● 黴臭い。 其れに外は大雨だ。其の雨にでも濡れたか腐った鉄の臭いが充満している。 されど、息をしない訳にもいかない。仕方なく、拭えない臭いを嗅ぎながら妹を探していた。 頼りの懐中電灯の光で照らされていない場所に、目線を送る勇気も無い。身体を縮こまらせているのは、誰にも己が肌を触られるのを許したくないからだ。 足下はギシ、ギシと鳴る廊下。一歩、二歩進めば、 ギシ、ギシ。 ――ギシ。 少し遅れて、後方より聞こえた音に振り返った。心臓は鼓動を打つ速度が早く、正直もう気持ちが悪くて吐きそうだ。 誰か居るのか、居るのなら返事してくれ。 しかし、誰もいない。 ゾ、と背筋を駆け巡った怖気をトリガーに走り出す、走って、走って、暫くして一つの扉の前で止まった。 少しだけ開いた扉と扉の間から、目線が動く。部屋の隅で椅子の上に何かが居る。恐る恐る、足を見る限り其れは人形であると判断したが……其れが居るだけで、他には何も無い部屋だ。 ギシ。 おいおい、止めてくれ。今歩いていないのに再び其の音が聞こえた。 即座に部屋へと転がり込み、扉の鍵を閉めた。周囲を照らす、其の光だけが頼りだ。けれど見た限りは矢張り何もいない。 少しの安堵と一緒に椅子に腰を落し、ふう、息を吐いた。 一秒。 二秒。 三秒。 「――――!?」 即座に『欠点』に気が付き椅子から離れ、扉のドアノブを廻せど廻せど廻せど廻せど墓穴を掘って開かない。其の事にも気づかない。 背中の服を掴まれた。本能的に懐中電灯で其れを殴った、殴って殴って殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。 何時しか壊れた懐中電灯と、飛び散った血の量。 其れが貴方の探し物。 ● 「識別名は、ドールハウスだそうでぇす」 「ドールハウス……ねぇ」 『規格外』架枢深鴇に続いて、エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は名前を復唱した。 ブリーフィングルームの中に置かれているのは、丁度小さな女の子が好んで遊びそうな。文字通り、お人形用の家である。 「まあ、オブラートに包まずに言ってしまえば此れ自体がエリューションで、かつアーティファクト。此の中の世界に閉じ込められてしまう、割と悪質で傍迷惑な品物。此れを今回破壊して欲しい訳……なんだけど、中に少年が囚われているので、序に助けてくれちゃうと僕は嬉しいかな」 「明らかな罠やんなぁ、こういう系統はホラーの香りがぷんぷんするんやけど」 依代 椿(BNE000728)は内心楽しそうな瞳を向けながら、ドールハウスに手を差し出し、屋根辺りを撫でた。 「まぁね。箱舟の真骨頂準えて、解析した事はあるんだけどねえ」 まず此の中のエリューションは人型であり、Eフォースである。 中はサビレタ洋館であり、たまに床が抜ける事もあれば床は歩けばけたたましくギシギシと音がする程。窓の外は雨が降っており、非常に暗い夜であり光源は一切無い。 また、窓や扉等の建築物は一切破壊が不可能であり、扉には鍵が着いている。 「率直に聞きますけれど、ドールハウスから出る方法とはなんでしょう?」 犬束・うさぎ(BNE000189)は片手を挙げつつ、無表情の瞳を向けた。 「勿論、エリューションの討伐。他には、エリューションが満足で成仏したり? 前者は難しくないと思うのだけどね、君達的には。後者のヒントになりそうな出来事は此れかなぁ」 此のエリューションの出所はロシアである。 あまり面白くない話をしてしまえば、とある雨の日、蒼眼の、何もかもに恵まれていた幸せな少女が一人、親の帰りを待っていました。 が、両親は事故に遭い帰ってくる事は無かった。 彼女は独り、幸せを呪いながら餓死する寸前まで、親を待ち続けた。親のくれた最後のプレゼントの人形と一緒に。 されど少女は人形遊びが下手だったのか、人形は金髪の髪の毛がほぼ抜け落ち、両目は抉られ、足は折られ、片腕が無くなっていた。あまり大事にしていなかった様だ。 他には、部屋を綺麗にしていると少女は両親に褒められたからか、彼女は綺麗好きで一切の汚れを好まなかったらしい。 