● 捨てられた道化 ゴミの山だ。家具や家電、車に廃材。ありとあらゆるゴミの山。山を形成するゴミの中には、不法投棄も多分に含まれているのだが、今更気にする者もいない。 元々は、居住区にする予定で作られた埋め立て地だった。皮肉を込めてこの場所を、ゴミのための島、と呼ぶ者も多い。毎日、数トンからなる大量のゴミが運ばれて来る。一度山の一部となってしまえば、後は静かに朽ちていくだけ。拾う者も、リサイクルしようと考える者も居ないだろう。 そんなゴミの山の一角。小さな、ピエロの人形が打ち捨てられていた。 どのような経緯でそうなったのかは不明だが、ピエロは神秘を得て、エリューションとして覚醒したようだった。 ぽん、とガラクタの塊がお手玉よろしく宙を跳ねる。 ぽん、ぽん、ぽん、と何度も何度も。跳ねるたびに数は増え、それどころか大きささえも増していく。 ガラクタをジャグリングしていたのは、2体のピエロだった。人と同じような大きさのエリューションだ。 Eフォース(道化)と、Eゴーレム(道化)。 2体のエリューションは、ゴミ山の上で器用にバランスをとって立ちながら、そこらに散らばったガラクタをジャグリングする。白く塗った表情は笑顔。目の下には涙のメイク。服装は、派手な道化師衣装でありながら、あちこちに縫い跡が残っている。 『笑顔のために』 『笑われる為に』 『芸を見せよう』 『おどけて見せよう』 『『だけど、観客は、何処にも居ない』』 交互に歌って、しかし彼らは芸を辞めない。 ゴミの山を飛び回り、道化師の技を披露し続けるのだった。 ● ゴミの山の一幕 「外見はまったく同じ、2体のエリューション(道化)が今回のターゲットね。片方は人形に宿った想いが、もう片方は人形そのものが覚醒したものみたい」 モニターにゴミの山の映像を映して、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を零す。 「それぞれ、行動パターンなどはほぼ同じ。攻撃の属性が違うくらいね」 Eゴーレムの方は物理攻撃を、Eフォースの方は神秘攻撃を得意としている。 もっとも、受けてみるまでどちらか確認するのは難しいだろう。事前に、調べる術があるのなら、何かしらの対策は打てるかもしれないが。 「2体の動きは素早く、またバランス感覚にも優れているため、不安定な足場をモノともしないで動き回ることが可能。厄介といえば厄介ね」 こちらは、ゴミの山の不安定極まりない足場を気にしながら戦わねばならないと言うのに、だ。 「そして、最も厄介なのがゴミ山のあちこちに配置された、箱の存在」 見ると、ゴミの山の至る所に『?』の描かれた黒い箱が置かれていた。見ようによっては、棺桶にも見える奇妙な箱だ。 「箱の中に入ったものを、ランダムに別の箱へと飛ばす性質を持っているわ。箱の数は13。破壊しても、数十秒で別の位置で再生する」 この箱を使って、道化達はガラクタの山を移動している。おまけに、2体同時に箱へ飛び込み、相手を撹乱するような動きも見せているではないか。 「こちらが攻撃しなければ、道化の方から襲って来るような事はしない。けれど、このまま放置しておいても消える気配はないし、神秘を伴った彼らの芸は それだけで周囲に被害をまき散らすものもある」 さしずめ、最期の曲芸、と言ったところだろうか。 放置するわけにもいかないのなら、討伐するしか術はない。 罪もない、道化師の人形から生まれたエリューションではあるが、その存在は危険なものだ。世界の崩壊を促すのだから。 それが分かっているからこそ。 「終幕を見届けて来て」 と、物悲しげにイヴは言う。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月13日(日)22:10 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●ゴミの山の道化 楽しげに、ガラクタを放っては、受け止め、放っては、受け止めを繰り返す。客は居ない。時折おどけてみせた所で、笑ってくれる者はいない。 ガラクタの山の山頂で、2体の道化が芸を披露する。 かつて、人を楽しませるために作られた彼らは、しかしゴミとして捨てられた。それでもなお、誰かを笑顔にするために、客席もないステージの上で、ガラクタのジャグリングを続けている。 