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五枚花弁の薔薇祭り


本部に数あるブリーフィングルームのうちの一室。広々と戸を開け放ったままの状態にして、『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)はゆるりとお茶を啜っていた。
室内をのぞき込むリベリスタがいれば、椅子に座したまま誰彼かまわず声をかけて中へ呼び込んだ。
「やあ、そこの君。いま急ぎの案件を抱えているかい? ない? だったらちょっとここへきて話を聞いてよ」
 手招きに応じてやってきたリベリスタに茶を出したあと、健一はにこにこと笑いながら1枚のリーフレットをテーブルに広げて見せた。
リーフレットには騎士、貴婦人、民族衣装、魔法使い、乞食など、16世紀後半のコスチュームを身に着けた人々を写した写真と、異国の文字が躍っていた。
「チェコのリベリスタ組織『白バラの祈り』から、アークの過去2回にわたる協力に感謝して、チェスキー・クルムロフで行われるお祭への招待が来ているんだけど……まあ、よかったら一緒に行かないかい?」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:そうすけ  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月22日(日)22:45
●五枚花弁の薔薇祭り
チェコ共和国のチェスキー・クルムロフで毎年6月に行われている「五弁のバラ」祭を楽しもう、という内容です。

●祭に参加する条件!
全員、16世紀後半のヨーロッパ・コスチュームを身に着けてもらいます。
騎士、貴婦人、魔法使い、道化、乞食などなど、中世ルネサンス時代の雰囲気のあるコスチュームであれば何でも構いません。
コスプレの工夫次第では翼や猫耳なども幻視で隠す必要はなくなるでしょう。
メタルフレームなどはサイバーパンク風味のコスプレで多少ならごまかしがききます。
なにせお祭りですから。
コスプレの内容はプレイングでご指定ください。

●なにをする?
【A】市内散策
 中世ルネサンス時代の人になりきって市内散策。
 旧市街のあちらこちらで、クラシック音楽の静かな生演奏が行われています。
 また、町の各所に市場やステージが立っています。
 音楽を聴きながら、露天で焼きたてのパン菓子や冷たいジュースでもいかがでしょうか?
 夜にはお城をバックに花火も打ちあがります。

【B】ステージ出演
 町の広場のステージで、音楽演奏、合掌、フォークロアダンスなど。
 地元の人や観光客相手に芸を披露してみませんか? 寸劇もOKですよ。

【C】お城の庭。人間チェスと遊戯スペース
 ・人間チェス
 お城の中庭の一角で、人間チェスを行っています。
 白と黒のどちらかに入って駒ごっこ楽しむもよし。勝負の行方を静かに見守るもよし。
 ・木の回転いす
 ぐるぐる回された後に、椅子を下りて平均台の上を渡り切ったらお菓子がもらえます。
 ・平均台ゲーム
  両端に大きなゴムボールがついた武器で、平均台の上から相手を落としたほうが勝ち。
  勝った人にはお菓子がもらえます。

【D】その他
 ほかに何かしたいことがあればお使い下さい。

●参加NPC
・佐田健一
・ヴィエラ・ストルニスコバー。『白バラの祈り』の中堅リベリスタ。
・イグナーツ・ベラーネク。『白バラの祈り』のフォーチュナ。

NPCたちは適当に街をぶらついています。声がけすれば付き合ってくれます。
佐田健一は赤と黒の道化の恰好をしています。
ヴィエラ・ストルニスコバーはフライエンジェの羽を生かして中世フレスコ画風の天使コスプレをしています。
イグナーツ・ベラーネクは修道士の恰好をしています。

●注意
・このシナリオはイベントシナリオです
※参加は50LPです。
※イベントシナリオでは全員の描写が行われない場合もあります
※報酬はVery Easy相当です

プレイングには簡単な仮装の内容と、【A】~【D】の場所指定をお願いします。
屋台ではアルコールなども提供されていますが、未成年者の飲食は禁止です。
また、倫理規定違反や他人の迷惑になる行為、そして白紙は全て描写外とします
特定のPCと一緒に行動する場合は相手の名前(ID)を書いてください。またはグループタグを作って記載ください。


それではご参加お待ちしております。
参加NPC
佐田 健一 (nBNE000270)
 


■メイン参加者 19人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ジーニアスナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
アウトサイドホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ノワールオルールスターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアススターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
ハイジーニアスデュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
アークエンジェホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
サイバーアダムマグメイガス
セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)
ビーストハーフスターサジタリー
晴夏 彼方(BNE002859)
メタルフレーム覇界闘士
伊藤 サン(BNE004012)
ギガントフレームレイザータクト
アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)
ヴァンパイアマグメイガス
チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)
ビーストハーフアークリベリオン
クラース・K・ケーニッヒ(BNE004953)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)
ジーニアスプロアデプト
戯 ぐるぐ(BNE005021)
   


