●チョクスム、陥落。 そこは成田市に存在するゴルフ場のひとつ……と公式には示されている広大なヤードである。 衛星写真にも芝と林と池しか見えないその場所は、地下に広大なフィールドを確保した隠し研究施設だった。 だがそれも、今は炎に沈んでいる。 次々に崩れ落ちる機材と燃えさかる炎、そして飛び散る火花の中、皺の入った手が金網の床をこすった。 「チョクスム……」 血にまみれた顔を上げる初老の男。八幡縊吊。 精霊学者であり、『人工生霊』形成破界器タルパシードを作成した人物である。 彼の赤みがかった視界には、ぐったりと脱力した女性の姿があった。 実り豊かな身体はいかなる国籍のものともとれず、髪は風も無くなびき、その姿はうっすらと透けている。縊吊の作成したタルパシードによってエリューションフォースを収集、結成することにより作り出した疑似人格体、正確には人工精霊生物顕現実験第十三試験体、チョクスムである。 彼女は無貌の人工生霊に抱えられていた。 顔はなく、身体ものっぺりとしていて手や足の起伏がない。まるで粘土やゼリーをとりあえず人型にこねたような、とてもいい加減な作りをしていた。 その左右を守るように、同じ形状のものが二体、ふわふわと浮いている。 「トゥ、デェン、ギィエ……なぜお前が持って……ぐあっ!」 縊吊の伸ばした手が、厚底の靴に踏みつけられた。 ふわふわのスカートがついたドレスにフリルのついた日傘。ついでに眼帯。そのどれもがビビットピンクで統一されているという……常軌を逸した格好の少女によってである。 「おじーさま、チベットの施設を抜け出して何をしていたのかと思ったら、こんなオモチャをつくっていたのね。局地戦闘と工作活動を目的とした兵器に豊かな感情を持たせるだなんて、ふふ……おじーさまったら、ロボットワイフでも作りたかったのかしら?」 レースの手袋を口に当て、少女はケタケタとわらった。かんに障る笑い方である。 「この子は『おうち』に持って帰って、私がちゃんとした兵器に作り直してあげる。だから安心して……ここで死んでね?」 少女は両腕を広げると、人工生霊の一つを自らの身体へ鎧のごとく纏わせた。 そう、この人工生霊がもつ特徴のひとつ。自在な形状変化によるものである。 形成された剣が縊吊の腕に突き刺さる。 叫びが、炎上する研究所へと響き渡った。 ●八幡縊吊救出作戦 フォーチュナによる、こんな説明があった。 「八幡縊吊とは、かつてアークに実験協力を依頼してきた人間です。その結果として友好な関係を気づき、こっそりとではありますがアークの研究開発に協力してきた人物でもあります。そんな彼が拠点とする研究所がフィクサードによって襲撃される事件が発生したのです」 できるだけ分かりやすいように、フォーチュナの説明を噛み砕いて説明しよう。 襲撃をしかけた人物はニマ・チョクシー。 自在に変形するエリューション利用型アーティファクトを使役しています。(人工生霊についての詳細は省く) 敵戦力は人工生霊トゥ、人工生霊デェン、そして人工生霊ギィエを纏ったニマ・チョクシーの三体です。 彼らは人工生霊チョクスムを強制脱力状態にしたまま研究所から持ち出しつつ、研究所に残った一般人スタッフや八幡縊吊をしっかり処理(死亡させることを指す)するという行動に出ています。 運び出しにはニマ・チョクシーと人工生霊トゥ。施設の処理には人工生霊デェンを当てており、作戦の進め方によっては成功条件を引き下げることができます。 「八幡縊吊の救出も勿論ですが、巻き込まれた一般人の救出は大事なことです。皆さん、どうかよろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月21日(土)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『ニマ・チョクシー』という存在 研究施設の外にて、鶏の卵サイズのタルパシードをごくりと丸呑みするニマ・チョクシー。 「けひひ、おじーさまったらあんなに慌てて。よっぽどこの子が可愛かったんだわ。一体どんな形にしてあげようかしら、けひひ」 と、そこで足を止める。 弾丸が飛来したからだ。 それも一度に六発。顔面を中心に各部急所狙いである。 