●あれ、お前居たんだ 「ハハッ、イイぜ、凄ェいいんだ。お前らみたいなフォルム、嫌いじゃねえ。当たり前ってナリしてるくせに、生きるのが当然って有り様してるくせに、人間に嫌われまくりのお前らが面白くて仕方ねェ。だから可愛がってやるのさ」 男は、暗室で演説するように腕を広げ、声を張り、歩いていた。あてども無く、カドに触れれば振り返り。 表情はくらくらするほどに狂気を孕み、その顔に張り付いた造形がその男の本性であり、視界に映っている情景が彼自身の理想であることが伺える。 「だ・か・ら、俺はお前たちにプレゼントがしたい。理想を見せてやりたい。分かるだろォ。違うか?」 男のその言葉を、聞く者はいない。正確には、その言葉の恩恵に預かれる存在は、か。 「俺は前から嫌いだったんだぜ? その、何でも分かってますみてぇな。『お前ら』だけ安全圏で死に様観察できる、そういう道具。嗚呼、皆まで言うんじゃ無え。だから、プレゼントさ」 男は笑う。腹を抱えて。肩を揺らして。 「ケムに巻かれて仲良く逝こうぜ、なあ?」 ●何を言いたいかっていうと 「……こちら、『テラーナイト・コックローチ』なるフィクサードのラジオジャックで流れた音声。それで、こちらが問題のアーティファクトの原型です」 とん、と置かれたのは除虫用燻煙器。部屋の中心に置いて2時間位放置するアレである。 「『テラーナイトなんとか』って何、聞いたこと無い名前なんだけど……野良? そこらに居るような雑魚?」 置かれたものをまじまじと見つめ、何でこんなものを使うのか、と頭を捻るリベリスタを見て、ああそうか、と得心したように頷く『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)だった。分かったから答えろというところだが。 「『テラーナイト・コックローチ』っていうのは、不快害虫に対して非常に造詣の深いフィクサードです。アークで彼自身との交戦、となるとデータは少ないですが、不快害虫に対するあれやこれやで少しは……少しは? 熟練の一部リベリスタでも知っている人は居るんじゃないでしょうか」 どこかには。そんなアバウトな発言にリベリスタは益々不安になった。 「じゃあ、その……その、道具の意味は?」 どうやら商標名が出そうになったらしい。 「アーティファクト『ミスト・ド・ダスト』。まあ見ての通りのブツなのですが、効果は真逆です。これを噴霧することで人体に影響があるわけではないですが、そこに居る虫、大小問わず高い確率でエリューション化させ、同時に巨大化させるシロモノです」 リベリスタ達が呻く暇を与えず、次に表示されたのは三高平中心市街tに鎮座するショッピングセンター、その複数箇所に設置されたアーティファクトだった。 「……これは、つまり」 「そうですね。ショッピングセンターといったら?」 「フードコート、衣料品、その他」 「フードコートは?」 「『そういう』虫」 「衣料品といったら?」 「あれ」 「……お分かりいただけたでしょうか」 「大惨事の予感は理解した」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月29日(日)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●大体オチくらいは見えていました (せめて蜂の子やイナゴを大きくして貰えれば食費は賄えるのだが……) 突如として謎のフラグ立てに奔走する『芽華』御厨・幸蓮(BNE003916)だが、多分彼女は至って真面目に考えた末のことなのだろう。身の上もだが、家族が多いことからやりくりが大変な側面もあろう。家計を支えるにはどうしても利便性の高い蛋白源が必要となるのだろう。ほら、昆虫って次世代の食事として見られている側面もありますし多少はね、多少は! 「どうか芋虫毛虫の類は出てきませんように……」 ね、ほら一般的な虫に対するスタンスって大抵こんなもんだって! 普通はヒくんだって! 『ミスティックランチャー』鯨塚 ナユタ(BNE004485)の年齢相応の態度を見れば分かるけど、老若男女問わず幾らあっても慣れないものなんだって大体! こうやって数えきれないほど昆虫案件を持ち込まれるアークですらこれなんだからリベリスタ一人ひとりの心のケアなんて無理くね? とか思うの当然だと思うんですよねえ! 「人数分の着替えとタオル、戦闘終了後のシャワー室等の手配は終わっています。思い切りやりましょう、リベリスタ」 ここで手際の良さをこれでもかと露見させたのは『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)である。