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<アーク傭兵隊>己に捧ぐ、鎮魂歌


 こんにちは試験管の中の人。
 私は遂に、運命を失くしてしまった。
 此の侭無様に死ぬよりは、平和ボケした奴ら共に、再び楽団の恐怖を思い出させてから死にたいと思う。
 お前も其の中から出たら死ぬのだろう。一緒に死へのロンドを行く者同士、最後の一花咲かせてから散ろうでは無いか。
 生きた証を、残すのだ。夢見た世界を、再び、再び。


「どうもこんにちは。親愛なる神秘探求同盟の使徒さんたち。
 遥々、こんな場所までお疲れでしょう。ささ、紅茶でも飲みながら、僕の話、聞いてくれちゃったりします?」
 場所はオーストリア、ザルツブルグ。
 甘い声の男が資料を叩きながら、テーブルの上に座った。用意された紅茶の水面と、手作りだというクッキーが並べられたテーブルが少し揺れる。
 さて置いて、再び此の男は自分の名前なんて大して重要では無いと煙に巻きながら、顔が見えないようにしているのか、うさん臭い無地の面の下で顎を動かし始めた。
「皆さんが、かくかくしかじかでお仕事が欲しいという事で。ありましたね、貴方達……アーク向けのお仕事が」
 どうも最近、ザルツブルク付近が穏やかでは無い。
 表向きには怪奇事件として取り上げられているのだが、裏向きにはそいういうゴシック記事を見て、「ふーんそうなんだぁ大変だなぁ」所では無く。

「というのも、最近ですねえ。死体が消えるんですよ、其れに人も消える。そういう事、以前もありませんでした? 勿論、日本でのお話ですよ」
 思い出される単語としては『楽団』である。
 死人が増えれば増える度に力を増す、常に音楽と死と一緒に行進を続けた、悪夢の様な存在。かのバロックナイツ、ケイオス・”コンダクター”・カントーリオは既に此の世から消え去っているものの、其の残党は未だ殲滅し切れていないという事か。
「楽団の悪夢から抜け出した、アーク、貴方達だからこそ先方からの好意です」
 好意。
 どう聞いても関わりたくないものを此方に廻してきたようにも思えるが。其れはもう仕方ないか。
「嘘です。かなり厄介です。
 どうも此の楽団。ノーフェイス化をしてしまったようで、どうせ死ぬなら一花でも咲かせようという魂胆でしょうかね。
 大人しく潜んでいる楽団残党も居れば、こういうのが後を絶たないので世界の歪みが助長する原因……おっと、話を戻しますね」

「敵は、一体のノーフェイスと其れが操るアンデッドが三十体。
 此の三十という数字は消えた死者の身体と行方不明の人の数なので、大凡の数字。此処からブレる事はもちろんあると思いますよ」
 ノーフェイスの名前は『ヴィルマ』。
 彼は楽団が攻めて来た時にも負けた時にも日本に居たようだが、戦争が終わった後はオーストリアへ帰って来ていたらしい。
 其の後どうしてノーフェイス化したのかは不明だが、楽団に恨みを持っていた何かに襲撃を受けていたとしても不思議では無いだろう。
「ヴィルマは元ネクロマンサー。
 そういう系のスキルを使って来るのは目に見えていますが、それにしても楽器……ヴァイオリンと同化しちゃってますねぇ、其のフェーズも3。彼が一番厄介ですね」
 特に彼は操る事に対して長けている。其れが例えば、今、隣に居る仲間が動けなくなったとして。
「体力を以って、操作に対抗できない人は操られてしまう。それには十分に、お気をつけてくださいね」

 ヴィルマは真昼間に墓地を襲う。
 フェーズの進行により考える事ができなくなっているのか、其の行動は単純明快。己が手足と成る死体を増やしに来たという事だろう。
「僕が予知できた所はそこまでです。
 すみませんね、アークの万華鏡並みに精度の高い予知は此処ではできにくい。僕は力の無さを恥じるばかりです……それと」
 それと。
「失敗作のアーティファクトだとは思うんですけど……非常に、良くないものが一緒に居ます。人では無く、人の形をした、何かが……ね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月17日(火)22:41
 夕影です。リクエストありがとうございます
 こんにちは神秘探究同盟の皆様、今回も宜しくお願い致します