「ぐすっ」 テテロ ミミルノ(BNE003881)が鼻を鳴らし、こみ上げて来る何かを必死に抑えていた。深鴇は其れを撫でながら、 「多分だけど此れの延長戦のエリューション。大体こういう系は、やりたい事やらせてやると満足して消滅すると思うんだけど甘い?」 「満足させてやれ、という接待か? エリューション相手に」 「あはは、無理には言わないさ」 ユーヌ・プロメース(BNE001086)は相変わらずの毒舌を振り撒きながら、普通の女の子を演じていた。 「あくまで俺等は少年の救出して、ドールハウスから出てくれば良いんだな?」 「そゆこと」 「そんじゃ、まっ、いっちょ行こうぜ!」 焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)はドールハウスの扉に手を伸ばした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年07月13日(日)22:07 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「さて、と」 『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は周囲を見回す。 暗視とは任意で発生しうるスキルではあるが、まだ其れを行っていない……つまり入ったばかりの今現在だと闇に飲み込まれて周囲の形なんて一切判断出来なかった。 だが暗視を行う事で色着きで見える。ふむ、如何やら本当に洋館の中であるのだろうが、錆びれて廃れて、廃屋と呼んだ方が相応しいような気もする。 彼は周囲にあるもの、扉、其の中を記憶に留めつつ。翼を広げて平行移動していく。それにしても 「……聞いた事ない話だわ」 昔ならよくある事だろう。与えられていたから、与える者が亡くなった時の行きつく先なんて。 餓死――ほど、苦しみながら、死を実感する逝き方。 「だからあたしは、そうなるのが―――」 其の先は、心の中で呟いた。何故だか其れを言えば心の中が黒く満たされてしまうような気がして。 此の屋敷の原因に同情はするし、幸せの扱いも自由。されど、関係無い者を傷つけない為にもエレオノーラは進むしか無かった。 うきうきわくわく。 心の中が何故だか明るいもので満たされるような、そんな感覚と刺激を全身で味わいながら『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は目を輝かせていた。 だが直ぐに首を振って、違う違うと、己の拳を頭にこつんとぶつけてみる。 人の命が関わっている、其れもまだ少年という歳の子。せめてその子を見つけて助けるまでは、此の如何にも何か出そうで椿の好奇心擽る全てを堪能するのは控えておきたい。 ―――……控えておきたい(あえて二回言った)、の、だが。 「ちょっとくらい……何か出ても、ええんのやで……?」 矢張り期待してしまう。 人の心を不安に落とし込む暗闇でさえ、今の彼女には通じない。全てが色付きで見えるからこそ、闇に飲まれずに済んでいた。 ふと闇の奥に金髪が進んでいくのを見た。 「あ、エレオノーラさんや。エレオノーラさーん!!」 叫んでみたのだが、金髪は振り返る事なく消えていく。 「なんやろ、聞こえんかったかな? まあそういう時もあるし、仕方ないやろ、後で追いかけよ」 ふと、風が椿の髪を撫でていく。 ……。 ………おかしい。 此処は閉めきっている完全密室の洋館である。風が起きる等、ましてや老朽化していても窓も割れていない、壁に穴も無い。 風なんて、風なんか――― 肩に手が置かれた。足音なんて一切しなかったのに、ESPさえ敵だと気付かないのに。一瞬だけ心臓を吐きそうになる程驚いたのだが、完熟した輝く瞳で振り返ったら。 「椿ちゃん」 背中で揺れる彼の翼が、悪戯な風を起こしていた。飛んできた、なら足音なんてしないのは当たり前で。 「あ、エレオノーラさんや」 あれ、一寸手前で同じ言葉を言った気がした。刹那、椿はエレオノーラから距離を取り、得物を前に突き出した。