● 燃える巨人 ウィッカーマン、と呼ばれる祭壇がある。巨大な人形の檻に火をつけ、生贄となる人や家畜をその中に閉じ込め供物とする、という祭儀に使用するものだ。 今となっては昔の話。ましてや、この国では馴染みのない祭儀である。 突如として、海岸に現れたウィッカーマンを見ても、海に遊びに来ていた者達からしてみれば、見慣れないオブジェクト、程度の認識しかない。 それが、異世界から来たアザーバイドと呼ばれる来訪者だということなど、知る由もなかった。 物見遊山。野次馬根性。浜辺にそびえ立つ全長十数メートルほどの巨大な人形を見るために、人々が群がる。鋼の檻で出来た体に、金属の塊のような手や足。頭部には、包帯よろしく荊が巻き付けられていて、その隙間から青白い炎の瞳が覗いていた。 ぎょろり、と炎の瞳が野次馬たちの姿を捉える。 空気の凍り付くような怖気が走る。ギシギシ、と耳障りな音をたてながらウィッカーマンの腕が動く。全力疾走で、その場から逃げ出し始める一般人達。逃げ遅れた1人を、金属の腕が掴む。 それだけで、彼の体中の骨が砕けた。血を吐き、白目を剥いてぐったりしているその男を、ウィッカーマンは自分の腹へと押し込める。 そして、直後。 ウィッカーマンの全身が、蒼い炎に包まれた。男の悲鳴も、一瞬で焼き消える。炎が灯ると同時に、ウィッカーマンの動きが少し早くなったように見えた。 そしてウィッカーマンは、次の獲物に狙いをつけて、ゆっくりと、砂浜を歩き始めたのだった。 ● ウィッカーマン 「今のが、これから起こる未来の映像。Dホールが開くと同時にウィッカーマンは出現。人を襲い始めるみたい」 モニターを消して『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。アザーバイド(ウィッカーマン)に意識のようなものがあるのかどうかは分からないが、どうやら危険な存在らしい。 巨大な体を持つということは、それだけで脅威になり得る。 それに加え、ウィッカーマンには炎と鋼の拳もある。射撃などの攻撃は、頭部か手足を狙って撃たねば大したダメージにはならないだろう。ウィッカーマンの胴体は、金属の檻のような構造になっているのだから。 「捉えた対象を体内に閉じ込め、焼き尽くすという習性があるわ。それに加えて、鋼の腕や足による重たい一撃にも注意が必要」 動きはあまり早くはないが、それでもサイズがサイズである。打たれ強さも並ではないだろうことが予想される。 「また、地雷のようなものを射出する能力を備えているわ。何かの儀式か知らないけど、この世界で好き勝手暴れてもらっては困るの」 早めに討伐、或いは送還の必要があるだろう。 いってらっしゃい、とイヴの声に背中を押され。 リベリスタ達は、作戦司令室を後にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月28日(土)22:47 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●海岸線の異端者 人で賑わう海岸、浜辺。砂浜にDホールが開き、ウィッカーマンが姿を現す。大きさは十数メートル。かなりのサイズで、重量もかなり重たい。鋼でできた身体は、檻に似た形状。その目には煌々と炎が燃える。 体内に他人を閉じ込め、焼き殺す。ウィッカーマンとはそう言った性能を持つ際具である。 しかも、質が悪いことに異界から来た際具なのだ。自らの意思で動きまわり、そして自らの意思で生贄を求める。 ズシン、と地面を揺らしてウィッカーマンが一歩前へと足を踏み出す。鋼で出来た腕を伸ばして、浜辺に集った一般人へと手を伸ばした。ウィッカーマンにとって、彼らは絶好の生贄候補だ。蟻の子を散らすように、一般客達は悲鳴を上げてウィッカーマンから逃げ出すが、間に合うものか。 いくら彼らが全速力で逃げ出そうとも、もともとのリーチが違いすぎる。 不運にも、ウィッカーマンの鋼手に掴まったのは、浅黒い肌をした大学生風の男性だった。 悲鳴にならない悲鳴をあげて、男性は泣き喚く。当然、ウィッカーマンがそれで彼を見逃す、というようなことはない。 