● 「さて、三ッ池公園に向かって頂きたいわ。よろしくどうぞ」 拒否権すら行使させない様な強さで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はリベリスタを見回す。アークが誇る『神の目』が掴んだ情報から危険を感じとるのにそう時間は掛からない。フォーチュナ達もてんてこ舞いと言ったところだろうか。 「現場は何時も通りの三ッ池公園。今日は――とても綺麗な星空ね? 風流な事を言ってる場合じゃないかもしれないけれど、空の様子も此処まで綺麗だと異質に思える程だわ」 吐き出す様に告げた世恋の言葉の通り『今日』という日はとても美しい星が煌めいている。 こんな夜の事を『ある少女』は「星辰が正しく揃う刻」と呼んだのだそうだ。 「今日はとっても大事な日。とある女の子にとって素敵な日よ。 それは――そうね、『彼女』の目的が分かった、と言っていると受け取って頂いて構わないわ」 「『彼女』」 確かめる様に、否、もう誰かは解って居るのだ。 このタイミングに神話になぞられた様に『星辰の刻』と口にする少女の姿をした人物等。 「歪夜の使徒、『ラトニャ・ル・テップ』。彼女はフェイトを持ったミラーミス。 つまり、『神の目』は神様の動向までもを掴んだということね」 ラトニャ・ル・テップの目的、それは今まで謎だと言われていたのだが、たび重なる『恐怖事件』から、リベリスタ達はその解決方法を考えていたのだ。はるばる異世界へと足を踏み入れたリベリスタ達により、彼女を封じる方法を得たリベリスタにとってラトニャの『目的』が分かると言う事は好機に他ならない。 「彼女にとって目的は、『特異点化』したここ、日本の三ッ池公園――閉じない穴を利用して、世界を繋げる事よ。因みに、神秘予報。特異点化は最高潮に達し、神秘の力が増強されるでしょう。この日をラトニャさん風に言えば……」 星辰が正しく揃う刻――夜、ということか。 「今回の作戦にはオルクス・パラストの全面協力を得られることになっている。 公園内の至る所でアークとオルクスパラストが闘う事になっているわ」 危険な任務になる、そう言われていると同義ではあるが、世恋はそれ以上は言わない。 ふと、リベリスタが何気なく世恋に聞いた。 「世界が連結したら、どうなるんだ?」 「そりゃあ――サヨウナラさえ言えない世界が来るんじゃないかしら? ……知らないけれど、ね?」 ● ぺちゃり、と田んぼに張られた水の中を何かがうごめいた。 泥濘を進む巨大な物体は月明かりの下に居るのに余りに似合わない。 姿を目にした『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が幾ばくか後退りリベリスタ達の顔を見る。 「……ええと……?」 「――――――――」 何某かを話す化け物がべちゃべちゃと泥濘の中を歩きだす。 子を産む様な動作を見せたかと思えば、生物の体の中で臓腑がビクリと蠢いた。 気持ち悪さしか感じさせないソレは何処か――そう、閉じない穴の方を向いて喝采を送る。 何かを叫びながら、この夜を喜ぶかのように。 両手を撃ち合わせては、蛙は臓腑を透けさせながら声を張り上げていた。 ぺちゃり。 ぺちゃ、り。 段々と近づくその音に身構える他ない。 何処かから聞こえる闘いの音に、耳を澄ませながら蛙の喝采は止まらない。 何か、今日の夜という日を喜ぶ様に。 蛙は嬉しそうに両手を打ち鳴らし続けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月13日(日)22:55 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 今日の空の色はやけに明るい。夜空を飾る星はかの歪夜十三使徒の一人が『星辰の夜』と呼んだだけのことはあるのだろうか。今日と言う星空を『終焉』と呼ぶとするならば『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)にとっては不幸でしかない。平凡を愛し、平凡に生きてきた青年の手に宿された能力が彼を『平穏』の中に置く事を許さない。 「俺にとってはこの世ならざる者だけでも異質だっていうのに、深淵の神々との対峙とはね……」 神話になぞられた世界は壁一つ向こうに存在して居る。