下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<アーク傭兵隊>ブラウン・ベス、マスケットガンリバイブ

●傭兵の光と影
 夕闇くれる酒場の一角。ある女がグラスを掲げた。
「ジェイに」
 同じグラスを三人の男たちが掲げ、略式の乾杯とした。
「「ジェイに」」
 彼らの名はブラウン・ベス。
 マスケットタイプの銃を専門に扱うフィクサード傭兵である。
 かつて十人で活動していた彼らだが、英国スコットランド・ヤードの戦いに参加したことで一気に戦力を失い、今では四人で活動している。
 髭ずらの男エックスはグラスの中身を一飲みすると、カラになったグラスをやや乱暴に置いた。
「俺が奢られる筈だったジンがチャラになった」
 すると、横でグラスに一口もつけずに黙祷していたダブルという男が口を開いた。
「酒を飲む舌があることに感謝することだ」
「誰にだ?」
「神に」
「神にね……」
 椅子にもたれかかり、空を見上げるエックス。英国の空気とはまるで違う。空の色も香りも、聞こえてくる音も全てが違った。
 ここは中国は上海市北部に位置する露店街である。合法非合法入り交じった露天が立ち並び、右も左も雑多に賑わっている。
 彼らがわざわざ海を越えてこんな土地まで来たのにはワケがあるのだ。
 かつてジェームズ・モリアーティから始まった英国での戦いに、倫敦側の傭兵として参加したブラウン・ベスだったが、アークリベリスタとの『交渉めいた何か』によって戦線を放棄し単独で撤収した。ブラウン・ベスの全滅は免れたものの、『金を払っている限り忠実』がルールの傭兵が契約期間中に業務を放棄したとして、彼らの信用は失墜した。おかげで仕事日照りが続いている。
 故に彼らはいち早く働き口を見つけたいのだ。
 できる限り安全で、できる限り明確で、できる限り暴力的な職場を、である。
「働き口と言えばよ……」
 グラスに新しい酒を継ぎ足し、エックスは視線をリーダーのアールへと移した。
「アークの連中が『うちに来ないか』と誘ってなかったか? あれに乗るのはどうだ。アークといやあ日本リベリスタ最大組織だろ」
「らしくありませんねエックス。早とちりはジェイの担当だったのに、あなたが引き継いだんですか?」
 横から眼鏡で細面な男が口を挟んできた。名前をエルという。
「我々はアークの権力者から誘いを受けたわけではありません。先兵が『それらしいこと』を言って誘い出し、フィクサードの我々を袋叩きにする可能性は否定できない。仮に百パーセント善意の誘いであったとしても、その上にいる人物が我々を排除しようとすればそれに逆らえない。いわゆる『天然の罠』ですよ、あれは」
 天然の罠とは、光を求めて飛んだ虫が炎に焼かれたり、受益を求めた熊が崖を転げ落ちたりという、善意や悪意を超越した自然発生的なトラップのことである。
 眼鏡を直し、エルは続ける。
「その点今回の『お誘い』は分かりやすい。汚れ仕事で我々を試し、恐らく介入するであろうアークとぶつけて戦力を試し、それでも生き残るようであれば『使い捨ての駒』として採用する。下から上まで百パーセント悪意の案件です。だからこそ我々は乗りやすい。十分な対策を準備できますし、『信用せずに』仕事ができる」
「信用って言葉ほど恐いモンはないからねえ。ま、アタシらみたいに人を殺して金を貰うような連中にはお似合いの仕事さ」
 そう言って、アールはそばに立てかけた筒袋のようなものを引っ張り上げた。
 中からはストイックな装飾がなされたマスケット銃がひとつ。
 まるで兵器らしからぬフォルムに周囲の人物はまだ警戒しない。
 アールがそれを一回転させ、マスケット銃とは思えぬほどの連射でもって周囲の人間を一瞬で射殺せしめた瞬間、あたりの警戒は限界まで高まった。
 悲鳴と破壊音が響く中、アールはゆっくりと立ち上がる。
「確認するよ。アタシらの任務はこの一帯で『無意味な一般人の虐殺行為』を行なうこと。並びに『駆けつけてくるであろうリベリスタの殲滅』だ」
「気が進みませんねえ」
「それでもやらねばならん。明日のためにな」
「ああ、明日のために」
 ドン、と四人は地面に銃底を打ち付けた。
「我らブラウン・ベス」
「「四丁の銃なり!」」