そんな2体の道化の前に、4人の女性が現れる。 武器を携え、強い意思をその瞳に宿し、道化師たちへ敵意にも似た視線を向ける。 そんな彼女達を、2体の道化師は、芸を披露し歓迎するのだった。 ●最後の曲芸 ガラクタの山の上に、2体並んでジャグリングを披露する道化。片足でバランスをとり、時折わざとバランスを崩してみせながら、リベリスタ達の様子を窺っている。対する4人のリベリスタは、しかし無言。笑顔を浮かべることもなく、それどころかどこか悲しげな表情で道化を見つめているものもいる。 「物悲しいですね。考えても仕方ないですが」 ゴミ山の各所に設置された黒い箱の位置を視線で探しながら雪白 桐(BNE000185)はそう呟いた。その手には、巨大な剣が握られている。明らかな戦意を伴うその様子を見て、しかし道化たちは逃げる素振りも、攻撃する素振りも見せないでいた。 白塗りの顔に頬笑みを浮かべ、観客を笑わせることだけを考えているのだ。 「好戦的ではないようですし、倒すのは少し心苦しいですよう……」 やーん、と困ったような顔をして『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は視線を左右に彷徨わせる。浮かない表情のイスタルテを笑わせたいのだろう。道化たちは、イスタルテによく見えるように移動し、wざと転びかけておどけて見せる。 「道化、ねぇ……。なんて言うかプロ根性みたいなものなのかしら」 そう言う『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)の眼前に魔方陣が展開され、その中央には銀色の弾丸が生成される。禍々しいオーラを放つ銀弾だ。 パン、と光が弾け魔方陣は消失。それと同時に放たれた銀弾を、道化たちはぴょんとジャンプし回避した。ガラガラとゴミ山が崩れ始める。なだれ落ちる廃棄家電の上でバランスを取りながら、道化たちがゴミ山から下りてきた。 「道化だサーカスだっていう時代じゃないのかな……。彼らの終演に付き合い、とどめを刺すばかりです」 刀を引き抜きながら『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が駆ける。ゴミ山に足を取られながら、なんとか道化の眼前へ。麗香が刀を振り抜くが、道化はジャグリングしていたガラクタをぶつけることでそれをガード。粉々になったガラクタをキャッチし、再度ジャグリングを始める辺り、徹底した道化ぶりである。 「………やるじゃない」 やりにくい、と麗香は小さく声を漏らした。 相手に戦意はない。悪意もない。ただただ誰かを笑わせたい、楽しませたいという純粋な想いがあるだけだ。 しかし、彼らの存在はもはやそれを許さない。 エリューションと化した今、彼らの存在は許されない。披露する曲芸の全ては、他者への攻撃へと変化するのだから。 しかし、道化たちは自主的に攻撃をしてくるようなことはしない。 反撃をしているつもりもないのだろう。 道化たちの足元から、ガラクタで出来たボールが生まれた。ボールの上でバランスをとり、ガラクタの山を転がり落ちて来る。ボロボロと崩れるガラクタのボール。崩れた端から、新たなガラクタがボールに一部に加わっていく。飛び散るガラクタの破片が、山の下のリベリスタを襲う。 「最初で最後の観客で悪いと思いますが、私達は貴方達を倒さないといけません」 「ゴミ山で駆け回るのはデュランダルの役目ではないですっ」 ガラクタの破片を、手にした武器で弾き飛ばしながら桐と麗香はそれぞれ道化へと斬りかかっていく。飛び散ったガラクタを慌てて回避しながら、イスタルテは空へ、文佳は物影へと姿を隠した。 2体の道化のその間へ、桐が跳び込む。手にした大剣を旋回させ、左右に並んだ道化へと斬りかかった。 「っ! やっ!」 短く呼気を吐きだし、斬撃へと力を込めた。けれど道化たちは、乗っていたガラクタボールを足がかりにして、宙へと跳んだ。桐の剣がガラクタボールを粉々に打ち砕く。 「はっ!」 宙へと回避した道化に向かって、麗香が跳んだ。桐同様に剣を旋回させながら、2体の道化を纏めて切り裂く心算である。空中で身動きのとれない道化たちの身体に、桐の斬撃が食い込んだ。 と、同時、道化のジャグリングするガラクタの破片が麗香の身体を直撃する。 