●鋭利な殺人奇剣 地獄の長官とも呼ばれる極めて残忍で凶暴な悪魔。 歯の零れた鋭利な殺人鬼剣を長い舌で舐めるように味わう。略奪してきた赤いソファに腰を下ろしながら楽しげに仲間たちが殺戮を行っている様子を見物していた。 彼の名は、カイム――序列53位の魔神。 見た目は美しい若い美青年だった。逞しい体の背中に大剣を差している。 大きな翼を武器にしてスピードを活かした巧みな剣術で人を切り刻む。絶対的な自信のあるその破壊力と技術と速度を組み合わせた剣に敵は為す術もない。 カイムは絶対的な剣の自信を持っていた。自分の剣に敵の血がつくことを忌み嫌い、目にも留まらぬ高速で剣を操ることで血もつかぬ斬撃を繰りだす。 「キースが修行している間に、俺は俺で己の剣で存分に楽しませて貰う」 カイムは不気味な目を尖らせて仲間に指示を出していた。キースがこちらに注意していない間に存分に暴れさせてもらうつもりだった。 最近はあまり斬っていなかったため、久しぶりの快楽だった。 剣の腕前が鈍らないようにただひたすらに斬り続ける。そうしないと抑える衝動買爆発してしまいそうになる。人を斬る喜びでカイムはこれまで生きてきた。 辺りは血の海と化していた。 仲間たちが敵を無残にも殺戮して次々と動かぬ死体が出来上がっていた。 切り刻まれた死体がまるで神の啓示を受けたように立ち上がる。 まるでその光景は死者の行進だった。 地獄の死者たちのうめき声が辺りに大きく木霊する。 ●魔神カイム 「剣術使いの魔神のカイムが欧州の油田地帯で暴れているわ」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタに向かって手短に用件を切り出した。 魔神といえば、バロックナイツ第5位の『魔神王』キース・ソロモンの脅威が先日も脅威になったばかりだった。キースはそれ以来、目立った活動をしていなかったが、魔神の序列第53位の地位を占める剣術家のカイムが暴れだしていた。 魔神は高位のアザーバイドでそれぞれが独立した権威と力を持っている。ソロモンは魔導書『ゲーティア』によって魔神たちを使役できるが、必ずしもその自由を完全にうばえるわけではなかった。 「魔神の目的は今のところ不明。けれども、欧州からアークに応援要請が来ている以上、捨て置くわけにもいかない。近い将来必ず敵になるであろうキースやその魔神の弱点や攻略法を探る意味でも何とかして任務を成功させてきてほしいわ。くれぐれも無理の無いよう皆の無事を祈って待ってるわね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月09日(水)22:30 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●地獄の行進 灼熱の太陽に晒された大地に油田が立ち並んでいた。強い日差しによって出来上がった蒸気によって地面が揺らいで見える。夥しい血の匂いと死体が転がっていた。 切り刻まれた死体が突然エリューション化して次々に立ち上がってくる。まるでその光景は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。もっともその光景は地獄の番人とも呼ばれるソロモン魔神第53位を占めるカイムの戦場にふさわしいとも言える。 「ソロモンの魔神というから、全員何かしらの秘術を持っているのかと思ったが……その実、ただの快楽殺人者と変わらないな」 空を悠々飛んで高みの見物をしているカイムを見上げて『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が厳しい視線を向けた。金色の長い髪を描き上げて胸元の襟を正した。気を引き締めてぐっと顎を引いて目の前の敵に視線を戻す。 「バンテージにこびり付いたこの血こそ消すことのできない俺の罪、俺の戒め。