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<アーク傭兵隊>デイブリンガー・ベル

●昏睡の町
 止まない雨はない。
 これは嘘だ。熱帯雨林では、雨が断続的に降り続く地域が存在していると聞く。一日の大半が雨に見舞われているのだとしたら、仮に一時的に収まったとしても、その時間帯を降雨と定義できないというだけのことだ。そんなのは決して晴れなんかじゃない。
 明けない夜はない。これも嘘だ。
 何故ならたった今、終わりのない夜を過ごしている最中なのだから。

 霧に覆われたノルウェーの朝は、いつの季節でも変わらず寒い。
 その寒さで目が覚めても、カーテンの隙間から覗く窓の向こう側には眠る前と同じ風景が広がっていた。
 瞳はすっかり暗所に適応してしまっている。
 一切の光が絶えた、常夜の町並。
 日射が大地まで届かないのだからますます寒々しく感じる。
 この時期、本来ならノルウェーでは終日太陽が沈まない白夜が観測されるというのに、どういう訳かその正反対の現象が起きていた。
 もっとも、この部屋も大して変わらない暗さだった。
 少しでも光を外に漏らすと逆に闇に呑み込まれてしまう。
 窓から明かりを漏出していた斜向かいの家に影が伸びていき、そのまま覆い尽くされていった光景を目の当たりにしてしまったからには、照明を点けるだなんていう自殺行為を出来る訳がない。
 それでも。
 それでも、現状を打破したい気持ちはあった。
 こんな鬱屈した気分で過ごし続けるのは真っ平御免だ。
 沈まぬ太陽を肴に飲むウォッカをどれだけ楽しみにしていたことか。買い溜めたアルコールを腹いせで飲み漁った結果、酒蔵の備蓄はとっくに切れている。
 今のまま自宅で塞ぎ込んでいても埒が明かない。要は発光する物さえ身に着けていなければ問題ないのだろう。財布片手に家を飛び出し、中央の街道を歩いた。この状況で店が開いてるかどうかは知らないが、最悪金だけ置いて持ち去ればいい。どうせ目撃するような人間もいないのだろう。
 大通りには多くの街灯が立ち並んでいるが、ひとつも点いていなかった。
 道路沿いの建物は、例外なく雨戸なりカーテンなりブラインドなりで閉め切られていて、外部と完全に隔絶していた。そもそも、照明自体碌に点灯していないのだろう。自分もそうしていたように。
 見渡しても通行人は他に誰もいない。
 そしてこの夜の空気。
 何もかもが虚しい。まるで町が死に絶えてしまったかのようだ。
 ――そしてすぐに、この通りを歩いている時点で、自らも死に行く運命にあるのだということを悟った。
 全ては突然の出来事。
 消えた街灯の柱に近づいた瞬間に、地面に落ちた影の中から得体の知れない異形が、いくつも、いくつも、いくつも、いくつも、止め処なく湧いてくることを、誰が想像できようか。
 前触れもなければ、余韻もない。
 後悔の時間さえ与えられなかった。
 悪夢はいずれ覚める――そんな慰めはまやかしだとでも、夜が嘲笑っているかのように。

