●いつかのモノローグ 戦う理由は、昔から何一つとして変わらない。 報われる事が欠片も無くとも、偽善だと嗤われようとも、自己満足だと誹られようとも。 それが誰かの為に。誰かの笑顔に、繋がるならば。 構わない。 それで良い。 それが自分の信じた道。 誰に何かを言われようと、違える事など決してない――たった一つの理想(ユメ)なのだから。 ●いつかのあの日 「もう大丈夫だ、お嬢さん」 遠い記憶。覚えているのは一つの背中。剣を構えた一人の紳士。脚を怪我して立てない少女を護る様に。視線の先には二人を取り囲むバケモノ達。牙を剥いて並んでいる。 大丈夫――? 紳士の言葉に少女は違和感を禁じ得なかった。この絶望的状況で、『大丈夫』? たった二人、少女は動けない、なのにバケモノはあんなにも。 殺されてしまう。きっと、食い殺されてしまう。 なのに紳士は悠然と微笑んで、少女へと振り返ったのだ。 「言ったろう、『大丈夫』と……。さぁ、希望を証明しよう」 刹那、煌いた剣閃。 少女の目に焼きつく剣の輝きは、正に希望の光。 また一つそれが輝けば、バケモノが太陽に照らされた夜の様に晴らされてゆく。 たちまちの、白昼夢の様な、出来事だった。 「怖かったね」 紳士は少女の前、しゃがみこんでその頭を撫でる。 「もしまた怖い目に遭ったなら、『希望』に助けて貰いなさい。いいかい、諦めてはいけないよ。絶望に負けては、いけないよ。いつも心に希望を持ち続けるんだ。いいね?」 ――今にして思えば。 その人もたくさん、たくさん、言われてきたに違いない。遭遇してきたに違いない。 「甘ったれ」「人生を舐めている」「偽善者」「綺麗事ばかり」「所詮は自己満足」「馬鹿馬鹿しい」「無様だ」「夢ばかり」「子供じみている」「気味が悪い」「現実を見ろ」「頭がおかしい」 救えない。護れない。無力感。何も出来ない。手を伸ばしても伸ばしても。出来ない届かない。 それでも記憶の中の彼は、堂々とした微笑を浮かべていたのだ。 数え切れない絶望に対し、希望という名の剣を突きつけて。 「……貴方の、名前は?」 「ガイ・マクレガー。――『希望卿』と、皆は呼ぶ」 ●今日のある日 その日、英国に一つのアザーバイド兵団が襲来した。 識別名『超鉄兵団』。英国の領土を喰らわんばかりの進軍。鉄、鉄、鉄。金属質な侵略の音。 「ここまでの数とは、いやはや」 事前調査によって派遣された6人のリベリスタ。彼らは今、大量の敵に取り囲まれていた。事前情報の段階では極僅かな敵数だったのだが、現場に来て戦闘が始まって幾ばくも経たない内に途方もないほどの数となって。 敵が今どれほどいるのか――文字通り、『数え切れない』ほどだ。包囲網は今も狭まりつつある。じり、とリベリスタ達は後退すれど、互いに背が合いもう下がれない。 「ガイ様――」 その中の一人がリーダー格である男へそっと目を遣った。勿論、不安と絶望をその表情に浮かべて、だ。 なのにリーダーときたら『いつも通り』、敵に剣を向けては悠然と微笑んでいて。 「ん? あぁ、ちょっと昔にあった事を思い出していた。あの時もこんな風に囲まれていたっけな……と」 「走馬灯ってやつですか、縁起でも無い」 「縁起でもない? 逆だね。私はラッキーの兆候だと、そんな気がするんだ。そう希望している」 「――見えた。あれだな」 対神秘用装甲輸送ヘリの中。外界を見下ろし『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が呟いた。 「これはまた随分と……『素敵な』状況のようね」 同様に視線をやった『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が皮肉交じりの溜息を零す。彼女の、そしてアークリベリスタの視線の先には、地面に空に蔓延る金属質なアザーバイドの集団だった。 