●落ち武者の呪 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす――――『平家物語』 大野瀬戸に面した有浦の湾の奥、安芸の宮島。 満潮時の赤い大鳥居は海に沈んでいた。 夜の海はいつのもまして荒れている。 かつて血で染まった浜辺には沢山の白い波が押し寄せる。 真っ暗な暗闇に何処からから琵琶と尺八の不気味な音が聞こえてきた。 波の向こうに幾つもの青白い光が浮かび上がった。大きな船団に数多くの鎧兜と刀剣で武装した船団だった。船頭には風に揺れる赤い旗を掲げている。 琵琶法師が目をつぶりながら曲を掻き鳴らしている。 まるでこの世とも覚束ない憐れを含んだ曲調に引き込まれそうになる。 その後ろには多くの武士が鬼のような形相で上陸地点を目指しながら迫ってきていた。 かつてこの地を拠点としていた平家の武士たちだった。無念にも闘いに破れて長年の怨みを今果たそうとするかのように一同の眼光は鋭く光っている。 「この世の怨み末代まで必ず呪ってやる」 大きな鎧兜を着込んだ筋肉隆々とした大将の男が天に高々と双剣を掲げた。真っ直ぐに大鳥居の向こうに剣先を向けて威勢をあげた。 ●崩壊に抵抗する者たち 「厳島神社にエリューションの武士が現れて脅威をなしているわ」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)がブリーフィングルームに集まったリベリスタたちを前にして厳しい表情を向けた。すぐに資料を元に状況を述べていく。 昨今世界の崩壊度が増して様々な所で影響が出始めていた。 つい先日も『恐怖神話』の異形達が日本へ牙を向けた時の爪痕は、早急な対処を必須とするほどに大きな歪みをこの国に生じさせていた。このまま歪みが大きくなってしまえばもちろんさらなる被害を生じさせる恐れがある。すでに全国各地のパワースポットで事件が発生していた。この事態にリベリスタたちは慢心を捨てて取り組む必要がある。 「武士たちは非常に怨みのような強烈な意志を持っているわ。無念にも死んでいった恨みを今果さんとするかのように全力で戦ってくる。気が抜けない闘いになるわ」 武装した兵団は沖からの戦力と神社の周りに展開した2つの勢力からなっている。リベリスタたちはいわば挟み撃ちにされる構図だ。 「今回は世界の崩壊度にも関わる重要な任務になる。敵も気が抜けない相手だけど、何とか頑張って任務を達成してきて欲しい。皆の無事を心から祈っているわ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月22日(日)22:50 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●荒れ狂う波の果てに 大野瀬戸の有浦湾は大きな波に揺れていた。夜の帳の向こうから亡霊のような橙色の灯りが浮かび上がっている。大昔の武士たちが船に乗って雄叫びをあげていた。 砂浜では海の部隊の雄叫びに呼応して鬼の大将が双剣を突き上げた。 赤い旗を振りながら戦の開戦を指示する法螺を琵琶法師が吹いた。武士たちが咆哮しながら鋭利な刀を振り上げて襲い掛かってくる。 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は鋭い視線で睨み付けた。先頭を切って敵の前衛部隊に目がけて真っ直ぐに斬り込んでいく。 「うらみがあるなら、生きてるうちに晴らすんだったね。 死んだなら、おとなしく死んでいな!」 後ろにしっかりと位置を取った『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)から翼の加護を貰って一気に敵の元へと迫ると敵の懐に目がけて体当たりを食らわす。 不意を突かれた足軽たちはバランスを崩して陣形を乱した。慌てて弓矢を構えるが、涼子はそうはさせまいと弓矢ごと腕を掴んで投げ飛ばす。 