●朝の運び手
「定刻に達しました。これよりブリーフィングを開始します」
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は腕時計と集まったリベリスタの顔ぶれをを確認後、慣れた手つきで電子機器を操作して、大スクリーンでのスライド上映を始めた。
「エリューションの出現区域はノルウェー。特質としては、町一帯を覆うスモッグが革醒したものです」
 地図から画像を切り替えると、上空を漂う雲めいた物体が表示された。濃い漆黒に染まったそれは、夜の化身のようにも見えた。
「仮に『暗雲』と呼ぶことにします。この『暗雲』発現の余波を受けて、町中に影型エリューションが跋扈していることが観測されています。太陽を遮っている障壁がある限り、それらが消えることはないでしょう。逆接的に言うと、太陽光さえあれば消えるみたいですが」
 通りを歩いていた男が影に引きずりこまれていくショッキングな映像が流れた。群れを作る影は曖昧とではあるが、人の姿をしている。だが映像を見る限りでは、顔を始めとした感覚器官を全く持たず、ただ戦うだけの機能しかない。手と足さえあればそれで十分、ということか。
「ですけど、このエリューション『暗雲』は厄介なことにあらゆる直接攻撃手段が通じません。所詮は形を持たない流動的な煙の集合体ですので」
 ただし、と人差し指を立てて付け加える和泉。
「『暗雲』が吸収可能な光の量には限界があるようです。それをオーバーした場合、保有エネルギー過剰で破裂することが予測されています」
 言いながら、ごそごそと革製のバッグから何かを取り出す。
「皆さんにはこちらのアーティファクトを支給しておきます。どうぞ」
 リベリスタ全員に、小型のコンデンサーのような機具が複数個配られる。
「この精密アーティファクト『グレア』は、照明機器等に作用して、格段にルクス、所謂照度を引き上げる効果を持ちます。こちらをメインストリートに並ぶ各街灯に装着し、『暗雲』の閾値を超える量の光を起こすことで、消滅を狙えるかと」
 これを今回の任務の中軸に据えます、と和泉は説明した。
「作戦コード名は『デイブリンガー・ベル』とします。至急夜明けを告げてきてください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:深鷹  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月26日(木)22:09
 深鷹という者です。よろしくお願いします。

●目的
 ★『暗雲』の完全消滅

●現場情報
 ★ノルウェー郊外
 都会でも田舎でもない平均的な市街地です。真っ暗。
 町の中央には街灯が並んだ大通りがあり、今では歩行者も車の交通もなく、自由に行動できます。
 街灯は全部で37本ありますが、現在は信号機なども含めて電力の供給がストップしています
 大通りを進んでいくと次第に道が細くなっていき、突き当たりに街灯のコントロールパネルが置かれた送電塔があります。
 住民達は常夜と化した町を恐れて外を出歩かないようになっています。更に下記の理由により、遮光カーテンや雨戸を閉めたり室内の照明を点けないなどして、光を外に漏らさないようにしています。
 作戦開始時刻は最も陽が高くなる時間帯を予定しています。

●敵情報
 ★『暗雲』
 上空を覆うスモッグがエリューション化したものです。
 太陽光を遮断し、街に暗い影を落としています。
 この影は『暗雲』の影響を受け、特異なエリューションの温床となっています。
 裏側からも強力な光を浴びせることで、吸収できる光の許容量を超えて霧散します。

 ★E・エレメント ×∞
 影の中から湧き出てくるエリューションです。影法師の姿をしています。
 僅かにでも光を感知するとそちらに向かい、自らの体を用いて黒々と埋め尽くし、光源を絶やします。
 この習性のために、当該地区には明かりが全く存在しなくなっています。
 影でいながら地表に出た時には質量があり、接触攻撃を仕掛けてきます。
 集団で襲ってくる上に、『暗雲』が存在する限り無尽蔵に出現するのでご注意ください。
 
 『タッチ』 (近/単)
 『デスタッチ』 (近/単/重圧)

 フェーズ1

●支給アーティファクトについて
 この依頼では各人に『グレア』というアーティファクトが渡されます。
 『グレア』は、何らかの照明装置に取り付けることで光を増幅させる効果を持ちます。
 大通りにある全ての街灯に『グレア』の設置が完了次第、電源を入れに送電塔に向かってもらいます。
 ただし街灯付近や送電塔内部には多くのE・エレメントが出現します。
 電撃系統のスキルを街灯に向けて使用すれば、一時的に発光させることが可能です。
 光は非常に強いので気をつけてください。



 解説は以上になります。
 それではご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
アウトサイドソードミラージュ
閑古鳥 比翼子(BNE000587)
ノワールオルールナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
メタルイヴプロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
ジーニアスアークリベリオン
マリス・S・キュアローブ(BNE003129)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)