「作戦としては、先に派遣された友軍と合流しつつ、敵勢力を疲弊させ『侵略を諦めさせる』事だな」 「先に折れた方が負けの泥臭い殴り合いね……面白そうじゃない」 作戦を再確認する『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)、己が手の中にある得物の疼きを感じながら妖艶と笑む『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)。 かのアザーバイド達はどこぞのチャンネルが侵略の為に送り込んできた兵団だ。それらを皆殺しにしろとまでは言わないが、リベリスタが粘り強く戦って食い止めて妨害する事でアザーバイド側に被害とデメリットを叩き付け、その侵略行為を諦めさせればリベリスタの勝利となる。 諦めれば即終了? ならば、諦めなければいい。 根性勝負、大上等。 ちょっとやそっとじゃへし折れないから、アークは『アーク』なのである。 目的地到達。グッドラック。支援部隊によって翼の加護が施され、降下開始。迫る距離。一直線。 斯くして戦場に降り立つ6人のアーク精鋭隊。そこは、取り囲まれた友軍達の丁度目の前。その背で彼等を護るように。 「お疲れさん! アーク部隊、見参!」 黒と紅のトンファーを構え、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)がいつもの快活な笑みと共に友軍へと振り返った。 「もう大丈夫ですよ、皆さん」 最中、友軍にかける声がもう一つ。 「さて――貴方は、『希望』していましたか?」 ちょっぴりからかう様に悠然とした笑みを浮かべて。視線だけを振り向かせ、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)。 少女の視線の先には、友軍隊のリーダーがいた。紳士然とした優男。少女の記憶と寸分も違わぬ、あの男が。 「ああ勿論」 ミリィと目を合わせた男、『希望卿』ガイ・マクレガーもまた、笑みを返す。 「『希望』していたとも。……良く来てくれた、方舟の諸君。さて、一生懸命頑張ろうか」 敵は膨大。数は未知数。 味方は小数。けれど何れも一騎当千。 覚悟は十分。士気も高揚。 ――負ける道理など、何処にも無い。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月13日(金)22:52 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●活路と希望 地に、空に、溢れんばかりの敵の群れ。ぐるりと取り囲む敵意。アザーバイド、世界の異物、倒すべき相手。 今の私にはこれくらいわかりやすい状況のほうが『丁度良い』――『舞蝶』斬風 糾華(BNE000390)はその紅瞳に映った光景に小さく口角を擡げた。 ふふ、と。笑んだ声。それが『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)と奇しくも重なる。 「なかなか素敵な戦場じゃない。惜しむらくは敵は機械だというところかしら。生身でしたらなお素敵な戦場でしたのに。ふふっ」 言葉を漏らしながらもリベリスタ隊は円陣を組む。その外周にて、『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は超鉄兵団をきっと見澄ました。 「お前達はその武力でこれまでどれだけの犠牲を重ねて来た? 覚悟をしろ。貴様らの魂に刻むが良い、俺達の希望の輝きを!」 張り上げられた彼の声。それに応えるよう、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)も砂蛇のナイフを抜き放つ。 「諦めなければ俺達の勝ち、か。なるほど解りやすい」 360度。どの道、この状況に退路はない。ならば道を前に切り拓く他に無かろう。 そして、なによりも。 