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夜の海は冥府の入り口


 夜の海は、幻想的で美しいという人がいる。
 優しく雄大で、静かなロマンに溢れているのだと。
 だが、明日香にはそうは思えなかった。
 夜の海は、死の世界だ。
「お父さん、一年ぶりだね」
 明日香は、波打ち際に花束を置いた。
 三年前、今日と同じ新月の夜、父の乗っていた漁火船が、この海に沈んだ。
 原因は、未だ以てわからない。
 転覆した船には、巨大な槍に貫かれたような跡が残っていたという。
 

 漁火漁歴三十年に至っても父は、未だに夜の海が恐ろしいと言っていた。
 甲板一枚の下は、冥府の国。
 漁火船の輝きは、魚を招きよせるためのものではなく、巨大な死の掌に包まれぬのために生やした、棘のようなものなのだと。
 だが、父は引きずり込まれた。
 けばけばしいほど棘を生やした、大型の漁火船に乗っていたのにだ。
 今日も、沖にその光を放つ漁火船を眺めながら明日香は、死の寸前に父が晒されたであろう恐怖を想った。
 

 その時だった。
 黒い海中から、巨大な槍が突き出し、漁火船を貫いた。
 光を憎むかのように、幾度も幾度も槍は海の底から突きだし、船を滅多刺しにした。 
 船は、そのたびに光輝を失ってゆき、やがて海の中に没した。
 明日香は見た。
 父を冥府に連れ去った使者の姿を。
 イッカククジラ。
 十九世紀まで、伝説上の存在と呼ばれ、その後、実在が確認された海棲生物。
 だが、ここは北極海ではない。
 そして、実在のイッカククジラはあれほど強大ではない。金属の船を刺し貫くほどの角も、小山ほを思わせる巨体も持ってはいないはずなのだ。


 アーク本部。
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタたちに、この任務の危険性を語った。
「敵は新月の晩にしか活動しない。 即ち、光なき世界の住人、そして敵は光を憎む」
「夜、灯りを点けた船で、沖に出れば、船ごと貫かれ、海に投げ出される可能性があるって事か」
 頷くイヴ。
「船でも、アクアラングでも、海中での戦いの助けになるものは貸し出す。 けど海中での敵の動きは極めて早く、そして鋭い。 正面から戦うよりは、何らかの策を練った方が、生存率は高いと思われる」
 むろん、ここで言う生存率とは、敵であるE・ビーストのそれではなく、リベリスタたちのそれであろう。
 生きて再び、陸にあがれるのか?
 リベリスタたちは、暗く冷たい、冥府の海へその身を投じようとしていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:スタジオi  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年07月18日(金)22:24
●敵目撃地点
 函館湾の沖合四キロほどの地点。
 深度は約百三十メートル。
 波は穏やかな地点。

●敵情報
新月の夜のみ出現する、イッカククジラ型のエリューション。
フェイズは2。
体長十メートルに及ぶ体躯と、しなやかな運動性を併せ持つ。
推定では海中を四十キロほどの速さで航行する事が可能。
その角は、日本槍の切れ味を持つ。

●用意できるもの
 船なら中古の漁火船を貸し出せます。
 その他、アクアラングなど、希望があれば可能な限り用意出来ます。
 軍艦や魚雷などは、さすがに無理です。
参加NPC
 


■メイン参加者 5人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ジーニアスアークリベリオン
★MVP
マリス・S・キュアローブ(BNE003129)
ハイジーニアスマグメイガス
シェリー・D・モーガン(BNE003862)
   


