● 降り注ぐ木漏れ日。 木立の間の小道は獣道に近く、整備されてるとは言いがたかったが――リベリスタにとってはそこまで厳しい道のりではない。 「地図によるとそろそろやな」 幻想纏いにDLした地図を表示しながら、『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)が眩しそうに目を細めた。ふんふん、と鼻歌を歌いながら茂みを踏む足が軽くなる。 「着いてからが本番、ではありますけれどね」 様子に『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)が枝を緩く除けながら小さく笑った。彼らは山にピクニックに来ているのではないのだ。特別な力を持っていない畝傍の鼻にも、微かな香りが漂ってきている。 「酒の湧く滝……いや、泉か。三高平にでも湧けば手間が省けるというのに」 酒の為に山を登る依頼。そこはかとないデジャヴを感じる『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)の言葉がなんか二重の意味がありそうなのは気にしてはいけない。 仕事だからね。わざわざ時間掛けて山登るより簡単な方がいいよね。 そう、今日のリベリスタの任務はピクニックではなく、発生したバグホールから異界の水……こちらで言う酒が流れ出してきているから止めてきてくれ、というものである。 「養老の滝というには些か不都合が出ているのが難点か」 軽く顎を撫でた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の言葉通り、単に泉の水が酒になったというならば……まあ放置は出来ないが、原因次第ではひとまず置いておく事も出来なくはない。ただ、この度それが出来ないのは――。 「おねぇ、魚ってどれくらい大きくなってるのかな。うみより大きい?」 「そこまでか、は分からない。……でも、狩りがいのある、サイズ、だといいんだが」 楽しげに『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の踏みしだいた後をついていく『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)の言葉通り、周辺生物に影響を及ぼしているからである。主な影響は巨大化――と、行動の鈍重化。加えて酔っているかの如き不安定な動き。 釣人とかはやっべえこれ獲りやすいとか大喜びかも知れないが、生態系に影響を与えるので宜しくない。 ちなみに革醒者ならば飲んでも平気な様子だ。革醒って凄い。 「でもお酒かあ。……私と羽海さんは飲まないようにって言われちゃったもんね」 「正確には酒もどき、らしいけど。……慣れないとあまり美味しいものでもないからな」 少しばかり拗ねたような『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)に、『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)がなだめるように首を振った。 湧き水自体も美味しいですから、ね? と首を傾げたフォーチュナの言葉は嘘ではあるまい。 空気は清涼で、傍の流れも澄んでいて美しい。 既に流れてしまった分については流れる内に希釈されて栄養分になる程度だから気にしなくて良い、との事だし、眩い太陽はそろそろ真上に着こうかという頃合だ。 バグホールとエリューションさえ処理してくれれば後はゆっくりしてくれとの事なので、多少遠足の様に気が浮き立っても仕方あるまい。 「なんかでっかくなった魚とか沢蟹も倒し方で色々変化するって言うやんね。楽しみやわー」 「聞く情報だけだと、悪い世界ではなくも思えますね」 「多少覗いてみたくもあるが……まあ、此方の生物の生存に適するかというのは微妙か」 「覗いてみたら巨大化して動きが鈍くなった、となるのは御免蒙りたいものだな」 「うみもおっきくなれるかなー」 「食べて育つ方が、動きの為には、いい。