● 煩い雑踏、皆、足早に渡るスクランブル交差点。太陽は丁度天辺から見下ろしている。 此の時間に人が多いのは何時もの事だが、コンクリと白線のボーダーの上を渡り始めればヤケに人がぶつかってくる。 すいません、すいません、なんて連呼しつつ。 つい、人がいない方へと自動で足を動かして行き、其処は丁度、交差点中央。 一際目立つ存在感を持った男の前で、足が止まった。否、止めるしか選択出来なかったと言った方が正しいのだろう。 「遊んで無さ過ぎじゃなーい?」 『ココらで一息、遊んじゃいなYO!』 ――黄泉ヶ辻京介。 何処で何が如何なれば、真昼の大通りで首領とエンカウントすると言うのだろうか。これから美味いランチでも食べに行こうとしたのが運の尽きか。 否、どうせ逃げる事なんて叶わない。 今も、成程。彼が愛用する意思有るアーティファクト、『狂気劇場』によって誘導されて此処まで来させられたに違い無い。 ……呼べば此方から出向くものを、嫌な悪戯としか思えない。悪い冗談だ、ハッキリ言えば、信じたくも無いが目を着けられたのだ。 交差点の信号が、青から赤に成るまでまだ少し時間は有るはずで、余程の面白い話をされるというのだろう。 「仕事のし過ぎなんじゃナーイ?」 『Oh! My God! 疲労死寸前。断然、完全、仕事人は時代遅れで恥ずかC-!!』 「つかれてるんだよ、柊ちゃん! 毎週毎週、月曜から金曜のおやすみまでパソコン画面見てたら、肩が凝り固まって息し辛くナーイ?」 『キャー! 京ちゃん心配してるゥ? やっさしー! でも本音を聞きたい、此処らで本題イってみようZE!』 「そう、きっと今日! 柊ちゃんが面白い事してくれるって、俺様ちゃん信じちゃってるから!」 『劇的スクープじゃんNE! 何処情報だYO!』 「何時でも見てるよ。楽しみで楽しみで仕方が無いから――……こうやって、応援しに来ちゃった。ねえ、そろそろ身体の奥が熱くなってるんじゃナーイ?」 『イっちゃう? デちゃう? こっちだ鬼様、手の鳴るホーヘ!』 「柊ちゃんのもう一人は、柊ちゃん以上に遊びたがってると思うから! た、の、し、み、に、し、て、る、よ、チェケラッ!」 信号の青が点滅して、赤に成る。 闇に落ちていく意識、嗚呼、もう戻れない。 車のクラクション鳴る其の道路で一人、自分の意思とは違う意思が、自分の口を不気味に笑わせた。 ● 「ハイハーイ、皆集まってるぅ? 今回の大元の敵さんは黄泉ヶ辻フィクサードが『一人』。二重人格だよ、両面合わせて二人で一人。ただ、闇と光程度に相容れない、ね!」 『規格外』架枢 深鴇は言った。 何故、深鴇がブリーフィングを行っているかと言うと、『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)が色んな意味で戦闘不能になっているからである。 「ごめんなさい、ごめんなさい……!!」 「おーよしよし、可愛い未来日記ちゃん。僕のお胸でお泣きよ、可愛いねぇよしよし。其の泣き顔、どっかの首領に見せてあげちゃいたい!!」 顔を覆い、大泣きする杏理。其れを撫でる深鴇は何処か嬉しそうではあった。 さておき。 今回の依頼は緊急性を要するもので、杏理が送り出したアークのリベリスタが八人。依頼の帰り際に黄泉ヶ辻のフィクサードに捕まり、拷問に近しいものを受けている。 其れを助けに行け、というのかと思うだろうが依頼の条件については少し後で語ろう。 「勿論、其れを僕らが見逃さないはずは無いよね。 ハッキリ言って『罠』だよ此れ。此の釣り針はでかいぞぉー、今回の黄泉フィクサードはかなりのエンターテイナーだよー、性格の悪い方向のね。 元黄泉の僕から言わせれば、仲間を血眼で助けに来るアークを見て高笑いしようぜって魂胆だろうね。裏でおっきな企画をしているのはあんまり関わりたくない人物だと思うけど」 場所は既に特定されており、其処にはフィクサードが一人とリベリスタが居るだけである。 しかし、アークが来るとわかっているフィクサードが一人で対抗するはずは、無い。 