腕を思いっきり捻られた足軽は地面の砂浜に叩きつけられて昏倒した。 他の足軽たちが猛烈に弓矢で援護射撃をしてきて激しい戦闘が始まる。『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が跳躍して愛刀の東雲で振り払う。 長い髪を振り乱しながら猛然と矢を次々と撃ち落としていく。 「私の名はアークのセラフィーナ! 行きます!」 毅然とした声音で宣言して周りの敵に向かって瞬く間に刀を振りぬいた。セラフィーナの刀の早さに付いていけず足軽たちが斬られて凍りづけにされてしまう。足止めを食らって前に進めなくなった所を後ろから『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)がメイスを振り回して叩きのめして硬直した戦線を突破した。目指すは奥にいる鬼武者だった。 「貴様よくも兵を潰してくれたな。生かしてはおけぬ」 部下が殺られて怒りを露わにした大将がついに双剣を振りぬいた。突破してきた義弘に向かって猛烈な風刃による斬撃を撃ち放った。 義弘は正面から攻撃を受けて顔を大きく顰めた。猛烈な斬撃に吹き飛ばされて砂の上に叩きつけられる。予想を上回る双剣の破壊力に義弘は戸惑いを隠せない。 「絶対に負けるわけない。崩壊度を下げ、鬼武者を倒すという意味においても――」 義弘は沙希に庇われてすぐに立ち上がった。回復を施して貰って自分の脚で地面を踏みしめると目の前の的に向かって猛然と殴りかかっていく。 鬼の双剣の大将は刀で義弘のメイスを受け止めた。両者とも一歩も引かぬ鍔迫り合いが行われる。その隙にセラフィーナと涼子は後ろにいる琵琶法師の元へ迫った。 琵琶法師は呪符を取り出して無数の火炎弾を放つ。涼子がセラフィーナの前に躍り出て手を広げて神速の抜き撃ち連射を複雑に跳弾させた。空中で壮絶な打ち合いになって琵琶法師が釘付けになっている所をセラフィーナが上から襲い掛かる。 「覚悟しなさい! やあああっ!!」 すぐさま琵琶法師がセラフィーナの咆哮に気がついた。琵琶法師は音を頼りに攻撃を寸前の所で交わそうする。 だが、セラフィーナはフェイントを仕掛けていた。わざと翼で風を切る音と咆哮をの声を出してその前に一瞬で振りかぶった東雲の斬撃の音を見落としていた。 琵琶法師が避けようとした場所に東雲の刃が一瞬早く切り裂く。 「そんな馬鹿な――」 鋭利な刃が琵琶法師の脇腹に突き刺さっていた。すぐにセラフィーナがその場を離脱して涼子がトドメとばかりに弾丸の雨を降らす。琵琶法師は為す術もなく砂浜に倒れた。 ●覚束ない足元 「さてと……ボクは海の部隊のほう担当ですねっ。よろしくお願いしますっ!」 離宮院 三郎太(BNE003381)は皆に向かって叫んだ。砂浜で義弘達が鬼の双剣を抑えている間に翼の加護を受けた三郎太達が海岸線へと一気に飛び越える。 海の亡霊たちは次々に砂浜の元へと刻一刻と近づきつつあった。鬼の双剣の大将を援護しようとして遠距離から弓矢を構えて一斉に放ってくる。 「例の騒動のおかげで厄介な事になったものだね。サムライの怨霊達には再び眠りについてもらうよ」 エイプリル・バリントン(BNE004611)が船団に向かってアッパーを放つ。砂浜のリベリスタに攻撃が向かないように自分のほうへ攻撃を惹きつけた。エアリアルフェザードを巻き起こしてエイプリルは懸命に敵の攻撃をしのいでいたが、周りを囲まれてしまい、ついに逃げ場をなくしてしまった。 容赦の無い苛烈な弓矢の弾幕を浴びてエイプリルは海へと墜落してしまう。そこへ三郎太がすぐに駆け込んで何とかエイプリルを海から引きずり出す。すぐに回復を施しながらやってくる敵に対しては無数の糸の攻撃を放って近づけさせない。 長い髪を束ねて船団を睨みつけると、アズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)は、インパクトボールを狙いすまして投げつける。