● 日角耕哉、中学三年生。趣味は黒魔術。特技は――おっと、ここじゃ明かせない。 なんたって夜の貴族たる自分の特技だ。危うく悪の使者にでも聞かれてしまったら……。 「日角君、塵取り早く。何時まで空見てんの」 「ぅ、あ、あ、ご……ごめん」 普段は一般人の中学校に通って身を潜めているが……実は前世は途轍もない夜の貴族だったのだ! 以上が少年の供述であるということを『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) は苦笑交じりに伝える他ない。 「ええと、患者さん……じゃないや、日角耕哉君。中学三年生。一般人でした。 ヒーロー願望が強い奴で正義感が凄まじい。ついでに言うとソウルネームは『光夜』な」 「一般人……でした?」 蒐の言葉にリベリスタ達は首を傾げる。一般人『でした』という事は今ではそうじゃないと言う事だろう。 良いニュースと悪いニュースと例える事が出来るかもしれない。意味深な言葉にリベリスタ達が身構えるが、伊達眼鏡の向こう、機械化した青い瞳を細めて蒐はへらりと笑って見せる。 「なんということでしょう……! 革醒者になっていた。 しかも、性格的にフィクサードにはならない――とは思うんだが」 「思うんだが……?」 「良いニュースがあれば悪いニュースも付き物だろ? 日角は如何した事か自分に変な力――いや、中二病だから己の真の力だと思ってるんだけどさ。変な力が目覚めた事に気付いて人助けを始めたんだ。そんで彼は付き止めた!」 何を、とリベリスタ達は身構える。 日角耕哉少年は以前、世恋の見た事件でも無茶をしていたではないか。山登りで襲い来るエリューションの中を勇み足で進んでいく……。そんな彼が『付き止めた』というならば只事では無い筈だ。 「周辺の異変を起こして居た張本人! ようするに連続殺人鬼ことフィクサードの本拠地を、だ」 「付き止めたならそこまでであとは解決しにいけば……」 「うん、でも、そこに日角のクラスメイトが捕まった事を日角は知ってな。 まあ、それはこっちでもキャッチしてたみたいでさっきフォーチュナの方から情報が来たんだ。 ――で、だ。ソウルメイトが居ない耕哉は困っている。ソウルメイトじゃないと恥ずかしくて話せないし、自分は孤独な夜の貴族だとか言ってるしな」 「それじゃあ、耕哉が行く前に事件を解決すれば……」 「それが、俺らが付くタイミングと同じ位に乗り込むんだ」 さらりと、言ってのけた蒐の背後でフォーチュナが微妙な顔で笑っている。 その表情から感じ取れるのは「中二病こわい」という只、其れだけだ。 黙り込んだリベリスタと、笑っているのか困っているのか解らない表情のフォーチュナに挟まれながら少年誌に嵌りに嵌ってヒーローポーズの練習をしたりする高校生男子は真剣な表情をして、もう一度言った。 「乗り込むんだ、あいつ。行こうぜ、ソウルネーム『 』さん」 ――勝手に名付けられた、が、それは無かった事にしておこう。 ● やけに静まり返った場所だった。 この力を得たと言う事は在りし日の自分を想いだし、夜の貴族としての本当の記憶を得たということである! 多分、つまりそう言う事だと思う。 「ふ、ふふ……一人でできるもん、だ。大丈夫、俺は夜の貴族だからな……ふふふ、ははははは!」 実際は怯えている耕哉ではあるが、この力を得るソウルメイトは何処にも居ない。 己の様にソウルネームを得て、己と同じく戦っている人間は居ないのだから、一人でやるしかないのだ。 この場所にクラスで一番可愛い有紗ちゃんが連れて行かれたのを耕哉は確り見ていた。 ここで逃げたりしては夜の貴族の名前が廃る――!! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月24日(火)23:48 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 7人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 今日の風はやけに騒がしい。風の精霊が何かを囁きかけているかのような、そんな――…… 訳はないのだが、微かに感じる潮の香りに『夜の貴族』であるソウルネーム『光夜』は緊張した面立ちで光の漏れる倉庫を見詰めている。 