 函館湾沿いのとある漁港。
「これが僕たちの乗る船かあ」
『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は、ドッグに浮かぶ二隻の船を目にして、素直な声をあげた。
「ボロいなー」
 右の船――猛牛丸から、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が降りてくる。
「そこはロマンを込めて、『海の男の汗がしみ込んでいる』と表現すべきだぜ」
 左の船――優駿丸からは、『滅尽の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が降りてきた。
「おんぼろでもなんでも構わぬが、無事に返せるとは限らんな」
 烏とシェリーは、操縦方法を復習していたところらしい。
 「おじさんが、アーク本部に二隻用意してくれって言ったら、係員がかなりゴネてたわ」
「そりゃそうじゃろ、向うも船を用意するとは言っていたが、二隻となると予算も違う」
「でも、しょうがないんだぜ、一隻だと沈められた時に全員、海に投げ出されちゃうから」
「海の怪物相手に、それは致命的じゃのう」
「仮に討伐に成功しても、救命ボートを漕いで、えっちおっちら沖から帰って来なくちゃいけないわけだ」
「それも、嫌だねー」
「夜の海は熟練の漁師までもが恐れる世界じゃ、生還出来る保障はないのう」
 深刻さを感じたシェリーがうなずく。
「もたもたしていると、美味い店が閉まっちゃうからうんだぜ。 せっかく函館に来た以上、塩茹でした毛がにやら、イカそうめんやらを頂いてから帰りたい所だろ」
 烏が全身から発散させているワクワク臭に、シャリーが顔を顰めた。
「おぬし、何をしに来たつもりなのじゃ? 危険な任務だと言われたではないか」
「シェリーは真面目だなぁ、じゃあ、おっちゃんには、僕がお酌するよ、注ぐのが女の子じゃなくて、申し訳ないけどね」
 夏栖斗も烏と同意のようだ。
「シェリー君と函館の味覚を共に出来ないとは、残念だが仕方ないな」
「仲間外れにするな! 妾だって任務が終ったら、海の幸をたっぷり食すのじゃ!」
 緊張感ゼロの会話に、新しい声が割り込んできた。
「日本酒なら私もお伴させていただきますよ、小父さん」
 『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)が、大荷物を両手に抱えて現れた。
 命綱、浮き輪、アクアラング、暗視ゴーグルなどを、調達してきてくれたのだ。
「ご苦労さん、必要な物は整えてくれたみたいだな」
「こっちはここに置いていいよな? キュアローブ」
『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が、別の大荷物を抱えて後から着いてきた。
「はい、念のため荷を開けて、中身を確認していたしましょう」
 荷を開けてみると、大漁旗が入っている。
「鯨漁か、イイネ」
 機嫌よさげに大漁旗を振るフツ。
「退治したら、これを漁船に掲げて寄港いたしましょう」
「おぬしら、危機感ゼロじゃのう」
「こっちはなんだい?」
 大漁旗の他に、もう一つ大荷物があった。
 開けてみると、映画でスタント撮影に使用するジャンプ台だ。
「これは何に使うの?」
 夏栖斗が尋ねてもマリスはクスクス笑って答えない。
 依頼を受けた時の深刻さから一転。 観光気分のリベリスタもいる。
 だが、実際は近隣の漁業組合に今夜は船を出さないよう手配をするなど、するべきことはしていたようだ。
 地平線に日が沈み、新月という名の姿なき女王が周囲を闇に包み込んだ頃、リベリスタ五人を乗せた二隻の船は港を出港した。


 闇の海を渡る。
 この間、リベリスタたちの乗る漁船は、一切の灯りを点けていない。
 暗視スキルや、暗視ゴーグル頼みだ。 
 目撃地点までまだ遠いとはいえ、イッカククジラ型エリューションはいつどこから奇襲をかけてくるのかわからないのだ。
 海があちらのホームである以上、交戦開始の主導権くらい握らねば互角の戦いとは言い難かった。
「銜え煙草で我慢しなきゃいけないってのが、おっちゃん的には辛いところだな」
 火の点いていない煙草を、猛牛丸の操舵室で銜えながら、烏はぼやいた。
 猛牛丸の乗員は、烏、フツ、マリスの三人。
 甲板から空を眺めているマリスに、フツは声をかけた。
「船から落ちたらオレが飛んで助けに行くから、落ち着いて待っててくれヨ」
 フツはすでに簡易飛行のスキルで、甲板から三十センチの位置に浮いている。
「ありがとうございます、フツさん」
 笑顔で礼を言うマリス。
 フツが船室内に去った後、辺りの海を眺めるうマリスの心に恐怖と、心細さが湧いてきた。
 漣む夜の海の揺らめきが、生あるもの全てを包み隠し、死の世界に連れ去ってしまう冥王のローブのように見えてくる。
 マリスは連れこまれそうになる気持ちを、頭上の星に向けた。
(空に在る星は周りが宵闇でも輝いている訳です。 か細くても勇気を与えてくれる――冥府の使者に負けるものですか!)
 自らに言い聞かせ、気持ちを奮い立たせて。