●梁山泊の依頼
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はブラウン・ベスに関する資料と過去の戦闘データを並べた上で、ここまでのことを語った。
「かつて戦ったブラウン・ベスが上海市内の各所で破壊行動を起こしています。一般人を虐殺し、自警団として組織されていたリベリスタチームのいくつかを壊滅させています。このままでは治安の著しい悪化もあるとみて、かつて彼らとぶつかったアークに支援要請を出してきました」
 和泉は人物特徴を書いた四つのファイルをディスプレイに表示させた。
 まずあごひげをたくわえたいかつい男が表示される。
「エックス。ランク3相当の実力を持るクリミナルスタアです。慎重な悲観主義者で、『敵は決して愚かでは無い』という思想のもと、常に準備を怠らないまめな性格をしています」
 次にスキンヘッドの黒人男性。
「ダブル。同じくランク3のクリミナルスタア。常に冷静で科目な人物ですが、トラブルやハプニングに強く常に的確な行動を実現しています」
 次に細面で眼鏡の男。
「エル。前回よりも技術成長を遂げランク4のクリミナルスタアになっている筈です。物腰は丁寧ですが戦闘能力がずば抜けて高く、そして狡猾です」
 最後に眼帯と十字傷の女が映し出された。
「アール。エルと同等かそれ以上の能力を持ったクリミナルスタアです。計算高く、チーム運用能力に長けています」
 それぞれ四枚をまとめた上で、和泉はそれらのデータが入ったファイルをあなたに渡した。
「今回の任務は彼らの撃退と一般人の保護です。特に今回狙われている地区の自警団『ドゥロン』のリベリスタは全員無傷とすること、が条件だそうです。以上、よろしくお願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年06月09日(月)22:31
 八重紅友禅でございます。
 若干、過去にアークと因縁のあるフィクサードとの戦いになりますが、因縁の有無はこの際重要ではありません。
 補足行きます。大事な情報もあるのでよくお読みになってください。

●成功条件
 ブラウン・ベスの撃退。生死不問。
 リベリスタ自警団『ドゥロン』の保護。
 自警団は五人。全員ランク1のジョブ混合。彼らのフェイトが『合計で3減少』した時点で失敗になります。
 つまりこのシナリオは戦闘半分保護半分という内容になっています。

●自警団『ドゥロン』
 今回担当する露店街の自警団です。
 詳しいことは分かっていませんが、雰囲気からしてアークをあまりよく思っていない空気があります。
 『ちょっと強いからってよそ者がデカい顔しやがって』みたいな空気です。
 場合に寄っては理屈や実力を度外視してブラウン・ベスに挑んでしまうかもしれないので、ちょっと強めの態度が必要になるでしょう。コトと次第によっちゃ実力行使もアリです。その場合、ある程度のメンバーをこっちに集中させる必要が出るでしょう。

●ブラウン・ベス
 実力に関してはオープニングに書いたとおりです。
 オープニング前半の描写で分かるように、彼らはアークが介入することをどことなく察しているので、それなりの準備をしているはずです。
 以前戦った段階でアークが非常に賢く強靱で尚且つ結束の強い組織であることを理解しているので、まず侮ったりはしません。

【※注意※】
 中国は万華鏡の探索範囲外です。
 よってオープニング前半の情報は『プレイヤー情報』として扱われます。
 つまりPCはこの情報を知りません。『ブラウン・ベスが中国でめっちゃ暴れてるらしい』くらいしか知りません。
 望んだ状況まで持って行くには、PCがそうなるように誘導する必要があります。
 また、万華鏡で見えていないだけでブラウン・ベスが色々な準備をしている可能性があります。国内での『全部分かっている状況』とはかなり勝手が違うのでご注意ください。奇策が周到な準備によって蹴散らされるのはよくある話です。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールプロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
ハイジーニアスクロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
ジーニアスアークリベリオン
マリス・S・キュアローブ(BNE003129)
ジーニアススターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
ナイトバロンナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ハイジーニアスホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)
ハイジーニアスレイザータクト
鈍石 夕奈(BNE004746)
アウトサイドスターサジタリー
クリス・キャンベル(BNE004747)