言葉の節々にどこか含むトーンがあるのは兎も角として、きちんと準備するということは、その裏にこれでもかというほどに虫に対する恐怖というか脅威に感じる意思というか、その辺りがあるのだろう。メンバーが恐怖や因縁に濁った目で見なければ、彼女の瞳に僅かな怒りのようなものを見て取ったのかもしれない。彼女の気迫は、そういった類のものだと容易に想像がつく。 「まさかゴミ収集所にアレを大量発生させた犯人もコイツではないだろうな?」 人間が賢いところは、物事を系統づけ、関連付け、新たな側面を開拓することである。逆に、欠点はといえば、それらが必ずしも正しい関連付けではないことにある。……尤も、『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)が『三高平防疫強化施策』と銘打たれたそれらの事件に遭遇している以上、関連付けするなというのは無理からぬ話であり、その実多くの可能性としては正鵠を射ている。 だが悲しいかな、エリューションという異物は、そこまで我々の思い通りには発現してくれないのが現実であり、彼が遭遇したのも不幸な巡り合わせだったのだ。……それだけだったのだ。 「またまたテラーナイトさんですって、あの人すごーい。ある意味尊敬しちゃいますね♪」 捨てる神あればなんとやらというか、蓼食う虫もなんとやらというべきか。虫だろうが何だろうが、好ましく思う者は存在するわけで。その代表例が『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)ほどに突き抜けている場合、最早何を言うでもなくそっとしておこう、などと思いたくもなる。そういえばこの子が虫の関係でブレた覚えがないような、そんな気がしてある意味すごい。なんだこれ。 「大きい虫さん……ナミィ様みたいのでしょうか」 過去の任務で遭遇した異世界の住人(ナミケダニ似)に思いを馳せ、『もそもそそ』荒苦那・まお(BNE003202)は小首を傾げた。 だが彼女だって理解はしている。大きければいいってもんじゃないその事実に。子供らしい知性と愛くるしさがあったからこそ許されたあれらの所業は、知性の無い、大きくなっただけの代物相手には通用しない道理でもある。 余談であるが、彼女が今回のアーティファクトから連想したのが巨大化した肉やら寿司やらなのはなんていうか微笑まし、げふん。 「『殺そう』と思う程に憎んだら、やっぱり自分が穢れてしまいそうな気がするので……『なんとしてでも殺さないといけない相手』だからこそ、愛さないといけないと思ったんです」 「……これは酷い」 果たして、うわごとの様につぶやかれた酷いの矛先がどこに向いていたものか甚だ疑問ではあるものの、この世界(あい)に馴染み薄であった『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)ですらその酷さというものは理解できた。 先ずアーティファクトが酷い。無差別に巨大化させる煙幕とかどう考えたって大規模テロルに発展しかねないブツである。っていうかそんな発想普通しない。しないからこそ、であるのは分かるけどしない。そんなものが世に蔓延らないのは、皆常識的だからだ。でもテラーナイトはやる。話がわからないやつだ。 そしてぶつぶつと、どこか思考が飛んだような表情で恍惚と言葉を紡ぐ『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)もまた大概である。既に人間的な慕情とは一線を画すレベルの愛情にまで育ってしまった彼女の歪みを矯正する手段も、諭す者もこの場には居ないのだ。 いやだって、幾ら何だって殺すと愛すがめっちゃ普通に同居している現状とか普通に考えてヤンデレとかそういう感じなのに一切悪びれずむしろ恍惚としたノリで言われても困りますし、ねぇ……。 でも何が一番怖いかって、「今日1日限定のマグメデビューです」とか言ってこの依頼の為だけに当たり前のように自職を改竄するその根性だと思います。怖い。 斯くして、各々のやり方から探索を始め、被害を食い止めんとする面々であったが……この時はまだ、あんな惨劇に繋がるなんて思ってませんでした。 ●途中経過はこんなものでしょう 神秘事件の秘匿は、リベリスタとして最大限に気を使う行動のひとつである。大型ショッピングセンターとなれば尚更。 そういう意味で、早々に避難させるなどして『原因』も『結果』も見せないようにする必要があったわけだが、一番無難な手段は強制避難、なのだろう。 