クラスで一番可愛い有紗ちゃんを救うために立ち上がった彼の背中に「光夜様」と落ち着いた声が掛けられた。 「――だ、誰ぇぇえっ!?」 「……お久しゅうございます、光夜様、覚えてらっしゃいますか?」 幻視を使い、翼を隠した『癒しの穢翼』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は優しげな表情を浮かべ、少年の背中を見詰めている。 少年がソウルネームで呼ばれた――ということは、前世の知り合い以外では無い筈、つまりは……。 「き、君は、確か……シェリル」 「ええ……これも運命の導きでございましょう……」 適応力の強すぎるシエルの事を『癒しの穢翼(シェリル)』と呼んだ光夜こと日角耕哉にとって、リベリスタは大凡一年前の山登りで知った前世のソウルメイトだ。勿論、かのディアスポラの森で彼と共に戦ったシエルは大まかに言えば『ソウルメイト』以上に深い繋がりなのかもしれない。閑話休題である。 「ああ、光夜様! お会いしとうございましたわ!」 長い黒髪を揺らし、困った様に笑っていた『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)の表情が明るくなる。彼女は光夜にとっての前世の婚約者『闇寿』。つまりは、『ソウルメイト』というよりは、素知らぬ仲とは言えぬ間柄である。 「闇寿……! いや、その、これは浮気じゃなくて……」 (ああ、耕哉君、婚約者設定、覚えてたんだね……) 勿論、婚約者は『設定』である。手をぎゅ、と握りしめたアンジェリカの微妙な表情に前世の婚約者が来ちゃったと照れる耕哉は気付かない。 「ええ、ええ、友人を助けに行かれるのでしょう? その勇気には流石わたくしの婚約者と敬服致しますわ……! けれど、御一人では無謀。やはり、わたくしも連れて行って下さいまし!」 「話しは聞かせて貰いましたよ。『光夜』。……覚えておられないでしょうか? 僕は『Eid』。 かの日、貴方に助力を受け、何時の日かその借りを返すと約束した男です」 中二病はこういうものか、姉さんが嫌っているなと茫と考えながら『一般的な少年』テュルク・プロメース(BNE004356)は耕哉へと肩を竦める。 前世の記憶が欠落した――いや、そもそも彼の前世は夜の貴族なんかではないのだが――耕哉にとってテュルクの申し出は思いがけない物だ。 「ア、アイト……? くっ……頭が痛む……ッ!」 「記憶が無いんだな、ふふふ……仕方あるまい。この原初の混沌<カオス>が傍に居るのだからな!」 何故か頭が痛い仕草を見せる耕哉にテュルクが「成程」と今宵の舞台の設定を再認識する。 傍らでは、腕に『幾星霜ノ星辰ヲ越エシ輝キヲ以ッシテ原初ノ混沌ヲ内に封ジ留メシ骸布』を巻いた『剣龍帝』結城 竜一(BNE000210)がしたり顔で立っていた。 「原初の混沌<カオス>……!?」 「ああ。俺の魂の名は、原初の混沌<カオス>。この身に混沌を宿す男さ」 地面を踏みしめてゆっくりと歩く竜一の体がぐらり、と揺れる。咄嗟に彼を支えたEidは「大丈夫ですか」とそっと囁いた。 「大丈夫だ。俺の体の中には常に沸騰する混沌が渦巻いていてな……」 (なんか、解らないけど、あの人スッゲーカッコイイ……) 原初の混沌<カオス>の言葉に耕哉が唾を飲む。なんたって、混沌が体の中に渦巻いているのだ。同じ厨二病なら竜一の方がランクが上なのか。胸を高鳴らせる耕哉に『もうだめ駄狐いつ』明覚 すず(BNE004811)はへらりと笑って「コンコン」と言った。 「体の中に混沌が渦巻いてるやなんて、驚きやでな!」 「む、き、君は知らないのか?」 「うちはこのメンバーの中では一番の新参で小物やからね? 改めまして、うちは三日月の天狐。 月が満ちるを伝える、弧状の月。転じて三日月の天狐、参上や」 ドヤッ――素じゃないよとすずは告げるが果たして真相はどうなのであろうか! ● なにはともあれ、倉庫に乗りこまなければならない耕哉だが、自分を遠い目で見つめる『零の闇夜(ゼロ・ノクス)』夏郷 睡蓮(BNE003628)に居心地悪そうに体を揺らして居る。 (何故だろう……この少年を見ていると懐かしい気持ちになる。