船に着弾して大きく揺れ動いた。武士たちが慌てるようにして船にしがみつき戦闘どころではなくなる。 「洋上でのこの衝撃は味わったことがないだろう?」 アズマは必死の敵の表情を見て不敵に笑う。 「強くはないとはいえ、戦場に置いては、数が質とも言えるからの!」 海岸線に留まっていた『滅尽の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)が頃合いを見計らって大きく息を吸って魔術の詠唱を唱えた。その瞬間に、猛烈な火力の炎弾が両手から放たれて武士たちが乗っていた船に襲い掛かる。 船はすぐに回避することが出来ずにシェリーの圧倒的な火力の餌食になった。瞬く間に船が真っ二つに割れて武士たちが海へと放り出さる。 武士たちは悲鳴を上げながらそれでも泳ぎながらこちらに向かってくる。アズマは大業物を振りかぶって真っ直ぐに突っ込んだ。 「ふ、その装束で海に落ちてはさぞ動きづらいことだろう!」 アズマは不敵に笑うと、迫ってきた武士たちに向かって大業物を振りぬいた。大きく腕のバネを活かした一撃は武士たちの鎧を粉々に破壊した。 「ふ、この現世にて武士と切り合えるは重畳。 だが、貴様ら雑兵程度に負けるようなアークではない!」 斬られた敵はそのまま海の方へと押し返されて波の間へと消えていく。 「“足”がおぼつかなくては、良い的じゃぞ?」 再び這い上がろうとしてくる敵に対してはシェリーが再び火を噴いた。猛烈な火力に巻き込まれて海の部隊は壊滅して上陸する前に海の藻屑と消えていった。 ●闘いの中で 海の部隊がエイプリル達の身体を張った奮闘でおおかた片付いた所で、アズマは砂浜の部隊で勇猛盛んに戦っている長槍の武士に襲い掛かった。 「待たせたな! オレの名はアズマ、推して参る!」 一気に長槍の武士に近づいて大業物を振りかぶった。敵もリーチの長い槍を振りかざして風刃を作って対抗してくる。だが、アズマは後退しなかった。攻撃を受けるのも構わずそのまま敵の間合いに踏み込んで勇猛果敢に迫る。 「この命知らずが! 微塵切りにしてくれる!」 長槍の武士は渾身の力でアズマを切り裂いた。鮮血が辺りに飛び散って、アズマは力尽きたように一瞬、砂浜に倒れこんでしまう。 「戦いはもう、何百年も前に終わりました。ここにはもう、貴方達の敵はいません。それでも武器を手に取るというのなら、私が相手です!」 アズマが倒れこんでいるのを見てセラフィーナが叫んだ。瞬く間に敵の元へと掛けつ来て刀を斬りつける。その隙に沙希がアズマの元へ駆け寄って介抱した。すぐに三郎太と協力して後ろへと下がらせる。 「回復はボクにお任せくださいっ!」 三郎太は沙希と必死になって回復を施す。 だが、アズマは目を覚ますとすぐに前へと飛び出した。 セラフィーナが上から攻撃して気を取られている隙に、アズマはお返しとばかりに下から猛烈に迫って体ごと前に飛び出して刀で渾身の一撃を繰りだす。 不意を突かれた長槍の武士は悲鳴を上げた。両足を斬られてまともに立つ事が出来なくなって地面に膝をついて動けなくなる。 「戦いの中で、今度こそ終わらせてあげます!」 セラフィーナが跳躍すると技巧を尽くした剣先を軽やかに捌いて、敵を魅了するように喉元へ突き刺した。長槍の武士は絶命して地面に崩れ去る。 仲間が次々に倒されて義弘に抑えられていた鬼の双剣の大将がギアを上げた。義弘を蹴り倒すと前にいた涼子を一方の剣で攻撃を抑え込み、片方の剣で涼子の身体を切り裂く。 突然スピードを上げて攻撃してきた鬼の大将に砂浜の部隊は苦戦する。 「……どうした、わたしはまだ生きてる。 そんなしけた攻撃で、この命を貫けると思うな!」 だが、血まみれになりながらも涼子は絶対に屈しようとはしなかった。すさまじい攻撃を続けざまに受けて立っているのもやっとだったが仲間の援護を信じて歯を食いしばる。その時、後ろからシェリーやエイプリル達が駆けつけてきた。 