●不吉な星夜 空には白い星が瞬いている。ローラー滑り台の下には重傷を負って動けなくなったオルクスパラストのリベリスタが救助を待っていた。 時折化け物の鳴き声がすぐ近くの外側から聞こえてくる。 作り上げたバリケードが悲鳴を上げていた。破壊されて侵入されるのはもう時間の問題だ。傍らでぐったりして倒れているロビンがアスベルに十字を切る。 「私たちもうおしまいね。もう力が――」 「何を言っているんだ! まだあきらめちゃいけない。救助がくるのをまとう」 アスベルはしっかりとロビンを抱きよせた。血に濡れて体温が冷たかった。出血がひどくてこのままだとロビンはあとわずかしないうちに息を絶えてしまう。 アスベルは歯を食いしばって怖しい怪物たちを脳裏に思い浮かべた。 頭がマシンガンの形をしたものや鬼蜘蛛。さらにはヘドロの塊で醜悪な姿をし、空を自由自在に動くものや全身が蛇の触手だらけの頭部は鰐のような怪物たち。 アスベル達は怖しい敵と懸命に格闘を広げていた。だが、戦っているうちに陣形を崩されてしまって一緒に戦っていた本体の仲間達と戦闘中に逸れてしまった。アスベルとロビン達は重傷を負いながらも何とか逃げ惑ってようやく崩れたローラー滑り台の下に逃げ込んだ。仲間たちは、他の敵と激しい交戦をしていたため、助けには来れそうにもなかった。 彼らの命の望みを繋いでいるのは、もはや三ツ池公園で共闘しているアークのリベリスタだけだった。 だが、通信機が壊れてしまってこちらから連絡することができない。 「神はここにはいない。私達は怪物に襲われて地獄に堕ちるしかないのよ」 ロビンが突然咳をこじらせた。大量の血を吐いて地面に崩れる。 「ロビン、しっかりしろ。絶対にここから脱出する! それまで持ちこたえるんだ」 その時だった。地面から突然激しい振動と共にマシンガンの頭をした怪物が現れる。 さらにバリケードを蹴破って触手の化け物が侵入してきた。 アスベルはロビンを守るように、ただ星に祈りを唱えた。 ●仲間の危機 「三ツ池公園で暴れている化け物達を食い止めてきて」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして険しい口調で言った。すぐに状況を説明していく。 『フェイトを持つミラーミス』――フィクサード『ラトニャ・ル・テップ』による恐怖事件は今夜に最高潮を迎えようとしていた。 目的不明と見られていた彼女の真の目的に繋がる情報を、アークの万華鏡が察知した。万華鏡の演算によれば、この所加速的に進行しつつあった日本の『特異点化』は近い夜に最高潮に達するらしい。ラトニャは今宵大きな騒ぎを引き起こすことを計画していた。 ラトニャは、自身の神秘影響力が最大限に増大するこの時を利用して、己の世界とこのボトムを完全に接続しようとしているようだ。彼女の上位世界がこの世界と結合してしまえば、今の世界は崩壊を免れなかった。 「今回は、一緒に共闘しているオルクスパラストのリベリスタを救助してきて。彼らは重傷を負ってすでに満足に戦闘を行えなくなっている。アークとしても窮地に立った仲間をこのまま見殺しにするのは忍びないわ。敵もかなり手強いけど、貴方達なら何とかしてくれると信じて待っている。くれぐれも気をつけて行って来て」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月13日(日)23:03 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●不吉な星 夜空には不吉なほど禍禍しい星が瞬いていた。悍ましい魔物たちが草葉の陰から唸り声を挙げていた。ローラー滑り台に攻め込んで周りを取り囲んでいる。 逃げ込んだオルクス・パラストのリベリスタたちがバリケードを築いていた。度重なる攻撃を受けて衝立が崩れそうになっていた。 「オルクス・パラストには借りもある。死体で帰らせるわけにはいかないぜ」 足場の悪い草場をかけながら最短距離で『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は現場に向かって駆ける。