「ごめんねー。皆には、汚い仕事を廻すのかもね。 若しかしたら、其のアークリベリスタが敵になっちゃってるかもしれない。だから、其れごと殺す事もあるかもしれない。出来ないなら、出口はあっちだよ」 ● 「すいません、首領が『今日中』に『何か面白い事』をやらないと……ノルマを達成しないと僕がなんかされちゃうんで……尊い犠牲になってください、もうなってますけど」 黄泉ヶ辻フィクサード『彼我柊』は頭を地面に擦り付けながら、拘束されているアークリベリスタ八人の手前で土下座していた。本心より悪いと思っているのだろう。涙を流しながら、聞き入れられないお願いをしていた。 裏野部一二三が行った大晩餐会から裏世界の彼是が崩れ始めている。此の黄泉も、何かに向かってスタートダッシュを決め込んでいるのだろう。 されど、アークも力を着けている為、万華鏡が有る限り神秘事件を起こそうと動けば死ぬし、しかししかし、此の黄泉ヶ辻は動かなくても死ぬ。 「だから」 柊の声色が変わった。 「クハハハハハハハハハハ!! お前等一人一人に異世界の蟲を埋め込んだ。徐々に其の蟲が、貴様等の中身を食いつぶしていくだろうなァア! ほらほら、身体の中が痛くなってきた頃じゃねぇのかな、じわりじわりと死ぬのは見ていて楽しいが、生を求めて足掻く姿は嫌いじゃあない。 だから、チャンスをやろうと思う」 ―――襲撃して来るであろう、アークと戦え。 ● 深鴇は続けた。 「柊は異界の蟲を身体に住まわせている。ギブアンドテイクの関係でね、勿論存在している事自体が僕等的には崩壊を招くから殺してしまっても構わない。 ―――まあ、僕等が一番戦わないといけないのはリベリスタ。 戦わないと、彼の蟲が野(表の世界)に放たれて犠牲が増える。其れはリベリスタとしては一番やってはいけない事のはず」 だから、闇夜の内に全てを終わらせる事が今回の依頼である。全てが後手に回った此方が一本、敵に負けてしまっただけの事。 「敵になったリベリスタ達を、怒らないであげて欲しいと僕は思うよ。 何時終わるかも解らない激痛に叫び声をあげる事も出来ず、己が正義さえ捻じ曲げられても文句も言えない。 只、蟲が放たれないように。自殺という自分だけが楽になれる選択肢は選ばなかった」 ―――彼等は立派な……リベリスタだと僕は思うからね。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月19日(木)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 手招かれている腕の先を見れば、其処には悲しみとか絶望が渦巻いていて。 そういうのが好きだって言う七派の一角が、今にも笑い出しそうに大口開けている罠へと。 いざ。 「ご機嫌麗しゅう、黄泉ヶ辻京介! てめぇも見てんだろ。見てろよ! 絶対に助けてやる、詰まんねえゲイムなんざもう飽き飽きだ」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が扉を自慢の足で蹴れば、鍵もかけておりませんでしたと彼我柊がクハハと笑った。 「久しぶりだよね、夏栖斗ちゃん! なぁーんちゃって、ご機嫌うるわしゅう箱舟。 ……来て早々、戸締りとは随分気が利くなァ?」 入って来たて早々リベリスタは、ほぼ全員が自付を行い、夏栖斗は後ろ手で扉の鍵を廻した。 まるでヒーローの変身を待っている悪役が如く、リベリスタの行動を空気読んで待っているなんて事は柊に限らずとも無い。 「馬鹿か? おい出番だぜぇ? 餌ちゃんたちよ」 「うぅ……」 赤い目を擦った古賀が、最速で走り出す。其れはアッパーを行う夏栖斗よりも早かった。 『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)が其れを両手広げて進行を止めた。見えた古賀の顔が苦しそうに青ざめたのを見ながら、されど、風斗の身体に短剣が突き刺さった。 