●山形県上杉神社にて 上杉謙信。 戦国時代を生きた武将で、日本人ならその名前を知らない者はいないといわれるほどである。 内乱続きの国を平定し、内政を整え国内の経済を復興させた。そして様々な戦いを経験し、その強さは『越後の虎』『軍神』等と呼ばれるほど勇猛果敢かつ負け知らずであったという。謙信が攻めてくると聞いたとたんに、戦上手の武将は篭城を視野に入れるほどの強さだとか。。 その謙信も病に没する。遺骸は紆余曲折あり、現在では山形にある上杉神社に祭られている。 さて、アークは日本各地の神社仏閣のパワースポットを利用して、崩界度を下げる計画を行っていた。崩界の要因を切り離し、それに挑む。一度行えば霊的な力を溜めるのに永い時間がかかり、また失敗すれば崩界が加速する為、多様はできない手段である。 だがアークはそれを敢行する。崩界が進めば世界が終わる。それを止める為に。 そしてアークは上杉神社に目をつける。戦国武将時代最強といわれた存在を祭る神社。そこに宿る『力』を求めて。無論軽々に判断はできない。入念に調査し、リスクを計算し……そして一つの問題が浮上する。 「……<剣林>のフィクサードが邪魔をする?」 ●そこに向かうリベリスタ 「御館様(上杉謙信)の眠る地を汚すことは許しがたい……と言うのが彼らの言い分だ」 『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)の言葉に、集まったリベリスタはため息をついた。あるものは呆れの、あるものは怒りの。 「むぅ。剣林にも暦女がいるとは」 「いや。女とは言ってないから。きっと謙信萌えの男だから」 『剣龍帝』 結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)の言葉に、 『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)がツッコミを入れる。 「……緒方か」 『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)が元同僚の名前を口にする。その声には懐かしさよりも悩ましさが強かった。普段の砕けた口調ではなく、短く鋭く言葉を吐く。 「あれ? 知り合いなのー?」 『断罪狂』 宵咲 灯璃(BNE004317)がたくさんある傷跡の一つをなぞりながら問いかける。赤と黒のゴシックな服が、体を揺らすたびにひらひらと舞う。 「酒の話で上杉謙信の話が出るぐらいの歴史マニアだ。だがこいつはただのインネンつけだ。本音は別にある」 虎鐵の言葉に朔は頷き、口を開く。 「その通りだ。彼らは一度突っぱねてその後でこのようなことを言っている。 『だが、俺たちとて崩界度が進むのはこまる。そこで勝負しようじゃないか。こちらの六人と同じ数だけのリベリスタを出し、タイマン勝負。勝ち数が多いほうの言い分を聞く』……と」 戦闘狂の剣林らしい条件である。そしてアークは渋々その条件を飲むことにした。パワースポットは確保しておきたいという理由もあるが、喧嘩を売られて逃げて帰るなど認めぬという理由もあった。 「挑まれたのなら受けて立つ。それだけだ」 武人斯く在るべし。そう体現する『誠の双剣』 新城・拓真(BNE000644)であった。剣林側の詳細情報は、向こうから手渡されてる。そしてこちら側の情報も、向こうに知れ渡っていた。 「向こうの指定はあるが……こちらは挑戦者側だ。最終的な対戦オーダーはこちらが決めていいとのことだ」 「質問。引き分けの場合は?」 「生き残ったもので仕切りなおしだ」 壱也の質問にさらりと朔は答える。 「生き残り!?」 「何を驚く? 私たちは死合に行くのだ。スポーツをしにいくのではないのだぞ。よもや今更命を惜しむ者がいるとは思えんが?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月28日(土)22:50 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●血判状 道場の空気は梅雨の空気もあって、僅かに肌寒い。幾度となく踏みしめられた畳は硬く、長年使われた年季を感じさせた。 