●たてまつる 「我々の手で崩壊度を下げる――それが、此度の任務となりますぞ」 事務椅子をくるんと回し、一同に振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が簡潔に一言、告げた。 『ジャック・ザ・リッパー事件』によって特異点『閉じない穴』が三ツ池公園に生じ、数年。以来より上昇の一途を辿っていた崩界度は最早無視も出来ぬ状態となっていた。その事は、リベリスタであればほとんどが危惧している状況であろう。 「結論を言えば、『どうにかせねば』なりません」 その為に、とメルクリィは続けた。 「全国の寺社やそういった霊的な場所の力をお借りし、作成した小規模な結界内に崩界度・世界の歪みの概念をほんの一部だけ切り離して災厄として実体化させます。皆々様にはこれを討って頂きますぞ。 例えるならば――猛毒を、致死量に至らない程度に少しずつ少しずつ飲み込んで消化する感じですかな。勿論、『毒を飲む』事は大きなリスクを伴います。なんせその毒が、一滴で100人をも殺す猛毒と化すかもしれないのですから」 文字通り、任務失敗は死に至る。巡り巡ってこの世界が崩界してしまえば。 「さて今回は奈良県奈良市、1000年以上の歴史を持つ霊地、春日大社に赴いて頂きます」 言葉と共にメルクリィの背後モニターに表示されるのは、奈良県に於いて最も有名な神社と言っても過言では無いだろう立派な神社であった。流石、全国に約1000社ある春日神社の総本社、というだけはある。 「創設されたのはなんと768年。中臣氏……のちの藤原氏の氏神を祀る為に、だそうで。 主祭神は藤原氏守護神である武甕槌命と経津主命、藤原氏の祖神である天児屋根命、その妻にして比売神である天美津玉照比売命、この四柱ですぞ。これらを総して春日神、春日明神や春日権現とも呼ばれておりますぞ。 この武甕槌命が白鹿に乗ってきたとされる事から、ここでは鹿が神使となっております。だから奈良県は鹿なんですねぇ」 さてさて、説明もほどほどにして。 「現地リベリスタとは既に話がついており、作戦決行日は閉鎖され一般人が迷い込む等の懸念はありません。結果以内では視界や足場や神秘秘匿などを気にせず、思いっきり暴れる事ができますぞ。 さて件の世界の歪み……『崩壊因子』ですが」 モニターが切り替わる。 そこに映っていたのは、なんとも『異形』としか形容できない異形であった。 「荒御霊、とでも呼びましょうか。いやはや、正に『世界の歪み』が伝承と結びついて形となった、そんな感じですなぁ」 本当の神様とて――いるかいないかは『神のみぞ知る』だが――こんな歪に崩界因子に勝手に姿を真似られては困ったものだろう。 説明を終えたメルクリィが今一度皆を見やった。それから一つ、しっかと頷く。 「それでは皆々様、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ!」 ●かしこみかしこみ 三条通の坂道は、きっと1000年前から変わっていないのだろう。 近代塗装のされたそこを真っ直ぐ上り、ずっと歩く。大阪や京都には活気や規模でどうにも負けてしまうけれど、そこには確かに観光客と人々の賑わいがあった。かつて『楽団』が来襲した際は戦場にもなった場所だけれど、今はすっかりそんな気配も感じさせない平和な日常が満ちている。 右手側に猿沢池、左手側に興福寺、緑地には鹿がのんびり寝そべっている。古都奈良の景色を視界に収めつ、辿り着いたのは春日大社の一の鳥居。そこも真っ直ぐ歩いていけば、待っていた地元リベリスタが頭を下げた。 「それではよろしくお願い申し上げます」 ここからはもう、平和な日常ではない。 神秘に満ちた非日常が、そしてリベリスタにとっては日常が、幕を開ける。 結界が形成される。 世界の歪みが現れる。 稲妻の音が聞こえた。 そして現れるのは――崩界因子、かすがさま。