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【三防強2014】ふぇろもん

●苦汁3000パーセント
「さよなら!」
 女子高校生、鈴木山 姫奈(ぴいな)の趣味は、運動である。
 彼女はランニングに、フットサル、バレーもなんでもこなす、所謂スポーツ万能少女である。身体を動かさないと落ち着かないのか、下校時は走って帰る事が日課であった。
「えっほえっほ」
 住宅街の道を今日もゆく。
 暦の上では芒種を控え、ジメジメしはじめた空気の中をランニングにて帰宅する。
「たっだいまー!」
 どたどたと、二階にある自分の部屋へと上がる。
 スポーツ選手のポスターや、ぬいぐるみが並ぶ中で、着替える。
 着替えて汗臭くなった肌着などを下に並べると、おもむろに自分の机の――厳重に鍵で閉ざされた引き出しを開けるのである。
「今日も一杯運動したなー!」
 引き出しの中には、一つの大きめの瓶が置いてある。
 中には、ちゃぷちゃぷと液体が入っている。ビンにはラベルで『フェロモン』と書かれている。
 かく、彼女は奇妙な性癖を持っていた。
「そいや!」
 ビンを開く。柑橘系のひどい匂いがする。
 並べた肌着を順番にビンの中へ絞る。一滴、二滴がビンの中の液体に、波紋を浮かべる。
「……冷静に考えると、何やってんだろうね。あたし」
 ビンを締めて引き出しへと戻す。
「お風呂に入ろーっと」
 ビン締めて引き出しに戻す。施錠する。
 次に踵を返すと、引き出しがカタカタ、カタカタと声を出してきたのであったが、少女はそのまま階段を下った。


●『三高平防疫強化施策』
「訳がわからんが……やっぱり訳がわからない」
 『参考人』粋狂堂 デス子(nBNE000240)は、頭痛に耐えるかのように、額に手をやりながら声を絞った。
 さてこの時分。暑さで頭をやられた変態フィクサードや、不衛生の極みとも言えるエリューションが活発化する。
 黒光りする虫とかコバエとかエトセトラ。故に、アークのリベリスタにとって。己の心との戦いとも言うべき敵が――いやさ、主に日本に住んでいる者にとって、等しくつらい敵との相対の時である。
「……E・エレメント。識別名『ふぇろもん』を撃破する」
 ブリーフィングルームに静寂が響く。
「ある女子高生がビンに長年かけて溜めに溜め、凝縮に凝縮を重ねた……『汗』のエリューションだ」
 ブリーフィングルームの静寂が空白に至る。
 こいつ――デス子は一体何を言っているのだろうかと、怪しまれる視線が注がれる。
「そんな目でわたしを見るな! 仕事だ。仕事!」
 デス子は思い出したかの様に、除湿機をかける。
 除湿機はぐろごろごろと、声を出す。調子は悪いらしい。
「場所は住宅街のどまんなか。時間は昼。小さな家だ、あまり広くはない。二階。彼女の部屋の引き出しの中だ」
 プラズマスクリーンに少女の顔が映る。
 ポニーテール。顔はまあまあ。普段から外で動いているのか、日に軽く焼けた様な褐色の肌で、何とも活発そうな雰囲気である。
「彼女と言えば、到着時点で風呂に入っている。母子家庭で親も夜まで帰ってこない。最速で彼女の部屋に行けるなら、その後ピッキング、力づく、革醒直前に10秒ほど余地が出来るだろう」
 つまりは、大きく音を立てない限りは秘匿できる事と、一軒家の一部屋――場所が悪いなら、窓から外に放り出して広い所で相手しても良い訳である。
「エリューションの詳細は?」
「……ビンから飛び出して、3mのスライムになる」
 頭痛が痛くなってくるような話である。
 スクリーンが切り替わる。ちょっと黄色味かかったぶよぶよのスライムである。この黄色が何とも生々しい。
「女の汗というのは、私が言うのもアレなんだが。柑橘系の臭いというかな。酸っぱい感じというか。凝縮されて革醒して一層に濃くなっている。強烈だ。臭いだけで目に沁みる。十分、準備の上で挑んでくれ」
 こいつは一体何を言っているのか。
「宜しく頼んだ!」
 デス子が部屋を離脱しようとする。
「ダメ」
 しかし、リベリスタ達はデス子の退路を塞いだ。




■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Celloskii  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月17日(火)22:45
 Celloskiiです。
 特殊な性癖を持っている方には臭い系のダメージが軽減されます。衝撃ダメージは入ります。
 明示的にプレイング中にカミングアウトしてください。
 コトによっては、『回復』もありえます。

