●地に満ちよ 生めよ、増えよ、地に満ちよ。大地に満ちて地を従わせよ。 この大地に蔓延る存在とは数多ある。人もその一つである。 植物も、生物も、あるいは無機物も、何もかもがこの地に生まれ、満ちようとする。 弱きものが生まれ、強きものがそれを喰らい、さらに強きものがそれを喰らう。 その生命のピラミッドの階層の中で、底辺にほど近い下層に在るのが彼らだった。 「おっ、ネズミ!」 「珍しくね? 俺生で見んの初めてかも」 「マジ? 触ってみ?」 ほの暗い闇の中を駆けずって生きる彼らは、日の光をあまり識らない。彼らは日陰に生きる存在だった。それが当然だと思っていた。 彼らは――自分たちは弱きものだ。喰らわれる者だ。細く陽の射さない道を選んで生きるしかないのだ。そう思っていた。 だが、ふとこう考えるのだ。 何故、自分たちはただ喰らわれるのを待つだけの存在なのだろう。 何故、自分たちはこの大地を従える権利を持たないのだろう。 喰らい、増えるという行為は生命に与えられた本能だ。その本能のままに、この太陽の下を生きて何故いけないのだろう。 それは、生命である自分たちに与えられた、当然の権利の筈だった。 その権利を全うしよう、と彼は思った。 その思いのままに、彼は食らいついた。 興味本位に伸ばされた強者の指を、思い切り噛みちぎった。 「――ぎゃあああああっ!?」 一拍の間を置いて、薄暗い路地裏に絶叫が響き渡る。 『彼』に――ネズミに伸ばされた少年の指が、第一関節から喰いちぎられていた。吹き出す鮮血が、少年たちとネズミの体毛を赤く染めた。 その血の味の、なんと甘美なことだろう。 血を吸い、肉を取り込み、生命という欲求は肥大していく。 最早そのネズミの体は、少年の頭を一口で飲み込めんばかりの巨躯までに巨大化していた。 「なんだよ、なんだよこいつ――!?」 「逃げろ――」 背を向けた少年たちの――強者の体に、彼は襲いかかる。 生み出すために、増えるために、地を従えるそのために。 ●依頼概要 「現場はこの路地裏。エリューション・ビーストが二体。フェーズは1から2」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、メインモニターへ向けていた視線をリベリスタたちへと静かに移した。 『万華鏡』システムにより予知されたエリューション・ビーストの発現。商店街の路地裏に隠れ潜むように生きていたネズミのエリューション化だった。 一体のみだったけれど、増殖性革醒現象によっていわば子と呼べるものが出来ているようね、とイヴは言う。 「厄介なのは、このビッグ・マウスのほうかもしれない。下手をすれば、頭や手の一つ一口で食いちぎられるほど巨大化している。子であるスモール・マウスはまだ子犬程度の大きさだけど、動きが素早いわ。ネズミだものね」 イヴは最も大きな体躯をしたエリューションをビッグ・マウスと呼称した。エリューション化によって、本来有り得ないほどの巨体と凶暴性を得たネズミたち。その討伐が、今回リベリスタたちに依頼された任務だった。 「彼らは夜に活動を活発化させる。だから戦闘も夜間になる。深夜になればこの商店街はほとんど人が通らなくなるから、狭い路地裏で闘うよりもメインストリートにおびき出したほうが闘いやすいかもね」 街灯によって光源も確保できるし、とイヴはメインモニターを指し示す。 イヴの言葉の通り、ビッグ・マウスとスモール・マウスが潜む路地裏では、大型の武器の仕様が制限される恐れもあった。 「防御力は高くないかもしれないけど、とにかく凶暴。一撃くらいじゃ怯まないかもしれない」 彼らは仲間を生み、増える、という意識に全てを侵食されているようなものなのだ。生のためならば何をも問わない妖忌と化している。生態系のピラミッドの下層にあった彼らが、今やその頂点に君臨しようとしている。 鋭い牙と爪を持ち、目の前にある全てを喰らい尽くし、増殖しようとする存在。 