●異世界から来た怪人 黒いコートにサングラス。オールバックにした髪が、少しだけ風に乱れている。冷たい瞳を持つ彼は、違和感を感じていた。 彼は、異世界からDホールと呼ばれるゲートを潜ってこの世界に逃げてきた。正義の味方、ヒーローを名乗る男から逃げてきたのだ。そのヒーローが追ってくるかと思ったが、その気配はない。彼は知らなかったのだ。Dホールが、いつまでも存在しているものではないということを。 だが、彼にとってはこれは僥倖だった。 ビルの屋上。眼下を行き交う人の群れ。平和に浮かれた笑顔が憎い。追手がこないなら、敵がいないなら、やりたい放題だ。コートを脱ぎ棄て、サングラスを足元に落とし、彼はその本性を顕わにする。 全身の皮膚が裂け、中から現れたのはサソリのような針を備えた長い尾だった。黒い甲殻、顔には巨大な目が1つ。両の手は、鋭い刃の付いた鋏のようになっている。 サソリの怪物。一言で言うのなら、それだろうか。 そう、彼は怪物、怪人である。残酷で、冷静、多くの配下を従え、人々の平和を脅かすために暴れる怪人。生憎と、この世界に来た時既に、彼の配下たちは全滅していたので、今は1人だけだが、構わない。 『配下など、恐怖でいくらでも増やせばいいのだから』 邪魔者の居ない世界なら、自分のやりたいように暴れまわることが出来るだろう。 くっくと肩を震わせながら、サソリの怪人は笑う。 長い尾の先端から、どろりとした液体が零れ、足元のコンクリートに穴を穿つ。 しかし、彼は知らないのだ。 この世界には、リベリスタと呼ばれる存在が居ることを。 この世界にとって、彼の存在はとても容認できるようなものではないと言う事を……。 ●怪人スコーピスの悪意 「異世界から来たアザ―バイド(スコーピス)。サソリに似た外見を持つ怪人。まるで特撮アニメから出てきたような外見だけど、生憎この世界にヒーロー戦隊はいない」 代わりにリベリスタがいるけどね、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は口元に薄い笑みを浮かべた。 「スコーピスは、固い外殻と鋭い鋏、そして猛毒を持っている。戦場は街中になるかしら。一般人を襲うことが目的だから、先ずは一般人の避難を優先するべきね」 その間、スコーピスを自由に行動させるわけにはいかない。 多勢に無勢と見れば、撤退を選択する可能性もある。 相手には、いくらでも時間があるのだから、戦略的撤退を選択することに迷いはないだろう。 「鋏による斬撃、毒針、それから単眼から放つ魔弾、最終手段に巨大化を残す……そんな相手。防御力も高いし攻撃の手段も多彩」 幸運なことに、相手は1人だ。連携を上手く取って対処すれば、抑え込むことも不可能ではない。 Dホールはすでに消失しているようなので、討伐するしか方法はないだろう。 「誰かが犠牲になる前に、早急な対処を……。索敵手段がない場合は、スコーピスが暴れ出すまで居場所を発見できないのが難点ね」 最悪の場合、後手に回らざるを得ないことになる。 その場合、犠牲者が出る可能性は格段に上がるだろう。 「なるべく迅速に、事態を収拾してきて欲しい」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月09日(月)22:30 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●街中に現れる怪人 まるで特撮アニメのワンシーンのようだった。ある日の昼下がり、平和な午後。駅前広場で昼食をとるOLや、友達と待ち合わせする大学生、遊びに行く恋人達などの目の前に、そいつは姿を現した。 大きな体に、鋭い鋏。ぎょろりとした単眼が顔の真ん中についている。ごつごつとした体は、岩のようで、その腰からは長く弧を描く尻尾が伸びていた。尻尾の先には鋭い針。どろり、とした不気味な液体を針の先端から零す。 見慣れない姿だ。だけどどこかで見た事がある。それはアニメや映画の中で、悪役として描かれる存在、怪人をイメージさせる姿をしていたからだ。 だから、だろう。 駅前に集った数十人は、気付かなかった。 事態に気付き、事情聴取のために駆け寄った警官が、毒針に刺されて地面に伏すその時まで、この怪人がアニメや映画のキャストではなく、本物の、悪意を持った危険な怪人であると言う事に。 ●猛毒スコーピスを駆逐せよ 「世界が変わって、人が変わっても悪党ってやつは変わらないのね……。見つけた」 閉じていた目をゆっくりと目を開き、『ならず』卑馬野・涼子(BNE003471)は頭上に飛んでいた『Brave Hero』祭雅 疾風(BNE001656)に怪人スコーピスの居場所を伝える。 「やっぱり狙いは、最も人が多い所、幸せそうな所だったか。そういう場所に現れて悪意を持って乱そうとするものだと相場が決まってる」 仲間に敵の居場所を伝え、疾風は現場へと急行する。簡易飛行で空を飛ぶ彼は、地形に影響されずにまっすぐ現場へと向かうことが出来る。 そして、それは彼だけではない。 「この世界の者とは、臭いが違うんだよね。嫌な臭いだね」 「やれやれ……。異世界からやって来てもすることは同じとはな」 疾風と前後し現場に到着したのは、空を飛ぶ能力を備えたエイプリル・バリントン(BNE004611)と『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)の2人だった。警察官の制服を着込んだアーサーが、素早く一般人の避難誘導へと回る。 エイプリルは、式符を使って自分の身体を強化して疾風と共にスコーピスの前へと出る。 2人の背後、アーサーの傍に横たわっているのは先ほどスコーピスの毒針に刺された警官の男だ。 そんな彼の身体を、淡い光が包み込む。 「平和を乱す事が望みなんて迷惑なお話ですわね……」 溜め息を1つ零し、その場に現れたのは『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)だった。白糸のような髪を揺らし、まっすぐな視線をスコーピスへと投げかける。 『……………邪魔者っていうのは、どこにでも居るものなのだろうな』 ぎょろり、と単眼を巡らせて。 スコーピスは、そう呟いた。 「異界に来てまで混乱を求めるとは……。随分場当たり過ぎないですか怪人よ」 現場に駆け付けると同時に、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は一般人の誘導へと回る。無関係な彼らがこの場に居ては、戦闘に集中することも出来ないからだ。 アラストールやアーサーが避難誘導に専念している間は、他の仲間達でスコーピスを押さえてくれる手筈になっていた。 「よう怪人。平和が嫌いなのは構わないがボクのいる世界でしょうもない混乱は起こさないで欲しいな。ボクが楽できなくなるじゃないか」 左右の手に小太刀を構え、物影から一直線にスコーピスへと駆け寄り、斬りつけたのは『双刃飛閃』喜連川秋火(BNE003597)だ。怪人は、右の鋏で秋火の刀を受け止める。 左手では、疾風とエイプリルの攻撃を捌き、その単眼で涼子を睨みつけて牽制。多人数との戦闘に慣れているのか、余裕さえ感じられる。 おまけに、怪人にはまだ尻尾が残っているではないか。びゅん、と風を切る音。大きく弧を描きながら毒針がエイプリルを狙う。 近づきすぎたことが災いしたのか、エイプリルの反応が一瞬遅れた。その一瞬が命取りだ。ガードも回避も間に合わない。 けれど……。 「おおっ!!」 気合い一閃。駆けこんできたアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)の刀がスコーピスの毒針を受け止め、弾く。飛び散った毒液が、アズマの頬を濡らした。毒液に触れたアズマの皮膚が、見る間に赤く爛れていくが、大きなダメージにはなっていないようだ。 「お前の相手は、俺達だぜ」 『多人数との戦いには慣れている。全員纏めて、あしらうのは得意だ』 次の瞬間、皆の視界からスコーピスが消えた。 否、消えたのではない。リベリスタ達の攻撃を回避し、その場に低くしゃがみ込んだのだ。真っ先にその事に気付いたのは、後衛から戦闘を見守っていた涼子と櫻子だった。注意を促すよりも速く、スコーピスの身体はその場で独楽のように旋回。 直後、辺りには鮮血が飛び散った。 血の雨に身体を濡らしながら、スコーピスは左右の鋏を打ち鳴らす。べっとりと数名分の血で汚れた鋏だ。スコーピスによる斬撃が、リベリスタ達を切り裂いた。仲間が追撃を受ける前に、涼子は銃の引き金を引く。 「いくら甲殻が固くても、関節や弱点に当たれば効果はあるでしょ」 涼子の弾丸は、まっすぐにスコーピスの目を狙って放たれた。