償いとは神秘から世界の秩序を守ること――カイム、本当は自分の手を汚すことを恐れているのではないか? だから己の武器が血で汚れるのを嫌うのだ」 『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)がカイムに厳しい言葉を放つ。空を舞う孤高の剣術家はその端正な眉を一瞬だけ顰めた。だが、すぐに不気味な薄笑いを浮かべる。返答をするつもりがないなら小雷は力づくで証明してみせると心に誓った。 (是非やれと言われれば初めの数分間は随分暴れてご覧に入れる。然しながら長期戦となれば全く確信は持てぬ――) 『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の脳内にいる突然山本五十六のような渋い声が鳴り響く。敵の数に思わず腰に差した剣を抜く手が揺らぐ。だが、決心して剣先をカイムの方へ突きつけて威嚇した。 「人数差は単純に見ても2倍以上かぁ……最悪の場合は撤退も考慮しないとだめかなぁ」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)も思わず弱音が出る。いつもは元気に跳ねている金色のポニーテルも心なしか元気がない。けれども全く対策がないわけではなかった。陽菜は麗香から離れないように位置を取って作戦開始を密かに待つ。 大きな翼を広げて油田タンクの下に颯爽と舞い降りたのは『Seraph』レディ ヘル(BNE004562)だった。仮面の下の隠された表情は敵からも読めない。ただ得体の知れない威圧感を地上にいる敵に与えていた。ロマンとケビンの位置を見極めて、翼を大きく広げて威嚇した。敵もレディの動きがそれ以上読めないため、迂闊に近づくこともできずに暫くの間、互いに剣を掲げたまま膠着状態が続く。 「よしっ! みんな、頑張ろうっ!」 仲間のそれぞれの気合を感じ取って『ノットサポーター』テテロ ミスト(BNE004973)は勇ましく声を掛けた。敵は同じく剣を使う者だった。自分とは当然、技巧の差があるがそれでも胸を借りるつもりで正々堂々と正面から立ち向かうつもりだ。 ●死線の膠着 ミストの掛け声とともにそれまでの膠着状態が解けた。地上にいる敵が一斉に唸り声を挙げてリベリスタたちの所へ猛進してくる。すぐにミストは強結界を辺りに張り巡らせた。これ以上誰かが入ってきて犠牲が出ないようにする。力強く剣を握り締めると襲いかかってくる敵ネームドのロマンやケビンに全速力で突進する。 「まずはボクが切り開くよっ!!」 素早く懐に入り込んで一気に陣をかき乱した。だが、敵の火力を集中的に周りから浴びてしまいミストは荒い息を吐く。敵が反撃するよりも早くミストはまた元の位置に戻ると再び敵陣へと駈け出した。さらに別の敵に突っ込んで撹乱させる。 麗香はカイムが降りてこないか注意しながらも、覚悟を決めて油田タンクの方へ駆け上っていた。壁を蹴って跳躍して一気に敵陣へと迫る。目指すはロマンの前にいる雑魚だ。 大きく剣を振り回しながら一気に辺りを振りぬくと強烈な風刃が起きた。周りいた敵が次々に渦を巻く風刃の餌食になって切り刻まれる。すぐに敵も反撃を試みてくるが、麗香は油田タンクを隠れ蓑にして的を絞らせない。攻撃がやんだところを狙って、今度は上から飛び降りて一気に上段から剣を振り下ろした。 血を撒き散らしながら次々に敵は剣を手放して崩れ落ちた。これには上で見ていたカイムも驚いたように目を広げて麗香を睨みつける。 「このような形で甦えさせられるのはお前たちとて本望ではないだろう」 さらに隙をついて小雷が後ろから突っ込んだ。かき乱されたところを、敵の回復役のロマンを狙って腕を掴むとそのまま地面へと渾身の背負投で叩き潰す。 横からケビンに掴まれてしまったが、そのまま炎を腕に纏って薙ぎ払った。顔を苦痛で歪めるケビン達に対して、陽菜が遠くから容赦無く銃口を突きつけてぶっ放す。 「ちょっとだけ無茶をするからっ……回復、頼むねっ!」 ミストは仲間を信じて献身的に動く。何度も同じ動作を繰り返して敵の目を撹乱しようとする。だが、他の敵も黙ってみているわけではなかった。