対してニマ・チョクシーは鎧を高速展開。ライトアーマーだったものをフルアーマーに変え、弾丸を全て吸収。角度を無理矢理変えて別方向へはき出した。まるで鎧に意志があるように……いや、実際あるのだ。人工生霊ギィエの変形体である。 「ちっ、避けたか」 眉間に皺を寄せてリロードする『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。 「あらあら。まだ生き残りがいたのね。警備員の方? 悪いけど、ニマ・チョクシーはお帰りなの」 「予想を裏切って悪いが部外者だ。強いて言うなら『彼女』の友人でな」 刀を抜く『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)。 「チョクスム、置いていってもらいますよ」 手槍を召喚する『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)。もとい『那由多』。 「これも世のため人のためってね。ま、挨拶もそこそこってことにして……いっくよー」 間延びした、そうとはとても思えぬテンションで。彼女たちは殺し合いを始めた。 このとき先制をとったのはニマ・チョクシーだった。脚部にジェットパックを形成。水素燃料によるジェット噴射を行ない急速に那由多へと突撃。彼女をかっさらう形で空中へと飛び出した。 「は、速っ――!」 那由多は槍に呪力を集中。相手の背部に槍を突き立てる……が、切っ先でとまった。衝撃が吸収、分散されているのだ。 と、そこへ朔が横へ並ぶ。同じ速度でついてきたのだ。 抜刀したときには刀が走り、金属を無理矢理切断するような音をたてて鎧を破壊。ニマ・チョクシーはきりもみ回転しながら地面をバウンドした。 「ちょっと、何!? 私を攻撃したらチョクスムがただじゃすまないのよ!」 「おっと、そういえば訂正するのを忘れていた」 両足で地をスライドする朔。 「チョクスムは私の友人ではない。大事な敵だ――『閃刃斬魔』蜂須賀朔、推して参る!」 ニマ・チョクシーが戦闘に突入した時、トゥもまた彼女に加勢するつもりだった。 それができなかったのは、『撃鉄彼女』御経塚 しのぎ(BNE004600)達が間に立ち塞がったからである。 「行かせないよーん、ほいっ」 足を肩幅に開き、両手を突っぱねるように突き出すしのぎ。 通せんぼの姿勢だが、実は違う。 しのぎの掌が発光。エネルギー弾となってトゥに直撃したのだ。 飛び立とうとしたトゥはそれをもろに食らって弾かれ、搬出入口の上部フレームに背を強打した。 そこへ飛びかかり、拳を引き絞る福松。 相手の腹をぶち抜くつもりでパンチを繰り出そうとした、その時。 トゥが変形した。 第二次世界大戦における大日本帝国陸軍下三菱謹製、九八式軽戦車。通称ケニA型である。 「――って嘘だろ!」 至近距離で主砲が火を噴いた。 よりによって腹に弾頭が直撃。福松は潰れトマトと一緒になった……とはいかない。彼もまたリベリスタである。 上下に千切れた身体を運命的に強制修復。最終的に芝生を激しくバウンドしながら転がっただけに留まった。 だがトゥとて追撃は緩めない。次弾を自己装填しつつ九七式車載重機関銃を連射。 しのぎは両腕でそれをガードしつつ、口をとがらせた。 「これはちょっと、やばいかも?」 ●八幡博士救出作戦 人工生霊デェン。先んじて脱出したニマ・チョクシーたちと別れ、研究所に残った研究員や研究資料を全て破壊する任務を帯びた人工生霊である。 彼は今、ぺったぺったと間の抜けた歩き方で八幡博士へと近づいていた。 藁人形や紙人形のようなぼうっとしたフォルムで、腕部分だけが巨大な刃物になっている。 一方の八幡博士は壁に背を突け、ぜえぜえと粗い息をしていた。血まみれの髭をもごもごと動かす。 「ニマ・チョクシー。わしを出し抜いたつもりだろうが、まだまだ甘い。ここは日本だ。日本には……『彼ら』がいる」 デェンは博士の目の前で立ち止まり、鉈のようになった腕を振り上げた――途端、デェンの側頭部に強烈なドロップキックが炸裂した。 『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)の、全力移動からのアクセルバスターである。 