●問答法 「ペリーシュ・ナイトって知ってる?」 「うん、知ってるよ。自律式のアーティファクトの事でしょ?」 「自律式のアーティファクト? それってどういう意味?」 無知を装って、知者に対して掛け続ける言葉の裏には嘲りがあった。 相手が本当に知者であるかを見極める問答法。 見せかけの知識という仮面を剥ぐのはなんとも快感だった。 論者は言う、『賢者の石って知ってる?』と。 知者は言う、『知ってる知ってる。最近はあの人が集めてるよね』と。 論者は言う、『あの人って誰?』と。 勿論、論者は知っていた。この問答で知者は己の知識が試されているのだと実感する。 知者にとってこれほどの屈辱は無いと言うかのように根掘り葉掘り聞かれる言葉。 両者はカラカラと笑って唇を同じ形に歪める。 掛け違えたボタンはこの論者と知者――同じ顔をした二人の事を表しているかのようだった。 論者は言う、『それで、どこにいくの?』と。 知者は言う、『極東の小さな島国さ』と。 論者は言う、『極東の小さな島国? それは何処?』と。 知者は言う、『ニホンという場所だよ。アークという集団がいるのさ』と。 論者は言う、『アーク?』。 知者は嗤った――敵だよ、と。 ●00:00:00 ブリーフィングルームで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はリベリスタ達に資料を一つ手渡した。 フィクサードとアーティファクトについての情報が鉛筆書きで記されているのは、やはり、万華鏡のなせる技とアークの誇るフォーチュナ達の技術とも言えようか。 「大雑把にこの事件を顕すならフィクサードと彼らが使用するアーティファクトの暴走阻止。 事細かに言うならば、『ペリーシュ・ナイト』への対応をお願いしたい――と言ったところかしら」 ペリーシュ・ナイト。その言葉に幾人かのリベリスタが首を傾げる。 額面通り受けとめればペリーシュの夜――つまる所、『歪夜十三使徒』第一位のウィルモフ・ペリーシュが関わりを持っているのではないか、と推測されるそれだ。 「ウィルモフ・ペリーシュはアーティファクトクリエイターよ。それも、世界最悪のね。 彼の作るアーティファクトは技巧が凝らされ一級品。だけど、使用者には必ずといっていいほど重い代償が課される事となる……今までも『重い代償』を手にした人間への対応が何度か行われてたけれど」 溜め息交じりに告げる世恋が提示する代償は様々なものだった。 それは強力な力を与える場合もあれば、手にした時点で代償を発動させる物もある。 一つ、異例のものがあるとするならば黄泉ヶ辻の首領の青年が手にする指輪位なものだろうか――世界には知らぬ物もある以上、狂気劇場と言う名のアーティファクト以外にも術者とシンパシーを感じ、その代償を及ぼさない物も居るのかもしれない。 「『彼』らはアーティファクト。それでも『彼』らに意志はあるわ。 ウィルモフの作品はすべて知性を持ち、そして、不幸を運んでくる。 不幸のプレゼンターなんて御免蒙りたいけれど――彼らは性格がお世辞にも良いとは言えないから」 関わらざるを得ないのだと世恋は呆れ半分呟いた。 「日本は『特異点』だと言われているわ。勿論、『特異点』であった――だけだったのかもしれない。 でも、『閉じない穴』が影響して居るのか……それはわからないけれど、崩界が進んでいる事は確かね。 日本が『特異点』として再び変化しているのだと、予測されるわ」 面倒事は次から次に。 それでも、放置しておける案件でもないのだ。 「……面倒な相手だけれども、どうぞ、宜しくね?」 ●ペリーシュ・ナイト 知者の首に嵌められたのは黒いチョーカーだった。 論者の首に宛がわれたのもまた、黒いチョーカーだった。 何処か違うのに、何処が違うか分からない。 ただ、その対になったチョーカーを論者と知者は気に行っていた。 二対のソレを付けた双子は只、目の前の『標的』を得る為に問答を繰り返す。 知者は言う、『彼等は来るだろうか』と。 論者はそれすら知らないのかと言う様に知者の目を見て嗤った。 彼の手に握られた人間の首がころん、と転がって壁へとぶち当たる。 きっと来るさ。彼等は強い。