● 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)からの電話連絡は中々厄介なものであった。 最近は市中で手合わせを願い出る剣林がいるのだと言う。無論、彼の目的はリベリスタ狩りか。己の力を高めるが為に有力なリベリスタを倒して居るという調べがついた。アークの側でも『任務に出たリベリスタが被害にあった』ケースが報告されている。 今回は別件の事だが、インターネット上で噂になっている肝試しスポットの怪談話――その正体となっている人喰いアザーバイドの撃破に向かったリベリスタが何の運命かそのフィクサードと出会ってしまったようだ。 万華鏡での予知ではフィクサードは『強力なアザーバイド』を倒すために訪れる……筈だったのだが。 『派遣して居たリベリスタのうち一人、顔が知れている子が居てね。 彼にフィクサードが得物を転換した見たい。ご丁寧にアザーバイドとの対話をして協定を結んでる。 剣林のフィクサードは我々アークのリベリスタを倒し、腹を空かせたアザーバイドへ餌を提供する。 アザーバイドからすれば強敵と闘いたい剣林がリベリスタを倒す事で腹を満たす事が出来る。 ……彼等は現状ではそんな協定を結んでいる。このままだと先遣隊の彼等は長く持たないと思うわ。 アザーバイドがアークとの戦闘で傷ついた剣林を食べて力を蓄えても困るし、そこに新しく一般人が訪れても困っちゃう……どちらへも対応お願いしてもよいかしら?』 強さを求めるとは、貪欲とは、沼の様だ、と世恋は言う。 沼は、大口開いて魚を飲みこむつもりなのだろうか。 ● 底なし沼は、いつも目の前にあった。 深みに嵌る感覚から逃げ出せずにいたのは自分だったのだろう。 強さを、と師匠(せんせい)は言っていた。無論、彼が直接教えをくれたのではなく勝手にそう呼んでいるだけではあるのだけれど――師匠はより強く、より逞しく、この世界の何よりも力を得るべしだとその意志を真っ直ぐに示して居た。 底なし沼は、手招いていた。 己が強く、逞しく、何事も切り裂く刃を手にしなければその沼は未だだと体を飲みこんでいく。 師匠の様な力が欲しかった。己の両手に力を込めても師匠には敵わないと嫌と言うほど知って居た。 貪欲なまでに欲せば欲するほどにこの力が足りないのだと自覚してしまうのだから。 沼は、目の前にあった。 その沼から這い出せぬまま剣を手に取り、その切っ先を向けた。 「お前、アークの?」 「だからどうした。こっちは任務の途中でね、手合わせしてる場合じゃない」 剣の先を逸らし、青年は首を振る。手練であろうか――少しは顔を知っている気がするが。 何にせよ、彼がアークに所属している男だと言う事は確かだった。 彼らは目の前のバケモノの相手をしている。バケモノは腹を空かし彼等を喰らう為に闘っているのだと、一目見て直ぐにわかる。何より飢えた様な瞳がわたしと一緒だったからだ。 『オマエハ――』 「わたしは強い奴と闘いたい。済まないが、君……手を引いてくれないか?」 バケモノは何と言っただろうか。信じられないと目を見開いたリベリスタが惑う様に切っ先を此方に向けている。 彼等にとっては『空腹』のアザーバイドを始末するだけの簡単な仕事だったのだろう。三人のうち、一人は弓を此方に向け長い耳をぴくりと揺らしているではないか。 「あ、あんた……正気!?」 「ああ、正気だとも。彼は了承してくれたよ。ほら、わたしたちの戦いを見ているではないか」 沼は、何時だって己の体を飲みこんでいく。 剣の錆となった青年の肢体を置き去りにそれよりも強い『誰か』を探し求めた。 「悪いが、わたしも止まってはいれなくてね。さて、次は君か……楽しませてくれるかい? ああ、言い忘れていた。わたしは剣林の鵜飼脩一。死ぬ前に覚えておいてくれ」 沼が、そこにあった。 師匠の求めた高みからの見晴らしはどんなものだろうか? |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月16日(月)23:03 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● インターネットでの噂は『幽霊屋敷に足を踏み入れた者は帰って来ない』というお粗末な噂だった。