●星は静かに・眠る影 「さて、諸君らアークと我らオルクスパラストとの混成部隊は目標防衛ラインに到着した。この地点で迫り来る怪異を迎え撃つのが我らの任務であった……そうであるな?」 今日の夜空は実に美しい。空気は澄み星は何物にも遮られることなく夜空を輝かせる。今日この日、無数の異形が一つの箇所を目掛け殺到しているとは思えぬほどに。 アークが有する万華鏡が見通した先。それは混沌と化した破滅の未来。ミラーミスにしてフィクサードであるラトニャ・ル・テップが、それが率いる異形がこの地を覆いつくす現実。 三ツ池公園。そこに無貌の神が望む物があるとするならば、その正体は言わずと知れたものだろう。『特異点』――『閉じない穴』である。 神秘的影響を増大させる特異点化現象。様々な神秘が通常より濃い濃度で顔を覗かせるこの特異点化が数年振りに最高潮を迎えるという事実。それはラトニャが動くことを意味していた。神秘影響力が最大限に増大するこの時を『星辰の正しく揃う時』と称し、己の世界とこのボトム・チャンネルを完全に接続・結合せんとして。 彼女の上位世界とこの世界の結合は、実質吸収に過ぎない。今あるものの崩壊、世界は破滅を迎えるだろう。 ラトニャとその率いるモノの力は圧倒的。だからと諦める案などあるものか。見い出した希望は歩む先にある。踏み込まねば指先にだってかからない。掴まなければならないのだ。この戦いは、世界の命運をかけているのだから。 ――近づく絶望を押し返すために、自分たちはここにあった。 ――あったはずなのだ。 「ふむ……見たまえ。我々は侵略者を出迎えるはずだったというのに」 難しい顔の男達は3人。共同作戦に参加しているオルクスバラスト所属の熟練の戦士達だ。彼らはおかしな話、あるいは悪い冗談だと指先で指し示す。 その先に確かに存在するもの。そんなものこの場になかったのに。あるはずがないのに。それはぽっかりと口を開いて彼らを待ち受ける。厳かに、歪に、不快な寒気を押し出して。 「我々が出迎えられているというのが現実だ」 それはこの場にあまりにも不似合いな……小さな洋館だった。 煙突部分から影が飛び出す。牙を剥く醜い魔物を、三方より槍が貫いた。 「聞こえるかねアークのフォーチュナ」 「はいはい聞こえてマースよオルバラのおっさん」 情報センキューと『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)の声が通信機を通す。熟練者の報告を元に解析を行っているようだ。 「身体を鈍らせる瘴気と一緒に異形を生み出し続けるみたいデースね。その中も妖しいふいんきで一杯デースが、やっぱりその洋館そのものが怪異デスね」 「では外から破壊すれば終わり……とはいかんわな」 顎鬚を撫でる戦士に「そんな空気の読めない展開になるかヨ」と微笑んで。 「外からの破壊はあくまで一時的な侵攻を食い止めるだけに過ぎまセン。異界に繋がる内部の破壊が、この異形の討伐に繋がりマス」 中の様子は不明、恐らく罠。危険ではあるけれど、行かねば終わらない悪夢が続くだけだ。 瘴気は徐々に公園に広がる。生まれ出る化け物は勿論、洋館の影すら闇に引きずり込む脅威となって襲い来る。それらを見据え―― 「よし、我々が残ろう。アークの諸君は内部を頼む。なぁに、この程度の防衛、我ら3人で十分さ」 「ちょっと向こうを見てくる。ははっ、長年の相棒(ショットガン)がいるから平気さ」 「国に帰った頃には孫が産まれてるんだ。さっさと終わらせて帰らないとな」 「この場はフラグ立ったおっさん達に任せて内部をお願いしマースよMiss.Mr.リベリスタ。状況は不明デスから気をつけてネ」 全員笑顔でサムズアップ。 ●甘く香れよ・悪い夢 住宅に足を1歩踏み入れる。