●状況
 場所:一軒家。狭いです
 時間:昼
 デス子:同行します。何か指示があれば応じます
 相談中【デス子プレイング】と書いた最後の発言をデス子への指示として扱います。
 鈴木山 姫奈:一般人。到着時点で風呂に入ってます。


●エネミーデータ
 E・エレメント『ふぇろもん』
 フェーズ1.5相当。フェーズ1にしては強い部類です。
 一般人の女子高生、鈴木山 姫奈が長年溜めに溜めて凝縮させた汗のエリューションです。若干黄色いです。

 ・汗汁乱舞
 ・柑橘系
 ・視覚と味覚に浸透する
 ・更に凝縮(EX)


参加NPC
粋狂堂 デス子 (nBNE000240)
 


■メイン参加者 6人■
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ハイジーニアスデュランダル
雪白 桐(BNE000185)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ジーニアスダークナイト
葛宮 静夜(BNE004813)
ビーストハーフマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)

●沈痛
 暦の上では、芒種という。
 小満と夏至の間であり、日を跨いでも止まない雨が降る。五月雨も降る。
 かく芒(のぎ)のある植物といえば、稲や麦達である。
 彼等にとって恵みの雨が降る節句であり、種を蒔くには最適な時分とされている。やがて秋には黄金色の穂を風に踊らせるのだろう。美味しい穀物へと変わるのだろう。
 何とも古来から続く四季折々を、しかと身に感じる時分である。

「俺もそれなりにアーク長いけど、こういう依頼は初めてだわ……」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、沈痛といった風情の面持ちで道をゆく。
 隣で、『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)がこくこくと頷いて、視線を快へとやり、やっぱり正面へと戻す。
「神秘、と言うやつは……奥、が深い。私も、色々と見てきた、けど……汗、は初めて、見た」
 生温い空から、湿気のある6月の風がぺらりぺらりと来て、肌を眠たそうに煽る。
「まあ、面白そうな相手、だし……やろう」
「……」
 快は口を閉ざす。
「たまに妙な物を収集したり纏める方はいますが、今回は汗ですか」
 後ろで雪白 桐(BNE000185)が表情の無い顔で、今回の依頼のその要所を反芻する。
「流石に『女子高生の体臭最高><』というような趣味は持ち合わせていませんから、ちょっとどんびきなんですが」
 淡々というも、内心は今直ぐ回れ右をして帰りたく思っているのが本心である。
「全くだな」
 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が、ぷかりと紫煙を吐き出した。
「鼻水とか汗とか、最近なんだか難儀な依頼が巡ってくるもんだよなぁ……」
 烏が首を捻る。つい最近に、鼻水を発射したり鼻を伸ばして色々貫いてくる虚無僧(臭い)と戦ったばかりである。
 いやさ、あの虚無僧達の案件の方がマシである。無害で愛らしいアザーバイドも居た上に、知り合いと酒が飲めた。まだマシである。
「……」
 葛宮 静夜(BNE004813)が、最後尾にいるデス子を尻目で見る。視線が交差するや、デス子は明後日の方向を見てごまかそうとする。
 視線を正面へ戻す。
「手伝いに来たが内容が……真面目人間の俺は普通にしか反応できないんだが」
 例えるなら『お、おう』という狼狽の心境である。
「とりあえず終わって帰ったら、この依頼を勧めるだけ勧めて自分は入らなかった駄狐を泣かせておこう」
 静夜の言葉に、『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)が、耳をぴくりと動かし「ん?」という表情で顔を向ける。
「いや、身内の話だ。月草じゃない」
 静夜が右手を左右にふる。
「ああ、びっくりした」
 ホっと一息ついた文佳は、長い髪をかきあげて、再び嘆息する。
 嗚呼、それにしても、なんというか、かんというか。
「わけがわからないよ」
 堪らず文佳が吐き捨てる。
 吐き捨てた横で、いつの間にかデス子が『◕ ‿‿ ◕』というお面を被って側にいる。
「これはあくまで狐さんのお面だ。決して怪しいものではない――いるか? 文佳」
 そんな狐がいるか。
「……いいえ」
「相手は手強い」
 その後、リベリスタ達の口数は途絶える。トコトコと現場を目指しゆく。
 本日は一層に静かである。
 住宅街をゆく人々の往来も、奇妙な程に淡白に思われる。
 日頃であれば、風に揉まれる雲を眺めたり、目的もなくぷらりぷらりと歩く贅沢の、名状しがたい楽しみがある。
 されど、この6月の風も見方を変えれば不快指数となって重みを増し、沈痛という空気を重くする。
 ただただ、いたたまれない。
 何か喋らんとして、言葉につまること数回の後に――目的の家は眉の上にそびえ立っていた。
「塩ラーメンにしたら売れたりしてね。炎上マーケティング待ったなしだな」
 桃源へ遡りかけていた快が我に返る。いやさその言葉に、返ったのかは実際怪しまれる。
「いこう。翼の、加護おねがい」
 天乃が促すと、デス子からの翼の加護が全員の背中に降ってくる。
 天乃は気配を消して徹底する。
「ドアはやる」
 静夜がスッと前に出る。ドアノブの鍵穴に針金を挿して、ものの1秒2秒の後にキイとドアは開かれる。
「さて」
 桐が、開かれたドアに突入する。
 既に得物は握られている。その後ろから天乃と烏が続き、階段を上がって二階へと行く。
「鈴木山さんの対応に行ってくるよ」
 一方で、文佳が古き良き時代の古風なラジカセを片手に持って、一階の奥の奥、浴室へと飛んでいく。
 環境音を鳴らして、物音を消す策である。
 二階へ行った面々は、廊下の向こう。すぐに鈴木山の部屋の前に至る。
 天乃がドアノブに手をかけて開く。
 開いた所を桐と烏がするりと侵入する。桐が窓を開く。
 一方で、烏が引き出しの鍵を砕いて開ける。中からビンが現れる。液体はちょっと黄色い。
「晦さん」
 桐の声。烏が応じるように窓の外へとビンを投擲する。
 窓の外の空中には快がいる。快がビンをキャッチして、すぐ下にいるデス子にパスをする。
「飲み干せたのなら一件落着」
「なんだとう!?」
 デス子が快を見上げて驚愕する。
 天乃が窓際へとやってきて、上体を乗り出してデス子に追い討ちをかける。
「とりあえず、は一気飲み、してもらおうか」
 たちまち、静寂が満ちる。
 天乃の視線。快の視線。
 天乃がしっとりと続ける。
「何とかなる、とは思わないけど……簡単なお仕事、と呼ばれるベテランの集う仕事、では食品関係のエリューション、は食べれば何とかなる、らしいし……」
 『試す価値はある、よね』
 永遠ともつかない長き時間が、短き時の中で駆け抜ける。


