●四国の地 「……またか」 「ええ、またよ」 恐山の『善意の盾』こと七瀬亜実は笑顔でリベリスタに語りかけていた。 いうまでもない話だが、リベリスタとフィクサードは基本的に仲が悪い。法を破るフィクサードをリベリスタが看過できないという理由が主だ。 七瀬も例に漏れず、法を犯している。最もそれは十分な証拠が存在しないグレーな書類偽造が主で、彼女は人的被害を好んで出す悪党ではない。事実、彼女の二つ名である『善意の盾』とは人を殺さずその善意を盾にして動き回るという所からきている。 「……繰り返すが……」 「またよ」 苦渋を舐めるようなリベリスタに、ニコニコして応える七瀬。リベリスタもこの笑顔の裏にある意図を知っている。そしてそれに乗るしかないという事実も。 「恐山に愚痴っても詮無き事だが……四国は呪われているのだろうか?」 「楽団、賊軍暴走、そして奇妙なアザーバイド襲来。ついてないにも程があるわね。 これは個人的な意見なんだけど、ナイトメアダウン並の事件がくる前に河岸を移したら?」 「そうしたらお前達が土地を買い取っていくんだろうが。そうはいくか」 「もう一つ個人的な意見を言わせてもらうけど、これでも妥協してるのよ」 敵対心MAXの声に、ため息をつく七瀬。まぁ、これぐらいは我慢してやろう。どの道彼らは自分達に頼るしかないのだから。 「じゃあ復興作業よ! 小悪党をあぶりだすわ!」 ●アーク 「イチニイマルマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「恐山がリベリスタ組織『アースサイクル』を乗っ取ろうとしています」 和泉の説明に、大半のリベリスタは首をかしげた。恐山といえば日本有数のフィクサード組織だ。それがリベリスタ組織の乗っ取り? しかもモニターを見る限りではリベリスタ組織に協力している節がある。 「……復興作業とかいってるけど?」 「先の『大晩餐会』や『恐怖神話・現』等により、四国のリベリスタ組織のダメージは大きく、単独復興は厳しい状態です。各リベリスタ組織が連携をとっているのですが、手が追いつかないのが実情です。フリー、もしくは小規模のフィクサード組織による盗難や暴行などが後を絶ちません。 そこに恐山が付け入りました。『蛇の道は蛇。ああいった小悪党を相手するのは私達に任せてみない?』と。あとダメージを受けた土地や事件の情報操作など行うようです」 「……いいことじゃないか?」 リベリスタの言葉に、和泉は首を振る。 「それ単体ではいいことです。ですがそのために恐山のフィクサードが跋扈し、勢力を広げる隙を生み出してしまいます。今はまだ心折れていない『アースサイクル』のリーダーも、重ねられる『恩』に縛られて取引をするようになりました」 「取引……か」 リベリスタとて人間だ。恩を売られれば返したくなるのは良心といえよう。だが相手が悪党となれば、話は別だ。相手はその道のプロ。取引程度で妥協する相手なら苦労はない。相手は謀略の恐山なのだから。 「恐山を倒して終わり……というわけにも行かないか」 「今恐山を倒しても根本の問題は解決しません。復興と、治安をある程度解決してきてください」 殴って終わりなら楽なんだけどな、と愚痴るリベリスタ。ふと気付いたかのように、誰かが問いかけた。 「そういえば……『アースサイクル』と恐山の取引も止めないとな。どんな取引してたんだ?」 その問いに、若干呆れた様子で和泉は資料を渡す。その内容に、リベリスタも呆れたような顔をした。 ●恐山フィクサード 「お姉さま、私今回の仕事はちょー乗り気じゃありません」 「気持ちは分かるわ」 「今回ばかりはオレも同じですぜ、お嬢。命令だからやりますけど、他にも人がいるでしょうに」 「アザーバイド連続召喚の主犯が分からない以上、第二の召喚が行われる可能性があるわ。相応の戦闘力を持つ人材が求められたのよ」 「……いつもの詭弁とコネで回避できなかったのですか?」 「恐山御大のハンコがある以上、どうしようもなかったのよ!」 七瀬とその部下たちは、トラックに積まれるダンボールを見ながら深々とため息をつく。『アースサイクル』との取引で得た今回の収入。先払いで全て貰った為、今から調査などで消費する経費は自分達もちなのだ。 