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カードゲームしませう。


『カードゲームしませう。』
 アーク本部。食堂の片隅に張られているポスターにはこう書いてある。
『TCG大会開催、参加者募集』
『ジャンル問わず』
 もし貴方に、TCG…トレーディングカードゲームへの興味があるとしよう。
 ほんの少々、知識もあるとしよう。
 その場合『ジャンル問わず』という一文が強烈に異彩を放って見えることだろう。
 そこにふらっと現れる、主催者――『悪狐』九品寺 佐幽 (nBNE000247)。
 お狐様のトレイに乗っているのは、たぬきうどんと唐揚げである。
「……共食いって素敵ですよね」
 虚ろな微笑を湛える佐幽――席につくと暫く、扇子でふわふわと丼の湯気を扇ぐ。
 こちらまでかつおだしの利いた甘じょっぱい匂いが漂ってくる。
 ――キツネって猫舌ですっけ?
「おや、大会にご興味でも?」
 佐幽はたぬきうどんを冷ます間、ヒマつぶしにと貴方に説明をはじめた。
「じつはカード好きの少年少女の要望を受けまして、一同に集ってなごやかに交流する機会を設けるべく、今回はカード大会を開くことに致しました。
 されとて一口にカードといっても多種多様なようですので、なにかひとつに限定せず、いっそメジャーもマイナーも問わず好きに遊んでもらえれば、と思った次第にございます。
 さういう、ゆるーい趣旨ですので特別な優勝商品などは用意しておりませんが」
 つるるっ。
 静かにおうどんを啜る佐幽。片手で髪が邪魔にならないように圧える仕草が色っぽい。
 ただ、うどん出汁にちょいと唐揚げを浸して食べるのは賛否が分かれるところだ。


 大会の会場はとある催事場、イベントホールの適度に広い一室を借りて行われる。
 どうせ大人数は集まらないであろうと見越して、テーブルは最大32席ほど。
 事前に“大会をやりたいTCG”を申請して貰い、要望が多いものは正式に開催する。
 要望が少ないジャンルは、フリープレイ会として個々に自由にやってもらう方針だ。

 特筆すべきは、アーク脅威の技術!
 AFを連動させ、拡張現実――ARとしてカードの立体ホログラム化に成功したのだ。
 技術としては幻視を応用してどーだこーだ…そこはさておき、とにかく迫力アリだ。
 
 ルールを守って楽しく遊ぼう! ご来場、お待ちしております。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:カモメのジョナサン  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年07月03日(木)22:19
みなさんどうも、STのカモメのジョナサンです。
今回はTCG大会! たまにはカードゲームなんていかがでしょうか?

●概略
 TCGの【ジャンル】ごとに大会を開きますので、一日のんびり遊んでください。
 【ジャンル】の応募が4名以上のTCGは大会として開催になります。
 3名未満の【ジャンル】はフリープレイ扱いとなります。
 大会に参加せず、会場内で気ままに過ごしてくださっても構いません。
 
●場所:イベントホール
 全32席の、それなりに広い催事場。
 AF連動立体ホログラムアプリにより拡張現実(AR)でカードが再現される!
 飲食は禁止。食事などはホール外にある同会場内の喫茶店か、もしくは外で。
 大会中はスキル使用不可。あくまでカードの実力で競うこと。

 なお物販コーナー出店受付中。

●ジャンル
 TCG大会では、複数の【ジャンル】による大会が開催される予定です。
 【ジャンル】応募者が4名を越えた場合、大会として正式に開催されます。
 一行目に希望する【ジャンル】を【 】に記載してください。

 同一の【ジャンル】大会に出場する人同士は、バトルで当たることになります。
 特定の相手との対決を希望する場合、おおよそその通りになります。
 その他は適宜マッチングを行います。

 ジャンルは、下記されるジャンル候補もしくは相談を行い“こんなのやりたい!”というものを相談し合ってオリジナルのTCGをご応募ください。
 大会出場は最大2つまで。ただし描写量の都合上、1箇所に絞るメリットもあります。

 -------------ジャンル候補------------

 ★『大将軍 デュエルジェネラルズ オフィシャルカードゲーム』略:【大将軍】
  戦国時代をモチーフとする漫画「大将軍」から派生した有名なTCG。
  基本となる駒『武将』カードと『術』『罠』などの計略を駆使して戦う。
  代表的なカードは『独眼の三日月竜《ワンアイズ・クレッセントドラゴン》』

 ★『神様これくしょんTCG』略:【神これ】
  萌える! 古今東西の神様をモチーフにした“ド”マイナーなTCGです。
  美少女化された神様や神話の怪物などが山ほど出てきます。
  しかし立ち上げに失敗した為、二束三文で投げ売りに。第二弾で展開終了済み。
  面白半分で今日のためにスターター&ブースター1、2弾を山盛り用意する予定。
  午前にブースタードラフト(パックを開けて即席デッキで戦う)、午後に大会予定。

 ★『マジック&ウィッチズ』略:【マジ魔女】
  魔法少女をテーマにしたアニメなどの作品群が参戦する版権TCGもの。
  カジュアルなゲーム性で遊びやすい反面、運要素が強くよくもわるくも底が浅い。
  稀に化石や古典といえる作品のカードが発売されるなど製作陣の歪んだ愛を感じる。

 ★『三高平商店街カードゲーム』略:【商店街】
  三高平商店街の一部でおまけ配布される、同人TCG。マイナー通り越して手作り。
  カードの題材は商品が多く、とりわけ『牛肉』とか『特濃牛乳』などが異彩を放つ。
  モンスターを戦わせるのではなく、商業を題材に商店を成長させることで戦う。
  ゲームバランスは非常に悪く、世紀末レベル。逆にそこが受けているという説も。

 ★『トランプ』
  もはやトレーディングしないカードゲーム。遊び方は無限大。
  佐幽的には「カード大会」だから一応OKとのこと。

●デッキとカードと戦略
 細かいルールは無いのでノリで書いちゃってどーぞ!
 少量の記述でも構いません

●NPC
・九品寺 佐幽
 主催者。諸々の裏方をひとりでこなす。審判だけど大半のルールに疎いです。
 誘ったら遊んでくれるかもしれませんが、実力は不明です。

・『焦げてる』佐倉 桜(nBNE000257)
 裏方その2。元ヒッキー。今回は表。審判兼雑用。じつは今回の言い出しっぺのひとり。
 最近CMなどに釣られて勢いでTCGに手を出してみるも周囲に対戦相手がおらず、そもそも遊び相手などいなかった現実に打ちのめされるTCGあるあるの典型例。