次第にミストに向かって敵の火力が一転して集中し始めた。さすがのミストも為す術がなく血を吐いてしまう。 このままでは倒れてしまうと思った時に、後ろから血鎖の束を撃ち放ってシルフィアが強力な援護をした。敵に囲まれていたミストはその隙にレディがピンポイントで飛んで後ろから抱えて脱出させた。レディはすかさず敵全体に閃光の炎を浴びせて弱体化を目論む。痴情の敵も業火を浴びて足止めを食らってそれ以上は動くことが出来ない。 状況を打開しようとケビンが陰に潜もうとしたが、日陰に注意していたレディは見逃さない。すかさずハイテレパスで味方にその趣旨を伝える。 「リベリスタの死体の群体を相手取るのはこれで2度目だ。躊躇う事はリベリスタへの侮辱となる。速やかに元の死体に戻してやろう……!」 シルフィアの巻き起こした翼による風刃がケビンを容赦無く切り裂いていく。細かく割かれた敵は今度こそ立てないまでに切り刻まれてしまった。 ●狂乱の剣術家 「ははっ! ボクにはそんな攻撃効かないよっ!!」 ミストは回復を得て体力を取り戻すと再び突っ込んでいった。死体が動き出そうとした所を狙って剣を突き刺す。集中砲火を四方から浴びるがそれでもミストは止まらず突進を繰り返して動く死体の群れを駆除していった。 「なかなかやるみたいだが、己相手では果たしてどうであろうか?」 上空で様子を見ていたカイムがついに動き出した。ロマンやケビン達がやられてしまったのを見て反撃に出る必要があるとみたカイムが一気に間合いを詰めてくる。 カイムは一気にリベリスタの後ろに回り込もうとする。その場にいたシルフィアに向かって思いっきり剣を振りかぶると華麗な一瞬の裁きを見せた。 振り向くよりも早くシルフィアは背中を斬られて蹲る。カイムの剣先には一滴の血もついておらず目も止まらぬ早さだった。これには他のリベリスタも動揺する。 陽菜はつぶさず観察するとどうやら魔神の攻撃は神秘を多くに含んでいるように見えた。物理攻撃よりもその剣に纒ったオーラーでより敵にダメージを与えている。 だが、いつまでも仲間の危機に黙ってみているわけにもいかない。 バンテージで目隠しした小雷は拳を握り締めると、カイムの後ろから跳躍して思いっきり脚を振り上げて斬った。 カイムが振り返って剣を繰りだす。剣と脚が空中で衝突して激しい火花が散った。小雷は脚にとてつもない痛みを覚えたがそれでも表情は変えない。 ここで痛みを見せたら相手の思うつぼだった。なるべくダメージを覚えていない振りをしてふたたび猛進してカイムに突っ込んでいく。 小雷がカイムを抑えている間にシルフィアはレディに支えられて離脱する。すぐに後方に下がって回復を貰ってようやく立て直すことに成功した。 「アスタロトとは違い、随分と人間に近い行動をする魔神だな。まぁ……どちらも狂乱であることには変わりない。が、まるで樂団だな」 シルフィアが傷だらけの身体を起こして歯を食いしばる。 「お前は、いろいろな魔神に喧嘩を売っているようだな。いいだろう、俺達に喧嘩を売ることがどんなに怖しいことか思い知らせてやる」 カイムはシルフィアに言い放つと目の前に小雷を渾身の一撃で薙ぎ払った。小雷は腹に猛烈な攻撃を受けて崩れた。やはりカイムは一人で抑えておくのがかなり難しい相手だ。 「カッコいいね」 陽菜は突然前に出て行って素直にその個人的な感想を口にした。 カイムの金髪碧眼でどこか憂いを帯びた甘いマスクに思わず陽菜がつぶやいた。 その瞬間、カイムの端正な表情が動揺する。 「おまえ、今なんて……?」 カイムは今までカッコイイと言われたことはもちろんなかった。 敵ながら真っ直ぐに嘘偽りなく見つめて来る陽菜に動揺を隠せない。心なしか陽菜に対して頬を染めてそちらを直視できないような様子を見せた。 陽菜はかさず闇で辺りを覆った。カイムが戸惑ってそれ以上動けなくなる。すぐそばにいた麗香の姿がその時、忽然と姿を消していた。すかさず心を読もうとするが、肝心のてきがどこにいるか検討がつかずさらに動揺して集中できない。 