大きいだけのウスノロ、もいなくはない」 「たまには今すぐもっと大きくなりたい、と思わなくもないけどね」 「焦る必要はない。成長が止まってさえいなければ望まずとも育つものだから」 そんな賑やかな会話を交わしていけば――ああ、もう目の前だ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月10日(火)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 夏にはまだ遠く、けれど暖かな日差しが照らし出す山道で『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)は大きく息を吸い込んだ。木々と土の香りが体に満ちる。 普段の街の喧騒や、店から流れてくる止まる事のない音楽も悪くはないけれど――鳥の囀りやさざなみに似た葉の擦れる音もたまには良いものだ。 「たまにはこんな、比較的害が少なくて楽しめる事も起こるもんやねぇ」 「ちょっと早いが、キャンプ気分だな」 頬を撫でていく風が心地良く『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)は目を細めた。目の前に惨劇はなく、失われたものもなく。知らずに渇いていく心には、時々の潤いも必要だろう。渇いて硬くなった様に見える心は、結局脆くもあるのだから。休養は大事だ。 「外でごはん楽しみだね-。あ、ねえねえ畝傍さん、これは食べられる草?」 「どれどれ、ああ、これはコシアブラですね。少し苦味が強いですけど食べられますよ」 「やった、おねぇ見てみて……あれ、おねぇ?」 「……呼んだ、か?」 覗き込んだ『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)がにっこり頷くのに、ぱたぱたと黒い羽を揺らして喜んだ『Nameless Raven』害獣谷 羽海(BNE004957)がきょろきょろと周りを見回せば、枝にぶら下がった『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が逆さまに顔を出した。 羽海が差し出した笛ラムネをその状態のまま口にした天乃が握っていたのは、山菜の束。 ぴー、と鳴るラムネが実に牧歌的である。 「山椒か」 「流石に今の時期だと、実は無かったけど。葉も、香りがいい」 「軽く潰せば薬味に十分使えそうだな」 頷いた『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)は、恋人が楽しげに詰めてくれた調味料の類一式を背負っている。他の者も持ち込むだろうとは思ったのだが、折角用意してくれたものを無碍に断るのも出掛けの笑顔を思えば躊躇われた。何、大して重くはない。 それにこの先には酒じゃなかった仕事が待っているのだ、この程度何ともなかろう。 登山靴でさくさく登る龍治が、外見だけ見れば若い登山者に見えるのに比べ――『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)はどちらかと言えば冬の登山が似合いそうな面持ちである。 とはいえ、厳しい顔つきではあるが休息を良しとしない仕事一辺倒、という訳でもない。 「んー、風が気持ちいいわ。緑が多い所って素敵」 「緑は人を落ち着かせる色、とも言うらしいからな。実に良い日和だ」 両腕を広げた『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)に微かに笑って見せ、その手の保冷バッグを代わりに持つと再び歩み始めた。 水面のきらめきが見えたなら、そこが目的地だ。 ● 泉が数個連なったそこが、湧き水の場所なのだろう。 まるで小さな段々畑のような情景に、軽く揺らぐ場所がある。漂うのはアルコールの香り。 そして遠目でも分かる、巨大な蟹と魚。 大きな体を持て余し、うっかり浅い場所に突っ込んでびちびち跳ねている魚すらいる始末だ。 