●注意事項
 ・このシナリオはイベントシナリオとなります。
  ・参加料金は50LPになります。
  ・イベントシナリオでは全員の描写が行われない場合もあります
  ・報酬はVery Easy相当です
  ・行動はやりたいことを絞っておくことをオススメします。
  ・特定のPCと一緒に行動する際は、名前とIDの表記をおねがいします。
  ・大会への出場・開催を希望する場合は【 】でジャンルを決めてください
  ・実在のTCGやカード名そのままはアウトなのであしからず
参加NPC
佐倉 桜 (nBNE000257)
 


■メイン参加者 16人■
アウトサイドダークナイト
テテロ ミーノ(BNE000011)
ハーフムーンソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
フライダークマグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
アウトサイドソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
アウトサイドクロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ハイジーニアスデュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ハイジーニアススターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ハイジーニアスマグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
ジーニアスソードミラージュ
佐倉 吹雪(BNE003319)
フライダークホーリーメイガス
メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)
ジーニアスインヤンマスター
加藤・ゲオルギエヴィチ・敏伍(BNE004736)
ビーストハーフアークリベリオン
テテロ ミスト(BNE004973)
メタルフレームクリミナルスタア
烟夢・クローフィ(BNE005025)

●0
 催事場はそれなりに活気づいていた。
 けっして大きなイベントではなく熱気揺らめく大会ではないものの、温かい雰囲気だ。
 午前と午後の二部構成。
 大会開催は『神様これくしょん』『大将軍』と相成った。
 平行してフリープレイ会では『マジック&ウィッチズ』『三高平商店街カードゲーム』『豚撃のバハムートン』『トランプ』等も遊ばれるようだ。
 その模様を、これからお伝えしよう。

●午前/マジ魔女
「むむむ~」
 問:彼女は何をしていますか?
 答:彼女はにらめっこをしています。
 テテロ ミーノとペペロンチーノの関係性について語ることはさておいて。
 ミーノは物販コーナーの机にしがみつき、色んな商品をじっと見つめてトウモロコシ色の九つの尻尾をふわんふわん揺らしている。
 お母さ…リュミエールはミーノの微笑ましい様子をのんびり見守っている。黒と黄のミツバチカラーの九尾コンビはぴったり横に並んでいる。――その空間密度たるや、モフモフの尻尾×18のおかげで物販コーナーの机の上はまるで見通せない。
「好きなの選んでいいンダゾ」
「うー……」
 ひとつだけ選んでいいよ、といわれて昔のSRPGみたいに長考するお子様の図。
「あーうー」
 物販コーナーでは守護神こと新田・快の新田酒店が出張販売を行っている。『商店街』のカードのみならず、(他に店員もいないので)各種カードやお菓子なども売っている。
「どうだ、決まりそうか? よかったらこの三高平――」
「あ!」
 ペカッ! ミーノの笑顔が花開く。
「おおっ、決まったか」
「さくら甘酒まんじゅう!」
 期待していた新田にとってはものの見事に肩透かし。
「お菓子かい!」
「だってスキなのえらんでいいって」
「じゃあコレとコレください」
 すかさずお菓子類を選んで会計を済ませるリュミエール。わーい! と喜ぶミーノに「ちっちっちっ」と指を振る。
「カードで勝ったら、ご褒美にお菓子1個ずつナ」
「えーーーーーーー!!」
「ほら、早く選んで」
 そわそわ甘酒まんじゅうにわき見しつつ、ミーノはカードを選択する。
「むむむ~よくわからないけどこれをやってみよ~~~っ」
 ミーノは『マジック&ウィッチズ』のスターターを手にはりきってみせる。
 それが悲劇(?)のはじまりだった。

●午前/神これ 1/2
「では、午前の部『神様これくしょん』ブースタードラフトを開始いたします」
 司会進行役の『悪狐』こと九品寺 佐幽は淡々とテーブルに第1弾および第2弾ブースターパックを配ってゆく。
 出場者は――司馬 鷲祐。雲野 杏。春津見・小梢。佐倉 桜。計4名だ。

「ブースタードラフト? 初めて目にするな」
 大会の進行を見物する青年、新城・拓真は一連の流れを観察する。凛々しい拓真の横顔は真剣だ。
「ブースタードラフトとは、TCGの競技形態のひとつで“限定戦”の一種だそうです」
 解説書を片手に、リリ・シュヴァイヤーが答える。
 両者とも日常的なカジュアルな服装だ。黒い外套を纏った双剣と修道服の蒼き魔弾。そういった戦地でのイメージとは一風違った印象だ。
「“限定戦”は自由にデッキ構築ができない為、やや運に左右されやすく、一方でカード資産に左右されない、とありますね」
「限られた状況下で、できうる最善の手を即座に模索する――。なるほどな」
 拓真はドラフト模様を見やって、ひとり頷く。
「俺達の日頃の戦いにも相通じるものがあるな。自分の出来ることをカードに置き換えて表せば、いかに相手の手を読み、有効な一手を返すかという駆け引きは何ら相違ない。将棋やチェスのはじまりも合戦の模擬だ。とはいえ……俺は遊んだ事はないし、今日は雰囲気だけ眺めさせて貰うとするが」
「私も経験はなくて……、これも日本文化の勉強なのです」
 解説書のページをめくるリリ。
「ブースタードラフトは、即席でデッキを作って戦う限定戦だそうです。
 1つ、まず未開封のブースターパックをデッキ作成に必要な規定枚数分だけ、それぞれに配ります。2つ、ブースターパックを開封、1パック(今回は8枚)内のうち好きな1枚を自分のカードとして選びます。3つ、隣の人に残りのカードを渡し、別の隣の人からカードを渡されますので好きな1枚を自分のカードとして選びます。4つ、これらを繰り返してデッキ規定数に達すれば完成です。
 ……なんだか回転寿司みたいにカードが回るのですね」
「自分の選ばなかったカードは他人の手に渡る……悩みどころだな」
「わかります、回転すし屋さんでもつい唐揚げなどの注文をしたくて悩んでしまいます」
「ん?」
「え?」