麗香は闇から突然姿を現すとカイム目がけて剣を振り抜いた。動揺していたカイムは一瞬判断が遅れてしまって剣先が鈍ってしまった。 背中を大きく切り裂かれてしまってカイムは大きな声で呻いた。 「カイムに弱点は皆無……なわけはない! たとえば!」 麗香は油田タンクに着地すると不敵な笑みを浮かべてカイムの方を指した。そこには剣先に夥しい血が付いていた。麗香もまた無傷ではなく斬られていたが、なんとか直前で攻撃を交わして致命傷を与えることを許していなかった。 「俺の剣に……血が……貴様、よくも」 カイムは錯乱した。自分の剣に絶対的に自信を持っているからこそ、剣に敵の血がつくということはあってはならぬことだった。 血がつくということは剣が汚れる、つまり自分自身が汚れることを意味する。さらに自分の剣の腕前が悪くて血が付いてしまうことも意味していた。 今までの戦いでカイムは剣を極めて使うことで血がつかないようにしてきた。だが、今回の戦いで血を付けられてしまってカイムは激しく動揺する。 無我夢中になってカイムは再び剣を荒っぽく振り回して迫ってくる。だが、闇から出てきた陽菜が横から現れてサジタリアスブレードを斬りつけた。 一瞬、陽菜の顔を直視してしまったカイムは攻撃できずに切りつけられた。油田タンクに叩きつけられてカイムは顔を顰める。どうにも今日は調子が悪かった。 得意の敵の攻撃の癖を読む技も集中できずにいる。剣術としては圧倒的に自分の方が上なのになぜか精神的に追い詰められているような気がする。 リベリスタたちもすでに体中ぼろぼろだった。いつ倒れてもおかしくなかったが、それでも撤退を恐れずに正面から突っ込んでくるため、厄介な敵に思えてきた。 「陽菜とか、言ったな? 今度会ったらまずお前を先に始末してやる」 カイムはそう言い放つと死体が持っていた松明をとって、リベリスタの足元へ向かって投げ放ってきた。注意していたレディと麗香がすかさず仲間に避難を指示する。 その瞬間に、辺りに大爆発が起きた。油田タンクが次々に引火して辺りは炎の海に包まれてやがてすべてを燃え尽くしていった。 ●痛い思い 「……やったのか?」 小雷はバンテージを取ってその何もない光景を見つめていた。すべてを燃やし尽くした油田跡をみて呟く。そこには爆発に巻き込まれて灰になった死体があるのみだった。敵はすべて大爆発のお陰で残らず掃討出来ていた。レディは残党が残っていないか、しばらく上空を彷徨っていたが、カイムが完全にいなくなっており、危険がもうないことを悟ると、大きく翼をはためかせてどこかへと先に去っていった。 「おそらくカイムは最後の手段で爆発を起こして私達を巻き添えにしようとしたのね」 シルフィアが傷だらけの身体を擦りながら言った。不屈の精神と敵の心を乱す作戦によってカイムを撃退することに成功していた。最後は辛くも勝ったが、カイムが通常通りに戸惑わず闘いを運べていればおそらく敵の圧勝だっただろう。今回は、かろうじて豊富な回復に寄ってギリギリのところで踏みとどまることが出来た。 「魔神も痛い思いしてもらわないと割りに合いませぬ」 麗香も胸を堂々と胸を張って笑顔を作る。 もちろん、今回のカイムはキースの助力なしでこの世界に現れており、彼等は本体ではなく、顕現した端末で能力も限定的なものであった。次に会うときは制限なしで戦ってくることが予想される。その時は今回のようにあっさりと引きさがってくれるわけにはいかない。 それでもカイムに全く攻略の糸口を掴んだのは収穫だった。陽菜は、最後まで残ってどこかに消えてしまった少しシャイな魔神の端正な困った表情を思い出していた。 ようやく立ち上がった時、不意にお腹の虫が鳴る。 「お腹すいた~、はやく帰ってソフトクリームでもいっぱい食べよう~」 陽菜は笑って仲間を追いかけた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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