檻のような胴がガチャリと左右に開く。空洞になっている体内に生贄を閉じ込め、焼き殺すのだ。 ゆっくりと。 男の身体を、ウィッカーマンは自らの胴へと運ぶ。 しかし……。 「犠牲だの祭儀だのは自分達の世界で完結して欲しいと常々思います!」 刀が一閃。『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の刀がウィッカーマンの腕を打つ。鋼の腕から、男の身体が落下する。男の身体が地面に落ちる前に『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)がその身をキャッチ。ゆっくりと砂浜へと降ろす。 よたよたと、おぼつかない足取りで逃げていく男を見送って、溜め息を1つ。 「生贄を集めるのは止めて、早々に帰って欲しいですよぅ」 肩を落として、そう呟いて。 イスタルテは再度、翼を広げて空へと舞い上がった。 ●燃える檻の巨人 わらわらと集まってくる、或いは行き場を見失って砂浜で腰を抜かす野次馬達を『影人マイスター』赤禰 諭(BNE004571)が召喚した影人達が運んでいく。 「賑やかなのは結構ですが鬱陶しいものです。迷惑です」 気だるげに、溜め息を零して諭は言う。式符を片手に、次々と影人を呼び出していく。諭の隣では『オカルトハンター』清水 あかり(BNE005013)が、口を半開きにしてウィッカーマンを見上げてそう呟いた。 「ふむ、異界の機械仕掛けですか……。異界というものが本当にあるんですねぇ」 感心したように、何度も頷いている。オカルトに傾倒している彼女にとっては、ウィッカーマンのような明らかな怪異は、興味の対象となるのだろう。 だが、ゆっくりとウィッカーマンを観察している余裕など、無さそうだ。 ゴウ、と空気を震わせるほどの轟音と共に。 ウィッカーマンの全身が、炎に包まれたのだから。 「火を使ったりして大変危険ですから、出来るだけ離れて下さい!」 大声でそう叫び、一般人に退避を促すイスタルテ。映画の撮影を口実に、ウィッカーマンから人々を遠ざけようという作戦である。それでも、野次馬はなかなか掃けてはくれなかった。遠巻きにウィッカーマンやリベリスタ達を眺めている者も多い。 攻撃の届く距離ではないが、かといって決して安全圏ではない。戦闘の余波に巻き込まれることも十分に考えられる距離だ。 困った、と涙目になりながらもイスタルテは叫び続ける。低空飛行で移動しながら、素早く逃げ遅れた者達を避難させていく。 諭の影人が、そういった人々を強制的に連行していくが、まだまだ時間がかかりそうだ。 イスタルテの背後に、ウィッカーマンが迫る。巨大な、鋼の拳がイスタルテへと振り下ろされた。 「きゃうっ!!」 悲鳴と共に、イスタルテの身体が地面に叩きつけられた。 海岸線に並ぶ黒い影。諭の召喚した影人だ。手に手に重火器を構えている。その銃口をウィッカーマンに向けて、狙いをつける。 「穴だらけのスカスカで狙いにくいですね。勝手に潰れてくれれば楽なのですが」 諭の合図と共に、影人たちは一斉に砲弾を発射した。轟音が空気を震わせる。巨大なウィッカーマンの身体だが、そのほとんどは鋼の檻だ。砲弾の約半数は、檻の隙間をすり抜けて、背後へと抜けていった。残る半数は命中し、火炎を撒き散らすのだが、表情すら窺えない鋼の巨人相手では、ダメージの具合も良く分からない。 ウィッカーマンの纏う炎が勢いを増した。 ウィッカーマンに肉薄していた麗香が、慌てて飛び退き距離をとる。服の裾が燃えているのを消して、ちっ、と小さく舌打ちを零した。 ウィッカーマンの身体には、次々と砲弾が命中する。その度に、ウィッカーマンを覆っている炎が弾けるが、それでもその歩みは止まらない。 ずるり、とウィッカーマンの胴から金属の触手が伸びる。その触手は数体の影人を捉え、自身の体内へと引きずり込んだ。業火に焼かれ、影人が消滅する光景を見て、あかりは頬を引きつらせて、笑うのだった……。 地面を這うようにのたうつ鋼の触手を回避しながら、麗香は視線を走らせる。 