幸蓮がショッピングセンターに入って早々に行ったのは、施設システムのハッキングからの警報装置の作動。……ぶっちゃけ相当グレーゾーンな対応なわけだが、目くじらを立てるほど悪質な行為でもなければ対応として全くの間違いでもないので、ここは目をつぶることにする。復旧も電子の妖精ならイッパツだもんね!(プレッシャー しかし、理由もなく警報が鳴れば驚き、慌てる人間が多いのもまた道理。そんな人達を的確に誘導し一定レベルまで避難させるのは中々に骨が折れる作業である。避難の強制性に一役買ったのは、フィティが展開した強結界の恩恵であろう。余程の目的意識が伴わない限り、敢えて避難誘導されている現場に戻ろうなどとは思うまい。 「では私は三階に向かいますので、何かあったら連絡してくださいね」 軽く笑みをむけた小夜は、勢い良く上階へ向けて駆け出していく。三階は紳士服売り場。散開する前に小雷が想定した通りであれば、出入口近く……エスカレーターやエレベーター付近が怪しいと思うべき階層である。だが、小夜には千里眼がある以上はそうそう偽装が通用する訳がない。 「『これだけ』彼やその作品と付き合ってきた私なら、きっと設置中の彼の声が聞こえると思うんです……!」 脳内彼氏的なアレを全開にした彼女に対して、果たして周囲の声がきちんと通じるのかは甚だ疑問ではあるが、それはさておき。 彼女がそう思う以上は、脳内で彼の下品な笑い声とかが反響してるもんだからこう、色々と感じるものがあるのではないだろうか。 ……この階は彼女一人でいいんじゃないかなとすら思う。 「特に食品コーナーが大変そうでしょうか」 「オレはフードコートのある階を探すよ、そっちも大変そうだけど……」 まおとナユタがお互いの意見を出し合い、フロアマップを視界に収めた。大混乱、とは行かないのは開店直後であった救いだろうか。これが食事時間帯であれば甚大な金銭的被害が考えられたが、所詮三高平近郊(てらーないとのあそびば)であるが故か、対応が早かったのはいいのか悪いのか。 因みに食品売り場は1階、フードコートは地下1階。フードコートの広さは途轍もないばかりに、苦労することは容易に考えられたろう。気密性もよろしくない。 「りんのスーパー外道照身霊波光線!!!」 輪の口から放たれた技名宣誓がまあ随分とこう、物々しいけど結局は透視である。真っ先に一人で駆けていった小夜より精度は劣るものの、その能力は対アーティファクト探索では無類の強さを発揮する。彼女の存在の大きさは語るまでもない。リプレイ上、死ぬほど悪化しそうな現状を改善してくれているのは彼女らであることを書き添えておく。 「監視カメラでは流石に追い切れないか……ただ、それなりに虫はいるようだから注意しないといけないな」 衛生状態が万全でも、迷い込む虫を排除しきれるほどではない。画面端に映る程度の羽虫であれば、巨大化しようと御しやすいか、と考えつつ幸蓮は監視カメラのハッキングを続け、下層階をつぶさに探す。万が一、が無いとはいいきれないのだから。 「テラゴキが目立つ格好で大掛かりなことをするとは思えないから、広く浅く探した方がいいかもね」 「四基あるとは言え、必ずしも一つの階層に一つずつあるとは限らん。ナユタ、俺も一緒に行こう」 フィティ(何故そんな略称を思いついたんだ)と小雷(凄く正論)がそれぞれ知恵を絞り、可能性を少しずつ潰し、絞り、狭めていく。大掛かりなものになれば警報システムが黙っていないし、フロアを一基だけでとは言い切れないのだから仕方ない。熟練の雰囲気すら漂い始めた小雷の頼もしさは、ナユタの単独行の懸念を幾ばくか改善させるに足るものだったに違いない。 「最近は煙でない奴もあるらしいですが、そこら辺はテラーナイトさんを信用してますよ」 ごめん、敢えて言うならアレはあんまり信用してはいけない類だと思っている(実体験)。ステレオタイプを好むマリスらしい推察は、間違いなく現状を整理するに足る知力を湛えていた。 時間がいつまでも有るわけではない以上、そろそろ一つくらい見つけなくては、と思い始めている(ちゃんと散開しているであろう)メンバーを考えれば、彼女なりに思う所もあるのだろう。例のアレを『正式名称『御器被り』といふ黒き綺羅』とか呼ぶような彼女が、ヤツを生かして返すわけが無いでしょう? 「というわけなので、煙が出ている場所があったら教えて下さいー」 『私、疑うより騙されるほうがいいので……!』 「ちゃんと話聞いてましたか!? 巨大化したアレとか見たくないですからしっかりしてくださいよ!?」 