文字通り、彼らは時間が経つごとに増殖性革醒現象によってその個体数を増していくだけでなく、民間人へ降りかかる被害が現実のものとなってしまうのだ。 「今ならまだ間に合う。このエリューションの殲滅をお願い」 あなたたちなら、出来ると信じているから。 言葉少なながら誠実なイヴの囁きに、リベリスタは強く頷くことで返した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ニケ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月28日(土)22:49 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●暗闇と光 街灯に照らされたほの明るい闇の中に、男はいた。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)は漆黒のスーツの裾を微かに風に揺らし、人通りの絶えた商店街を優雅とも言える足取りで歩む。 その姿を、薄く輝く闘衣が包んでいた。 夜は捕食の刻である。生物は暗がりに身を潜め、獲物が罠にかかるのを待っている。 シビリズは、自らその獲物になろうと言うのだ。英霊の加護をその身に纏っているとはいえど、あまりにも恐れを知らない行為。けれどシビリズは浮かべた笑みを崩さない。 そう、夜は捕食の時間なのだ。捕食されるのではない。彼は相手を喰らうためにここにいるのだ。 『敵』がどこにいるのかは、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)と鷲峰 クロト(BNE004319)の力によって見透かされていた。遥か遠くまでを見通す千里眼の力。 『敵』を捉えた際にクロトがかけてくれた言葉を思い出す。 『心配はいらねぇと思うけど、やばくなったらAFで報せてくれな』 成程、仲間というものは心強い。シビリズの笑みが深くなる。 飲食店の入ったビルとビルの隙間、人がようやく通れるかというほどの狭い路地。 その路地は、獲物を喰らう獣のように、明かりに照らされた商店街のストリートの中でひときわ黒く口を開き、シビリズを呑み込まんとしているかのようにも思えた。 その闇に一歩足を踏み入れ、潜む何者かに、シビリズは朗々と語りかけた。 「成程。日陰に生きるのが嫌だったか。己の生を謳歌したかったか。意気や良し。しかし人に害なすならば排せねばならん」 その言葉が己に向けられたものだと、人ならざるモノにも解ったのだろうか。路地の奥から、低い唸り声が聴こえる。 「我が肉、噛み砕けるものなら噛み砕いてみるがいい。弱肉強食――どちらが肉でどちらが食らう側か。やってみようかッ!」 シビリズの言葉が、彼らの闘争心に火を点けたのか。闘争心というものが、そもそも彼らにはあったのか。 それは解らぬことであったが、シビリズの影に向かって、大きな黒い塊が飛びかかってくる。 今回の作戦の駆逐対象である――エリューションと化したネズミだった。 それは、真白イヴがビッグ・マウスと呼称した個体であった。大型犬よりもさらに一回り大きく、巨大な牙と爪を持った異形。その爪が、シビリズの体を捉えた。 シビリズの黒衣が引き裂かれるが、神と英霊の加護をその身に受けた彼は怯まない。 さらに『オカルトハンター』清水 あかり(BNE005013)が彼に与えていたエル・バリアの力がシビリズを守っていた。 「出てきましたねっ!」 「……思ったよりも大きいですね……これ以上被害は出せませんし……ここで終わらせなきゃ」 あかりと『儀国のタロット師』彩堂 魅雪(BNE004911)が言う。魅雪の声音には微かな嫌悪感が滲んでいたが、神秘を愛するあかりの声には好奇の色も含まれていた。 「人と異なる理を持つ獣に、人を食うなと押し付けても仕方ないからまあそれは良いんだが。貴様、食って栄養つけたなら繁殖で増えろ。