「三高平以外で幻視せずにぶらぶらできるなんて素敵だね」
 中世貴族の衣裳のそこかしこに取りつけられた歯車と、ぴかぴか光る真空管。幻視を纏わぬ生の姿に正体不明のレトロガジェットをふんだんに取りつけて、中世に時を巻き戻した街を歩くのは伊藤 サンとアンドレイ・ポポフキンだ。
「ソウデスネ、こういったお祭り騒ぎは平和の証、良い事デス」
 つかず離れず。サンの斜め少し後ろを歩くアンドレイの顔には微笑みが浮かんでいた。初夏の風に導かれ、友とふたりでのんびり街を歩く。すれ違う人々の中に見知らぬ顔の覚醒者を見かけることがあっても、ひょいと帽子のつばを上げて羽を揺らし、やあ、と互いに目で言葉を交わしあうだけですんでいた。
 争いなし。なんて素晴らしい。 
「色んな人がいる……色んな音も聞こえるし、とっても賑やか」
 サンは橋の真ん中で足を止めた。橋の下をヴルタヴァ川下りに興じる人々の歓声が流れていく。耳に手をあてて目を閉じ、若葉の匂いと華やかな祭の音を体いっぱいに吸い込み、しばしもの思いにふけった。
「……あ。ぼーっとしてた。ごめんよぽぽ、アレなら君、好きなとこ行って来てもいいんだよ?」
「イエイエ、貴族(貴方)を見守るのが小生(騎士)の役目デスカラ。今日はソウイウ事ナノデセウ?」
 おどけ調子で敬礼してみせるアンドレイ。ガジェットだらけで何やら厳めしい衣裳となったが、サンを見つめる視線は柔らかい。
「あははーそっかぁ、そうだね僕は今スチームパンク貴族って事になってるんだっけ。じゃあワガママ言ってもいいよね?」
 ギガントフレームの騎士は、主人のワガママをわくわくしながら待った。
「圧政こそ貴族の華よぉ!」
 へっ、とアンドレイが目を丸くしたのは一瞬のことで、すぐさまスチーム・ガンを構えるとサンの即興芝居に応じた。
「……圧政(ざわ(騒ぐロシアの『赤い』血」
 アンドレイのガンから吹き出した蒸気に驚いて、中世の人々が「わあ」だとか「oh!」だとか声をあげる。
「あっ、ごめんなさい革命だけはやめてくださいураしないでっ」
「ハハハ。冗句デスヨ。幾らでもお好きに……と、何でショウカ??」
 主人を守る騎士の後ろから、写真をとってもいいか、という観光客の申し出に、サイバーパンク貴族のサンは鷹揚に頷いた。
 キラキラと日差しを弾いく川面の上、チェスキー・クルムロフ城の中でひときわ目立つ存在である円形の塔を背景にして、サンとアンドレイは並んでポーズを作る。
 しばしの間、橋の上はふたりの撮影会場となった。
「ええとぉ、じゃあ僕イチバン高い所に行って一番高い所からこの様子を見てみたいな」
「フム、良いデスネ。デハあそこの建物など如何デス」
 アンドレイは円形の塔を指さした。
「OK、あそこまで競争ね」
「勝負となれば負けませぬよ。小生、負けず嫌いデスカラ」
 僕だって。勝ちは譲らないよ、とサンが受けて立つ。
「いざ尋常に勝負ッ!」
「よーーーい ドン!」
 サンの合図でふたりは城へ向かって駆けだした。
「アッ伊藤君早い!? ぐぬぅううむ!」