愛の重さって本当にこう、辛いですよね。 ●でもちゃんと収まるところに収まる 『衣料品売り場は無いですねー、騙されちゃいました☆』 『騙された時でも笑顔でいるのはすごいなって、まおはおもいました……あ、見つけました。煙吹き出してますので壊します』 『こっちで出られたら泣くよ!』 『落ち着けナユタ、俺が叩き潰す』 『大きくなった虫さんもいいですけど、ありのままで観察したいですもんねえ』 『あの昆虫は、慣れないね。だから大きくなる前に排除できればいいんだけど』 『アカン』 (……改めて観察しているととんでもないことになってるのだなあ) 幸蓮だって一応通常進行で探しているのだろうに、他者のAF通信の酷さから既に諦めの境地に入っているような気さえする。彼女はこれが普通なのかもしれないが。 何しろ小夜が終始あの調子で、レーダーとしては的確なのだが言動がとにかく酷いのだ。よく4基中2基まであっさり見つかったモンである。 だが、流石に完全封殺とは行かないようで、まおが破壊したアーティファクト周辺では、既に数体のエリューションが発現している。確実にそれらを止めなければならず……幸運というべきか、マリスがいなかったら彼女はベタベタだったろう。いいね!(錯乱 閑話休題。 一番の惨状が予想されたフードコートは、小夜のサーチからのナユタの身軽さによる早期回収で1基は回収出来、安堵の空気が流れていた……先ほどの通信までは。 どこかに2基あるかもしれない、という恐怖は全員の神経を尖らせる。煙が吹き出した時点で大混乱の可能性があったのだが、早期避難のお陰で何もない。いいことである。 既に煙が出始めているせいもあってか、探索自体に時間を食うことは無いだろう……問題は、後処理なのだ。 「しっかり近寄らないと攻撃出来ません、しょうがないですねーくひひひ♪」 「安全第一、で処理していくしか無いね」 偶然にも同職同士、近い位置だったが為に共闘する流れになったフィティと輪は、お互いが対多数戦には不向きの類である。だが、個々の能力が高い為に数の暴力が暴力足り得ない。 ぎりぎりまで踏み込んだ輪の“Megalara garuda”が大型化したダニの頭部を舐めるようにひとなでし、刈り取る。 背後では、フィティの“Struct Blue”が切れ味鋭く閃き、宛ら氷雪の中を闊歩する龍の如くに閃いていく。両者の動きこそ違えど圧倒的殲滅力は変わらない……とある一瞬を除いて。 一撃確殺が狙えないと知るや、マリスの動きは素早かった。目から血の涙を流す勢いで吹き上がった闘気は彼女にまとわり付き、その一撃をより重くする。できるだけ近づいて(相手の姿をじっくり見て)被害のない方へ飛ばす(位置取りの為のディレイが発生する)。これだけで神経をすり減らすのに、半壊した体に対してもうイッパツとか絶対嫌である。 方や、まおは飛ばせないと察するや否やディスピアーギャロップで果敢に締め上げ、その息の根を止めにかかる。戦闘状態の彼女の表情は、実に冷静だから恐ろしいが、その眼の奥には相手に対する深い哀れみが見て取れる。 ふたりとも、決して楽な戦いではないのだ。それぞれの意味で……まあ、一瞬で終るわけだが、この後。 「一体何虫だよこいつらー!」 「こんなふざけた装置に巻き込まれたばかりに、こんな虫まで……!」 ナユタは、目の前のノシメマダラメイガのあまりの醜態に既に気絶寸前だった。フィーが何とか彼を慰めるように飛び、消えていくが些細なもので。 彼にとってはフードコートの地獄絵図はとんでもなかった。他の階の前座ぶりがひどいくらいだ。 他方、小雷はといえばまさかの相手がアニサキスめいた糸系の虫である。まとわりつかれ、鋭い一撃を見舞われればそれを避けるのはなかなか厄介だ。 ……この状況、まさに退廃。 「これはもしや異種ごほんごほん……瞬間記憶が欲しいな」 気づけ幸蓮! 君は今電子の妖精を活性化してるんだ! RECれ! そんな謎の撮影会めいた空気だったが、後から降りてくるメンバーがきっちり片付けていく。いや、それどころか。 「慈悲はない」 この一言を残して、マレウスをひたすらぶっぱして駆け抜けていった一人の外道巫女がこの依頼の大体全部(演出的な意味で)をもっていったことを忘れてはならない。 「帰ってお風呂! お風呂! 手配してたから行きましょうもう!」 「まおもべとべとなので、ついていきます」 ●REC |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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