その瞬間に気付いた。『ここは危険である』と。 『どうして誰もいないんだ?』 『あなたどこの子?』『誰か私をずっと見てる』 『止まらない。赤いあかいアカイ水』『出してここから出してだしてダシテ!』『痛いいたいイタイイィィ!』 それは突然のこと。後から後から溢れ出る感情の奔流。溺れるような感覚の中家族を探す。助けを求めても誰もいない。急いで逃げなきゃ急いでいそいでイソイデハヤクハヤクハヤク。 誰もいない世界で僅かな光源を見つける。誰でもいい、助けてくれとその光に飛び込むように足が動く……その瞬間、肩を強く揺り動かされて気付く。 入り口から1歩目の位置。まだそこから動いていない。同じような幻覚を振り切ったのだろう、疲労した表情で仲間が肩から手を離した。 「……一瞬、自分がわからなくなった。知らない人間の感情に飲み込まれてた」 「たぶん、この家に呑み込まれた人」 もう死んでいるだろう。いったいどれくらいの数が犠牲になっているのか。 この家の危険さを見せ付けられて、仲間と顔を見合わせる。 だからと引き返す選択はない。強い精神で振り切るのみ。頷き決意の意思を瞳に宿し――もう一度一歩を踏み出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月15日(火)22:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●遥かな光・背中の灯火 足を1歩踏み入れた――途端に揺らぐ室内。否、揺らいでいるのは空間の概念そのものか。 歪に蠢く壁は隔てる意味をすでに成さない。ただ先があるというだけの通路という既存の概念が残るのみ。 全周囲を見通せるに関わらず、視線の向けどころのない無間。振り返ればすでに出口はなく、奇妙な空間が織り成す不安と恐怖を倦怠感や吐き気が背中を押す。神秘に精通した者でなければとうに精神に異常をきたし、異形の餌となるのだろう。幾多の命がそうであったように。 ここは異形の餌場。いや、捕食者の胃袋そのものか。 ――悪趣味よね―― ふと届いた念話に、壁を探っていた『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が目線を上げた。意思を織り紡ぐ『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)が小さく口の端を動かして。 ――誰しも死後は静謐な眠りを望むもの―― 故に悪趣味。死者を絡め取り新たに引き込む暴食の異形を切って捨てた沙希に「違いない」と頷いて。 「解放してやらないとな」 異界と化した洋館の魔力をフツは辿る。異形を、それに捕食された亡骸の魂を示すために。 何処までも続く通路。蠢く壁を乗り越えて振り返ればすでにその場は姿を変えて。その不気味さに人は不安を煽られる。 「状況だけを見るなら、まるでホラー映画の様だが」 悠長な事は言ってられんなと、惑わされる事なく歩みを進めるために『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が白銀の狼の耳をそばだてた。館内の音を残さず集めていた龍治の耳がピクリと震える。 「どうした?」 フツの疑問に指で指し示す。まず一点。ついで逆の方角へと。 「肉塊が這いずる音だろうが……拾った音が同時に別の場所でも聞こえた」 ――なんとなくわかる気がするわね―― 用意した光源で館内を観察していた沙希が頷く。通路の違和感を感じていた彼女がフツに伝え。 「ああ、間違いないだろうな」 魔術の知識を脳裏に浮かべながら答える。小さな洋館の中で、膨れ上がった異界の通路を見やって。 