的確に急所へと命中するガラクタの破片が、麗香の身体にダメージを与える。口の端から血を流し、麗香は落下。体勢を立て直そうともがくが、体が痺れて上手く動けない。 ゴミの山に頭から落ちる、その直前に急降下してきたイスタルテによって麗香は受け止められた。 「仲間が倒されぬ事を最優先として行動しますよ。『いのちを大事に』というやつです」 イスタルテの手に、淡い光の粒子が集う。優しく、暖かいその光は麗香の身体を包み込み、彼女の身体から異常を取り除く。 危なかった、と麗香は思う。 相手に攻撃の意思や、敵意があればそれを感じ取って回避や防御に移ることもできるだろう。だが道化たちにはそれが無い。常に全力、常に最大の芸を披露しているだけだ。 だからこそ、やりにくい。 イスタルテと麗香に続いて、道化たちも着地する。着地した道化目がけ、文佳は銀弾を放つ。 「片付けさせてもらうわよ、と」 空気を切り裂く鋭い音。撒き散らされる不吉なオーラ。視認できぬほどの速度で襲い来る銀弾を、道化たちはそれぞれ足元にあった黒い箱へと跳び込むことで回避する。 銀弾が、箱の片方を打ち砕くが、すでにそこには道化はいない。 視認できる位置に、箱は全部で10数個ほど見受けられる。事前情報として、黒い箱に跳び込むと、即座に別の黒い箱の中へとワープすると聞いている。 「んー、なんとかなるかしら?」 文佳は視界に映る箱を、銀弾で撃ち壊していった。 姿を見せない敵の出現場所を絞る為、他の仲間達もまた手近な位置にある箱を破壊する。 「後ろ!」 イスタルテが叫ぶ。彼女の千里眼が捉えた敵の位置は文佳の背後だ。魔方陣を展開しつつ、文佳は背後を振り向いた。視界一杯に映る真白い顔と笑顔の口元。視界の隅にジャグリングされるガラクタの欠片が映った。 しまった、と思った時にはもう遅い。文佳の腹に、ガラクタの欠片が突き刺さる。内臓を衝撃が貫いた。その場に膝をつく文佳の元へ、麗香が駆け寄ろうとするが、そんな彼女の真横からもう1体の道化が飛び出して来た。ガラクタの山に埋もれる形で、黒い箱が設置されていたのだ。 飛び散るガラクタの破片を、防ぐことも回避することも間に合わない。 それならば、と麗香は素早く進路を変えて、道化の元へと駆け寄った。身体中にガラクタを浴びながら、道化へと肉薄。剣で斬り付けると同時に、今し方道化が飛び出して来たばかりの箱へと飛び込んだ。 次の瞬間、麗香の姿が掻き消えた。どこか別の箱へとワープしたのだろう。 文佳の身体を包み込む淡い燐光。彼女の受けたダメージを癒していく。 「まるで大脱出の奇術をみているみたいです……戦闘中だという事を忘れちゃいそうですね」 文佳の隣にイスタルテが着地。フィンガーバレットを道化へと突きつける。 ジャグリングを続けながら、道化はその場を動かない。 敵意を向けられても、殺意のただ中に放り込まれても、それでもなお、道化には敵対の意思はないようである。 仲間達が道化と交戦している最中、桐は黒い箱を破壊することに専念していた。特定の一方向を除き、全ての箱を破壊すれば、万が一箱に逃げられても、再出現の現場をある程度絞り込めるだろうと考えたのだ。 「てぇい!」 気合い一閃。桐の大剣が目の前の箱へと振り下ろされる。剣が箱を切り裂く直前、箱が開いて、中から麗香が飛び出して来た。 「うぇ!?」 「ちょっ!?」 麗香は咄嗟に剣を振りあげ、桐の斬撃をいなす。桐の大剣は、麗香の頬を掠め、背後の黒箱を真っ二つに切り裂いた。 「ご、ごめんね」 「…………」 冷や汗を流す麗香と桐のすぐ傍へ、ポンポンと跳ねるようにして、道化が1体近づいてきた。 血の気の引いた2人を笑わせるために、彼はその場へ近寄って来たのだろう。 ジャグリング。玉乗り。時折おどけて、ガラクタの上を飛び跳ねる。黒い箱に飛び込んで、また違う箱へと姿を現す。それを何度も繰り返しながら、道化はイスタルテや文佳の攻撃を回避する。無論、2人の攻撃全てを回避できるわけではない。道化はすでに、ボロボロだ。 ガラクタの山の上で、ガラクタを放って芸を披露する道化自身が、次第にガラクタへと変わっていく。否、彼は元々ガラクタだった。それが偶然に神秘を得て、道化の姿を手に入れたにすぎない。 切り裂かれた腹から綿が零れる。 穴の空いた道化の腕が木端を散らす。 それでも道化は曲芸を続ける。