●自警団『毒龍』
 昼から飲みに行こうとしたら、行きつけの立ち飲み屋が爆発した。
 俺がコトのに気がついたきっかけはそれだった。
 すぐ近くにいたリーダーは『イギリス人がどでかいクソをしにきやがった』と口汚く叫んでいた。
 彼は粗末なトカレフを投げてよこすと、『今すぐ連中をぶち殺してやる』と口角泡を飛ばした。
 『彼ら』がやってきたのは、丁度そんな時だった。
『どうも、ドゥロンの方々』
 合成電子音に振り向いてみれば、妙な眉をした日本人リベリスタが笑顔を浮かべていた。
 彼女が融通の利かない翻訳ソフトを通して言うには、自分はアークの戦闘部隊員であり強さは証明されているが、戦闘以外はできないので適材適所にしたいとのことだ。
 おかしな翻訳に見かねたのか、一緒にいた男女が話しに加わってきた。
 バイクに乗るでも無いのに革グローブを嵌めたアクセサリーだらけの男と、カトリック信者でもない自分でもおかしいとわかる改造シスター服を着込んだ女だ。
『今暴れてるのはブラウン・ベスっていう傭兵でさ、連中は挑発して君らを足止めして、よそから待ちを襲わせる気なのさ。あんなの無視して街のヒーローになっちゃいなよ』
 軽い調子で言う指ぬきグローブの男に、幹部の一人が食いついていった。いつも考え成しに部下を殴る男で、腕っ節と身体の大きさだけで生き抜いてきたようなところがある。だから理屈で考えられないのだ。
 そんな反論を予測していたのか、改造シスター服の女は慈母のような笑顔で割り込んだ。
『あなたのやるべきことは、気に入らないアークと消耗し合って連中の思い通りになることかしら』
 理屈で考えない人間は自尊心に槍を突かれるとすぐにひるむ。彼もそうだ。
 畳みかけるように女は言った。
『ワタシたちは梁山泊の要請で来ています。彼らはあなたたちをうしないたくないんですって』
 うまい話術だ。まずは理屈で頭のいい連中を押さえ込んで、プライドを鞭と飴でまるめこむ。
 笑顔の日本人女性が所属と目的と要求を全部洗いざらい述べてきたのもいい。こちらの立ち位置がすぐに明確になった。街を襲われて過敏になっている今の俺たちと衝突すること無く綺麗に自分の仕事をしようとしている。
 日頃住民どうしの諍いに首を突っ込み続けていたリーダーが感心した顔で頷いていたのがちらりと見えた。
 すぐに幹部たちはまとまりを見せ、結局俺の仕事はイギリス人退治から住民の避難へとシフトした。
 どのみに飲みに行くことはできそうにない。

●ブラウン・ベスという銃
「やー、話したら分かって貰えるモンっすねえ。翻訳ソフト様々やわあ」
 街へ散っていくドゥロンのメンバーを見やり、『プリックルガール』鈍石 夕奈(BNE004746)は肩をこきりと鳴らした。
 既に彼らとは話をつけ、ドゥロンは住民の避難、アークは敵の排除という分担が成されたところである。現に夕奈たちはブラウン・ベスのところへ急行している。正確な位置は『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)の千里眼で確認済みだ。人数も四人全部いる。
 と、そんな中にアーク以外の顔もあった。
「あら、あなたは他のみんなと一緒に行かないの?」
 『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が水を向けてみると、彼はぎろりと彼女を見た。
 頭の各所にえもいえぬ拷問の傷跡をのこした男だ。
「『全部を任せる』とあってはメンツが立たない。せめて俺が立ち会う必要がある。これだけはドゥロンの総意として譲れない」
「あら日本語お上手」
 ぱちんと手と会わせる海依音をもうひとにらみしてから、すぐに前方へ視線を移した。
「俺はドゥロンのリーダーをやっている。ロンと呼べばいい。手は出さないから、同行することだけは許可してもらう」
 説得されてもこれだけは譲れないという様子だが、逆に言えばそれだけアーク側を立ててくれているということでもある。この様子なら戦闘に加わることもないだろうと、彼らはそのままブラウン・ベスが暴れているというポイントへと突入した。