 もう一隻の船、優駿丸では――。
「借りたのは良いが、深化で成長した胸が相当きついの」
 操舵室で、サイズの合わない潜水服を気にしながら、シェリーが舵を操っていた。
もう一人の乗員、夏栖斗もアクアラングを背負っている。
「イッカククジラか、群れを作るのが基本だけど、一人ぼっちなのかな?」
「あんなのに群れで襲われたら、たまらんのう」
「いや、それだったらちょっとかわいそうだと思ってさ」
 感受性豊かな夏栖斗が、同情を見せた。
 この暗く広い海の中を孤独に過ごし続ける気持ちは、いかばかりなのかと――。
「崩界因子は滅尽せねばならない」
 シェリーに真摯な眼差しで言われ、夏栖斗も頷いた。
「わかっているさ、犠牲者がでている以上は、倒さないとダメだ」
 この船の周囲に他に船はいない。
 漁師たちは、リベリスタたちの申し出を守ってくれたようだ。
 無線機から烏の声が聞こえてきた。
『安全確認完了、作戦開始だぜ』


 走る猛牛丸の船尾から、何かが海に投げ込まれた。
 光り輝く囮。
 浮き玉に水中集魚灯を結びつけた物体だ。 
 敵の『光を憎んで攻撃してくる』という習性を利用すべく、烏が考案し作成したものだ。
 囮を海に投げ込むのは、マリスとフツだ。
「食いつきますでしょうか?」
「そうあって欲しいもんだぜ」
 船から二十から三十メートル離れるように囮を投げ込み、進行し続ける船からそれが目視出来なくなったら、新しい囮を投げ込む。
 一つ目、二つ目は、何を為す事もなく、闇の中に姿を消して行った。
 三つ目――海に投げ込んだ直後だった。
 海面に突き出した巨大な刃に、輝く囮が貫かれた。
「来たぜ」
 フツがニヤリと笑う。
 イッカククジラ型エリューションを釣り出す事に、まずは成功したのだ。


 フツは式符・千兇、符を無数の鳥に変化させた。
 鳥たちに、水面に顔を出しているイッカクを啄ませる。
「たまには、突かれる方の立場にもなってみるもんだぜ?」
 一方、マリスは守護結界を張っている。
 誘き出すまでは習性に従ってくれたイッカクだが、囮の光もすでに消えている。
 攻撃してくるものを標的に変える可能性は、大きいのだ。


 猛牛号の後を追ってきた優駿丸も、戦闘海域に到着した。
 操船担当のシェリーも、戦闘に加わるべく甲板に出てくる。
「ごっつい得物じゃ」
 イッカクを間近に見たシェリーが、声を出した時、
「んじゃま、気合入れていきますか」
 夏栖斗が突然、甲板からダイブした。
「なんじゃ!?」
 アクアラングを背負ってはいるものの、海で夏栖斗に分があるとはどうにも思えない。
 だが、夏栖斗が目指していたのは、海ではなかった。
「やっほー!」
 イッカクがフツの鳥たちに気を取られているのを良い事に、その巨体の背中に飛び乗ったのだ。
「無謀な!?」
 絶句するシェリー。
 夏栖斗は、異物感に気付いて暴れ出したイッカクの角にしがみつき、振り落とされまいとしている。
「なにをしておる! そんなところにいたら、危ないじゃろ!」


 猛牛丸の甲板に異変に気付いた烏が、舵を離して出て来ていた。
「おー、クジラに乗った少年か、おじさんの子供の頃、そんな歌が流行ったんだぜ、知っている? フツ君、マリス君?」
「あの歌はクジラじゃないだろ」
「あれでは夏栖斗さんが、危険過ぎます」
 イッカクが大きく水面からジャンプした。
 夏栖斗を振り落とすべく、何度も何度も繰り返し水面から跳躍する。
 ハイバランスを身に付けている夏栖斗は、必死でしがみつき続けた。
「ロデオみたいな気分になってきた!」
 その時、イッカクが凄まじい速度で空を跳びつつ、体を上下反転させた。
「うわっ!
 いかにバランス感覚が高くとも、圧倒的な力には抗い切れなかった。
 夏栖斗は、海に落とされた。


 深い深い、闇の底へ夏栖斗は沈んでいった。
 冥府への入り口だという闇の海。
 目を開けても、見えるのは自らが吐き出した気泡が水面へと昇ってゆく姿だけだ。
 その水泡を追うべく、体を上下させようとしたが、恐ろしく動きが鈍い。
 どこかに異常があるわけではない。
 水中生活用に出来てはいない生物の動きなど、そんなものなのだ。
 イッカクと、比べるべくもない。
 アクアラングを背負っていたおかげで、呼吸に苦しむ事はなかった。
 だが、ここは闇の海中。
 自由に動けない身に対し、どこから何が襲ってくるのかわからないという恐怖が自然、息を乱す。
 恐怖から逃れたい一心で、夏栖斗が手足をばたつかせた時、目の前に人の掌が現れた。
 