とりあえず見ていても積極的に何もしてくる様子はないので、かまどを組み上げ休憩用のテントを張り、椅子を準備し、杏樹やウラジミールの持ってきたジュースを湧き水で冷やしたりして、少しばかり太陽の角度が変わってから――つまり料理の準備万端になってから、リベリスタは行動を開始した。 「さて、それでは最初に失礼」 合わせた両手の間に衝撃波の球を作り出した畝傍は、ソフトボール投げの要領でそれを魚の密集する辺りに放り込む。ぽーんと気持ち良いくらいに弾け飛んだ魚は、水中から地面に落下しばたばたするしかなかった。禁止漁法っぽいが一般的な魚じゃないのでオッケー。 「人口過多……魚口過多? に、思えるな」 天乃の足は下がぬかるみであろうが崩れやすい岩場であろうが、そして水面であろうが止まらない。とん、とん、と綺麗な波紋を描きながら水面を歩き、目に付いた魚を手刀で叩き上げる。 「うみも働くよー。あっ、かにこいこい」 岩の陰に隠れ切れていない沢蟹(だったもの)に向けて飛び込んだ羽海は、翼を鳴らしその注意を己へ向けた。黒い目玉が怯えたようにきょろきょろ動いてるのがちょっと可愛い。気もする。ふらふらハサミを動かすそれと戯れるように網の方へ誘ってしまえば後はもう、文字通り煮るなり焼くなりだ。 「とりあえず焼き魚作っちゃうわね。いい具合に焼けるのよ」 川辺でびちびちしている数匹に向けてシュスタイナが呼ぶのは魔性の炎。一気に燃え上がった炎が消えた後には、こんがり焼き目のついた魚が転がっていた。岩の上で焼いたアウトドア料理に似ている。 「ふむ、私が仕留めると、全部唐揚げになるか」 構えかけた杏樹だったが、唐揚げは出来たてが美味しいと思い直して意識を白い指先へ。手招くそれに誘われたかのようにびくんと跳ねた魚が、ぷかり浮かび上がって来るのを無事確保。 「余裕があれば此方に誘い込んでくれ」 ざばり、段差の付近に罠を仕掛けた龍治が水から手を抜いて距離を置いた。杏樹と同じく銃器を用いた射手である龍治の攻撃だと、魚は唐揚げになってしまう。それはそれで面白いが、汎用性を考えれば生で転がした方が良いだろうという判断から本物の狩人宜しく罠設置である。 ところでこの水もとい酒の香りが良い感じで山登りとキャンプ準備で渇いた喉をこれまた良い感じに潤してくれそうなのだがまだ我慢。 「了解した。速やかに片付けよう」 「ギターで殴るのは勘弁なー、その分狙い撃って行くで」 龍治の仕掛けた罠に引っかかった魚をウラジミールがナイフで捌く横から、珠緒が魔法陣を展開し矢を呼び出すと岩へ張りつけて行く。 てきぱきとした連携の前には、酔ってふらふらになった魚や蟹など物の数ではなく――泉に存在していた魚たちは、あっという間に一所に集められた。 「少し唐揚げを作っておこう」 「分かった。二、三匹で良いな?」 杏樹と龍治が構え、撃ち抜いた魚がなんの神秘かポップコーンが爆ぜる様な音を立てて弾けて行くのを、羽海とシュスタイナが空中できゃっきゃと拾い上げていくのを微笑ましげに眺めていた畝傍がゲートを破壊しようとして――ふと、考える。 「……ゲートの先の世界へ料理のおすそ分けとか必要なんですかね?」 要らないと思う、多分。 ● さて、材料が集まってしまえば後はもうはりきって料理をするばかり。 とりわけ一品に気合を入れていたのは畝傍である。 「天ぷらに重要なのは、温度管理。体温すら、不要です」 穏やかな表情に眠る料理人魂なのか天ぷら好きの魂なのか。冷たい泉に手を浸し、用意していた氷水で天ぷらの衣を冷やし……丁度良いサイズに切り分けられた魚と、道すがら採取していた山菜を衣に通す。 火加減がまた難しい。一定の火力を保ってくれるコンロではないからこそ、油の温度のマメな調整は欠かせない。が、その辺は刀工として炉を眺めてきた畝傍だから問題はないはずだ。 具材を衣に薄くムラなく潜らせたなら、後はイメージだ。天ぷらは『揚げる』のではなく『蒸す』料理と言うらしい。衣でコーティングされた具を、高温の油で蒸し上げる――油の温度を見極めて、滑らせるように油の中へ。 「おおお。職人技やな」 それを見守る珠緒も料理ができない訳ではないが、レパートリーがちょっとばかり心もとない。 