そのダンボールには赤く『苺』の絵柄が描かれていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月12日(木)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 部下達が『苺のためにかー』『壱子様関係はバランス野郎の仕事だよなー』的なため息をつく中、七瀬だけは別の理由でため息をついていた。 (……つまり今回のお仕事は、そういうことなのね) ● 六月に入って、季節は不安定。雨が降ったりカラカラに晴れたり。そんな雨上がりの風が頬をくすぐる。湿ってはいるが、涼しい風が心地よい。このままウォーキングでも楽しめればいいのだが。 「ご機嫌麗しゅう、あみあみ、僕だよ!」 そんな七瀬の気持ちを打ち破るように『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の声が耳に響いた。 「あみあみ言うな!」 「よしなよ夏栖斗。年齢的にあみあみはちょっと……」 「……ぐっ! 滑り込むような連携攻撃。これがアークのコンビネーションなのね」 そして『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の言葉に、追い討ちをかけられたようにうずくまる七瀬。今まで苦汁を舐められたリベリスタたちだ。ファーストアタックも容赦ない。七瀬は改めてアークの恐ろしさを感じていた。 「始めまして。えんやーこらやっと復興作業にやってきました。エリエリです」 「七瀬よ。互いの立場上、挨拶以上はしないでおいたほうがよさそうね」 あまり親しくしたくない声と顔で『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)に挨拶をする。エリエリは基本的にフィクサードが嫌いである。こういう状況でなければ、話もしたくない。 「暴れて後片付けもしないとか、賊軍やらアザバやらもノーマナーですなぁ」 「……まぁ、その人たち貴方達が倒したんだけどね」 七瀬に言われてああそうか、と手を打つ『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)。基本呆けているように見えるが、頭の中では色々思考している相手だということを七瀬は知っている。 部下の石垣が七瀬を庇える位置に立ち、リベリスタ四人と相対する形になる。リベリスタとフィクサード。一触即発の空気がながれ―― 「今日はなんもしないって。復興作業の手伝い。でも僕らが来たってことはそういうことだよ」 その緊張は、夏栖斗の一言ですぐに解かれることになった。ここにきたリベリスタに戦意はない。それを示すように笑みを浮かべた。 「そうね。アークがきたって理由は恐山からアースサイクルへの干渉に対する圧力ね」 そこは譲らない、とばかりにリベリスタは頷く。七瀬は気付かれないようにため息をついて、背を向けた。 「ま、復興作業と行きましょう。ヘマしたら揚げ足とって、アークの信用を落としてあげるから」 フィクサードの優しい笑顔よりも、実績を積んだアークのほうがリベリスタは信用する。それを理解して、負け惜しみを言うように七瀬は告げた。 復興作業開始である。 ● 今回ターゲットとなる小規模フィクサードチームは、発生が少し特殊である。 例えば楽団に組織のリーダを殺されて、小規模に分派したフィクサード組織。 例えば大晩餐会時に生活の場を破壊され、フィクサードに身を堕とした元リベリスタ。 例えば恐怖神話・現におけるアザーバイド襲来により、精神に異常をきたした革醒者。 共通して言えることは、組織拡大自体に精力的でない所である。悪事を働くのも現状維持の為。もう少し言えば、少しやる気をくじけば諦めるだろう者たちである。 「見つけさえすればすぐなのよねー。いーぐるあーい!」 「どちらかといえば透視の類がよかったじゃねぇのか?」 駅ビルから町を見下ろすように波佐見が遠くを見ていた。その横で神尾が煙草を吸っている。 「……見つけた」 そんな恐山の二人を遠くから見つめる『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)。二人の動きを監視できる位置をキープし、仲間に報告していた。彼らの先回りをして、フィクサード組織を潰すつもりだ。 (それで、どういう作戦で行きます?) 