●サーバー室の怪異 とある会社が借りるオフィスの一室。 ゥゥゥ…………。 微弱な駆動音が、静かな室内を満たしている。 オフィスではあるが、室内に立ち並んでいるのは社員などではなく、おおよそ長方形の箱、箱、箱。 おおむね人より背の高い、黒い箱型ラックの群れは、サーバーと呼ばれるネットワーク機器だ。 ここは、独自のアプリゲームを運営している小さな会社の小さなサーバー室である。 そこへ――珍客が訪れた。 「ミミミミギギィ……」 「ニニニガガ……」 たったひとつのセキュリティ――カギの閉まった扉を開けもせず、奇声を発するふたつの小さな人影が、室内のどこからか湧いて出る。 どこかグミを思わせるブヨブヨした身体を、引き出しのようなラックのすき間へスベりこませ、奇怪な笑いを上げだした。 「イーシャシャシャシャ!」 「ケママママママ!」 さらにふたつ、不自然に小さなその人影が増えた。いや、けっして人などではない。この者たちに共通するシワだらけの醜悪な顔とかぎ鼻は、ファンタジーで描かれるような邪悪な妖精を思わせる。明らかに人外だ。 ガツッ! ガツン! ガキン! 「ミミミミギギー!!」 突然に醜い小人たちは暴れだした。 ガチ、ガチ、ガリリィ! ガンガンガン! 激しい音と共に、身体のそこだけ鋭い爪や牙を、ラックに積まれた機器へ突き立て、食いこませ、かじりつき、ケーブルや精密な装置を引きちぎろうとしていた。 ブチブチィ、バギリッバギリッ……小人たちの破壊行動はいっこうに止まらず、時間をかけて、次第に機器が壊れされていく。 中には、バチバチと火花を放ってその機能を停止していくサーバーもあった。しかし、小人たちは影響などまったく無いかのごとく、暴れる手を止めない。 「イーシャシャァ!」 楽しくてたまらない、そんな笑い声がけたたましく室内に響く。 それからどれほど経ったろうか。 ガチャリと、ひとつしかない扉が開け放たれた。 「なんだよ、こんな夜中にトラブルなんて……」 目の下に濃いクマを浮かべながら入室してきたのは、残業中の男性社員だった。サーバーに接続できないとの客のクレームを受け、様子を見に来たのである。 「な、なんだこりゃぁ!」 それまでのだらっとした目を、驚愕に見開いたのも当然。 ――サーバー機器が、どれもこれもメチャクチャに壊されていた。 床にまき散らかされた金属片。割られ、ちぎられ、投げ飛ばされ、ただのガラクタと化した精密機器。 もうそれらは、ネットワーク通信機器としての機能を完全に失っていた。 サーバーで管理しているアプリゲームがまともに動くはずもない。 ありえない光景に呆然とする男性社員に、 「ケママ……ッ」 小人たちが気づいた。 一瞬だけビクつき、動きを止めるが、相手が弱そうな人間一人と見るや、その醜い顔をより醜くニヤつかせ――。 「ニニニニガガァー!」 うち一体が飛びかかったのをきっかけに、邪悪な小人たちは次々と男性社員へ襲いかかっていった。 「なんだこいつら!? ぅ、うわぁあああぁー! やめろぉおー!」 四体の凶暴な突撃と鋭い爪に押さえこまれ、発達した牙がスーツを突き破り、全身の肉をバリバリと音を立てて食いちぎる。 抵抗もできないままズタズタに食い刻まれていく犠牲者を、ひとつしかない窓から黒い夜空が見下ろしていた。 ●ブリーフィングルーム 「これが、今回の事件のあらまし」 ブリーフィングルームの端末を淡々と操り、『リンク・カレイド』真白イヴ (nBNE000001)はモニター画面へ必要な情報を表示させていく。 幼い見た目に反して、その説明は的確かつ全くムダがない。 「出来のわるい妖精にも見えるけど、種別はエリューション・フォース。 ネットワーク機器の破壊に固執してる思念体。フェーズは1、兵士級。 