「皆様方、血判を」 年長の小早川が、この戦いの血判状を示す。書かれてあることを要約すれば、一対一のの六戦勝負。アークが負ければ上杉神社での儀式を行わない。等々である。 そして最後に書かれた一文は『この戦いの遺恨は残さない』……つまり、死人が出てもそれによる報復は禁止という旨だ。それが緊張を高めていく。 各々の血を判にして、この戦いを了承する。お互い所定の位置につき、座して自分の出番を待つ。 戸が閉められる。外界から隔絶された道場で、今死合が始まる。 ●0勝0敗 「一番手は俺だ」 最初に立ちあがったのは『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)だ。右手に黄金の剣を、左手にガンブレード。明らかに仕様の違う二つの武器を、違和感なく使いこなす剣士。理想を追い、祖父を追い、それを心の芯として戦い続けるリベリスタ。 「剣林に相対するなら、容赦せぬ」 それに相対するのは白髪の老人。刻んだ皺は年齢よりもむしろ自身の筋肉で刻みつけたかのような厳つさ。座り様、立ち様、そして歩き方。どれをとってもバランスの良いもの。それは体幹が真っ直ぐである証。 「リベリスタ、新城拓真。弦真は俺の祖父だ。『誠の双剣』は俺が勝手に名乗っているだけの物に過ぎん」 「剣林、小早川源蔵。……そうか、ヤツに孫が」 拓真の名乗りに、瞑目するように静かに小早川が答える。共に一礼し、面を上げて付与を行う。互いの武器に手をかけ、構えを取る。 にらみ合う時間は――なかった。動いたのはどちらが先か。両者共に前に踏み出し、互いの破界器を振りかざす。 右手の黄金剣に力を篭める。それは英雄の剣。己の栄光の裏にある悲劇を知り、咎を追うために自らを貫いた剣。 左手のガンブレードが翻る。それは正義の剣。壊れた正義とあざ笑う魔女。理想を追い、現実に苦悩し、それでも正義を求め。 それらを手放さぬ拓真の心情は如何なるものか。余人には知るよしもない。確実にいえるのは、その二刀を信頼し、己の限界を超えた一撃を繰り出していることだ。 拓真の連撃が小早川を削る。小早川の拳が拓真を襲う。一撃なら拓真が勝り、反撃などの手数では小早川が勝る。拓真が打てば打つほど、その傷は増えていく。それは限界を超えた打撃をくりだしていることでもあり、そしてカウンターの一撃でもある。 「何が正しいか、何が間違いか何て分からない事も沢山ある」 運命を燃やし、小早川の拳に耐える。小早川も既に運命を燃やしており、勝負は次の一撃で決まる。先に動いたのは―― 「それでも、自分が正しいと選ぶ事が出来る道を選ぶ為に、強く在らねばねらん!」 呪われた黄金剣と、砕けた正義。それが鉄拳と呼ばれたフィクサードに叩き込まれる。 「憎たらしい。その心まで受け継いでるとはな」 歪めた唇から血が流れる。そのまま小早川は倒れ伏した。 ●1勝0敗 「羽柴壱也です、って指名してくるぐらいなら名乗らなくても知ってるのかな」 「『五月雨』敷島愛美。羽柴様の活躍は存じております」 「へ?」 これは意外とばかりに驚く『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)。壱也自身はあまり有名である自覚はない。 「それでは――」 「あ、その前に。最初に言っとくけどこの試合では誰も死なない。殺さないし、死ぬ気もない。 舐めてるわけでもなんでもない。生かすこと、それがわたしの剣だから」 敷島の構えを前に、静止をかける壱也。それを聞いて敷島は息を吐く。呆れのため息ではなく、感嘆の意を篭めて。 「戦場に身をおきながら『普通』を失わぬその心。それこそが、貴方の強さ。ならばその誓い、果たしてもらいましょう!」 敷島は地面を蹴り、薙刀を振るう。風のような一撃を壱也の剣が受け止める。剣に篭められた思いは『不殺』。誰も殺さない。誰も殺させない。その意志を篭めて作られた一振りの剣。 故にその名は『羽柴ギガント』。凶悪且つ圧倒的な力を示しながら、しかし誰も殺さない羽柴壱也の体現。己の力を知りながら、しかし命を奪おうとしない心優しき壱也の剣。 「アークよりも剣林にいるほうが戦えます。善や悪は、私には関係ありません」 「アークより剣林の方が、確かに戦えるかもね。だってアークの方が強いし」 何故戦う、という壱也の問いに敷島が答える。