確認しているのは、ウィッカーマンの出てきたDホールの位置と、周囲に逃げ遅れた一般人が居ないか、ということだ。 この世界に現れた後、ウィッカーマンはゆっくり、十数メートルほど全身している。 まっすぐ背後に押し返せば、Dホールの中へと叩き返せるのではないか、とそう判断し、麗香は剣を引き抜いた。 「わたしたちは生贄の家畜じゃありませんよ?ボトムに対しての不作法者にたいする懲罰です!」 金属の触手を剣で打ち払い、そのまま一気にウィッカーマンの足元へと迫った。大上段に振りあげた剣に、膨大な量のオーラが集中する。防御など度外視した渾身の一撃が、ウィッカーマンの脚へと叩きつけられる。 ウィッカーマンの動きが止まる。鋼の脚に、深い切傷が刻まれ、足元にクレーターが発生。バランスを崩して、片膝を突いた。 噴き上がる火柱を避けながら、麗香は後退。 入れ替わるように、凍えるような冷気を含んだ魔力の渦がウィッカーマンを飲み込んだ。 「炎とか使うようなので氷とか効かないかな、凍るがいいのです」 開いた教本を中心に、あかりの周囲にはいくつかの魔方陣が展開していた。魔方陣から解き放たれた冷気は、ウィッカーマンを中心に、その周囲を凍りつかせる。業火に包まれていたウィッカーマンの全身が、一瞬で霜に覆われ、凍りつく。 だが、しかしすぐに霜は溶け、辺りに蒸気を撒き散らした。 真白く煙る視界の中、あかりが見たのはゆっくりと立ち上がる巨大な影と、煙を突き破って眼前に迫りくる、武骨な金属の触手であった。 「あ、しま……」 回避が間に合わない。術の発動直後の攻撃では、迎撃も難しいだろうか。 あかりの身体が触手に囚われ、ウィッカーマンの胴体へと引き摺られていった。 ウィッカーマンの胴体が開き、真っ赤な炎が渦巻く檻の中が顕わになった。拘束され、身動きもできないあかりの身体が檻の中に引きずり込まれる。 次の瞬間、胴を中心にウィッカーマンの全身が、再度業火に飲み込まれた。あかりの悲鳴も、業火に掻き消されて、外には届かない。 だが、しかし……。 「なぜボトムの民を殺そうとする!? あなたの世界同様人間ではないのか!」 麗香の剣が、ウィッカーマンの胴へと命中。鋼の檻を、一か所だけだが切断することに成功する。 噴き出す炎から麗香を守ったのは、諭の呼びだした影人であった。至近距離から業火を浴びつつも、消え去る直前に砲弾を発射。麗香の開けた穴を、更に大きく広げた。 人が通り抜けることができる程度の穴は開いた。 炎の燃えさかる穴の中に、イスタルテは迷うことなく飛び込んで行く。 「犠牲者を出すわけにはいかないんですよぅ……やーん」 イスタルテは、炎の中であかりを発見。その身を抱いて、ウィッカーマンの体内から飛び出した。火傷を負って、ぐったりとしているあかり。イスタルテ自身も、身体中に大火傷を負っていた。 イスタルテを中心に、淡い燐光が飛び散っていく。 燐光は、優しくイスタルテとあかりを包み込み、火傷を癒す。 せっかく捉えた生贄を逃がすまいと、ウィッカーマンがイスタルテへと手を伸ばすが、諭の放った砲弾がその手を弾く。 「空焚きがお似合いですね。そのまま自ら焼け落ちなさい」 囁くような諭の声は、誰の耳にも届かなかった……。 ウィッカーマンの炎が沈静化した。ちろちろと、檻状の身体から時折、蛇の舌みたいな火柱があがるが、それだけだ。熱で真っ赤に焼けた鋼の身体は、足元の砂や、触れる空気さえ焼いているようにも見える。 巨大な体のあちこちが、既に歪んだり、へし折れたりしているのが見て取れる。 痛みなどは感じていないのだろう。多少、不安定な足取りながらもウィッカーマンは止まらない。 いつの間にか、野次馬達の姿は消えていた。 戦闘開始から数分。ようやく、目の前の巨人が危険な相手であると認識したのだろう。 遥か遠く、安全圏から遠巻きに、こちらの様子を窺っている者達は、少しだが居た。残りは逃げたか、或いはこれが映画の撮影だ、とそう思いこむことにして立ち去ったようだ。 それでいい。 一般人の身の安全など、考えずに戦える方が、全力を出せるから。 「皆さん、リブートで充電しますよ」 あかりを中心に、閃光が散った。光の粒子が仲間達の全身に降り注ぎ、失われた力を充填していく。