 以下詳細

●成功条件:ノーフェイスの討伐

●ノーフェイス:ヴィルマ
・フェーズ3、元ネクロマンサーです
 なんぞよくわからない物体に憑りつかれております
 ヴァイオリンと同化しており、弾かずとも音楽が奏でられるようです
 意識はギリギリ、話せるくらいはありますが理性はほぼ無く、本能に従います
 1ターン、二回行動

・ファントムペイン(神遠2単BS呪いショック麻痺)
 ベーゼベノム(物近複BS死毒猛毒致命)
 フィアフルトレジディー(神遠全BS無力虚脱 ダメ0)
 ゾーク&ダーク(物遠全BS凶運怒り)

・協奏(P:アンデット、またはフォース以外の者が戦闘不能した時。ノーフェイスの半径20m内に居る場合、其の身体を操ります)
 死への誘い(P:WP判定手前で、致命を付与します)
 レクイエム(P:倒されたアンデッドをフォース化します)
 金力音(P:ヴィルマの近接に居る者はWP判定に失敗した場合は強制的に命中と回避にペナルティが発生する)

●アンデッド×30~
・此処から増える可能性は大です
 攻撃は単純な、殴るや蹴るですが、絡みつかれた場合BS呪縛が発生します
 耐久性が強く、中々にしぶとい上に細切れにしないと破片でも動きます
 初動では30体です

●フォース
・アンデッドが倒された時、ノーフェイスが健在していれば、倒された数だけフォースが発生します
 フォースの能力値はアンデッドと同等であり、攻撃方法も同じです

●寄生型エリューション???
・ヴィルマにくっついている子供大の大きさの物体です
 見た目的には人ですが、顔に目や鼻の類は無く、其の四肢も指が無かったり、人として不完全なものです。口はあります
 高耐久、絶対者、此れ自体は攻撃してきません

・取り付いている者に、呪い無効、精神無効を付与します

●場所:墓地
・時刻はお昼、足下は不安定です

●Danger!
 このシナリオはフェイトの残量に拠らない死亡判定の可能性があります。ご注意下さい。

それでは宜しくお願い致します
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスデュランダル
斜堂・影継(BNE000955)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ハイジーニアスプロアデプト
イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)
ハイジーニアスデュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
サイバーアダムプロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)