 チコーリア・プンタレッラお目当ての人物は、城に5つある庭のうち橋を渡って最初に入ることができる中庭にいた。赤と黒の道化衣裳を着こみ、観光客の一団から離れたところでひとりぼーっと壁に描かれただまし絵を眺めている。好都合だ。
「和菓子屋さーん!」
 チコーリアはリンゴとポテト、キュウリ、その他もろもろの野菜を入れた木桶を大事に両手で抱え持ち、緑と赤の長い裾の許す範囲の早足で佐田健一のもとへ向かった。
「やあ、チコちゃん。果物売り娘の仮装かい? 可愛いね」
「ありがとうなのだ。和菓子屋さんもタイツぴちぴちの面白い恰好をしているのだ」
 被っている帽子も履いている靴も面白い、というと、健一はハハハと声をあげて笑った。
「道化冥利に尽きるね。ところで、1人でどこへ行くの? さっき、伊藤君とポポフキンさんが駆けっこしながら塔の方へ行ったけど」
「和菓子屋さんと一緒に、お堀のクマさんを観に行こうと思っていましたのだ」
 今いる第一の中庭の向こう、第2の中庭に入る手前には堀があり、そこで3頭のクマが飼われていた。
 チコーリアは数か月前にもチェコのリベリスタ組織『白バラの祈り』の依頼でこの街を訪れていたが、冬だったために堀のクマに会うことができなかった。
「クマさんたちにエサをあげたいのだ。許可は取っていますのだ。お付き合いしてくださいますか?」
「喜んで」
 健一は膝を折ってチコーリアに会釈すると、華奢な腕の中から重い木桶を取り上げた。ついでに走ったことでずり落ちかかっていた頭の花飾りを直してやる。道々歩きながら、可愛いい道連れを相手にガイドブックで仕入れた知識を披露した。
 城でクマを飼うことになった有名なエピソードに、城まで王様を追いかけてきたクマが橋を渡りきれずに堀に落ちてしまったというものがある。落ちたのはメスのクマで、堀で子供を産み育て、世代交代を繰り返しながら現代まで住み続けているという話だ。
「本当は、14世紀にこの城の主だったロジェンベルク家がイタリアの名門貴族オルシーニ家との親戚関係を示すために熊を飼い始めたんだよ」
 なぜ熊なのか? 
 説明しようとした健一よりも早く、チコーリアが答えた。
「オルシーニはorso、クマの名前じゃないですか?」
「あ、チコちゃんイタリア人だったっけ?」
 チコーリアのいうとおり、オルシーニ家の名は「オルソ(熊)」が由来だ。家紋にも3頭の熊が描かれている。
 ちぇ、と健一が拗ねたフリをしたところで堀にかかる橋にたどりついた。
 チコーリアは鉄柵を手で持ち背伸びすると、堀をうろうろしているはずのクマを探した。
「……見えないのだ。あ?」
 突然、ひょいと体が持ち上がった。見かねた健一が後ろから抱え上げてくれたらしい。
 チコーリは黒い鉄柵の間から掘をのぞき込んだ。
 クマが一匹、橋のすぐ下で大きなおしりをこちらへ向けて座っていた。残りの2匹は反対側にいるのか、それとも橋の下にいるのか。見当たらない。
「がうがうがう! がうがうがううー(こんにちはクマさん! あつまってくださいー)」
「あはは。チコちゃん、クマの言葉が分かるのかい?」
 もちろん分かる。チコーリアはタワー・オブ・バベルのスキルを持っているのだ。
「あ……」
 苦笑いでバツの悪さをごまかす健一に、チコーリアは木桶をくださいと頼んだ。
 堀ではチコーリアの呼びかけに集まったクマたちが、なにごとか、と並んで橋を見上げている。そこだけを見るとまるで動物園のようだ。とても城の中とは思えない。
 チコーリアはニコニコと笑いながら、真っ赤なリンゴを1つ2つ堀へ投げ入れた。
「はい、リンゴ。和菓子屋さんもクマさんにエサをあげてくださいなのだ」
 ぽいぽいぽい。
 ふたりが投げ込むリンゴやジャガイモ、キュウリをクマたちは両手を使って起用にキャッチした。