●リベリスタ達は帰路につく
 黄昏。夕日が向こう側へと沈んでいく。
「口直しに飲みますか?」
 桐がデス子にジュースを差し出す。見ればげっそりしている。無理もない。
「良かった、ですね、その……何事もなく」
 天乃が若干引き気味に、デス子から距離を置く。
「……」
 静夜が狼狽する。エリューションが余裕で発生していても不思議ではないのに。10秒経っても現れなかったのだから。
 つまり『コトに及んだ』と。
「ええと」
 その後、一階の対処を済ませて駆けつけた文佳も、奇妙な空気に『まさか本当に』と汗を浮かべ、現に納得すべきかどうなのかを苦しみながら帰路に足を進める。
「若いってのは過ちを繰り返すもんだもんな、度が過ぎると中二病ノートとか書き始めるわけで。ああ粋狂堂君じゃ無くて」
 烏が空を眺めると、茜色の空に、重々しい6月の雲が浮かんでいる。湿気で湿ったコンクリートの異臭が鼻をつく。
 やがて、雨が降る前触れの空気である。
「ん……何か、腥いな」
 静夜が呟く。
 ふとコンクリートの異臭に、どこか柑橘系めいた匂いがする。
「皆、しっかりするんだ」
 快の声が響く。そういえば快は何処へ行ったのか。
 たちまち、破邪の光の白一色が視界に満ちる。
 光が収束した次に、黄昏の茜色も帰路も、6月の重々しい雲も硝子の様に砕け散る。