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月26日(木)22:19 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●奈良クライシス01 「おいおい」 状況は省略。目前の崩界因子をその目に映し、『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は少し大げさに肩を竦めて見せた。 「崩界度を下げる為の戦いだって? こいつは中々ハードな仕事じゃないか」 「あぁ。異界から戻ったばかりだけど、大仕事だな。猫の手も借りたいというけど、神様のを借りる日が来るとは思わなかった」 亜空間をさっと見渡しつ、彼の言葉に『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が応える。 同じ様に『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)も武器を展開しながら周りを見、 「凶事を潰して祭事をなすってか? 神聖なる場に災厄を呼ぶとは普通に考えれば罰当たりだーねーっと」 なんて皮肉るも、杏樹の言葉通り今回はその神を――神聖なる場の霊的な力を借りてこそ可能な任務だ。まぁ不秩序に手を打たぬまま世界を壊す方が罰当たりか、なんて独り言つ。 「これは勿論自分達の為の戦いです。でも本当に神様がいるなら……その守護や祝詞、祭祀を、その存在を汚さぬ様に全力で抗い鎮めましょう」 いつも通りの微笑を浮かべて。『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)はその場の空気に慣らすように一度6枚の蒼翼を羽ばたかせると、ふわりと宙に浮き上がった。 直後にごきっと響いた音は、『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が武装した拳を鳴らした音である。 「この崩界因子ってやつ、潰せば潰すだけ世界が安定するんだろ」 分かりやすい成果が得られるミッションはいい。倒せば良い、単純で良い。 「はっきりといい方向に進めるって分かってると、やる気も上がりやすいな。他所から邪魔とかされずに、こういう仕事をガンガンやっていきたいね、マジで」 顔を上げる。 稲光が周囲一体を眩く照らした。 その光源は崩界因子『かすがさま』。世界の歪みをそのまま表したかのような歪な姿。 「世界の歪み、伝承が形を成した荒御霊……ですか」 目を細める『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が言う。敵は強力。しかし負ける訳にはゆかぬのだ。 (私達に事を任せてくれた皆さんの為にも。希望が、人の意志が、簡単に折れる事は無いのだと、証明する為に) 目を閉じて確かめる想い。握り締める戦奏指揮棒『果て無き理想』の感触がしっかと掌に伝わってくる。 深呼吸一つ。目を、開けた。 「――任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ●奈良クライシス02 戦闘の火蓋は、空を切り裂く様に羽ばたく翼の音で切り落とされた。 「一番槍は頂きます!」 疾風の如く飛翔。かすがさまへ一瞬で間合いを詰めたのは亘だった。今回は厳しい戦いになるだろう。回復手段も零。であるならば、仲間の被害を1でも減らす事が自分の使命。その真っ直ぐな覚悟を表すかの様に、亘が纏う電光が鮮烈に輝いた。 「作戦通りに。私達に不可能はありません」 ミリィがタクトを滑らかに振るえば、常識すらもひっくり返す『勝利への執念』が皆の心を体を奮い立たせた。鬼謀神算的戦闘指揮。彼女は戦を奏でる者。 リベリスタが一切の無駄の無い動きで展開する。扇状の陣形だ。かすがさまの広範囲攻撃への対抗手段――それが功を奏した。