その力を見てみなければ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月06日(金)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静まり返った宝石店の様子は日中の穏やかな雰囲気とは違い、荒らされ、セキュリティシステムを全て解除された状態で鎮座していた。 店先に立ち、倒れ、血を流した警備員達の姿を眺めた『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の吐き出した溜め息はこの宝石店に今日まで鎮座していた『石』の存在を思い知らされる様であった。 「賢者の石、ですか……無防備な場所に今まで鎮座できたものですね……」 「ええ。ショーケースに並んでいる宝石を眺めるのは好きですけれど……無害な物であれば、ですが」 警備員達の死に様を見せつけられて『無害だ』と判断を下せるほど『聖闇の堕天使』七海 紫月(BNE004712)の感性は曲がってはいない。あからさまに有害だとアピールする空間は異様な静寂を纏いながらリベリスタを待ちかまえている様にも見えた。 「有害であれど美しい石を――ショーケースに並んでいる商品を手に入れる為に無粋なことをするものですね」 窃盗は知性のある人間のやることではない。紫月が肩を竦めて告げる声にユーディスは曖昧な笑みを零しながら、槍を握りしめる指先に力を込める。 知性のある人間とは何か。ブリーフィングで聞いたフィクサードの名前がその知性と言う物を表して居たではなかろうか。『剣龍帝』結城 竜一(BNE000210)にとっては知者と論者――どこぞの哲学者の考案した問答法に乗っ取って居るであろうソレ――という呼び名は何とも受け入れ難い。 「知者と論者って言うぐらいだから賢いんだろ? 俺は愚者だな。 賢い奴が何考えてんのなんか分かんねーから、知らねーっつーの」 愛用の宝刀露草を握りしめた竜一の隣で瞬きを一つし、ビスク・ドールを思わせる甘いかんばせに皮肉を浮かべた『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)の表情をちらりと、一瞥し『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)は浅い溜め息をつく。 知者か、それとも愚者か。リンシードにとっては己は後者だと認識する。竜一の言う様に賢い者の考える事は良く分からない。フィクサードらの本当の狙いが別のものであるとするならば、リンシードにはお手上げだ。 「……石を、渡してはいけない事だけ、分かります」 「そうねぇ、何に使うのかなんて生憎だけど見当もつかないわ。だけど、『あのクリエイター』が用入りという時点で断固阻止が必要になるみたいね」 幻想纏いを胸の谷間に埋めた『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)はハイ・グリモアールを指先で捲りながら宝石店へ向けて一歩を踏み出す。 「さて、さっさと止めに行きましょうか? 彼の手に渡っちゃ面倒が多いわ」 「懲りないよねぇ、ほんと。何が何でも邪魔してやるんだけど、さ」 風を切る様にアヴァラブレイカーを振り翳した『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)の浮かべた笑みは悪戯っ子を思わせる。紫苑の瞳に浮かんだ色は彼女の真っ直ぐさを思わせる様に透き通って居る。 浮かびあがり、爪先が宙を掻く。傘を広げた『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)の背中を見詰め、彼女の愛娘は緩く笑みを浮かべて見せる。 「リンシード、氷璃母さま。気を付けて行きましょう」 「――糾華。余り、無理をしてはダメよ?」 氷璃の言葉に笑みを浮かべて、糾華が一歩踏み出すと同時、名を呼ばれたリンシードは虚ろな瞳に精一杯の喜びを浮かべて、一気に踏み込んだ。 ● 店内へと滑りこむ氷璃の掌で傘が踊る。手首から溢れる黒血の鎖が伸びあがる。氷璃が店内に入ったことで標的を定めたのか動き出したペリーシュ・ナイト――かの歪夜の使徒が作りだした作品(アーティファクト)が氷璃へ向けて一筋の真空刃を放ちだす。 「おーおー、居るわ居るわ! ペリーシュの作ったポンコツ共が!」 真空刃を受けとめて、風を切り裂くが如く華奢な腕が振り上げた武骨な刃が黒き瘴気を打ち出せば、フランシスカの言う『ポンコツ』はうろたえた様に腕を振る。