戦闘体勢を整え、ウィッカーマンに向き直る。 するすると這い寄ってくる金属の触手を麗香が一刀のもとに斬り捨てた。 ウィッカーマンの鋼の拳が空気を切り裂き、唸りをあげる。 砂嵐を巻き起こし、地面を抉りながら鋼の拳がリベリスタ達に襲いかかる。素早く散開し、鋼の拳を回避。一気に距離を詰める麗香を追い越し、イスタルテはウィッカーマンの頭上へ。後退したあかりは、仲間の身に魔力の盾を付与し、そんなあかりを守るように諭は影人を召喚した。 反撃の用意は整った。 燃える巨人との、決着が近い。 ●生贄を求めて 「なんですかね、向こうで出来ないことをするためにこっちでするんですか? むむむ、異世界というのは分かりません」 教本片手に、あかりは首を傾げていた。襲いかかる金属の触手を、諭の影人が受け止めている間に、あかりは魔方陣の展開を完了させた。魔方陣から放たれた、膨大な量の冷気がウィッカーマンを襲う。 ウィッカーマンの触手を凍らせ、その脚、腰、胸の辺りまでを氷漬けにした。 鋼の手足と、触手の動きが封じられた。その機に乗じて、残る3人は一気にウィッカーマンへと距離を詰めて、攻撃の体勢に移る。 「上半身や頭部付近を攻撃です」 ウィッカーマンが凍りついているその隙に、イスタルテがその頭部の元へと急接近。右手を握りしめ、振りあげる。その拳に集中する強烈な気迫。イスタルテの拳が、ウィッカーマンの顔面に叩きつけられた、その瞬間だ。 ウィッカーマンの全身に、業火が灯る。炎に包まれ、イスタルテはバランスを崩した。 次いで、氷の砕ける甲高い音。ウィッカーマンの拘束が解けた。鋼の拳が、イスタルテの身体を虎え、地面へと叩きつけた。砂浜に生まれたクレーターの真ん中に、イスタルテが横たわる。ピクリとも動かない。 火炎に包まれた鋼の足がイスタルテへと迫る。身動きできないイスタルテを、踏みつぶそうと言うのだ。 しかし、鋼の足とイスタルテの間に数体の影人が滑り込んでくる。鋼の足を支え、押し止める。 「その程度の炎で満足とは慎み深いですね? それとも、不調ですか? サービスで手伝ってあげましょう。溶け落ちないかは保証しませんが」 諭の召喚した影人が、イスタルテの窮地を救う。 その隙に、イスタルテはふらふらと立ち上がり、体勢を立て直しにかかる。フェイトを使っての復活だ。こんな場所で、倒れているわけにはいかない。 さらに、諭が指の間に挟んでいた式符を放つと、それは一瞬で巨大な炎の鳥へと姿を変えて、ウィッカーマンへと襲いかかった。 ウィッカーマンの姿が、炎の柱へと変わる。バランスを崩し、数歩後ろへと後じ去る。炎の鳥が消えた時、ウィッカーマンの炎も一緒に鎮火する。諭の放った炎に取り込まれたかのようだ。 しかし、それでもウィッカーマンが脅威なのに代わりはない。鋼の身体は頑強だ。 「ぶち壊してあげるよ 君だけのやる気スイッチ♪ デッドオアアライブで」 炎が消えたその瞬間、麗香が跳んだ。空中で麗香の身体をキャッチしたイスタルテと共に、ウィッカーマンの眼前へと肉薄する。 イスタルテが、麗香の身体を投げ飛ばした。と、同時に自身も拳を振りあげ、力を込める。 麗香の剣がウィッカーマンの顔面を叩く。剣に込められていたオーラが弾け、ウィッカーマンの頭を弾く。大きく傾き、ウィッカーマンの巨体が倒れていく。 そこへ、全身に火傷を負ったまま、イスタルテが迫った。 握り拳を、叩きつけるようにしてウィッカーマンの顔面へと打ち込む。矢のように、まっすぐ。そのまま、ウィッカーマンを押し倒し、Dホールへとその頭を叩きこんだ。 吸い込まれるように。 或いは、井戸にでも落下していくように、ウィッカーマンの身体がDホールの中へと消えた。 焦げくさい、熱気を含んだ風が吹き抜ける。 あかりの手によって、Dホールは消滅。これで、ウィッカーマンの脅威は去った。 あとは、人が集まって来る前に、この場から離脱するだけだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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