●もふもふもふもふ もふもふもふもふ。もふ? もふもふ、もふふふ、もっふもっふ。 もふもも、もももふもふもふ。 もふ? もっふもふもふ、もっふもふー。 以上、侵略者達の会話。 ●天国と地獄 「えー、至急解決すべき事案が発生した」 『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)は一見普段通りに、常と変らぬ口調で告げた。 アナログにも紙っぺらを束ねた資料を丸め、それで軽く肩を叩きながら呼び出されたリベリスタ達を一瞥する。 が、次に発された言葉は、恐らくその場の誰にも理解出来なかっただろう。 「もふだ」 白衣のフォーチュナは、至って真顔でそう言い切った。 とはいえ流石に眼前の、疑問符の浮かぶ顔に気付いたのか肩を叩いていた資料を下ろして溜息を吐く。 「いやな、実は……転居に伴う閉館中の図書館にディメンション・ホールが開いて、そこから異界の住人どもが転がり込んできたんだ」 例によって、と告げる口調は、些かならずうんざりとした響きを宿している。 「といっても、別段危険なアザーバイドじゃあない。ただ、その姿が少々特殊でな……」 資料にちゅうもーく、と淡々と間延びした口調で配ったばかりの資料を示す。 紙面の画像には、一見して白い毛玉のようなものが写っていた。 「こいつらが大量に降ってきた上、館内に残っていた書籍や棚を始めとした木材を片っ端から食い荒らしている。何でも草食っぽいな」 どうでも良さそうな口振りで言いながら、再び手元の資料を丸め直したフォーチュナがまたもやそれを使って肩を叩き始める。 「移動速度はごくゆっくりとしたものだし、食欲旺盛な以外はのんびりとした奴らで危険もない。敢えて言うならこの時期には暑苦しくて、うっかり噛まれると腕や足なら簡単に持っていかれるくらいだな」 安全を述べる割にはさらりと物騒な言葉を付け足した五月女が、問題は、と溜息交じりに息を吐き出した。 「見た目ももふなら鳴き声ももふだ。おかげでもふ好きの職員は骨抜きにされて碌な作業にならん!」 危険性のない案件だけに必ずしもリベリスタを動員する程の事態でもないんだが、と何度目かも分からない深い溜息を零して肩を竦める。 まさか多数の希望者を押しのけてもふ嫌いを採用するのも気が引けるし、とぐちぐちとした呟きを吐き出してから、我に返ったように五月女がそっぽを向いて咳払いをした。 「と、兎に角だ。館長の言葉を伝えれば、一つでも多くの書籍を救ってほしいとのことだ。もっとも事態が事態なだけに、館長も粗方諦めてるようなんだが、な」 此方側の人間だったのが功を奏した、と愚痴のように零す辺り、どうやらリベリスタとも何らかの関係を持つ人物ということだろう。 仕舞に大きく吸い込んだ息を吐き出してから改めて咳払いをし、五月女は集うリベリスタの面々へと視線を移した。 「えーと……まぁ、なんだ。とにかくそういう訳だから、さっくり片付けてしまってくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:猫弥七 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月31日(土)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 白い指先が翻り、日差しが差し込めど何処となく薄暗い雰囲気を失わない図書館に、新たな影人が生み出された。 次から次へと生み出される影人達を囲むように、足元の辺りでもっふりとしたアザーバイドが興味深げに群れている。EPを限界まで使って最後の影人を呼び出したところで、四条・理央(BNE000319)は小さく吐息を零して肩の力を抜いた。 「これで全部、かな……」 「あ、一体噛まれた」 モッフィーが一匹跳ね上がって影人に齧り付くのを目撃した『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が声を上げた。しかしすぐにアザーバイドの口が開くと、床の上にコロンと落ち、そのままぽよんぽよんと転がっていく。 