正面から戦えば手こずる相手じゃないけど、隠れるのが上手みたい」 ターゲットに関する情報を告げていき、ひととおり案内し終えてから、イヴは集まってくれたリベリスタたちへ一言。 「運命を味方につけて」 表情を変えないまま、確かなエールを送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:姫羅泉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月05日(土)22:49 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●ピザはいかが? 「ちわー、ピザ屋です。キャンペーンでやって来ましたー!」 奥州 一悟(ID:BNE004854)の元気な挨拶が、小さなゲーム会社のオフィスに響き渡った。 一室のフロア全体は、ひと目で見渡せるほど狭い。 「……えっと、キャンペーンですか?」 大声を聞きつけてようやく気づいたかのように、たった数席のデスクから対応に出たのは、ひどく疲れた顔の男性社員だった。 「そうなんすよ。新しい商品の説明で各階まわってまして」 「はぁ……服装が、とてもピザ屋さんには見えないんですけど、後ろの人たちもそうなんですか?」 「ゲッ。ええまぁ、この格好もキャンペーンの一環ですから。な、ふたりとも?」 どうにか言いくるめながら、一悟は背後を振り返る。 そこには、きわどい水着姿の『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)と、くりっとした目の『夜明けの光裂く』 アルシェイラ・クヴォイトゥル(ID:BNE004365)が並んで立っている。 「うん、そうそう。あたしキャンペーンガールよ。お兄さん、なんだか疲れた顔してるね。仕事ばかりしてない? だいじょうぶ?」 文佳が男性社員に近づき、その魅惑的なスタイルを見せつける。 「か、変わった格好ですね……あはは」 明らかに鼻の下を伸ばし、照れていた。 すると、「どうしたどうした」「可愛い女の子が来てるぞ」と他の社員たちも集まってきた。 どうやら全員男性だったらしい。 「ここって、どんな会社なの?」 絵に描いたように可愛らしいアルシェイラの質問に、目元をたらした社員たちが口々に答えていく。 「美少女と恋愛するアプリゲーム作ってる会社でげすよ」 「君、可愛いね。ゲームのキャラみたいだお」 食いつきっぷりが半端なかった。 (よし、今のうちだぜ) 社員たちの興味がふたりへ向けられているうちに、これ幸いと一悟はささっとフロアの奥へ入った。 たいして進みもせず、『サーバー室』というプレートが掲げられた扉を見つけられた。 (はは、まんまだな) 入口付近の賑わいを横目に、手先でドアノブが閉まっていることを確認。懐から取り出したサバイバル用十徳ナイフのドライバーでネジをどんどん緩める。 あと少し触れば外れ、見た目には目立たない感じまで手早く仕上げてみせた。 それから怪しまれないよう、すぐに入口の方へ戻った。 「そろそろ他の階へいきますんで、ここらへんで。あざしたー!」 三人そろって用は済んだとばかりに、そそくさとオフィスを出て行く。 嵐が去ったあとの静けさみたく、社員たちはしばしポカーンとしていた。 ●時が来た 「よっしゃ、そろそろ待ちに待ったお楽しみの時間だぜ」 時計の時刻を確認し、『BBB』ボブボブ・B・ブラックウェル(ID:BNE004764)が他の三人へ作戦決行を告げた。 「社員さんたちはもう帰ったはずなの。そう言ってたの」 「あのお兄さんだけは残業するって言ってたわね」 アルシェイラと文佳が、オフィスでの雑談から聞き出した情報を確かめ合う。 