暗闇の中をわずかな明かりで進む一行。その中で闇を見通す目の持ち主達が周囲を探る……わずかな異常も逃すまいと気を張る離宮院 三郎太(BNE003381)もその1人だ。 「気を引き締めるのは良い。だが過ぎれば動きに支障が出てしまうものだ」 「は、はいっ!」 その肩を軽く叩く『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)に促され、三郎太が一つ深呼吸をして。落ち着いて凝らした眼に、飛び込んだ小さな光源。 視線の先でふわりと浮かんだ光源は嘲笑うかのように離れていく。慌てて追いかけようとした三郎太をウラジミールが手で制した。 何かが見えた。闇を見通す目の他に、遥か先を見通す目を持つウラジミール。その瞳に映ったもの。 あれはなんだ。アザーバイドが向かう方角にある複数の影。人だ。人の背中。その影は……8つ! 「後ろだ!」 ウラジミールの叫びに三郎太が慌てて振り返った。歪な世界。歪んだ空間で背後を取り宙に浮かんだ目玉が捕食の喜びに歪む。全ての獲物を視界に封じて、その視線に魔力を込めて…… その視線が断ち切られた。突如壁を蹴って天についた影に視線が跳ね上がる。視線を引き付けたことを確認して飛び掛り振り切った二刀が纏わる魔力を断じれば、影は余裕の笑みを浮かべて。 「リスクマネジメントってのは、いつだって大事なことさ!」 異形の視線が持つ悪意の魔力。それらを寄せ付けぬ戦気を放ち『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が二刀を突きつければ。 「お相手しますっ!」 仲間を視線から遮るように杖を構える三郎太。その横からウラジミールがコンバットナイフを手に悠然と進み出て。 「任務を開始する」 相手が誰であれ、世界に害なすモノならば排除する。気負いはない。守護者として、世界を護るだけなのだ。 ●迷わぬ眼・貫く指先 「出来る限りボクの後ろへっ」 後衛の仲間を庇う三郎太や、その後ろでアザーバイドを静かに見据える沙希に異形は戸惑いを覚えていた。自身の本領たる、幻覚と瘴気の魔眼が力を発揮しないのだから。 ――私たちには効かないわ―― リベリスタの半数がその魔眼の力を完全に無効化している。そして残る半数も十分な対策を取っており、それを後押しするように沙希が祈り抵抗の力を付加したなら、一人ひとりの弱体化すらままならない状況。 能力を封じられた異形が不快を表し……瞬間、迫る不可視の念を捉え掻い潜った。 「む、避けられた……いや、見られたのか」 気合と共に槍の穂先から放った呪縛の念。その見えないはずの力場をアザーバイドが捉え回避した事実にフツが自身の頭を叩く。目玉の異形が持つ幾つもの特性、その中の一つがこの射撃に対する回避特化。 瘴気による弱体化と合わせ、厄介な特性であるが……そう考えながらも特に焦ることはない。身体が軽くなる感覚に、背後に手をひらりと振って応えて。 全員が対策を備え、幻覚による同士討ちの危険はない。後衛には瘴気を払う仲間たちが控えている。行動を阻害されないならば、持久戦もなんら彼らを縛りはしない。 「んじゃ、腰据えてやりあうとするか」 深緋を強く握りなおし、フツが1歩踏み込んだ。 ――続いて回復支援―― フツの守護の結界に重ねて翼を構築すれば、沙希の祈りは仲間の動きを支援して。ついで唱える音無き言葉が瘴気にあてられた仲間の抵抗する意思を増幅させていく。 沙希が重ねるたびに神秘の守護に阻まれていく異形の魔眼。アザーバイドがぶつける憎悪の視線をも彼女は涼やかに受け流し。 その視線を断ち切るように放つ気糸の螺旋。結晶体から伸びた渦をアザーバイドが見切ってかわすも、三郎太は落ち着いて分析していく。