デェンは機材のいくつかをなぎ倒して吹き飛び、当の羽海は脇腹からびたんと地面に落ちてうぎゃあと言った。が、すぐに起き上がる。 「博士、無事!?」 「アークか、来ると思った。そのための保険……ごふっ」 「チョクスムさんは仲間が助けに行ってるよ。博士はうみたちが助けるからね!」 博士を抱え上げる羽海。 デェンは自分を押しつぶしていた巨大なデータサーバーの棚をそのままに、まるで霧や水のように間から流れ出て、再び人型へと戻った。 博士との間に滑り込んで身構える『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)。 「お前に罪は無い。だが、お前を悪用するものを――俺は許さない!」 小雷は流れるように間合いを詰め、華麗な回転から裏拳を叩き込んだ。雷を伴った拳である。のけぞるデェン。 そこへ更にシルバーバレットが飛来。顔面に弾が直撃し、まるで水面に激しく石を落としたかのようにデェンの頭部が弾けた。 「怪我人を庇いながら戦ってたらキリがないわ。さっさと退避、いい?」 離れたところから声をかけてくる『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)。 小雷と羽海は博士に両側から肩を貸しつつ、デェンとは逆方向へ駆けだした。 追いかけようとするデェンに『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が急接近。一度に複数の残像を生み出して包囲。鎌を全方位から引っかけると、デェンを無理矢理押しとどめた。 「こいつはボクが引きつけるよ! その間に」 「――任せた!」 逃げ去る小雷たちを視界の端で確認してからデェンに集中する。 集中していなかったら、危なかった。 アンジェリカ(本体)の首めがけて鎌が迫っていたからだ。デェンは頭部をリンゴの皮むきのように分離させ、アンジェリカの首をとろうとしていたのだ。 即座に離脱。壁を駆け上がり、天井へと逃げ延びた。 一方デェンは、アンジェリカをターゲットから外し、小雷たちを追いかけ始める。 「もうBSを解かれた? ちょっと、早すぎるよ!」 アンジェリカは天井を走り、デェンを後ろから追いかけることにした。 一方恵梨香サイド。 彼女は出口までの(まだ無事な)通路をインカム越しに伝えつつ、恵梨香は頭の中で計算をした。 博士だけを連れて外へ出たなら、ある程度余裕を持ってチョクスム奪還に合流できるだろう。その場合残りの研究員と研究資料は破棄することになる。一般研究員を安全圏に送ることを考えたら遠回りは必至。 ならば、博士や研究員を助けられるだけ助けて合流を諦める方が効率がいい。最悪機材を見捨てたとしても、文書情報程度ならアンジェリカのサイレントメモリーでサルベージできるはずだ。サーバーに入っていた電子データのたぐいは……諦めるしかないだろう。電子妖精持ちは流石に居ない。 更に言うと、全員一塊になって移動していれば確実に間に合わない。千里眼と超直観をデュアルブートして研究所内の様子を確認しているが、施設の崩壊はかなり致命的な状態にあるのだ。 余談だが、超直観を併せていなかったらここまで分からなかった。ちょっとしたファインプレーである。問題があるとすればこの内容を口頭だけで全て伝えきれないことか。 ……と、そこでデェンが猛スピードでこちらを追いかけていることを確認した。しかも壁を次々とすり抜けている。というより、接触する寸前で身体を液状化させて細かい隙間を抜けているのだ。 アンジェリカもそれを追いかけているが、壁抜けして移動するデェンに対して遠回りを強いられている。 「助けに来たぞ、返事しろ!」 「ここだ、助けてくれ! 火が、火が!」 すぐそばでは小雷がグランドピアノをひっくり返し、一般研究員を助け出していた。 「と、友達が残ってるんだ! どうしよう!」 一方でこちらの研究員はパニックを起こしているようで、必死に友人らしき死体を引っ張ろうとしている。 残念ながらその友人は頭部を含む上半身を失っていたので、助かる見込みはもうない。 小雷はぐっと奥歯を噛みしめると、その研究員の腹に拳を叩き込み無理矢理気絶させた。