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<凪の終わり・恐山>【愚連隊】宗教法人を潰す仕事をしている

●救いの手
 夜の四国。
 金毘羅さんが 見下ろす地の一角で、ある宗教法人が蠱惑の華を咲かせていた。
 広々とした会場を埋め尽くす様に人の群れ。群れの大半は、ある大規模な神秘事件により家や家族を喪った者達であった。
「魑魅魍魎、暗雲から注がれる雷、皆さんが垣間見た神罰の数々は、紛れも無い現実!」
 壇上で、禿頭のスーツ姿の男が両の手を広げて弁を振るう。
 何事かと雑魚寝していた一般人が視線を壇上に注ぐ。
「されど、奇跡がここにあった――お見せしましょう! 先ずはそこの若者とご老人!」
 指名する先には、雷で焼かれた若者が居た。近くにその母親らしき者がいる。
 坊主はつかつかと降りて行って、若者の皮膚を撫でる。
「これは酷い」
 全身にケロイドを残し呼吸が困難な有り様の若者であったが、雲龍の手の平から光が生じ、光が若者を包む。
 ひっついていた鼻や口が分離し、声帯も取り戻したか、ああ、ううとしか話せなかった者は。
「……! あ、ああ。話せる。あああ! 母さん!」
「よしお!」
 親子が抱き合い感涙にむせぶ。
 禿頭はにっこりと笑い、再び両手を大きく広げて、周囲へ呼びかける様に朗々としたバリトンを響かせる。
「御覧なさい。これが、私が神から救い手として選ばれた事の証明!」
「改めて言いましょう! 魑魅魍魎、暗雲から注がれる雷、皆さんが垣間見た神罰の数々は、紛れも無い現実!」
「されど私がおります! この私! 豪大寺 雲龍が! 皆さんを幸せへ導く事を約束しましょう!」


●謀略の恐山
「宗教法人、プロテスタント福凪宗ねぇ……こういうシェアの切り取りとか、よくやるわ」
 『係長』は紫煙をくゆらせる。音響ルームにたちまち出来た二つの死体を眺めながらパイプ椅子を立てて静かに座る。
 この『係長』という男は、謀略の恐山に所属するフィクサードである。
 主な業務は暴力担当であり、他にも革醒者を求める声を仲介する事や、勝負事の立会いやジャッジもやる。
 ここで、懐で震え始めた携帯電話をすぐに取る。
「どうも爺様」
 電話の向こう側から聞こえる老人の嗄れた声には、静かな怒りを湛えていた。
『お前、何故、以前の四国で動かなかった』
「ああ、それですか。3つ理由があります」
 中年サラリーマンの如き風情の『係長』は、首の後ろを掻いて、肩コリがあるのか首を回しながら応じる。
「1つ目。私がパイプを持っている黄泉ヶ辻の幹部が、まさに四国の横。熊本に居るんです。あの手この手を打ってました」
 『係長』は話を続ける。
「2つ目。他に優先すべきものがあると判断した事。今、大陸連中はこちらで新人教育してます」
『大陸……上海か』
「ええ、『アークとのパイプをもう少し太くしたい』という爺様の希望は叶っているでしょう?」
『……彼等は、『倫敦の蜘蛛の巣』の残党を狩ることができた。こちらも彼らが持つネットワークの一部を手に入れた』
「そういうことです。では3つ目。四国はいつでもリカバリーできるからですね。――というか今やってます」
『既に他の組織にシェアを取られているが、勝算はあるのか?』
 老人の怒りの声は和らいでいく。
「我々(恐山)の仕業と分からないように奪う準備があるんですよ。現に英国租界残党がうちに流てきた事や、逆凪村の麻薬栽培体制が崩――」
『――皆まで言わずとも良い。分かった。そこは任せよう』
「どうも」
 電話を切って、別の先へとかける。
「そっちはどうだ? マリアベル」
『とっくに終わったぞ佐藤田。なあ主任という女は信用できるのかい?』
「雲龍が相手な内はな」