其の事に大して驚きもせず、エレオノーラは恐らく椿に何かあったのだろうと長年の経験から察するに簡単であった。 「どうしたの? 椿ちゃん、何を見たの?」 「……本当に、エレオノーラさん?」 「ええ、証明するのはどうしたらいいかしらね、AF通信かしら?」 「じゃあ……?」 ● 子供の姿でありながらも無表情を決め込む『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)、だが親指の爪を噛みしめたままであった。 フォーチュナの断片的過ぎる予知が勘違いであるのなら、其れでも良いのだが。けれども察してしまうに、より良いエンドが見えてこない。既に、犠牲は出ているというのだろうか。 部屋を開けれども開けれども、目当ての少年もエリューションも見当たらない。どんだけでかいんだ此の洋館は、と心の中でツッコミを入れながら。 ギシ、ギシ、音は鳴る。歩くたびに、音が鳴る。 ふと一歩踏み込んで、止まってみると――余計な足音がギシとひとつだけ多く鳴ったのだ。音は後方からであっただろう、着けられていたか、それとも仲間か、それともそれとも他の別な何かか。 振り向き―――その時、後方より突っ込んで来たピンク色の物体、……をうさぎは受け止めた。 「おどかそうとしてみたけど、しっぱいした!」 「一瞬だけびっくりしました、とだけ言っておきます」 『くまびすはさぽけいっ!!』テテロ ミミルノ(BNE003881)だ。 ミミルノは会うや否や、直ぐにうさぎに翼の加護を施した。足音無く移動できるのは、耳が良いというエリューションに勘付かれない為には最高の手だ。 しかしうさぎはAFから武器を取り出し、ミミルノを背中に隠した。頭の中でハテナの浮かんだ彼女は、此処ぞで盛大に息を吸って。 「ま、まっぴんぐだいさくせーーーむぐ!!」 「しっ。静かに。可能な範囲で物音を出さないで下さい」 ミミルノ的には役目を全うする為に気合いを入れたのだろうが、直ぐに口をうさぎの片手が塞いだのであった。 ミミルノは確かに飛んできたのだ、足音がするはずが無い。されど先程は足音がひとつ多く重なった、此処には二人以外にも何かがいると思っていいだろう。 刹那―――背後で、 「ばぁ☆」 「キャーーーーーーーーーッ!?」 「ハハハハハハ! 引っかかった? 引っかかっちゃった? 此の架枢深鴇のドッキリに!」 声を高く叫んだミミルノに満足したのか、何処へ行ってたのか知らねど深鴇は高笑いしながら満足していた。 「深鴇さん、できればふざけな――――!!」 ギシ。 うさぎは突如喋るのを止めて、深鴇をミミルノの頭を抑え込んで地面へと伏せさせた。其の頭上、何やら音がする。 ギシ、ギシ。 天井を、何かが這っているというのだろうか。 ギシ、ギシ、ギシギシギシギシ……。 ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ!! 段々と、遠くなっていく音。 何かが歩く音、此処で勘違いはひとつ、此処は二階であると言う事で三階にも人は居る。 だからこそ迫っていた別の存在には気づかなかったのだろう。 次の瞬間、深鴇の片方の翼が千切れて舞った。 ● ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ、と頭上で音がする。 「おーなんか上の階の足音がよく響くんだなぁ」 「あんまり感心できる状況じゃないのかもしれないがな」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が天井を見上げていた時、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)のアクセスファンタズムからは敵を見つけたという連絡が仕切りに流れる。 「すぐ行ってやりたいもの、山々ってやつだんだなぁ。なあ、深緋?」 「ああ、そうだな……私らはまず此方の状況をどうにかしないといけないな」 というフツとユーヌの目線の先では、少年が一人部屋の扉を叩いていた。 「ちょっと! 