下手すると死ぬタイプの気絶方だが、友人の後追いをするよりずっとマシである。 「ごめんな……」 ぐったりした研究員を担ごうとしたところで、小雷はそれをキャンセル。恵梨香にパスした。 なぜか? すぐ近くの通風口からデェンが飛び出してくる気配を察したからである。 振り向きざまに土砕掌を叩き込む。 液状化していたデェンは派手に飛び散るが、すぐさま収束。小雷をすり抜けるようにして研究員と博士に狙いを定めた。 羽海はインパクトボール。恵梨香は四重奏を乱射しつつ後退。牽制しながら出口へと走った。 デェンはこれ以上追いかけても無駄だと判断したのか方向を転換。他に残った研究員を狙っているのだ。 が、アンジェリカがそれを許さなかった。 大窓をぶち破って突入。飛び散るガラスを足場にすると、走り始めたデェンめがけて鎌による斬撃を繰り出した。 デェンもそれに対抗して自らの両腕を巨大な刀に変えてアンジェリカへ迎撃。 刃渡り四メートルの刀がアンジェリカの腹部と胸部を貫通。常人ならば即死だ。だがフェイトを犠牲にして突貫。デェンに鎌を叩き込む。直後、デェンはアンジェリカの身体を引きちぎった。 さすがにそこまでされて無事ではいられない。アンジェリカは生存できる最低限のエネルギーを自らに残し、その場にごろんと転がった。意識が断絶される。 「アンジェリカ! くそっ、離れろ!」 トドメをさそうと近づくデェン。そうはさせまいと背後から飛びかかる小雷。 が、その瞬間デェンが液状化し、前と後ろが反転。 「――フェイント!?」 目を見開く小雷。 だがここは行くしか無い。 デェンの胸から飛び出た槍が自らの腹を貫通する中、小雷は死ぬ覚悟で突撃した。 博士と一般研究員を抱え、崩壊途中の施設を脱出する。 特殊な能力を抜きにしたならば、これほどつらいことはない。誰もがハリウッドスターのように振る舞うことはできないのだ。 だが羽海は諦めなかった。ぐったりと気絶した一般人を放り捨てていけば少しは楽になるだろうに、決してそれをしなかった。 「博士が死んだらチョクスムさんが悲しむんでしょ。よくわかんないけど、うみには難しいことだけど……悲しむ人が居るなら、戦うよ」 実際、羽海が抱えているのは博士を含め三人。両腕と肩にそれぞれ預けての状態である。 他、ある程度歩ける者は動ける者に任せてある。 一般通用口まで、距離はあとわずかだ。 「恵梨香さん、これで全部!?」 振り返って叫ぶ羽海に、恵梨香は……。 「もうすぐ出口よ、走って」 とだけ言った。彼女もまた、動けない研究員を両腕に抱えていた。 必死に出口へ走る羽海たち。 何がどう引火したのか、背後で連続した爆発がおきた。 爆風に煽られ、ごろごろと転がる。幸い研究員たちは無事だ。 ……全体の六割は、だが。 「分散をすべきだった? いいえ、違うわね。今の人員と技術ではこれが限界だった。むしろよくやった方だわ」 「恵梨香さん?」 起き上がり、首を傾げる羽海。 振り向くと、崩壊する施設の中からボロボロになった小雷が這い出してくるのが見えた。片腕にはそれ以上にボロボロになったアンジェリカが抱えられている。 慌てて駆け寄る羽海。 「大丈夫!? デェンは!?」 「……ここに」 小雷は片手を開いて、一個のタルパシードを見せた。 そして、ふらりとその場に倒れ、気絶したのだった。 ●チョクスム奪還 試製九一式重戦車が常識ではありえない装填速度で主砲を叩き込んできた。弾一発ずつとはいえ大砲である。七十粍戦車砲から飛び出した弾頭は空気を歪め、木々を地面ごと引っこ抜いてまき散らした。 そのすぐ上をニマ・チョクシーが高速で飛行し、両肩から露出させた小型ミサイルポットからそれこぞ非常識な両のミサイルをばらまいてきた。 邪魔になるであろうトゥを先に潰しておこうと思ったしのぎたちだったが、この戦力差を考えるに『全部倒す』は無理そうだ。チョクスム奪還を目指すなら、なんとかその部分だけをブレイクスルーする必要がある。 「いや、それだけじゃ済まさん。情報ごと持ち帰ってやる」 福松はリーディングのラインをスタンバイ。接続先はニマ・チョクシー。 オンライン状態は相手にも悟られる。タイミングが重要だ。 例えば質問した直後とか、だ。 