●島型アザーバイド『無為島』 きっとどーでもいー部分になると思うので、依頼の趣旨をものすごく端的に説明する。 フィリピンの北東あたりに突如出現した出現した無人島を調査した結果アザーバイドであることが判明。 大体東京ドーム十個分くらいの広さをもつその島は、それまで影も形もなかったにも関わらず動植物その他の生態系がずっと昔から存在していたかのようにきちんと形成され、中央から島を東西に分断するようにそびえる山からはそれぞれ小さな川が流れ、海へと注がれている。専門家の話によれば、島という物体ではなく『地質学的生物学的環境の変化形態そのもの』がアザーバイドであるという。 ……と、こんな話を三時間近く延々と説明された『アークハーレム同好会』楠神風斗と『超銀河大守護神』新田快は、ぐらぐらする頭を支えながらディーゼルエンジンつきのボートに揺られていた。 「先輩。今回の説明、理解できましたか?」 「米麹を醸すには温度が重要だってあたりまで覚えてるよ……」 「最初の文字からしてもう間違ってますよ……」 風斗はフィリピン人ガイドの無茶な運転に酔い、快はフィリピン人女性の持ち出してきた謎の地酒を一晩中かっくらったせいで悪酔いし、二人とも今現在壮絶にグロッキーである。 「えっと、俺たち、何をするんでしたっけ」 「なんだったかな……確か『無人島で一泊二日すればいい』んだったよね?」 「その間俺たちは『一切のE能力を使えない一般人状態になる』んでしたっけ……」 「えっと、その……一定練度のエリューション能力者のフェイト性エネルギーをアザーバイドの生成する環境形態に二十四時間以上存在させることで変成し……麦汁を発酵槽にうつして酵母を加え糖をアルコールに変えるんだ。このとき出来た発酵液が」 「先輩、先輩! 途中から『もろみ』の作り方になってます!」 「ごめん、ちょっと昨日飲み過ぎたみたいだね」 「とにかく、俺たちは何も考えずに一般人技能だけを使って一泊二日のサバイバルをすればいいんでしょう。簡単ですよ! なんならテントも持ってきてますし!」 「食料やランプだってばっちりあるしね! すごいトラブルでもおきなければただのバカンスとかわらないよ!」 「「はーっはっはっ――おろろろろろろろろろ!!」」 で、その三時間後。 「しまった、トラブルだ……」 楠神風斗は頭を抱えて震えていた。 その後ろでバツの悪い顔をしてたたずむ『金髪巨乳デコ眼鏡は正義』アンナ・クロストン。 同じく『男か女かはこの際もう関係ない』犬束・うさぎ。 二人は顔を見合わせて、ここまでの経緯を思い出した。 意気揚々と島に上陸した彼ら『六人』は、まずは拠点探しをしようということで二グループにわかれて島を散策。その途中で奇妙な地鳴りが起きたかと思いきや、島に巨大な絶壁ができあがっていたのだ。 腕組みするうさぎ。 「ちょっと困りましたね。一般人程度の力じゃこの絶壁は上れませんよ。頑張って踏破してもいいですけど……うっかり落ちたら冗談じゃ無く死ぬ気がします」 「それに新田さんたちも壁の向こうなんでしょ? 案の定携帯電話も通じないし、完全に分断されたんじゃないかしら」 「まあ、あっちも大人がついてますし、何なら分断したまま一晩過ごせばいいでしょう」 「で、風斗。あんた食料はちゃんと持ってきてるんでしょ?」 「それが……」 風斗は青い顔をして絶壁を見上げた。 「新田先輩に全部預けた」 一方新田側。 「しまった、トラブルだ……」 絶壁を目の前にして、新田快は頭を抱えて震えていた。 その後ろでそろって足を肩幅に開いて腕組みをする『パンツはいてないから恥ずかしくないもん』星川・天乃と『センチメンタルグラフティ2ってどんな話だっけ』朱鷺島・雷音。 「一般人程度の以下略――」 「あっちには大人が以下略……ってなんなのだこれ!? 何を略したのだ!?」 「文章上の、重複?」 「文章!? しらないのだ! ボクはなにも知らないのだ!」 だいたいあっちには成人したかしないか微妙な風斗と未成年二人しかいないのだ! と言いながら、雷音は頭を抱えて震え始めた。 それを無視して話を進める天乃クール。 「でも、食料とかは持ってるんでしょ?」 「それが……」 守護神さんは青い顔をして絶壁を見上げた。 「全部船に置いてきた」 こうして、男女のダブルトライアングラーは無人島にほぼ無防備で一泊二日するというちょっと過酷でちょっぴりドキドキな任務を始めるのだった。 