 覚えたてのチェコ語でにこやかにあいさつを交わす。以後もチェコ語で、と行きたいところだが始めて1週間そこらではさすがに無理だった。
「過去2回の協力っつっても、1回はペリーシュナイトに負けてるのに義理固いこったぜ」
「いや……あのときは本当に申し訳なかった。もっとわたしの予知能力が高ければ仲間をみすみす失わなかっただろうし、貴方たちを危険な目に合わせず済んだ」
 たしかに。そうかもしれない。
 フェルディナント2世風の黒い甲冑に王冠を頂いた斜堂・影継は、やはり黒の甲冑を着込んだ新城・拓真とともに濃灰色の粗末な修道服に身を包んだ『白バラの祈り』のフォーチュナ・イグナーツを誘って城の庭園へ向かっていた。イベントのひとつである、人間チェスに参加するためだ。ゲームを楽しむ傍ら、イグナーツからチェコのリベリスタ活動などについての話が聞ければいい、と考えてのことだった。
 影継はうなだれる男の肩に手を置いて、まあまあと慰めた。それどころか、逆にあの一連の事件で一気に仲間を失った『白バラの祈り』を心配した。
「もともと小さな組織だったが、あれでまた一回り小さくなってしまったよ」
 事件後、組織をあげて新人リベリスタの発掘と育成に走り回っているという。
『白バラの祈り』の発足は第二次世界大戦の最中。ナチス・ドイツに所属する覚醒者たちと戦うため、それまでバラバラだった国内のリベリスタたちが一致団結したのが始まりだった。
「……というと、あのリヒャルトたちと戦っていた?」
 拓真の脳裏に日本を襲った猟犬たちの姿がよみがえる。
「バロックナイツの? いや、彼は終戦直前に覚醒したと聞くよ。大戦後から貴方たちが倒すまで、恐怖と憎悪の対象であったことは確かだが」
 大戦が終結後、せっかく1つにまとまった組織は共産政府の下であっけなく2つに割れた。共産党独裁時代、自由を求めて戦ったイグナーツたちはフィクサードと呼ばれる立場だった。
「正義の立場のなんと危ういことよ」
 イグナーツはフードを跳ね上げると、からからと笑った。
 その一党独裁時代も終わりも告げ、すったもんだの末の組織再編を経て、ようやく今の『白バラの祈り』となったという。
「だからうちにはわたしを含めてフォーチュナがたった3人しかしない。なのに、仲がきわめて悪い。それぞれが的中率トップを自称しているからね」、とまた笑う。
 フォーチュナだけでなく、その他のジョブも軒並み不足していた。個々の実力も他国のリベリスタ組織に比べて低い。イグナーツはそのことを隠そうとも誤魔化そうともしなかった。
「なあ……斜堂、新城、うちに来ないか? すぐに幹部になれるぞ」
 軽く呟いた風に聞こえたが、冗談にしては目が笑っていなかった。
 影継はイグナーツの顔からついと目をそらせると、「まあ、また手に負えないペリーシュナイトみたいのが出て来たら呼んでくれ。飛んで来るぜ」、とかわした。
 拓真が、おっ、と声を上げる。
 目の先に黒と白の駒たちが集まっていた。
「折角やるからには勝ちたい所だが……さて、どうなるか」
 拓真は黒のナイトに任ぜられた。チェスは何度か盤で遊んだことはあるが、ルールは詳しくない。隣にいたイグナーツにそう言うと、「ナイトは将棋の桂馬と似ている。だけどナイトは八方向に動けるよ」と教えられた。
 ちなみにイグナーツは黒のビショップ、影継は黒のキングだ。
「……まあ、お祭りの雰囲気を楽しめればそれで良しとしよう」
 なんといっても祭を楽しむことが大切だ。
 トスの結果、先行は白が取った。
 すべての駒が配置に着いたところで審判員が開始を宣言し、巨大なチェスクロックの白の側の針が動き始めた。
 3時間後。
 ゲームは兵力不足、どちらもキングとナイトのみが場に残る形で引き分けとなった。
「お疲れさま」
「いい勝負だったな」
 白のチームに声をかけ、三人はその場を後にした。気がつけば道を照らす日の光にほんのりとアプリコットの色が乗っている。あと数時間もすれば空に星が戻ってくるだろう。
「ちょっと早いが夕飯にするか?」と影継。
「いいね。美味しいをたくさん食べ漁ろう」
 拓真の黒い甲冑の下で腹が大きな音を立てた。


「ひさしぶり」
 なじみのある声に顔をあげた『白バラの祈り』のリベリスタ、ヴィエラ・ストルニスコバーは、御厨・夏栖斗の笑顔よりも早く、同性から向けられる嫉妬の視線に気づいた。
 褐色の肌の、女なら誰もが振りむくであろう美青年が、片腕に兜を抱え、銀の小手で日差しを弾きながら自分に向かって手を振っている。女としてなんと鼻の高いことか。
 ふふん。いっぱい嫉妬していいのよ。もっと羨ましがって。
「よく来てくれたわね、夏栖斗。また会えて嬉しいわ」
 ヴィエラは木陰のベンチから立ち上がると、女たちにみせつけるように銀の甲冑で覆われた腕に自分の腕を絡ませた。
「前はくやしかったな。Dが何するつもりかわかんねぇけど、次は負けないよ……ってそんな話するとこじゃないよね」
「ううん。かまわないわ」
 実のところ、夏栖斗が自分に話しかけている、という状況がとても大事なのだ。チクチクと刺さる女たちの視線が心地よい。話の内容はなんでもかまわなかった。
「そのDなんだけど、バロックナイツと一緒にギリシャ国境に近いユーゴスラビアのある 場所で目撃した情報が入ってきているの。詳細を得ようとしているところなんだけど……」
 国外の事だからなかなか確認がとれないらしい。
「協力を申し出たのよ。Dたちとは一度、戦ったことがあるからって。そしたら、わたしたちに頼むぐらいならオルクス・パラストに応援を頼むって言うじゃない。失礼よね。あ、夏栖斗、いま同じこと思ったでしょ?」
 ひどいわ、とプンプンしながらヴィエラは強く夏栖斗の腕を引き寄せた。わざと胸に押しつける。
「思ってない、思ってない」
 夏栖斗はドギマギしていた。オルクス・パラストのほうが『白バラの祈り』より確かに頼りがいがあるな……と内心思ったことを指摘されたからではなく、ち、乳が……てか、甲冑邪魔!
「ほんとだよ。それか本当にあのDなら僕たちだって駆けつけるのにね」
 にやけそうになるのをかろうじて堪え、凛々しい顔でエスコートを続ける。
「また、手伝いが必要ならいつでもいくよ。ヴィエラちゃんが応援してくれるなら、いつでも」
 賑やかな笑い声と音楽が聞こえて来た。坂を上り切ったところで有志によるダンスパーティーが行われているのだ。デートの前の事前チェック、これ大事。
「っていうわけで、天使のお姫さまとダンスが踊れたらと思ってね」
 一曲、お相手願えますか?
 夏栖斗はヴィエラの前に回り込むと、白い手を取ったまま深々と体を折った。
「もちろん。一曲と言わず、踊り疲れるまで」
 天使がぱっと笑顔を咲かせる。
「前々から美人だとは思ってたけど、いつもに増して美人だね」
「まあ。本気にしちゃうわよ? 日本まで追いかけていっちゃうんだから!」
「その前にこの街のいいところ、いっぱい案内してほしいな」
 ダンスの後でね。
 ヴィエラは夏栖斗の手をぎゅっと掴み返すと、踊りの輪の中へ飛び込んだ。