開けろ、開けろよ! おい! なあ! 聞こえてるんだろ! どうした!」 と仕切りに叫ぶ少年の下へ二人は駆けより、一瞬だけお化けと思ったらしく凄い恐ろしいものでも見ているような形相で少年は二人を見たが。 「大丈夫だぜ、俺たちはおまえさんらを助けに来たんだ」 「まあそういう事だ。で、どうした?」 と意思疎通が可能だと判れば、少年の気も緩んだらしく、今にも泣きだしそうな顔で扉を指差したのであった。 「……此の中、多分俺の弟と妹がいるんだけど、鍵も開けてくれないし……」 「そうか、開かないなら力ずくだな。こういう時こそ、男手だ。そう思わないか、フツ?」 「ああ、オッケオッケー。任せてくれな、鍵くらい開かぬなら、壊してしまえ、ホトトギス! だ!」 「ああ、そうか」 ユーヌは何処までも淡泊であった。 ともあれ、フツの突撃により―――だがしかし、此の屋敷の仕組みであったか、鍵でさえ壊す事が叶わない。矢張り此処は懸命な呼びかけしか無いのだろうと、しかし暫くもせずに扉の鍵は開いた。 扉が少し開かれて、其の間から弟らしき少年の瞳だけが覗く。 「……入らないで」 「なんでっ!?」 「――入らないで!!! お願いだから見ないで!!!」 怒号にも似た、叫び声にも似た弟の声と一緒に扉が閉まりかけた。だがフツとユーヌが手を伸ばし、フツの槍が閉まる扉の間に刺さり、そしてユーヌがドアノブを引っ張っていく。 少年の力にE能力者は負ける事は無い。開いた、開いてしまった、其の、部屋の扉の手前が飛び散った血で絨毯が出来上がっていた。 ● 「あわあわわわわ!! 怖い怖い怖い怖いけど怖がってる場合じゃねえ!!?」 「本当に怖がってるの……?」 無表情だが言動だけは感情放出しているうさぎに、合流したエレオノーラは怪訝な表情でうさぎの顔をまじまじと見た。 其の二人の間を長く、鞭の様なものが撓り、廊下に穴を開けていく。うさぎとエレオノーラは互いに反対の方向に跳躍する形で回避を行い、椿が構え、放った弾丸が腕の持ち主の肩に穴を開けた。 「なんやろうなぁ、あれ。人間じゃあないんよな」 「みみるの、たぶんあれおにんぎょうさんだとおもう!」 椿の言葉に、ミミルノが手を挙げて答えた。そう、彼等五人の目の前には目の部分が真っ黒な空洞の様になっていて、かつ両手両足が逆関節で四つん這いに這う『人形』が居るのだ。 「はああああ怪奇でハッピー、僕ハッピー! エリューション館の原因見たりー!!」 「深鴇ちゃんしっかり!」 リベリスタの一番後方で足を折って頭を抑えながら滅茶苦茶に爆笑している深鴇は恐らく使えない。 「……って、あれ?」 されど深鴇の目線が人形がいない方向に向いた。 「悪い! 回復できる奴、誰でもいいから力貸してくれ!!」 「ん? なんか滑稽な生き物がいるな。天井がギシギシうるさいのはそいつのせいか?」 フツとユーヌが此処で合流したのだが、フツの両手に抱えられた少女が明らかに血まみれと成っていた。足下に血の軌跡を残しながら、其の対角線上では噛みついて来た人形をエレオノーラが回し蹴りで吹き飛ばした所だ。 「何を、怒っているの」 『ウウウ、パパママ帰ってくるカラお家汚サナイデ、壊さナイデェェ痛くシナイデェェ』 「何を、言ってるの?」 人形はフツが抱えている少女が気に入らないのか、咆哮をあげた刹那、撓る腕を四方八方に暴走させていく。其の一本の腕を掴んだうさぎが、五体の光の分身しながら人形を切り裂いていった。 「あややややや! 腕掴んじゃったけどどうしたらいいんだこれ!!」 「離してもいいんやで、うさぎさん!?」 うさぎが掴んだ腕は、まるで死人の様に冷たく、硬い。怒りの作用もありきだろうが、飛びついて来た人形がうさぎに抱き付く形で飛び込み、首筋を噛んだのである。だが直前でかけられたミミルノの物理無効が人形の歯が肉を噛み千切る事を許さない。 更に後方ではフツに抱えられた少女をミミルノが治していた。 「すぐにかいふくするのだ! もうちょっとのしんぼう!」 集める光は、かの世界の世界樹を通じて少女に癒しを与える。泣く事も、叫ぶ事も無くぐったりしている少女の顔色も少しずつ良くなっていく。 