 地面をうつ伏せに這いずる男がいた。
 左足はない。
 背がグッと踏みつけられ、後頭部に銃口が突きつけられる。
「すまないな。これも生きていくためだ。お互い、嫌な世界に生まれたな」
 引き金にかけた指を絞ろうとしたその瞬間、手首のすぐそばを銃弾が掠めていった。
 男を踏んだまま銃を向ける。向けてすぐさま撃つ。
 弾丸が飛び、空中で『飛んできた』弾頭と衝突。いびつなピンバッチになって地面に落下した。
「また会ったな、ブラウン・ベス」
 『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)が二丁の銃を構えて立っていた。他のメンバーも集まっている。
 彼女は……ブラウン・ベスのリーダーこと『アール』は、相手の顔ぶれを一通り確認してから『アークか』と呟いた。
「あんたは確か、キューと撃ち合って生き残ったヤツだね。歴史上あんたが初めてだったから覚えてる。他にも何人か知ってる奴がいるな。因縁を感じるねえ……いや、運命って言ったほうがロマンチックかい?」
「どちらでもいい。見知ったよしみもかけずらい。全力で止めさせてもらうぞ」
「と言うわけで、悪運勝負といこうか」
 『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)は全身から気糸を紡ぎ出す。
 同じく『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)もまた自らの残像を展開。
 それぞれアールに向けて解き放とう――とした所で違和感に気がついた。
 周囲で同じように殺戮行為をこなしていたエル、エックス、ダブルの三人がそれぞれ散っていったのだ。
 ダブルは近くの建物に転がり込み、エルとエックスはそれぞれ建物の影からバイクを引っ張り出し、それに跨がった。突っ込んでくるか? と思いきやそうではない。完全にこちらへ背を向け、あろうことかアクセルを全開にして戦闘区域から離脱したのだ。
「なんだ? 俺たちを見て撤退した……?」
 顔をしかめる『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)。
「いや」
 『quaroBe』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)がキッと目に殺意を宿して言った。
「急いで避難誘導してるメンバーに連絡してください、狙いは『ドゥロン』ですっ」
「本当か」
 顔を見返してくるロン。
 そうこうしている間に建物の二階から狙撃をエックスが狙撃をしかけてくる。
 マリスは飛来した弾丸を端末で防御、おもむろに建物へインパクトボールを投げ込んでやった。
「ここは私たちが食い止めます。彼らに接触されたら終わりです。急いで!」

 ダイナマイトでも税関をスルーできることでおなじみのアクセスファンタズムだが、流石に小回りの利く乗り物までは持ってきていない。せいぜいがトラックである。避難中の市民を轢き殺しながらなら急げるが、さすがにムリだ。
 ということで、死ぬ気で走ることにした。
 こんなことはそもそも想定していないので、メンバー分けもアドリブである。
 敵と味方の位置を正確に把握しなくてはならないので、千里眼もちの翔護とクリスはそれぞれエルとエックスを追いかけ、リーダーを保護しつつアールとダブルを迎撃するべく彩音と義弘、そしてマリスが元の場所に残った。
 簡易的にABCにチーム分けする。
 A:彩音、義弘、マリス。アールとダブルを迎撃。ロンを保護。
 B:ロアン、海依音、クリス。エルを追って迎撃。避難誘導チームを保護。
 C:翔護、夕奈。エックスを追って迎撃。避難誘導チームを保護。
 以上のように三分割したチームで、ブラウン・ベスと戦うことになったのだった。
「八対四だと一瞬だけど、二対一なら以外と勝ち目がある……なるほど、下手に罠や伏兵をしかけるよりずっと地味で確実な方法だね。よく考えたよ」
 ゴミだらけの小道を駆け抜けつつ、ロアンは目を細めた。
「でも一番『考えた』のはマリスかあな」
「その心は?」
「この事件にはなにかある、と思ったんだ」
 クリスに視線を向けられ、ロアンは指を天に翳した。指揮棒のようにくるりと振る。
「彼らは自分の実力をわきまえていて、その上アークの実力も分かって、しかもちゃんと警戒してるんでしょ。僕だったら、正面から挑んで『じゃまなアークをやっつけてドゥロンをつぶしてやるぞー』なんてバカな考えはしないよ。それこそゴミみたいに死ぬだけだ」
 脳内でどんなビジョンを浮かべたものか、ロアンはとろんと笑った。
「それに彼らは傭兵でしょ。趣味で市民を虐殺してるとは思えない。それも『上海市内の各所で破壊行動を起こし』、『一般人を虐殺し、自警団として組織されていたリベリスタチームのいくつかを壊滅させて』いるわけだ。なら本当の狙いはリベリスタチームを壊滅させたがってる誰かからの仕事って考えるのが自然だよね」
「なるほど。自警団がかけつければそれを殺し、アークが駆けつけたなら時間稼ぎをして自警団を狙いに行く。オレたちがドゥロンを上手に丸め込むことも計算に入っているわけか」
「信頼されたものねえ」
 クリスと海依音はそれぞれ空をみあげた。
 自分たちの優秀さが時として利用されるという事実に思い至ったからである。
「実際、前の戦闘ではオーバーなリスクをさけるために交渉をしかけていた。その実力を『買われた』わけだ」
「まあ、そこに素早く気づいたマリスはたいした物だよ。きっとね」
 ロアンは表情を僅かに鋭くして、目的の場所へと意識を集中させた。