「ぎょ、餃子の皮包むんとかは得意やけど……今必要なさそうやね」 とりあえず点心は不要そうなので、ペットボトルに詰めて来たお米がぷつぷつと音を立てているのを眺める。やっぱり日本人はお米の国のひとだから、食事にはご飯がなければ。 外国の人にも好きになって貰えればなあ、と思ったところでふと、この場で純粋な『異国の人』であるウラジミールに目を向ける。 彼はことこと煮える鍋を緩やかに掻き混ぜているところだった。鍋の中には薄い赤色のスープと切り分けられた魚、蟹の足やジャガイモが覗いている。 「ウラっちは何作ってるん?」 「ブイヤベース……風のスープだ。煮物はそれほど難しくはないからな」 「あ、良い匂いやなあ!」 「良ければ味見をしてくれるかね?」 「任せとき!」 ふんわりとスパイスの香りを漂わせるスープを差し出された珠緒は頷いて一口。魚介の旨みのぎゅっと詰まったスープに相好を綻ばせた。 サバイバル知識は高いものの、洒落た料理となれば門外漢と判断した龍治は背負ってきた小型タンクに湧き水、もとい酒を汲み上げる。ゲートは破壊したものの、段々畑に近い形状の泉の中の水が全て入れ替わるにはそこそこ時間が掛かるだろう。段々と薄まっていく酒も、ロックで氷が溶けて行くようなものと思えば悪くないかも知れない。 「龍治、魚を捌くの手伝ってくれるか?」 「ああ」 澄んだ色のそれに目を細めた所で杏樹に声を掛けられて軽く頷く。捌くのならお手の物、だ。 「貴重な射手の料理シーンだね」 さくさくと魚を捌いて行く二人にちろりん、と写メの音を鳴らしたのは現代っ子羽海である。伊吹パパ経由で彼の恋人に送ってあげよう、などと小さな駄菓子のドーナツを齧りながら考えていたら、シュスタイナがその襟を軽く抓んだ。 「羽海さん、溶いて入れてみる?」 「生卵? 食べていい?」 「まだだーめ。雑炊に入れるんだから」 軽く指を振ったシュスタイナの手元には、くつくつ煮えるご飯。赤い蟹の身が良いアクセントで食欲をそそる。ご飯が入っているのもただの水じゃなくて、ちゃんと出汁をとっているのだから美味しいのはもう間違いないだろう。 ここにふわふわとろとろの溶き卵を流す時を思えば、羽海もちょっとだけ我慢できる。 そういえばおねぇは――と茂みのほうを振り返った。何か吊り下がっている。 「……おお。スプラッタ」 「ちょうど、兎、がいたからね。あと、猪」 「いないと思ったら一人で何狩ってたのおねぇ」 魚もスプラッタと言えばそうなのだが、やっぱり哺乳類だと解体時のインパクトが違うとかそういう事は置いといて、血抜きをしっかり済ませ内臓を抜いた天乃が持ってきたのはもう店に並んでいるのと遜色ない感じの肉である。サバイバル耐性の強いリベリスタが多い。よし牡丹鍋作ろう。 その間にも魚を捌いた杏樹は、蟹と野菜と一緒に煮込んであら汁を作っていく。ぬめりと灰汁をしっかり取りながら煮込めば生臭さもなく、一口味見。魚にはもう酒は必要なさそうだ。下ごしらえまで済んでるとは実に良い魚だ。 「沢蟹の何匹かは唐揚げにしてみようか。ギロチンへの土産にもなるし」 殻は小さい時と同じ様に薄い様子だし、これは悪くない。きちんと持ってきたタッパに小さくしてから詰めれば立派なお土産だ。ちなみに凄い喜んでました。 一通り準備が終わったら皿を回して、成人にはお酒を注ぎ、未成年は冷やしていたジュースを手に乾杯すれば――楽しいご飯の始まりだ。 ● 「……これは旨いな」 「ありがとうございます。揚げたてを塩で、が最高ですよね」 畝傍の天ぷらを口にした龍治が呟けば、温度調整の合間に他の料理や酒をつまむ畝傍が頷いた。衣の音を割れるかりっとした音を聞きながら噛み砕けば、淡白な白身魚のほのかな甘味がふわっと広がる。 「子供が居る手前、そう多くは飲まん、つもりだ、……が」 料理が旨い。しかもこの酒、見た目は水と同じ透明で日本酒を思わせる香りだが――何処か果実の上を滑る朝露のような瑞々しさとすっきりした爽やかさを持ち、しかし麦に似た風味を感じる事もあり……何とも不思議な酒だ。 前に食べた料理によって、一口ごとに味が変わっているようにも思える。まずい。いや旨いけど。酒乱(前科二犯)に罪状を追加する失態は子供の前では避けたい。 