「サーバー室の扉は今ネジゆるゆるだからな、こそっと入っちまおうぜ」 ビルの外で決行時刻を待っていた四人は、再びゲーム会社のある階へ上った。 目当ての階に着き、静かな廊下に出ると、等間隔でドアが並んでいる。 内ひとつの前へ立ち、そっと開け放つ。 営業中の玄関はやはり常にオープンだった。 開いたドアの隙間から、腰を屈めてデスクより頭を低く保ち、縦一列で四人は奥へ進む。 「ふわぁ~……眠いな~」 デスクトップPCや書類の山に囲まれた中央付近から、疲れきった声が聞こえてくる。 すると、 「一応、催眠を試してくるの」 『え』 不意の提案に他の三人が固まる中、アルシェイラが立ち上がり、残業中の男性社員のそばへ近づいていった。 「ん……あれ? 君はさっきの?」 気づいた男性社員の目を、水色の瞳で見つめる。瞳を通して、スーッと魔力が注がれていった。 「仕事のしすぎで疲れてるの。夢の中で仕事をする夢を見てるの。ここには他に誰もいないの」 「……さて、仕事の続きだ。ひとりで残業は辛いなぁ」 ボンヤリとした表情で、男性社員は再びデスクに向き直った。 「効果は完璧じゃないから、今のうちに静かに入ろう」 試みが成功したようで、見守っていた三人はホッと胸をなでおろす。 そして、あらためてサーバー室へ向かう。 ガチャガチャ……カチリ。 サーバー室の、ネジがゆるんでいるドアノブは、少しいじっただけで鍵が開いた。 一悟を先頭に、四人はそっと忍びこむ。 ●機械は大好物 サーバー室内は、会社の節電対策のためか暗かった。 こんなこともあろうかと、どこかに潜んでいるはずの敵を探る前に、それぞれこの暗闇に備えていく。 ボブボブと一悟は、暗視ゴーグルをスチャリと目元に装着。暗視機能を起動させると、周囲の物体が薄緑色っぽく浮かび上がる。 アルシェイラと文佳は瞳に力を集中し、明るいときと変わらない視覚を得る。 さらに言えば、ボブボブはすでにエネルギーの膜を、半径二百メートル圏内に広げていた。 任務を完璧に遂行するため、四人の準備には余念がない。 ――変化はすぐに起きた。 ガタン……ガタガタ。 「ミミミミギギ……」 どこからか、奇声がする。 「早速お出ましか」 ボブボブは一歩下がり、袖を捲って右腕の機械部分をさらす。 「精密で丈夫な腕だ、壊し甲斐あるぜー」 首のチャックを指で引く仕草もしてみせ、 「普通の人間にゃこんなのねーだろ、この中にも機械がたんまり詰まってるかもしれないぜぇ?」 機械を壊すのが大好きな妖精たちへの挑発である。 これで辺りを包む雰囲気がガラリと変わった。 「食いついたらしいな。来るぜ」 一悟の直観がそう教える。 迫る気配を前に、アルシェイラはボブボブの周囲に光る魔力の盾を築く。 直後。二つの影が、サーバーラックの背後から飛び出した。 「イーシャシャ!」 「ケママママー!」 醜いシワだらけの妖精が、ほとんど同時にボブボブへと爪や牙を突きだした。 「おっとぉ!」 それを防御の体勢を取り、魔力の盾で防ぐ。 「横からいくぜー!」 勢いを殺された一体に、一悟の燃え盛る拳が迫る。 文佳も至近距離から、魔力の弾頭を放った。 局所的な打撃と爆発に挟みこまれ、妖精の一体が風船のように破裂した。 「……ケママ!」 その光景に尻ごみし、もう一体はサッと退いて、素早く物陰へ身を隠す。 「うげっ、感触が気持ち悪りい」 「まずは一体ね。あたしは今隠れたのを追うわ。どっちへ逃げたか判るから」 言って文佳はサーバー室の奥へと進む。 「さて、妖精ホイホイの出番だな」 一悟は事前に用意してきた目覚まし時計を取りだし、文佳とは別進路で奥へ進んでいく。 そして、中央付近で時計をそっと足元に置き、現時刻でアラームを起動させた。 ジリリリリリリリリリリィー! 耳をつんざく音が響き、ピカピカとフラッシュライトを発光するタイプだ。 