 テーブル席にて。
「ふむ……カードゲームと聞いて飛び込んでみたけれど、知ってるTCGが全然無いわね」
 雲野 杏は、春津見に貰ったカードの中から一枚『黄金の聖鎧』を選び、隣の司馬 鷲祐に残りを渡す。
「豚撃のバハムートンか?」
 ちらっと壁面に視線を向ける、鷲祐。彼の手で自ら張られた販促ポスターは1mはあろう大きなもので、しかも被写体は鷲祐本人。清々しいスマイルと裏腹に、背景は無残に炎上する家屋らしきものの写真である。キャッチコピーは『戦火ろうぜ!』である。
「仕事、選べばいいのに」
「……本当、なんでこんな仕事したんだっけなぁ……」
 杏は溜息つきつつ、着実に高パワーのレアや序盤展開用のキャラやイベントのカードを選び、流す。
 なお春津見を経由すると必ずインド系の神様やイベントが回収されている。
「アタシが知ってるのは……ほら、あるじゃない?『世界一遊ばれているTCG』と世界記録に認定されてるアレとか、その元ネタの古典TCGのソレとか」
「わかってる、皆まで言うな」
「ま、せっかくだから参加はしておきましょ、ブードラだったら条件は五分だし」
 デッキ完成まで、あと2枚。杏の手元に渡ってきた二枚のカード。
 『水瓶イド☆ガニュメデ』と『戦火のプロ メテウス』片や絶世の美少年……というか男の娘、片や萌えTCGには珍しいヒゲジジイ。即ガニュメデ。
 そして鷲祐の手に渡る、プロメテウスの火。
 このヒゲジジイ、人類に原初の火を与えた神である。
 フレーバーテキスト『この火を汝に授けよう。しかし忘れるな、ひとつ間違えばこの火は汝のすべてを焼き尽くす』
「……俺が何を間違えた!!」
 
●午前/神これ 2/2
 決勝戦:司馬 鷲祐vs雲野 杏。
 攻防は一進一退。
 ブースタードラフトの性質上、お互いのデッキは理想には程遠い。その中でもお互いにできる範囲で戦術を組み立て、デッキを構築していた。
 が、明暗を分けたのは運であった。
 ダメージレースは互いにギリギリ、手札はカツカツ、あと1ダメージで勝敗が決まる。
 そんな中、鷲祐が引いたのは――『戦火のプロ メテウス』だ。
「! このカードは……!」
 戦火のプロ効果要約『召喚時:自分は1ダメージを受ける。このカードが戦闘によって相手のキャラをトラッシュに送った時、相手に2ダメージを与える』
 鷲祐の残りライフ:1。
「俺に何の恨みがあるんだプロメテウスッ!!」
「アタシのターン! 水瓶イド☆ガニュメデ召喚イベントカード黄金の聖鎧を発動パワー+3000上昇! このターン、カウンター無効!」
「あ、ちょっ待」
 ARヴィジョンに投影された美少年ガニュメデはメイド服に黄金の聖鎧を装備、水瓶カノンに絶対零度の冷気を集束させ、解き放つ。
「アクエリアスエクスキューション!」
「ぐはぁっ!」
 氷像と化したプロメテウスが粉々に砕け散る。
 優勝、杏!
「っしゃあ!」
 ギャキュィィィィンッ! 勝利のエレキギターが鳴り響いた。



●午前/トランプ
 たかがババ抜き、されどババ抜き。流れる空気は重く、淀んでいた。
 佐倉 吹雪。
 テテロ ミスト。
 烟夢・クローフィ。
 卓上に着いた三者。
 さながらそこは西部劇の酒場が如く、勝負師たちが集っていた。
 ――そう見えるのはきっと咥え煙草の烟夢とカウボーイスタイルの吹雪のせいだ。
 
 一方、メイは18本の尻尾の隙間から盗み見るようにカードの商品を眺めていた。
 物販ブースの新田青年のまばゆい営業スマイルから目を背けて。
「……高い、よね」
 TCGは高い。――とメイが感じるのは無理もない。スターター等の安価な初期セットはともかく、ハマればハマるほどに高額なレアカードが欲しくなってくる。ゲーム屋を尋ねた時、そういう無闇に高いカードの値札を目にしたことがある。すごく特別なカードらしいけれど、1枚1万円を越えるものなど――お金が幾らあっても足りそうにない。
「やっぱりコレだよね」
 テーブルの片隅で、メイは器用にトランプをシャッフルする。

『ソリティア』

 それはなぜかPCに初期搭載されていることが多い『地雷探し』に並ぶゲームだ。
 ペラッ。
 スチャッ。
 ペラッ。
 スチャッ。
 ペラッ。
 ……延々と続く、ひとりプレイ。なおTCG用語では『ソリティア』とは、特殊なコンボなどにより相手に何もさせず一方的に勝利する行為を意味する。
「……揃った!」
 返事がない。ただの一人遊びのようだ。
「あー……」
 気を取り直して、今度は手品に挑戦してみる。
 無駄に練習していたリボン・スプレッドをものの見事に決め、横一列に並べたトランプ。ドキドキの瞬間、津波のように一気に――ひっくり返してみせた。
「できた!」
 拍手がない。ただの一人遊びのようだ。
 ――お嬢さん、根本的に趣旨が違いやしませんかね?
「みゅう……」
 誰に話しかけることもできず、ひとりさびしくメイはトランプタワーを積みはじめる。
 といっても、やはりタワーが完成に近づくにつれ熱中してくる。
 繊細な薄氷の上を渡るかのようなこの緊張感――あと一枚で、ついに、完成――。
 それはあたかもバベルの塔を築くが如き、万有引力という神への挑戦――!
『究極独眼竜・政宗! 強靭! 無敵! 最強! いっくぜぇ! 滅びのブラックチェインストリーム!』
「あっ――」
 轟砲一閃、会場中央の『大将軍』大会は盛大に盛り上がっている。
 誰かさんのエースジェネラルのARヴィジョンが放った必殺の一撃によって、メイの努力は無情にも消し飛ぶ(手元が狂う)のであった。