増殖性革醒現象で増えるのは何か違うだろう? まあいい。獣は駆除しよう。逃がさんよ」 『有無の追撃者』ユーン・ティトル(BNE004965)が現れたビッグ・マウスの背後に回り込み、その退路を塞ぐ。 「もう一体いるはずだ! こっちの抑えは任せてくれ!」 クロトが叫ぶ。言葉の通り、あの路地裏にはもうひとつ、黒い影があった。 あばたが間髪を容れずその影に向かい、ピンポイントを放つ。 弱きモノと見下す存在からの攻撃に怒りを覚えたのだろうか。 路地から、やや大きめな小型犬ほどの大きさのエリューションが飛び出してくる。あばたはゆるりと後退し、その突進を躱した。スモール・マウスである。 「こっちもおびき出し成功だね。各個撃破といこうか」 影人を傍らに控えさせた四条・理央(BNE000319)の言葉に、各々がスモール・マウスに向き直る。まずは数を減らす。その邪魔はさせない。ビッグ・マウスを相手にしたクロトとシビリズの目に決意が光る。 「皆さま、どうぞお気を付けくださいませ……」 『ディアスポラの穢翼』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の優しげな囁きを背に、エリューションとの戦いの火蓋が切って落とされた。 ●強きものと弱きもの 「この二匹、どっちもかなりの攻撃力を持ってるよ! 気をつけて!」 理央が叫ぶ。彼女にはその凶暴性がより具体的な数値となって見えるのだ。 理央の声に触発されたのか、スモール・マウスが彼女に向かい突進する。その一撃を愛用の盾で防ぎながらも、彼女は数歩たたらを踏んだ。強力な衝撃が盾越しにも伝わってくる。 「速い……!」 イヴが忠告した通り、ネズミという生物の生の本能を極限まで高められたかのようなエリューションの動きは、驚愕に値するものだった。 だが、だからとて恐れ、下がるわけにはいかない。理央は一撃を放つ。不吉な影を持ったその攻撃は、スモール・マウスの後ろ足を掠めた。害なされ、激昂するようにスモール・マウスが唸る。 一打程度では怯まないか。理央は下唇を噛む。だがこちらには影人がいる。影人は彼女の傍らと、あかりと魅雪の隣に黙したまま寄り添っていた。いつでも彼女たちを庇うことができる。 高度な術式で生み出された理央の影人は、彼女の数多の手足、そして数多の砲台となってエリューションに迫る。幾重もの攻撃の軌跡が、ライトに照らされた闇に光った。それはスモール・マウスの左足の肉を抉り取る。 「どれほど凶暴でも、鍛えられない部分があるでしょう」 あばたが言う。彼女は身体も神経も、その多くを機械化され、両目からは盲点というものが失われた。文字通り、全てを見通す千里眼。故に、彼女にはこのエリューションの弱点も『視えて』いた。エリューションの盲点をついた攻撃――対象は『目』である。 スモール・マウスのぎょろりとした眼に、あばたの弾丸が打ち出される。薬莢が飛び散り、夜に甲高い音を立てた。 舞い落ちる一枚の硬貨さえも逃さない精密射撃。その一撃は、スモール・マウスの右目に突き刺さった。鮮血が飛び散る。この世のものとは思えない悲鳴が、ネズミの喉から漏れた。 誰かが息を飲む音が聞こえる。その容赦ない攻撃の合間にも、あばたは表情を崩さない。 苦痛に悶え、暴れるスモール・マウスの下顎に、あばたの殺意の弾丸が奔る。 相手を殲滅するための銃撃。音無き福音が夜の世界に幻の木霊を響かせる。ある男の行使する技を模倣し、改造した一撃が、スモール・マウスの牙を砕いた。 あばたは冷静だった。万一取り逃がした場合でも、このエリューションが生存し続けることのないように。もっとも、逃すつもりはなかったが。 それはあかりも同じ思いだ。ここでこのエリューションたちとの決着を必ずつける。 「強くなっても狩られて小さくても狩られて、ちょっとかわいそうですかね」 それでも、容赦はできない。生態系は正しく在らねばならない。神秘の力でそれが崩されるようなことがあってはならないのだ。