● 夜の海は、幻想的で美しいという人がいる。 優しく雄大で、静かなロマンに溢れているのだと。 だが、明日香にはそうは思えなかった。 夜の海は、死の世界だ。 「お父さん、一年ぶりだね」 明日香は、波打ち際に花束を置いた。 三年前、今日と同じ新月の夜、父の乗っていた漁火船が、この海に沈んだ。 原因は、未だ以てわからない。 転覆した船には、巨大な槍に貫かれたような跡が残っていたという。 ● 漁火漁歴三十年に至っても父は、未だに夜の海が恐ろしいと言っていた。 甲板一枚の下は、冥府の国。 漁火船の輝きは、魚を招きよせるためのものではなく、巨大な死の掌に包まれぬのために生やした、棘のようなものなのだと。 だが、父は引きずり込まれた。 けばけばしいほど棘を生やした、大型の漁火船に乗っていたのにだ。 今日も、沖にその光を放つ漁火船を眺めながら明日香は、死の寸前に父が晒されたであろう恐怖を想った。 ● その時だった。 黒い海中から、巨大な槍が突き出し、漁火船を貫いた。 光を憎むかのように、幾度も幾度も槍は海の底から突きだし、船を滅多刺しにした。 船は、そのたびに光輝を失ってゆき、やがて海の中に没した。 明日香は見た。 父を冥府に連れ去った使者の姿を。 イッカククジラ。 十九世紀まで、伝説上の存在と呼ばれ、その後、実在が確認された海棲生物。 だが、ここは北極海ではない。 そして、実在のイッカククジラはあれほど強大ではない。金属の船を刺し貫くほどの角も、小山ほを思わせる巨体も持ってはいないはずなのだ。 ● アーク本部。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタたちに、この任務の危険性を語った。 「敵は新月の晩にしか活動しない。 即ち、光なき世界の住人、そして敵は光を憎む」 「夜、灯りを点けた船で、沖に出れば、船ごと貫かれ、海に投げ出される可能性があるって事か」 頷くイヴ。 「船でも、アクアラングでも、海中での戦いの助けになるものは貸し出す。 けど海中での敵の動きは極めて早く、そして鋭い。 正面から戦うよりは、何らかの策を練った方が、生存率は高いと思われる」 むろん、ここで言う生存率とは、敵であるE・ビーストのそれではなく、リベリスタたちのそれであろう。 生きて再び、陸にあがれるのか? リベリスタたちは、暗く冷たい、冥府の海へその身を投じようとしていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:スタジオi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月18日(金)22:24 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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● 函館湾沿いのとある漁港。 「これが僕たちの乗る船かあ」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、ドッグに浮かぶ二隻の船を目にして、素直な声をあげた。 「ボロいなー」 右の船――猛牛丸から、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が降りてくる。 「そこはロマンを込めて、『海の男の汗がしみ込んでいる』と表現すべきだぜ」 左の船――優駿丸からは、『滅尽の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が降りてきた。 「おんぼろでもなんでも構わぬが、無事に返せるとは限らんな」 烏とシェリーは、操縦方法を復習していたところらしい。 