●宗教法人を潰す系の依頼
「この壷3000万円するんです。私の母が」
 ブリーフィングルームに入ると、『変則教理』朱鷺子・コールドマン(nBNE000275)がタンバリンをちゃんちゃか鳴らして待ち構えていた。
 テーブルの中央には、壷が鎮座している。神秘的な何かも欠片もない、ただの壷である。
 朱鷺子は、タンバリン止めて、次にうんとこしょと壷を抱える。
「そおい!」
 たちまち、上から下へ叩きつけて、ばりんと砕く。
「宗教法人、プロテスタント福凪宗――『教祖』豪大寺 雲龍をぶっ殺します」
 なんだそのふざけた名前の法人は。
「日本の神道を都合よく解釈して、キリスト教だの仏教だのを取り込んだ万物を愛する何からしいです」
 先の壷の値段からすると、結局はカルトと怪しまれる。
「四国動乱――主流七派『裏野部』が『賊軍』を名乗ってして大暴れしたのは、ご存知かと思います。この雲龍という男は、片っ端から神秘を用いて人心を掌握しまくっている訳ですよ」
 朱鷺子は、プラズマスクリーンには『教祖』豪大寺 雲龍のデータが表示した後、横に立てかけていた箒とちりとりで破片を片付ける。
 一部始終が映る。成程。ホーリーメイガスである。
「『人助けしている奴を倒すのか』なんて、呵責が起こらない様に付け加えますが、雲龍は昔から神秘に頼らない手法を好んでいます。壷を売ったり、村一個掌握して麻薬栽培させたりとかですね」
 付け加えるように差し出された写真であるが、電車の中の光景である。あちこちに、宗教法人プロテスタント福凪宗の広告が貼られている。
 雑誌が置かれる。雲龍著の理想論コラムがつらつら書かれている。
「この雲龍というのは何者なんだ? ただのフィクサードにしては」
「んんんん~~~実は『逆凪』です。それも幹部」
 国内のフィクサード組織の最大手『逆凪』の者であるという。国内のフィクサード需要において固定客を多く握っている大組織である。
「で、本件ですが、雲龍が食い散らかしている状況をとても苦々しく思っている『恐山』がいます」
 最大手『逆凪』に対して、謀略の『恐山』という構図か。
 たちまちプラズマスクリーンが切り替わり、中年男性が表示される。
「通称『係長』。恐山の暴力担当ですね。部分的共闘は期待できるはずですよ。到着時、音響ルームと照明ルームは彼らが圧えています」
 あるバロックナイツ戦時に共闘したり、三高平へカレーを持ってきたことなどもあり、それなりにアークに友好的なフィクサードである。
「なんなら『係長』への直通の番号教えますよ。すぐ番号変わるのでこの依頼だけですけど」
 何故、知っているのか。
「現場は市民ホール。先日の四国動乱で色々絶望した一般人が集っています。一般人は雲龍を守ろうと動くでしょう。また、結構な数の雲龍の部下が混ざっています」
 部下が混ざっているだけでなく、一般人まで敵を庇うとなれば、中々厄介である。
「ああ、一般人については――ま、可能な限り秘匿した方が良いでしょう。魔眼とかの手段が無ければ、コレでどうぞ」
 ロッカーの前に行く。扉に手をかけて、中から火炎放射器を持ってくる。
 『安心と信頼の裏野部印の火炎放射器』である。
「ともあれ、無茶だけは絶対にしないでくださいね。約束です」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月26日(木)22:21
 Celloskiiです。
 恐山系+愚連隊系です。

●成功条件
・『教祖』豪大寺 雲龍の撃破
・ノーフェイスの全滅
・神秘を可能な限り秘匿する

●状況
・夜の市民ホールです
・施設に入って左右に階段があり、正面はすぐにホールです。
・左右の階段は、ホールの左右を走る廊下になっており、右は音響ルーム。左は照明ルームに続いています
・音響ルームと照明ルームにも階段があり、壇上の左右に降りることができます。
・恐山とは任意タイミングで連絡とれます。音響には『係長』、照明には『黒虎の高弟』がいます。こっち来てお前らも戦え等言えば、共闘も可


●敵データ
『教祖』豪大寺 雲龍
 ジーニアスのホーリーメイガス。
 到着時、壇上の上で一般人を順番に治療しています。治療後、ノーフェイス化する者も生まれてます。
 ・ジャッジメントレイ
 ・神の愛
 ・デウス・エクス・マキナ
 ・この不信徳者がぁ!(EX)

逆凪Aグループ
 教祖の護衛です。壇上の脇(音響と照明部屋の階段を降りた所)に潜んでます。音響はクロスイージス。照明はデュランダル2人ずつ。RANK2までのスキル使います。