それこそ、過去の人々の警告であったのかもしれないが。 宗二郎という青年は「抗えるだけ幸せなのかね」と溜め息をまじらせながら直死の大鎌を構えて見せた。 抗えるだけ幸福。その意味を『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)は知って居た。彼が異質な存在と闘う切欠になったのは中国の南部へと仕事の為に渡った時だったのだろう。 「今も、忘れる事はないっ」 不撓不屈の心得を抱き、小雷は大きく脈打った鼓動を抑える様に浅く息をつく。 そこには『蛙』が居た。異形の者は小雷の故郷――同胞である中国のリベリスタを甚振り、アークのリベリスタ達を逃がした形となるのだろう。その光景はまだ年若い小雷の心にも大きな傷を残したのかもしれない。 「誰かが犠牲になるのは、酷く辛い物だね」 「俺は……彼らが命をかけて護るほどの価値があったのだろうか」 小さく囁いた『祈鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)の声に小雷は消え入りそうな声音で応える。 震える声に遥紀は目を伏せる。きっと「価値がある」と彼が小雷に言ったとしても納得しないだろう。 己を納得させる為の戦いなのかもしれない。そう感じるほどに遥紀は小雷が戦場に向かう思いの大きさを思い知る。己に宿る祝福の力が彼やこの場のリベリスタ達を護り切る事が出来るのだと確認する様に掌で煌めいたミスティコアに目をやった。 「それでは、桜庭様。作戦はお伝えした通りで宜しくお願いしますね」 「OK! 任せてくれよ!」 確認する様に「十戒」を撫でた『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)はブリーフィングでのやりとりを『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) や彼と共に戦場へと訪れたオルクス・パラストの面々へと伝えている。友軍として協力するオルクス・パラストのリベリスタ達は互いに頷き合い、田んぼの奥で背を向けたアザーバイドを視界にとらえた。 「ふむ、今回の相手は蛙……蛙? ですよな?」 視認してみるに『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が知っている蛙とはその姿が違う。体の内部、臓腑が透けて見える蛙等そうそう居るものではないだろう。Chat noirを構えて眼鏡のズレを直した『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は蛙――『紅月の民』と呼ばれたアザーバイドをしっかりと視界に入れて視線を下ろす。 ぴちょり、と。 田んぼの泥濘の中を紅月の民がゆっくりと歩みよる。その動きに合わせてのんびりと蠢いた巨大なオタマジャクシは手足を生やしレイチェルの出方を伺っているのだろう。 「私はカエルもオタマジャクシも、個人的には嫌いでは無いのですが……これだけ巨大だと、可愛らしさの欠片もありませんね?」 星空の下でじっとりと濡れた体を揺らしたアザーバイドにレイチェルは溜め息を漏らす。 竦めた細い肩が小さく揺れる。地面を踏みしめた彼女は星空を切り裂く様に漆黒のスローイングダガーを投げ入れた。 ● まるで破裂する様に光りが周囲を包み込む。動きを止めんとしたレイチェルのそれに巨大なオタマジャクシが体を揺らした。速効攻撃に体の向きをリベリスタへと向けた蛙は田んぼの中、地面をしっかりと踏みしめた。 速効攻撃を得意とした黒猫は靱やかな動きを見せて地面を蹴る。行動の速さから、オルクス・パラストのホーリーメイガスよりも先に小さな仲間達へ翼を授けた遥紀は「君に回復は任せるよ」と自信を溢れさせる欧州の少女へと声をかけた。 背筋を走る恐怖感。それは『あの時』とは違うと言う様に持ち前のバランス感覚に翼の加護を受けた小雷は前進する。臓腑を浮かび上がらせた蛙へと物理的な攻撃全てを貫き通す様に破壊的な『気』を叩きこむ。 「貴様は――あの時の化け物か?」 憎悪を込める様に。仇討でなく、己の存在理由を問う様に。 