思念波で仲間に語りかける『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)。常に気だるそうな瞳をして極力言葉を発しない沙希だが、けして見た目どおりの箱入り人形ではない。むしろ親しい人の悪意を目の当たりにしているリベリスタだ。目的達成の為ならフィクサードに協力してもいいと考えている。 「マイナスイオンとステルスを活性化して適当にぶらぶらしてれば、フィクサードの方から寄ってくるかな?」 悪戯をする娘のような笑みを浮かべて『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が作戦を提案する。……『ような』は要らないかも知れない。E能力者と感知されないように気配を立つ陽菜。 「いい作戦だと思う。一人捕まえれば俺のサイレントメモリーで情報を得よう」 陽菜の意見に頷く『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)。誰か一人を捕まえれば、後は芋づる式に連行できる。相手が一般人と思っているのなら、向こうもすぐに手を出してくるだろう。 「連中がこっちに来る」 恐山のフィクサードを見張っていた涼子が仲間に声をかける。接触を避けるつもりの涼子は一旦身を隠し、それ以外のリベリスタは顔見せとばかりに彼らを出迎えた。 「なんつーか、考えることは一緒なんだな」 神尾が陽菜を見ながら口を開く。神尾のフライエンジェの羽は、スーツの中に折りたたんでいるようだ。若干不恰好だが、一般人に見えなくもない。彼もE能力の気配を消している。 (ごきげんよう、恐山の波佐見さん、神尾さん) 思念で挨拶を送る沙希。柔らかい笑みで頭を軽く下げ、敵意のないことを示す。神尾も軽く頭を下げてそれに応じた。互いの意図が不明瞭だが、それこそこれから話せばいい。敵対する理由は今のところ、ない。 「苺のために労働か。正当な対価であれば関知はしない」 「まぁ、そういうこともあるさ」 「……恐山も大変だな」 伊吹の言葉に神尾が肩をすくめる。神尾の言葉を信じるなら、取引自体は正当なモノらしい。復興の代金として苺をもらう。先行投資に近い形で借りを作るのは、七瀬の策だとか。 「金髪碧眼……マイナスイオン&ステレスの可愛がりたい空気……」 「や! アタシ全くノーマルだから!」 波佐見の熱っぽい視線に手を振って拒否する陽菜。『万華鏡』情報で聞いていたが、割と節操のない同性愛フィクサードである。向こうも仕事を優先する為、いきなり襲い掛かってくることはなさそうだが。 「……アタシ、自分で作戦を提案しておいてなんだけど……危なくない?」 「安心しろ。手綱はつけておく」 答えたのは以外にも恐山の神尾だった。いきなり街中で襲い掛かるようなことになれば、アースサイクルの信用がなくなる。それが好ましくないのは恐山も同じなのだ。 色々あったが、フィクサード探索と殲滅作戦が始まるのであった。 ● アザーバイド襲来により液状化し、使用不可になった土地に七瀬と石垣はやってくる。石垣は力仕事に、七瀬は現場に使う重機などを調達する方向で動いていた。道路工事……に見せかける書類工作等も七瀬の仕事だ。 「エリエリはパワー系プロアデプトだから力仕事ならまかせるのです」 いってエリエリは地図を手に頭の中で復興計画を建てていく。どこを優先的に行い、どこの手順で作業を行うか。手伝える期間は長くない。アースサイクルに計画を引き継がせることも考え、プランを練る。 「……パワー系?」 「パワー系プロアデプトです」 鉄槌持って殴りかかるプロアデプトの存在に、アースサイクルの人たちは首をひねる。まぁいてもおかしくはないのだが。 「神秘の残りは叩いてこわす、てつわん! えりえり!」 どがしゃ、とばかりに石(と思われる何か)を砕くエリエリ。その威力に、アースサイクルの人たちから感嘆の声があがる。 「うん。そっちは物理でいける。こっちは術式で封印する」 持っている知識を総動員して、寿々貴が土地にあるものを分類していく。今回のアザーバイドに関しては、正直こちらの常識が当てはまらない所もある。だが、発生したものに関しては何とかなりそうだ。 「ところでこの土地での特産や生産可能なものってなに?」 「苺」 「……うん。全部恐山に持っていかれてるか」 問いかけた寿々貴は、返ってきた答えに軽く頭を抱える。その後で言葉を続けた。 