「しぶとさにかけては、自信があるのさ」 多対小――今まで何度も通ってきた道だ。不安はない。相棒がいる、仲間がいる、希望がある。 そう、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は信じている。 「数が多ければ削ればいい、シンプルじゃん!」 敵は膨大、数は未知数? だから、どうした。戦場を捉える『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の双眸に恐れや揺らぎは欠片も無い。 (此処には、私達とあの人……そして彼の仲間が居るのだから) ミリィは円陣の内側。外側に立つ、『希望卿』ガイ・マクレガーの背中が見える。あの日と同じ、あの背中が。振り返る視線と目が合った。言葉は無い。ただ、交わされたのは一瞬の微笑み。応えるよう、ミリィもまた微笑んだ。 そう。恐れる理由も、負ける道理も、何一つ無い。 希望は常に、この胸に。 「――任務開始。さぁ、希望の証明を始めましょう」 その手に持つは象牙の指揮棒、果て無き理想。それが戦場に白亜の軌跡をなだらかに描けば、奏でられるは勝利の証明。狂おしいほどに伸ばされる執念の腕。希望への活路。夜の星へと手を伸ばす様に。逸脱せし理想。力強く、力強く。 ミリィが奏でたそれを切欠に、戦場が唸りをあげて動き出す。 おどろおどろしい機械の音。鉄の津波が、ちっぽけな人間を圧殺せんと襲い掛かる。 目に、目に、目に――振り上げられた凶器、向けられた凶器、降り注ぐ凶器。 恐ろしくは無い。身構えつつ夏栖斗は傍らのガイに視線をやった。 「あんたみたいな人がいるから、僕らもがんばれる。あんたにとっての希望にも僕はなるよ。期待しててよ」 「夏栖斗君だね。噂はかねがね聴いているよ――同じ言葉を君に返そう。君の様な者がいるから、私も頑張れる」 言下。雷光を纏い、閃き輝く光速の剣閃。その合間より一直線に、振るわれた棍が繰り出す飛翔する武技。超鉄兵団へ次々に、抗いの花を咲き乱れさせる。攻勢の華。虚ロ仇花。 「ミリィの恩人なのでしょう?」 ふわり、と。胡蝶の如く、ガイの攻撃の穴を埋めるように降り立った糾華が「なら助けなくちゃね」と希望卿に目を向けた。 「糾華君か。いやはや、アーク精鋭諸君とご一緒できて光栄だよ。時間さえ許せば是非とも話をしたいのだけれど――」 「えぇ、でも、お生憎様。『先客』がいるでしょう?」 言いつつ、糾華は告死の蝶をその指先に。 「行きましょう。絶体絶命の窮地に追い込まれに。死地には希望を、敵には絶望を、告死の蝶は告別の刻を……戦場を奏でましょう」 ひらり、ひらり、一匹、二匹。 少女の白い指先を離れた蝶が、戦場を揺蕩う。踊る。巡る。廻る。嵐となる。万華鏡の如くその翅を輝かせながら、見た目の美しさからは想像つかぬほどの残酷さを伴って。取り巻いて。哀れな敵を弄ぶ。 「命の使い所も死に場所も全部私が決める。こんなところで死なない、死ぬ訳にはいかないわ」 だから私は、貴方達を斃す。銀の髪を棚引かせる少女の目は、強い決意に輝いていた。 そんな蝶の舞に重ねられたのは、破壊の戦気を纏った拓真がガンブレードBroken Justiceより発射した暴風の如き掃射である。その一弾一弾は鉄よりも硬く、鋼よりも強い。 「抗い続けてやるさ。最後の最後まで、全力でな!」 「出来るものなら斃してみろ、俺達リベリスタを!」 後押すように、背中を支えるように、『殲滅の加護』を皆に施した快も声を張った。その眼前、振り下ろされるはチェーンソーの如き機械の剣。それを快は臆す事無く左手で掴むように受け止めた。衝撃。金切り音。回る鋸と快のバリアがぶつかり合い、壮絶な火花を散らす。力と力の拮抗。奥歯を噛み締める。両足を踏ん張る。握り締めた。電鋸の回転ごと、ぐしゃりと握り潰す。押し返す。 「全員でかかってきたっていいんだぜ――絶対に止めてやる」 見澄ますその目、その声、そして存在は、超鉄兵団に対し『絶対敵』として君臨する。