動きを、立ち位置を、その視界すら脳内で纏め演算した結果の内ならば、仲間が受ける視線の効果を気糸は確実に断ち切っていく。 状況を変える、そのために。 恐怖とは理屈では割り切れぬ感情。拒絶も諦観も恐怖の否定にはなりえない。恐怖の前では、人の意思など荒波に漂う小舟のようなもの…… されど。そう口にして胸元で巻物を開く。癒し手の心。癒し手の矜持。積み重ね受け継いだ誇りは彼女に心の操舵を鍛えさせてきた。『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が全てを包むように手を伸ばし。 「畏縮も慢心もなく……皆様のお怪我、只管癒してみせましょう」 周囲を照らす魔術の光源がまるで結界のように広がっていく。瘴気の効果を押し返し、まるでシエルの祈りが世界を広げていくように。 自身の魔眼を妨害する光にアザーバイドが怒りシエルの傍を駆け抜けた。それは直接的な被害を生む突進と呼べるようなものではなかったが……その辿った軌跡の間に蠢くモノがある。闇に乗じ、暗視を持たないシエルにそれらが飛び掛れば彼女は一息に呑まれようが…… 予想に反しシエルは足元の敵の位置を把握して距離を取り、そのまま隣の人物に小さく礼を言った。闇を見通すその目線を、這いずる音を確実に捉えピクリと震えるその耳を、闇の中で敵味方の位置を量る頼りにしていたならばシエルの動きも理由がつくだろう。一方的に礼を言われた龍治は軽く目を瞬かせただけであったが。 足元からアザーバイドが産み落とした肉塊が迫る。だからと、シエルは恐怖に怯える小舟ではない。 「癒しの祈り……止めませぬ!」 再び紡ぐ祈りが恐怖を弾き照らす。 歪む世界を銃口が彷徨う。的を求め、不確かな空間で確かを探る。 その身に飛び掛る肉塊。異形と化した腕を振り回し、一息に呑み喰らおうという意思は……横から突き出された腕に阻害される。 腕の1本をナイフで切り裂き、次の腕をグローブで受け止め、ウラジミールの身体にはわずかな傷が残るのみ。事前に備えた護りの効果がよくでている。 「何事も準備が大切だからな」 そう笑った……と思われるウラジミールに、別の肉塊が身体の一部を飛ばし悪臭を纏わせた。もっともそれには指で口元を指し示すのみ。 「小さな事でもきっちりと対策をしていくものだ」 悪臭対策にとマスクまで用意したウラジミールの表情は見えない。が、恐らくわずかにドヤ顔を見せていただろう。 「では、これが『挨拶(プリヴィエート)』だ」 ちらりと後ろを見やり、迫る腕をいなして付け根を斬りつける。そのまま蹴り飛ばすように距離を開けたなら身を低くして……仲間との連携を優先し。 「さあ、狩りを始めよう」 歪な世界の中で十分な集中を重ね。龍治が構えた火縄銃が響かせる連続する銃声。 音は炎を伴い肉塊を燃やす。炎が歪な世界をより揺らぎ惑わせて。 焼け落ちた肉塊を飛び越え駆け抜ける。黒く輝く脇差を抜いて、逃げる異形の背中を追う。 仲間の陣頭に立ち、周囲の様子を肌で感じながら目線は異形から逸らさない。嗚呼、異界にも風を切る感覚は存在するのか。 目の前には異界の存在。もしかしたら、悪意なんて持ち合わせてはいないのかもしれない。それでも…… 眼前の背中が突如掻き消える。代わりに正面から視線を――悪意をぶつけるアザーバイドが自分を追う全てを視界に捉えんとして、眼前にいたはずの存在が掻き消えたことに気付く。 どこに行った? どこへ…… 「貴様は絶対に赦さない」 言葉は背後から。全身のねじを巻き、しなやかな肢体をばねのように躍動させて、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は空間の先へと踏み込んだ。 視界の隅に肉塊が見える。