 夏栖斗たちに遅れること30分。
 焦燥院 ”Buddha” フツと翡翠 あひるのカップルがゆっくり坂を上っていた。
 フツは軽鎧のそこかしこに十字架をあしらった聖騎士の姿。神のみに忠誠を誓う身でありながら、ひとりの可憐な少女に恋をし、全身全霊をささげてしまったために(以下、みなさまのご想像にお任せします)……という設定である。
 聖騎士フツに愛をささげられた少女とは言わずもがな。白のシンプルなドレスを身に纏う貴腐人……じゃなくて、貴婦人に扮したあひるだ。
 ふたりは今朝早くから道を人の流れに沿って、露天をひやかし歩いていた。時には甘い香りを放つ焼き立てのパンを買い求め、ふたりで1つのパンに仲良くかぶりついた。パンの中央で唇が触れ合うと、ふふふと笑って互いに見つめあう……を何度繰り返したことか。まるで海外の恋愛シネマのように。
 そんなわけで、フツはともかく、あひるは夕食を前にお腹がいっぱいだった。さりげなくお腹をさすりながらの散歩である。
(たくさん食べたいけど、ドレスキツいから…我慢しなきゃ……)
 優雅な貴婦人を演じるのは楽じゃない。
「ん、どうしたあひる? 坂がきついならお姫さま抱っこしてあげようか?」
「はわぁ、うれしい♪ でも大丈夫。あひるまだ歩けるよ」
 あひるは心配顔のフツの手をひいた。
「聖騎士様、喉乾きませんか? 向こうにジュースがあるみたい……行きましょ!」
 フツの聖騎士姿、格好いいし、凛々しいし……。きっと時と場所を変えて、中世のヨーロッパで出会っていても恋に落ちただろうな。
「うん。オレもそう思う。幾度時代が変わろうとも、オレは必ずあひると出会う。そして恋に落ちる。2人の絆は神ですら断ち切れないぜ」
「……って、声に出てた? 恥ずかし!」
 きゃっと、顔をあからめたあひるに惚れ直したか。同じく顔を赤らめてぽ~っと見とれるフツ。道の真ん中で何やっているのだか。
 ようやく坂を上り切った。
 ダンスは終わっていた。汗を浮かべた人々が木陰に座って涼をとっている。フツはその中に天使を連れた夏栖斗の姿を見つけて手を振った。夏栖斗もすぐに気づいたようで、手を上げて応えてくれた。
「あ、夏栖斗だ。暑いから甲冑脱いじゃったのかな? 隣は……」
「招待主である『白バラの祈り』のリベリスタだろう。それよりも、ダンス終わっていたのか。残念」
 あひると踊りたかったのにな、と零すフツ。
「見てみて、あそこ! 楽器を持った人たちが集まってるよ。今から演奏が始まるみたい」
「ナイスタイミング! 一緒に参加させてもらおう!」
 フツが参加したい、とグループのリーダーらしき人物に手ぶり身振りで伝えると、横手から太鼓腹の男が弓とヴァイオリンをひょいとフツに手渡した。
「フツ、ヴァイオリン弾けるの? すごいすごい!」
「弦楽器全般、どんと任せなさい。あ、あひるはお客さんな。いや、一緒に歌ってもいいんだぜ、ウヒヒ」
 歌うーと元気いっぱい宣言。周りからやんや、やんやと拍手が起こった。
 地元演奏家の音に、フツが即興で音を重ねる。そこへあひるののびやかな歌声がくわわり、一気に場が盛り上がる。歌詞は日本語内容もアドリブだが不思議と外していない。とてもいい雰囲気だ。
 いつの間にかまたダンスの輪ができていた。
 時々、輪に向かってバラの花びらが撒かれた。落ちる花びらを女たちが翻すスカートの裾がまた空へと押しあげる。
 雲の隙間から差し込んだ淡い光が、フツを振り返ったあひるに注ぐ。
「あひるも踊るー」
 フツには濃淡を変えて揺らめく光と舞い飛ぶバラの花びらに包まれた恋人が、ミューズの女神に見えた。