影継が集中して眼を凝らすと鮮明な映像が脳裏に広がった。 圧倒的な火力を武器にして機関銃を生やした大男と薔薇の魔物が体当たりをしてついにバリケードが音を立てて崩れた。奥に逃げ込んでいたアスベルはもうこれまでかと観念した。傍らで血を吐きながら倒れているロビンの肩をぐっと握りしめる。 (アークが君たちをすぐに助ける! それまで何とか持ち堪えるんだ!) ハイテレパスを使用して影継はアスベルに話しかけた。素早く脱出をするため準備を整えるように指示を出すとアスベルの目に希望の光りが灯った。 「みんなーいっくよ~~~っ!」 ピンクの可愛らしい髪を乱して『わんだふるさぽーたー!』テテロ ミーノ(BNE000011)も気力を振り絞った。翼の加護を付与させるとともに仲間の能力も底上げする。後ろから元気な声で皆を戦場へと送り出す。 「ありがとう、同じかし研メンバーとして頑張ろうね!」 『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はくるっとした可愛らしい目をウィンクして見せた。日頃から仲の良いミーノからありったけの元気を貰って空へと飛び出していく。すでに顔つきは凛々しい表情を纏っていた。 敵に目がけて大きく腕を振りかぶると暗黒の月を作り出して放つ。 目の前には有象無象の大きなカマドウマの姿をした百個の脚を持つ怪物が蠢いていた。先頭に立った『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)も鋭い眼光で睨みつける。両手を前に思いっきり翳して魔物たちに一気に黒い瘴気を放った。 瞬く間に辺りが月と暗黒に覆われてカマドウマ達が苦しみもがき始める。 「失せろよ、雑魚ども! 斜堂流、闇走り!」 邪魔をしてくる残りのカマドウマ達に影継も猛攻を浴びせる。縦横無尽に動き回る影継の動きに脚が自慢のカマドウマも撹乱させられた。 「有象無象はさっさと散れ」 漆黒の銃身に金の翼が刻まれた拳銃を『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は取り出してすぐに照準を敵に合わせた。 その瞬間、猛烈な弾丸の雨が辺りに一気に降り注ぐ。カマドウマたちも驚いて『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)の方へ飛び跳ねてきたが、すぐに櫻霞が前に立ちはだかって攻撃を身体で食い止めた。忌々しく睨みつけると、ゼロ距離射程から容赦無く頭をぶち抜いて緑色の液体を辺りにまき散らした。 「桜霞様、お体は大丈夫ですか……?」 大きな耳を垂らして上目遣いに櫻子が助けてくれた大切な人に言葉を紡ぐ。桜霞は一瞬だけ、顔を崩して櫻子の頭を撫でると、「俺から離れるなよ」と一言告げて、敵陣に突っ込む。櫻子も櫻霞を信じて頷いた。敵の包囲網の中を彼の大きな背中を頼りに付いていく。 櫻霞たちが作った道筋を頼りにして『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)と『本気なんか出すもんじゃない』春津見・小梢(BNE000805)が少し遅れて戦場へ入った。 「というわけで、おるくるすく……えーと、なんとかってとこの人助けにきました。 ピンチみたいだしね!」 仲間たちが敵を引き付けている間に、進路を変えて小梢たちがオルクス・パラストが立てこもっているバリケードの方へと急ぐ。すでに機関獣士と薔薇の触手鬼がいた。 ●神無き箱舟 義弘と小梢達がバリケードの中に駆け込んできたのを見て、すぐに機関銃士がマシンガンを盛大にぶっ放してきた。義弘はあまりの苛烈な攻撃を浴びて前に進めなくなる。 「こんな所で倒れるわけにはいかない! 多少の無理も承知だ!」 大きな声で叫ぶと両足をそれでも前に進めさせた。正面から押されて後ろに倒れそうになるが必死になって歯を食いしばった。ここで倒れるわけにはいかなかった。自分が倒れてしまったら助けられる命も助けられなくなってしまう。 「アアアアアアアアッ――!!」 苛烈な攻撃を受けながらも義弘は大きく両手を広げて機関獣士にタックルした。