の腕に食い込む、ギリギリと締め付け葵は奪われた自分の色を取り戻すかの如く白の一部をもぎ取った。 それが契機、自分の色を奪われた白がゆらぐ。人間にしてみたら体の一部を削られて痛みに悶えるように。 機を逃さずあばたのサイレントデスが白の存在を大きく揺らした。 もはや人型は崩れかけて、それでも尚求める色に手を伸ばそうと一歩前へと踏み出したその刹那。 「いくよ!真咲ちゃん!」 「りょーかい、ルアさん!」 白の左右から二つの声、存在の維持が難しくなったそれに向かって踊りかかる二つの影。 技で、力で、色で打つものを魅了するその一撃はあまりに華麗で、そして残酷。 銀と黒が白の中心で十字を刻む。瞬き一つの時間の後、虚空をつかむ白の手にノイズが走った。 あとは崩壊。音もなく弾けた光の粒子がキラキラと辺りに降り注いだ。 「向こうは片付いたようですね」 ぜぇはぁと肩で息をしながら那由他は立ち続けていた。黒にとって今は自分の時間ではない。存在の維持だけで黒は自らをすり減らさざるを得ない。寿々貴のサポートに自分自身の精神力回復も相まって那由他を削りきる事は出来なかった。 もはや後は簡単なお仕事。 くるりと黒に向けられる強烈な殺意、黒にとってはある意味慣れ親しんだ感覚。 己の色以上の色に強制的に染められてしまう、その恐怖で黒の色合いが揺らいだ。 リベリスタ達には積極的に命を奪う事はしないという共通の認識だったが、それはそれ。やるべき事はやってこそ神秘の管理者。 多方向からさまざまな色が飛んでくる。それは或いは優しく、或いは厳しく、そして或いは忘れないで欲しいという想いを含んで。 「ゴチソウサマ」 渇望した色を与えたリベリスタ、溶けるように霧散した黒に向かって真咲が小さく口を開いた。 ● 「前衛の方が大変だということが良くわかったわ」 あちこち服が破れてちょっと目のやり場に困る姿になったティアリアが苦笑する。自分を攻撃するようにと立ち回っていたとはいえ、慣れぬ攻撃に身を晒し続けるというのは想像以上に重労働、癒しの重要性を身をもって実感した。 二つの色は今や小さなくなりルアの掌の上にある。小さくとも存在を誇示しているがとても弱弱しい。これが本来の姿なのだろう、小さな小さな探求者。 D・ホールはすぐ近くに見つかった。ならば止めを刺す必要もない。 ここで得た色を手土産に元の世界で化学反応を起こしてくれたらと思う。 「キレイを知ったんだからもう寂しくない?帰ったら向こうで仲間に自慢するといいよ」 ルアの声色は優しい。色のない世界では例え土の色でも思い出に残ると思うから。 稚魚を川に放すようにそっと押し出し、見送ったのを確認して異界と繋がる出入り口を破壊する。 「あの方たちが混ざり合い一つになる時が来るのでしょうか」 葵は色の混ざるところが好きだ、境界がなくなりかけるその瞬間を美しく思う。 同じ世界で交わらぬ二つの色がもし混ざり合うことができたら……その時こそ救われるのではないだろうかと。 今回の事はその足がかりになればいい。 色褪せないと言う言葉がある。寿々貴は鮮やかな世界を見て感動を忘れずに覚えてくれればと思う。 また会う日まで。 「ばいばーい」 真咲がD・ホールのあった場所へと手を振った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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