「音楽なんて随分久しぶりな気がするなぁ」
 適当にそれらしく見繕った格好で一人ぶらぶらしていた戯 ぐるぐ。彼女もまた、坂の上の広場にいた。
 踊りの輪から少し離れたところでベンチに腰をおろし、頭に舞い落ちてきたバラの花びらを払いもせず、フツたちの演奏に耳を傾けて、やっぱいいよねぇ、とつぶやく。
「ところで、君。ナニ見ているのです? ぼーっとしてないであの輪に入って踊ったらどうですか?」
「えっ?」
 横からからいきなり話を振られて晴夏 彼方は戸惑った。自分はいま、ぐるりと大きく巻いたピンクのあほ毛を風に揺らす彼女に話しかけられたのだろうか?
 彼方もフツたちと同じく、朝から街のあちらこちらに出ている露天を流し歩いていた。大いに舌を喜ばせ、腹をいっぱいにし、売り子たちとのおしゃべりで好奇心を満たし、歩き疲れた果にたどり着いたのがこの坂の上の広場だ。
 誓って言うが、自分が来た時には人はおろかスズメの影さえなかった。だから、街の喧噪から離れたこの場所で、既にこの世にいない家族の事を思い出し、少しセンチな気分になっていたのだ。平和な日常を実感したからこそ、胸に去来した家族を喪ったあの日の決意……。
「君、アークの仲間でしょ? 戯 ぐるぐだよ、よろしく」
「オ、オレは晴夏 彼方。キツネのビーストハーフだ」
 ブリーフィング前の挨拶じゃないんだから。みれば分かりますよ、とぐるぐは笑った。
「君も適当に自前の衣裳の中から見繕って持ってきた派ですね。ぐるぐさんと同じです」
「これは……うん、まあ、そうだ。普段から服はクラッシックなデザインを好んで揃えているから……」
 彼方の言葉も半ばでぐるぐは、ひょい、とベンチから降りた。
レトロな服装の彼方に向けて手を差し出す。
「皆が皆、なりきっているだけあってぐるぐさんたちだけ時代が違うみたいだけど。ぐるぐさんはぐるぐさんたちで現代風中世をたのしみましょー」
 ダンスの誘いになおも戸惑いを隠さず、手を取ろうともしない彼方を、ぐるぐは年上の女性らしく、めっ、と叱りつけた。
「男性は女性をエスコートするものです。この時代のマナーですよ。はい、手をとってあの中に連れて行ってください」
 1秒後、はいとひとつ頷いて彼方はぐるぐの手を取った。
 花吹雪のなかで輪が小さくほどけ、ふたりを音楽と踊りの中へ迎え入れた。


 旧市街の中心にあるスヴォルノスティ広場には野外舞台が作られていた。露店も多く出ており、四方から人がぞくぞくと流れ込んでくる。
 日本人だろうか。アジア系の顔をした団体客が舞台の最前列を占めていた。その中にオペラ歌手のセッツァー・D・ハリーハウゼンの顔を見つけ、水守 せおりはボードを持つ手に力が入った。
(わー、緊張するなぁ)
 せおりが選んだ仮装テーマは中世の人魚姫。白地に青いウロコのような刺繍を施したドレスに合わせて首から真珠のネックレスを垂らし、頭にはやはり真珠の髪飾りを乗せた。より仮装らしく見えるだろうと思い、獣化部位はあえて隠していない。これのどこが中世なのか、と問われると微妙だが、ジーンズの上に新聞紙で間に合わせに作られたようなチェニクの人もいるのだから大丈夫だろう。
 前の組が演技を終えて、拍手が沸き起こった。広場全体に反響して、舞台の床が微かに震える。
 せおりはチェコ語で『私は、お祭が楽しそうなので陸に上がってきた人魚です。よろしくね。』と書かれたボードを胸の前に掲げ、ステージの中央に進み出た。
 ボードをそっと床に落とすと、せおりは拍手が鳴り終わるのを待って歌い始めた。選んだチェコの民謡は『ストドラパンパ Stodola Pumpa』だ。
 最初は緊張で喉がこわばっていたがせおりだったが、『ストドラパンパ』の明るくさわやかなメロディーに乗せられてだんだんと声も弾みだす。サビのループ部分では観客合わせての大合唱となった。セッツァーも手を叩いて一緒に歌っている。

 ストドラ ストドラ ストドラ パンパ♪
 ストドラ パンパ パンパンパン~♪

 割れんばかりの拍手に包まれながら、せおりは床からボードを拾い上げると高く掲げた。
『鱗が乾いたので、一旦川に帰って水に浸かってきます』
 大爆笑。続いて拍手。暖かい声に送られて、せおりは舞台を降りた。