その答えを受けて、挑発するように壱也が応じた。 「いいでしょう。あえてその挑発に乗ってみます」 加速する敷島の薙刀。壱也はその風音を聞き、一歩踏み込んだ。刃が通り過ぎれば、隙が生まれる。その一撃が敷島の運命を削り取った。トドメの一撃を放とうと壱也は破界器を振り上げ―― 「……柄!?」 振りぬいた薙刀の反対側。石突と呼ばれる部分が壱也の足を払う。敷島はそのまま壱也に刃を振り下ろし、 「これで捕まえた」 笑みを浮かべたのは壱也のほうだった。運命を削り意識を保ち、自らの再生力を信じ、敷島の刃を体で封じる。突き出すように立てられた破界器が敷島の眼前で止まっている。壱也がもう少し刃を突き出せば、敷島の命はなかっただろう。その状態で口を開く壱也。 「殺すのは簡単だけど生かすのは難しいと思うんだ。だからわたしは強くなるために君を生かすよ。 そしたらまた戦え……る……」 よね、の言葉は紡がれなかった。痛みとその衝撃で、壱也は気を失ったからだ。 「御見事。貴方には勝てませんでした」 敷島は矛を収め、壱也に礼をする。戦いはまさかの引き分けとなった。 ●1勝0敗1分け 「よし、勝負だ! 『剣龍帝』!」 「剣龍帝いうな……」 勢いよく指差す如月に、指差された側は『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)だ、と言いたげに脱力する。そんな竜一に追い討ちをかけるように如月は続けた。 「え? アークのトップリベリスタとかデュランダル・オブ・デュランダルズとか名乗ってるんだろ?」 「ええい、忘れろ! 崩界儀式を巡っての一戦、尋常に勝負しろ!」 無理やりシリアスに戻し、竜一が二刀を構える。それに呼応するように如月も爪を構えた。 (とはいえ分が悪い。おそらく相手が先手を取るだろうし、そうなれば押し切られる) 色々勘違いされがちだが、竜一はけして力押し一辺倒の戦士ではない。厨二病発言だったり変態発言だったりと喋ったら残念なのはさておき。大事なものを守るために思考し、自分ができることの最大限を行うタイプだ。 「そちらが毘沙門天ならば、俺は懸かり乱れ龍――」 日本刀を抜きながら、自らに軍神を降ろす。その名は上杉謙信が全軍突撃を行う時に掲げる旗だ。正しい智恵をもって人々の迷いや邪悪な心を断ち切る不動明王の心意気を胸に。そして上杉軍の全軍総懸りの如き激しい滾りを血に。 「行くぞ、龍の一撃なんて俺は言わん。今から俺の総懸りだ!」 「おう、毘沙門天の御加護あり!」 踏み込んでくる如月。竜一が軍神を降ろしている間に集中を重ねて命中精度を上げた一撃。その一撃は竜一の付与を外す闇の一撃。 (軍神を解除しなければ如月に勝ち目はない。だから最初の一撃は予想できる) 如月は状態異常で足止めし、押し切るタイプだ。故に、最初の一撃を塞ぎ切れば勝てる。 「……耐えた!」 竜一はその一撃のために二重の策を練っていた。あえてその一撃を誘発させる為に軍神を降ろし、そしてその一撃のために麻痺にならないための破界器を着込んでいる。故に留置の動きは止まら――凍結。 (低温による凍結封鎖!?) 纏わりつく氷が、竜一の足を止める。策の崩壊の感激を突くように如月の爪が突き出される。その一撃が竜一の運命を燃やし、燃焼が竜一を縛っていた鎖を解き放つ。 「この一撃に全てを賭ける! 耐え切りゃお前の勝ち。そうでなきゃ、俺の勝ちだ! 俺の二刀の車懸り! 味わえ!」 裂帛と共に竜一の二刀が翻る。二匹の龍が昇り、降る。如月はその衝撃をまともに受け、 「耐えたぜ……俺の勝ちだ!」 運命を削って立ち尽くした如月が、竜一の胸部を穿つ。その一撃で、竜一は力尽きた。 ●1勝1敗1分け 「うふふ、大義名分なんて如何でも良いよ。そんな事より殺し合おうぜ、フィクサード!」 「……はい」 無邪気に笑う『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)に対し、必要最低限しか喋らない三上。折れた剣と巨大な斧という異様を極めたかのような灯璃の武装に対し、三上の持つのは袖から出したクナイ。 「興味があるのは『五月雨』のほうだったけど、キミでもいいよ」 言って灯璃は純白の四枚翼を広げ、一歩踏み込む。