彼らの運命やいかに。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月18日(水)23:02 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 6人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●守護神サイド・昼 「うう、だいぶ落ち着いてきた……」 二日酔いからの船酔いというグロッキー状態にあった『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)だが、道具作りに没頭しているうちにだいぶ気分も和らいできた。 今はテントの片方バラして道具に作り替えている所である。頑張れば一晩野宿も不可能じゃ無い新田さんはともかく、小柄で細身な『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)や『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)を、この過酷な環境下に放置するのはまずい。 テントに籠もって24時間耐久体育座りでもしていればギリギリ耐えられないこともないが、無人島キャンプで遊ぼうと誘っておきながらその仕打ちはプライドが許さなかった。 なんのプライドかって、新田酒店のプライドである。 ……いや、それは嘘だ。今回はもっと、別の意図が。 「大丈夫か? 休んでいなくて」 手作りの釣り竿に、人型の影が被る。 顔を上げると雷音が見下ろしていた。 赤道近くの島だというだけあってラフなTシャツ姿である。前向きにかがむと色々危ない……が、新田はこてっちゃんとは違う。じっと目を瞑り、『今日の目標は無事故無違反』とタクシー運転手みたいなことを呟いた。 「もう大丈夫だよ。動ける動ける」 「そうか」 相手の気持ちを知ってか知らずか、雷音は前屈みのまま首を傾げる。 「今から木の実を取りに行くのだ。二人では不安だから、ついてきてもらえないか」 「勿論」 すっくと立ち上がり、雷音のあとについていく。 暫く歩くとなんだか妙にねじ曲がった木を発見した。 木の上に天乃が腰掛けている。 「新田。そこで、止まって」 「え」 「覗かれたく、ないし」 天乃は天乃でラフな格好をしているが、彼女のいう『ラフ』とは常人のそれを遙かに凌駕するものである。経験則でそれを知っていた新田さんは、再び『無事故無違反』と運送業者みたいなことを言ってくるりと天乃に背を向けた。 そうしていると、木の上からより縄で作ったビニール籠が下りてくる。中には棒状の翡翠色をした実が一抱えほど入っている。長さは10センチ程度だ。 「これは?」 「……バナナ?」 「いや、聞かれても困るよ」 フィリピンの北東だっていうからバナナくらいあんだろと思って島の内側に入ってみれば、見つかったのはそんなのばかりである。 ちなみにバナナは株分けしないと増えないので、よくコンビニとかに置いてあるバナナ(正確にはキャベンディッシュという)を育成するにはちゃんと人の手を加えないといけない。自生しているのはこういうちっちゃくて硬いやつのみだ。 その辺を雑学で知っていた新田さんは肩をすくめて『青い鳥バナナでも加工すれば食べれるよね』とか思ったが……試しに割ってみて引いた。 何に引いたかって、割った中身が青紫のまだら模様だったことにである。 「ごめん、なんかパナップみたいな中身してるんだけど……僕の直感が正しければこれ毒キノコの色合いだよね」 「でもこれ、木から生えてたし」 「木のどこに?」 「幹」 「キノコだそれ!」 新田さんはバナナもどきを慌てて捨てた。 落ちたバナナもどきをつついてみる雷音。 「うーん、こんなの見たこと無いのだ。ここ、フィリピンの近くだったはずだぞ?」 「冷静に考えるとフィリピン付近のわりに妙に涼しいしね。ここはただの島じゃなさそうだ。陸の食料は諦めて、海辺の魚介類を狙おう。流石に外海からの魚まで変質しないだろうし」 そう言って、新田さんはシャツの裾に手をかけた。 「水着は……ない。ボクサーブリーフはある。そう、全裸じゃない。だから大丈夫なんだ。背に腹は代えられないんだ」 新田さんは『無事故無違反』を心に刻みつつ、一路海へと向かった。 ●ハーレムサイド・昼 「女子を守るのは男の義務だ。それに年長でもあるしな。自然慣れしてないうさぎにも、インドア派のアンナにも無理はさせられん。俺が……俺が頑張らないと。大人として!」 『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)は『オトナァーッ!』とか叫びながら川に手を突っ込んだ。 するっと手をすり抜け、魚が下流へと泳ぎ去って行く。 「なんでだ! もう二十回は繰り返してるぞ、一回くらい成功してもいい筈だろ!」 「釣りゲームじゃないんだから、確率フラグなんてないわよ」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は枯れ木の先端を細くそいだものを川に突っ込み、びちびちした魚を突き刺した状態で持ち上げて見せた。 「川魚っていうのは驚くと石の下に逃れる習性があるから、追い込む形で刺せばいいのよ。銛漁の基本でしょ」 「え、そうなのか?」 「あんた学校で何習ってきたのよ」 アンナは陸に敷いた葉に魚を放り出すと、次の魚を狙って枝を構えた。 そこへ、茂みをわけてやってくる『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)。 「枯れ木と葉っぱ集めてきましたよ。これでいいんですよね?」 「横着して生木折ってないでしょうね」 「ええまあ。ていうかなんでダメなんです? 折った方が早いでしょ」 「生木は水分吸ってるから燃えないのよ。あと塩のほうは?」 「布を海水に浸して干すんですよね? やっときました」 「ご苦労様。じゃあこっち手伝って。あと三匹はとりたいの」 てきぱきと指示を出すアンナと、それに伴っててきぱき動くうさぎ。 最初は『えーじゃあコンビニでなんか買いましょうよ』とか言ってたうさぎも、この環境に早くも適応した様子である。『割り切る』という感情動作に関してうさぎほど卓越したやつはいない。 一方の風斗は岩にこしかけ『俺は大人だ。二十歳なんだ……』と呟きながら川の水面をぽちゃぽちゃやっていた。 遭難時なんかにゃよくある話だが、自然環境課ではロマンで動こうとする男に対して感情を殺して割り切りに走る女の方が的確に動けることが多い。うさぎが女かどうかはさておいてだ。 特に日頃から神秘を信用していないアンナの割とさばさばとした適応能力は、この環境に素早く対応していた。常識的な知識で乗り切れる現状のほうが、ワケのわからん神秘世界よりずっと楽だった。 「よ、よし。魚は二人に任せた。俺は周辺の見張りをしておく。帰りは当然先頭を行くぞ! 茂みをかき分けてだな……」 適当な棒を拾って剣のように構える風斗。 アンナはジト目で言った。 「川の中央にいる以上外的危険は無いわよ。あと帰りは川沿いを行くから、わざわざ足場の分からない草むらに分け入るようなことしないでよね。あと棒を剣みたいに振り回すのやめなさい。それは対人戦闘術であって大抵の動物には無力だから」 「あ、はい」 楠神風斗いらん子説、早くも急上昇である。 「じゃ、ちゃっちゃとやっちゃいましょ」 「ですね」 みるみるしおれていく風斗をよそに、アンナとうさぎは服をゆっくりと(あえてゆっくりと)脱ぎ捨て、三角形に組んだ枝にかけていった。 「ちょ、お前ら何をやってるんだ! 恥じらいってものをだな!」 「服を脱いでるんだけど?」 「脱衣シーン見ます? CG回想モードとかないんで、見とかないと損ですよ」 「見ない!」 二人に背を向け、両目を手で覆う風斗。 アンナとうさぎは肩をすくめ、顔を見合わせ、そして……。 獲物を狙うハンターの目で風斗を見た。 割り切っていける女の強みは、なにも無人島だけで発揮されるものではない。 ●守護神サイド・夜 ぱちぱちと燃える火を、天乃はじっと見つめていた。 目には火だけが映り、耳には枯れ木のはじける音だけが聞こえ、肌には炎の暖かみだけを感じている。 それ以外にはない。 ないことにした。 目を閉じて、再び開く。 「悪くない……悪くない、よ」 何も見えない。何も聞こえない。 すぐ後ろのテントには、二人が居る。 関係ない。 関係ない。 一方、新田快は迷っていた。 いわゆる背徳というものについてである。 新田快が朱鷺島雷音に向ける感情を、誠実に語ることは難しい。 誤解を恐れず言い表わすならば、16歳少女の弱みにつけ込んで接近し『責任とるから! 