仲間達がもぞぞ、と集まってくる中で、影人に噛み付いたモッフィーが大きく身体を震わせた。ぶるるる、と震える毛並みの擦れる音さえ聞こえそうなほどに派手に身体を震わせると、ぶわっと毛を膨らませて影人達に背を向け、代わりに手近な齧り掛けの本棚に食らい付く。 「……美味しくなかったのね……」 悟った『そらせん』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)に答えるように、三々五々に散ったアザーバイド達は散らばる書籍や棚に齧り付いた。根元を齧られ過ぎた本棚が一架、ギシギシと耳障りな音を立てながら倒壊する。 「あら? あらあら、可愛らしい……」 纏う着物の裾をつむつむと引っ張られて視線を下ろした『白雪狐』天月・白蓮(BNE002280)が、足元に擦り寄る気付いて相好を崩した。 影人に噛んだ一件で人への興味は薄れたらしく白蓮には噛み付こうとはしないものの、今度は着物に興味を示しているらしい。 「はじめまして、異世界の方々」 仲間達への守護の守りを施してから、齧り付くべきか迷うように裾の端っこに歯を立てて引っ張る丸い生き物の上に身を屈めて、白蓮はそっとアザーバイドを抱き上げた。 「モッフィー……えーっと……」 もっふりしているから、と実に単純な由来で命名されたアザーバイドの名前を口にして、恋人の傍らに身を屈めながら『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)が小首を傾げる。 「何だか何処かで聞いたような認識名ですねぇ……このアザーバイド、口がバッテンになったりしてませんよね?」 仄かな苦笑を食んで恋人の手にある毛むくじゃらに指を伸ばし、もごもごと蠢く毛を持ち上げてみる。 「あら、やっぱり口はバッテンじゃないんですねぇ。少々残念……」 むず痒さでもあるのかどうか、歯をかちんかちんと噛み合わせ始めたモッフィーの口元から指を離し、宥めるように毛皮を梳いた。 「キュンっと恋しちゃう……!」 しゃがみ込んだ足元で、腹を見せつつ差し出された木材の破片を齧るぐうたらなアザーバイドに『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)が目を輝かせる。 「ころころふわふわで、可愛い!」 食っちゃ寝体勢のまま持ち上げられ、むぎゅっと抱き締められたアザーバイドがもきゅっと奇妙な悲鳴を上げた。それでも木材に食い付いている辺り、実に食い意地の張った生き物だ。 「もっふぃー、もっふぃー、もっふぃーちゃん♪」 のほほんとした口振りと表情で、ある意味では奇怪な形のアザーバイドを指先で突く。 歌うように抑揚に富んだ声が『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)の唇を過ぎ、心持ち肩を落とした拍子にほう、と綻ぶような吐息が零れた。 「普段からこういうお仕事ばかりなら平和ですのに~」 幻想纏いから取り出した古本を一匹へと差し出しながら、櫻子のほっそりとした指が白い毛皮を擽る。 まったりと穏やかな空気の流れる、そんな一角で。 「まるくてもふもふといえど、世に迷惑をかけるもの、ゆるすまじ」 黒の革手袋に未だ幼気な指を通し、モッフィー達が近付いてくるより早くしっかりと図書館の扉を閉めたのは『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)だ。 エリエリの鋭い眼差しが、もっふもっふと跳ね回り転がり齧り付くアザーバイド達を真っ直ぐに見詰める。 「邪悪ロリは安易なかわいさに心動かされたりはしない!」 果たしてその発言がどう転ぶものか。靴に乗っかってきたもふもふを、エリエリは迷わず抱き上げていた。 ● D・ホールの位置を確認したエリエリが、幻想纏いから次々に古い家具を取り出す。小柄な少女が何処からともなくひょいひょいと大きな家具を引っ張り出す光景は、中々に希代な光景だ。 ましてや易々と家具を砕き割っているともなれば、現実離れが過ぎて夢の光景のようでもある。――もっとも足許で転がっているもふもふ達は、今や遅しと砕かれた木片を待ち侘びてそわそわしている訳だが。 