 音楽を奏でろ、死体を連れろ、奇妙な列は葬列の其れ。知らない顔も見たことある顔も全部が全部白い顔。生きているのは先頭を行く君――。
「嫌な、思い出だ」
 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は頭の前方にこびり付いた記憶を振り払う様にして頭を振った。其の場に居る何人もが楽団の悪夢は味わったであろう、勿論結末さえ言うほどでも無い。
 さて状況の説明だ。
 場所は墓地の手前に配置した囮の班。
 其の中の一人、『現の月』風宮 悠月(BNE001450)が千里眼を行うことによって、敵の進軍は見えている。
 時間的にお茶やクッキーをゆったり飲む暇も無く出て来た訳だが、それであったとしても敵が墓地近くへの進軍を許してしまったのは仕方ないとしよう。
「彼等はまっすぐ、墓地への路を歩いて来るみたいですね……」
 悠月の瞳が横にずれれば、其処は辺りも暗く歩くには大変そうな道なき道ばかり。隠れるには最適かもしれない木々が道を挟んでいた。
 まだ散開した敵が其の不安定で木々ばかりの路を歩いてくるよりかはマシだ。如何やら敵はリベリスタを警戒していない、寧ろ、リベリスタさえ殺して葬列に加えてやろうくらいの心算なのだろう。
 あまりにも、堂々が過ぎる。
 頭上では『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)が出した鷹が一定の丸を描いて飛んでいる。其処から伝わる敵の大凡の数や、敵の位置を仲間に通信するのだが。
「どうやら、あまい声の男の数字は中々に的中しているようだ」
「そう、ですか」
「どうなされた、盟主」
「いいえ、なんでもありません。警戒致しましょう、そろそろでしょうか」
 顎に指を当てて、何か思いにふける『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)ではあったが、此の囮班の前方には敵が見えかかっている。
 カク、カク、カク、とまるで機械のように動かされているような『ヴィルマ』が一歩一歩地面を踏みしめて歩いてくる。其の肩のあるもの――
「ホムンクルスなんぞ、どこで見つけて来やがった?」
 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)がそう言い放つのだが、其れを知っているであろう当本人はとても話せる状態では無いようだ。
「ア、アッ、カクセイシャ……欲、ホシッ、ホシッチカラ、もう一度、アノ夢ヲオヲヲヲヲヲヲヲオ」
「駄目だな、こりゃ」
 影継は首を振った。
 如何にもこうにも、そうかリベリスタが欲しいか。それもそうだ、葬列に加わればきっと良いアンデットになるに違いないのだから。
 理性は無いだろうが、考える脳が有るだけ面倒な存在。フェーズは3だと聞いているが、近頃フェーズ4を相手していたアークに恐れるものは無いだろう。
 一斉に、手を前にして足早で襲ってきたアンデットの群。数は大体30そこらであるだろうが、
「では、打ち合わせ通りに」
 眼を瞑った悠月が、細く白い腕を前に出せば凍った翼が群を弾き飛ばさんと牙を剥いた。
「やれやれ、ブーイングの嵐をアンコールと間違えたか? 親切に教えてやらないと気付けないとは、もう死んでいいぞ」
 其の悠月より、最速で。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の声が戦場に響いた。何時ものユーヌらしい、毒舌でドストレートな言葉の暴力だ。
 しかし其の時には戦場に張り巡らされていた札が効力を上げていた。敵を地面へ縛り付け呪いを施して。
「半端者同士、浸って滅べ」
 そう、冷たい黒の目線を向けながら。


 雷慈慟は言った、奇襲の合図は「撤退」という言葉であると。
 其の言葉を待っている奇襲班の3人。
 矢張り人員とは大切だ。囮班が戦闘を始めて悠月やユーヌと、イスカリオテの広範囲の技と、影継の押し、特に雷慈慟の思考を物理力に変えて放出するスキルは効率が良い。
 確かに墓地に彼等を辿り着かせてしまえば、きっと彼等の手足が増えてしまう事だろう。其の、奏でる音楽を、耳を覆いたくなるような不協和音を、進ませる事はできまい。
 だが、ヴィルマとて黙ったまま繋がったヴァイオリンを奏でるだけの人形では無い。
 超笑顔な其の表情が斜めを向いて動かない、其の侭で口から「アァァァ」と声を出す姿は異常だ。哀れで、恐ろしい、そう少しでも思ってしまった刹那には悠月の身体が呪いで動かなくなっていた。
 彼女こそ、攻撃の要である事は確かであるし、ルーンシールドが在る為そう簡単に倒れる事は無いだろうが、墓地から遠くの先へ、先へと進む味方と動かない悠月が分断されてしまうのは悪い状況だ。
 雷慈慟が悠月の身体を持ち、敵を薙ぎ払い、イスカリオテが火葬の間に影継が追い上げる――そして、墓地から遠ざけるのは可能ではあったのだが。
「アーひィー」
 ヴィルマの一言は理解できぬものの、リベリスタ四人の内側から膨れ上がった恐怖心が其の侭爆発して内側から破壊される。イスカリオテこそ、恐怖なんて知り飽きたものだが、強制的に膨れ上がる其れに抗う事は難しい。して、その威力も馬鹿にできない程の強力なものを秘めていた。此の儘、墓地から遠ざける為に押せ押せは危険であろう。
 だから、そこで雷慈慟は判断した。