「おじさんが、アーク本部に二隻用意してくれって言ったら、係員がかなりゴネてたわ」 「そりゃそうじゃろ、向うも船を用意するとは言っていたが、二隻となると予算も違う」 「でも、しょうがないんだぜ、一隻だと沈められた時に全員、海に投げ出されちゃうから」 「海の怪物相手に、それは致命的じゃのう」 「仮に討伐に成功しても、救命ボートを漕いで、えっちおっちら沖から帰って来なくちゃいけないわけだ」 「それも、嫌だねー」 「夜の海は熟練の漁師までもが恐れる世界じゃ、生還出来る保障はないのう」 深刻さを感じたシェリーがうなずく。 「もたもたしていると、美味い店が閉まっちゃうからうんだぜ。 せっかく函館に来た以上、塩茹でした毛がにやら、イカそうめんやらを頂いてから帰りたい所だろ」 烏が全身から発散させているワクワク臭に、シャリーが顔を顰めた。 「おぬし、何をしに来たつもりなのじゃ? 危険な任務だと言われたではないか」 「シェリーは真面目だなぁ、じゃあ、おっちゃんには、僕がお酌するよ、注ぐのが女の子じゃなくて、申し訳ないけどね」 夏栖斗も烏と同意のようだ。 「シェリー君と函館の味覚を共に出来ないとは、残念だが仕方ないな」 「仲間外れにするな! 妾だって任務が終ったら、海の幸をたっぷり食すのじゃ!」 緊張感ゼロの会話に、新しい声が割り込んできた。 「日本酒なら私もお伴させていただきますよ、小父さん」 『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)が、大荷物を両手に抱えて現れた。 命綱、浮き輪、アクアラング、暗視ゴーグルなどを、調達してきてくれたのだ。 「ご苦労さん、必要な物は整えてくれたみたいだな」 「こっちはここに置いていいよな? キュアローブ」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が、別の大荷物を抱えて後から着いてきた。 「はい、念のため荷を開けて、中身を確認していたしましょう」 荷を開けてみると、大漁旗が入っている。 「鯨漁か、イイネ」 機嫌よさげに大漁旗を振るフツ。 「退治したら、これを漁船に掲げて寄港いたしましょう」 「おぬしら、危機感ゼロじゃのう」 「こっちはなんだい?」 大漁旗の他に、もう一つ大荷物があった。 開けてみると、映画でスタント撮影に使用するジャンプ台だ。 「これは何に使うの?」 夏栖斗が尋ねてもマリスはクスクス笑って答えない。 依頼を受けた時の深刻さから一転。 観光気分のリベリスタもいる。 だが、実際は近隣の漁業組合に今夜は船を出さないよう手配をするなど、するべきことはしていたようだ。 地平線に日が沈み、新月という名の姿なき女王が周囲を闇に包み込んだ頃、リベリスタ五人を乗せた二隻の船は港を出港した。 ● 闇の海を渡る。 この間、リベリスタたちの乗る漁船は、一切の灯りを点けていない。 暗視スキルや、暗視ゴーグル頼みだ。 目撃地点までまだ遠いとはいえ、イッカククジラ型エリューションはいつどこから奇襲をかけてくるのかわからないのだ。 海があちらのホームである以上、交戦開始の主導権くらい握らねば互角の戦いとは言い難かった。 「銜え煙草で我慢しなきゃいけないってのが、おっちゃん的には辛いところだな」 火の点いていない煙草を、猛牛丸の操舵室で銜えながら、烏はぼやいた。 猛牛丸の乗員は、烏、フツ、マリスの三人。 甲板から空を眺めているマリスに、フツは声をかけた。 「船から落ちたらオレが飛んで助けに行くから、落ち着いて待っててくれヨ」 フツはすでに簡易飛行のスキルで、甲板から三十センチの位置に浮いている。 「ありがとうございます、フツさん」 笑顔で礼を言うマリス。 フツが船室内に去った後、辺りの海を眺めるうマリスの心に恐怖と、心細さが湧いてきた。 漣む夜の海の揺らめきが、生あるもの全てを包み隠し、死の世界に連れ去ってしまう冥王のローブのように見えてくる。 マリスは連れこまれそうになる気持ちを、頭上の星に向けた。 (空に在る星は周りが宵闇でも輝いている訳です。 か細くても勇気を与えてくれる――冥府の使者に負けるものですか!) 自らに言い聞かせ、気持ちを奮い立たせて。 ● もう一隻の船、優駿丸では――。 「借りたのは良いが、深化で成長した胸が相当きついの」 操舵室で、サイズの合わない潜水服を気にしながら、シェリーが舵を操っていた。 もう一人の乗員、夏栖斗もアクアラングを背負っている。 「イッカククジラか、群れを作るのが基本だけど、一人ぼっちなのかな?」 「あんなのに群れで襲われたら、たまらんのう」 「いや、それだったらちょっとかわいそうだと思ってさ」 感受性豊かな夏栖斗が、同情を見せた。 この暗く広い海の中を孤独に過ごし続ける気持ちは、いかばかりなのかと――。 「崩界因子は滅尽せねばならない」 シェリーに真摯な眼差しで言われ、夏栖斗も頷いた。 「わかっているさ、犠牲者がでている以上は、倒さないとダメだ」 この船の周囲に他に船はいない。 漁師たちは、リベリスタたちの申し出を守ってくれたようだ。 無線機から烏の声が聞こえてきた。 『安全確認完了、作戦開始だぜ』 ● 走る猛牛丸の船尾から、何かが海に投げ込まれた。 光り輝く囮。 浮き玉に水中集魚灯を結びつけた物体だ。 敵の『光を憎んで攻撃してくる』という習性を利用すべく、烏が考案し作成したものだ。 囮を海に投げ込むのは、マリスとフツだ。 「食いつきますでしょうか?」 「そうあって欲しいもんだぜ」 船から二十から三十メートル離れるように囮を投げ込み、進行し続ける船からそれが目視出来なくなったら、新しい囮を投げ込む。 一つ目、二つ目は、何を為す事もなく、闇の中に姿を消して行った。 三つ目――海に投げ込んだ直後だった。 海面に突き出した巨大な刃に、輝く囮が貫かれた。 「来たぜ」 フツがニヤリと笑う。 イッカククジラ型エリューションを釣り出す事に、まずは成功したのだ。 ● フツは式符・千兇、符を無数の鳥に変化させた。 鳥たちに、水面に顔を出しているイッカクを啄ませる。 「たまには、突かれる方の立場にもなってみるもんだぜ?」 一方、マリスは守護結界を張っている。 誘き出すまでは習性に従ってくれたイッカクだが、囮の光もすでに消えている。 攻撃してくるものを標的に変える可能性は、大きいのだ。 ● 猛牛号の後を追ってきた優駿丸も、戦闘海域に到着した。 操船担当のシェリーも、戦闘に加わるべく甲板に出てくる。 「ごっつい得物じゃ」 イッカクを間近に見たシェリーが、声を出した時、 「んじゃま、気合入れていきますか」 夏栖斗が突然、甲板からダイブした。 「なんじゃ!?」 アクアラングを背負ってはいるものの、海で夏栖斗に分があるとはどうにも思えない。 だが、夏栖斗が目指していたのは、海ではなかった。 「やっほー!」 イッカクがフツの鳥たちに気を取られているのを良い事に、その巨体の背中に飛び乗ったのだ。 「無謀な!?」 絶句するシェリー。 夏栖斗は、異物感に気付いて暴れ出したイッカクの角にしがみつき、振り落とされまいとしている。 「なにをしておる! そんなところにいたら、危ないじゃろ!」 ● 猛牛丸の甲板に異変に気付いた烏が、舵を離して出て来ていた。 「おー、クジラに乗った少年か、おじさんの子供の頃、そんな歌が流行ったんだぜ、知っている? フツ君、マリス君?」 「あの歌はクジラじゃないだろ」 「あれでは夏栖斗さんが、危険過ぎます」 イッカクが大きく水面からジャンプした。 夏栖斗を振り落とすべく、何度も何度も繰り返し水面から跳躍する。 ハイバランスを身に付けている夏栖斗は、必死でしがみつき続けた。 「ロデオみたいな気分になってきた!」 その時、イッカクが凄まじい速度で空を跳びつつ、体を上下反転させた。 「うわっ! いかにバランス感覚が高くとも、圧倒的な力には抗い切れなかった。 夏栖斗は、海に落とされた。 ● 深い深い、闇の底へ夏栖斗は沈んでいった。 冥府への入り口だという闇の海。 目を開けても、見えるのは自らが吐き出した気泡が水面へと昇ってゆく姿だけだ。 その水泡を追うべく、体を上下させようとしたが、恐ろしく動きが鈍い。 どこかに異常があるわけではない。 水中生活用に出来てはいない生物の動きなど、そんなものなのだ。 