逆凪Bグループ
 一般人に混じっています。
 デュランダル5人。ホーリーメイガス4人。RANK1のスキルを1つ。RANK2のスキルを3つ使います。


ノーフェイス×10
 フェーズ1。一般人よりはタフです。教祖を守ろうと動きます。

一般人×50
 教祖の前で列を作っています。ノーフェイスと同様に、教祖を守ろうと動きます。


●友軍データ
通称『係長』
 恐山派、暴力担当のフィクサードです。
 メタルフレームのクリミナルスタア。
 音響部屋にいます。携帯への直通電話番号あります。
 A:
  ・ハニーコムガトリング
  ・ギルティドライブ
  ・極道拳
  ・係長砲(EX):Burned fieldとも読む。物遠範、獄炎付与。連撃

『黒虎の高弟』マリアベル・リー
 恐山派、暴力担当のフィクサード。係長の配下では上から二番目の実力者。
 ビーストハーフ(狐)の覇界闘士。英中ハーフ。称号は自称。照明部屋にいます。携帯への直通電話番号あります。
破界器:火竜鏢(huǒ néng biāo)
 A:
  ・RANK3までのスキル3つ。
  ・無式炮烙(EX)


●便利手札
 既に神秘を垣間見た一般人から神秘を秘匿する手段が無ければ、これで秘匿(物理)してどうぞ。

・火炎放射器
 安心の裏野部製。人数分有る為、炎系のスキルやシード付け替えなくても安心です。幻想纏いに入ります。安全装置が無く、引き金を引くだけでファイアーできる漢作り。人一人を瞬時に焼ける程の物凄い火力です。
 これを武器として使いたいというイカ(れ)した趣味の方は、プレイングの頭に【裏】と記載してください。現在装備している武器を無いものとし、本武器を装備しているものと扱います。性能は以下。

 裏野部製の火炎放射器[2S]
  物攻+20 神攻+20 命中+15 回避-10 FB+5 追加BS:[火炎][業炎][獄炎]【射撃可】
  使用者のレベル、シード、同等の強化が施されています。

・ブルドーザー
 更地にしたいならどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールクリミナルスタア
依代 椿(BNE000728)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
アウトサイドスターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
ノワールオルールマグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ノワールオルールクリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
アークエンジェダークナイト
宵咲 灯璃(BNE004317)