蛙は小さく鳴くだけだ。小雷の打ちこんだ掌越しに、アザーバイドの臓腑が脈打ち、ぐちゃりと歪む。 「本当に気色悪いですね? まあ……可愛らしかったとしても倒すべき敵であることには変わりはありませんが――速やかに、排除させていただきます」 レイチェルの言葉を理解して居るのか否か。笑う様に高らかに声を発する蛙は直撃を免れた小雷の攻撃で動きを止める事は無く泥を踏みしめる。背筋に感じた『厭な気配』に小雷は一手下がるが、彼の腕に巻き付く舌はきつく締めつけ始める。 「ッ――!?」 「前哨戦であることには違いない。蛙にしては中々如何して……いや、細かい事は気にしないでおきましょうかな」 小型護身用拳銃がくるり、と九十九の掌で回る。全身から生み出した漆黒の闇が美しい星空を侵食する様に伸びあがり、九十九の体へと収縮していく傍らで、明るい星に照らされて揺れたロザリオを胸にリリがふわりと浮かびあがる。 「その様な舌、我らには通じません。我らが神は堅き砦――この地上、我々の世界で勝手な振る舞いはさせません」 ブーツの爪先が泥濘を蹴る。辛うじて動き出そうとするオタマジャクシが彼女の足先を目掛ける攻撃を器用に避けてリリが生み出した誘導魔弾。蒼く煌めくソレが夜の空を花火の様に照らし上げる。 「さあ、『お祈り』を始めましょう――?」 謳い文句の様に。神に祈るが如くリリは告げる。小雷の仇であるかもしれないならば、尚更に討つ他にはない。 小雷に絡み付く舌をリリの魔弾が打ち付ける。弾丸を受けて『増』えたオタマジャクシの個体にリリが視線を零すと同時、巨大な個体を気糸で絡みこんだオルクスのプロアデプトは仲間へと視線を零す。 「うわっ、気持ち悪ッ!」 「はは、素直に言うな。確かに気持ち悪い――ここでお別れしておこうか?」 花を咲かせるが如く、貫く蹴撃を飛ばした蒐にからからと遥紀が笑って見せる。舌を切り裂かれた蛙はさも気にしない様に泥濘を踏みしめて跳ね上がる。 こんな明るい空じゃ、暗闇なんてありはしない。安全靴を履いた宗二郎は縛った髪を揺らし、漆黒のオーラを明るい空の下に浮かびあがらせる。明るい夜には訪れない黒き闇の帳を落とし、夜の畏怖を知らしめる様に――『恐怖の紡ぎ手』であるアザーバイドを貫いた。 反動に高鳴った胸に気付くが様に宗二郎へと微量の回復を与えたホーリーメイガスは緊張を零してレイチェルの横顔を見据える。 「大丈夫、この場での動きはすでに掌握しています――無論、私達は」 勝つ、と。端的な言葉を零す事は無く『殺したがり』が地面を踏んだ。彼女の前を走るデュランダルはオタマジャクシの上を越え、雷撃を纏った切っ先を蛙へと振り下ろす。 「おっ、と?」 体をぐるん、と逸らしたデュランダル。その場所に投擲されたフラッシュバンはレイチェルの戦況分析の結果を告げている。多くを分裂させる前に先制攻撃を続ければ、その場所を制圧できる事に違いは無い。多少なりと前線に出ている彼女を補佐する様に黒き瘴気を飛ばしながら往く手を阻むオタマジャクシを吹き飛ばす九十九は仮面の奥で目を細める。 明るい空に『都市伝説』の姿はあまりにアンバランスだったのだろうか。美しい星空を侵食する様な闇がスッ、と彼の体の奥へと引き籠る。 「成程ね、神秘攻撃が苦手なのか。それなら、これはどうだい?」 嗤う遥紀の持ち前の知識は勘の良さが相俟って解析が素早いのだろう。的確に相手アザーバイドの特性を把握してる。 魔力の渦と共に広がる翼にオタマジャクシや蛙が声を漏らす。重ねられたリリの弾幕がその中を意志を持つ様に跳んで行った。 びしゃり、と。跳ね上がる泥にリリが咄嗟に目を伏せる。小雷や宗二郎の間を縫って、周辺攻撃を行うリリや動きを止めることに専念するレイチェル、そして間合いを測りながら標的を定める九十九に向けて周辺へと毒々しい色の液体を撒き散らす。 「ッ、これは!?」 液体は鋭い刃の様に突き刺さる。咄嗟に避けたリリの腹を裂いて、貫通する様にオルクスのホーリーメイガスへと突き刺さる。 「成程……頭脳はあるという訳ですが? 生憎ですが私には攻撃力もなければ、防御力も、回復力もない。 あなたの攻撃一つでこのザマです。でも、代わりに私には私しかできない事がある」 眼鏡の縁に宛てた指先が、Chat noirへと添えられる。