フォーチュナからの指示ではその場所にアザーバイドが巣食っており、それは人を食う為に討伐が必要不可欠になる――ということだった。 嘘、と少女は声を漏らした。三嶋夕衣に庇われる様に弓を構えたままで座り込んでいたジュジュはアザーバイドの姿に戦慄した様に目を見開いていた。 アークのリベリスタが派遣された先には彼らが予想だにしない『出来事』が待っていたのだ。人の考えは良く読み取れない。ここで、まさか、剣林のフィクサードが栗島鮎利というアークのリベリスタへと興味を向けるだなんて、彼女等は考えてはいなかった。 「嘘」 囁いた言葉に嘘だ、と返す声は無い。この侭あの厭らしい化け物に食べられてしまうのか。少女が目を伏せたと同時、彼女等の体を包み込んだのは夕衣が使う回復の術よりも更に高度な癒しの術。『全ての救い』とも称される高度な魔術による回復を得た少女リベリスタが顔をあげた先に『真夜中の太陽』霧島 俊介(BNE000082)が立っていた。 地面を最初に蹴ったのは普段は隠した翼を広げ浮かびあがった『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。ユーヌの手にはいつもと変わらぬ小型護身用拳銃と簡易護符手袋が付けられている。アザーバイドが夕衣、ジュジュを狙う手を殺すべく、その射線に達言った彼女に続き、持ち前のバランス感覚と勘を生かし剣林らの間へと滑り込んだ『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は果て無き理想を手に、剣林のフィクサードらを見据えている。 「……ほう……?」 剣林のフィクサード、鵜飼脩一の目がリベリスタ達へと向けられる。何れもが熟練のリベリスタであることは目に見えて分かる。緊張した面立ちのミリィは鵜飼とアザーバイドの顔を見比べて溜め息にも似た言葉を吐きだした。 「……嫌な組み合わせですね、本当に。 遅くなってしまい申し訳ありません。思う事はあるでしょうが、今はこの場から離れる事を優先して下さい」 向き直り、振り仰いだ先に立っていた『仲間』へと告げるミリィの声に、ジュジュの肩を抱いていた夕衣は恐る恐る振り返る。その視線の先に立っていた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は普段と変わらぬ笑みを浮かべて二人へと、まるでアークにいるかのように気軽に声をかけた。 「もう大丈夫、夕衣ちゃん、ジュジュちゃん、栗島を『連れて』下がって」 その言葉に少女達二人の視線は剣林のフィクサードの前へと倒れた己のパーティのメンバーへと向けられた。 地面を踏みしめて滑り込む夏栖斗に続き、『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は地面を蹴る。夏栖斗はジュジュと夕衣の安全を、そして猛は栗島の身体の確保を目的にしていた。 「栗島さんは……そう……」 ぽつり、と。言葉を漏らした『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の視線は少しばかり下げられる。だが、その程度でユーディスが動きを止める事は無いのだろう。長い髪を揺らし、カルディアを携えた彼女も夕衣トジュジュを護る様に剣林らの間へと割り込む。 栗島の遺体も同時に下げたい。そう考えるのはアザーバイドの特性と感傷の面もあるのかもしれない。 視線を向けるユーディスの眼前で猛の手が栗島の腕を掴む。引っ張ると同時、鵜飼脩一は「君」と気安い中であるかのように猛へと声をかけた。 ● 夕暮れの廃屋は心霊スポットと噂されるだけの趣を持っていた。奥に佇むアザーバイドの異様な雰囲気は大口を開けた――否、ぽっかりと口を開けたと揶揄されるようなトンネルを思い出させる。唾液に濡れた牙は得物を探し求めるかのようにリベリスタ達を見詰めている。 そんな異色の怪物を背後に置きながらも尚も平然と標的をリベリスタに向けている鵜飼に夏栖斗は両の手にトンファーを握りしめたまま、手をひらひらと振って見せた。 「今日はまた一段とご機嫌麗しいね。アーク追加オーダーだよ」 「名の知れた君達と相見えるだなんて光栄だ。先程の青年は名を知ってはいたが――あまり役には立たなかった」 己の力を確かめる相手としては栗島は役不足だったと切り捨てる様に吐き出した鵜飼に夏栖斗の指先が『魔女の作品』をぎゅっと握りしめる。