●夜陰
 六月の夜空の下は、しんと静まっていた。
 ねっとりと湿気を帯びたぬるい風が、頬を撫でて過ぎ去っていく。
 道のりは平坦なアスファルトであったが、雨の降り始めのコンクリートの様な異臭が漂っていた。
 『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は、粛々と歩みを進める。
 サングラスにぶつかっていく小虫を意に介さずに、腕を組んで黙考する。
「(胡散臭い宗教団体は、それこそ無数にあるが――その教祖の正体が殆どは革醒者だろうな)」
 逆凪という後ろ盾を得て、その無数の中から飛び出した団体といえようか。
「(胡散臭い宗教団体、というのは一般人にとっても普通に警戒出来る筈だが、その力を見せられたら――)」
 まず、信じることだろう。
 『人』を『材』と見る逆凪は、有能な者も無能な者も利に変える。宗教という環境は実に理に適っている。
 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が、己の拳を握って開く。
「けが人を癒やしている事それ自体は悪いことじゃない。ノーフェイス化さえなかったら、目をつぶりたいぐらいだ」
 悠里が拳から視線を動かして見据えるは、向こうに小さく見える建物である。周囲に他の建物が無いせいか、一向に輝かしく見えた。
「……残念ながらそうはならなかったけどね」
「そうやねー。自分の為に人を騙す似非宗教……ちょっと道理にあわんよね」
 『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は両手を頭の後ろにやって、ぽかんと肯定した。
「確かに、その行為で救われた人も居るかもしれんけどな」
「だから救ってみせるさ。僕の拳は、護るためにあるんだ」
 悠里の意思に椿が柔らかく笑う。
 次に、椿は携帯電話を袖口から取り出した。
「ほな、現場着く前に係長にはアポをとらんとやね」
 会話は途切れる。
「朱鷺子から貰ってきたんだ?」
 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)は、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が持っているラップ包みを凝視する。
 中には白い粉が入っている。
「おもむろにそぉい! するか、投げて1$シュートでブチ込むなり」
「いい! それいい♪」
 灯璃は、その光景を想像したか愉快に得物を空に撃ってみる。ごぉぉと火が生じる。
「それはそうと、火炎放射器、それどうするんです?」
「うふふ、直ぐに判るよ」
 七海の問いに対して、灯璃は不穏に笑うのみである。
 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)は、黙想して本件の全容を推理していた。
「『共益』の範疇とはいえ、メリットはやや恐山寄りでしょうか」
 誰が一番得するのか。
 スーツ姿の人物が出てきたのだから、以前の推理は的を射ていたと確信していた。
「いいんじゃない? とりあえず、六道でも名乗ろうかしら」
 ふと光介に声がかかる。
 『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)が片腕を上げて伸びをしながら続ける。
「恐山が逆凪に喧嘩売ってるって言われるのが嫌だからアークに情報流したんでしょうし、後はアークの仕業とバレなければ朱鷺子さんとの繋がりから勘ぐられる心配が減るかしら」
 セレアが伸びをした手を、腰に当てる。
「雲龍を倒すのは前提として、あたしはあたしで、逆凪に変な恨み買わずに済む。利害は一致っと。そう思わない?」
 成程と光介が軽く俯いて、再び顔を上げる。
「良いと思います。雲龍さんの手下に逃げられても丸くおさまりますね」
 程なくして施設へと至る。
 三段程度の石段を昇って、ガラスの扉を開ける。警戒をするも警備は無い。
 いやさ、植木の下に男性物の革靴が転がっている。
 ガラスの扉を開けてつーっと入ると、映画館にあるような防音剤が詰まった扉が3つ並んで閉まっている。向こう側はホールである。左右には階段がある。
「首尾は如何でしょう」
 『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が、椿へと問う。
 椿は、人差し指と親指で輪っかを作り、OKとサインを出す。
 どうも世間話をしているように怪しまれたが、数秒の後に電話の向こうから怒られたか、しょんぼりと通話を切った。
「それでは、作戦通りに」
 リリは、金色の印章が刻まれた銃を掌の中でくるりと踊らせて、空いた手で防音扉のノブを掴む。
「それじゃ後でね」
 悠里は左の階段を昇って照明ルームへと行く。
「係長さんに会ってくるね」
 椿は右の階段から音響ルームを目指す。
 二人が階段の上に消えた事を確認して暫くの後に、防音扉から突入する。