 空はまだまだ青い。
 眼前にぶよぶよとした、3mのスライムが鎮座する。うねうねとしっとりほんのり黄色い。
「やっぱりこれはちょっと……無いわ」
 せいへき:ノーマルな、快が立つ。
 過去にセミ人間という風体のエリューションにセミセミされて、社会的な運命が色々削れられたりしているが、このスライムは何というか更に厄介だと断じる。
 ノーマルだ。あくまでノーマルなのだ。
「……混乱による幻覚?」
「そういう事ですか」
 天乃と桐が頭を左右に振って自らに気付けをする。鼻孔や味覚に突き刺さる異臭は確かである。
 絶対者――あらゆる状態異常を受け付けない快がいなければ、ゆっくり飲み込まれていたに違いない。何とも危なかった。
 ふと見るとデス子は、直接ビンを握っていた関係か、スライムが飛び出した瞬間に直撃を受けたらしくぐったりしている。
「なんか、まじで匂いきついんだが」
 静夜が吐き捨てる様に言った。
 女子高生の香り! とはいえ、長年に熟成されたものである。世の中にはご褒美とかいうのも居るらしいと考えて、頭から片付ける。くさいものはくさい。
「おじさんは、粋狂堂君がそんな事する筈がないと信じていたよ。信じてた。ああ信じてた」
 烏が、遠い目をしながら風上に移動して銃を構える。静夜、天乃と桐、共々に自付を施していく。
「あんなリアルな幻覚、混乱を、臭いだけで発生させるなんて……すごいと言うより、その、ちょっと遠慮願いたいわね」
 文佳が、じりじりうわぁと後退りながらも、杖に力を込める。魔法の弾丸を発射する。
 初手。第一射は精確にスライムに突き刺さり、黄色がごぼりと濁る。
『ふぁ~~~~』
「驚きですね。喋るのですか」
 桐が自らの鼻に洗濯バサミを施しながら吶喊する。
「120パーセン……うあう」
 匂いが目にしみる。涙あふれる。グスっと涙拭きながら、剣の握りを改めて一刀を下す。
「柑橘系の臭いも過ぎれば悪臭なんだよな。地下鉄とかの閉鎖空間で臭いを嗅ぐ羽目になるとキツイ」
 烏が神秘の閃光弾を投擲して、スライム内部で炸裂させる。敵を拘束する技であるが、全く衝撃が無いかといえばそうでもない。
 ちょっと飛び散る。
『ふぁ~~~~』
 よくよく聞けば、微妙に萌えボイスというあんまりありがたくない仕様である。
 天乃が疾走る。
 烏が放った麻痺で拘束は成功しているならと、ハイアンドロウ――即ち神秘の爆弾を掌に創造する。叩きつける。触らないよう、器用に。
「あ」
 桐が短く言う。
「……?」
 神秘の爆弾が炸裂する。臭いの源が盛大に飛び散る。ハイアンドロウの反動である。
 静夜は、この飛び散った液体を必死で回避する。
「帰りは電車で帰らないといけないんだよ!」
 周りから白い目向けられつつ電車に乗る等、凄まじい罰ゲームである事は想像に難くない。
 怒りを込めて、薙刀を振るう。先端から生じた滴の如き闇の波動が、スライムへと注がれ薄い黄色を黒色が侵食していく。
「こんなのにやられたら、その――」
 文佳は粛々と魔力を練って発射するを繰り返す。
 文佳にとって、かわいい女の子は嫌いではなく、世間一般で言うところの「百合」には興味ある方だと自認する。
 可能なら年下のかわいい女の子にハグしたり着せ替え人形にしたり、色々してみたいとも思うのだが。
「末代までの恥だと思う」
 かく、戦いの火蓋が切られた瞬間から、全力の猛攻撃がスライムへと注がれる形と相成った。
 力量言うならば、このエリューションはフェーズ1よりは重くも、2よりは軽い。この場には精鋭がいて、静夜の不吉の付与も後押しもある。
 3mもあったスライムは、みるみる内に小さくなっていく。
「できるだけ飛沫がかからないように――無理か」
 快の目には、何とも座った半目を更に座らせている天乃が映る。
 上着を脱ぎ捨てて、得物を抜き肉薄。身体ごとぶつかる様に輝く剣を振り下ろす。
 直ぐに抜いて、半身を反らす。そこへ文佳と静夜の光と闇が走り抜けて来て、スライムを穿つ。
 衝撃で凹んだスライムの、その凹みを寸分違わずに烏の銃弾が押しこんでくる。
「近接を引き受けてくれるありがたいメンバーを有効活用して、おじさんは確実にダメージを当てていきます」
 突如、ここで異臭を撒き散らしていたスライムがぶるぶる震える。
 どんどんと凝縮していき、それは粘土の様に人型へ変わっていく。
 全身は半透明のスライム人間、その顔はまさにブリーフィングルームで見た鈴木山と同じ顔であった。
『ふぁ~~~~』
 周囲の異臭は、さらに重く濃く、鼻孔と味覚に突き刺さる。