そんな静かな龍治の葛藤をよそに、珠緒は少しずつ料理の合間に楽しむように酒を味わっていた。 飲めるには飲めるけれど、また二十歳になって半年も経過していない。自分の限界を無理に試さなくてもいいだろう。でも酒とお米を一緒に食べるとカロリーがどうのとかそういうのは今日は忘れよう。 「楽しい時は目一杯楽しまないかんもんね。よし、それじゃこういう時にはちょっと愉快な歌を一ついこか!」 「ああ、一曲といわず好きなだけ」 杏樹の言葉に笑った珠緒は、森の中に澄んだ歌声を響かせ始める。 さくりと揚がった唐揚げ――衣が何処から出て来たのか見ていても謎だったのだが、これが神秘と言うものだろう。中に入った魚のほっくりした食感を味わいながら、口に微かに残った油の味をあら汁でゆっくり飲み下す。 矢張り街中よりはだいぶ涼しいから、温かい汁物や魚が実に美味しい。熱くなったら冷えた酒を飲めばいいのだ。と、そこで湧き水に浸していたものを思い出して振り返る。 「シュスカと羽海は、もっとジュースどう?」 「うん、うみはジュースがいいや」 「ちょっと残念だけど、そっちを頂くわ。羽海さん、もし冷えたらお茶もあるからね」 「はーい。……お酒っておいしい?」 サイダーを注いで貰いながらふと首を傾げた羽海にとって、お酒はパパのをちろりと舐めて怒られたあんまりおいしくないもの、という記憶しかなかった。 「そうだな。苦手な人もいるから一概には言えないが……自分に合う酒と飲み方が見つけられればおいしいもの、じゃないかな」 「羨ましいな。私が大人になったら、一緒にお酒呑んで下さる?」 「きっとすぐだと思う、ありがとう」 くすりと笑ったシュスタイナが酌をすると差し出せば、杏樹も笑ってジュースを注ぎ返す。 和やかな風景を視界に入れながら匙を運んだウラジミールが、そこに声を掛けた。 「シュスタイナ嬢の雑炊もうまいな」 「そう、良かった」 蟹の風味が広がる雑炊は優しい味で、羽海の担当した溶き卵もしっかり混ざって絡んでいる。 「私からも酌をさせて貰えるかね、スイーツもあった方が良かったかな」 「あ、私デザート作ってきてるの。冷やしてたから、今持ってくるわね。天乃さんも食べられる?」 「大丈夫、まだ、余裕」 自分の作った牡丹鍋やウラジミールのブイヤベース風スープも薦められるままにしっかり食べて、小休憩とばかりにテントに横になっていた天乃も起き上がって指を立てる。 並べられたシュスタイナのデザートも、小さなココットに入ったゼリーやプリンで何とも可愛らしい。 「雑賀さんは……あら、寝ちゃった?」 「……起きてる」 「……いや、寝てますね。途中からペース上がってましたから」 シュスタイナの確認に返事をした、と思ったが――確認した畝傍が微かに笑って首を振った。 大丈夫。荒れてないから大人として面子は守れた。多分。 「疲れたのだろう、静かに寝かせておこう」 「うちの歌が子守唄や、よく眠れるでー」 「珠緒さんの歌かっこよかった」 「おおきに、デザート貰ってもう一曲行くな」 羽海の拍手ににこっと笑った珠緒もゼリーを手にして親指を立てた。 木漏れ日は訪れた時とは角度を変えて降り注いでいて、美味しい匂いを乗せた風は頬と鼻腔を擽っていく。耳に心地良い歌声は、珠緒のもの。 「あぁ、ほんとに……こういうのもたまには悪くない、ね」 「おねぇはちょっと保養しないとね」 戦いに身を置きたがる天乃にとって、こういう時間はあまりないから――だからこそ、羽海も少しばかり心配するのだけど。テントに並ぶように横になった二人に、そこそこ薄まった酒とリンゴジュースを手にした杏樹とシュスタイナは笑い合う。 「ふふ。こういう一日もいいわね。美味しくて楽しい」 「ああ。これも大切な私達の日常だからな」 触れ合わせたカップの音と、小さな水音。 優しく撫でていく風に、もう少しだけ――今日と言う安らぎの日は、続いていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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