リベリスタ達の人の中央辺りにて発生した稲妻の嵐。当たった者も確かに居る。だがその被害は最小限か。 雷を免れた福松はそのまま地を蹴り、かすがさまへと真っ直ぐ真っ直ぐ踏み込んでいた。神社仏閣に詳しい訳ではないけれど、春日大社の名前くらいは聞いた事がある。確か、タケミカヅチやフツヌシが祀られている所だったか。 「――ならば今回のオレはさしずめ、アマツミカボシと言った所か?」 タケミカヅチとフツヌシがまつろわぬ鬼神を全て平定しても尚、服従しなかった星の神。 良いだろう。抗ってやる。握り締めた拳。堅い硬い固い拳。自分のより高い位置に在るあめのこやねのみことの頭部を見据え、地面を蹴り飛び上がってのアッパーカット。それは重力に反旗を翻し遡る隕鉄の如く。 「ぐっ……」 衝撃の瞬間に衝撃が走った。のは、たけみかづちが纏う激しい稲妻だ。焼かれた拳から立ち上る煙。上等だ。不敵に笑む。 「ビビッてクソみてーな仕事する訳にはいかないのよね」 臆す事無く、ブレスは巨大ガンブーレドCrimson roarを構えた。先ほどの稲妻で身体が痺れるが休んではいられない、そもそも時間がかかればこちらが圧倒的不利なのだ。 「さて、順番にぶち壊すと行きますか。狙い撃たせて貰うぜ!」 照準は第三の頭部。引き金を引く。無骨な銃からは想像もつかぬほどの精確な射撃が螺旋を描いて空を裂いた。目を狙う。命中。反射の雷撃。ああ痛い。しかし目に当たっても怯んだりする様子が無いところを見ると、ああいう構造は『形を模した』だけで実際の器官ではないようだ。 「何だろうが関係ない。反射も防御も、丸ごとぶっ潰す」 そんなカルラの声。攻勢あるのみ。コマ送りの彼の視界には前衛の者へ8の剣を振るうかすがさまが映る。その頭部、あめのこやねのみことへ狙いを定め――突き出す拳。手甲型打撃戦闘用破界器テスタロッサに装填された魔力弾丸が赤く赤く炸裂し、放射した拳の重みで文字通り『ぶん殴る』。女性の様に細くしなやかな体からは想像もつかぬほどに重い一撃であり、同時に針穴をも貫くほど精確無比。防御されても関係ない、それすらぶち抜き貫き毀す精確さと破壊力があるならば。 一歩たりとも退いてやるもんか。杏樹はミリィを護る様に立ち、魔銃バーニーを崩界因子に差し向ける。 「荒れ狂う姿も神の一面だったか。神道は詳しくないけど、荒魂から和魂へ。少々手荒だけど、納めてけ、かすが様とやら」 超越した五感を持つ杏樹には戦場の状況が良く分かる。仲間の息遣い、空気の流れ、血のにおい――戦場だ。今日もそこから仲間と共に生きて帰る為。引き金を引いた。 「目には目を。神には神の加護を」 音すら遠い世界に果てるほどに、意識を全て攻撃に注ぎ込む。女神の加護を受けた超精確の弾丸は満月の如く輝きながら第三頭部へ――防御に構えられた屋根の合間すらも縫って突き刺さった。 リベリスタ達の猛攻は悉くが外れる事なくあめのこやねのみことへ降り注ぐ。 「さて、自分が倒れるのが先か、そちらが斃されるのが先か……」 最前線、さぁ己を攻撃しろと言わんばかりにかすがさまの真正面に躍り出ては目立つ様に翼を広げる亘へは、当然ながら他の者よりかすがさまの標的になり得る。が、振るわれた両断の刃は宙で身を翻した亘には届かない。 当たれば痛打は間違いなし。四の神の多彩で無慈悲に襲い掛かる技にどこまで耐えられるか。 (ですが一人で抑えられなくてもいい) 自分を追って飛行難高度まで居ってこないか上昇を試みる、後衛へ切り込まれぬよう断固として立ちはだかる、敵愾心をそそるべく光の刺突を繰り出す、あの手のこの手を試す、そうしている間にも仲間が休み無く攻撃を行ってくれている。信頼できる仲間がいる。亘は仲間を信じている。 「だからこそ――自分は強く、速くなれる!」 消える、ほどの加速。極限にまで洗練された銀色の一振りは音さえ無い。まるで優しく穏やかな、それでいて自由気儘なそよ風が吹き抜けたかのよう。