一切の狙いを、見逃せぬものとして引き寄せる。 「それじゃあ、精一杯楽しみましょうか。……まぁ、今日の私は徹底回復専門だけれども」 状況が状況だものね。いつもの調子と相好を崩さず、魔力を活性化させたティアリアは陣の内側にて友軍ホーリーメイガスへ目をやった。 「少しお時間よろしくて?」 そう言って交わすのは互いの戦闘力・持てる技だ。ティアリアは回復技に特化してるが、友軍は攻撃技も持っている。そして友軍のプロアデプトがプロジェクトシグマが使用できる事も判明した。快のラグナロクやガイのThe Living Hopeも合わせれば精神力枯渇の心配はしばらくしなくとも大丈夫そうか。 「では、基本的に回復はわたくしにお任せを。足りなくなったら貴方にも頑張って貰うわ。それまでは――わたくしの分まで、敵を思う存分やられた分を100倍にして甚振って下さいませ」 ご武運を。そして敵には冥福を。ティアリアは戦場へ目を戻した。まずはガイ隊の傷付いた仲間達を癒そうか。幸いにして今日はケチる必要もない。 「誰一人倒れさせはしないんだから。……さ、今日は大判振る舞いよ。存分に癒されて頂戴」 湯水の様に湧き上がる魔力。ティアリアは詠唱によってそれを練り、紡ぎ、『奇跡』として戦場に顕現させる。その大魔術の名はデウス・エクス・マキナ、全てを救済せし機械仕掛けの神。 忽ちに体に戻る力。武器を握り直した友軍達が、ガイと共に一気呵成に攻勢に出る。 負けてはいられないな――嵐の様な戦闘の最中、攻撃の手を緩めぬ拓真は思う。再度発射される猛射撃が、こちらを瓦解させんと迫る超鉄兵団の戦線を今一度押し返した。倒す。斃す。兎に角、一でも多く。 戦場に煌く拓真の刃。我知らず張り上げる鬨の声。その最中。敵を撃破し、敵の攻撃を浴びる度に、双刃が囁いてくる。輝けぬ栄光が。壊れた正義が。死闘の中の幻聴?妄想?それとも現実?また一つ、剣閃が戦場を切り裂く。声が聞こえる。 「お前の正義とは何か、どれだけ夢を見ようと夢は夢でしかない」 「折れてしまえ、そうすればもう辛い思いをしなくて済む」 (あぁ、だが……) 自分を貫き、切り拓いた道は後悔だけに彩られた物ではなく。 そうする事が正しいと選んで自己で踏み締めて来た道だから。 それが血に塗れた道だとしても――その血の数より何かを救いたいから。 突き進んだその道が、決して間違いではないと証明したいから。 己が、『新城・拓真』という男だから。 「折れたり等はせん、絶望もしない。自分だけじゃない、皆の……人間の可能性を信じている……!」 一人じゃないからここまで来れた。 絶望に飲み込まれず、今もこうして『道』の上に立っている。 この道はきっと、自分だけのものじゃない。 なれば共に歩んでくれた仲間に報いたい。 ふぅっ、と夏栖斗は大きく息を吐き呼吸を整えた。快と共にアッパーユアハートで敵を引き付け攻撃を分担して引き受ける彼の傷は当然ながら他の者より多くなる。それでも倒れない。倒れたリベリスタは未だ誰も居ない。回復支援、ダメージコントロール、危機になった者は快が大立ち回りで遍く庇い、護る。 「今は任せろ! 立て直せ!」 鼓膜が張り裂けそうな戦場音の中で、しかし快の声は勇と響く。夏栖斗の耳にも届いていた。頼もしい、仲間の声。その存在があるだけで、彼はこうして戦える。真っ直ぐ前を見る事が出来る。希望を持ち続けていられる。 正直言って、戦いや争い合う事なんて好きじゃない。けれど、戦う事で誰かが笑顔になるのなら。誰かの理不尽と不幸が払拭されるのなら。 そしたら戦いにだって、意味がある。 「偽善者でも甘くてもいい……何かを為すことに意味があるんだ!」 嫌だから、その『嫌』を誰かに押し付ける――それだけは夏栖斗の矜持が許さない。何度も何度も馬鹿にされた。嗤われた。それでも、だ。 「ヒーローになりたかったんだ。僕は正義の味方(ヒーロー)になりたいんだ!!」 