●午前/大将軍 1/2
 大将軍、準決勝第二試合。
 白雪 陽菜vsラヴィアン・リファール。
 いたずら姫と突撃娘のデッキはお互いの戦術が色濃く反映されていた。
「子供たちと遊ぶためにデッキ構築済みだよ! 見よ!アタシの罠デッキ!」
 陽菜のデッキは全体の2/3を罠カードで構成、妨害とデッキ破壊に秀でたイタズラ心に溢れる戦術構成だ。
 術カードは手札増強系のみ、武将に至っては全体の1/6程度しかない。
 テクニカルな反面、守りは手薄い等の難点もあるのだが――。
「ふっふっふ」
 不敵に笑う、ラヴィアン。
「俺はこう見えて歴戦のカードゲーマー。大会で優勝した事だってあるんだぜ」
「にゃにっ!」
「戦略はパワーだぜ! 行くぜ!」
 こうして試合は幕を開けた。
「あたしのターン! ジェネラルを召喚! 十文字槍サニャダユキムニャ!」
 くるくるくる、しゅばっ!
『タヌキコロス!』
 キャッと空中三回転、華麗に降り立つ赤胴に六文銭の額当てをしたネコ武将。
「さらに永続罠カード『サニャダ丸』と伏せカードを3枚セットしてターンエンド!」
 サニャダ丸は常時、自分のジェネラルの守備力を上げる上、相手の直接攻撃時に山札3枚を削る効果がある。
「俺のターン! タイガー信玄マスクを召喚! 効果によってドラグーン謙信を特殊召喚! さらにジェネラルクロ――」
「召喚時に罠カード発動! 『爆発死散・平蜘蛛の釜』! 自分のジェネラル一体を生贄に捧げ、そのジェネラルより守備力の低い相手のジェネラル二体を破壊しちゃうよ!」
「なっ!?」
 ぶんぶく茶釜よろしく合体したユキムニャが突撃、大爆発する。
「くっ、くくくくっ」
「!?」
「俺は! 待ってたぜ、この時をよぉ! 二枚以上のジェネラルが相手によって破壊された時、手札から特殊召喚するぜ! 紅蓮の殲国魔王ノヴァ・ナーガ!」
 炎上する寺社。
 煉獄の炎の中より出でる、黒く禍々しき龍蛇――第六天魔王。
 ARヴィジョンとは思えぬ迫力に、思わず誰もが息を呑む。
 この威容に観客もざわめき立つ。
「む、アレは……」
「知っているのですか、拓真様」
「……知らん」
 拓真は堂々リリへそう言い切った。
「コレが彼女の切り札か、攻撃力は一撃でライフの3/4を削るほどに高いとは。それにつけてもこの迫力、AF連動立体ホログラムアプリか。ああいうのは、子供の頃はアニメや漫画だけの物かと思っていたが……」
 殲国魔王ノヴァ・ナーガは長大な体躯にて黒天を舞う。
「ふはははははっ! 魔王の力を見せてやる! 殲国のスーパーノヴァ・ブラスト!」
「なんの! 罠カード発動! 『稲葉山一夜城』! 一夜城トークンを特殊召喚、守備力3500で防御するよ!」
「くっ!」
 突如出現した城郭が漆黒の超新星爆発を受け止め、逆にラヴィアンのライフを削る。さらにサニャダ丸の効果によってデッキが3枚削られる。
 しかし所詮は一夜城、ターンエンドと共に消滅してしまった。
 残る手札はわずか――陽菜は自らを信じてドローする。
「……! ふ、伏せカードを一枚セットしてターン……エンド」
 陽菜の手札に残るは『戦国元年のラタトスク 北条早雲』一枚のみ。お気に入りのスーパーレア武将といっても、上級武将であるがために召喚条件が揃わない。
「俺のターン! 装備カード発動だぜ! 『殲国アームズ・南蛮具足』さらに『殲国アームズ・火縄銃』! 大! 大! 大! 大! 大将軍ッ! 制覇!」
 攻撃時に発動した罠『血海油壺』によるジェネラル破壊効果を、南蛮具足が無効化。火縄銃によって強化された必殺の一撃によって勝負は決したのだった。
「うう……、負けちゃった~!」
「良い決闘だったぜ! またやろうな!」
「……うん! ここまできたら決勝がんばってね!」
 ラヴィアンと陽菜、最後はふたり仲良く握手をかわすのだった。