責任とるから!』と言いながら手を出した男である。 ……性的な意味では無い。他意はない。 が、快に存在する倫理観がそういう錯覚を生んでいることは事実である。いっそこてっさんみたいに『ロリ最高でござぁ!』とか言っちゃえばいいんだろうか。いやこてっさんはそんなこと言わないけど。むしろ『イエスロリータノータッチ』派だけど。 「快」 「ん、どうしたの雷音ちゃん。眠れない?」 背後から声をかけられて、快は閉じていた目を開けた。 眠れないもなにも、二人は今背中合わせに座っているところである。二人用のテントなのでそこまでくっつく必要はないが、ごく自然にこの配置になっていた。 「話し相手にならなれるよ。不安があるなら言ってごらん」 「不安……」 雷音は膝を抱え、顔を埋めた。 「飛べなくなった鳥は、こんな気持ちなんだろうか」 「……鳥?」 振り向かずに聞き返す。 「異能の力がないことが、こんなに不安だと初めて知ったのだ」 「そっか。雷音ちゃんは生まれつきだっけ」 「草木に話しかけても言葉が返ってこないのは、幾分かさみしい」 背中に重みを感じて、快は少しばかり黙った。 「寂しいときは人と話せばいい。みんなそうしてる。現に、今はここに俺がいるだろ」 「……うん」 やがて背中の重みは消えた。 「そろそろ時間なのだ。天乃と交代してくる」 テントを出る雷音に、快は何も言わなかった。 言えなかったのかもしれない。 雷音が出て行って天乃が入ってくるまで、暫く時間があった。 女同士会話が弾むこともあるのだろうか。快は邪魔をしないようにと自分の腕を枕にして寝そべっていた。 どのくらい経ってからだろう。誰が入ってくる音がした。目の前に寝転んだ気配がしたので目を開けると、至近距離で天乃と目が合った。 至近距離。 昼間に拾ったバナナもどきがギリギリ挟まるかどうかの距離である。 「天乃ちゃん……?」 「新田、身体大きいね。テントが狭い」 「あ、ごめん。今――」 どくから、と言おうとして言葉に詰まった。天乃が彼の腰に手を回し、身体を密着させてきたからだ。 目をそらす。 「えっと、神秘の力が使えないのは思ったより不便だよね。でもま、戦いで前を心配する必要もなくなるのかね」 「少なくとも、死にはしないだろうね」 天乃の腕に力が籠もった。 「ま、まあ、帰ったらいつも通りだ。だた俺と一緒の戦場で簡単に死ねるとは思うなよ?」 「私を庇って死んでくれるんだ。助かる、ね」 天乃は快の胸に額をつけて丸くなった。 その時彼女の震えを、快は確かに感じた。 星川天乃は非情な女だ。 自分が命を賭してでも助けたいと思っていても、勝手に自分を庇って死ぬような、非情な女だ。 もし戦火による別れが訪れるとしたら、きっとそんな形だろう。 そしてそれは、遠くない未来かも知れない。 「帰ったらいつも通り」 「ん?」 くぐもった声がして、思わず快は聞き返した。 「じゃあ、今はいつも通りじゃ無くていいの、かな」 天乃は顔をあげてキスをした。 どんなキスをしたのか、あえて述べないでおこう。 そのほうがいいだろうから。 きっと、彼女のためだろうから。 テントの外、たき火の前。 雷音は地面に片手を突いて、目を瞑っていた。 何も見えない、聞こえない。 「ボトムへようこそ。君も、小さな世界だったのか? こんな世界だが、よろしくだぞ」 ●ハーレムサイド・夜 眠れない。 この眠れなさには覚えがある。 「どうしました風斗さん。私と同衾(ね)るのは初めてじゃないでしょう?」 「誤解を招く言い方をするな。俺は童貞だ」 「そんな高らかに童貞設定を主張されましても。どうせ薄い本では何十人と抱いてきたんでしょ?」 「設定とか言うな! 薄い本とか言うな! お、俺がそんなことする男に見えるか!?」 「見えないですねえ。だって一向に手を出してきませんし」 一人用テントの中で、うさぎは風斗に絡んでいた。絡みついていた。物理的にも精神的にもである。いっそ性的な意味でと申し上げてもよろしいが、楠神風斗の名誉を守るために控えておこう。 「うさぎ、もういいだろ。交代の時間だ」 「チッ、命拾いしたな」 「命をとるつもりだったのかよ」 うさぎはのっそりと起き上がり、テントの外へと出た。 出て、新世界の神みたいな顔をした。 表情にテロップをつけるとすると、『ばかめ、本当のお楽しみはまだ先だ』である。もしくは『まだだ、まだ笑うな……』である。 