「コピー用紙もありますよ。新しいの? 古いの? どっちが好きです?」 木片となった棚に齧り付くボール姿達を撫でながら、今度はコピー用紙を出して他のモッフィーの口元へと差し出してみる。 食欲旺盛なアザーバイド達にしてみれば好みの違いがあるのだろう、わざわざ新しい方に寄って行くものもいれば、古い紙を端から少しずつ咀嚼していくものもいた。 「時間がもったいないわ、サクッと退避させちゃいましょう。処分するのも面倒でいろいろ溜まってたのよねぇ」 此方も同じように幻想纏いに収めていた古新聞や古雑誌、古本の漫画をボール姿達への撒餌にし、群がってきたアザーバイドを踏まないようにソラが慎重に足を引き抜く。 「モッフィー達は餌でハッピー、私はいらないものを処分できてハッピー……と。食べる?」 球体がじい、と見上げてくるのを反対に見下ろして、腕に抱えた書籍の中から雑誌を一冊差し出した。 鮮やかな装丁を見ながら物珍しそうに左右にに揺れていた球体が、やがて意を決したように巨大過ぎる口を開く。ずらりと並んだ肉食獣もかくやという牙の間に近付けてみれば、ざくんと小気味良い音を立てて雑誌が真っ二つになった。 巨大な口がもごもごと動くのを噛み切られた雑誌と見比べていると、餌付けの光景を観察していたらしい他のアザーバイドもころころもふもふとソラの足元に擦り寄ってきた。そのままぱかっと巨大な口を開いて待ちの姿勢を見せる。 「……あーん」 ある意味では行儀良く大口を並べるアザーバイドに次々雑誌を差し出していきながら、もふもふな毛皮ともふもふという鳴き声の中心で、ソラは少しだけ唇の端を持ち上げた。 「私達からすると読み物ですけれど……美味しいですか?」 屈み込んで用意していた古本を一冊ずつ差し出しながら、櫻子がもふもふに尋ねる。 「やっぱり普通の動物と違ってふわふわですね」 大人しく本を噛み砕いているモッフィーを抱き上げて、毛皮に頬を摺り寄せた櫻子の相好が崩れた。 優しくD・ホールの奥に送り込んでから再び身を屈めると、新しく取り出した一冊を手近なアザーバイドに向ける。 そのすぐ傍で、やはり幻想纏いから取り出した古本や木材を床に並べ着々とD・ホールへの道を築く手を止めた白蓮が、相も変わらず着物の裾を追い掛けては噛み付こうとするアザーバイドに口元を綻ばせた。陽と月明かりをそれぞれに宿したような双眸、映るべき景色も輝きも今や遠く失われた双眸を彷徨わせ、躊躇いがちに毛皮の在り処を探して手のひらの上に掬い上げる。 「貴方達のお名前は何でしょう、私に教えてはくださいませんか?」 白蓮の問いに対して、アザーバイドはもふふ、と鳴き声を上げただけだった。バベルの解す言葉の響きが明白に伝わっていることを思えば、毛むくじゃらな生き物達には種族の名というもの自体がないのかもしれない。 「白蓮様も愛らしい動物はやっぱりお好きですのね」 毛皮を梳られるモッフィーから恋人へと視線を移して、杏子は微笑ましさに目許を和ませた。 「それにしても……以前に似たようなお仕事をしましたが、やっぱり引率の先生みたいですねぇ……」 「引率の先生、ですか?」 視線を周囲に転がる球体に向けた杏子が小さく零す。 白蓮の疑問符に頷きながら、杏子がおもむろに小さな旗を取り出した。 「白蓮様、コレ持ってみませんか?」 「あらあら、似合います?」 恋人からのささやかなおねだりに微笑んだ白蓮が、アザーバイドを片腕に抱き直して差し出された旗を取る。 「ふふっ、良くお似合いですよ♪」 少しだけ振ってみせる白蓮に、杏子が満足げに表情を綻ばせた。――と、唐突に。 「はわわわっ! も、もっふぃーちゃん! 人は齧っちゃだめですぅぅぅっ!」 「櫻子さん?」 すぐ傍から聞こえてきた裏返ったような悲鳴に気付いて、恋人達が揃って声の聞こえた辺りに顔を向ける。けれど事態を確かめるよりも先に尻尾へと抱き着いてきた温もりに、白蓮はきょとりと瞬いた。 「あぅぅ、いちゃいですぅぅぅ……」 「まあ、噛まれてしまわれたのですか?」 向けられた疑問に、櫻子は髪の上にぺったりと耳を伏せ、噛み付かれた衝撃でぶわっと膨らんだ黒い尻尾を落ち着かずにはためかせる。 