ガタガタガタガタと震えた短剣が彼の肉を抉って、不器用に傷口を押し広げていく。其処に死への恐怖と食われる苦しみが風斗には感じられたからこそ。 こんな、倒したくない敵は久しぶりだと心の奥底で嘆いた。 「いま少しの間耐えてくれ。その忍耐、けっして無駄にはしない!」 返答は無い、無いけれども、諦めていない古賀の瞳が全てを物語っていた。 きっと、助けてくれる。ねえ、そうでしょう、アークの中でも名立たる人達よ―――。 磯部の矢が宙を駆け、宇埜の血鎖が其れに絡む。 北条と羽賀の刃が夏栖斗に襲い掛かる中、怒りを直撃しなかった文哉が『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)へと襲い掛かる。 「うん、命が掛かっていたら仕方ないですよね?」 蟲を喰わされるなんてどんな気分だろうと、珍粘が其れを共感出来るほどに理解する事は難しい。だが、せめて彼等が生を求めて足掻く事は手助けしたい。 ――応援、してます。 文哉にしか聞こえない声で珍粘は呟いた。 「ごめんなさい……」 「いーんですよ」 己は漆黒解放の闇を引きずり出しながらも、剣を受け止め傷つくというのに。 続く兎荷の呪いの追撃。狙われた『ツルギノウタヒメ』水守 せおり(BNE004984)。スケフィントンの小さく黒い箱に収まりかけた即座、太刀を抜刀、横に一閃すれば箱は切り裂かれて終わった。 しかし兎荷の攻撃は其れだけで終らない。続いたソウルバーンをまともに受けた彼女の腹部が淡い血で塗れた。震えた兎荷の両手、嗚呼、恐いんだねとせおりは何も言えなかったが、己は鬼だと覚悟は決めて来た。 最後に鎌野の裁きの閃光が飛び、そして。 「助ける? 馬鹿馬鹿しい、奴等はオマエラを殺しに来てるんだぜ? なあ、見てみろよホラホラホラー」 柊の気糸が射抜く、其れを肩に貫かれた『Matka Boska』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が両手の銃を構えた。 さあ、『お祈り』を始めましょう。 けれど其の弾丸、誰の為のお祈りか――? 「私達は大丈夫です、気にせず全力できて下さい」 銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声銃声。 マシンガンか如く撃ち出された弾丸弾幕が敵リベリスタを躍らせるようにして穴を開けていく。足もとのソファーを蹴り上げて其れで防いだ柊は再び、クハハと笑った。 敵リベリスタは痛いって、今にも叫び出しそうだ。内側も外側もイタイイタイ。 『すぐに――楽にして、あげるから』 そう念話が頭に直接文字を送った。ふと、鎌野が顔を上げた先、嗚呼、覚えているよ青い髪の彼女――『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)を。 今すぐ殺してくれても文句は無いと鎌野は思った。沙希に殺されるなら、本望だと。だが沙希は其れを許さない。例え、可能性が限りなく零に近かったとしても、零では無い限り諦めないのだと。 彼女の楽とは、殺す事では無い。生かす事、だ。 「生きたいのが人間だ。だから! 僕らに攻撃してこい、足掻いてよ」 此の場に居た誰よりも、殺したくないと、血を流したくないと願う夏栖斗は叫んだ。希望を、希望を彼等に与えるのだ。 きっと、何か方法が見つかる。 きっと、助かる方法は有る。 相手は黄泉ヶ辻、なぁに問題は無い。問題なんか無い。問題があれば一緒に考えて打破するのみ。 「お前らの選択は一つも間違ってない!」 泣きだしそうに腫らした顔のリベリスタ達が、少しだけ安堵の表情を浮かべたのは其の一瞬が。 ――最後であった。 ● 敵リベリスタ達はリベリスタに協力的ではあった。誰しもが体内に蟲を宿しながらも全力の戦闘を行ってきた。 しかし此の中で一番容赦が無かったのは、矢張り、柊である。 流石、アークのリベリスタのトップと言っても良いのだろうか。