その隙を逃さぬ様にと糾華は地面を蹴り蝶々を弾丸の様に打ち飛ばす。 フランシスカの黒と、氷璃の黒とに混ざり込む鮮やかな蝶々を見つめながら歩を進めるユーディスの頬に通る一筋の風。それが鞘から剣を抜く衝撃波と似た種別だと認識した彼女は槍を掴み、誘う様に自律性のアーティファクトを手招いた。 「……ペリーシュ・ナイトが動きだしさえしなければ、このまま人目に触れる事もなく、貴重な宝石として仕舞いこまれ流血を呼ぶ事も無かったでしょうに……」 彼女の言葉も分からなくはない。この場所で無残な殺人が起こったのもペリーシュ・ナイトが動きだしたからに違いない。自律型アーティファクトが――その主人がどの様な思惑を持って動いているかをユーディスが知る由は無いのだが。 「こちらですよ? 余所見はせずに」 為すべきをやり遂げる騎士道には変わりない。緩やかに浮かびあがって居たシルフィアは己の体内に魔力を循環させながら、己らに狙いを定める骨髄メントールらに気を配る。 「なんだかねぇ……」 肩を竦め、彼女の瞳に翳りが入る。普段は愛想の良い可愛らしい女性ではあるのだが、戦闘が入ればシルフィアは何処か違う。仏蘭西の名家としての誇りか、次期当主としての実力か。体内に魔力が循環すると共に彼女の雰囲気が段々と変わりだす。 「これじゃ、不幸のプレゼンターじゃないかね……?」 「ええ。持ち主を破滅へと導く呪いの宝石。そんな謳い文句じゃ価値も下がりそうだわ」 身震いする様に、氷璃が囁く言葉を聞いてシルフィアは小さく笑みを浮かべる。仏蘭西人形のかんばせに浮かんだのは目の前の異物へ対する憐れみと、己の愛する可愛い子への心配だったのだろうか。 心配を向けられる当の本人、糾華は普段度変わりなく、蝶々の如く舞いを見せている。愚者だと自信をそう告げたリンシードを呼び寄せる様に揺らした指先。 状況を確実に判断する様に紫月は幻想纏いを手にしながら指先を揺らす。誘うそれは間違いなく目の前の敵を苦しめているのだが、彼女の本分はこの戦場を維持することだ。糾華の様子を見、ユーディスが引き付けた敵の隙間、人が抜けられるその通路を紫月は見逃すことなく、唇を吊り上げ牙を見せる。 「――今ですわよ」 この場でのリベリスタ達は愚者であるか、知者であるかと問われれば、間違いなく後者だった。 幻想纏いを通じで出されたGOサイン。耳にして、姿を潜め、夜闇に紛れていたリンシードは気配を消した侭真っ直ぐに走り込む。彼女の陰に潜んだまま、己の身を隠す様に細心の注意を払った竜一へ何か勘付いた様に体を揺らすアーティファクトを受けとめたフランシスカの巨大な鉈。 「ポンコツの癖に動くだなんて邪魔で邪魔で仕方ないんだけど? 全部まとめて叩き潰してスクラップにしてやるよ!」 少女の黒髪が舞い上がる。漆黒の闇の武具を手に唇を歪めたフランシスカへと一気に手を振り下ろす骨髄メントールへとユーディスの槍が突き刺さる。至近距離で傷つけられたそれがうろたえ、別の個体が振り翳す腕が彼女の腹を抉れば、直ぐ様に紫月が癒しを与えた。 白いドレスに、黒い髪がよく映える。光と闇の融合を己だと位置づける彼女の癒しを受けながら、リベリスタ達は前進する二人のサポートを絶やさない。 姿を隠せる訳ではない。しかし、少ないダメージでこの場を駆け抜けられるのは仲間達のサポートのお陰だろう。行く手を塞ぐ者を氷璃の鎖が巻き上げる。 「……もうすぐ、です」 「ああ、もうすぐだ。任せたぜ? 皆っ」 ● リンシードと竜一。二人が己を愚者と位置づけたのには大いに理由があったのかもしれない。この二人の愚者は知者と論者の話等まるで理解しない――否、理解するつもりもないのだが。 「こんにちは、知者と……論者、ですか……?」 途切れ途切れに、虚ろな瞳を向けたリンシードに二人のフィクサードは顔を見合わせ「如何にも」「我等が」と交互に話し続けている。首に宛がわれたアムリタが彼等を繋ぐ絆であると言う様に、ぴったりと寄り添った二人の様子に竜一は「熱いねぇ」と茶化す様に笑いながらしっかりとその手に武器を握りしめた。 「君達がアークか」 「強いのだろう?」 「ああ、強いのだろう。興味が在る」 「興味などと言って……その、知的好奇心を満たして、帰れる訳も……」 ありません、と告げ、風を切る様にリンシードは一気に進む。Prism Misdirectionを振り翳し、一気に視界に現れた彼女は誘う様にフィクサードを誘った。 