「こっちのほうでも苺の流通ルートを確保するから、もし恐山と取引したくないなら連絡くれない?」 「取引相手(おそれやま)の目の前で契約掻っ攫うような営業するとかどーなのよ」 半眼で睨む七瀬。それに動じた様子もなく寿々貴は交渉を続けていた。 「戦闘員の不足とか、資金面の援助ならきっとアークは力になれるよ」 運搬を手伝いながら、悠里もアースサイクルの人と話を続けていた。地元で活動するアースサイクルのようなリベリスタ組織があるからこそ、その地域の生活と平和は守られる。それを救う事も、世界の為なのだ。 「アークとしても、アースサイクルが恐山に寄ったら困るから僕達を派遣したんだしね」 「お陰でこちらは商売上がったりなんですけどね」 肩をすくめる七瀬。その七瀬に向き直る悠里。 「普通の恐山が相手だったら情報を渡したりはしないけど、亜実ちゃんならね」 悠里が語るのは、昨今のアザーバイド召喚の主犯の名。そしてラトニャの性格上、『次』があるということ。 「……とんだヤクネタね」 「まぁ、僕なりの善意の盾って感じかな?」 七瀬は人の善意を利用するフィクサードである。その性質上、他人の善意を軽視できない。一種の借りとして感じるはずだ。 「ねえねえ、つぐみちゃんってだれ?」 「私よ私」 「あみあみはあみあみでしょう?」 そんな会話に夏栖斗が混ざってくる。七瀬はもう諦めた、とばかりに手を振った。 「今、黄泉ヶ辻が動こうとしてる。裏野部が動いて自分も遊ぼうとしてるって」 「……そうね。アークでも色々捕らえてるんじゃないかしら。あそこは『楽しい事ノルマ』とかよくわからないものがでて、色々がんばってるみたい」 若干嫌そうな顔をして七瀬が黄泉ヶ辻の情報を口にする。あまり関わりあいたくない、と言外に告げていた。 「僕、悪党なりにバランスを保ってくれる恐山のことは嫌いじゃないよ。決して好きじゃないし、あみあみのことは大好きだけど敵だとは思ってる」 作業を続けながら告げられた夏栖斗の言葉に、七瀬は本日何度目になるか分からないため息をつき、笑みを浮かべて言葉を返した。 「じゃあ覚えておきなさい。私はアークのことは大嫌いだけど、味方だと思ってるわ」 ● 「きゃー、きゃー。たすけてー」 陽菜が小規模フィクサードにつかまり、悲鳴を上げていた。彼らの眼から見れば陽菜は力なき一般人。いいカモに見えるのだ。 「へっへっへ。おとなしくしてれば痛い目にはあわないよ。少し服を脱いでもらうことになるけどねぇ」 「ゴメン。それはヤだからインドラっ!」 「みぎゃああああああああ!」 陽菜の炎の弾丸が、あっさりフィクサードたちを丸焦げにした。 「……何で……?」 「あ、自己紹介が遅れたね。アークのリベリスタです」 「超エリートじゃねぇかチクショー!」 相手の実力を知り、破界器を投げ捨てて降伏するフィクサード。 「大体ねぇ。女の子を力づくで捕まえてとかだめだよ!」 訥々と説教を始める陽菜。基本的に殺さずに説教の形式を貫いていた。 「甘いよなぁ。見せしめに半殺しにしてもいいんじゃねぇか?」 「必要ならな。この地は血が流れすぎた。これ以上はたくさんだ」 そんな様子を後からやってきた神尾がなじり、伊吹がそれに答える。殺す必要があるなら、最低限の殺しをするつもりでいた。だが、その必要がないなら殺さない。 (個人的にはグレーの範囲であれば組織間の勢力争いに関知する気はないのだがな) 伊吹は恐山とアースサイクルを思い出しながら、肩をすくめる。利潤の為に地域復興に力を貸す恐山と、その力を借りるアースサイクル。利害関係は一致しているため、言うべきことはあまりない。腹の底での考えはともかく。 「利害が一致している限り、恐山は信頼できる。だがやりすぎるのはご法度だ」 「へいへい。ま、人手があるのはいいことだ」 神尾はちらりと怪我人の回復を行っている沙希に目を向けた。緩やかな笑みを浮かべて、沙希が思念で会話する。 (どうします? 邪魔でもしますか?) 沙希のテレパスを、神尾は恐山とアークの関係を考慮しての秘密の会話だと思っていたが、それが彼女の性格なのだと気付く。底を深く詮索せずに、思念で会話を返した。 (邪魔することに意味があるならな。数を競う理由はないんでね) 恐山も四国復興が目的なのだ。わざわざアークと事を構える理由はあまりない。 (アースサイクルに一方的に借りを作ろう、という魂胆でしたか?) (お嬢はそういうフィクサードなんでね。