決死の形相で迫り来る義弘に機関獣士も足元を取られてその場に倒れこんでしまう。その隙に小梢が先にアスベルやロビン達がいる元へ先に辿り着いた。 「もう大丈夫、神はいないかもしれないけどカレーはここにある。だから大丈夫だ」 意味不明なことを言って小梢は笑いを飛ばす。最初は呆然としていた、瀕死のロビンもいきなりの小梢の登場に少しだけ口元を歪めて笑うことが出来た。 だが、小梢はその瞬間、後ろから何者かに狙われた。蛇の触手に一斉に噛み付かれて背中をやられてしまう。ステルスで隠れていた薔薇の触手鬼だった。 「薔薇が後ろにいるぞ、気をつけろ!」 影継が他の仲間に注意を呼びかけた。薔薇はすぐにまた離れて、どこかに見えなくなってしまたったが、影継が集中して目を凝らして追いかけていた。 風景の中でどうしても見透かせない部分がある。その部分は常に移動しているようだった。つまりそこには薔薇の触手鬼がいることを意味する。影継はすぐに、薔薇を追いかけると大きく振りかぶってカラーボールを叩きつけた。 「お前を倒すのは、箱舟に集いし人の叡智……つまりアーク開発部印のインクだぜ」 薔薇の触手鬼は不意を突かれて咆哮した。まさかピンポイントで攻撃されると思っていなかったため、油断した。すでに身体は影継のカラーボールのせいでマーキングされてしまい、ステルス性を発揮できなくなってしまった。 九十九はようやく目の当たりにした敵を見据えて暗黒を放つ。これ以上、触手鬼を野放しにしておくわけにはいかない。両手を大きく広げながら前に立って行手を阻む。 マントを翻した九十九の姿に触手鬼も流石に立ち止まる。同じ奇妙な形をしていることもあって油断ならぬ相手だと警戒心を覚えた。九十九は不気味に立ちはだかる。 「お前達皆、この大鎌の錆にしてあげるよ!」 アンジェリカは後ろから大きく跳躍した。長い髪を振り乱しながら、怪しい夜空を華麗に飛び上がる。スカートがふんわりと捲れて一瞬、その大きな鋭利な鎌が消えた。 触手鬼がそちらを見た瞬間には、すべてが決まっていた。スカートの死角から放たれた鈍色の星の光に光る死神の大鎌が触手鬼の首元を刈り取っていた。 鬼蜘蛛達が一気に糸を放って攻勢を強めてくる。櫻霞は櫻子をかばいながら、銃で絡め取ろうとしてくる糸を薙ぎ払とするが、ついに身体を絡めとられてしまう。 徐々に首を締められてしまって身動きが出来なくなった。身体から気力が奪われていってしまうのが自分でもわかる。 「……櫻霞様の復讐、それを叶える為ならば私は喜んで化物になりますわ」 その時だった。後ろで庇われていた櫻子が前に躍り出て光を放つ。 鬼蜘蛛の糸が炎で焼かれてついに櫻霞は解放された。 「いっきにきめるよっ! さくらこちゃんかいふくさぽーとおねがいっ!」 ここが勝負どころと見たミーノも気合を入れて叫んだ。櫻子も頷いてサポートする。鬼蜘蛛に目がけて少しだけ開いた異界の穴からミーノは黒い死の疫病を呼び寄せる。 鬼蜘蛛は瞬く間に疫病に巻かれながら咆哮して地面に崩れた。 ●侠気の盾の意地 「もう大丈夫だ、今のうちに脱出するぞ!」 義弘は助けに入った櫻子に回復してもらって再び立ち上がっていた。すぐに気を取り直してまだ危険地帯に残っているオルクス・パラスト達を一人ずつ救出する。怪我の浅いものは何とか回復して動けるようになっていた。自分たちで身を守りながら取り敢えずは安全な後方へ下がれるように影継も支援する。その隙に、義弘と小梢はもっとも重傷なアスベルとロビンを庇いながら敵の包囲網の中を再びかけ出す。 だが、ヘドロがそうはさせまいと上空から攻撃してくる。小梢は上から猛烈な攻撃を受けてロビンを庇いながらその場に動けなくなる。 影継はヘドロの攻撃を受けないように味方が一直線上並ばないように注意した。ヘドロの攻撃を交わすと渾身の力を持って戦斧を振りかぶって叩きこむ。 ヘドロは汚い液体を撒き散らしながらローラー滑り台にぶつかる。相当激しく撃ち込まれてしまってさすがのヘドロも反吐が出ない。 「エリューションは逃がさない、何であろうとだ!」 桜霞が残っていた機関獣士とヘドロに向かってキャノンボールを叩きつける。敵は次々に絶叫して体力を大きく削られた。