 撤退、と。

 動いていたのは『破壊者』ランディ・益母(BNE001403)だ。
 楽団、思い返してみればめんどくさい奴等だと思いだしながら。されど、其の腕は称号の通りの威力を持つ。
 奇襲班だと、数十秒の間待たされていた退屈を、今此処で晴らすべきであろう。
 身体を跳躍させ、月光を背に自ら敵の中へと飛び込んだランディ。振り上げた斧が回転してぶん回されて、産んだ小さな小さな嵐はヴィルマの背後から其の近くのアンデットまで一斉に巻き込んでいく。
「ん? なんだァ、今の……」
 確かに、手応えというものはあったのだ。ランディの命中精度が悪かった訳では無いのだが、当たったはずなのに逃れたヴィルマ。強敵と呼ぶに相応しい?のであろうだが、すぐにネタはバレる。
「良い音を聞かせてくれると思ってきたんですけどね? それじゃあ、0点です!」
 『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)がヴィルマの背後に回り込んだ。アンデットが完全に奇襲組を見ていないからこそ、出来た芸当であるだろう。
 待機中に思っていた。楽団の強さは知っているからこそ、囮組が心配であったのだが……矢張り囲まれて身動きできていない彼等を見れば、やっぱりねと。
「だから、早く皆を助ける為にもですねぇ」
 ――死んでくださいね?
 月明りに珍粘の槍が不気味に光る。此の世の呪いを集めた其の槍が、瞬く間にヴィルマの――否、憑りついている何かが槍を代わりに受けた。一番驚いたのは珍粘自身であっただろう、なんぞよくわからないものに自分の武器が掴まれた其の状況に、なんとなく背すじがゾゾゾと凍る。
「成程、守っているか」
「ホムンクルスがか? 何の為に」
「理解りませんが、本人に聞いてみるといいかもしれませんね」
 雷慈慟と影継が目撃した事実に、正解を編みだしていたが。其れだとあの憑りついている何かは回収が出来ない。
 困った、と顔を顰めたのはイスカリオテであったが。
「なら、庇えないようにしてしまえばいいのです」
 なんて言うから、拓真が剣で野球バッドの如くフルスイングした。確かに弾いてみる其れ、地面に着陸した刹那四本足で地面を這ってヴィルマに近づこうとする姿は。
 ひっ!?と上ずった声をあげた珍粘が害虫でも除ける如くシッシッと手を払って。
「本当に、人……ですか? ノーフェイス? アーティファクト??」
 推論立ててみるが、イスカリオテは。
「失敗作……ですか」
 そう、呟いた。雷慈慟から見れば、生まれたはずが死んでいた、そんな哀れな存在が自身の生きた証を残したいように見えて仕方が無かったのだが――。


 不機嫌なのか、不協和音は響く速度を早めていく。同時にヴィルマの毒の鞭が囮班へと痛みを振るう。
 既に無力虚脱を受けていた上に、其の鞭は不運にも二回程彼等の元へと届いてしまった。悠月はまだしも、比較的撃たれ弱いイスカリオテの身体の傷つき具合は激しい。
「こっちを、向け!!」
 拓真の両手の筋肉が引き締まっていく。全力を超えて限界さえ超えて、身体を痛めつけてでも放つ力の暴力は恐ろしいものだ。アークのデュランダルの中でも特に彼は恐ろしい力を秘めていた。
 其れは、一発では終わらない事だ。
 一発目の120%がヴィルマの背を切り裂き、叫び声が響く。そして二発目、一回目とは異なる方の剣がヴィルマの首の4割を胴体から切り離した。其の威力、其の速度、流石のヴィルマも危険と感じたのか手の平を裏返して拓真を標的とする。
「ギギギ!!」
 血眼の瞳を見た刹那、拓真の内側から恐怖が爆弾のように弾けた。歯さえ食いしばって耐えるつつ、後方より珍粘の槍がヴィルマの胸を射抜く。
 その時にやっと憑りつくアレがヴィルマに追いついた。槍を抜かんとする姿が何故か珍粘には愛らしく見えてしまったものの。