攻撃を癒す様にオルクスのホーリーメイガスが祝詞を唱え出すと同時、リベリスタは一気に攻勢へと移った。 「おっと……リリさん、大丈夫?」 「え、ええ……。此方の桜庭様は、良い桜庭様ですね……」 頭の中にチラついた黒い彼の姿をリリは振り払う様に肩を竦める。首を傾げた蒐に彼女は年上の余裕をチラつかせ「なにもありませんよ」と囁いた。 ● 邪魔をするオタマジャクシの中を往く九十九は簡易護符手袋に包まれた指先を真っ直ぐに蛙へと向けた。 周囲のおたまじゃくしの動きを止めたのはレイチェル。無論、それだけでは済まないだろう。卵を産んだ蛙は厭らしい笑顔を浮かべながらリベリスタ達を眺めている。 「異界の神だか深きものだかは知らないが、この世界にいて良いものじゃない……。 この世界は、この世界に産まれ暮らす者が管理する。お前達の玩具には、させない!」 茫とした瞳に色が灯る。大鎌を振り翳し、彼は漆黒のオーラで周囲の掃討に気を配る。避ける事を得意としない宗二郎がダメージを与えられるとそれはかなりの痛手だった。 震える膝を懸命に立たせる宗二郎の背後から跳びこむ小雷は息を小さくは樹跳びこむ。全力で跳びこんだその拳。 「ここで負けていたら――俺が倒れれば命を呈して守ってくれた仲間達に顔向けができんのだ!」 振るったそれが蛙の手に阻まれる事は無くその胸へしっかりと打ちこまれる。 どくん、と。 その掌に感じる鼓動に小雷は動じる事は無くその気を流し込む。臓腑全てが透けて見える蛙の体は内部で臓腑が脈動して居るのが厭でも見える。視界に収めた九十九はオタマジャクシの中を抜け、小型の拳銃の銃口をゼロ距離で向けた。 呪いが集まっていく。『都市伝説』とまでも謳われた彼が仮面の向こうで唇を歪めた様な気が、した。 「見せましょう、私の渾身の一撃ってやつを!」 大きな銃声。それと共に放たれる何重にも重なる呪いが、忌み嫌われるその弾丸が蛙の腹へとめり込んだ。 分裂するおたまじゃくしのサポートは今の紅月の民には意味が無い。九十九の狙い通りになったのだろう。石化、致命。二重の呪いを秘めた攻撃は『攻撃を当てること』に優れた九十九が使うに最も叶うものだ。 「戦況を左右する、もっとも道理にかなった攻撃でしょう」 「ええ。『狙い通り』――私は定めた標的を逃がしはしません。この戦場を支配させていただきます」 九十九の言葉に、重なったレイチェルの声。芯の通ったその言葉に九十九は小さく唇を歪める。 前線で戦うデュランダルの膝が震えた様子に目を配り遥紀がホーリーメイガスのものに重ねる回復。 「シビアな戦場だけれどね、護るべきは仲間の命――みすみす貴様等に奪わせてなるものか!」 遥紀は精神力が失われる事にも気を配る。全てのサポートに特化した彼はこの戦場の要なのだろう。 「桜庭様」と呼んだリリに「了解」と声をかけ蒐は遥紀の前へと滑り込んだ。攻撃を受け流す少年の前へと飛び出してリリは蒼い焔の弾丸を宙から放つ。 「其は永遠の火、其は愛の源。我が身は邪悪を滅する炎となりて、総ての敵を撃たん――Amen!」 声と共に跳び出す炎がオタマジャクシの身体を焼き付く。ぱっくりと口を開けたアザーバイドの腹にデュランダルの刃が突き刺さると同時、小雷が拳を真っ直ぐに叩きこむ。 同胞が、死んだ。 同胞が――殺された。 「この雪辱果たさせて貰おう! 祖国の二の舞になどさせん!」 その声は慟哭の様に響き渡る。少年の拳を受けとめた蛙の臓器が『ごぼり』と鳴った。 咽喉を滑り落ちた唾が重たく感じる。その重さを感じながら膝を負った宗二郎は傷だらけの身体を更に鞭打つように攻撃を放つ。彼の攻撃は己を傷つけながらもダメージを与えるものだ。それでも、彼にとっては平穏を愛する他、何もないのだから。 「この世界には抗う者がいる。手出しした事を、後悔するがいい!」 「綺麗な星空だね。君の死を祝福しているようだ」 失わない様に、癒しを与える遥紀が翼を大きく広げた。仲間達の翼が消え入る前にホーリーメイガスが震える膝で回復を与えて行く。 オルクス・パラストのリベリスタ達も傷を負っている。無論、アークのリベリスタ達だって至る所に傷を受けている事だろう。前線で戦う青年達の傷をレイチェルは良く理解して居た。 「『死んで』頂けますか?」 兄ならば『生きろ』というだろう言葉の反対を。