すでにリベリスタを追いかける余裕が無くなってきている。その隙に義弘は小梢やアスベル達を連れて安全な後方へと避難することができた。 「ミーノの!かいふくの! でばんっ!」 ミーノが後ろから傷ついた小梢やオルクス・パラストのリベリスタを癒す。すでにここに来てようやくリベリスタ側の有利が確定した。 「中々バラエティに富んでいて面白い敵ですが、立ち塞がる敵は全て石像にして打ち倒してやりますな。仲間の命が掛かってるんです。こちらも容赦はしませんぞ?」 九十九はここまで来たら大切な仲間を死なすわけにはいかなかった。奇妙な姿形をしてもっともおぞましいヘドロを鋭く睨むと奈落の鉄剣を繰りだす。 ヘドロも反撃を試みたが、九十九の呪いを帯びた一撃が僅かに勝った。漆黒の呪縛に囚われたヘドロはついに口から大量の腐った液体を撒き散らして果てた。 飛んできた数々の小さなヘドロの塊をマントを使って九十九は払いのける。すでにヘドロはただの泥と化して辺りに散らばっていた。 機関獣士は最後の反撃とばかりに乱射してきた。咆哮しながら辺り構わずにマシンガンをぶっ放してくる相手にさすがにリベリスタたちもそれ以上近づけない。 「侠気の盾の意地、オルクスの仲間にも見せつけてやる」 だが、義弘は不敵に嗤った。敵に攻撃されるのも構わずにメイスを振りかぶると猛然と敵の中を突っ込んでいった。身体に再び猛火を食らって動けなくなる寸前で、メイスで思いっきり殴りつけた。義弘はそのまま崩れてしまったが、影継が義弘の勇猛果敢な様を魅せられて触発されて自分も真っ直ぐに敵に突っ込んでいた。 機関獣士はここぞというところで透過して回り込もうとする姿勢を見せた。裏をついて返り討ちにしようとする作戦だったが、影継は見抜いていた。 「残念だったな、俺も透過は得意でな。使う奴の厭らしさは身に染みてるぜ」 戦斧を振りかぶって足元を切りつけた。脚をやられて機関獣士は透過が出来ずにその場に崩れ落ちた。そこにめがけて櫻霞の弾丸が容赦無く降り注ぐ。 櫻霞の弾丸を受けて機関獣士はついに緑色の液体を吐いて動かなくなった。 ●友情の約束 「まさか、助けて貰えるなんて……」 義弘と小梢達に助けだされたロビンは声を詰まらせた。血だらけで顔が青褪めていたロビンはミーノや櫻子の介抱によって一命を取り留めていた。 容態を見守っていたアスベルたちも胸を撫で下ろす。あと少しでもリベリスタ達の救助が遅れていたら間違いなくロビンを失っていた。 「何はともあれ、無事でよかったぜ。これからもお互いによろしくな」 「有難う、この恩は決して忘れない。何かあったら是非俺達を頼ってくれ。その時は何があってもすぐに駈けつけてみせる」 影継はアスベルとがっちりと握手した。最後までお礼を尽くしながらアスベルやロビンは本隊のオルクス・パラストの陣地へと戻っていく。九十九は途中まで危険がないか途中まで彼らに付き添って見送った。 三ツ池公園のローラー滑り台で暴れていた魔物たちは何とか駆除できた。こちらも少なくない犠牲を強いられたが、盟友であるオルクス・パラストを助けることもできた。 だが、まだ戦いは終わっていなかった。公園のあちこちで激しい戦闘が繰り広げられている。リベリスタ側としてはまだ予断の許さぬ状況が続いていた。 「この戦闘でさえもまだ前哨戦だ。先が思いやられるな」 まだ戦闘は終わっていないと櫻霞は厳しい表情を崩さない。その時、後ろから不意に櫻子が現れた。心配そうに下から様子を伺いながら袖を引っ張る。 「これで終わったわけではありませんものね……」 櫻子の目には最後までこちらに手を振っているアスベル達がいた。やがて彼らは暗闇の何処かへと姿を消していった。再び辺りは静けさに満ちて夜空に星空が戻る。 「これで終わりじゃない、ラトニャを倒すまでは――」 長いサラサラとした髪を掻き上げてアンジェリカは決意を新たにする。暗闇の向こうのどこかにいる首謀者に向けて――その先にある満点の夜空を真っ直ぐに見上げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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