 刹那、轟音と共に雷慈慟がアンデットを弾き飛ばした。
 群がっている一帯、雷慈慟の場所だけ空中にはじけ飛んだアンデット。其れがボトボト落ちる合間にはもう、悠月とイスカリオテの詠唱は終わっていた。
「どうした、そんなものか?」
 口では強気の彼女であれ、回避に優れているユーヌであれ、体力は低かったか、息も荒く標準もブレる。其の、小さな手を悠月が上から支えて始めて命中したフラッシュバン。
 其処に乗る悠月の――マレウス・ステルラ。
「全て、塵に返しましょう」
 天井より降り注ぐのは流れ星。そんな綺麗なものに見えても、殺傷能力は其処にいる誰よりも高く、酷く。其れによってフォース化したアンデットは少なくは無い。全ては此の、音楽が原因であるのだろうが……。
「頼もしい方が多くて嬉しい限りですね……さて」
 引き剥がしの作戦ではあった、しかし上手い事ヴィルマが奇襲班の方を標的にしたのは運が良かったか。
 けれどもけれども、此の耐久レースは如何したものか。
「力押しか」
「お前が言うなら、従うぜ」
 雷慈慟と背を合わせた影継。
 だが合わせたのも一瞬、直ぐに手前の敵を弾いた雷慈慟。上手く夜空に飛んだ、玩具のようなアンデットを見上げながら、しかし背で息を荒くするユーヌやイスカリオテを見れば雷慈慟でなくとも判断は容易い。
「ああ、そういえば。アークリベリオンには……」
「バイタルウェイブだろ!」
「お願いしたい」
「任せな!」
 飛び散ったアンデットの雨をさらりとかわし、其の内一体を序にと断頭してみじん切りにして細切れにしてから、自身の身を削って撃ちだす力。そう、影継の回復は特に今回役に立った。持ち直す、其れは完全回復とは言えないが、其れでも十分であろう。
 其の影継の力に紛れて、イスカリオテの炎が周囲を包み込んでいく。まるで裁きの炎だ、火葬か、死臭なんて嗅ぎ飽きたもの今更ではあるが。湧き上がる温度の中、イスカリオテはただ一点の子を見つめていた。ホムンクルスか、何かか、未だ其の判断はつかねど……。
「今回は、持ち帰れ無さそうですね」
 其の言葉を聞き逃さなかったのは、ランディであった。