「本と一緒に噛まれたのですわ……」 「あらあら」 幸いにもすぐに異物に気付いたアザーバイドが口を開いたが、それでも鋭い牙の引っ掛かった痛みを自ら慰めるように櫻子が白蓮の尻尾に擦り寄った。 しかしながら、それが面白くない者もいるのである。 「……櫻子お姉様、白蓮様の尻尾は杏子のですよっ」 双子の姉に些か拗ねたように訴えた杏子が、横から同じように艶やかな狐の尾へと抱き着いた。 「尻尾を掴むのは構いませんが、日が暮れてしまいますよ?」 白と黒の双子の猫を背後で睨み合わせながらも仄かな笑声を食んで、白蓮は腕の中のもふもふを優しく撫でたのだった。 ● アンジェリカの千里眼を介した視線は、本棚や机をものともせずに、館内の至る所へと向かう。 大半のアザーバイドはずらずらと一直線に続く餌の道へと食い付いているものの、中には気紛れなのか気難し屋なのか、わざわざ残された蔵書や本棚を求めて好き勝手に跳ね回っているものもいる。 「見付けた!」 空っぽになった本棚の仕切り棚に噛み付いていたアザーバイドを後ろから捕まえて、ふっかりとした毛皮を抱き締めた。 「浮気者だね。そんなにこっちの方が美味しいの?」 責めるように尋ねられたアザーバイドは、棚から引き剥がされる間際にがっつりと噛み切った仕切り板を咥えたまま大人しく板切れを齧っている。食事が最優先なのか、それともアンジェリカのもたらすマイナスイオンの穏やかな空気が理由なのか、毛むくじゃらな姿からは中々判断がつかなかった。 「ふんわりふわふわ円らな瞳、もっふりもふもふ大きなお口」 本や木材の誘導路に戻すべくアザーバイドを抱き締めたまま運ぶ中で、ふとアンジェリカの綻んだ唇から艶やかな音色が漏れる。 「跳ねる姿にハートきゅんきゅん、転がる姿にハートめろめろ。ボクのハートを鷲掴み、女泣かせの罪なヤツ」 抑揚も豊かな小さな歌声に、木片を齧る口を暫し止めた毛玉がきょとりとして少女を見上げた。時々思い出したように口の中の木片を噛み砕きながら、毛並みの奥の双眸はアンジェリカを見上げたままだ。 そうした光景を抱く図書館の一角には、何故かアザーバイドと睨み合う少女がいた。 「むぅ……!」 あひるの小さな呻きに張り合うように、積まれた本の上からじいっと少女を、ではなく彼女の手にする小冊子を見上げたアザーバイドが、もふふふ! と籠った声で唸る。 小冊子、あひるの言うところの薄い本を、ふっかりとした長毛の下で円らな目が爛々と狙っていた。どうやらその薄い冊子は、アザーバイドにとって齧り掛けのハードカバーを放置しても食欲をそそられる代物らしい。 「こ、これは絶対にダメだよ! 食べたら、いくら可愛くても怒るよ!」 もふもっふ! と言葉の壁を乗り越えたのかただの威嚇なのか、モッフィーが低く跳ねた。 「こっちはメッ、あっちにたくさんあるから!」 薄い本を翳してお預けしつつ、本を追いかけてくる毛玉を誘導路へと連れていく。 低く飛び跳ねてあひるの手元を追いかけていたアザーバイドがずらりと道を作る書籍や廃材に気付いたところで、急いで薄い本を片付けて振り返れば、先程まで足場にされていた書籍の山の上に別のアザーバイドが数体飛び付いていた。 とはいえ溢れんばかりに与えられる食糧で空腹も満たされていたのか、先程のアザーバイドと異なり僅かに縁を齧っているだけだ。その数体も誘導路へと導いてから、あひるは最後に本の上で飛び跳ねていたモッフィーを抱き上げた。 「はぁ……ずっと触っていたい、食べちゃいたいくらい……!」 言葉が通じた訳でもないだろうが、あひるの腕の中でまるで不穏な意図でも察したかのように、毛むくじゃらの身体が跳ねる。 「ちゅってしたら、頭ガブされそうだし……これは我慢ね……」 欲求を抑えるあひるの葛藤を知りもせずに彼女を見上げていたアザーバイドは、逃げ出すことも噛み付くこともなく、もふふ、と小さく鳴き声を上げただけだ。 「ああー、折角並べてるのに並べた先から食べて! もう!」 古い書籍や雑誌、家具のなれの果てや廃材といった餌が一種独特な色合いと雰囲気でD・ホールまでの道を作る中。 その一角を早々に咀嚼し終えて突破しそうになったモッフィー達を見付けたエリエリが、その前に立つことで逃走経路を塞いでから少しばかり口調を荒げた。 