●深き夜帳
 闇に塞がれた雲の向こうに、当たり前のように光溢れる空が広がっているとは、到底想像し難かった。
 永劫の夜が続くノルウェーの小町。
 そのメインストリートに、体温を伴う人の気配は感じられなかった。明かりの潰えた街灯だけが、ぼんやりと立ち竦んでいるだけである。どこかゴーストタウンじみた殺風景。活気のない、眠りこけた町だ。
 突入したリベリスタ達が最初に抱いた感想は、そういったものだった。
 同時に、沸々と使命感が湧き起こっていた。こんな寂れた景色は逸早く終わらせなくてはならない。
「天を遮る暗い雲――許し難い存在です。お日様の暖かい光、凛と輝く月や星の美しさ……そういった掛け替えのない素晴らしさを、この土地から奪っているのですから」
 ノートパソコンに寄せられた送電塔の電力状況、及び通電経路に関する情報を纏める『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)の口ぶりには、とりわけ、確固たる決意が宿っていた。今にも泣き出しそうな潤んだ瞳の向こう側に、揺らぎのない芯の強さが透けて見えた。
「スイッチを入れると、地下に埋められた電線を通じてほぼ同時に点灯するみたいです。急いで準備を完了させましょう」
 彼女達の手中には、夜に終焉を告げる兵器がある。
「取り付け方はこれでいいのかな……」
 それは、本当にちっぽけなコンデンサーだった。しかしこの小型アーティファクト『グレア』と、リベリスタ一同の懸命な活動こそが、この町を包む不穏な暗雲を晴らす鍵になる。
「……よし。まずはひとつ、と」
 『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)から授けられた神秘の翼を存分に駆使し、空中より飛来して一基目の『グレア』の街灯ポール最上部への設置を完了させたのは、『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)。
 街灯の根元には、無数に蠢く影がある。気取られないようにと注意を払っていたが、この話に聞くE・エレメントは街灯に接近しただけで発生するらしい。
 不意の光を反射してしまう事態を案じて、得物を幻想纏いに収納していたために、現在の彼女は無防備。
 それでも、不安もなければ狼狽することもなかった。
「俺の仕事だ。作業の手を止めてまで構う必要はない。少し散らすとしよう」
 二丁の拳銃を握る『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が、街路樹や植え込みに向けて小さな火を放ち、その焚きつける光でE・エレメントを誘導させているからだ。
 炎はまた、掃討手段にもなる。淡い輝きを帯びたエボニーとアイボリーの銃身を交差させて、高熱を封じた弾丸を矢継ぎ早に射出。篝火の明かりに吸い寄せられた影の群れは、その光を食い荒らすどころか、逆に焼き尽くされることとなった。
 即座に広がった火は、その揺らめく身体で覆った有機物が灰燼に帰されると、驚くほど呆気なく、痕跡も残さずに消え去った。さながら嵐のように、一瞬の激しさだけが駆け抜けていった。
 容赦ない大火力の連発には、櫻霞の背に隠れた櫻子の支えあってのものだった。敵の所在を正確に把握する必要のある全体一斉射撃は、心身共に負担が大きく、本来ならば易々と乱射し続けることは出来ない。櫻子が魔力分子を分け与えてくれているからこそ、懸念なく戦闘に専念できる。
「櫻霞様、お疲れではありませんか? 私に何か手助けできることがあれば申しつけて下さいね」
「不平は全てが済むまで口にしない。俺は俺の責務を果たすだけだ」
 間断なく撃ち出される銃弾。

「それに、今でも十分に助かっている。頼りにしているぞ」

 振り返ることなく、しなやかな背中越しにヴァンパイアは答えた。
 櫻霞が前に立って敵の数を減らしてくれるのだから、その隙を見計らって自分がアーティファクトの設置を行えばいい。それが信頼に基づく共同作業というものだ。櫻子はなんとなく、胸の高鳴りを覚えた。
「まったく熱いのは火だけにしてほしいわね。ほら、目を逸らして! 一本光らせるわよ!」
 高速で飛行し、持ち前の速度を活かして手際よく『グレア』の取り付け作業に当たっていた『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)が、街灯に向けて一条の紫電を走らせる。活性化させた桿体細胞の働きにより、闇夜であっても過不足なく辺りを見渡せ、照準を定めることが出来る。
「やっぱ、暗視って便利よね……良く考えたら日常生活でもいろいろ役に立ちそうってことに今気づいたわ」
 それにしても。街灯の様子を見遣るソラは思う。
「明るさ半端ないわね。使用の際はこちらも気を付けないといけないみたいだわ。やれやれ、これが何十本分必要だなんて、面倒くさい雲だこと」
 アーティファクトの作用により格段に明度が増幅された街灯は、凄まじい発光を起こしていた。近距離でまともに目視したら、角膜をやられかねない。
 ただそれだけに、光を貪るE・エレメントを引きつける効力も絶大だった。ソラが光らせた街灯目指して一心不乱に大群の影が移動を始めていた。当然ながらその間、他の街灯の守護が手薄になる。
「『グレア』の設置が捗る、ってわけだね!」
 眼球を焼かれないよう、掛けていた暗視ゴーグルを一旦額にまで上げて作業に臨む『ツルギノウタヒメ』水守 せおり(BNE004984)。せおりもまた、自在に動けるよう翼の加護を受けている。
 けれどアンジェリカのように、武器を隠すといった配慮をしているわけではない。むしろ積極的に交戦を仕掛けて、抜刀で起こした衝撃波でエリューションを吹っ飛ばしていた。無論自分の適性に応じた効率を考えた上で取った行動ではあるが、異形との戦いに対して感じている恐怖心を紛らわせるための、せめてもの抵抗でもあるのかも知れない。
 強烈な発光がようやく収まった。集まっていた影は再び、街灯周辺のアスファルト中へと沈んでいった。
「なんだか夏の夜に明かりに群がる虫を彷彿とさせるわね……ともあれ、これは使えるわ」
 着々と作戦は進められていく。