胸が、痛い) 睡蓮の記憶喪失前を是非見てみたい物だと思うが、彼は実は昔は中二病であったのかもしれない。 現在に生きる中二病の少年が丸い瞳を向ける中、睡蓮は小さく咳払いをし、「僕は零の闇夜(ゼロ・ノクス)という」と耕哉へと真顔で告げて見せる。 「ゼロ……ノクス?」 「……ふん、わからないか? お前の生き別れの兄だ、光夜」 まさかの展開だった。自分には婚約者や盟約の絆で結ばれし過去の存在がいて、兄まで居たのか。 「兄……?」 「そうそう、やっぱり記憶が無いんだね、光夜。僕はアンブレイカブル。 前世では君と敵対して居たんだよ。僕は光の帝国ヴァイスのラウンドオブナイツに所属してた」 因みに耕哉こと光夜は闇の帝国シュヴァルツに居たらしい。 更には前世の好敵手までが現れて、耕哉は瞬きを繰り返すしかない。『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)はへらりと笑い、「あの戦いは大変だったね」と告げる。過去の戦いで彼らは同じ敵を倒し、友情が芽生えたのだと言う。 「それでその時、僕の後輩だった紅き血色の閉ざされし蒼チェリーが彼だよ」 「「!?」」 夏栖斗の言葉に目を丸くしたのは耕哉だけではない『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) 本人もだった。 「待ってっ!?」 「蒐様は良く閉ざされし蒼(水族館)にいらっしゃいますから……」 「桜庭だし、チェリーってどうかなって?」 「チェリーだけではな……。紅き血色の、も頭につけよう」 「全部合わせたよ、フヒヒ」 「チェリー……考えすぎかな」 リベリスタ達の持論あな恐ろしや。こそこそと話す彼らを尻目に首を傾げる耕哉に「なんで紅き血色の閉ざされし蒼チェリーなんやろなぁ?」とすずはのんびりと首を傾げていた。 「お前も男爵ならば知って居るだろう? 仲間(とも)と力を合わせて悪を滅する事の大切さを」 「あ、兄上……」 設定に順応し過ぎである。 兄上の登場に輝く瞳の耕哉に睡蓮は目を伏せて、夏栖斗と竜一へと視線を配る。彼らが頷き、シエルがそっと耕哉の手をとった。 「此処に集いし者達は皆、導かれし者達……その使命、『あの日』の様にご一緒させて下さいまし」 作戦会議が、静かに始まって居た気がするが、略。 かつての誓約を受けて恩を返すと言うテュルクに「よきにはからえ!」とたどたどしく言ったという話だけは作戦会議から抽出しておこう。 要するに彼らは前世の縁で繋がれている。 夏栖斗はかの好敵手『アンブレイカブル』。竜一はその名の通り『原初の混沌<カオス>』。長いからカオス。 シエルがディアスポラの森で共闘した癒しの天使『シェリル』。アンジェリカが婚約者『闇寿』。 睡蓮が実の兄『零の闇夜』。テュルクが過去の恩を返しに来た共闘者『Eid』。 すずが長きを生き、この世界を見守る『三日月の天狐』。蒐が『紅き血色の閉ざされし蒼チェリー』。長いからチェリー。 そんな彼らと『闇の貴族』光夜は今宵の戦いを共にすると誓ったのだった。上手くその方向に持ちこんだとも言う。 ●以下、中二病である どういうことか、と問われれば。 「こうだ!」 パリン、という音と共にカオスが光夜と共に跳びこむ。面接着を使い闇寿の準備が整ったと共に跳びこんだ。 しかし、悪の使者(フィクサード)の視線はカオス達には向いては居ない。 「この力――見せてやるぜ!」 「や、やるぜ!」 声を張り上げるアンブレイカブルに続き、チェリーが倉庫へと足を踏み入れる。彼らの視線を奪うアンブレイカブルの心の慟哭ことアッパー・ユア・ハートに視線を奪われている悪の使者をEidはかつての誓約と共に己の力を込める。舞う様に踏み入れるEidは衣被花鳥諷詠をわざとらしく揺らし悪の使者の動きを止めて行く。 「だ、誰だ!」 「貴様らに名乗る名はない!」 にぃ、と唇が歪む。錫杖(自称)を手に1280年と11ヶ月と5日ほど生きている狐は己の式こと影人を増産し続ける。 (『光夜』殿は甘ちゃんやからね……君、保険として頼んだで?) 骨が折れるかの、と肩を竦める三日月の天狐に『癒しの穢翼』たるシェリルは翼を広げ浮かびあがる。そっと結界を広めたのはやはり森での出来事を思い出すからか。 「私は癒しの穢翼……この身が血に濡れようとも」 シェリルの聖湊降魔斬ことエアリアル・フェザードが吹き荒れる。