「御厨! 手出せ!」
 フツが簡易飛行したまま、手を伸ばした。
 海に落ちた夏栖斗を、引っ張り上げようというのだ。
 フツ自身も簡易飛行を利用して、海面すれすれを飛んでいるが、動きの素早さは地上にいるのと比べようもなく鈍っている。
 ここで、イッカクに襲われたら終わりだ。
 夏栖斗救出のための時間を稼ぐため、猛牛丸に囮になってもらっている。
 烏の操舵で船を走らせながら、浮き付きの集中魚群灯を、海に投げ込んでいるのだ。
 イッカクが光を攻撃している間に、フツは夏栖斗を引き上げ、優駿丸の甲板上に乗せる。
「まいったなあ、水中での動きが人間と違いすぎる」
  夏栖斗は、振り落とされただけで、ダメージらしいダメージは受けていないようだ。
「面倒をかけさせるな!」
 夏栖斗の無事を確認したシェリーが、それを叱りつける。
「一体、何がしたかったんだ、あれは?」
 フツに尋ねられ、夏栖斗は答えた。
「弱点を探ろうと思ったんだ」
「体当たり密着調査だな」
「何かわかったか?」
「うん、特に弱点はないとわかった」
「なんじゃ、それは」
 呆れたように嘆息するシェリーに、夏栖斗は悪戯っぽい声で言った。
「ないもんはない、仕方ないから、作ってきたよ」


 猛牛丸の甲板上では、烏とマリスが必死に防戦をしていた。
 灯りを海に投げ込んで囮にしつつ逃げていたのだが、その囮をイッカクが攻撃する際に、巨大な角が船の片腹を掠めたのだ。
 猛牛丸は、航行不能の鈍牛となってしまった。
 船は右側に傾いて沈みゆき、沈没も時間の問題だ。
 マリスはアクセス・ファンタズムを取り出した。
 甲板に出現したのは、設置用トラック。
「パラスト水の原理で、少しは安定するはずでございます」
「マリス君も、夏栖斗くんに負けず劣らず無茶するねえ」
イッカク目がけ、Schach und mattと呼ばれる研ぎ澄まされた弾丸を放った直後、烏が言った。
  目を狙っているのだが、闇の海中を素早動く敵が相手では、そうそう思い通りにはいかない。 
 反撃に対しては、囮を投げ込んで狙いを逸らすのが精いっぱいだ。
 マリスも、陰陽・星儀で応戦しているのだが、海の闇に紛れている相手に不吉な影が、どれほどの効果を及ぼしているか、定かではなかった。
 その時、海の向こうから汽笛の音が響いた。
「優駿丸か」
 レーダーを使い、位置を探り当ててきてくれたらしい。


「閃光の一角を見せてやろうかえ?」
 高位魔方陣より放たれしは、魔術師の弾丸・シルバーバレット!
 それが、イッカクに炸裂――少なくとも放った時点では、イッカクが存在した海面に炸裂した。
「折れたか?」
「ダメだ、直前で潜られた」
「惜しいね、傷は付けておいたから、もう一撃、ガツンとしたのを当てれば折れるはずなんだ」
 イッカクにしがみついていた間、夏栖斗は土砕掌を、角の一点に集中して叩き込み続けていた。
 唯一最大の武器を追ってしまえば、相手をほぼ無力化出来ると考えたからだ。
「イッカクは角っていうか、牙をおられたら二度と生えてこないからね」
「そこまで本物のイッカククジラを再現しているかは怪しいが、あんなデカい角だ、ホイホイ生えてくるもんでもないだろうな」
 その時、イッカクがジャンプした。
「きたぞ!」
 巨大な角を、甲板上にいるシェリーめがけて降り下ろしてきた。
「くっ!」
 ルーンシールドを、とっさに張るシェリー。
 魔力の壁が、巨大な角を弾き返す。
 イッカクは二の太刀として、フツに角を振り下ろした。
「お前の角と深緋、どちらが鋭いか勝負といこうぜ!」
 愛用の魔槍深緋が、イッカクの角と激突する!
 巨体の圧力にフツは後ずさったが、イッカクも跳ねとばされた。
 海面に落ちるイッカク。
「また跳ねてくるか!?」
 そう思った瞬間、優駿丸の船体が大きく揺れた。
 甲板を突き破る、巨大な槍!
 それが刀のように船体を切り裂いていく。
 船底から、この船を突き裂いたのだ。
「やりやがった!」
「海に引きずりこむ気か!」
「急げ、救命ボートに乗り移るのじゃ!」