その度に、神秘を帯びたガラクタの破片が、目の前の2人を傷つけていることなど、知りもしない。ただただ純粋な想いを込めて、災厄を撒き散らすのだ。 「突然出てくる可能性も考えると「黒い箱」の近くには行かないのが重要ね」 見える範囲で、なおかつ攻撃が届く距離にある箱は、全部で3つ。魔方陣を展開しながら、文佳は呟く。文佳の頭上を飛びながら、イスタルテは注意深く道化の動向を窺っていた。 道化と距離をとって、相手の攻撃が当たらない位置で構えているのだ。先ほどまでの曲芸ラッシュを浴びて、2人ともダメージが蓄積してしまっている。イスタルテによる治療を受け、すぐにダウンするということはないだろうが、油断は出来ない。 「心苦しいですが、そうもいってられないんですよ……。ごめんなさい」 空中からフィンガーバレットを道化へと向けるイスタルテ。彼女の手元に展開される魔方陣から、流星のような光の弾丸が放たれた。箒星を連想させる光の雨が、ガラクタの山に降り注ぐ。 道化は近くにあった黒い箱へと跳び込むと同時に、イスタルテの流星はその箱を砕いた。 範囲攻撃に巻き込まれ、更にもう1つ、別の黒箱も砕け散る。 「さぁ、来ますよ!」 「んー。なんとかなりそうね」 イスタルテの声を合図に、文佳は銀弾を解き放つ。 まっすぐに、それはもう1つ残った黒箱へと吸い込まれるように飛んで行く。銀弾が黒箱に当たるその直前、箱の中から道化が飛び出して来た。 道化が銀弾を認識するよりも速く、文佳の弾丸は、道化の眉間を撃ち抜いたのだった……。 ●笑顔の魔法 「逃げずに……アンコール! アンコール!」 飛び跳ねる道化を追いかけていたのは、剣を振り回し、道化に斬りかかる麗香であった。 道化は、まるで鬼ごっこでもするかのように、軽いステップで麗香から逃げ回る。足元にガラクタボールを生み出し、その上で跳ねていた。その状態で、軽く上体を反らして麗香の斬撃を回避した。撒き散らかされるガラクタ片を受け、麗香はバランスを崩した。そんな麗香に見せ付けるように、道化はジャグリングの速度を上げる。それだけではない。ジャグリングの弾を増やし、動きも複雑なものへと変えるのだ。万華鏡のようにくるくると変化するボールの動きは、見るものを魅了せずにはおられない。 「………すご」 道化のジャグリングに見惚れていた。だから、回避は間に合わなかった。麗香の足を、ガラクタの破片が撃ち抜いたのだ。ゴミ山の上から、麗香はバランスを崩して落下する。 咄嗟に手を伸ばし、麗香は道化の足首を掴んだ。 麗香に引っ張られる形で、道化もまたゴミの山を滑り落ちて行く。 「ライヘンバッハの滝ごっこ……です」 「ナイス。さて、その技でどうぞお相手を」 体勢を崩した道化の元へ、大剣を振りあげ桐が跳びかかった。その身は既に血だらけだ。何度も道化に斬りかかり、その度にお互いがダメージを受け続けた結果である。 道化も、桐も、麗香も、全員そろそろ限界が近い。 そんな状態で桐は、血を撒き散らしながらゴミ山の上から跳んだのだ。重力を乗せた、勢い任せの一撃が道化へ迫る。 「はぁっ!」 裂帛の気合を込め、全力を込めた一撃を叩きつけた。 落下しながらも、道化はジャグリングを続ける。ゴミ山のガラクタを手にとって、ジャグリングの弾を増やす。ぐるぐる、ぐるぐる。桐の目の前でガラクタが回る。 飛び散った破片が、桐へと降りかかる。桐の剣は止まらない。だが、防御に気を回す余裕もない。ガラクタ片を全身に浴び、桐の意識が遠ざかる。 意識が途切れるその寸前に、桐の剣は道化の身体を真っ二つに切り裂いた。 2体の道化が消えると同時に、ゴミ山に点在していた黒い箱も全て消えた。 ピエロの人形が、倒れ伏した桐の手元に転がっている。 桐の意識はすでにないようだ。だが、任務は完了である。 イスタルテは、桐の傷を治療する。 文佳がそっと、ピエロに人形を拾い上げた。 麗香は、剣を鞘に仕舞うと、意識を失った戦友を背負い、ゴミ山を降りて行く。 気絶した桐の口元には、柔らかい笑みが浮かんでいた。 心なしか、ピエロの人形も笑っている。文佳には、そう見えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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