●弾丸のゆくえ
 夕奈は小道を走っていた。
 足場の悪い道だが、罠は無い。というより、『E能力者との戦闘において決定的に働く罠』というものが、爆弾で町ごと吹き飛ばす規模でないとありえないのだ。伏兵についても、いるならとっくにドゥロン側が潰されているはずだ。
「翔護センパイ、お待たせしやしたぁっ!」
 小道から飛び出し、即座にドクリトン系列を展開。
 一方で翔護は――。
「あ、呼び方はSHOGOでおねが――ガッ!?」
 と言いながらエックスにマウントポジションをとられていた。
 顔面に銃のストックを叩き付けられ、顔をぼこぼこに腫らしている。
 周囲を見回してみると、ドゥロンの姿はない。建物に隠れていた市民がちらほら顔を出しているが、エックスは見向きもしなかった。
 そもそもこんな状況になったのには理由がある。
 ドゥロンを戦場から遠ざける際、翔護は見知らぬ同窓会に混じり込むかの如くさらっと彼らに合流し、避難誘導を手伝っていたのだ。
 おかげでエックスが駆けつけたときには既に翔護がおり、ここはまかせて先に行けと死ぬ伏線を張りながら突撃。取っ組み合った末見事にボコボコにされていたのだった。
「でも来てくれて助かった! それとって!」
「ういっす!」
 夕奈が地面に転がっていた銃をスライドシュート。受け取った翔護は零距離キャノンボールを発射、エックスを引きはがした。
「思ったより早かったか……まあいい」
 エックスは地面をいくらか転がったあと、そのまま乗ってきたバイクに跨がった。
 チャンス、と目を光らせる夕奈。
「あたいらのお給料に殺しははいっとらんさかい、今帰るなら追いかけん。どや」
「……」
 相手は振り返らず。耳元に手を当てた。通信機か?
「エックス、撤収する」
 遠ざかるバイクの音を聞きながら、夕奈は安堵のため息をついたのだった。
 Cチーム、防衛成功。

 一方こちらはBチーム。クリスと海依音はエルの動きとドゥロンの位置を見比べた結果、市民教会に向かっていることを突き止めた。とはいえ事前に地理を入念に調べたであろうブラウン・ベスと千里眼でどれが壁だか分からないようなあやうい移動をする彼女たちでは微妙に到着に差が開いた。ということで、最初に教会へ到着したのはエルであった。
 両開きの扉をバイクと銃撃でもって破壊、市民たちの悲鳴をあびながら、エルは部屋中央にへたりこんだドゥロンのひとり、青年へと銃口を向けた。
 眼鏡を指で押し上げ、柔和に笑う。
「神へのお祈りは済ませましたか? まだならすみません。待てませんので、死んでください」
 青年が恐怖に震えた。
 エルが引き金に力を込めた。
 銃がその機能をはたし、弾丸が飛び出す。
 同時に青年の背後にあったステンドガラスが破砕。
 七色に乱反射する光を浴びて、神父の服を着た何かが飛び込んできた。
「ご機嫌、いかが?」
 ロアンである。
 彼は迂回路ばかりの貧民街にしびれをきらし、面接着からの屋根伝い移動という荒技でもって一直線に教会へ乗り込んできたのだ。
 ロアンはそのまま弾丸と青年の間に滑り込み、ブレーキ。
 弾丸は彼のモノクルに直撃。眼孔をえぐる勢いで人体を破壊した。
 頭がスイカ割りのようにはじけ飛ぶ。
 が、彼は運命をねじ曲げて強制修復。
 そして自らを五つに分身させた。
 迷うこと無く突撃。エルもまた迷わず次弾装填、発射――するよりコンマ五秒早く、破壊された扉から踏み込んだ海依音が神への祈りを詠唱、神の愛を発現させた。
「サービス満点、海依音ちゃんはお仕事に堅実です!」
 ギリギリのところにあったロアンの体力を緊急回復。
 打ち込まれた弾丸を歯でくわえて受け止めると、エルの首を両手で掴んで固定した。
「悪運勝負は僕の勝ちだ。こうされると、イヤだろう?」
「襲うのをやめれば返す……と言いたいところだが、それでハイハイと帰るような小物では無いだろう。理解しているよ、前回できっちりとな」
 ごり、とクリスの銃が二丁ともエルの後頭部に据えられた。
 にやりと笑った。
 誰が?
 四人、全員がだ。
「これは牽制だ。一人は、ヤらせてもらうよ」
「残念です」
 クリス、全力射撃。
 エルの脳内に鉛玉を二十七発叩き込み、徹底的にトドメをさし、教会の中央に横たえた。
 瞑目するクリス。
 周囲に残ったのは粉々になったかれの眼鏡と、首から下と、震え上がった市民とドゥロンの青年、そして血まみれの神父とシスターだけである。
「オレは今日も、ラッキーデイらしい」
 Bチーム、防衛成功。