●包囲網
「アロー! アロー! 詐欺教団のクソ豚と哀れな羊共! クソみたいな神様からのお達しだ!」
 灯璃が先頭に立つ。
 幻想を看破する瞳でもって、手近にいた逆凪派へと接敵する。
 敵は突然の乱入者に狼狽する。すかさず灯璃は笑顔を返す。
「恐山が誇る暴力担当、凍イ出アイビスの復讐の為に死ねッ!!」
「お、恐山だと――ばぁ!?」
 火炎放射器を大きく振り上げて、逆凪派の脳天に叩き込む。敵は自らの舌を噛み切って床に沈む。
 雲龍を目指して列を成していた一般人が悲鳴をあげる。
「ハーイ、六道(自称)のお姉さんでーす、雲龍死すべし慈悲はない」
 セレアがひらりと六道を名乗る。
「恐山に六道!? 何なんだお前達は!」
 かく、この名前を知っているならば一般人ではない事は明白である。
「マヌケめ」
 結唯が、逆凪派に対して五本の指を向ける。
 指が次々を火を吹き、マシンガンの如き連続した銃声の中で鉛玉をばら撒く。流れ弾が一般人に当たることも辞さない。
「ほら、助けないのか。どんどん一般人が死んでいくぞ。一般人を幸福にする為に癒すんだろう?」
 血まみれになって伏せる老婆や、胸を押さえて子供がうずくまる。血反吐を吐き散らす。
「や、やめろー!」
 一人の青年が、結唯の腕を抱え込む様に掴んでくる。もう片手で発砲して黙らせる。
 いよいよパニックへと陥った人々に光が二重に降り注ぐ。
「術式、贖う羊の慟哭!」
 光介が不殺の光を放つ。
 人垣がばたばた倒れた事により、視界は向こう側へと通る。
 壇上にある坊主の姿が視認できる。距離は20m程だろう。
 坊主は光介と対照とも言える癒しの光を放っている。
「不運な方々を手にかけるとは、何たる邪悪!」
 坊主――雲龍が朗々としたバリトンを放つ。一般人は縋るような視線を教祖に向けた。
「邪悪? 天に背く行為であると同時に、心の弱みに付け込む所業は赦せません」
 リリが視認できる逆凪派へと銃口を向ける。銃声が一発に聞こえる程の連射で、弾幕の世界を下す。
「己等の所業を邪悪でないと抜かすか! この有り様に懺悔せよ!」
 逆凪派が警棒型の破界器を持って、次々と真空刃を繰り出してくる。
「贖罪、とかそんな殊勝なつもりはないけど、関わったからにはきっかりしっかりと責任を果たしますか」
 七海が、幻想纏いから出した鉄の箱の様なもので入り口を塞ぎ、くるりと踵を返す。
「どーもー。とある村で麻薬栽培及び密売についてお話を伺いに来ました」
 惚けたような七海の言葉に、雲龍は目を見開く。
「上木君を殺ったのはお前か!」
 上木とは逆凪のフィクサードである。村ぐるみのケシ栽培を取り仕切っていた者であった。
 その麻薬村に教会があった。七海は教会関係者から『雲龍』という名前も白状させている。
「雲龍様、なぜ村人を見捨てたのですか?」
「見捨てた? 村の惨状を知らんと思っているのか! 人面獣心ども!」
「そうですか。ありがとうございます」
 七海がそぉい! とラップに包まれた白い粉を投げつける。同時に1$シュートで雲龍の顔面に白い粉ごと撃ちぬく。
 雲龍は頭に一筋の血を流すに留まる。かなりの石頭である。
「かかれ!」
 茹でダコの様に顔を赤くした雲龍の声により、場は乱戦へと移ろう。
 人数に差はあれど、リベリスタ側には実力者が揃っていた。
 豊潤な複数攻撃、全体攻撃により、勝敗の天秤はアークへと傾いていく。
 ただ――気になる所といえば、照明が一向に落ちない事であった。突入後に合流予定だった椿と悠里が一向に出てこない。
「アイビスにはAFで実況生中継!」
 やがて、灯璃が人垣を突破した。
 壇上の左右から出てきた四人と雲龍に対峙する。幻想纏いで映像を朱鷺子へ転送する。
「母親が騙されてからはどんな生活だった? アイビスが恐山に入るまでの経緯も教えてよ灯璃があの豚野郎を焼き豚にしてあげるから!」
「幻想纏い……! 貴様アークか!」
「アークぅ? 知らないなぁ。これは恐山の主任からのお願いだしね!」
 灯璃が雲龍へ王手をかけんとした刹那に、ドンと音が鳴る。何事かと全員の視線が向く。
 たちまち、壇上左側の上の壁が砕ける。
 悠里が吹っ飛ばされたかの如く、背で壁を突き破ってくる。空中で一回転して着地する。
「共闘できないのか、マリアベル」
 悠里が吼えて見上げる。
 今出来たばかりの壁の穴から、スーツ姿の女が飛び降りてくる。
「共闘だって? 寝ぼけてんのか、氷使い?」
 照明ルームで交戦していたと怪しまれる程に、所々火傷を負っている。
 更には椿が、壇の右手の階段から、転がるようにして降りてくる。
「ちょ、係長やめや!」
 椿の手には既に得物が握られていて、顔には青タンが浮かんでいる。
 中年男性が降りてくる。狼狽した雲龍は、キツネ目と中年を交互に見る。
「『係長』! 恐山か!?」
「雲龍さん、そいつらアークですよ」
 中年男性はひらりと暴露する。
 壇の中央へと歩いて銃を抜く。抜いた銃は、しかしリベリスタ達へと向くのであった。