前回えっちな水着で25歳の女に迫って来た彼とは、きっと別人で、今此処にいるのは双子のお兄さんか何かだと思う。 『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は無表情で、天に掲げた片手剣を振り落した。其の、威力の程は其の場の誰もが理解していただろう。 そして、不運にも。古賀はソードミラージュという……回避に長けていた事も無駄に終わり竜一の攻撃をクリティカルヒットさせてしまった。 しかし其れが致命傷では無い。 「クハハハ、何時俺がリベリスタを仲間と認識したァ?」 其の直後に放った柊のピンポイントスペシャリティが古賀を射抜いたのだ。竜一の目の前で弾けた、古賀の腹部。鮮血が竜一を染め、其処で響くのは柊の大笑いの声だけ。 そして、少し間が空いてから恐怖に耐え切れずに兎荷が叫び声を上げた。無理も無い、死んだ古賀の子宮あたりを食い破って出て来たムカデの様な生物を見れば。己の中にも其れが入っていると思えば。 「お前等が!! お前等が蟲を喰わされればよかったのに!!!」 兎荷が泣き叫びながらあらゆる、思いつく限りの罵詈雑言を吐き出していく。近くでは鎌野が胃酸を吐き出す始末。 二進も三進もいかないね。面白がっていたのは柊で、今にも拳で柊に殴りかかりそうなのは夏栖斗と風斗であった。そしてただ一人動けた風斗が子宮から這い出る蟲に剣を突き刺して、蟲の拡散を食い止める。 しかし其の攻撃だけでは蟲はまだ死なない。次に飛んできたのは珍念の攻撃だ。 「ウフフ、表情が見えない蟲はさっさと退場していただきましょうか」 槍を投げ、的確に蟲の頭をつぶした其れ。呪いを一緒に打ち込むのだが、死んでいる虫にはもう其れも意味なんてない。 「あらら、あっさりですねぇ。手ごたえも無い」 珍念は楽しそうに、そういった。 ブロック網が敷かれる中、せおりの力は打破するのに非常に優れている。駆けだした彼女の青い焔が戦場を包み、だがぎょっとしたのは仲間であり。 「ちょ、待――ッ!?」 タックルしたせおりは北条と羽賀を吹き飛ばすのだが、一緒に数名のリベリスタをも吹き飛ばしてしまった。 なんだァ今の! と笑っていたのは柊だが。 「全く、クズでございますわね」 『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)が、開いた一瞬の路を駆けたのであった。 気糸の閃光が宙を駆ける其処、紫月はだが止まる事を知らない。頬や脹脛、腕に縦線の傷を何個もつけながら走り、走り――。 Sword of Twilight――其の一振りの剣に此の世の呪いを掻き集めていく。 黄泉ヶ辻? 知らない子ですね。今紫月の印象の中にある其の組織はたち悪く、醜悪で、悪趣味の悪三冠。今更容赦する等甚だしい。 振り上げていた其れを降ろしながら、其のオーラが彼女の白い服を黒く染めていく。短剣で紫月の剣を受け止め、笑う柊。 「楽しいだろ? 最高の仲間割れだろ?」 「いいえ、私達の敵は貴方一人ですわ。相応の報いを、差し上げますの」 直後銃声。 許せないのだと銃を握り締めたリリのそれから、煙が舞い上がっていた。 「いってェなくそが!!」 「許しませんよ……貴方、諸共黄泉ヶ辻は!!」 両手の拳銃はリリの怒りを沸々とさせるように、止まる事を知らない。不殺を意識せども、宇埜が放った葬送の鎖を弾き飛ばして仲間に当てまいとする。 其の隣で沙希はすばやく陣を組んだ。狙われる前衛の消耗を気にして、だ。されど彼女の頭に訴えかけて来るのは鎌野の悲痛。 痛い、痛いよ、もう殺して。 『諦めては駄目よ、仲間がきっとなんとかするわ。それまで耐えるの』 両目を紅く腫らして、涙と鼻水が入り混じった鎌野は仕方なく、仕方なく聖神の伊吹を唱えた。よく躾けられた良い子だと、回復を貰った柊が鎌野の頭を撫でる。 「お前等仲良しサンかぁ、辛いなぁだが友人に殺して貰えよ、きっと最高だぜ?」 『ふざけないで。