 『彼』は言っていた。楽団の彼は、もうひと花咲かせて終わりたいのだと――負けられない意地か、それともフェーズを3まで進ませてしまった呪いか。
 ヴィルマの広範囲の技は然程であれ、一人を狙うファントムの影は特に拓真の体力をごっそりと削っていき、遂に其のフェイトを飛ばすまでに。
 ほそい月の様に笑った口元に嫌気がする。こんな所で負けられないからこそ、拓真は
「長丁場になるのは好ましく無いのでな……早々に突破させて貰うぞ!」
 吼えた。
 生きた証を残したいのも、夢を視るのも、拓真はけして否定的では無い。されど、楽団としての彼、いや、ノーフェイスとしての彼の行動だけは見逃す事は出来ない。
 リベリスタだからこそだ。
 彼の夢を折るのは何故か、心の隅が痛いのだけれども。でも。でも。
 両手の血がだらだらと流れて、拓真の顔は真っ赤に染まる程。120%を振り上げて打ち落とす、続く、仲間の攻撃――。
「チッ、変な音出しやがって」
 拓真の剣がヴィルマから抜けていく、其の入れ替わりでランディの斧が、盛大に、よく解らないものごと叩き斬ったのだ。影継は言っていた、アレにハイテレパスしたのだが、人語が返って来なかったと。回収するつもりでも、此れにヴィルマを守らせていれば逆に。
「悪いが此れがあったら、ヴィルマに攻撃通んねえからな。壊した」
「いいんじゃあないですかねぇ」
 未だヴィルマの肩に刺さっている斧の上に、トン、と足を置いたのは珍粘であった。
 ランディもそうだが、珍粘も同じく体力はスレスレ。頼りは影継だが、しかし仲間に頼りっぱなしというもの格好が悪いだろう。
「おい。斧に足置くな」
「ウフフ、まあまあいいじゃあないですかぁ」
 珍粘の好みは真っ赤な血。真っ赤なランディの瞳と髪に、少しばかりうっとりとした表情を向けながら、振り向きつつ槍でヴィルマの喉を切りつける。
 しかし、その時であった。
 ヴィルマの瞳が見開いて―――また、そうか、拓真を狙うかと思われた時だった。やらせない、最愛の人を。創り上げた、マレウスの鉄槌が頭上から降り注いだ。
 上を向いたヴィルマが其れを回避しようとした所であった、拓真とランディの剣と斧が飛んできた。刃がさっくり、ヴィルマの足を地面に縫い止める芸当を見せ。
「あばよ」
 ランディが手を振った刹那、ぐしゃりと潰れたヴィルマの身体であった。
「さて、残りの奴等はどうしましょうね」
 珍粘が見渡すアンデットは、主人がいなくなった瞬間に倒れたのだが。フォースは残っている。
「此れは此れで、恐怖映像だな。写メでも撮っておくか?」
 ユーヌは翼を広げて少し上空を飛んだ、其処で見つけた―――嗚呼。
「そういえば、油断大敵という言葉があったな」
「そうだな」
 頷いた雷慈慟が片手を前に出した。其の瞬間に起き上ったヴィルマが狙う、ランディ。
「俺はァァァアアヲヲヲオレアアアアアアシネナイイイイ!!」
 駆けていく姿は走り方さえもブレていた。だが其の、謎の執着心は何処から湧き出るのか。
「ああ、拓真さんじゃなくてそっち狙うんですね」
「オレか」
 ランディが構えた、振り上げた、斧。しかし其の直前に雷慈慟のピンポイントがヴィルマの脳天を綺麗に射抜いた。
「すでに死んでいる花が、咲く訳がないだろう」
 ぐるんと白目剥いたヴィルマ、其の次の瞬間にはランディの斧が断頭を放つ。


 戦いが終わった後であった。まだ、死臭の強く残る其処でイスカリオテは連絡を繋ぐ。
「委託案件は完了しました」
『おやおや、イスカリオテ様! 此れは仕事が早くて嬉しいものですね。きっと彼方もお喜びになりますよ』
 通信に出たのは、あの『名も知らぬ甘い声の男』であった。気前よく、声色よく、本当に嬉しそうな声を出しながら応答したの、だが。
「……さて、ところで」
 此の一件。予知精度が高過ぎる。
「“失敗作”を仕込んだのは、貴方ですか?」
『……』
「……」
『………プッ! あはははは!! 何を仰るかと思えば! 俺はしがない仲介役ですよぉ、そんな冗談みたいな事あるわけないじゃないですか!』
「そうですねぇ、ですが此の世界は本当に意地が悪く、理不尽こそ多い。そうは思いませんか?」
『思います。思いますとも!」
「ところで、そろそろ不便なのですが貴方のお名前を聞かせて頂けないでしょうか?」
「あはは、貴方の其の錬金術への執着は、カリオストロであるからなのでしょうかね。あんまり深入りすると』
 ――帰って来れなくなるかもしれませんよ。日本までお気をつけて、お帰り下さい。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした、結果は上記の通りになりましたが如何でしょうか
まずは遅れて大変申し訳ございませんでした
作戦素晴らしかったです、初動は完全に穴を突かれた気がしました。相談の時点で嫌な予感しか夕影しなかった
フェーズ3なので相応に敵も強く、アンデットもフォースもいたのですが……完敗ですね
ふふ、回復がリベリスタには乏しッ……ある、だと……?というのが良い思い出
それではまた違う依頼でお会いしましょう
今回はリクエストありがとうございました