仲間を殺された事を許せるほど、この場に居るリベリスタは薄情者ではない。嘲りを含んだ男の言葉に復讐心と言うものが沸き上がらない訳では、ない。 「……度し難いな」 肩を竦め、背後のリベリスタが後方へと退避する事を一番に考えたユーヌは拳銃の銃口をアザーバイドへと向けたまま、一言も発さずに厭らしい笑みを浮かべる巨体にあまり感情の読み取れぬ眸を向けて、閉じた。 剣林の思惑と言うものは何とも言えない。脳筋だ、と言ってしまえば、それは勿論侮蔑にも近い物はあるが、納得できる。彼等の考えに同調し、彼らの思う事を果たす義理もなければ、この場所で背後の大口を開けたアザーバイドの餌を用意してやる必要もない。 視線が夏栖斗に向けられている好きに猛は栗島の死体を抱え、後方へと下がっていく。だが、その背に向けて追い打ちをかけるかのように気糸が伸びあがる――それを見逃さずにユーディスはカルディアで打ち払う。 「仲間想い? そんな力にもならん事をして――アークは仲良し集団と言うやつかな?」 「仲間を思わずして何が力になるのでしょう……?」 果て無き理想(タクト)を振り翳し、ミリィは唇を噛み締める。幼い少女の長く伸ばされた髪が初夏の風に揺らされた。 その言葉は少女にとっての抵抗。指揮官として立ち回る事が多い彼女の、言葉の刃は鵜飼にとってはアークという存在へと意識を向けさせるだけだ。視線がジュジュや夕衣、そして死んだ栗島に向かないうちに彼等の退避を完了出来れば第一のミッションは成功したと言っても過言ではないだろう。 「――剣林、鵜飼脩一。これ以上彼女達には手を出させません」 カルディアの先が、鵜飼へ向いている。名を呼ばれた男の視線は、しっかりとユーディスへと向けられていた。柔らかな風貌の彼女の芯の強さはその双眸からしっかりと伝わってくる。 地面を踏みしめ、一歩進むユーディスを伺う剣林の視線はどれも厳しいものだ。臨戦態勢を作り出すのはリベリスタも同じだろう。 「闘いたいのであれば、私達がお相手致します」 はっきりと。淡々と言い切ったユーディスに剣林のフィクサードは唇を歪める。 両手に嵌めた指輪へと力を集める様に俊介は意識を払い、ジュジュと夕衣へと回復を与えながら、口の中で「糞みたいな世界だ」と吐き出した。 猛が確保した栗島の死に顔が余りにも胸を締め付ける様な気がして俊介は首を振る。同じアークのリベリスタで、任務で命を失う事が在るのは誰よりも分かって居た――つもりだった。 「走れ! 死に物狂いでコッチに来い! 生き延びろ!」 命を大事にしろと、吼える様に叫ぶ俊介の声にジュジュが咄嗟に立ちあがる。栗島の身体を抱えた夕衣を引っ張り後衛に立っている俊介を目指して走るその背中へとフィクサードが追い打ちをかけまいと攻撃を繰り出すが、それを弾いたユーヌは「話を聞く事もできないのか」と普段通りの毒舌を披露してみせる。 長い耳が、ひくりと揺れる。怯えの色を漏らしたジュジュが霧島センパイと俊介の名前を呼ぶのを見逃さない。 「こっちだ、早く――!」 「夕衣!」 傷つく体でも、リベリスタである彼女等は希望を捨てない。その姿は俊介の信念にも通ずるものが在るだろう。 栗島の投げ捨てられていた身体を思い出すたびにふつふつとわき上がる想いに、殺さずの信念が失いそうで、両手の指輪――両義の意味が均衡をとらず不安定を与えつけると言う指輪の、相反する二つの意味の様に、俊介は首を振った。 「この世界は、本当に……糞みたいな世界だ」 吐き出す言葉に、剣林が動きだす。力を以ってその言葉を伝えなければ彼らは『意味』を理解しないだろう。 鵜飼が動き出す足を止める様に、夏栖斗は鵜飼の前へと滑り込む。ナイフの切っ先を受けとめた漆黒のトンファーが緩く、揺らめいた。 「あんたと闘うのは吝かじゃない。けれど『あいつ』を倒してからだ。それからでも、遅くないだろ?」 「『あいつ』は生憎、同盟相手でね」 まるで仲間だと言う様に告げる鵜飼の背後で剣林らが訝しげな表情を浮かべる。地面を踏んだ剣林のフィクサードの身体を受けとめた猛は白銀の篭手に包まれた拳に力を込める。 「そんな表情しといて、ちゃんと戦えるってか? 戦う時はよぉ、目の前に居る奴から気ィ逸らしたら足元掬われるぜ! それとも、剣林はンな事すら忘れちまったのか? ええ? おいっ!」 