その手に誘われるように、真っ直ぐに放たれた符が無数の鳥を形作る。フィクサードと言えど同じ革醒者。その技を知る竜一は石の近くに立っていたフィクサードを逃がさない様に一歩踏み出し剣を上空で振りまわす。激しい烈風を受けとめながら、その体を痺れさせるフィクサードはしっかりと意志を握りこんだまま竜一を睨みつけている。 愚者と知者。その両者が見つめ合う中で、竜一やリンシードが相手にするフィクサードが実力者であることは嫌でも分かる。かの魔術師が起用する程の相手なのだ。彼らが惰弱であるわけがない。 「考えれば考えるほどお前らに飲まれるんだとしたら俺やリンシードは愚者だ。 単純明快にやることだけをやり遂げればそれでフィニッシュ――だろ?」 「ええ……この場からは、『ソレ』を渡しません……」 互いに数は同じ。あとは押し合いになる中で、動きが早い二人からの先制攻撃を食らったフィクサード達は両者共に押されている状況になっている。竜一が相手にするのは知者、リンシードが相手にするのは論者だろうか。 知者の問答に論者は淡々と応えて行く。そう、まるで打開策を考えているかと言う様に―― 通路では襲い来るペリーシュ・ナイトらを吹き飛ばす様に糾華はステップを踏んでいる。店の奥にも見える骨髄メントールらを逃さぬ様に、蝶々を周囲に侍らせながら彼女の唇はゆっくりと動く。その先、自分たちを標的とせず奥に居る竜一とリンシードを狙わんとするアーティファクトらをこのフィールドから逃さぬ様に。 そっと、蝶々は、軽やかに宙を舞った。 「……リンシードの邪魔はさせないわ」 囁きに応える様に、フランシスカが翼を広げる。 周囲に転がる警備員の死体を飛び越えて、勝気な少女は両手を広げて「弾幕パーティーだ!」と大きく叫ぶ。 黒き瘴気に混ざり込み、氷璃の黒血の鎖が伸び上がる。決して孤立はせぬ様に、配慮に配慮を重ねた彼女は幻想纏いでリンシードらに連絡を送る事は無い。隠密行動を行っていた彼女等の邪魔にならない為に、だ。 それでも、心配なことには変わりない。信用して居るからこそ、急いで合流しなければならない。氷璃のばら撒く呪縛に捕まった様に体を揺れ動かす骨髄達へと振り翳されるユーディスの槍が突き刺さる。 「まるで美しくない光景ですわね? 喜びも、悲しみも、光りと病みも、傷の痛みも、流れる紅も……。 全てが混ざってこそ『美しく』なるというのに、なんて――ナンセンス」 囁きに混ざる様に。紫月の指先が妖しく揺れ動き骨髄から血肉を貪る様にその生気を奪い往く。自律性アーティファクトの何某かを奪い、舌なめずりをする彼女へと振り翳される骨髄の腕を受けとめて、シルフィアは目の前に張り巡らせたバリアが破られる感覚を覚える。 「ふむ……? 不幸のプレゼンターが禍々しい。さて、問題だが、不幸はアークかフィクサードかどちらに運ばれるのだろうな?」 カタカタと口を動かす頭蓋骨には喋る意思もない様でただ、面白半分にシルフィアを叩こうと振り翳す。一手下がり、傷つく腕を抑えながら彼女が降り注がせる雷撃が、頭蓋骨に宛がわれた宝石を割り、その動きを鈍らせた。 「あまり美しくもないですが……此処を抜けましょう」 開くと魔術を逃がさない最高の神気はユーディスによく似合う。十字に切りつける槍は留まらず、そのままに砕けた骨の破片から体を逸らす。その隙間を縫う様に、糾華の蝶々が真っ直ぐに入り込み、行く手のアーティファクトが動きを止めた。 ● 「ところで、君達は何故私達の邪魔をするのかな」 「大方、賢者の石を欲して居るのでしょう。我々の依頼主と同じく」 問答を続ける両者を逃がさぬ様にと光りの飛沫をあげ、その華奢な腕には似合わない剣を振り下ろすリンシードへと鳥の群れが襲い来る。啄ばまれる感覚に唇を噛み締めて、背の向こう――骨の群れと闘う己の愛しい相手を想いだし、少女は長い髪を揺らした。 「理由が、必要ですか……? その、依頼主に、渡したくないから」 「たったそれだけ。厄介なことになるんだろ? どうなるのかなんて俺には分からないけどな。 頭が悪いなりに考える事もあるんでね。悪いが、厄介になる前に此処でつぶさせて貰うぜ!」 リンシードを巻き込みそうなギリギリの距離で、気を使いながら竜一は露草を頭上で振りまわす。それを受けとめ、辛うじてその直撃を免れたフィクサードは間合いを詰め、竜一の体を叩きつける。両者の実力の差はどうか。