●午前/大将軍 決勝戦
 大将軍、決勝戦。
 快進撃をつづけるラヴィアンと火力重視のパワーデッキ。
 立ちはだかる最後の敵は老獪なる男 加藤・ゲオルギエヴィチ・敏伍である。
 七十過ぎの老人という外見と裏腹に、加藤はまだ三十九歳と若い。とはいえ、若干12歳のラヴィアンにとってみればさしたる違いもないかもしれない。
 が、加藤の老獪な雰囲気は決して見掛け倒しではない。
「仙台タウロスでプリンセス・ガラシャにアタック! 牛タンスラッシュ!」
「それは通します。ダメージは食らいます」
「薩刃マシーン 島津豊久で更に攻撃! その首もらったァッ!」
「それはカウンター」
 光輝する手札、襲来する伏兵。
「罠カード『雷切』。直接攻撃してきたジェネラルを破壊、それより攻撃力の低い名称:『立花』のカード一枚をデッキから特殊召喚します。はい、ホワイトロード立花」
「ぬぁぁっ! のらりくらりとかわして時間稼ぎしやがって!」
「大人の財力で集めたカードに時間を有意義に使うコントロールデッキ、いかがです?」
「面白い! 決勝だもんな、そう来なくっちゃ!」
「僕のターン、ドロー」
 試合はずいぶん長引いている。盤上はラヴィアン優勢だ。
「そろそろ決着つけようぜ、あんたのライフはあと少しだ」
「そう、おかげで僕はあのカードを召喚できるね」
「!? まさか、あの幻の裏スーパーレア……」
「そう、『エターナルヴィクトリードラゴン』毛利勝永はマイナーだけどね」
 立花を生贄に捧げ、召喚を宣言。
 ARヴィジョンに映るのは――深き森の底に湧き出る影の泉。深緑と漆黒の龍鱗に武者甲冑を纏い槍を握ったドラゴンが咆哮ひとつなく這い出してきた。
「このジェネラルの攻撃力と守備力は、召喚時の[初期ライフ-残ライフ]になるから今は3600だね。じゃ、僕の墓地のカードを4枚取り除いて仙台タウロスにはご退場願おうか」
 深緑の蔦が湧き出すや否や、暴れる牛戦士を地の底に引きずり込んだ。
 加藤の墓地は残り8枚、このために時間を稼ぎ墓地を増やしていたのか。
「このカード、僕の場にある限りはデメリットとしてどれだけ攻撃しても君のライフは100残っちゃうけど、トドメを刺す時は処分すればいいからね」
「くっ! けどあと少しライフさえ削っちまえば…!」
「では回復しますね。術カード『天下餅』。僕のライフと君のライフ、差分だけ回復しちゃうからね。これでおあいこ」
「なっ!?」
「カードを1枚伏せ、勝永さんでダイレクトアタック」
「うわぁぁ! なんてこった、俺の残りライフが一瞬でたった100に!」
「はい、ターンエンド」
 加藤は飄々と振る舞い、余裕綽々。
「ぐぅぅ……」
「大人げない? いえいえ、これこそ大人の遊び方ですよ」
「それがあんたの強さか、それもいいさ! だったら教えてやるよ、俺の強さを」
 山札に指をかざして、念じる。
 一球入魂。
「俺の強さは、逆境での引きの強さだぜ! ディスティニードロー!」
 カッ!と目を見開く。
 そして一気に怒涛のコンボを決めた。
「来た! 俺は! 術カード『黄金の十字架』を発動! ライフを半分払い、残り50に! そしてデッキから『独眼の三日月竜』を特殊召喚! さらに術カード『三本の矢』を発動! フィールド上と墓地の融合素材をゲームから除外して融合召喚! 来い! 究極独眼竜・政宗! さらに殲国アームズ・南蛮鎧を装備! 攻撃力5000! 玉砕! 粉砕! 大喝采! いっくぜぇ! 滅びのブラックチェインストリーム!」
「おお……!」
 手札をすべて使い切って召喚された最強最大の究極竜によって影の英雄龍が消滅する。
 魔法、罠を1ターン1度まで無効化する南蛮鎧に極限の攻撃力、このジェネラルを倒す術は加藤には――ない。
「ふはははは! ふははははははっ!」
「あ、僕のターン。タイガースレイヤー加藤清正を召喚、召喚時効果で400ポイントのダメージを与えるね。ラヴィアンさん残りライフ50だったよね」
「……」
「はい、僕の勝ち」
「マジで?」
「マジです」

●昼休み/豚撃
 午前は終了、お昼休みを挟んで午後の部へ。
 そんな中、ひとり未だに説明書とにらめっこしている少女がひとり。
 解説や観戦ばかりしていた為、自分ではまだカードバトルに参加できていないのだ。
「お暇ですか?」
「あ、佐幽様」
 佐幽はテーブルの向かい席に優雅に座り、デッキケースを机に置いた。
「わたくしも日頃、見るばかりの立場でございますからね。たまには同じ立場で、と」
「ではごいっしょに」

 決闘開始。
 第1ターン、先行はリリだ。
 お互い説明書を片手に、初心者ふたりのどやかに進めていく。
「えー…このゲームはお互いにフェイトを削り合い、先に相手フェイトを0にすれば勝利となる、そうです。幾つかルールがありますが、今回のルールでは、前衛3枚、後衛3枚、神秘エリアには5枚まで展開できます」
「前列と後列の概念ですか、なるほど」
「では、最初にまず手札を5枚まで引きます」
「はい、引きましたよ」
「次に、好きな枚数を山札に戻してシャッフル、その枚数分だけ新しく引きます」
「なにか基準は?」
「カードにはレベル概念があります。――“初級”のレベル0、“中級”のレベル1、“上級”のレベル2、“特級”のレベル3。低レベルほど序盤に、高レベルほど終盤に使いますから最初は0と1が適度に手札にあるといいそうです」
「左様で」
「ではまずドローを。フェイトに手札のカード1枚を置き、山札より2枚ドロー。前列に無軌道の戦姫と普通の少女を、後列に運命狂を召喚いたします」
「無軌道の戦姫はデメリット付の分、レベル0とは思えない高パワーですね」
「素敵ですよね、では、後列の運命狂に破界器カード『高速詠唱』を装備、神秘エリアに1枚を裏向きに伏せます。先行は攻撃できませんのでターン終了、佐幽様の手番です」
 ARヴィジョン上には見知った顔がモチーフと思わしきキャラがちらほら。肖像権の問題か、顔には陰が差している。
「わたくしの手番ですね。フェイトに手札を……」
「最初のドローを忘れてますよ」
「おや、本当ですね」
「いえ、お互い様ですから」
 くすっとリリは温かに微笑む。
「では、わたくしはまず前衛に罠カード『睡眠薬入りのごちそう』を召喚します」
「……え」
「……はい?」
「いや、あの、佐幽様……?」
「ああ失礼。ユニットも必要でしたね。では、神秘エリアに肉欲に堕ちた修道女を……」
「あの……逆です」
「ああ、こうですか?」
 上下反転。逆さまになる修道女。
「いえ、こっちは罠でこっちはユニットですから配置が逆で……」
「左様で」
 そして修正された盤面は、なぜか罠カードが表向きのままに。バレバレ愉快。
「う、裏返してください!」
「はい」
「修道女ではなくて!」
「ああ、こうですね」
「そう、そうです。それから――」
「次はどの手札を使えばよいのでしょうか?」
 手札フルオープン。
「……佐幽様、あの」
 この試合が終わったのは結局、昼休みが終わる間際だったという。