貴方みたいな人、人間じゃないわ』 「お説教かよ」 「必要ありませんわ、ここで死になさい」 紫月が言った。 ● 「うわあああいやぁぁギャハハハしんじゃえ全部全部ゥゥウ!!」 遂に何もかもに耐えられずに兎荷の精神がぶっ壊れた。 蟲をいれられている気分なんて紫月は知らない。だが兎荷の行動で大体察すれば哀れみの目で彼女を見ていた。 「もう少しなんだ、もう少しでだから……くっ」 今や、風斗の声も届かない。縦横無尽に振られた彼女のソウルバーンが風斗を貫き、更に刃が回されて傷口が抉られる。一番助かりたいのは兎荷であったのだろう、だが。 「ウフフ、良い顔ですねぇ」 滅多に無い、表情ばかりだ。珍粘の瞳は忙しく動き、一人一人の感情溢れる表情をものとしていく。 幸も不幸も蜜の味だと――迫って来た文哉に奈落剣をお返しした。刹那戦場を駆けた幾重もの気糸が兎荷と文哉の命を奪った。 倒れた兎荷が呪ってやると言い残して風斗の腕の中に納まり、文哉は顔面穴だらけで立ったまま死んだ。抱えた風斗の目の前、背中を突き破って出て来た蟲に唖然と口を開いていたが、――迷わなかった、風斗は口を閉め、歯を食いしばり、剣を持ち直して其れを切り伏せる。 「さー此れで、残りは……八引く、三はなんだったかなぁー!」 「そろそろ其の煩い口どうにかしろ!! 露草!!」 だがブロックの解けた竜一がフリーだ。即座に飛び込んだ彼は紫月と前後から合わせて柊に刃を向ける。 「死になさいな、此の堕天使が汚い魂でも貰ってやりますわ」 背中側から紫月の剣が、前方から竜一の剣が柊の身体を貫通して其々背中と腹部から刃が飛び出た。瞬間、血を吐き、目が上を剥きかけたのを鎌野の回復で繋ぎ止め。 抜かれた刃、竜一が横に体勢をずらした其の先――リリが、両手の銃を構えて立っていた。 されど先に行動したのはせおりだ。その身を包む炎はいつも変わらぬ彼女のイメージカラーそのものであっただろう。人魚のヒレを風に揺らし、その風が起きるのはすばやい速度で突っ込んでいくからだ。 「なんでだろう」 そう、なぜだが記憶がせおりの心に訴えかける。プロアデプトの動き方を、プロアデプトの防御の仕方を。自分ではない、誰かがそう耳元で囁いているかのようだ。 柊の瞳には、せおりの背後に写る白鳥の羽が見える。なんだそりゃ、販促だと呟きかけて、其の瞬間にはせおりに壁際まで追いやられていた。 鈍い音ひとつ、せおりの足が壁に埋まるほどの衝撃と共に、もう片足は柊の左肩を壁に押し付けてこういった。 「つっかまーえた」 「クハ、悪い夢だなあこりゃ」 「貴方さえ、貴方が、どうにかしないと」 リリだけが気づいていた。蒸を引かせるには彼の指示を仰がなくてはならない。それに、彼を殺してしまえば鎖を無くした蟲がどう行動するのかが読めない。 しかしリベリスタを助けるのは0%(絶対に無理)では無いのだ。賭けるか、賭けるのか、賭けられるのか其の限りなく低い数値に。 多くを救える為なら、一般人でさえ喜んで殺すシスター(リリ)が横眼に見たのは少年が蟲を潰す光景で。青ざめながら、少し前の嫌な記憶を風斗は振り切りながら戦っている。 嗚呼、そんな。そんなの。 ――此れ以上、優しい友人の心が傷つかない為なら。一人でも多く救えるのなら。 「私は、悪魔にでもなりましょう――」 「悪魔に堕天使かあ。まあ、せおりは鬼なんだけれどね」 撃ちだされた弾丸と並走したせおりは太刀に全力を込めて、柊に叩きつけ――しかし。 「は!? カズト!!?」 だが、夏栖斗が寸前で柊の盾と成った。 せおりの刃を肩に食い込ませ、リリの弾丸が腹を貫通し、じわりじわりと彼の服は真っ赤に染まっていく。 「……痛いなあ、……わかってたけど」 無敵要塞であっても、二人の攻撃を一気に受ければフェイトは軽く飛んでいく。 われらが仲間はよくわからない。紫月はそう思いながらも回復を唱えていく、たった一人の彼のために。続く沙希もそうだ。 攻撃を止めて、驚いたのは何もせおりやリリだけでは無く。其の場に居たリベリスタ全員がそうであっただろう。