大きな単眼は、スコーピスにとって弱点に成り得る。複数相手に平気な顔をして立ち回れていたのも、その目のもつ動体視力によるものか。弱点を狙われたスコーピスは、その単眼をぎょろりと涼子へと向けた。 身構える涼子。直後、彼女の脇腹を青白い光線が撃ち抜いた。 「……っえ!?」 単眼より放たれたレーザーだ。涼子だけでなく、背後で避難誘導を続けていたアーサーをも纏めて撃ち抜き、レーザーは消える。その場に涼子は膝を付き、しかし薄く笑みを浮かべた。 ほんの数秒。稼げた時間は長くは無いが、仲間が体勢を立て直すには十分すぎる時間である。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 両手を胸の前で組んで、そっと目を閉じる櫻子。溢れだすオーラが、淡い燐光へと変わって傷ついた仲間達の全身を包み込む。 回復役の存在を把握し、スコーピスは攻撃対象を櫻子へと変更する。単眼で櫻子を捉え、ぎょろりとした目にエネルギーを蓄積していく。レーザーを放つ直前に、スコーピスの真下へと駆け込んだ疾風が、剣を握った拳を振りあげた。 「この世界にも正義の味方はいるんだよ! 貴様の終着点はここだ」 鋭い斬撃が、スコーピスの首筋を切り裂く。飛び散る体液は緑色。どろりとして、気色が悪い。 蓄積していたエネルギーが霧散する。舌打ちを零して、スコーピスは鋭い毒針を疾風へと突き刺す。 「……っぐ!」 体勢を崩し地面を転がる疾風。腹部からは、だくだくと血が流れている。 「正義のヒーローから逃げてきたってな。残念だがこの世界にも似たようなのがいるんだよ」 両手に持った小太刀を、スコーピスの肩へと叩きつける秋火。その隙に、エイプリルは疾風の身体をスコーピスの傍から遠ざける。それと同時に、懐から取り出した式符をスコーピスめがけて投げつけた。空中で式符は、黒い鴉へと変化し、スコーピスの尾を射抜く。 「怖気づいて逃げられる前にこの場に釘付けだ」 スコーピスの視線が、エイプリルへと注がれた。その一瞬の隙をついて、秋火の刀が鋏を削る。 『ちょこまかと鬱陶しい!!』 スコーピスが叫ぶ。その目から放たれたレーザーがエイプリルの肩を撃ち抜いた。飛び散る鮮血も即座に蒸発して、血なまぐさい匂いを周囲に拡散させる。 エイプリルを射抜いてなお、レーザーは止まらず彼女の背後へと抜けていった。 「さぁ、貴方で最後です」 そういって、アラストールは逃げ遅れた老人の背を押し、広場からの避難を促す。背後では、仲間達がスコーピスと戦っている。聞こえて来る怒号と破壊音が激闘を知らせてくれる。 その時だ。 「気を付けてっ」 と、そう叫ぶ涼子の声が耳に届く。声に反応し背後を振りかえると、まっすぐこちらへ抜けて来るレーザーが1発。進行方向には、件の老人が居た。 守りに入ろうと、アラストールは踵を返すが間に合わない。 「無防備な一般人を襲うような卑怯なヤツは、オレがオレの誇りに掛けて許せねぇ! てめぇはここでぶっ潰してやるぜ!」 怒りを顕わに、アズマがスコーピスへと斬りかかる。しかし既にレーザーは放たれた後だ。アラストールの剣を、スコーピスは受け止める。 「一般人は、俺に任せろ。お前は奴を止めて来い」 そういってアーサーは、老人を護る為にレーザーの前にその身を投げ出した。光の翼を広げ、武器として用いている杖を旋回、レーザーを受け止める。レーザーの勢いは弱まったものの、完全には止めきれずにアーサーの腹部を撃ち抜き、拡散して消えた。 血を流し、地面に膝をつくアーサー。背後を振り返ると、老人は既に逃げた後だ。それでいい、と1つ頷き、アーサーは地面に手を置いた。彼を中心に、周囲一帯が結界の中に閉じ込まれていく。陣地作成。スコーピスによる被害がこれ以上拡大しないために陣を作成する。 アラストールは、剣を引き抜きスコーピスの元へと駆けた。 疾風の剣が、秋火の小太刀が、アズマの刀が、エイプリルの鉄扇が、遠距離から放たれる涼子の射撃がスコーピスの攻撃を妨げる。数の暴力、とでも言おうか。固い甲殻を持ってしても、入れ替わり立ち替わり叩きこまれる攻撃を受けていては、攻勢には出られない。 振り回した鋏が、エイプリルの身を切り裂く。 毒針がアズマの肩を打ち抜き、レーザーが涼子を怯ませた。 一度、巨大して体勢を立て直すべきか、とそう考え始めた矢先のことだ。 