とてもやかましく派手な機械的エフェクトが、妖精たちを刺激した。 すぐさま反応したのが、まだ姿を見せていない二体のうち一体だった。 「ニニニガガァ!」 サーバーラックを足場に次々と飛び移り、目覚まし時計を目指す姿をボブボブがとらえた。 「出たな不気味な妖精さんよ! お前らなら存分に殺していいんだよな!」 ゴーグルを通して見える、不気味な薄緑色の塊めがけて魔力の矢を射ち出した。 ヒュン――ブシュリッ! 魔力の矢は見事命中し、グミのような胴を貫いて、下半身を丸ごともいだ。が、まだ両手だけでふん張って動こうとする妖精を――頭上から降った光の一閃が跡形もなく焼いた。 「アーシェたちの勝ち。もういたずらはダメだよ」 ●立つ鳥跡を濁さず 目覚まし時計がもたらしたチャンスは、他のリベリスタにも与えられた。 ジリリリリリリリリリリィー! ボブボブとアルシェイラが一体を仕留めたのとほぼ同じタイミング――。 目覚まし時計を鳴らしたばかりの一悟のアキレス腱めがけ、忍び寄った別の妖精がそこだけ硬い牙で噛みつこうとしていた。 ぐぱっと口を開き、ズラリと並ぶ鋭い牙が迫る。 噛みつかれたなら足はまともに動かなくなるだろう。 あとわずか数ミリで靴ごと食い破られるその標的の足が、フッと消えた。 「甘いぜ」 ふわりと宙返りした一悟のかかと落としが烈風のごとく空を切り裂く。 不意打ちをしかけた妖精は何が起こったのかもわからないまま、胴を真っ二つに分断されていた。 一悟が少し離れた位置で着地したあと、妖精の上半身だけが虚しく目覚まし時計へ手を伸ばす。 「ミミミ……ギギ……」 それほど欲しくとも手は届かず、力尽き息絶えた。 時を同じくし、奥へと進んだ文佳の背後にも、最後の妖精の爪が襲いかかっていた。 「あっとと!」 鼻先ギリギリで避けるも、バランスを崩し、サーバーラックを壁代わりに手を着いた。 「ケママママ……」 醜いかぎ鼻と口からよだれをたらし、妖精は再び飛びかかった。 (避けたらサーバーが……!) 刃のような爪が目前へ迫り、その柔らかいのど元がついに引き裂かれんとした。 ――がしっ。 間一髪。妖精の頭を、両側から手で押さえることに成功した。 「ふぅ……危ない危ない」 感触はグニュグニュしているが、絶妙な力加減でツルリと滑らないようにした上で、手から激しい業火を放ち、丸焼き状態にする。 「ケママママママァー……!」 断末魔の叫びと共に、妖精の体はやがて小さくなり、消し炭と化した。 三体の妖精型エリューションが消滅したのは、ほとんど同じ。四人の実力の高さが、迅速な任務遂行を果たさせた。 「思ったより手強くなかったなぁ、もっと強い敵と戦いたいぜ」 ボブボブが奥から戻ってきた仲間へ、そう感想を漏らした。 「まぁなー。後片付けは目覚まし時計を持って帰るだけだし、楽チンな任務だったぜ」 「あたしは帰ったら勝利の祝い酒でも飲もうっと」 一悟の後ろに続いた文佳は、クイッと一杯やる仕草をした。 「このサーバーって、パソコンと何が違うのかな……」 アルシェイラは無事守りきったサーバーラックの群れを見渡し、そんな疑問を呟く。 サーバーはただ静かに、各ネットワークとの送受信で集まる膨大なデータ処理を、いつもどおりにこなしている。 ひと仕事終えた今、あとは証拠を消しながら撤収するだけである。 「あー、腹減ったな。ピザが食いてぇ~!」 一悟の声が響くサーバー室の窓からは、ただ夜空だけが見下ろしていた。 もちろん、ドアノブのネジも直したのは言うまでもない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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