●午後/神これ 1/2
「……共食いって素敵ですよね」
「うんうん」
 たぬき蕎麦を啜る佐幽。
 桜(馬肉)カレーをモシャる春津見。――ちなみに持参品だ。
 会場外の売店のテーブル席でふたりは遅めの昼食を取っていた。
「ずるずる」
「もりもり」
「ちゅるんっ」
「もきゅもきゅ」
 おふたりさん、カードしてください。
「……あ、そろそろ午後の神これ大会ですね。今度はブードラではなく通常の」
「神これ。略してカレー」
「食事中すみませんが残り3分で席に着かないと不戦敗ですね」
「ほいじゃーいってくるねー」
「食べかけのカレーは置いてってくださいな」
「大丈夫、カードには絶対にこぼさない」
 目を輝かせ、春津見は力強く力説する。
「そんな勿体ない事してたまるか、一滴残さず食べるもんね」
「場内飲食禁止です」
 着席。
 ガガガガガガガッ。スプーンは躍る、秒針より早く。
「ごちそうさまでした」
 ぴゃーっと走り去ってゆく春津見さん。3分後、置き忘れたデッキを取りにきました。

 一時間後、売店のテーブル席にて。
「やーらーれーたー」
「ええ、惜しかったですね、司馬さんのデッキはガチと自負なさるだけはありました」
「あそこで春津見テレポートと春津見フレイムのコマンド打ち間違えなきゃね~」
「それは違う大会でしょう」
「デッキのイン度は高かったんだけどな~。がんだーら!」
「大黒様とかシヴァ神とか色々でてきましたよね」
「大黒様はむちむち! シヴァ神まさかの柴わんこ! わんわんお!」
「しかしまぁ、同じインド絡みとはいえ仏教とヒンズー教のカードが相反する性能でいっしょに混ぜるとあれほど不協和音を奏でるとは思いませんでした」
「仏陀の弟子の空中爆散に一掃される自分ちのフィールド!」
「命、天に還ってましたね」
「りんごとハチミツはカレーに合うのにねー」
 そう語るや否や、早くもカレー皿と寸胴を支度する春津見はいつも通りマイペースだ。
「あ、佐倉さんはー?」
「ああ、彼女でしたら……」

●午後/トランプ 1/2
「っくしゅん!」
 佐倉 吹雪は不意のクシャミに襲われた。
「っかしいな、風邪を引いてる訳でもないんだけどな」
「他所見してんなよ、ほい、あがり」
「あ!」
 烟夢は場内禁煙につき火こそつけていないが咥え煙草が様になっている。
「こりゃ一本とられたな」
 吹雪はカウボーイハットを深く被り直して、苦笑い。
「忘れるなよ、最終的に負けてたやつが一杯奢るってこと」
「ケチって安酒はなしだぜ、ちょうどそこに酒屋も居るんだ。とびっきりのにしようぜ」
 この一角、ここだけは西部の荒くれ共の煤けた酒場なのだ。
 荒野に生きる三人の真剣勝負の場である。
 空気を読んで、なぜか新田も酒場のマスター風の衣装に着替えてグラスを磨いている。
「……勝たなきゃ!」
 ――ひとり、巻き込まれた少年テテロ ミストはひとり決意した。

●午後/神これ 2/2
 決勝戦:司馬 鷲祐vs雲野 杏。
 午前に続いての再戦に、鷲祐は大いに燃えていた。
 ブースタードラフトでは不本意なデッキ構築や運に左右されたが、今度は本気だ。
「大人げないが今度はガチのデッキでやらせてもらうぞ!」
「ホントに大人げないわね」
「カード資産力も実力のうちだ! 行くぞ!」
 以下、ダイジェスト。
「虹蛇の応援+500! ドラゴンメイドの自動効果でレプンカムイのパワーを+1000! アタック! デイダラボッチを破壊! おっとそいつは手札に返ってもらうぞ! <龍妻>黒姫の配置時効果発動だ! 今だニーズへッグ召喚! まだだ! ドラゴンメイドを休息させコストを支払い山札からサーチ! <偉神>大海神を手札に加える! ニーズヘッグと<龍妻>黒姫を控え室に送り、<偉神>大海神にチェンジ! また手札に戻ってもらうぞ! さらに<神殺し>イルルヤンカシュ2枚を召喚! アタック! アタック! そしてこれでトドメだ! ――勝った!」
「……ひっでぇ」
 決着は早かった。
 片や、ガチ仕様のコントロール型ビードダウン水デッキ。片や、ブードラ仕様+α。
 鷲祐は一切の手加減なしに最後まで殴りきったのだ。大人げなく。
「どんな敵にも手を抜かず、全力で、かつ迅速に対処する。……流石だな」
 観客の何割かがドン引きする中、実戦思考の拓真は賞賛の言葉を贈るのだった。

●午後/商店街
「やあ佐倉さん、よかったら『三高平商店街カードゲーム』で遊んでいかないかい?」
 新田の呼びかけに諸事に奔走する佐倉 桜が足を止めた。
「佐倉さんだったらあっちでトランプを」
「わかって言ってるよな」
「バレました?」
 てへっと舌ぺろ。
「えと、大会はすべて終わりましたから時間はありますけど……」
「そっか。だったら一勝負してもいいし、ルール指南でもいいよ」
「……カード、持ってないです」
 途端、桜の花の髪飾りが焦げついて陰が差し、隅っこで陰鬱なオーラを放ちはじめる。
「商店街なんて人が多くて……第一遊び相手なんて……二回とも神これで大人げない人にフルボッコにされたし……初心者なんてどうせカモだし……鮫トレされるし……」
「お、おい大丈夫か?」
 ドス黒いもやもやを漂わせた桜に新田は声をかける。
 振り返るさまは一瞬、あたかも柳の木の下で幽霊に出くわしたかのようであった。ヴァンパイアらしくやや色白な肌がこういう時は不気味だ。
「勝負してもいいですよ、どうせまた超高速で負けますけど……」
 どよんど。
 と、言葉に迷うこの状況下に助け舟がやってくる。
「だったら俺が代打だな」
 ランディ・益母。この精悍な青年もまた商店街の一角を担うバイク屋の店主だ。
「小学生のガキじゃあるめーし、カード大会なんて…と参加はしてなかったんだがな。対戦相手が欲しけりゃ、商店街の一員的に『三高平商店街カードゲーム』で勝負に乗るぜ」
「……単に商店街の買い物でタダで貰ってたのが溜まってるだけだろ」
「資源の有効活用だ。初心者へのルール説明も兼ねてやればいい。それに――初心者相手じゃ満足<サティスファクション>できないだろう?」
 当の桜本人は――手鏡を片手に、携帯ドライヤーで桜の花の髪飾りを開花させている。――七分咲きくらいに戻るとオーラも華やかな桃色に戻ったが、一体どういう仕組なのか。
「あ、わたしも見たいです! おねがいしますっ」