それを正す存在が、彼女らリベリスタであり、アークだった。 あかりの手に小さな光の球が灯る。それはやがて大きくなり、彼女の手のひらからスモール・マウスに向けて打ち出された。狙うはもう片方の目だ。エリューションの戦闘力を奪うことで、こちらの勝機が見えてくる。 その一撃はスモール・マウスの左目を掠めたが、直撃とは至らなかった。そう簡単にはいかないか。動じるあかりではない。スモール・マウスの攻撃の射程範囲に入らないよう、十分に距離を保ちながら、次なる攻撃を試みる。 次々と放たれる光球に、スモール・マウスは不自由な片目の視界で苦戦を強いられる。スモール・マウスの体勢が大きく崩れたその一瞬を狙って、あかりはエル・フリーズを放った。 街灯の光に、小さな氷の粒がきらきらと輝く。ダイヤモンドダストのように、美しく。舞い踊る氷結はスモール・マウスの体を包み込み、その体躯の一部を凍てつかせた。 スモール・マウスの動きが止まる。その瞬間を、スモール・マウスの背後に潜んでいたユーンは見逃さない。 得物の槍を振り、まずは牽制の一打を放つ。不意を衝かれたのか、スモール・マウスはその一撃をまともに喰らい、唸り声を上げた。敵の気がユーンへと集中する。その隙に、あばたとあかり、理央の攻撃がスモール・マウスの肉体を削った。 スモール・マウスの黒い目に見据えられ、それでもユーンは怯まない。いつの間にか彼が口にしていた咥え煙草の光が、スモール・マウスの眼球に映し出される。それは葬送の輝きに等しかった。 ユーンの姿が、瞬時、消えた。いや、消えたかのように見えた。 それほどのスピードで、ユーンはスモール・マウスに肉薄する。逃れることを決して赦さないその速さ。眼球や牙、顎、四肢を抉られたエリューションにとって、ユーンは今や驚異と化していた。 「獣如きには負けられんよ」 弱者としての立場を享受してきたマウス。 生態系のピラミッドが、今、ユーンの手によって正されようとしている。 最大限の加速からの突進を伴った一撃に、スモール・マウスはその体躯の腹から背を貫かれ、数度痙攣した後、絶命した。 「シビリズ様、お手当てをいたしましょうか」 目前にしたビッグ・マウスから十分な距離を取り、その動向に注意を払いながら、シエルはエリューションをおびき寄せる囮役となっていたシビリズに寄り添った。シビリズは大きな怪我こそ負ってはいないようだったが、裂けたスーツが痛々しい。 「なに、それには及ばん。私たちも加勢しようではないか」 シビリズはその美貌に艷やかな笑みを浮かべて見せた。シビリズの言葉に、シエルも頷き、倒すべき敵へと視線を向ける。 ビッグ・マウスは、立ちはだかるクロトとその後衛に控える魅雪と対峙していた。 スモール・マウスとは、他の仲間たち四人が交戦している。そう遠からず決着がつきそうだった。果たしてその戦況を見てとったのかどうか、ビッグ・マウスは彼らに背を向けようとした。逃走を図るつもりなのか。ビッグ・マウスにとっては、生きるための逃亡だったのかもしれない。 「させません。逃す訳には……いきませぬ!」 ネズミの怖さは、臆病と紙一重の慎重な行動パターン。彼らの生存本能が凶暴性に勝ったのだろう、とシエルは思う。それを許すわけにはいかない。 「魔風よ……在れ!」 シエルは翼をはためかせ、虚空へとその身を浮かべる。ビッグ・マウスの退路を絶たねばならない。大きく翼を羽ばたかせ、彼女は魔の力を持った風で、後退しようとするビッグ・マウスの動きを止めた。 「させんよ。さぁ、砕けるがいい!」 シビリズも牽制の一撃を撃つ。聖なる力の打撃。逃れられないと悟ったのか、ビッグ・マウスは再び彼らに向き直った。 「仲間を癒し、貴方たちを斃す為に力を振いましょう。貴方たちが地に満ちる前に離散(ディアスポラ)させるためならば……仲間が無事であるためならば……私は血ぬられた穢翼――癒し手で構いません。さあ、魔力よ……集え……」 それは、シエルの覚悟の言葉。