●恐山の暴力担当
 恐山が裏切る。
 照明は落ちず、両の部屋へと向かっていた二人が負傷して場に帰ってきた。逆凪に対しては優勢に傾いていた戦況が、敵二人の増援で揺れ動く。
「ちょっと! これは復讐、アイビスの復讐でしょ? 灯璃は復讐のお手伝いをしてるだけなの!」
 灯璃の言葉を受けて、雲龍の顔は『係長』へ向く。
「この小娘は何を言っているんだ?」
「さあ? 悪いものでも食ったんでしょう」
「むか!」
 即、『係長』が弾丸をばらまいた。デュランダルに迫る火力である。
 リリが側転して弾丸を避けるも、左肩に一発受ける。
「最初からこのつもりだったのですか?」
「違うと言っておく」
 ならば何故、とリリは言いかけて飲み込む。
 力無き子の無事と、雲龍の撃破が最優先であると応戦する。
 フィクサードとの共闘は複雑であったが、それが蹴られた以上はただの敵である。
「一切合切、総ての悪を――蒼の魔弾が逃がしはしません」
「甘い過ぎる期待を抱いたのが間違いだったな」
 ひらりとのたまう中年の横から、マリアベルの声が差し込んでくる。
「佐藤田ぁ。結界の様なもので外に出れなかったよ、逃げらんない」
 かく、マリアベルと相対するは悠里である。
「待ってくれ、マリアベル。君のお師匠さんを捕まえた僕が気に食わないところはあると思うけど、今は僕らが戦っている場合じゃない」
「黙ってやられろってのかぃ?」
 何か強い誤解があると解釈できる。
 悠里は、飛来する炎の縦拳を、氷の手刀受けで払う。
 打ち返すべきか否かに苦しみながら、どうすべきかを模索する。
 ただ確実な事は、この拳士は逆凪のデュランダル以上に危うい事である。
 セレアが反論する。
「逆凪を逃がさない為の陣地よ。こっちの作戦は依代さんや設楽さんから聞いてないのかしら」
 『係長』がリリと撃ち合いながらも応じてくる。
「てか信用できる材料が無くなったんでな。なら陣地とやらを解いてくれるのか?」
 セレアは雲龍を見る。恐山二人の加勢で壁に背を預けるように向こうへ下がっている。壇の左右にいた四人を伴いながら、じりじりと横に動いている。
「解くわけにはいかないわね」
「ま、そうだろうな」
「あたし個人は恐山とモメるのはゴメンって事で」
 目視で分かる範囲のノーフェイスと革醒者に対して、セレアは星の鉄槌を詠唱する。
 鉄槌の対象から恐山を外して叩きつける。リリの掃除もあってか、目視できる全てのノーフェイスは全滅する。
 ここに、結唯の目標がフィクサードへと移る。邪魔な者を粛々と撃つ。
「話が違うな、恐山」
 恐山の男は、結唯の弾丸に対して、後から弾丸をぶつけて叩き落とす。
「それはこっちのセリフだ」
「一般人殺傷が我慢ならん等と言うまいな」
 りん、と薬莢が静かな音を鳴らす。
「ねーちゃん、あんた、フィクサードに向いてるな」
 ならば何だというのか。
 軽口に受け流して再動。庇おうと動こうとした信者や一般人をなぎ払い突破口を作る。
 光介が、たまらず恐山を含む全員を癒す光を放った。
「雲龍を倒すまで、どうか手出ししないで頂けませんか?」
「さっき言った通りだ。おーい雲龍さん、回復くれよ」
 坊主頭が光り、敵方にも回復の光が降る。同じ職業柄で分かる回復量は、雲龍の方が高い。
 光介が続ける。
「ボクは楽団残党の時の借りを返しに来たんです。共益の範疇なら目を瞑りますし、こんなの利益が無いじゃないですか」
「いや、先に共益を蹴ったのお前等じゃね?」
 光介。つまりは回復手の特定からか。雲龍の護衛のデュランダル二人が、護衛を放棄して前へ出る。
 放たれた真空刃が、光介を斬る。分厚い本の破界器で一発は防御するも手痛い。
 かくして、幹部格が二人増えた状況と言えた。
 この二人の動きを止めんとして放たれる悠里の氷結も、灯璃の奈落の剣による石化も、雲龍の横に張り付いているクロスイージスが悉く祓ってしまう。
 加えて、雲龍の回復である。光介の回復もあり僅かに削りあう戦いとも言えた。
「まあ、なんですかね」
 七海が飄然と、雲龍へ呪いを込めた矢を放つ。
「雲龍様をなぶってねぶった後で、ゆっくり誤解を解けば解決でしょうかね」
 クロスイージスが割り込んでくる。もう一人のイージスが破邪の光の体勢をとる。
 椿が銃を真っ直ぐに構える。咥えた煙草はいよいよ紫煙をくゆらせている。
「それでいこか」
 椿が壇上の右の位置から銃を真っ直ぐに構える。断罪の魔弾を放つ。放つと同時に走る。八頭の蛇の気を集中させた右拳を、イージス二人の足元で炸裂させる。
「聞きそびれたけどね、三四郎さん今何してるん?」
「俺の人脈で一番ヤバイのが、あの黄泉ヶ辻幹部だ。関わりた――くっ!」
 灯璃が火炎放射器を『係長』へ振り下ろす。
「見逃してあげようと思ったのにね。邪魔するなら仕方ない、死ね」
 奈落の瘴気を宿した一撃で、たちまち恐山の男は石化した。
 これを祓える者は最早、雲龍のみである。
「ぬううう! 使えん者どもめ」
 雲龍は、スーツの上着とシャツをビリビリと破き捨てて肉体を晒す。
「かかってきなさい! 不信徳者ども!」
 たちまち、悠里が踵を返す。
 マリアベルを抑えながらも、最大限のチャンスを伺っていた。
「やりきれない。本当に……だからこれで、終わらせる」
 放った氷鎖は雲龍の腹へ潜る。回復を使わせる事すら許さず氷結させる。
 結唯が弾丸をばら撒く。
「不信徳者、ね。生憎、神の存在を信じていないんだ。それに私は神はおおいに嫌っている。もしこの世に神がいるのなら」
 ――殺してやる。
 動きを止めた敵のイージスや他諸々を巻き込んだ多くの弾丸が、多くを絶命させる。
「ちょっと氷漬けって嬲れませんね」
 七海が呪いの矢を放つ。氷をすっと貫くように。雲龍の身へと突き刺さり氷結を確固とする。
「まあ、良いでしょう。張り切ってぶっ潰しますか」
 セレアが陣地を解除してひらりと。マレウス・ステルラを落とす。
「陣地はもう解除したから――逃げたら? 雲龍が死んだら次は多分」
 言葉を投げかけた先は、マリアベルである。
「……くそが!」
 マリアベルは鉄の箱をチラりと見て、次には壇の階段を上って消えていく。
 リリが最大限に敵を巻き込める立ち位置から、敵を狙う。 
「私は神罰の執行者。七つが大罪のうち二つ、人の身で神たらんとした傲慢と強欲の罪――今此処で断罪します」
 リリが放ったゲートピアスは真っ直ぐに、進路上のものを砕きながら、雲龍へと刺さる。
 刺さった弾丸からピキピキと氷にヒビが入っていく。
 次にはガラガラガラと、雲龍は氷の様にバラバラになった。
「Amen」