たとえ邁進する姿が我武者羅で泥に塗れようと。血だらけになろうとも。鋼に鍛えた少年の心は汚れない。 マグマの様な激しさで、桜花の如き絢爛な炎を吹き上げる。繰り出す飛翔武技が示す軌跡は、少年の心を表すかの様に真っ直ぐだった。 己の息が上がっている事すら自覚できぬ激しい状況。何十何百の敵を屠っただろうか。 まだ、戦っている。まだ、戦場からは抜け出せない。まだ、戦闘は終わらない。 戦う、事。戦っている。蝶と共に戦場を切り裂く糾華は、ふと思う。 (……正直、迷いはあった) 世界の為にと、一般人を手に掛けた。納得して下した筈の手は歪み、気付けば己の首を絞めていた。自己嫌悪。所詮自分は、自らの世界を守る為に他人の世界を終わらせたに過ぎぬ。浅ましい。なんと傲慢。 (私は元より人殺しで、この手が綺麗だなんて思っていた訳でもないけれど……) 自らの決断を否定して、自らの戦いを絶望しても、その先にある『希望』に手は届きやしない。 (あの戦いもこの戦いも、私が選んだ戦場。望んだ死地) 迷わない、恐れない――手を振りほどいた過去と一緒に、歩き出す。 「諦めたりなんかしない……見限ったりなんかしない……私が望んだ未来、手にした日常の為にもう目を逸らさない。私が私である為に、戦う事から逃げはしないわ!」 この手は自らを苛む為に非ず。目を塞いで何になる。耳を塞いで何になる。逃げ惑って何になる。『斬風糾華』がガタガタ怯えて無様に悲惨に逃げ惑うなど、他でもない『彼女自身』が赦さない。 殲滅を……そう、殲滅を。刹那すらも切り裂く蝶の舞い。ステップを踏み、瀟洒なドレスを翻し、彼女の周囲のアザーバイドに死を告げる。死を刻む。告死。刻死。刻一刻と。 「やらせはしないと言っている!」 まるで戦場を、神の如く天上から見ているのだろうか。いっそ冷徹なまでに戦場を見極める快の双眸。仲間を護るべく、一体何度攻撃を受け止めただろう?血が流れている。でも大丈夫だ。『ほっとけば治る』。深呼吸一つ。俺は未だ戦える。握り締めた、左の手。守護神の左腕。 『誰一人奪わせはしない』 込められたのはただ我武者羅な、不恰好な理想(ユメ)。手を伸ばそうとしているそれはもっともっと彼方にあって―― 「だから俺は、こんな所で絶望なんてしていられない」 乗り越えたその先、一歩でも理想(そこ)に近づけるなら。 全てを護ると言う根源的に矛盾したそれが、喩え毀れたものだとしても。 理想と言う名の死神が、いつか自身を殺すのだとしても。 伸ばしたその手を引っ込めない。 一歩たりとも、退がるものか。 「諦めない。負けられない。決して折れはしない。俺は――俺達は死なない!!」 その目に覚悟を。そして夢を。握り締める刃に『あらゆる障害』を切り捨てる最高の神気を帯びさせて、一閃、二閃、聖なる十字を機械の兵に刻み付ける。 飛び散る兵団の歯車、その中で。 「頼むぜ、ミリィ隊長。俺達は君の剣であり、盾だ。使いこなしてくれると、信じてるよ」 「――はい、任せて下さい」 快の後方、円陣の真ん中、ミリィは盤面を支配する最高の知力を以て巧みに大胆に繊細に的確に正確に勇猛に戦闘を指揮する。荒れ狂う如何なる混沌的状況すらも、オーケストラを率いる卓越したマエストロの如く彼女はいとも容易く奏でて魅せる。彼女の指揮の下、刃は一層鋭く、盾は一層堅く、魔法は一層輝きを帯びた。 瞬きも惜しいと戦場を見据えるミリィの視線。その先には、ガイが居る。あの日のように剣を振るう、希望卿。今でも覚えている。あの日見た背中を、温かいその手を。 あの時確かに、感じたのだ。 人が持つ、希望と言う確かな可能性を。 (だから、私は) す、と息を吸い込んだ。 「私達は、皆で生き残るんです。倒れる事なんて、絶対にさせない。生きて帰りましょう――この戦場から!」 鼓舞の言葉と共に放つ、神秘性制圧爆弾。鮮烈な閃光が敵の最中にて炸裂し、その意識を身体ごと強烈に吹き飛ばす。 あの日見た、希望の光の様に。夜を祓う太陽の様に。 