顔を上げると、たき火の番をしていたアンナと目が合った。 「お次、どうぞ」 「ツヤツヤした顔しちゃって。じゃ、暫くよろしく」 アンナはうさぎとハイタッチすると、すれ違うようにテントの中へと潜り込んだ。 彼らの持ってきた一人用テントはいわゆる横長タイプ。重量1キロでハンドバックくらいのサイズにして持ち歩けるという便利グッズだった。テントというより『隙間のある寝袋』と言った方がいいかもしれない。 じゃあ二人で番して一人ずつ寝たらいいじゃないかと思った風斗だったが、夜間なって急に寒くなるというフィリピン付近とは思えない謎の気候変化に対応すべくアンナたちが提案した『寝るときは二人ずつ、凍死を防ぐ見張りの意味もかねて』という文句にほいほい従ったのだった。 話を戻す。 先程『潜り込んだ』と表現したが、このテントはそれこそ寝袋に入る要領で足からずりずり潜っていくタイプだ。 その都合上、風斗が最初に目撃したのはむき出しの生足だった。 その次に見たのがめくれ上がっていくシャツだった。 というか他にも沢山見たが、見なかったことにした。どうしてもその状況が知りたい方は、シャツだけを着て逆向きに匍匐移動してみてほしい。 「おいアンナ。上着はどうした」 「テントの上にかかってるわよ。こんな所に着て入ったらしわしわになるでしょ」 「それはそうだ――ガッ!」 アンナの『絡みつく』。 こうかはばつぐんだ。 (※風斗ランセルの『かたくなる』について数千文字を使って詳しくのべましたが削除しました) 風斗の『わるあがき』。 「アンナ。俺は背中を向けているわけだし、その……お前も背中を向けるべきじゃないのか?」 「そんなスペースあるわけないでしょ」 「くっ……!」 風斗は歯を食いしばり、耐えに耐えた。 徳の高いフッさんから教わった般若心経を脳内で唱えたり、ウラジのおっさんを思い出したりした。脳内のウラジさんが『性欲を持て余す』とか余計なことを言っていた。あと脳内忍者が『据え膳喰わぬは……』とか余計なことを言った。 ンな脳内格闘を続けること数時間。 「じ、時間だ! 交代の時間だ!」 もう我慢できねえとばかりに寝袋からすぽーんと飛び出す風斗。 「おや、風斗さん早いですね」 「早くない! 交代、交代だ! アンナと一緒に早く寝袋に収まれ!」 「はいはい分かりましたよ」 肩をすくめてテントへ向かううさぎ。風斗は前屈みになりながらたき火の前へとたどり着くと、座禅のポーズで深呼吸をした。 「大丈夫、よし、大丈夫だ」 自らを色んな意味で沈めにかかる風斗。 そんな彼の左右に、うさぎとアンナが張り付いた。 物理的にである。 「なっ、いつのまに……!」 「眠れないので、相手してくださいね」 「こっちは眠いけど、一人でいるのは寂しいのよ」 「わぁ、風斗さん硬くてふとぉい(筋肉が)」 「くうううっ……!」 ――翌朝、楠神風斗は座ったまま気絶していた。 ●合流 朝。迎えのボートに乗り込み、六人は島を後にした。 遠ざかる島を眺めそれぞれの想いに浸っていると、ボートの運転席から声をかけられた。 「皆さん、お疲れ様です。アザーバイドがフェイトを獲得しました。生態系も順調にノーマライズされています。作戦は成功ですね」 「……ん?」 キョトンとして振り向く雷音。 「島が、フェイトを獲得したのだ?」 「島というか、島をとりまく環境がですが」 「新田、どういうことなのだ。説明されてないぞ?」 「いや俺はちゃんと説明し……あっ」 新田さんは、途中からもろみの作り方を説明していた事実にようやく思い至った。 ならばと指を立てる運転手兼雑用係。 「環境アザーバイド、通称『無為島』は影響範囲内に生物体系を形成し、独自の進化形態を生成します。放っておくと神秘のガラパゴスと化すので、進化過程に人類を強制的に混入させ、その過程でフェイトを学習、後に何人かのモブリスタを滞在させてフェイトを吸収させるもくろみでした。まさか一日のうちにフェイトを吸収するとは思いませんでしたが、何かあったのですか?」 「「…………」」 アンナとうさぎはそれぞれ明後日の方向をむいて口笛を吹いた。 風斗は白目を剥いて気絶している。 「なら……」 その様子から何かを察したのか、天乃は再び島を眺めた。 「また来るのも、いいかもね」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|