「祈りこそが我が存在」 リベリスタ達の背後から、鮮烈な輝きを纏った剣を振りあげ、アラストールが飛び込んできた。 両の手は、エイプリルと秋火に抑え込まれている。 毒針は、疾風が掴んで離さない。 レーザーを放つにも、エネルギーが溜まり切っていない。 輝く剣が、スコーピスの眉間に叩きこまれた。 衝撃。痛みは無い。意識が遠のく。頭がくらくらとするのは、眉間に叩きこまれた一撃が効いているからか。 ここで倒れては、怪人の名折れだ。最後の最後まで、悪を貫きとおすのが怪人の鉄則。 だからこそ……。 スコーピスは、途切れそうになる意識を繋ぎとめ、全身に残っていた力を爆発させた。 ●最後の最後まで ドン、と怪人の全身からオーラが溢れる。衝撃波と風圧に押され、リベリスタ達は皆、背後へと吹き飛ばされた。地面を転がる彼らが見たのは、20メートル近いサイズにまで巨大化したスコーピスの姿であった……。 「巨大化まで出来るなんてお約束を抑えてて完璧だ。厄介だね、まったく」 引きつった笑みを浮かべ、エイプリルがそう呟いた……。 淡い燐光が飛び散って、傷を負った仲間を包み込む。蓄積していたダメージを回復させて、最終決戦に備えた。櫻子が、ゴクリと生唾を飲み込む。巨大化したスコーピスが、足元に群がるリベリスタ達を見降ろした。 直後、台風染みた暴風を伴ってスコーピスの毒針が直下。それを受け止めるのは、アラストールだ。 「食い止めるっ!」 輝く剣を振り抜いて、スコーピスの毒針を弾いた。ブロックしたものの、衝撃を受け止めきれずにアラストールは地面に倒れた。 「癒しと裁き、そのどちらも行なえるが私と自負しておりますの」 降り注ぐ光が、巨大化したスコーピスの全身を撃つ。櫻子の視線とスコーピスの視線が交差した。スコーピスの巨体は、全体攻撃のいい的だ。光に押されて、スコーピスは片膝をつく。 鋭い鋏と、尻尾の針とを交互に地上へと振り下ろす。 「あの尻尾が厄介だな……」 舌打ちを零し、疾風が駆ける。疾風の進路を妨害するようにスコーピスの鋏が降り降ろされたが、涼子の弾丸が正確かつ素早く、甲殻の隙間、関節部分に撃ち込まれた。どろりとした体液が零れ、地面を汚す。 それならば、と反対の鋏が疾風に迫るが、間に割り込んだ秋火によってそれは妨害された。 「巨大化すれば強くなるかもしれないけど、弱点も大きくなるはずさ」 「これから死に行く君にこれだけ教えておいてやるよ。この世界にもヒーローもどきが居るのさ。さらばだ、サソリ怪人君」 一閃、二閃と目にも止まらない斬撃の嵐がスコーピスの鋏を切り裂いた。甲殻の隙間、或いは殻の薄い部分を正確に切り裂く秋火の斬撃によって、スコーピスの鋏は地面に落ちる。 振り下ろされた毒針を回避し、その根元へと斬撃を叩きこむ疾風。ぶちり、と小気味のいい音がしてスコーピスの毒針が切断された。 左右の腕と、毒針の尾を失ったスコーピスはその単眼にエネルギーを収束させてレーザーを放つ準備を整える。しかし直後、一羽の鴉がスコーピスの瞳を撃ち抜く。ぎょろり、と視線の向いた先にはエイプリルが居た。 「あはは、怒るといいよ!」 エイプリルの挑発に乗って、スコーピスはレーザーを放つ。レーザーはまっすぐにエイプリルの元へ。防御の姿勢をとるが、大ダメージは避けられないだろう。いくら鬼人により強化されているとはいえ、火力が違う。 エイプリルの身が、レーザーに包まれた、その瞬間だ。 「行って来い!」 いつの間にそこにまで移動していたのだろうか。スコーピスの頭上に、アズマを抱えたアーサーが飛び上がっていた。光の翼を広げたアーサーは、その逞しい腕でアズマの身体をスコーピスの頭部目がけて投げつける。 「オレの名はアズマ、アークリベリオンだ! いざ、推して参る!」 大上段から、身体ごとぶつかるようにして放たれた一撃が、スコーピスの頭部に打ち込まれた。スコーピスの単眼が、ぎょろり、とアズマの姿を捉えた。その目の中心に、エネルギーが集まり、しかしそれは放たれることなく霧散して消えた。 光を失った単眼に、アズマの姿が映り込む。 空気がしぼむようにして、巨大化していたスコーピスの身体が小さく、元のサイズへと戻る。 そして……。 スコーピスは、爆発。跡方も無く、この世界から消え去った。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|