「……美しい!」 剣の手は休めないまま。ガイはミリィの鮮やかな攻勢にその目を細めた。その様子に、ミリィは少し笑んで。 「希望に助けて貰う、確かにその通りですね。貴方の言葉は正しくて、どんなに怖くても、諦めそうでも、確かに其処に希望(ナカマ)が居て、私に戦う勇気をくれた」 だから。凛然と目を逸らす事無く、少女は続けた。 「今度は私が貴方の……皆の希望になる。なってみせます!」 そこに在る、希望。夜の暗さを切り裂く灯台の如く、ミリィはそこに立っていた。 ガイは言葉を返せなかった。下手に言葉を使うと目頭が熱くなりそうな気がした。私も歳かな。独り苦笑する。嗚呼。あの日のあの少女が、こんなにも強くなって。感動的な光景だった。あの日あの時、この少女を己が護れた事に誇りすらも覚える。 これだから、希望というのは擁かずには居られない。 「――強くなったね、ミリィ君」 「隊長、泣くのは後にして下さいよ!」 「シッ声が大きい、アークの諸君に私が涙脆いのがバレてしまうだろう。これは汗だ、いいね?」 完全に完璧な存在なら希望なぞ抱く事も……その必要すらも、ないのだろう。 不完全で矛盾だらけだからこそ、人は我武者羅に手を伸ばす。希望を抱き、絶望に抗う。 誰も、彼も。 諦めない。 「ふふ、だって――ここであきらめたらアークの名が廃るでしょう?」 ティアリアとホーリーメイガスが持てる魔法を遍く駆使して仲間を強く支え続ける。 一人一人、全ての動きが精密な歯車の如く噛み合って。一人一人の心が技が戦術が全てにおいて相乗効果を齎して。 リベリスタの力は、何倍にも、何倍にも、天井知らずに無限大に膨れ上がる。 「……まだやれるだろう? 戦友」 拓真が皆に呼びかけた。皆が応と、それに答えた。 12人の視線の先。そこには一際大きな鉄の兵。 残り一体となった、アザーバイド。 拓真は刃を、突きつける。 「諦めなど無い、希望という名前の黄金を俺は忘れない! どれだけ厳しい状況に陥ろうと、この魂が生きている限り! この命が何一つ出来る事が無くなるその瞬間まで、俺は……この世界で戦い続ける!」 その腕に全力を超えた全力を注ぎ込み、拓真が一気呵成に飛び掛った。 「お前がリーダーか。侵略なんかさせない――僕らの希望を受けてみろ!」 「後悔しても遅いわ、もう二度とここに来ないことね」 「これで終わり。俺達の、勝ちだ!」 トンファーに直葬の冷気を纏わせた夏栖斗が。 五重の光と十の翅を携える糾華が。 鋭いナイフに鋭い神気を込めた快が。 そしてガイと、その部下のリベリスタ達が。 別方向より、躍りかかる。 流星の如く、一瞬にして、峻烈。 「ミリィ君」 「はい」 振り返るガイの声に、ミリィは頷いた。目を閉じる。 「――『証明完了』」 瞼を開き敵を『貫いた』その双眸に映るのは、希望と勝利の唯一文字。 ●どこまでも道は続く 倒れた者も犠牲者も無く、あの数のアザーバイドを文字通り殲滅し、その戦いはリベリスタの完全勝利で幕を下ろした。超鉄兵団がここに侵略してくる事はもう二度とないだろう。 さて、と希望卿は息を吐いた。振り返る。笑みと共に。 「参った。上手い言葉が思い付かないよ」 彼等は強い。こんなにも強い。その胸に輝く希望は、ガイですら目が眩みそうなほど光っていた。美しいと思った。だから、「君達ならきっと大丈夫」「応援しているよ」なんて言葉は今更で、きっと彼等には不要だろう。 ただ、とガイは杖で空を指し示した。 「空は君達を肯定しているよ」 そこには既に夕暮れも終わった空。 一番星が眩く煌き、幾つもの星がきらきらと夜空の全てを多い尽くしている。 そして欠けもしない真ん丸な月が一段、一段と、優しい光でリベリスタ達を見守っていた――。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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