●微かな瞬き
 作業が長時間に渡り、疲労の色が浮かび始めた頃。
 殊更に張り切っているリベリスタがいた。
「デイブレイカー・ベル! まさしくあたしが主役の作戦!! だから目立つ! 目立たいでかー!」
 エリューションの近接攻撃が届かない高度を保ち、両腕の翼を大きく広げて中空を駆けているのは、『D-ブレイカー』閑古鳥 比翼子(BNE000587)。
 その称号が示す通り、夜明けをもたらすといったドラマチックな趣には結構な拘りがある。
「……ん? なんか違った気もしてきたな。まあいいか。さーこっち来いこっち来い」
 細かいことを気にする性質ではない。引き続き羽ばたいて地上の敵からの注目を集める。
「どうした雑魚めがー! ふははー! 悔しかったらあたしに追いついてみせることだ!」
  挑発と合わせてE能力を用いて全身から眩い光を発することで、エリューションが持つ習性を刺激し、ぞろぞろと自分の元へと引きつける。仮に連中が堆く積み上がるなどして手を伸ばしてきたとしても、自慢の瞬発力で全て避けきる腹積もりだ。
 もちろん、合間を見て街灯に止まり『グレア』を取り付けることも忘れない。休息にもなる。
 次第に、比翼子の辿る道筋の下には、蛇めいた影人形の列が為されていった。
「経路確保、しなくちゃだね」
 ソラが起こした雷を起爆剤にした刹那的な光から硝子の瞳を守っていたサングラスを、そっと暗視ゴーグルへと付け替えて、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が電子世界へのアクセスを始めた。
「この道は送電塔へと続く道。私とみんなが進む道なんだから、開けてもらうよ」
 両腕に装着した演算機器『オルガノン』のディスプレイは緊急事に備えて予め消灯されている。アーティファクトの機知に頼らずとも、標的との距離、それを基準とした発射角度を算出するのはお手の物だ。
 指先をぴんと伸ばし、極めて精密に放射された気糸は、鮮やかな蛍光色の直線軌道を描いて、E・エレメントの集団を立て続けに貫いていった。
 ただ不都合にも見舞われた。闇を割いた気糸を光源と判断したエリューションの群体が、腐乱したゾンビのように気味の悪い挙動で蠢きながら、出所である彩歌の元に襲い来たのである。
 だが、決してその魔の手が彩歌に及ぶことはなかった。剣を正眼に携えたマリスが距離を一気に詰めて移動し、彩歌の前面に立って敵の接近を防いだのだから。
 先頭のE・エレメントを柄打ちで崩れ落ちさせて足止めを喰らわせ、後方に溜まった連中ごと、巻き起こした波動の衝撃でまとめて弾き飛ばす。
「本能に忠実、まさに下等生物だな。厄介なのは数だけだ」
 引き離されたエリューションの群れは、櫻霞が焚き上がらせた浄化の炎の餌食となっていった。
「火なら負けないよ! 人魚だからって、水だけかと思ったら大間違いなんだからね」
 送電施設へと続いていく通路には、闇夜という名の楽園にしがみつこうと足掻く執念が特に深いのか、輪を掛けてエリューションが大量発生している。
 その様を鋭く嗅ぎつけたせおりは、蒼々と燃え盛る烈火を己の身に纏って、果敢に突入。
 爛々と輝く蒼炎に引きつけられたエリューションを、その蒼炎をもってして、片っ端から散らしていった。
「さあ、明けない夜の終わりはもう近いわ! 箱舟が切る舵は止められないよ!」
 拓かれた道と、その先にある送電塔を見据えながら、太刀を高々と掲げて皆に発奮を促した。