●殺伐の境界線
 六月の夜に、ブルドーザー三台が横切って施設を破壊する。
 死屍累々であるが、光介の地道な回復により生存者は僅かに在った。
 魔眼でその僅かに残った生存者を誤魔化せば終わりである。
 灯璃の施策。一般人を魔眼で操り火炎放射器を持たせて根絶やしにせんとする策は潰えるも、かくリリの提案によりブルドーザーで施設をガンガン壊していく。七海もその通り。
 裏野部顔負けの甲高い声が空に響く。
 結果としては依頼は成就されたが、一般人を悉く助けたかった者は、打ちひしがれ胸裏を無念で塗りつぶす。
 神を信ずる者は冥福と僅かな生存者の回復を祈り、神を呪う者は感慨も無く粛々と帰路についた。

 館内で、椿が足元を眺めている。
「もっと色々聞きたい事あったんやけどね」
 足元には、石が散らばっている。
「朱鷺子さんに……報告してきます」
 光介は手を震わせながら、暗がりへと移動して幻想纏いを開く。
「面倒な事にならないと良いけどね」
 セレアも石片を見て素っ気無く踵を返す。
 何故一人――マリアベルを生かしたのかが頭を巡るが、恐山の主任が必ず知ることになるのだから同じことであった。
 今宵の戦果は、逆凪と恐山の幹部の撃破。
 大きな勝利である事は揺ぎ無い事実である。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 想定外の状況が起こっても、踏み潰せるほどの戦闘力と戦闘プレイングがあれば覆りうる事が当然と考えています。
 判定の結果が勝ちで、戦闘の結果が依頼の成否を左右するならば、勝ちは勝ち。成功です。

 お疲れ様でした。