 猛牛丸側では、優駿丸側の危機を察知していた。
 距離がそう離れているわけではないので、闇の中でも、優駿丸の甲板から突き出た巨大な角が、はっきりと見える。
「まずいな、海のエリューション相手に、救命ボートじゃ」
 呟いた烏の耳に、エンジン音が入った
 後方甲板を見て、一瞬、無言になる。
 マリスが甲板の上で、GARLANDと呼ばれる大型バイクに跨っていたのだ。
「どこへ、ツーリングに行くんだぜ?」
「あちらの船へです、甲板に角が突き出ている今こそ、あれを折る好機でございます」
「バイクは海を、走れないぜ?」
「こんなこともあろうかと」
 マリスのバイクの前には、スタント用のジャンプ台が置かれていた。
 大漁旗とともに用意し、積み込んでおいたものだ。
「あっちまで跳ぶ気か?」
「無謀でございましょうか?」
「無謀だねぇ、でもまあ、若さの特権って奴だ、おじさん応援するぜ」
「ありがとうございます!」
 実年齢はマリスの方が倍近く上なのだが、さておきマリスはエンジンを全開にした。
 この船だって脇腹をやられており、そう長くは持たない。
 甲板とはいえ、少しでも地面らしきものがある今でないと、海のエリューションに抗す術がなくなってしまう。
 マリスは、バイクのアクセルを全開にした。
 ジャンプ台を経て、跳ぶ!
 夜空の星を、目指すかのように!
 

「跳んだ!」
 救命ボートに乗り移ったシェリーが見たのは、巨大な角の破片が、夜空へ跳ね飛ばされる劇的な光景だった。
 優駿丸の甲板に着地したマリスが、フルスロットルバーンでイッカクの角を叩いたのだ。
 だが、勢いを制御しきれず、マリスもGARLANDから投げ出され、海へと落ちた。
「おぬしら! 救出を!」
「うん、わかった!」
「今日は、無茶な奴が多すぎだろ」
 アクアラングを付けた夏栖斗と、簡易飛行で宙に舞っているフツがボートを離れ、マリスの落下地点へ急ぐ。
 最大の武器を折られたイッカクの巨体が、復讐に燃えるかの如く、こちらへ向かってきている。
 角がないとはいえ、その勢いで当たられたら無事ではすまない。
「巨大な敵を打ち倒すのに必要なのは、圧倒的な破壊力じゃろ?」
 シェリーは全神経を集中させた。
 正面から向かってくるイッカクに、シルバーバレットを放つ。
 直撃した魔弾は、傷ついたイッカクの鼻先にトドメの一撃を加えた。
「どうにかやったのう」
 数々の船を沈めてきた驚異は、新月の如く、静かに海へと沈んだ。


 結局、 二隻とも船が沈んでしまったため、救命ボートを漕いで陸に帰る事になった。
 エンジンがない古いタイプなので、オールをえっちらおっちら漕いでゆくしかない。
「腹が空いたのじゃ、閉店までに間に合うかのお」
 『伸縮自在の胃を持つ女』と豪語するシェリーは、かなり空腹なようだ。
「急ごう! 函館についたら、名物やきとり弁当に、寿司、塩ラーメン」
「函館といったらカニメシだろ、オレは大盛りでいく」
 夏栖斗とフツも若い男だ、食への期待に胸躍らせている。
「私は、ワインのようにフルーティな日本酒をいただきながら、ウニたっぷりの海鮮丼を――」
「おじさん、ビールもいいな、函館はビールも美味しいんだよ。 おつまみは塩ゆでのかにと、いかそうめんがいいかなー」
「やめるのじゃ、想像しただけで気が狂いそうになる!」
 想像の中には色とりどりの珍味が閃くのに、辺りには闇の海しかない。
 食欲旺盛な十四才には、辛すぎる状況だった。
 怪物の脅威が去っても、夜の海は変わらず、地獄だった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
任務無事終了、お疲れ様でした。
OPから、シリアスで暗い雰囲気になるかと思いきや、予想外に楽しいプレイングが多く、
元々、コメディ書きの私としては嬉しい誤算となりました。
早く陸に戻って、函館の味をご堪能下さい。
百万ドルの夜景もおススメですよ!