●清涼空間ザッピング 本来ならば、何ら問題はなく終わる日だったはずなのだ。 集まった面子が面子だった故に想定以上に早く終わったささやかなエリューションの退治。 出掛けにフォーチュナが、冗談のように『その辺りで最近女子高生が何人か失踪してるらしいので、気を付けてくださいね』なんて『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)と『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)、月杜・とら(BNE002285)に声を掛けたりはしていたけれど。 「一体誰がこの顔ぶれを攫っていけるってんだか、すずきさんは分からないよ」 「万華鏡にも引っ掛からないし、多分家出だろうとは言ってましたけどねっ」 なかなかに暑い日だったから、女子高生に紛れてジェラートを買ってスプーンをぴこぴこさせたりしてる『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)の言葉に頷いた離宮院 三郎太(BNE003381)の通り――特に異常はない、のだろう。 「ぶっきー、今こそ年上の男性としての甲斐性を見せる時だと思うんです」 「世間様の言葉に翻訳すると『奢れ』という事か」 目をキラキラさせて見上げる舞姫と『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)の様子もいつも通りだ。 早めに終わったからと一応様子を見に来たものの、その必要もなさそうだった。 「家出にしても誘拐にしても、これ以上分かる事はなさそうか。散歩にもならなかったな」 「ふふ……まあ、たまにはこんな日もよろしいかと」 常の如く冷めた目で、けれど同じ様にジェラートを突くユーヌを微笑ましげに見ながら、『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は暮れかけた空を仰ぐ。 綺麗な夕焼けが見えている。明日も晴れだろうか。 「しかし、こういう陽気だと俺らは仕事終わりにアイスよりも一杯、と行きたいものだけどね」 「本部で報告までは終わらせねばな。その後にしておこう」 「お、じゃあ熾竜さん、ウチなんてどう? 今の時期にいいのが……」 やや遅れて続く『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)の感覚も何も捉えてはいない。穏やかな夕方だ。 「おっ、にゃんこはっけ~ん。ぬっこぬこにしてやるぜ☆」 「あ、とらちゃん、あんまり急ぐと転……」 建物と建物の間の細い路地。わざわざ通り抜ける人は少ないだろうが、向こうの景色も見えているそこに、とらを追いかけて入った舞姫は――言い様のない怖気に囚われて、持っていたコーンを取り落とす。 ぐちゃ、と潰れる音は聞こえなかった。 「……ぬこは逃げたか。良かった」 とらの声が、先程までとは質を違えて聞こえる。 夕日に染まった赤い路地であったはずのそこは、真っ赤な鉄錆の箱にも似た部屋に変わっていた。 「あら。『誰も入れないようにしていた』のに」 聞こえてきた声に、舞姫の中の何かが蘇る。 穏やかな日に紛れ込む異分子。 教室に差し込む夕日という日常に見合わない。赤。鮮血。目の前に広がった色。痛み。 逃げ惑う級友をなんとか誘導し、庇った身に受けた傷。右腕が、痛い。 『まず、右腕から。次はどうしようかしら?』 女の歯が、腕の肉に食い込んでいる。 囁いた声が血の様に生温くて、生臭くて……。 ●日常平穏ザッピング 誰もいない通りに潰れているジェラート。 石を投げ込んだ水面の様に揺れている空間を見つけ、踏み込んだメンバーが見たのもまた、赤だった。 血を上から垂らしたような鉄の箱。 奥に転がっている赤いものは……消えた女子高生か。 「やれ、随分と自傷癖に満ちた『家出』もあったものだ。……死んではいないようだが、このままだと時間の問題だな」 「ど、どうにか助けられませんかねっ……!?」 「説得が通じる相手ならばこんな悪趣味な部屋は作らないだろう。全く手間の掛かる」 「まあ、お招きしてもいないのに酷い言い草だわ。どうして入ってこられたの?」 ユーヌの言葉に、三郎太の視線に笑ったのは、一人の女。 長い黒いドレスを纏った、白い肌の妖艶な女。 「――皆、急いで通信を本部と繋いでくれ、ギロチンさん辺りにこいつのデータを探して貰う!」 「了解した。舞姫、とら、一旦距離を置け」 「おっけー! 任せとけ……って、舞ちゃん? 舞ちゃん?」 素早く前に進み出る快と、得物を構えた伊吹にとらは頷いて、ふと隣の舞姫に訝しげな目線を向ける。 一つしかない目を見開いた彼女は、額に汗を浮かべて深く浅く息を吐いていた。 「どうしたの、何かされた? すずきさんと一緒に一旦下がろう」 「舞姫様、具合でも……? 痛みがあるなら、私に――」 その腕を掴んだ寿々貴と、気遣わしげに声を掛けたシエルの言葉を遮り、女は笑う。嗤う。 真っ赤な唇を吊り上げて、赤と青の両目を細めて。 「ああ。あなた。あなたはわたし。だから入れたのね。久しぶりね、可愛いわたし」 ああ。そうだ。 こいつはいつも。いつも。いつも。日常を剥いで持っていく。 そこに血塗れで転がっている彼女らだって、さっきまでのような平穏な日々を送っていたはずなのに。 「可愛いあなた。全部わたしに捧げに来てくれたの?」 そこで、誰かが気付いた。 頬に片手を当てて怖気のする嘲りを浮かべた女の右目が、荒い呼吸を繰り返す舞姫と同じ色である事に。 ●曖昧記憶ザッピング 夕日で染まった赤い部屋。血飛沫で染まった赤い教室。 細い腕の何処にそんな力があるのか舞姫を軽く持ち上げた片手。 真っ赤な瞳は舞姫から零れた血を湛えた深い沼に似て、意識が奪われそうになる。 全身の力が抜けていくようだった。 けれど体は意識を繋ぎ行動に移す僅かな奇跡を掴み取り、血の池に一撃を振り下ろした。 刃物ですらない無力な鉛筆は、それでも革醒者の臂力を持って女の目を抉る。 無我夢中の反撃に、女は今度こそ血で真っ赤に染まった目を押さえた。 苦痛の声すら上げず、少し眉を顰めただけだから、きっと殆どダメージなど与えていないに違いない。 女はほんの僅かな確率で舞姫が掴み取った奇跡の一撃など、歯牙にもかけずに彼女を放り投げた。 食い千切った舞姫の腕をハンカチでも拾うように摘み上げて、近寄ってくる。 断面を舐めて、肉を齧る。目と一緒に飛ばしたはずの指は、もう元に戻っていた。 『治すのは簡単だけど、そうね、あなたの目、綺麗ね?』 べちゃりと音がして、赤い何かが女の眼窩から落ちる。 鉄錆の臭いと腐臭に包まれ、それはぐずぐずに溶けてしまった。 赤い唇。赤い爪。一つ残った嘲り嗤う赤の瞳。 真っ暗な眼窩が、舞姫の目と合って、 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月14日(土)22:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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