「ニマ・チョクシー! お前の生まれはどこだ? チベットには何がある!」 「んー、あぁらぁ?」 リーディング、オンライン。 ニマ・チョクシーは眼帯をしていない方の目をカッと見開き。 「教えて――あ・げ・る☆」 福松へ向けて投げキスをした。 そして福松はリーディングライン越しに彼女の思考を読み取った。 読み取った。 読み取ってしまった。 「う゛……が、ああああああああああああああああああああ!?」 直後、福松は眼球をえぐり出さんばかりに手を突っ込み、自らの意識を自力で切断。気絶した。 「え、何やってんの、死ぬの?」 あまりの事態に動揺……はしないまでも怪訝そうにするしのぎ。 余人には分かるまい。 福松がいま感じたのは『七十億通りの思考と思想』である。全人類と同数の思想をいっぺんに流し込まれ、自らの自我が崩壊しかけたのだ。例えるなら禍原福松という数リットルの血液が大海に飲み込まれようとしていたのである。いくら他者の思考とはいえ、影響が主体を持ちかねない。しかもこれらを『瞬間記憶』してしまったのだ。ダメージは計り知れない。 故に、呑まれる前に自意識ごと切断したのだ。 「戦闘中に余計なもん読むからだよー。まーしょーがないかー」 しのぎは気絶した福松を戦闘の影響が出ないエリアまで蹴っ飛ばすと、ニマ・チョクシーへとターゲッティング。掌から光弾を連射した。 「あんま時間なさそうだから、もういっちゃう?」 「仕方ないですねえ」 那由多はスコールのように降り注ぐミサイルを右へ左へかわしつつ、ワンチャンスを狙ってブライクフィアーを展開した。 ニマ・チョクシー側はああ見えて三体分。こちらは残り三人。察するに、このまま続けたら押し負ける。 ゆえにチャンスは少ない。それにブレイクスルーを狙うとするなら、きっと一度きりだ。 「朔さんよろしく」 「いいだろう」 朔は前傾姿勢でダッシュ。トゥの砲撃を『回避せずに』直撃させる。左腕が吹っ飛ぶが無視。トゥの装甲を駆け上がり、ニマ・チョクシーめがけ跳躍。凄まじい速度で彼女の鎧を切り裂いた。 「痛ッ……てえなこのクズゥ!」 ニマ・チョクシーは一時的に鎧状態のギィエをパージ。朔を挟み撃ちにしようとした所で、横から那由多の奈落剣がギィエに直撃した。全身鎧とはいえガワ単体。彼女の槍が胴体を貫通した。 その隙に――。 「今だ、奥の手!」 しのぎがトラップネストを展開。地面に仕込まれていた気糸が飛び出しニマ・チョクシーを拘束。 動きを封じた所で朔が強烈な膝蹴りを叩き込んだ。腹にである。 「うぐあっ!?」 激しく嘔吐するニマ・チョクシー。嘔吐物の中に混ざったチョクスムのシードを掴み取ると。 「即、撤退!」 しのぎたちは福松を抱え、一目散にその場から撤退したのだった。 ●七十億の君 爆発炎上する施設を背に、恵梨香たちは救出した研究員たちを休ませていた。 背を向けたまま言う恵梨香。 「ところで博士。今後はアークの保護かで研究を続けない? まさか命の恩人の提案を断わらないわよね?」 「勿論だ、断わる」 「そう、じゃあ研究資料は先にアークへ……ん?」 動きを止め、恵梨香は振り返った。 「今の、聞き違いかしら? 私たち(アーク)としてはタルパシードの技術が敵に回る事態を防ぐ必要があるんだけど」 「知らんな。生殺与奪権を行使してシードも研究員も、なんならわしも好きに接収して構わん。だがわしはお前さんの兵器開発になど協力せん。不都合なら殺せばいい」 「なるほど、では望み通りに殺してやろう」 と、博士の首に刀が据えられた。 合流した朔によるものである。その後ろにはしのぎたちもいた。手にはチョクスムのシードが握られている。 「と言いたいが、救出任務の末に殺しては本末転倒だ。それに確認したいことがある」 「……」 「ニマ・チョクシーは人工生霊だな? 名前からして、恐らく第十四番」 「気づいていたか、その通りだ。研究資料をくれてやる。後は勝手にしらべるんだな」 そうとだけ言うと、八幡博士はゆっくりと歩き始めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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