 こちらはAチーム。彩音、義弘、マリス。そしてロン。彼らは圧倒的に不利な状況に陥っていた。
 アールとダブルは建物などの障害物をはさみ、距離をとってちくちくとB-SSSをしかけてくる。
 そうなると義弘はロンを庇い続けるしかない。掴んで放り投げてしまおうかと思ったが、うっかり彼と離れてしまえばその場で殺されかねない。前進して攻めるのも当然ナシだ。
 反面、彩音とマリスが射撃を試みてもちょくちょく遮蔽物に隠れるせいでうまく当たらない。仕方なく、じりじり動いて遮蔽物に身を隠すことになった。
 退くに退けず、攻めるに攻めずらい。ある意味英国戦の意趣返しのような戦い方をされていた。
「すまない。俺さえいなければ一気に攻められたものを……」
 ロンが殺意の籠もった目で呻いた。
 飛来する弾丸を肉体でもって受けながら、義弘は必死に歯を食いしばった。
「お前さんがいるからこういう攻め方をされたんだろう。いなきゃいないで別の戦法をとったろうな……こっちをザコだと楽観して飛び出してくれればどんなに楽か」
「強さも弱さか」
「だが良かったこともある。俺と彩音、それにマリスが残ったことで相手も時間稼ぎに人員を割かざるを得なくなったらしい」
「……どういうことだ?」
 聞き返してきたロンに、マリスがちらりと目を向けた。崩れたコンクリート壁に背をつけて、勘でインパクトボールを放り投げる。
 二階に立てこもったダブルに対してもそうしたが、『位置取り』を気にする人間にとってこの手の攻撃ほど嫌なものは無い。こっちも必死にロンを守っているが、相手も相手でこちらを逃がさないために必死なのだ。マリスはそんな状況を冷静に、そして的確に分析していた。
 相手もまた、焦っている。
「しかし言葉は無用。腹は満たされませんからね。さて、ちょっと攻めますよ。援護お願いします」
「いいだろう」
 マリスは遮蔽物から飛び出すと、腕に固定した端末を盾のように翳しつつブレードを展開。
 と同時に彩音はピンポイント・スペシャリティを発射。
 建物の二階にいたダブルは腕をとられ、その隙に超高速で窓から飛び込んだマリスが強烈なアクセルバスターを叩き込んだ。よろめき、反対側の窓から転げ落ちていくダブル。
 と、そこで、銃撃がやんだ。
 なぜなら。
「エルがやられた。撤収するよ」
 アールがそうよびかけたからだ。
 それぞれバイクに跨がるアールとダブル。
 彩音が頃合いとみて声をかけた。
「アークに来る気は? いや、雇われる気はないか」
「……」
 アールは振り向き、ヘルメットを被った。
「金額の交渉をしてもいいが、ちゃんと『上の人間に話を通して』くれよ。出向いたが最後『そんな話は聞いてない』なんて蜂の巣にされかねない」
「わかった。うちの『上の人間に話を通せば』いいんだな」
「ただ、どうだろうね、こういうのは」
 アールは小声で。
「金で転がる人間ってのは、より高い金額で裏切るってことだ。信用していいのかい、うちらをさ?」

 エンジン音が遠ざかる。
 戦いの終わりの音が、した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。アーク側は梁山泊からの依頼を完遂。
 ブラウン・ベス側も『ある依頼者』からの依頼を八割ほど遂行した模様です。この仕事はアークが出てきた時点で終了するようなものなので、ブラウン・ベスの今回の仕事は終わったことになります。
 今後彼らがどこについてどう動くかは、今回参加したメンバーの行動に左右されます。