●不倶戴天
 人型へと変じたスライムは、先程とはどこやら違う。
 悠然と前衛に歩み寄ってくるスライムであったが、ここで前衛に異変が生じた。
「!?」
 桐が胸に苦しみを覚えて口に手を当てると、血が掌に納まっている。
 すぐに目が回る。視界が揺れる。黄昏が昇ってくる――また混乱か。
「カハッ」
「……っ」
 近接距離に在る、快も天乃も例外なく、口から出てきた赤い液を自覚する。
 快が即座に破邪の光を放って、混乱を振り払う。
「畳み掛けるんだ」
 快の声に応じて、天乃が袖で口を拭きながらも、地を滑る様な低姿勢で疾走る。すれ違う様に、気糸でスライム少女を縛り上げる。
『ふぁ~~~~』
 スライム少女はたちまちに姿勢を崩し、呪縛で身動きを封じられる。
「少しでも早くこの匂いから開放されたいですから、全力で攻撃を叩き込みますね」
 そこへ桐が得物――マンボウの如き剣の側面を上から下へぶつける。
 スライム少女はたちまちに、ぐちゃっと潰れるも、その剣の腹を押し返してくる。
「少し待て……烏、静夜、文佳」
 振り向くと、元・フィクサード『魅了者』がドリルの様なパイルバンカーの様な得物を構えている。
 デス子の得物から、ドリルが飛び出す。気が狂ったかのような回転を帯びてスライム少女の体内で回転する。かく崩壊の付与である。
「それ持ってきたのかい……粋狂堂君」
 烏が、スライムの体内で回転するドリルの中枢を穿ち、そのドリルを四散させることで、スライム少女を大きく削る。
「仕留める」
 静夜が今一度に、暗黒を放ちスライム少女を黒く染め上げる。かく不吉の付与である。
「もうひと押しよね? 多分」
 文佳の魔力もいよいよ最後であった。
 全身から絞り集めた最後の一射。ならば全霊も意思も込めて放つと、静夜の不吉が乗る。
 スライム少女の下半身が爆ぜる。
『ふぁ~~~~』
 天乃が気糸に力を込める。呪縛の維持は、動くことを許さず。快のラストクルセイド――雷陣の衝撃が走り、スライム少女はぺたっとうつぶせになる。
「必要ないかもしれませんが、念入りに」
 桐が淡々と剣をもう一回上げる。側面を下す。ぐちゃっと音がする。
 剣を上げるとあっけない。地面にはエリューションの染みの他には何も残っていなかった。


●リベリスタ達は帰路につく
「口直しに飲みますか?」
 桐が消臭剤を振りまきながらも、皆にジュースを差し出す。各々げっそりしている。無理もない。あれ、デジャヴ。
「なんていうか、相手が相手だけ、に……なんとなく、自分の汗、が気になる、ね」
 天乃が自らの二の腕や服等を確かめると、すぐそこで快が脱いだ上着を手繰り寄せている。
「上着だけでも退避しておいて良かったよ」
 快はポンポンと土埃を払って着る。
「私、は気にしない、けどね……エリューションほど臭い、のは勘弁して欲しいけど、闘う者の汗、は尊いものだから、気にしない、よ」
「そうかな」
「そう、おもう」
 烏は隅っこで、飄然と隅っこでタバコを吸う。
 最大遠距離であったものの、それでも鼻がおかしくなっているのか。臭う様に思えた。
「クリーニングにだしたら臭いが抜けると良いんだがなぁ」
「ひどい目にあった。クリーニング代は絶対に経費で落としてもらうつもりだ」
 最初に液体を浴びていたデス子が通り過ぎると。
「うぐ、ごほっ」
 タバコの吸い込みに、臭いを巻き込んで盛大に咽る。
「終わった……」
 静夜は塀に背中を預けながら、一層にぐったりしていた。
 これからの帰り道の罰ゲームを考えると何とも苦痛である。
「誰か……匂い消せるもの、貸してくれないか?」
 たちまちに文佳から消臭スプレーが差し出される。
「持ってきているわよ。物が汚れる被害は兎も角、臭いだけでも……あら?」
「ん……?」
 静夜と文佳は、首の後ろに冷たさを覚える。
「雨か」
「雨ね」
 6月の空からぽつぽつ雨が降ってくる。
「少しは臭い消えますかね」
 桐が見上げて言う。にわか雨か本降りか。
 やがて、さあさあと勢いが増してきて、薄墨色の世界の中でリベリスタ達は帰路をゆく。

 今度は幻覚はでない。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 Celloskiiです。
 ちょっとマニアック過ぎました。
 お疲れ様でした。