「鵜飼さん、やっぱり……」 アザーバイド『魚芽』の怪しさが、不信感が、一気に盛り上がったのか。刃を握りしめたデュランダルは猛の言葉に身体を固くする。 仲間達へとクェーサーの知恵――指揮官として分け与えられるモノを全て、仲間達へと与えたミリィは俊介の許へと走り、その手を握る事が叶ったジュジュと夕衣の姿をしっかりと確認する。 「強さを求め、その想いに取り憑かれた存在(あなた)と、廃墟の主として人々を捕食し続けた存在。 ……その両者が何を考え、何を思うか等、生憎私の知識にはありません。それでも、やるというならば」 「ああ、僕は正義の味方(ヒーロー)だからね。悪役の考える事なんて、解らない」 夏栖斗の唇が震える。一か八かのハッタリを、吐き出すためにはこうして鵜飼と向き合う必要があった。 弟子たちを抑えるユーディスはそれをしっかりと分かっている。注意を向けられた剣林のマグメイガスが放つ四色の光りを避けた彼女は、夏栖斗の言葉を待つ様に、剣林をしっかりと見据えていた。 「あんたらの懸念は正解だ。あいつは裏切る。 僕らがやりあえば疲弊した所を狙われてあいつのいい餌にしかならないよ。 そのつもりだろ? 魚芽。お前に口約束を護る義理なんてひとつもないんだからな」 その言葉に、アザーバイドは開いていた口を閉じて――笑った。 ● アザーバイドは何も話しはしない。薄気味悪い笑みを浮かべたアザーバイドに弟子らは不信感だけを募らせていたのだろう。 鵜飼の反応が芳しくないなかで、ユーヌは肩を竦め魚芽へと嘲りの視線を向ける。 「涎を垂らして待てすら出来ないのか? 犬畜生以下だな」 くつくつと笑う魚芽の存在に、攻撃を仕掛ける鵜飼以外は誰も動きはしない。不信感だけを抱く中、鵜飼だけは「よく解らん」と目の前の敵(リベリスタ)だけを標的にしかけてきている。 「コレ、邪魔ですね? ――無粋な輩を始末して、水を指される事無く戦いたいと思うのですが、如何に?」 欲するならば、己が力で。それが剣林のフィクサードとしての動きではないのか。ユーディスの言葉に、ふと止まった鵜飼は肩を竦め、魚芽へと視線を向ける。 「裏切るのか」 『サア』 端的な、言葉のやり取りだった。 鋭い刃を思わせる気配がアザーバイドを刺す。それをリベリスタ達は好機ととっただろう。 地面をとん、と蹴ったユーヌが簡易護符手袋を嵌めた指先に力を込める。呪印がアザーバイドを封じ込め、次にミリィが地面を蹴る。大きな瞳が見開かれ、魚芽へ向けてプレッシャーを与え始めた。鵜飼が背後に向かわぬ様に立っていた夏栖斗は地面を蹴り上げ、直線状に魚芽の身体を傷つける。 誰もが食べらぬ様にと、そう意識を向けた夏栖斗を支援する様に俊介が呼びよせた癒しは剣林のフィクサードをも対象に含みだす。 「アーク……!?」 「剣林! 罪もない子を殺しておいて戦いが好きだかなんだかしらんが命を軽く見んのもいい加減にしろ! そんなに好きなら後で遊んでやる! フェアプレーだ! 分かってんな!」 俊介の声に、フィクサードが驚きを隠せないと視線を送る。大口を開けた魚芽の舌が伸びあがる。剣林に向けたそれを断ち切った鵜飼が「魚芽」と小さく呼んだ。 ヒヒヒ、と笑みを漏らす其れは腹を空かせている。やはり限界だったのか、口をぱっくりと開いた魚芽が望んだのは捕食した量によって己の戦闘力が上がる、その効果を得れる時だ。 「腹が減ったか? 存分に貪れ。逃げはしないさ、その餌は」 銃口が向けられ、一発、放たれる。ユーヌの背後から拳を固めた猛が顔を出し、一気に間合いを詰めてその体をひっくり返す。巨体が転がり、のたうち回る。 「勝者ですらない分際で、戦士を喰らおう等と烏滸がましい限りですね」 何よりも気に入らないのは戦う相手と、仲間を『食われる』事だ。養分にされるなど、堪らない。 放つ言葉と共に、ラストクルセイド。真っ直ぐに刺さるそれによりアザーバイドの動きが一気に戸惑いを覚え出す。剣林のフィクサード達も己が食べられる事には賛同しない。共同戦線というわけでもなかろうが、それに近い攻撃を繰り出すフィクサードとリベリスタ達。 怯えを孕むリベリスタを背に俊介はへらりと笑って、アザーバイドへと閃光を繰り出した。強結界は他の誰もが訪れない様に、という配慮。 