イッカクと、比べるべくもない。 アクアラングを背負っていたおかげで、呼吸に苦しむ事はなかった。 だが、ここは闇の海中。 自由に動けない身に対し、どこから何が襲ってくるのかわからないという恐怖が自然、息を乱す。 恐怖から逃れたい一心で、夏栖斗が手足をばたつかせた時、目の前に人の掌が現れた。 ● 「御厨! 手出せ!」 フツが簡易飛行したまま、手を伸ばした。 海に落ちた夏栖斗を、引っ張り上げようというのだ。 フツ自身も簡易飛行を利用して、海面すれすれを飛んでいるが、動きの素早さは地上にいるのと比べようもなく鈍っている。 ここで、イッカクに襲われたら終わりだ。 夏栖斗救出のための時間を稼ぐため、猛牛丸に囮になってもらっている。 烏の操舵で船を走らせながら、浮き付きの集中魚群灯を、海に投げ込んでいるのだ。 イッカクが光を攻撃している間に、フツは夏栖斗を引き上げ、優駿丸の甲板上に乗せる。 「まいったなあ、水中での動きが人間と違いすぎる」 夏栖斗は、振り落とされただけで、ダメージらしいダメージは受けていないようだ。 「面倒をかけさせるな!」 夏栖斗の無事を確認したシェリーが、それを叱りつける。 「一体、何がしたかったんだ、あれは?」 フツに尋ねられ、夏栖斗は答えた。 「弱点を探ろうと思ったんだ」 「体当たり密着調査だな」 「何かわかったか?」 「うん、特に弱点はないとわかった」 「なんじゃ、それは」 呆れたように嘆息するシェリーに、夏栖斗は悪戯っぽい声で言った。 「ないもんはない、仕方ないから、作ってきたよ」 ● 猛牛丸の甲板上では、烏とマリスが必死に防戦をしていた。 灯りを海に投げ込んで囮にしつつ逃げていたのだが、その囮をイッカクが攻撃する際に、巨大な角が船の片腹を掠めたのだ。 猛牛丸は、航行不能の鈍牛となってしまった。 船は右側に傾いて沈みゆき、沈没も時間の問題だ。 マリスはアクセス・ファンタズムを取り出した。 甲板に出現したのは、設置用トラック。 「パラスト水の原理で、少しは安定するはずでございます」 「マリス君も、夏栖斗くんに負けず劣らず無茶するねえ」 イッカク目がけ、Schach und mattと呼ばれる研ぎ澄まされた弾丸を放った直後、烏が言った。 目を狙っているのだが、闇の海中を素早動く敵が相手では、そうそう思い通りにはいかない。 反撃に対しては、囮を投げ込んで狙いを逸らすのが精いっぱいだ。 マリスも、陰陽・星儀で応戦しているのだが、海の闇に紛れている相手に不吉な影が、どれほどの効果を及ぼしているか、定かではなかった。 その時、海の向こうから汽笛の音が響いた。 「優駿丸か」 レーダーを使い、位置を探り当ててきてくれたらしい。 ● 「閃光の一角を見せてやろうかえ?」 高位魔方陣より放たれしは、魔術師の弾丸・シルバーバレット! それが、イッカクに炸裂――少なくとも放った時点では、イッカクが存在した海面に炸裂した。 「折れたか?」 「ダメだ、直前で潜られた」 「惜しいね、傷は付けておいたから、もう一撃、ガツンとしたのを当てれば折れるはずなんだ」 イッカクにしがみついていた間、夏栖斗は土砕掌を、角の一点に集中して叩き込み続けていた。 唯一最大の武器を追ってしまえば、相手をほぼ無力化出来ると考えたからだ。 「イッカクは角っていうか、牙をおられたら二度と生えてこないからね」 「そこまで本物のイッカククジラを再現しているかは怪しいが、あんなデカい角だ、ホイホイ生えてくるもんでもないだろうな」 その時、イッカクがジャンプした。 「きたぞ!」 巨大な角を、甲板上にいるシェリーめがけて降り下ろしてきた。 「くっ!」 ルーンシールドを、とっさに張るシェリー。 魔力の壁が、巨大な角を弾き返す。 イッカクは二の太刀として、フツに角を振り下ろした。 「お前の角と深緋、どちらが鋭いか勝負といこうぜ!」 愛用の魔槍深緋が、イッカクの角と激突する! 巨体の圧力にフツは後ずさったが、イッカクも跳ねとばされた。 海面に落ちるイッカク。 