戦いの高揚に身を任せるように笑みを浮かべ、二つの破界器を叩きつけるように繰り出す。高重量の武器が叩きつけられる衝撃が道場に響く。その衝撃の中央にあって、三上は大きなダメージを追っていなかった。 「ただの死にたがりじゃないみたいだね」 「貴方は、私を殺してくれるのですか?」 「どうだろうね!」 立て続けに繰り出される灯璃の破界器。折れた剣は多くの死を刻んだ呪いの剣。黒く光る刀身には、呪いに似た何かが渦巻いている。そしてもう片方の斧は、とあるフィクサードの使っていたもの。鉄の塊にも似たそれは重量だけでも凶悪な代物。 その隙をつくように三上のクナイが打ち出される。それは己を殺させたい為に相手を追い詰める為か。それとも己の死神にふさわしいかを選別する為か。 無邪気と陰気。高重量武装と隙を縫う一撃。灯璃と三上は相反するようなスタイルに見えて、実は似通っていた。攻防共にこなし、長期的に相手を仕留めていくタイプ。 だがこの勝負は灯璃に分があった。正確に言えば、三上は相性が悪かった。 (今の灯璃相手にその運の悪さは致命的だよね。集中を重ねて常闇を撃ち込めば、『厄人形』は悪運にまみれてそれまでだもん) だが灯璃はそれを行わなかった。なぜかというと、 「――気に入らないなぁ」 その一言に尽きた。 「キミがどんな人生歩んできたかは知らないけど、たかが十五年で悟ったような口利くなよ、クソガキが」 「……すみません」 怒りの篭った灯璃の言葉に心の篭っていない返事をする三上。共に運命を削り、疲弊している状態だ。 (回復封じられて、厳しいかな……) 三上のクナイは死神の如く鎧を通り抜け直接肉体に傷を与え、回復を阻害する。。そしてダークナイトの技は使用のたびに肉体を蝕んでいく。三上もその技で疲弊しているが、それでも倒すには一歩至らない。 最善手を選ばず勝つには、実力差が必要だ。そして灯璃と三上の差は、僅差であった。 三上のクナイが灯璃の胸に突き刺さる。そのまま灯璃は意識を失った。 「……貴方も、私を殺さないのですね」 地に落ちた灯璃を前に、陰鬱な声で三上が呟いた。 ●1勝2敗1分け 「『硝子の盾』、君の挑戦を受けよう」 「戦う気満々か。その方がいい作品ができるのだが」 『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)の刀から妖気が溢れる。目の前には作務衣を着て立つ楠木。戦いそのものを目的とする朔。戦いは作品のインスピレーションという手段とする楠木。速度と防御。刀と扇。何から何まで正反対である。 「時に質問があるのだが良いだろうか。戦いの刺激で作る作品とはどのようなものなのだ? この戦いに君が生き残ったら私との戦いで作った作品を見せてもらいたいものだ」 自らの神経を神秘の力で刺激しながら、朔が問いかける。自身のオーラを展開しながら、楠木が答えた。 「その為には、君自身も生き残らないといけないと思うが。何なら今辞退しても構わないよ」 「冗談。勝つのは私だ」 言って互いに先頭の構えを取る。速度なら朔。体力なら楠木。長期戦になれば不利になるのは朔だ。ならば手数で押し切るか? (闇雲に攻めれば負ける) 朔は言葉なく負け筋の一つを認め、構えを解く。抜いた刀を鞘に納める。刀からの妖気が消え、清涼な空気が道場を支配する。 「ほう」 楠木は静かに呟き、扇を構えたまま朔と同じく静止する。互いに相手を見ながら、神経を研ぎ澄ます。鏡のような水面の如く、互いを写すように二人の戦士は動かす自らを研ぎ澄ましていく。 軒先の鳥が、羽ばたく。 その音を合図にして、朔と楠木が動く。単純な反応速度から、抜刀した朔の刀が、楠木の肩を薙ぐ。確かな手ごたえ。その一撃に耐えた楠木の稲妻のような一撃が、朔を打つ。 そこからは前半の静けさが嘘のような、烈火のごとく猛撃が繰り広げられる。共に裂帛の声を上げながら、全てのエネルギーを燃やすように破界器を振るう。 「これが『閃刃斬魔』だ。受けきれるか『硝子の盾』!」 「『盾』の名は伊達ではない。それを己が刀で感じるがいい!」 朔の攻めは止まらない。速く、疾く。思考と同時に刀を繰り出し、その軌跡からさらなる一手を思考し、そして体を動かす。自分自身の体勢、体力、余力、刃筋の向き、ベクトル、今の状態から繰り出せる次の動き、そこから派生するさらなる技。 