「ヒュー。やるなぁ。危ないところだったよ」
 口ではそう言うが、電脳世界の使者は汗ひとつ流さず、涼しい顔をしていた。
 マリスは微笑みながら彼女に作戦の進捗状況を伝える。
「現在二十八本の街灯に『グレア』が設置されているようです。後少し、頑張りましょう」
「了解。もうひと踏ん張りだね」
 彩歌が天を仰ぐ。相も変わらず、町の上空は淀んだ黒雲が一切の隙間なく覆っている。
 眺めているだけでも陰鬱な気分になる。この不愉快な現象がずっと続くだなんて、そんな不吉な結末は考えたくない。即刻晴らしてしまわなければ。
「見ててね、おかあさん……あたしだって立派に日の出を届けてみせるからー!」
 見上げる彩歌の視界を横断して、夜明けを告げる鐘のように快活な、宙を行く比翼子の声が響いた。

●黎明を呼び覚まして
 全ての街灯への機器装着が完了した時には、既にリベリスタの間に困憊の気配が広がっていた。
 何せ、倒しても倒しても無限にエリューションが湧いてくるのだ。放置できるのであればそれが最善なのだろうが、進路を塞いだり、作業を妨げてきたりで、完全に構わないで済ませることは難しい。
「痛みを癒し、その枷を外しましょう……」
 局面も終盤。慈愛に満ちた治癒の法術を施して、なんとか味方全員の疲労回復に努める櫻子の助力を頼りに、一行は気力を振り絞って最後の大仕事へと向かう。
 徐々に大通りの道幅が狭くなっていくに従って、人型に象られた影の数は増していく。
「ほれ、あっちいけ」
 一旦発光を止めて、投げたライトを囮に建物の入り口近辺の敵を払いのける比翼子。進入経路を確保して中に入っていくが、アンジェリカただ一人だけが、皆の背中に続かなかった。
「送電塔前の敵はボクが引き受けるから、早く電源を入れてきて。大丈夫。この町に光が戻ったら、こいつらは消えるんでしょ? それまでなら、ちょっとの時間くらい稼いでみせるよ……」
 少女は踵を返した。
「ボク達が光を持ってお前達を駆逐する。邪魔はさせないよ!」
 取り出した大鎌の柄を固く握り締め、鈍色に煌く刃を振りかざしながら、覚悟を決めて仁王立ちする。
 残る七人はしばし顔を見合わせた後、アンジェリカを信じて足早に先へと進んだ。いずれにせよ、時間は有限。決断ひとつひとつに躊躇っている暇はない。階段を駆け上がる足にも力が入る。
 ヒュウという、風を裂く涼やかな音色が階下から聴こえてくる。恐らくは、アンジェリカの真空の刃が、迫りくる影の一団を次から次に切り刻んでいく音だろう。
 真っ暗な送電塔内部にもまた、多数のエリューションが犇いていた。
「本当に、最後まで……厄介な奴らだよ」
 傷が深手に至らぬよう、なるべく櫻子の視野内に収まるように位置取りして、押し寄せるE・エレメントの掃討に当たるせおり。勇猛と、蛮勇は似て非なるものだ。突出し過ぎれば取り返しの付かないことになりかねない。その点は弁えている。
「アークリベリオンは守ることが仕事だもんね! マリスさん! 彩歌さんをよろしく!」
 始祖伝来の神刀『瀬織津姫』を意のままに振り回し、マリスと彩歌が歩むべき道を斬り拓く。
「送電を司るコンピューターと自在にアクセスできるのは彩歌だけだ。急げ!」
 建物内での着火は危険と判断したか、実弾での射撃に切り替えた櫻霞も同様に、彼女達の更なる前進を促した。消耗した体力は己の背後にて守る櫻子が癒してくれるとはいえ、得意の範囲射撃を封じられている以上、余り予断はない。
 同じアークリベリオンであるせおりの意気に応えて、マリスは秘めた決意と共に彩歌の手を引き、形ある影の群集を掻き分けていった。
「行ったみたい、ね。やれやれ、大詰めなのはいいけれど、少しは遠慮してもらいたいものね」
 無尽蔵に湧き出る雑魚の群れを前に溜め息を吐きながらも、愛用の魔術書を片手に持っている以上、小さな教師から戦意が削がれるようなことはない。
「電力施設なんだし、この程度の高電圧に耐えられないだなんて情けないことは言わないでよ」
 迸らせた稲光は、今度は純粋な殲滅手段として、エリューションの頭上へと落とされていった。