新たに積み上げられた食事に早速食らい付き始めた球体生物達をD・ゲートの近くに誘導しながらも、エリエリの黒い双眸がちらちらと跳ねて転がるアザーバイドを追いかける。 「もふもふしたいのはしたいですが、それよりお仕事が優先。邪悪ロリはあわてない、うろたえない」 半ば自己暗示のようにも聞こえる言葉を独白しながら、ホールに適当な距離まで詰めた辺りで理央の影人に役目を引き渡した。 適当な木端を拾い上げ、ペットに対するペットフードのように揺らしながら誘導路を離れ、隔離し切れずに取り残されていた館の蔵書を幻想纏いの中に一時避難させる。 「ゲートが閉まるまでに全部送還しましょうねーもふもふ」 取りこぼしを探り始めて早速、道を作る御馳走に背を向ける天邪鬼なモッフィーを発見して容赦なく確保した。餌に釣られて転がり出てきた球体を即座に抱き上げ、もっふりとした毛皮に顔を埋める。もふももふー、と頬擦りする物体から何やら抗議めいた鳴き声が聞こえるのもお構いなしだ。言葉が通じないのだから致し方ない。 ● 「集めたのが逃げ出さないようにちゃんと見張りましょう」 D・ホールを間近に控えて実に理性的な言葉を紡ぎながら、ソラが膝に抱いたもふもふを撫でた。率先的に餌を撒き、館の蔵書を避難させた女教師が、膝の上でまったりと腹を晒すアザーバイドの毛並みを擽る。 「ま、逃げたところで追いかけて戻すだけよね」 もふもふのったりと転がっては飛び跳ねているアザーバイド達が出会い頭よりも緩慢な動きになっているのは、これでもかと並べられた食料を思う存分に食い散らかした所為かも知れない。 「それにしても、食べた物ってどこに消えてるのかしら……」 膝に寝転がる、明らかに外見の大きさ以上の本や木材を食べた筈のアザーバイドの腹を突いてみながら、ソラが疑念の目を向ける。 とはいえその疑念も程なくして若干方向を変えたらしく、無防備に晒された球体の腹部を、幼い指先がぷにっと摘まんだ。唐突な攻撃に驚愕したように、もっふりとした毛が一気に膨らむ。 「せっかくなんだから楽しまないともったいないじゃない?」 もふふふ、もふー、と身悶えるアザーバイドの訴えには気付かない振りで尚も腹をつまみ続ける、そんな彼女のすぐ隣で。 「モフモフ~、モフモフがいっぱい」 もふもふへの欲求を充分に満たせるだけの数を周囲に残した理央が、うっとりとアザーバイドの感触に埋もれていた。 抱き締めている球体の他にも、膝や肩に乗っかるものから足元に絡みつくものまで、それぞれが好き勝手にまったりと丸い。 「モフモフし放題、幸せ~」 送還における仕事という仕事を粗方影人に押し付けている以上、理央にとって残る目的はと言えば、思うままにアザーバイドを、もふもふを愛でることしかない。 容赦なくもふりに来るリベリスタの手の下で、噛み付くだけの気力も術も封じられたかのように、不明瞭な鳴き声がふももも、と閉ざされた口から洩れていた。 「そろそろD・ホールが閉まる時間ですよー」 そんな、過ぎ行く時を告げる櫻子の言葉から程なくして、もっふりとした最後の一体がゲートの向こう側へと送り帰された。 すぐにも舞い戻りかねない生き物達の動きを封じるべく、リベリスタ達がそれぞれに用意してきた古書や廃材も、餞別代わりにゲートの向こうへと押し込んでしまう。 それでも尚、ゲートから突き出てきた毛玉をちょんと押し返して、あひるが素早くゲートを塞いだ。 残ったのは閉ざされる館の静寂と、しかして確かに存在を主張した来訪者達の、思う様に食い散らかした痕跡。 最初に嘆息を零したのは誰か、最初に片付けを始めたのは誰か。未だ潰えないさざめきの中、アンジェリカは柔らかな感触の残る手のひらをじっと見下ろした。 「……また、来ないかな?」 ほんのささやかな希望を込めた呟きは、穏やかに静寂を取り戻しつつある図書館へと、緩やかにひっそりと解けたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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