リベリスタとして、人間として、生きる者として。 シエルの術によって、皆に力が戻ってくる。生物の不条理に抗うための力が。 「どんなに図体がでかくなっても、食い意地の汚さはやっぱネズミといったところだな」 クロトは愛用のフェザーナイフを手に、ビッグ・マウスへと襲いかかる。スモール・マウスとの戦いはこちらの勝利で終わる。あとはこのエリューションだけだ。 「すばしっこさは相乗倍って感じか? 下手に追い詰めて逆にひっくり返されないように気をつけなくちゃな」 それは、『時』を刻む技。ネズミであるエリューションの速さにも劣らない、高速の剣技。ハイスピードの力をも得たクロトの身体能力は、今やビッグ・マウスをも凌駕せんばかりにまで高まっていた。 クロトの攻撃によって、鋭い爪ごとビッグ・マウスの両手が凍り付く。白い霜を吐き出すそこへ、クロトは刃を突き立てる。止まるべき時を知らないかのような、間断ない斬撃。ビッグ・マウスの濁った白い爪が斬り飛ばされ、宙に舞った。 その勢いのまま、クロトは大きくナイフを振るった。ビッグ・マウスの両の前足がざっくりと切り取られる。四肢を欠損させることによって、その動きを制限しようというのだ。巨体がバランスを崩し、血を噴き出させながらアスファルトの地面に崩れ落ちる。己を切り裂いたクロトを前に、ビッグ・マウスは憎々しげに身体を震わせた。 そこへ、魅雪の放った一撃が追従する。攻撃手段を大きく奪われたビッグ・マウスの下顎を、口腔へと向かって刺し貫いた。ビッグ・マウスの顎を、口を、牙を抉る。精緻な援護射撃。その好機を見逃さず、シエルとシビリズ、クロトの攻撃が後に続いた。 「簡単に仰け反ってはくれないかな……? グレイヴ、直撃弾出ても問題ないよね!」 愛用の武器に語りかけ、魅雪はさらに攻撃を続ける。不断に続く魅雪たち四人の追撃に曝され、ビッグ・マウスは翻弄されていた。 魅雪の中には、哀れなエリューションと化したネズミへの憐憫も微かに生まれていた。 エリューションを前に、魅雪は白い腕を広げる。強き生を求めた弱き者を抱き留めるかのように。その周囲に、巨大な魔法陣が広がっていく。魅雪の優しい声音で紡ぎ上げられる詠唱が、魔法陣を輝かせる。 「これで……終わりにしよう?」 手足を断たれ、牙を、爪を奪われ、ビッグ・マウスはかつての弱き自分の姿を取り戻しているかのようだった。 弱きものは弱きものとして。強きものは、強者として。それぞれに在るべき姿があるのだと、彼は――エリューションとなったネズミは、その身と一生をもって体現したようにも感じられた。 「どうか、安らかに……」 魅雪の手が差し伸べられる。その指先から伸びた幾重もの魔力弾が――ビッグ・マウスの幻の強者としての姿を、どこまでも深く、跡形もなく貫いていった。 ●生けるものと死せるもの 戦いを終え、散り散りになっていた八人が集まってくる。皆、返り血を浴びていたり、衣服に綻びができていたりと戦いの名残を覗わせたが、その顔は穏やかだった。任務は終わったのだ。これで、エリューションという絶対の強者による被害が出ることもない。 「……吊られた男の正位置……停止……か。これで本当に終わってくれたら、私も嬉しいのですけれど……」 タロットを一枚、表に返した魅雪が小さく呟く。 終わりではないことを、リベリスタの誰もが知っていた。エリューションは、神秘なる驚異は、また必ず現れる。 それは、魔なるものか、それとも聖なるものなのか。その時勝つのは、人か、神秘か。死せるものは、生けるものは――強者たるものはどちらなのか。答えは未だ見えない。 我らヒトは、強者なのか、弱者なのか。 明け始めた夜の中、誰もがふと心の中で考えるのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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