「うん――リンクに不備なし――残留電力は十分、送電停止コードもなし――」
 発見したコントロールパネルを速やかに叩きながら、一意専心に電子の妖精は操作をこなしていく。
「これで大丈夫……のはず。確か、同時に点灯するんだったよね」
「はい……その通り、です。ハァ、ハァ……すみません、ちょっと、ハァ、呼吸を整えさせていただきます」
 ここに至るまでに、一体どれだけのE・エレメントを押しのけてきたことだろう。大きく肩を上下させるマリスだったが、今は満足に任務をやり遂げたという達成感のほうが情動の多くを占めていた。
「夜明け前が一番暗い……悪い状況は終わる前が一番苦しいって意味の言葉だね。疲れ切って、凄く苦しくて、もう限界だって感じるようになったら、終わりの時はすぐそこってことだよ」
 最後の操作を終えて。
「ちょうど、今みたいにね」
 万感の想いで、彩歌はキーを強く叩いた。
 
 彩歌がコントロールパネルから指を離した瞬間には、送電塔のガラス窓の向こうに広がる町全体に、いっそ神々しいとさえ思わされるほどの、白熱した光が満ち溢れていた。

 極大の光は、夜明けを知らせる希望となって、絶望を示唆する暗雲を払い飛ばした。

●デイブリンガー・ベル
「太陽の輝きは、全てを照らすのだ!」
 綺麗さっぱりスモッグが消え去り、本物の太陽の光が差し始めた町の風景を上機嫌で眺める比翼子は、堪らず大笑いしてしまった。最高に爽快な気分だった。
 明けない夜は、終わったのだ。
 もうこの北欧の町を不気味な影が我が物顔で闊歩することはない。
「お仕事お仕舞いなのですにゃ~♪」
 と、文字通りの猫撫で声で櫻霞に抱きつき、尻尾をゆらゆらと振りながら甘えてみせているのは、櫻子だ。
 張り詰めていた緊張感と陰気臭さが去った後で、思わず、最愛の人に甘えたくなったのだろう。
「櫻霞様、お疲れ様です。帰ったら紅茶を淹れますね♪」
「そうしてくれるとありがたい。それにしても、久しぶりに面倒な相手だった。数の暴力が如何に面倒かを知ったな。流石に疲れた」
 櫻霞は華奢な手を櫻子の頭にぽんと乗せ、労わるように優しく撫でた。自分が心置きなく全力で戦闘に臨めるのも、櫻子のサポートあってのことだ。その貢献度は、櫻霞自身が一番よく理解している。
「これで街の人も安心だね」
 ようやく訪れた平穏にほっとしたのか、皆と合流したアンジェリカは気持ちよさそうに、胸が弾むような陽気な曲を口ずさむ。
「いいね! 私もなんだか歌いたくなっちゃった。こほん、それじゃ、失礼して」

 願いよ風に乗り、鳴れ、夜明けの鐘。

 瞼を閉じて、肌で陽光を感じながらせおりが歌い上げる。
 清冽たる声で紡がれた旋律は、窓から流れて萌葱色のそよ風に乗り。
 そして広がりゆく晴れ間に溶けていった。




■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 依頼結果は成功です。お疲れさまでした!
 比翼子さんの回避盾に徹したプレイングが輝きを放っていました
 なお使ったアーティファクトは後処理班がこっそり回収したらしいです。


 それではまたどこかで。