その隙をついて滑り込むカオスの目指す先には縛られ涙目の『クラスで一番可愛い有紗ちゃん』がいる。 「有紗たんを助けるんだぞ!」 カオスの言葉に頷き、戦闘体勢(と言う名前の不思議なポーズ)をとる光夜。 息が荒くなる。衝動が、胸を突く。 「ぐっ……! 右手がっ!」 鼓動が速くなり、俯き加減になるカオスに「原初の混沌!」と光夜が叫ぶ。 実のところジャガーノート。何も心配はいらないが神秘の知識が無い光夜からするとカオスの中に封じられた混沌が暴れ出したようにしか見えない。 しかし、カオスにばかり目をとられていては有紗ちゃんを助けられやしない。 「長い間弟に何もしてやれなかった兄に、少しくらい格好を付けさせろ――『闇の男爵』よ!」 「兄上様……!」 魔力銃を掌でぐるり、と舞わす。そのまま零距離の雷撃。流石は零の闇夜。その名前も伊達ではない。 地面を踏みしめ、三日月の天狐は手にした錫杖(自称)を鳴らす。響くテーマソングの中、彼女が考えていたのはこの状況の理不尽な結果だ。 (世間一般の価値基準で言えば正当防衛なんやろうけど、他人と協力し合ってでも『人を殺す』経験を積むには……まだ、『光夜』殿は早いんよ) 首を振る。捕縛を行う様に、彼女は『殺さず』を徹底して戦い続ける。弧を描くポニーテール。その影から、アンブレイカブルが顔を出す。 視線は全て、光の帝国の騎士に向いていた。これがチャンスと言う様にアンブレイカブルは紅桜花を握りしめ、声を張る。 「光夜ァアア! お前の闇の力を解放しろォオ!」 「喰らえっ! 桜花爛漫!」 アンブレイカブルの影から顔を出しチェリーが蹴撃を放つ。飛翔するソレを避けるフィクサードの上部から黒き瘴気が迫り出た。 「俺だって一人でできるもん! ふははは! 見よ、闇の力!」 暗黒の瘴気だと判断した闇寿が滑り込む。長い黒髪を揺らし、千里眼で把握して居た有紗の位置をしっかりと見据えている。 「御機嫌よう、有紗様。わたくし達の戦いに巻き込んで御免遊ばせ……光夜様が助けて下さってますから、早く……!」 「え? 日角君? 何これ?」 「さあ、こちらですわ!」 手を引いて、闇寿が走り出す。何が何だか分からぬ有紗に気付いて、悪の使者は咄嗟に彼女等に攻撃を放つがそれを許す彼女らではない。 大鎌を構え、攻撃を避ければ、補佐する様に、地面を蹴ったEidの黒髪が揺れる。 「端役は早々に、去りなさい――『奈落落とし』」 刻みこむ死の刻印。血の飛沫が、宙を揺れる。目隠しをするように有紗の目を覆った闇寿が「こちらですわ」と囁いた。 外へと誘導する手前に有紗が目にしたのはEidの舞う様な武闘。御家人片手業の煌めきが、彼の独自の戦闘スタイルを思わせる。 「投降しろ。我々はお前達の命に関して何も言われていない。これがどういう意味かわかるだろう?」 「くっ……貴様らっ、本当に何なんだ! あと、その良く解らない呼び名はなんなんだ!」 「うちら? ちょっとした――前世の縁に繋がれた素敵なリベリスタやで?」 くす、と笑う天狐が縛り付ける。銃口を向けたまま、次の攻撃を受け流す零の闇夜。 なんだかんだで攻撃の手は緩められない。凄まじい速度で敵を千切っては投げ、千切っては投げ。 もう何がどうしてそうなったと言う勢いでリベリスタ、失礼、前世の加護を得た面々は攻撃を続けて行く。 凄まじい猛攻の前でうろたえる悪の使者の背に立って、首を傾げたシェリルはにこやかに告げた。 「知らなかったのですか? 『魔王』からは逃れられないのですよ……」 「だ、誰か……!」 癒しを与えるシェリルの笑みに悪の使者の表情がひきつっていく。補佐を送るチェリーの下へと降りたって、暴れ出す力を抑えつけるカオスは首を振る。 「くそっ! 力が……勝手に……!」 「カオス! コッチだ、その力、見せてやれよ!」 アンブレイカブルの声に頷いたカオスが渾身の力を込めて敵を薙ぎ倒す。 調子に乗ってきた光夜の黒き瘴気が綺麗に悪の使者を包み込んだ。 何故だろうか、前世(笑)の名前でこの報告書は作られているのだが、如何せん誰も違和感が無いのが凄い。これを真面目な顔をして任務だと演じている彼らの凄さが凄いのか、それともひょっとして前世が存在して居る……? 辛い気持ちになりつつあるアンブレイカブルこと夏栖斗。