 次は午前中の出し物の続きだった。リヒャルト・シュトラウス作曲のオペラ『薔薇の騎士』を地元のアマチュア演劇団が、祭の3日間で細切れ上演しているのだ。
 実はセッツァー、朝から広場に陣取って第2幕を冒頭から鑑賞していた。次は「オックス男爵のワルツ」が歌われる場面である。このオペラの真の主役と言ってもよいオックス役には俳優としての演技力とともに卓越した歌唱力を要求されるのだが……。
(上手い下手は別。“音楽”とは音を楽しむこと。……日本語は美しいですね)
 せおりが舞台を降りて数十分が過ぎた。
 上演はまだか、と少しそわそわしていると、横から腕をひかれた。振り返ると女装してマリアンデルに化けたオクタヴィアン役の男優(ややっこしい!)がいた。
「セッツァー・D・ハリーハウゼンさんですね? オペラ歌手の?」
ドイツ語の質問にドイツ語で「そうですが」と返すと、そのまま舞台の裏へ引っ張っていかれた。
 舞台の裏手でひとりの酔っ払いを困り顔の人々が囲んでいた。地面に寝そべってワイングラスを片手に高いびきをかいているのはオックス役の男優だ。
「プロであるの貴方に“無償”でお願いするのは大変厚かましいのですが……『オックス男爵のワルツ』を演じていただけないでしょうか?」
 考えるより先に口が動いていた。
「ワタシでよければ。でも期待しないでください。歌詞は知っていますが、なにせぶっつけ本番ですからね。まるで酔っ払いのような歌になるでしょう」
 オクタヴィアンがセッツァーの言葉を訳して聞かせると、団員たちから明るい笑い声が上がった。
「どこであろうと声(うた)うからにはそこはワタシの舞台(ステージ)」
 セッツァーは衣裳を整えると、ワイングラスを片手に舞台へ上がった。


 いい機会だからということで、聖ヴィート教会でクラース・K・ケーニッヒの司式でミサをあげた。
 司祭のクラースはいつものカソック姿ではなく、アーサー王物語のペディヴィエール卿に扮した姿、リリ・シュヴァイヤーもシスター服ではなくギネヴィア妃の衣裳を纏っている。クラースの厳かな声に耳を澄ませる仲間たちも、アーサー王物語に登場する人物になりきっていた。帯剣した騎士姿は普段なら教会から追いだされかねないが、きょうは祭の日だ。
「真の平和の到来を願い、アーメン」
 ミサを終えて、メンバーたちは藍色を深めつつある空の下へ出た。
 ランスロットになりきった楠神 風斗が騎士らしく、リリの手をとる。
「姫様、道中の護衛は我らにお任せください」
「ええ。頼りにしております、ランスロット」
 視線をスカートの裾に落としてはにかむリリに騎士道精神を大いに刺激されて、風斗のテンションがあがった。
「……いかん、ちょっと楽しくなってきた」
 中世の面影が強く残るこの街で、こうしてみんなと円卓の騎士の姿をしていると、なんだかタイムスリップしてしまったようだ。
 太陽の騎士ガウェインこと新田・快とケーニッヒを後ろに従えて、風斗とリリは教会前の階段を降りた。
 さて、次はどこへ……。
「あ、そうだ!」
 背伸びついで。いかにもいま思い出しました、といった感じで快が声を上げた。
「楠神さんは二十歳になったんだろ? それじゃ、成人組は乾杯して誕生日を祝おうぜ!」
「ほっほう、風斗さんは誕生日、それはめでたい」
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、みんな。それじゃあ、せっかくだからご当地のおいしいものをいただこうかな……。新田さん、チェコでお酒といえば何になるんですか?」
 快はすかさずビールと答えた。
「ビール、ですか?」
「知ってる? 実はチェコって、年間のビール消費量が世界一の国なんだよ?」
 さりげなく酒知識を披露し、初めてにピルスナー・ウルケルを勧める。
「うん、チェコはビールが有名らしいね」とクラース。
「じゃあ、それで」
 案内を快に頼み、一行は石畳の道を酒場に向かって歩き出した。
 快が案内したのはエッゲンベルク・ビール醸造所だった。
 かつては寡婦の住居であったという建物だ。中世に街を治めていたオーストリアの貴族、エッゲンベルク家の名がつけられている。
「ほー、なかなか趣のある建物やね」
 時間ぎりぎりだったが醸造所で、ビールの瓶詰や発酵、または保管の工程などを見学し、最後に16世紀半ばよりある庭園で4種類のビールの試飲をさせてもらった。
「それでは改めて、楠神さんの誕生日を祝い……かんぱーい!」
 グラスの合わさる音がカチン、カチンと響く。ビールジョッキが3つ、ジュースのグラスがひとつ。
「え?」、というリリの視線にクラースは、まあ老けて見えるかもねぇ、と笑った。
「俺は飲めへんよ? 未成年やし。それより、風斗さん、はよ飲んでみ?」
 促されて風斗はキンと冷えたジョッキに口をつけた。淡黄金色の酒を一気に喉へ流し込む。
「あ……」
 口当たりは意外と柔らかかった。飲みつけない者はよくビールは苦いというがそれほどでもない。風斗の舌にはじんわりとした「美味しい」苦味が残された。
「美味い……のかな? 初めて飲んだから。でも、なんというか……いいね」
 うんうん、と頷いて快がうんちくを語る。
「モルトの甘味と爽やかなホップフレーバーが互いに主張し合い、それでいてバランスもいい。日本でこれの瓶詰を飲むといまいち香りが劣るんだよな。作りたて最高!」
「ええ。ほんとうに美味しい。とりのから揚げとよく合って……食べ過ぎてしまいそうです」
 記念撮影はどうですか、とメイド服を着た従業員がテーブルの向こうでカメラを構えた。
「ええね。みんなで写してもらおうや」
 さりげなくリリの横に席を移しながらクラースが言った。
 醸造所を背景に数枚。ライトアップが始まった庭園を背景に数枚。
「えっ、ギネヴィア妃とランスロットが……!?」
 ……などと、物語の筋を追いながら、組み合わせを変えて撮影を楽しんでいると、突然リリの携帯が鳴りだした。
『ごめん、ちょっと、いい?』
 聞こえてきたのは星川・天乃の声。
 天乃は4人と一緒にチェコにくる予定だったのだが、出発直前に体調を崩してしまった。そのうえ予定外の用事が入り、しかたなく日本でお留守番である。
「今、チェコではですね……」
 リリが今日一日の出来事を話す。後ろで快たちがやいのやいのと騒ぐものだから、天乃はリリの声を聞きとるのに必死になった。
(楽しそう……)
 そこにいないことが寂しいけれど、なぜか口元が緩む。かけてよかった。
『それじゃ、良い旅を』
 天乃はスズメの泣き声を窓の外に聞きながら、最後に旅の写真とお土産を頼んで電話を切った。