俊介の献身の結果、ジュジュ、夕衣共に後衛での戦闘参加に望んでいる。前線で戦う夏栖斗はその事に安堵をおぼえ、真っ直ぐに魚芽の身体へと蹴った。持ち前のバランス感覚を生かし、巨体の上に乗り上がる夏栖斗。 振り下ろさんとする魚芽をユーヌは「注意力が散漫だな?」とくつくつと笑って見せる。引き込まれそうになる剣林を己へ攻撃相手を返させることでなんとか引き抜いた。 「つまらねぇ喧嘩してんじゃ、ねぇよ!」 男ならタイマン張ってナンボだろ、と猛が叫ぶ中、魚芽が大口を開く。安定したバランスがあったとしても、急な身体の変化にそこまでのバランス感覚が発揮できない。滑り落ちそうになるその体を浮かびあがったユーヌが掴み、隙をついて、ミリィが殺意の視線で射ぬいていく。 「無様ですね?」 囁きに混ざって繰り出された一撃に、アザーバイドの身体が泥の様に溶けて行く。 それが合図となった様に剣林は俊介を見詰めた。回復し、フェアで戦おうと言った彼は両の腕に力を込める。 「お前たちは闘いの中で死んでも良いって思ってんだろ? なら、追いつめても殺さないのが一番の敗北の与え方だ。 回復して帰る足をあげようか? 敵に生かされ、敗走しろ」 「強く、なりたいんだろ」 俊介が、夏栖斗が臨戦態勢を整える。 真っ直ぐに向いた先、鵜飼がにたりと笑みを浮かべていた。 「強さって深みだよな。精神まで、底に引き摺られてしまったら、それはもう只の化け物っていうんだよ!」 地面を踏みしめる。凍てつく極寒の鬼気を纏った美しい武技が繰り広げられる。ついで、小さく息を吐いた猛が真っ直ぐに拳を向ける。 「今度は真っ向からタイマンで来いよ、楽しい喧嘩なら受けて立つぜ?」 後方から攻撃を加えるマグメイガスの存在を是としないのはミリィの輝く神気。ついで、ユーディスの握りしめるカルディアが真っ直ぐに敵を貫いた。 「頭潰してキッチリ止めを刺す。満足か不満足か知らないがどうせ大して違いは無い」 嘲りを含め、ユーヌが手招く。其れに誘われるフィクサード達を逃しをしない様に猛が雷撃の舞を繰り出した。 攻撃の中で、フィクサードとリベリスタは削り合いになっていく。支える俊介、そして救出されたリベリスタ。 攻撃の手は両者共に緩まない。攻撃を食らえば、リベリスタ達は回復の手段を持っている。実力差もある。それ以上に、闘いの中で何を見出すかが剣林達には必要だったのかもしれない。 「お前が今戦うべきは、そこらの相手じゃねえ。てめえの敬愛する師匠とやらじゃねえのか?」 猛の声に鵜飼は小さく笑う。頭が悪いなら殴られて教えられてこい、と続けられた言葉に、それも悪くは無いと鵜飼は返す。 真っ直ぐに降り上げられた拳を受けとめた猛はじっと、鵜飼の顔を見詰める。 真っ暗な底から見上げる様な虚空の瞳に、猛は小さく笑うだけだった。 「頭の中まで菌行くか。ああ、筋肉が脳だと考えると頭が良いのか。粘菌並みの頭脳だな」 蔑むような言葉に、反応を返したマグメイガスを打ち払う様にユーヌは拳銃から弾丸を放つ。倒れたデュランダルを乗り越えたプロアデプトの気糸を打ち払ったユーディスのカルディアは只、敵を貫く事を目的とした様に振り翳された。 殺さない様に、殺したくない。気持ちが透けて見える俊介は手に力を込める。まだ、栗原以外誰も死んではいない。 「復讐は、しなくていいのか? 殺された栗原の為に!」 まだ、誰も。殺しちゃいない。 「ふざけんな! お前たちは許さない。けど俺は……俺はッ、殺人鬼だけには、なりたくないんだ」 甘えだ、と鵜飼が囁いた。勝つために生死を気にしてはいけないと男は虚空の瞳で告げている。 打ち払う様に首を振り、俊介が与えた回復を以って、夏栖斗が前へと特攻した。焔が鵜飼を包み込む。 タクトを振り、ミリィは鵜飼の顔を見詰める。 笑った男の手にある武器は未だに鈍い光を放っている。相対する夏栖斗に殺す意思はない。 殺さずとも、勝負の結果はつくものだ。あと、もうすぐ。 敗北を確信しながら強さを欲する姿は憐れなものだと少女は息を吐いた。 「貴方を、見ていてよくわかる。――貴方には高みではなく、水底がお似合いだと」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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