 新田vsランディ。
 試合といっても、他のTCGと異なりこのゲーム“基本は”お互いに攻撃しない。
 モンスターは存在せず、商店を経営して稼ぐことで勝敗を決する。
 ARヴィジョンに映る仮想商店の商品棚に、これから商品が並んでいく。
「いいかい佐倉さん、例えば、玉ねぎ、人参、じゃがいも、豚肉、コシヒカリを揃えると「カレーボーナス」で追加売上ポイントが貰えるんだ。メジャーな料理の材料を揃えるコンボは重要だよ。幅広く使える食材をデッキに入れるのがポイントかな」
 一式カードを揃える結果、ARヴィジョンに来客がやってきた。
 カレーコンボ成立によって商品は大売れ。結果、資金がぐっと増えた。
「わぁ……すごいですね、リアルなカレーの映像に匂いまで」
「……そうそう匂いま、え!?」
 神出鬼没、春津見さん。
「はい、桜カレー」
「あ、ありがとう…ございます」
 なぜか観客席でカレーが振る舞われるシュールな風景の中、勝負はつづく。
「と、ここに糸こんにゃくと牛肉を揃えると肉じゃがコンボが完成だ! 幅広い食材はこうやって他のコンボの流用もできる、これが連鎖コンボだ」
 好調な新田に、すかさずランディも一手を打つ。
「俺のデッキは回転性重視のパワーデッキ、コンボより単発で! そしてドローエンジンで稼ぐ! いくぞ! この「バーゲンセールデッキ」で俺は勝利を掴む!」
 天に掲げられた宝札。
 その煌きは奇跡を招く。
「販売カード『50%オフ』!」
「なに!?」
「なに?」
 驚愕する新田、首を傾げる桜と春津見。
「そ、それはとある服屋が50%オフの投げ売りセールの販促に配ってた、あの!」
「このカードは1枚だけ『商品』カテゴリのカードのコストを半分にする! そしてハーフプライスで……『リベリスタ用汎用バイク【RS】』を商品棚に陳列する!」
「1、1万GPの高額商品だと!?」
 一気に資金を稼ぐランディに負けじと新田も追走する。
「いや、俺の酒デッキの本領はここから! こいつはちょっとピーキーだ。酒単体のポイントは低いけど、コンボが決まると強力なのさ」
『ビール』
『枝豆』
 ARヴィジョンの商品棚に陳列される、二品。新田の勢いは止まらない。
「そして『唐揚げ』も付ける!」
 コンボ成立! 一気に1万GP! トータル資金では倍額差以上、勝利にリーチだ。
「くんくん……今度はなにか香ばしい匂いが」
 桜の視線がさっと春津見に向けられる。
「んーん、ちがうよー」
「え、じゃあ」
 神出鬼没、リリ・フライヤーさん。
「はい、唐揚げです」
「あ、ありがとう…ございます」
 ふえる観客ちゃん。
 観客席のシュールを通り越して美味しそうなやりとりをよそに勝負は終盤へ。
「次のターンで俺の勝ちだよ、どうするランディさん」
「やりやがる、だがこれで決める! 販売カード『閉店感謝セール』発動!」
「なっ……! それはとある服屋が三ヶ月に一度閉店感謝セールの販促カードとしてばら撒くそれほどレアじゃない、あの!」
「そうだ! このカードは相手の資金が目標額の2/3に達した時、なおかつ自分の資金が目標額の1/2に満たない場合、発動できる! ドローを行い、商品カードなら目標額の1/5の相手資金を減らし、更にドロー! それ以外の時は自分の負けだ!」
「5連続以上『商品』だけドローし続けなきゃ負けだぞ、自爆する気か!?」
「それが出血大サービスってもんだ! I☆KU☆ZE!」
 緊張の一瞬。
 不意に鳴り響く、荘厳なる処刑曲。
 ドロー! 商品カード!
 ドロー! 商品カード!
 ドロー! 商品カード!
 ドロー! 商品カード!
 ドロー! 商品カード!
 ドロー! 商品カー(ry 。新田、資金ゼロにつき破産ゲームオーバー。
「ぐわああああああっ!」
「ドロー! 商品」
「もうやめてランディさんっ! 新田さんの資金はゼロよ!」
「HA☆NA☆SE!」
 千年の呪いにでも取り憑かれたランディの狂戦士の魂の暴走は果てなく続いた――。

●午後/トランプ 2/2
「騒がしいな、どうしたんだ」
「さぁ? それより私は“あがり”よ。次、あんたが引く番」
 吹雪と烟夢の実力は拮抗していた。
 ババ抜きでは決着がつかない。やはり、最後は雌雄を決すべくポーカーで勝負だ。
 では、なぜ未だにババ抜きをやっているのか。
 その原因は――たった一勝もできず、4連敗中のテテロ ミストだ。
「なぜ、なぜにホワイ……!」
「トランプしかできない、て理由は解るんだけどもなぁ」
 吹雪はガリガリ頭を掻きむしり、言葉を濁す。
「運が! 運が悪いんだ! それでも次こそは絶対に!」
「……」
 言えない。吹雪にも、烟夢にも言えない。てめぇの表情に出まくるせいだ、と。
「次こそ……次こそ勝つ!」
 残るカードは2枚。右はジョーカー、左のエースを選べば吹雪の“あがり”だ。
「……んじゃあ」
 右か、左か。
 吹雪の指が左右する。
「えーと……」
 指が左のエースに触れる。
「えっ」
 困惑の表情。泳ぐ瞳。動揺の色を隠せない。
「こっちか?」
 指が右のジョーカーに触れる。
「あぁ……!」
 花咲く表情。輝く瞳。歓喜の色を隠せない。
 一瞬、吹雪は苦悩した。あえて負けてやるべきか、と。いや、しかし自分の弱点に気づかないままではまた同じ敗北を繰り返すだけ。ここは一度、残酷な真実を告げてやろう。
「せいっ」
「わ"ぁぁぁっ!」
 驚愕、そして落胆。
 絶望のズンドコで落とされたミストは肩を落とす。何と言葉をかけていいやら。
「……ボクの」
「え」
「ボクの、トランプの師匠になってください! おふたりとも!」
 それこそがトランプ師弟(仮)誕生の瞬間だった。