そして誰より、柊自身が訳も解らず立ち尽くしていた。 「何、ヤってんだてめー……」 「彼我、あんたも京介の被害者なんだ。こいつらから蟲を抜けよ。それなら殺しまではしない。京介が飽きるまで足掻いてみせろよ、協力はする」 一人を殺しているのに、何を言っているんだ。リベリスタとは黄泉ヶ辻以上に狂ってる奴が多いのだろうか。 暫く夏栖斗の目線を凝視していた柊だが、段々と目線が横に流れていき『遠く』を見て汗ひとつ流した。 後方から風斗の刃が首にひたりと着けられた。 「一度だけ言う。彼らの体内から蟲を取り除き、降伏しろ。そうすれば命は助けてやる」 ぴりりと走る痛覚に、風斗の刃が首の皮に少しずつ食い込んでいくのが解る。本当は殺したい程な癖に。違う、狂ってるが、一人でも多く救いたいのだな。なら、 「俺には眩しすぎるな……テメーラ」 一歩、二歩、後ろへと下がる事も許されない。そして右手で何かの指示を出した刹那、柊は高笑いした。 「其の純真、へし折ってやれば楽しいだろうな!!」 我等は黄泉ヶ辻、綺麗事で収まると思ったのか。 「交渉なんざ通じる相手じゃない!!」 「終りだ、柊!!」 死にかけの夏栖斗を押し退け、風斗と竜一は柊に再び。其処に紫月とせおりも加わり――だが、あーんと口を大きく開けた柊の喉から一斉に放たれた大量の蟲がそれらの攻撃を受け止めたのだ。 バキバキと成る音と、苦しみ、叫び出したリベリスタ。珍粘が振り向けば、沙希が倒れた鎌野を抱きしめて見てみれば。内臓を食い破って出て来た残り五体の蟲が一斉に湧き出ていた。 「いだ、いだぃよ沙希ぢゃ……ぅ!!」 『ああ、あぁぁ、あぁ』 鎌野が沙希を抱きしめる腕がだんだんと強くなっていく。強くなりすぎて、鎌野の爪は沙希の背中をえぐっていた。 此れが殺意というものだったか、沙希の抱える鎌野の力が抜けていくと同時に黒みかかりそうな茶色い目線を柊に向けた。 『貴方という人は……!!』 「クハハハハ! 確かに蟲は、抜いてやったぜェ? 安心しろぉ、運が良ければ生き残れる」 「柊!!」 風斗は叫んだ。 「クハハハハ! 俺等にもノルマがある、てめーら痛めつけねえと仕事しねえ主人格と俺が殺される。助けてくれるな? 御厨夏栖斗!!」 「くっ!!?」 風斗の横を風が通っていく、その風を風斗が止める心算などない。 竜一だ。竜一がせめてもの柊に報いる一矢と赤色塗れの露草を振り上げたのだが、夏栖斗は柊の盾になった。だかリリは彼の庇いを評価した、そう、だって柊に従わなければ他が一緒に死ぬのだから。 全滅か、それとも六人を生かすか。其の六という数字にはフィクサードも含まれているのだが。天秤にかけるには、あまりにも。 そういえばと沙希は思い出す。ミトキが言っていた、これは。 罠だと。 「今そんな場合じゃねえだろうが夏栖斗ォ!!」 露草を逆手に持ち、彼の頬を殴った竜一。 「あらあら、報いるといったら報いるのですわ? 逃がしませんわよ」 オホホホと笑う紫月の表情が恐ろしい笑顔で歪む。 吹き飛んだ壁に隙を見出して珍粘と紫月がここぞと前へと飛び出した。されど、其の一瞬の隙で、柊は地面へと消えて行くのを沙希が目撃していた。 「あーあ」 ため息混じりにそう吐き出すのだが。 ――……まだ終わりでは無い。 「皆さん複雑そうな顔ですねぇ、ですが喧嘩をするにはまだ早いんじゃないですかねえ?」 面白いものが見れて満ち満ちて、舌なめずりした珍粘であったのだが、空気は重く張り詰めている。紫月と沙希だけが回復を絶やすまいと、していて。 リベリスタ達の、吐き出した蟲達の駆除が残っている。暫く残業だと、せおりは首を横に振ったのであった。 致命的な内臓を喰われずに済んだ、生き残りは―――五人。 それでも最低限で最高の人数であっただろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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