その時にはもう、亘がAura -Flügel der Freiheit-が第三頭部を切り裂き破壊した後だった。 かすがさまの厄介な防御は今、突き崩された。次の狙いは雷撃による反射攻撃でじわじわとリベリスタを削り続けてくる第1頭部たけみかづちだ。いまだ数と火力を疲弊させていないリベリスタの火線が、今度はそれへと降り注ぐ。 至近距離にて敵を注視する亘、エネミースキャンを行使したカルラ、そして他の仲間からの連絡に戦況を超速で纏めるミリィは的確な指示を下す。状況は優勢。各人が己に出来る事を目一杯やっているからに他ならない。だが油断はできない。優位だからこそ、確実に。だが慎重で刃は曇らない。大胆で無謀に溺れない。戦闘超効率化。それこそが『レイザータクト』の使命なのだから。 「伝承にある神も歪みが加わればこうも姿を変えますか。……少しばかり、不憫ですね」 言下、戦場を焼いたのは聖なる光。かすがさまが放つ稲妻をも飲み込んで、残りの頭部を悉く巻き込んだ。 白。福松が纏うスーツもまた純白を保っている。構えているのは金色の銃、オーバーナイト・ミリオネア。 「ヘッドショットキル……なんてな」 引き金を引く。それは弱点を穿つ殺意の魔弾ではなく、神速の早撃ち。残りの頭部を遍く穿つ。 カルラが行ったエネミースキャンによって敵の弱点が頭部である事は既に判明している。最も手早く倒す為には弱点を狙い打つ他に手段は無い。 故にカルラはひたすら攻勢を重ねてゆく。狙いを絞らせない為、範囲攻撃に巻き込まれない為、常に戦場を駆け巡り続けつつ、狙いを定める。動き続ければ息が弾む。構わない。唾を飲み込み渇いた咽を開かせた。 (硬くも速くもない以上、頭も体も全部使って全力でかき回すしかねーだろっての) 敵の目の前に立ってくれている亘へのヘイトが少しでも減れば尚良しだ。胆に気を込め、拳を振り被る。 「四人に鹿とか、そんなくっついてると動きにくいだろ? バラバラにしてやんよ!」 一気呵成。深紅の一撃。破壊力を突き詰めつつも研ぎ澄まされた精度を持つカルラの右拳が、たけみかづちの頭部へ強烈に炸裂し、撃ち抜き、破壊した。 やるねぇ、と囃す口笛。直撃した稲妻に運命を代価に立ち上がったブレスは100倍返しと言わんばかりに第4頭部あめのみつたまてるひめのみことへ銃口を向けた。 銃声。 幾度目かの銃声。 何度撃っても、杏樹の弾丸が衰える事は無い。 残念ながら銃を避雷針代わりにする事は出来なかったが(ミリィの魔術知識によれば、自然現象のそれではなく魔力によるもの故らしい)、だから何だと言うのか。護る手段の分だけ、攻撃に転じればいい。攻撃こそが最大の防御。 そんな杏樹に、瞬間、一条の雷が放たれる。直撃――否。小型盾、錆び付いた白を装着した腕一本で、真っ向から受け止めたのだ。視界を焼かんばかりの雷光、大きな衝撃、されど杏樹は一歩も下がらない。言った筈だ。「一歩たりとも退いてやるもんか」と。 「神様、生憎と私も、私の戦友もしぶといぞ」 不敵な微笑。一見してぶっきらぼうで無愛想な彼女であるが、その心根は火よりも熱く、その根性は山よりも揺ぎ無い。肉体も。精神も。使えるものは何だって使う。勝つ為ならば。 「私の番だな。喰らえ!」 言下と発砲音は同時。祝詞を詠むかすがさまの頭部に鋭い弾丸がまた一つ、突き刺さる。福松とミリィの複数を巻き込む攻撃も相俟って既にダメージが蓄積していたそれが、跡形もなく弾け飛ぶ。 残る頭部は第2頭部ふつぬしのかみのみ。 正念場だ。杏樹は短く深呼吸を行って弾む息を整えた。顔を伝う汗はそのままに、五感をフル活用し仲間の様子を窺う――欠員はゼロ、無傷の者もまたゼロだが、大丈夫、皆まだ戦える。 銃を握り直した。曖昧で混沌な戦場において、いつだって確かな感触を与えてくれるもの。今自分がここに居る事を、戦っている事を、生きている事を、いつだって認識させてくれるもの。 殺す為の武器、だけれども、護る為の手段、その為に使いたい。 「私の技量がどこまで通じるか、勝負!」 