回復役として機能しないフィクサードも、己らの回復が無くとも前線で只、仲間を信じて闘い続けるリベリスタも。負傷は五分五分と言ったところであろうか。 護りの盾を手にしたシルフィアの声が竜一の耳に聞こえる。早急に彼等の許へ、と最初に発したのは彼女だったろうか。 依然として回復手が存在するアーティファクトとの戦線では、リベリスタの負傷は少ない。何よりも紫月の光(いやし)と共に、シルフィアが与えた回復がリベリスタ達を勇気づけていたことには変わりないのだ。 「さて、待たせたかしら? 全く……邪魔な骨がいるものだから」 瞬きと共に氷璃が見据えたのは知者と論者の両者。その二人のスペックを見通す様に、持ち前の観察眼は狂いなくしっかりと彼等を見詰めている。 「無知を装って相手の無知を暴く、無様なものね。そんな方法でしか自己を確立できないのでしょう?」 「成程、アレらはやられたようだが、しかして如何するか」 「とにもかくにも逃げ切るしかなさそうだが……我々は依頼人に対して命を賭けれるほど……」 問答を行う彼等に振り翳される竜一の刃。受けとめたフィクサードが周辺を焼き払う様に焔の拳を打ち付ける。体を逸らした彼を癒す様に紫月はSword of Twilightを握りしめる指先に力を込める。 「滑稽な知者論者、ほほ、貧乏で客として買い取る事を考えなかったのでしょうか? かえって『高く』つくことになりましたわねぇ」 彼女の言葉に知者と論者は顔を見合わせる。クライアントに命じられた石の奪還と己の命を天秤に掛けたのだろうか。 知的論者を気取った彼の仮面が剥がれれば其処にあるのは只の無知な人間ではなかろうか。問答法、まさにその通りの光景ではないかと紫月は笑みを浮かべる。 「お互い対等みたいな顔をしてお互い見下し合っているのでしょう? 子供の顔した老人同士が腹の底ではお互いを嘲笑っているのでしょう?」 滑稽だわ、と囁いて、切り刻む指先をすれるように黒き鎖が伸びあがる。フィクサードを石を手にしたリンシードから剥がす様にと送られる攻撃に続き、前線で論者の前に立ちはだかったユーディスが一気に槍で彼の体を貫いた。 体が衝撃に揺さぶられると同時、知者が一歩、一歩と行動し出す。それが彼等の手にしたアーティファクトの効果であることに気付き、シルフィアは上空から雷を落としながら肩を竦める。 「成程……ガラクタはお前たちか」 「ええ、けれど――お喋りな玩具なのでしょう?」 氷璃の言葉を聞き、知者は彼女に視線を送る。力の代償を、支払期限を、二人の名前を、目的を。 お喋りであろうアーティファクトは面白がって『しらないわ、なぁんにも』と笑っている。まるで、幼い少女が隠し事をする様にわざとらしく。 「愚者は言うぜ。一気にここで剣を振りおろせ、ってな!」 竜一が振り翳す刃が壊れきれず背後から近寄ってくる骨髄の頭蓋骨を砕く。続けざまに糾華が放つ弾丸を受け、シルフィアが落とす雷撃にアーティファクトの体が砕け落ちて行く。 「『逃げなくっちゃ』――このままでは、」 誰ぞの声が、重なった。恐怖に慄くか、命を掛ける義理は無いと撤退を見せかけるフィクサードの視線がリンシードへと向けられる。 「姉様、石……持ってきました……!」 「リンシード!」 糾華の声にまるで犬の様に嬉しそうに笑ったリンシードが顔をあげる。 悲痛な響きを持った其れに気付き、少女は体を逸らした其処に真っ直ぐに跳びこむ鳥の姿。 背を向けた彼女を狙ったのだろう。卑怯者と唇の中で囁いて、フランシスカはアヴァラブレイカーを握りしめる腕に力を込める。 「言ったでしょ? 何度でも邪魔してやるけどね、って!」 黒き瘴気がフィクサードの放つ攻撃を打ち消す様に伸び上がる、一手下がるフィクサードの手には何も握られない。 周辺に存在するペリーシュ・ナイトらも破壊された。傷を癒す様に紫月が竜一とリンシードへと光りを与えれば、竜一は普段と変わりない笑みを浮かべて「有難う! うひひ」と可笑しそうに笑って見せた。 「これで、任務完了でしょう……」 ユーディスの声を聞き、石を確保したリンシードがゆっくりと立ちあがると同時、『彼』は何らかの問答を行いながら窓を割り、跳びだしていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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