かつて人であったもの。異界の存在に呑み込まれたもの。命を、未来を、家族を奪われたもの。故に。 「貴様がこの世界に存在することを赦さない」 一刀。全身を刀に見立てて、空間ごと貫く一撃が異形を斬り裂く。 肉塊をばら撒き距離を取ったアザーバイドに届く銃声。その視線は銃弾を捉える。その軌道を、到達地点を読み取って―― 次の瞬間には自身が抉り貫かれたことに気付き、わずかな間をおいて絶叫を上げた。 「簡単な事だ」 次弾を込めながら龍治が呟く。 「高い回避力を持つと言うなら、それを上回ってやれば良い」 見れたところで避けられねば意味はなく。放てば必中。八咫烏の名は伊達ではない。 怒り狂う異形に再び一閃が迫った。外側より舞姫が仲間の側へと追い込む一撃を狙い―― ぎりぎりで直撃を避けて逆側へと逃れる。なんとか狙いから逃れたと安心も束の間、舞姫のいたずらな表情が視界に映った。 「残念、こっちもだぜ!」 逃れた側から突き出された槍が身を貫く。そのままフツが槍の穂先を回し遠心力と膂力を込めて―― 「いくぜ、相棒!」 深緋と共にアザーバイドを薙ぎ飛ばす! 一直線に中央へと投げ出された眼球に、龍治の放つ次弾が再び中心を狙い撃って。 ●磨いた器・魂の矜持 「こりゃあ一気に削りすぎたんじゃね?」 12体を越えた肉塊が床を狭しと蠢く状況に竜一が愉快げに声を上げ。やるかと肉塊へかざした刀は3振りあった。 1本は竜一と背中を合わせた舞姫のもの。踏み込みは同時、互いを阻害せぬ円の動きが無数の肉塊を切り崩す! 1つ振れば肉塊は風に押し付けられるように動きを縫い止められ。 2つ振れば肉塊が近くの同類を捕食せんと襲い掛かる。 「まずは数減らしです! どんどん行きますよ!」 舞姫の目にも止まらぬ斬閃が次々と肉塊を寸断する。その一撃は強く、けれど連続する多数の振り回しに傷は積み重なり…… そのうちのいくつかの腕が弾き返された。 「戦場の動きを常に把握する事が大切だ」 舞姫の死角を庇うようにウラジミールが割り込んだ。油断できる相手ではない。連携を重ねて最善を尽くす。広い視野を持つウラジミールだからこそ、孤立を避けて仲間を上手くフォローしていた。 「一人だけで戦っているわけでないからな」 神秘の浄化を施せば、瘴気の影響から解放された舞姫がより鋭い踏み込みを見せて新たに肉塊を斬り捨てる。 その裏側で、神秘の発現に行動を封じられた一部の肉塊を避けて、二剣を合わせた剛剣の一撃が肉塊を屠っていく。最高の一撃は敵の状態を一瞬で見極めて確実に着実にその数を減らし。 「どんな肉かなんて、見れば俺には一目瞭然だぜ。俺は”一人焼肉マスター”だからなァ!」 ――まぁ人肉食ったことねえけど。 竜一が気負わぬいつもの調子で最前線を駆け抜ける。 その背を追い、ウラジミールが背後を固めた。誰もが最善を尽くす、その後押しに。 「自分たちはこの世界の守護者だからな」 闇の世界を千切れ飛ぶ異形の血肉が染め上げる。活動を停止した肉塊を踏み越えて新たな肉塊が床を埋め尽くす。 狂おしい饗宴の如き世界で、冷静に全てを見定め動く者たちがいる。 「大いなる癒しを此処に」 激しい戦いの中、傷つき弱る者たちをシエルの祈りが護り立ち上がらせる。傷一つ残さぬその力を連続して紡ぎ上げ。 ――次は補助支援、ね―― 戦闘を支援する付与効果が途切れる前に、沙希が抵抗の意思を練り上げ纏わせる。 2人の癒し手は強力な援護を惜しみなく繰り返し、その戦闘の安全に大きく貢献していた。 ――三郎太さん。龍治さんに補給を―― 同時に沙希は念話で指示を飛ばす。戦況を見定め、その力の枯渇を量り…… 「はいっ! 皆さん、ボクがすぐに回復しますっ」 すぐに三郎太が精神を繋ぎ円滑な循環を行使する。長期戦において、誰もが力の枯渇を恐れず戦い抜けること。