幾度目か。幾度目だ。迷いは無く、揺らぎは無く、ブレる事も無く、魔銃から放たれたそれは正しく魔弾と呼ぶに相応しい。針穴をも貫く超精度の一撃――それが3つ、並んでいた。ブレスのCrimson roar、カルラのテスタロッサよりそれぞれ繰り出されたものだ。3人のスターサジタリーによるその射撃攻撃はいっそ無慈悲なまでに精確無比。 それらに抗う様に、今一度荒れ狂う雷が戦場に走った。 肌を焼く、痛み。カルラは奥歯を噛み締める。痛い。が、あの『悪夢の原因』に比べれば屁でもない。そのまま笑う。笑い捨てる。 「……その程度で怯むと思うなよ?」 痛みを感じるという事はまだ生きているという事だ。まだ生きているという事は戦えるという事だ。地面を踏み締め、突き出す拳。何度でも突き出す拳。何度でも。撃つ。穿つ。 それを、ミリィは具に見据える。真っ直ぐに。決着は近い。終わらせる。 「この世は人の世、私達の都合で呼び出しておいて申し訳ありませんが、歪みを正す為に、討たせていただきます」 金のその目に、黄金の精神。されど鉄より冷たい透明な敵意。ぞっとするほど鋭い『矢』となったミリィの眼差しが、ふつぬしのかみを貫く。 そこに重ねられたのは刹那をも切り裂く銀の一閃。亘は手にした刃の様に、何処までも鋭く敵を見据え続ける。 「動ける限り全てに置いて退くつもりはありません。仲間達との勝利を掴む為にその礎になれるなら……倒れるまで抗い続けます!」 振るわれた剣を、流転と名付けられた五指から肘を覆う手甲で風の如く受け流す。銀色同士が触れ合えば走るのは激しい火花。光が映る。彼の刃に、その瞳に。しかしそこに宿る光の方が――何倍も、燦然と輝いていた。二発分、十字に切り裂く。踊る様に、軽やかに。 華麗な――亘の戦いぶりと、福松の戦いぶりはまるで異なる。「ドラマなど求めちゃいない」と豪語する彼の戦いは何処までも泥臭く、何処までも我武者羅に全力。 「射手ほどの射程も精度もないがよ……喰らっとけや、これがオレの『弾丸』だ!」 自分を見下す神の似像に、地べたの福松は膂力を以て跳び上がり、挑みかかる。鹿の頭部を踏み台に、大きく大きく振り被った右拳。力という名の火薬を込めて、戦車の如く強烈に。捻りを加えた右ストレートが崩界因子の顔面にめり込み――最後の頭部を、完全に破壊した。 ●奈良は平和が一番です かすがさまの消滅と共に、展開されていた結界が解除される。結界を張っていた地元リベリスタがすぐさま駆け寄ってきた。早急に傷の手当を行いつつ、感謝と労いの言葉をアークリベリスタへ。 「こっちこそ、協力ありがとうな」 カルラは温和な笑みを浮かべて友軍へ礼を述べる。ミリィも便乗して礼をしながら、春日大社の朱色へと視線を移した。息を吸えば、旧い森のにおいがする。 「――これで、少しは落ち着いてくれると良いんですけどね」 「そうだな……しかし、祀られている場所で勝手に姿を真似られ、あまつさえ人の手によって倒されるとはな。春日明神達には同情するぜ」 福松もミリィと同じ方向を見遣りつつ、懐から出した棒付きキャンディの包装ビニルを取ると口に挟んだ。オレンジの酸味が切れた口内に少し沁みた。 「では」と最中に切り出したのは亘だ。 「もし本物の春日神様がいるなら……どうかまたこの世界を平和に導いてくれますように、祈りましょうか」 「神様、は基本的にあんまり好きじゃないんだが……八百万っていうしな。良い神様も中にはいるだろう」 それに神に祈るのがシスターの本業だ、と杏樹。 そういう訳で――皆で二拝二拍手一拝。 斯くしてリベリスタ達の抗いは、確かに『崩界度減少』という形で実を結んだ。 少しだけ平和になった世界の風は、何処か柔らかくて優しい気がした。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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