死刑宣告の様に告げたレイチェルの指先からダガーが跳び出す。 猫の尻尾が地面を撃ち、浮かびあがった彼女の柘榴色の瞳に闇色が射しこんだ。蛙が伸ばした舌先は踊る様に地面へと打ち付けられる。 タフな蛙が生み出すオタマジャクシの攻撃に宗二郎が膝を折る。彼の身体を抱え込んだデュランダルが田んぼの外へと青年を退避させ、安堵したと同時、数の増えていたオタマジャクシの攻撃にその体をそのまま地面に打ち付けられた。 余裕の表情を浮かべるのはその体力の多さからなのだろう。しかし、回復の叶わぬ紅月の民にとっては攻勢を得意とするリベリスタ達の相手は分が悪い。 悟った様な顔をした蛙が口をぐぱりと開くと同時、跳びこんだ九十九の弾丸に蛙が驚きを見せた様に表情を歪める。 「開けるにおたまじゃくし……成長したら五月蠅そうですなー。成長したりしませんよな?」 蛙が何らかを答えるかのように口を開くが、ネバつく口腔に入れられた拳銃の銃口が蛙が話す事を許さない。 くつくつと嗤う九十九の表情は仮面の奥で見えやしない。彼は只、呪いを孕んだ攻撃をその体内へと打ちこんだ。 「……皆さんとは、また無事な姿で再開できると良いですなあ」 「できますよ、先ずは一つ、勝利を飾りましょうか」 レイチェルの言葉は優しさが籠められる。しかし、状況は切迫していた。遥紀が与える回復の量はオタマジャクシらの攻撃よりもはるかに多い。しかし、多くを食らい続ければ、その回復が賄える量を越えるだろう。 膝を震わせた蒐の肩を叩き遥紀は前へと進む。翼を広げ、オタマジャクシへと攻撃を加える彼に続く様に二丁の銃を持ち変えたリリが宙を踊る様に舞った。 「神は貴方達の存在を許しはしない。ましてや、他の神の進行など――言語道断です!」 彼女は『神の魔弾』その物。母なる主の称号を持った彼女の成長途中の少女を思わせるかんばせが歪む。 その右手から堕ちる雫を振り払い、跳ねあがる泥に汚れたスカートを持ちあげた彼女が器用に宙を浮き上がる。その背に賄われた翼が小さく散った。 しかし、翼の存在が与えたのは戦術をより広める事が出来ると言う大いなる効果だったのだろう。リリが放つ銃弾に続き、小雷は真っ直ぐに地面を振る。己の体力が少なくなればなるほどに彼の攻撃は精度を増していく。腹を抉る傷にも彼はその膝を折る事は無かった。 「――俺は同胞の命を代償として此処に居る。生き延びた俺が、生きてる価値があるかどうか!」 それは、嘲笑う様に。蛙が伸ばした手だったのだろう。 少年は一度出逢った化け物に膝を折った。しかし、今はその膝を折る事は無い。 泥が跳ねあがり、重心が踵から爪先へと一気に移る。目前に迫ったゼロ距離の拳。受けとめたその指先は其れを弾き、真っ直ぐに焔を叩き付けた。 暴発する様に、一気に広まる焔に蛙が叫び声をあげる。その攻撃を受けながらも小さく笑った九十九は浮かびあがり焔の中で呪いを浴びせて行く。 頬を伝った雫が、同胞を思ってかどうか等誰もわからない。 近距離の九十九は小雷の涙など視てはいない。視ない振りを、した。 「さて、ここで終わりですかのう」 黒き瘴気が夥しい量を出す。回復手である遥紀が与えた癒しに頷いて、リリは蒼い魔力を充填した弾丸を撃ち込んだ。 「神の魔弾を以って、貴方に祝福を授けましょう。罪には罰と償いを――その為の『祝福』です!」 長い黒髪が揺れる。蒼に変わった其れは彼女の魔力を与える様に煌めいた。星空の下、オタマジャクシが細かく分裂しながらも回復の機会を与えられないまま、段々と数を減らしていく。近接位置に跳びこむそれをレイチェルは光りを以って動きを止めた。 「貴方は殺す事が好きなようですが、それは為せない望みですね」 嫌悪する様に吐き出した言葉は、アザーバイドの蛙に向けられたことなのだろう。 その体を固くして、溶ける様に消えていく蛙の悪あがきの様に伸ばされた舌を受けとめた九十九は困った様に肩を竦めた。 崩れる体に蛙が絞り出す最期の声は其の侭音にならない。 オタマジャクシという悪の芽を摘み取りながら小雷は『誰か』を思い嗚咽を漏らした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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