エイプリルが風刃を巻き起こして大将の足止めをする。鬼の大将は次第に数を増して戦ってくるリベリスタの攻撃に押され始めていた。 (貴方達のもののふとしての在り方はずっと日ノ本で語り継がれてる。鬼武者ともあろう者が矜持を忘れ憎悪に目を曇らせてどうするの? 人々を呪い、殺すだけのモノは断じて武士ではない!) 沙希が念話を用いて大将に語りかけた。言葉がわかったのかどうか、大将は明らかに口も音を歪めて厳しい目付きで沙希を睨み返す。 「そんな小賢しい攻撃で己を倒せると思うな!」 鬼の大将は咆哮して風刃を双剣で薙ぎ払う。沙希に対しても明らかに敵意を剥き出しにして双剣を放ってきた。三郎太がそうさせまいと沙希を庇ってピンポイント・スペシャリティで激しく対抗する。 「敵は明らかに動きが鈍っていますっ! 皆さん今ですっ」 三郎太の叫びにリベリスタたちが一斉に頷いた。 「敵将と相打ちなら、悪くないじゃろ!」 シェリーが集中を込めて大将に向かって強力な火炎弾を放つ。半分ほど弾き返されて流石のシェリーも返り弾を受けて昏倒した。 だが、猛烈な攻撃に流石の大将も重傷を負った。なかなか前に進めずに苛立ちを募らせた所で、再び義弘がメイスで体当たりを食らわす。 「今こそ、侠気の盾の心意気を見せつけてやる!」 義弘が捨て身のタックルで大将の足元を崩した。そこへアズマが決死の形相で振りかぶりながら大将の懐へと飛び込んだ。 「後はお前だけだ。貴様の運命、ここで断ち切る! おぉぉっ!!」 アズマが振りかぶった刀を大将は受け止めようとしたが、渾身の一撃についに大将の剣が折られてしまった。衝撃を受けて大将が海へと吹き飛ばされた。 大将は雄叫びを上げながらついに海の中へと沈んでいった。 「末代まで必ず……呪ってやる……」 ●盛者必衰の夢 安芸の宮島の海は再び穏やかさを取り戻していた。すでに敵の姿はどこにも見当たらず、怪我をしたものは精力的に三郎太と沙希が介抱して回っていた。 「鬼の双剣は苦戦しましたが、何はともあれ皆無事で良かったです!」 三郎太が安堵の笑みを浮かべるとすぐ近くにいた涼子も一先胸を撫で下ろした。セラフィーナは自分が斬って捨てた琵琶法師のことを思い出して無事に成仏できるように最後まで祈りを込めて海原の鳥居の向こうを見つめていた。 鬼の双剣の大将は恨み言を言いながら最後は海の藻屑へと成り果てた。リベリスタ側にも少なからず損害が出たものの早い目に海の部隊を片付けたことによって最後は押し切るように大将達を苦しみながらも潰すことに成功した。 「崩界への進行が進むにつれて神秘事件は、苛烈の一途を辿っている。絶対に阻止せねばならん。過去の者が、未来を阻むでない」 シェリーは今回の事件が終わっても決して気を緩めることはしないと思っていた。これからも崩壊を目論む輩が出てくるだろう。その度に全力を尽くして、未来を自分たちが作っていかなければらないと決意していた。 砂浜には武士たちが残していった残骸が残っていたが、やがて海の波に攫われていつの間にか消えてなくなっていた。 (矜持を思い出して、貴方達が日ノ本の守護とならん事を……) 沙希も心のなかで死んでいった平家の武士たちに祈りを込めていた。 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす―――― 海の底へと消えていった琵琶法師達の声がどこからか聞こえてくるような静けさだった。『平家物語』の舞台にもなったこの地で果たして彼らは再び安住の眠りにつくことができるのだろうかと義弘は暗い闇の底を覗きながら考え込んでいた。 「盛者必衰、か。いずれ俺も死ぬんだろうさ。 無念の内に死んでしまったその気持ちは分かってやれんかもしれないが――武人としての心意気は、ここに置いて、見せつけていきやがれよ」 義弘は静かに手を合わせてやがて大鳥居に背を向けて立ち去った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|