それがどれほど大きなことかなど改めて問う必要もない。 癒し、護り、支える。誰もが全力を尽くす戦場で、そうであれる場を作る。全力を支える全力。ここに彼女たちが揃っていることが、どれほどの力になっているか。 「癒しの大天使……邪眼から我らを守りたまえ」 ――再び肉塊出現の兆候ありよ―― 「支援しますっ! どうぞ全力攻撃をっ」 シエルが、沙希が、三郎太が。仲間たちが惜しみなく戦える空間を作る。 これが、これこそが癒し手の矜持。 「何体倒したっけ?」 肉塊を叩き潰して竜一が問う。風切り音が響いて肉塊を気糸で薙ぎ払いながら三郎太が脳内で計算を進行し。 「20は越えましたっ!」 「そうかそうか、わかりやすくていいことだ」 肉体を削るごとに肉塊を生み出す異形の特性。残る肉塊の数と照らし合わせれば、アザーバイドとの決着が近いことを理解させ。 「よし、頼むぞ」 多くは語らない。ただ竜一が二刀を新たに構えなおした。それで十分。 即座に道を固めて進路を塞ぐ肉塊が、巻き起こる風に押し流された。 「魔風よ……在れ!」 シエルの祈りが、その翼を媒体に発現する。強力な突風に全身を刻まれ、それでも抵抗の歩を歩めんとした肉塊が銃声に飲み込まれて炎上した。 「……悪夢など、見ないに限る」 銃弾は焼き尽くす浄化の炎となって、龍治の呟きと共に肉塊を天へと還していく。 「おっと、逃げる気か」 炎の向こうでアザーバイドが背中を向けていた。異界に逃げ込み再起を狙うつもりだろうが……フツの指摘にリベリスタたちが一斉に牽制を行った。 その進路を誘導され、後方から響く足音に気を取られ…… だから、空間を駆け抜けて前方で待ち受けた影に気付かなかった。黒曜は鋭く黒の輝きを魅せ。 「貴様に呑まれた全ての人の恐怖と絶望を怒りに変えて、貴様を叩き潰す」 地を蹴って1歩。舞姫が異形を切り刻むのに十分な踏み込み。連続する剣技が穿ち刻み描く黒の残滓。 「微塵も残さず消えて無くなれ」 人間を舐めるなと。小さく口にしてトンとアザーバイドの身体を突き放す。 瀕死の身体はしかしなんとか形をとどめ、生き延びる最後の手段を模索する……が。 同時に気付いていた。自身に迫る足音に。だが、振り返ってもその姿は確認できない。 どこにいるのか。それもわかっていた。わずかな奇跡すら断たれたことを自覚した、緩慢な動きで天を見やる。 終焉は天より来る。 異界の空を駆け抜けて、天を蹴って合わせた二刀。 ただ無造作に。ただ豪快に。戦気を放ち、全力以上の全力を込めて。猛々しい雄叫びと断末魔、2つの咆哮を響かせて―― それが終幕の合図。多くの命を吸い寄せ集めた、歪な洋館の滅びの時。 甘く香るスウィートホーム。悪い夢は、もう見ない。 「おう、戻ったか」 洋館から1歩踏み出す。その途端掻き消えた異形の住処。感慨にふける間もなく現実に戻されたリベリスタたちを、オルクスパラストの戦士たちが出迎えた。 彼らの戦いも想像を絶するものだったことは彼らが全裸であることでなんとなくわかるが、そちらを見ないようにしてリベリスタたちは顔を見合わせる。 「ここでの戦いは終わった……が、まだ戦闘は各地で続いている」 ――どちらかが滅びるまでが決戦よね―― ウラジミールの言葉にくすりと口の端を持ち上げて。沙希の視線はすでに召還の儀式が行われている地点へと注がれた。 一つ頷き、仲間の顔を見渡して。フツが代表で口を開く。 「よし、行こうぜ」 強い精神、決意の瞳――未来へ繋がる一歩を踏み出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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