「う……」 意識を取り戻したかのように瞳を半開きにした少女が最初に見たのは、ミミルノの心配そうな表情。 だが更に遠くを見てみれば、少女に飛びつこうとした人形が跳躍して迫ってきている姿であった。一気に叫び声を上げた少女だが、ユーヌがフツらと人形との間に入り、言う。 「お化け屋敷か。学芸会の出し物よりまともだな、子供を怖がらせるのが精々の可愛らしい児戯だな」 ユーヌの手は人形の丁度顔を鷲掴みにしている。 「喜ぶが良い、私が褒めるのはあまりないことだぞ?」 ユーヌが導き出した呪印は点と線を繋いで、網目状に人形を捕えたのだ。人形の爪こそ長い腕がユーヌの眼前で静止し、それ以上先へは手が届かない。 咆哮を上げ、最早獣の様な存在である人形が網の中暴れるが、其の後ろから、うさぎや椿、エレオノーラが一斉に仕掛けたのであった―――。 ● 『う……』 人形の瞳が少し開いてまた閉じ、再び開いた時には見開いた。 「お、覚めたかい? 今、此の屋敷を掃除してるんだぜ」 フツが人形を見下ろしていた。 跳躍し、フツから距離を取ろうとしても身体が戦闘不能しきっているからか思う様に動かない。ユーヌのハイライト無き瞳に対しても、先程の咆哮で対抗する事も無くびくりと人形の身体が揺れた。 「有り難いと思え、そして大人しく成仏するんだな。人間を引きこんで迷惑な代物め」 ドストレートなユーヌ節が人形に突き刺さっていく。最中にも、屋敷は少しずつ姿を変えていた。 「……見つけたのよ、貴方、の、朽ちた姿」 エレオノーラは言う。椿も少しだけ顔を伏せた。三階の子供部屋、爪でひっかいた痕だらけの床に横たわった骸が。 「お腹が空いて、人形を食べたのね。それじゃあ食欲は満たされないわ。だから混ざっているのね、其の姿」 「なんや……部屋を綺麗にしないから親が帰ってこなかった訳やないんやで。あんたのせいや、ないんや」 『え……』 人形の、真っ黒な空洞であった瞳の部分から蒼色の眼光が刺した。 嗚呼、なんて勘違い。無知は罪と、其処まで酷くは言えないものの、少女の純な思いがこんな箱庭を作ってしまった。永遠に親の帰りだけを待つ箱庭を。 「とりあえずは、屋敷は綺麗にしておきますので。満足したら成仏を願います。こんな場所にいるからこそ、親に会えないのですからね」 続いたうさぎ。頷いたフツがそれがいいと促した。 『……』 己の両手を見た人形―――否、少女。 家を荒らす者も許せないし、親のいない家に勝手にあがられた事に恐怖を覚えて攻撃さえしてしまった。 「食べた分の人形は戻せないけれど、なんとなく形にはなったかしらね」 「おー! えれおのーらはじょうず! おにんぎょうさんもとどおり!」 差し出された人形に足は無かったけれども。 『……』 受け取ったエリューションは何処か嬉しげに見えていた。 「お人形は大事にね?」 さよなら、幸せな子。お父さんとお母さんと仲良くしてね―――。 後日、記憶を曖昧に語る少年二人とその妹が無事発見されたという。 ●解 外で雨音がする。 お気に入りの人形を抱きしめて、少女は親二人の顔を交互に見た。 「いってらっしゃい、お土産……忘れないでね! なんでもいいからね、待ってる」 「あら、じゃあ玩具で散らかしたお部屋を片付けない悪い子には――」 「やるやる! 大丈夫、やるから」 「はは、じゃあ何か似合う服でも買って来るよ」 「ありがとう、パパ、ママ、大好き! いってらっしゃい」 「知らない人が来ても家にあげちゃ駄目だぞ」 「お人形と仲良くね」 それから、ずっと。 ずっと。 気が遠くなる程、ずっと。 ずっと。 暗闇の中、お経が聞こえる。 何も見えない闇に、光が差した。 「……遅いよ、パパ、ママ、お部屋綺麗にしてくれたのよ、良い子では待てなかったけれども」 お土産も服もいらないから、貴方達の傍にいられれば――――。 其の日、一つの魂が天へと還って逝った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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