「寒くはないかい?」
 返事を聞く前に、天城・櫻霞は純白の貴婦人の細い腰を抱き寄せた。二階堂 櫻子は耳をぴくりと震わせた。耳は幻視で隠されて見えないが、代わりとばかりに白い帽子の羽飾りが揺れる。
(幸せですにゃ~♪)
 すでに日は落ち、晴れた空には月と星が瞬いていた。ふたりはいま、ヴルタヴァ川を挟んでチェスキー・クルムロフ城の向かいにある公園にいる。城をバックに打ちあげられる花火をいまか、いまかと待っていた。
「きょう一日いろいろ……楽しかったですぅ」
「ああ、楽しかったな」
 櫻子は黒の魔法使いに甘えて肩に頬を寄せた。丸一日、時間を有効に使って中世の祭をふたりで楽しんだ。歩き疲れが出ているのか、ちょっぴり眠い。
 市内散策をしながら露店の食べ物を買い歩いた。ちらりと隣を歩く櫻霞の姿を盗み見ては、にんまりとした。
(……やっぱり櫻霞様は何を着ても良く似合いますね)
 ステージが良く見える場所に座って、焼きたてパンとジュースをふたりで食べた。
「このパンも美味しいですぅ♪ はい、アーンして下さい♪」
 櫻子が手でほかほかのパンを一口サイズにちぎって差し出せば、櫻霞はおとなしく口を開いて食べてくれた。時には指を引っ込めるよりはやく、櫻霞が口を閉じることも。
「お家で櫻子が焼くパンより美味しいですにゃぁ、ちょっと悔しい気が……」
「折角の祭りなんだ、聞けばレシピぐらい教えてくれるんじゃないか?」
 あとで忘れず聞いてみよう、と言ってくれた心遣いが櫻子はなによりうれしかった。
「しかしよくまあ此処まで騒げるもんだ」
 ぼんやりとステージを遠目に眺める櫻霞はどこの誰よりも素敵だ。いまよりもっともっと好きになっていく。
 またパンをちぎって差し出しすと、櫻霞に手を掴まれた。
「個人的には料理よりもこっちのほうが興味はある……」
ぐいと引っ張られてそのままキス。周りのテーブルで、冷やすような口笛が鳴らされた。
「は、はぅぅ…ちょっと恥ずかしいですぅぅ……」
櫻霞にニヤニヤ笑われながら頭を撫でられて、櫻子は顔を真っ赤にした。いま思い出しても恥ずかしい。でもうれしい。
 思い出して、照れて、櫻子は櫻霞に抱き着いた。そのとき――

 夜空が弾けて割れた。

 ライトアップされた城の上に色とりどりの花火が咲く。
「キレイ……」
「お前ほどじゃないけどね」
 えっ、と櫻子は顔を上向けた。
 優しい瞳がすっと近づいてきて、柔らかく熱い唇が唇に重ねられる。
 花火があでやかに染め上げる夜空の下で、恋人たちの影が1つになった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
五枚花弁の薔薇祭り、お楽しみいただけたなら幸いです。

ご参加くださった方は全員描写したと思いますが、万が一抜けがありましたらお知らせください。
それではまた、別の依頼でお会いいたしましょう。