「また跳ねてくるか!?」 そう思った瞬間、優駿丸の船体が大きく揺れた。 甲板を突き破る、巨大な槍! それが刀のように船体を切り裂いていく。 船底から、この船を突き裂いたのだ。 「やりやがった!」 「海に引きずりこむ気か!」 「急げ、救命ボートに乗り移るのじゃ!」 ● 猛牛丸側では、優駿丸側の危機を察知していた。 距離がそう離れているわけではないので、闇の中でも、優駿丸の甲板から突き出た巨大な角が、はっきりと見える。 「まずいな、海のエリューション相手に、救命ボートじゃ」 呟いた烏の耳に、エンジン音が入った 後方甲板を見て、一瞬、無言になる。 マリスが甲板の上で、GARLANDと呼ばれる大型バイクに跨っていたのだ。 「どこへ、ツーリングに行くんだぜ?」 「あちらの船へです、甲板に角が突き出ている今こそ、あれを折る好機でございます」 「バイクは海を、走れないぜ?」 「こんなこともあろうかと」 マリスのバイクの前には、スタント用のジャンプ台が置かれていた。 大漁旗とともに用意し、積み込んでおいたものだ。 「あっちまで跳ぶ気か?」 「無謀でございましょうか?」 「無謀だねぇ、でもまあ、若さの特権って奴だ、おじさん応援するぜ」 「ありがとうございます!」 実年齢はマリスの方が倍近く上なのだが、さておきマリスはエンジンを全開にした。 この船だって脇腹をやられており、そう長くは持たない。 甲板とはいえ、少しでも地面らしきものがある今でないと、海のエリューションに抗す術がなくなってしまう。 マリスは、バイクのアクセルを全開にした。 ジャンプ台を経て、跳ぶ! 夜空の星を、目指すかのように! ● 「跳んだ!」 救命ボートに乗り移ったシェリーが見たのは、巨大な角の破片が、夜空へ跳ね飛ばされる劇的な光景だった。 優駿丸の甲板に着地したマリスが、フルスロットルバーンでイッカクの角を叩いたのだ。 だが、勢いを制御しきれず、マリスもGARLANDから投げ出され、海へと落ちた。 「おぬしら! 救出を!」 「うん、わかった!」 「今日は、無茶な奴が多すぎだろ」 アクアラングを付けた夏栖斗と、簡易飛行で宙に舞っているフツがボートを離れ、マリスの落下地点へ急ぐ。 最大の武器を折られたイッカクの巨体が、復讐に燃えるかの如く、こちらへ向かってきている。 角がないとはいえ、その勢いで当たられたら無事ではすまない。 「巨大な敵を打ち倒すのに必要なのは、圧倒的な破壊力じゃろ?」 シェリーは全神経を集中させた。 正面から向かってくるイッカクに、シルバーバレットを放つ。 直撃した魔弾は、傷ついたイッカクの鼻先にトドメの一撃を加えた。 「どうにかやったのう」 数々の船を沈めてきた驚異は、新月の如く、静かに海へと沈んだ。 ● 結局、 二隻とも船が沈んでしまったため、救命ボートを漕いで陸に帰る事になった。 エンジンがない古いタイプなので、オールをえっちらおっちら漕いでゆくしかない。 「腹が空いたのじゃ、閉店までに間に合うかのお」 『伸縮自在の胃を持つ女』と豪語するシェリーは、かなり空腹なようだ。 「急ごう! 函館についたら、名物やきとり弁当に、寿司、塩ラーメン」 「函館といったらカニメシだろ、オレは大盛りでいく」 夏栖斗とフツも若い男だ、食への期待に胸躍らせている。 「私は、ワインのようにフルーティな日本酒をいただきながら、ウニたっぷりの海鮮丼を――」 「おじさん、ビールもいいな、函館はビールも美味しいんだよ。 おつまみは塩ゆでのかにと、いかそうめんがいいかなー」 「やめるのじゃ、想像しただけで気が狂いそうになる!」 想像の中には色とりどりの珍味が閃くのに、辺りには闇の海しかない。 食欲旺盛な十四才には、辛すぎる状況だった。 怪物の脅威が去っても、夜の海は変わらず、地獄だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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