その全てを持って殺しの陣を構成する。そこは朔が構成する斬劇の空間。 だが、 「まだ負けぬよ。これからだ」 先に運命を燃やしたのは体力で劣る朔だった。楠木もかなり疲弊しているが、僅か一手の差で楠木に軍配が―― 「我が太刀よ――」 ――下―― 「雲耀へ至れ!」 ――ることはなかった。一脈拍の八千分の一秒。その時間で朔は二連激を繰り出していた。『葬刀魔喰』による斬激と、鞘である『武御雷』の打撃を。 「……見事だ。こいつはいい作品が、でき……」 言葉を最後まで言うことなく、楠木は倒れ付した。 ●2勝2敗1分け 「全く……いちゃもんつけるにも程があるぜ? 戦いたかったら素直にそう言えばいいのに。そういう所は昔も変わらねぇんだな」 「大義名分は大事なんだよ。……ま、今回ばかりはそれだけじゃないがな」 『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がため息をつきながら抜刀し、緒方も同じように太刀を構える。元同僚の太刀筋は何度か見たことがある。そしてそれは相手も同じだろう。虎鐵は肩を脱力させて、緒方に向き直る。 僅かな沈黙の後、緒方が口を開く。 「……息子と娘は息災か?」 「なんだよいきなり。息災だぜ。じゃなければ俺は修羅になってるだろうからなぁ」 「大事にしてやれ。自分も含めて」 空気が一瞬和―― 「戦いを挑んでおいていうことじゃ、ねえよな!」 ――むことはなかった。虎鐵と緒方、同時に刀を振るい打ち合った刀が激しい音を立てる。白虎の獰猛な筋力と、機械の圧殺するような力。それが会話する距離から叩き込まれる。先に繰り出したのはどちらか、何が開戦の合図だったか。当人達を含め、この場にいるものは誰も理解できなかった。 一撃。また一撃。 そのたびに道場に刃の重なり合う音が響く。座して見ているものの体が、刃競りの衝撃で震える。これは打ち合う刀の衝撃か、それともパワー系同士の打ち合いに武者震いしているのか。 ほぼ同時に運命を燃やし、それでもなお構えを崩さない。 この勝負は短時間で終わる。それは誰もが理解できた。拮抗する力のバランスが崩れれば、その一瞬で勝負は決する。 「この地で『儀式』をさせるわけにはいかん。失敗すればこの地に『崩界』の因子が暴れまわると聞く。それだけのものだ。この地にかなりの被害が出るだろう。 世界の終わりより先に、家族の終わりが来るのは耐えられん」 家族のために。緒方はただそれだけのためにアークに喧嘩を仕掛けた。彼とて世界の崩界は避けたい。だが、そのために家族を危険にさらすのは耐えがたかった。 「家族を守りたいが為に戦うのは、分かる」 虎鐵にも家族はいる。血の繋がらない義理の息子と娘だが、誰憚ることなく家族と言い張れる絆がある。だから理解はできる。 パワー系、剣林、家族の為に振るわれる刃。似通った虎鐵と緒方。 「けどよ、ここで勝たねぇと俺の娘と息子がヤバイ目に会うんだよ。テメェと同じように俺にはそれが耐えられねぇだけだ」 違いをあげるなら、刃の在り方。犠牲を恐れて守勢に回る緒方と、犠牲を出さぬ為に勝ちを求める虎鐵。その一点。 (刀に魂を込めて、斬り付ける) 限界を超えた一撃。肉体も、精神も、魂ものせた必殺の一撃。 「まだ百虎が居るんだ……こんな所で負ける訳にはいかねぇんだよ!」 遥か高みを目指す一撃が、緒方の刀を弾き飛ばし、袈裟懸けに切り裂いた。 ●3勝2敗1分け アークの勝利により、上杉神社を退くこととなった剣林。 だが赴いた六人は満身創痍の為、儀式は後送りとなる。この状態で何かと戦えば、敗北は必至だ。今は剣林を追い払っただけでも良しとしよう。 道場の空気は梅雨の空気もあって、僅かに肌寒い。幾度となく踏みしめられた畳は硬く、長年使われた年季を感じさせる。 そんな畳の上に寝転がり、梅雨の空気で体を冷やすリベリスタたち。 任務の達成よりも、疲弊よりも、死線を潜った恐ろしさよりも。 ただ全力で戦った充実感が、彼らの体を震わせていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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