ノリノリのトンファー後輩に「これからアン先輩って呼ぶッス!」と言われてるのだから堪ったもんじゃない。チェリーって呼んでやれ。 「盲目白痴の魔王よ、お前の力……利用させてもらう!!」 カオスこと竜一の一撃が敵を薙ぎ払う。続く光夜の動作に気付きシェリルことシエルが「光夜様!」と夜の貴族――耕哉を呼んだ。 「悪戯に失われて良い命なぞございません……あの日、あの森で誓ったでしょう?」 そっと、手を下ろす光夜に胸を撫で下ろし、シエルは目を伏せる。 動きを阻害する様に、殺さずに気を使った三日月の天狐ことすずは「いっちょあがりや!」と声をあげながらフィクサードを捉える。 実際、捕縛されたフィクサード達は「何だったんだ、こいつら……」と思っている事だろう。 「光夜、仲間の契りを結ぼう。我々はお前を歓迎するぞ」 「それは……この力があるからか……」 演技をしたままの睡蓮と耕哉。彼らを見詰めながらすずはじっと考える。 殺さずに済んだけれど、それでも彼はまだ『未熟』に見える。仲間達が声をかけるならそれでいい。 「三日月の天狐……その、お前が護ってくれようとしたのか? あの、式……」 「ええってことや」 にこり、と微笑むすずに照れくさそうに耕哉が俯く。すずと同じ様に考えていたのはテュルクも同じだ。 何れにせよ、彼は只の『中学生』だ。自分より少し年下の少年なのだ。観客の期待できない舞台を演じ切った後でも思う。役者として、彼は未だ未熟そのものだから。 「光夜様! 有紗様はお救いしましたわ。それと……そのお力、わたくし達と共にいらっしゃりませんこと? まだ力に目覚めたてでその使い方を学ぶ必要がありますわ。ソウルネームを持つ仲間も……沢山……」 (いるの、かな……) 微妙な表情を零す蒐にアンジェリカは視線を配り小さく微笑む。血濡れの存在となった穢翼の天使は優しく微笑んでそっと手をとった。 「箱舟に来てみませんか……?」 「箱舟……なにそれ、かっけぇ……」 「ひとりで闘わないで良い所。誰かと力を合わせるって悪くないっしょ? 僕たちは正義の味方にはなれないかもしれないし、褒められる事は無いかもしれないけど、その力で誰かを助けられたらいいよなって、僕は思うよ」 どう、と過去の好敵手が伸ばす手に戸惑う耕哉。彼の後ろでアンジェリカ、蒐、シエルはじ、と耕哉を見詰めていた。 「お、俺……」 心温まる所に、もう一つのハプニングこと、クラスで一番可愛い有紗ちゃんが顔を覗かせた。 ● 無事に救い出した有紗ちゃんはアンジェリカと共に一度離脱し、現場に居たのだった。 捕縛したフィクサード達が逃げる事は無いが、そんな事よりも中二病耐性のない有紗ちゃんにとって、リベリスタ達もとても不思議な存在だったに違いない。 「日角君……あの……」 「な、何も言わないでくれ、有紗ちゃん。我は彼等と共に……」 やっぱり変な子と思われただろう。だが、そんな事に気を止めず、かっこいい去り際を演出する耕哉に夏栖斗がそっと彼の肩を抱く。傍らの竜一がそっと有紗の許へと歩みより目と目を合わせる。 囁きに混ぜられて魔的な瞳が彼女にオヤスミを告げれば、少女の長い夢の終わりが訪れた。 「光夜様……よろしいの?」 婚約者役をしていたアンジェリカが不安そうな瞳で耕哉を見詰めれば、何処か戸惑った様に耕哉は笑いリベリスタ達へと手を差し伸べた。 「あ、あの、お、お、俺、現世では日角耕哉っていうんだ……。 ソウルメイトである皆と同じ記憶をまだ思い出せてないのが残念だけど、この世界でも仲良くして、く、くれない、かなっ!」 たどたどしく告げる耕哉にテュルクは小さく肩を竦めた。昼の顔が矮小ならば夜の顔だってそれなりだ。薄っぺらく、役者不足も良い所。教えることはせずに只、小さく笑った彼の隣ですずが尻尾を揺らしてにっこりと微笑む。 「つまりは君はこれからアークの一員やね」 静まり返った港で、只、一人。 睡蓮は頭を抱えてしゃがみ込んでいた。 今日を通して変な事を想いだしそうだ。そう、あの日、あの時の……。 「くっ……何か思い出せそうな気がする……いや、え、演技ではなく、頭がっ……痛む……っ」 人には思い出さない方が良い事もきっと、ある。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|