ま、目論見は外れそうだが) そこまで会話して、神尾は歩き出す。それを見送ってから沙希はフィクサードの心を読み、アジトの情報を入手する。それを仲間に告げて、そこに向かう。 一方そのころ。 「……むー。また先を越された?」 波佐見は現在フィクサードたちと抗争中の涼子に出会い、頬を膨らませていた。望遠に加えて透視能力のある涼子の『眼』が相手では、情報戦に一歩遅れが生じる。 涼子の言葉がフィクサードを挑発して、気を引いたところに弾丸を叩き込む。相手のナイフがかする事もなく、涼子は瞬く間にフィクサードたちを制圧する。 「アンタたちがどこで何をしようと、この『眼』から、逃げきれると思わないで」 二度と悪さできないように脅しをかけて、アースサイクルに連絡を入れる。しばらくすれば引き取りに来るだろう。 「前も思ったけどさ。苛立ちながら殴ってるよね、貴女。復興とかつまらないって思ってる?」 何度か涼子と交戦している波佐見はそんなことを口にする。 「そうでもない。少なくとも前の街よりは楽かな」 拳を握り、開く涼子。殴って撃つ仕事は自分に向いている。だが苛立っているのは確かだ。……その正体は自分にも分からないのだが。 「そ、そう? ……ってもう行くの?」 何とかしたい。具体的な何かは分からないけど、そんな激しい感情を心に押し込め、拳を握る涼子。そのまま無言で歩き出す。 ● 復興は大幅に進む。日本のリベリスタTOP組織が動いたことにより、四国のリベリスタ組織も奮起する。何よりもアークの活躍で復興と治安回復が大きく進んだのだ。恐山はこれはどうしとうもないとばかりに身を引く事になった。 「ずっとここで生きて、守って、作ってきた正人がやりたいようにやればいい。アークでも恐山でも使いたいものを使えばいい」 涼子がアースサイクルの代表に向かって口を開く。 「最後の最期に、四国のために戦うのは正人なんだから」 「そうそう。相手は策謀の恐山だ。善意の感謝は当然だけど、自分たちがリベリスタだってことは忘れないで」 「うんうん。美味しいもの沢山作って、四国の為にがんばってね」 夏栖斗が言葉を重ねて、アースサイクルを激励する。その隣でアースサイクルから貰った苺の箱を抱えたエリエリが頷いていた。 勿論不安材料はある。恐山が諦めていない可能性もあれば、ラトニャの日本襲撃もおそらく終わってはいない。他のバロックナイトがせめて来る可能性だって捨てきれないのだ。 それでも仲間がいる。弱った時に助けてくれる同士がいる。疲れて前が見えないときに、そっと傍に立ってくれる者がいる。 それだけで、立ち上がり生きる勇気が生まれてくるのだ。 恐山の四人は車の中で話をしていた。 「ぶー。結局骨折り損じゃないですか。苺だけもらっていいとこなしですよ、お姉さま」 「というかお嬢。アークの襲来は予知できなかったんですか?」 「予知はできてたわ。むしろ予知できたからこそ、私たちに押し付けたのね、恐山の御大は」 「……つまり、これは恐山斎翁自らの策?」 「裏野部が解体されて、七派のバランスは大きく崩れた。それにより、残った組織は様々な方向に動き出したわ。国外に目を向けたり、戦力増強に走ったり」 「相変わらずの組織もありますけどねー」 「じゃあウチの方向性は――」 「……アークとの部分共闘」 「そういうこと。アークとの交流記録が多い私達を使って、パイプを太くするつもりだったのよ、今回のお仕事は」 「えー。アークと仲良しこよしになるんですか? あ、でもアークの女の子って可愛い人多いから歓迎かも。きゅんきゅん」 「ぶれないなぁ、お前。まぁ幻想纏いは確かに魅力だな」 「……七瀬が妖精を使役する技を、波佐見がアークの突撃系列の技を覚えると、戦力上昇につながる」 「あくまで部分共闘よ。基本は今のまま。隙あらば利潤を求めるスタンスは変わらないわ。その上でアークとの関係を強くする。 忘れないでね。リベリスタとフィクサード。境界は曖昧だけど、確かに境界は存在するわ」 七瀬は一旦言葉を切り、部下に言い聞かせるように告げた。 「私(おそれやま)はアークのことは大嫌いだけど、味方だと思ってる。そういうことよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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