 ゲームの観客にまわったミストの見守る中、吹雪と烟夢は淡々とポーカーに興じる。
「いいかい坊主、ポーカーに大切なのは何よりも表情だ」
「は、はい師匠」
 メモを片手に、熱心に観察するミスト。
「ポーカーフェイスって言うだろ? どんなカードが来ても顔には出さない。とりあえず、余裕そうな笑顔でも浮かべとけばいい。笑顔浮かべながら『参ったな…』なんて呟けば、いいカードが来たか悪いカードが来たか、どっちか分からんもんだろ」
「はい師匠!」
 じつに熱烈な視線である。
「……手堅いスタイルだな、烟夢」
「あんたこそ勝負に出るねぇ、強気も強気だ。正反対もいいとこだ。さて、どっちが勝つもんかねぇ」
「さあてな」
 フラッシュの一手を決め、吹雪は微笑う。
「ま、たまにはこうして普通に遊ぶのもいいもんだな、機会があったらまたやるか」
「ああ、勝っても負けても恨みっこなし。楽しめたし、満足だよ。いい気分だし、今日も美味い酒が呑めそうだ」
 フルハウス。烟夢もまた一笑する。
「勝ちにいくけどな」

●午後/大将軍
 大会も終了、すっかり夕暮れ時だ。
 あとすこしで会場は閉じられる。そこから佐倉 桜は会場の片づけをせねばならない。
「……はぁ、疲れた」
 審判兼雑用兼参加者として各方面で奔走した疲れは今頃になって桜を襲っていた。
 なるべく“咲いてる桜”で居たくとも、電池は切れかけ、半ば“焦げてる桜”に近い。
「おつかれさま」
「ひにゃっ」
 冷たい洋梨のサイダーをほっぺたにくっつけられて桜はびっくりした。
 悪戯したのは勿論、イタズラ姫こと白雪 陽菜だ。
「どう? 楽しめた?」
「一応は……まぁその。でも、これが終わったらまたこういう機会、ないのかなって」
「大会なんて無くたって、カードくらい顔合わせた時にいつでもやれるよ」
「でも……」
「アタシ、一緒に遊びたくって探してたんだけどなー。ずっと忙しそうなんだもん」
「そう……なんだ。ごめんね、なにかその」
 にへっと陽菜は笑って、デッキケースをかざす。
「片づけ、ちょっとは手伝うからさ。終わったら一戦、やってくれる?」
「え……」
 眩しい。
 彼女の眩しさは、夕陽のソレだけではなかった。
「強いんだよ、アタシの罠デッキ! 切り札のイケメン策士ズもカッコイイんだよ! 北条早雲に黒田官兵衛、それに竹中半兵衛! 焦げパン桜に勝負を挑むよ、アタシのテンションの高さで引っ張って、咲かせて見せよう桜の花!」
「……うん!」
 満開、心の花、咲き誇る。
 なるったけの笑顔で、きっと笑えた。桜はそう想うことにした。
「は、早く呑まないとぬるくなっちゃうね!」
 照れ隠しにと慌てて、洋梨サイダーのプルタブを開く。
 プシュッ。
 プシャアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!
 吹き出る炭酸スプラッシュ☆スター。
「……」
「罠カード発動! 『梨汁の計』!」
「……絶対にゆるさないっ!」


●午後/マジ魔女
「くーすかぴーZzz」
「寝るなコラ」
 リュミエールの九つの黒尾を抱き枕に、テテロ ミーノは夢見心地だ。
 しかも、だらしない口許からたらーっとよだれが滴り落ちてくる。
 起こすのは忍びなくて、ハンカチでふきふきしてやる。
「シカシカードゲームごときで眠るなよ」
 ゲームの大半はリュミエールの勝利だった。なにせ、ミーノ相手での駆け引きはちょろい。それでも良くも悪くも運ゲ要素が強い分、たまにミーノが勝つこともある。その“たまに”のたびに甘酒まんじゅうを餌づけするのはなかなか楽しい。
『そのデザートはミーノがっ! たべるっ!!』
 勝ち目のある試合では、また甘酒まんじゅうが食べられると俄然やる気を出す。それはもう、九つの尻尾をぐるぐるまわして。張り切るミーノの微笑ましさたるや、なんとも言えずクセになる。
「うみゅ~Zzz」
 気づけば陽も暮れ、ミーノのほっぺもオレンジに色づいている。
「えへへへ」
 幸せそうに何かを夢見るミーノは、ずるい。
 これでは起こすに起こせないではないか。
「ヤレヤレ」
 リュミエールはテーブルを片づけ、うんしょとミーノを背負って帰ることにした。
 背中で聴こえる寝息に、ほんのすこし、頬を綻ばせてしまう。
 ――その瞬間を、家政婦は見た。
「……ああ、いえ、どうぞお構いなく。さぁ、つづけてつづけて」
 一目散、けっして佐幽のことを振り返らず。
 ミーノを背負ったリュミエールは己の限界を越えたスピードで。
 ――脱兎した。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆さん、おつかれさまでした
カードゲーム大会お楽しみいただけたでしょうか?
遊び方は十人十色! それぞれの楽しみ方があったようですね

果たして佐幽はルールを覚えてくれたのか!
桜の連敗はストップなるか! たぶんむずかしい!

ともあれ色々な種類のTCGがありましたね
なにかひとつでも、お気に入りや触ってみたいTCGが見つかりましたら幸いです
けれども一番大事なのは何で遊ぶかより、誰とどう遊ぶか、ですね
――思いの外、TCGのはずが食べ物いっぱいでてきましたね
一体なぜ…?

それでは、今回はこのへんで
これから暑い季節です、体調を崩さず元気でお過ごしくださいね