●絶望と空への希望 難関国家資格に挑戦している浪人、結城隼人は試験の結果を待っていた。 朝の八時に結果がネットに公開される。 すでに八年の浪人をしていて、いまさら他のことをする気にはなれない。社会も容易には迎え入れてくれないだろうと、隼人は思っていた。 試験の結果は去年と同じで落ちていた。九年目の浪人が確定したのだ。 隼人は、散らかった部屋と、血まみれの自分に気がついた。ショックで暴れていたのだと、自分の拳を見て思った。指の付け根部分が裂傷を起こしていた。 隼人は特に痛みは感じない。 破れたカーテンから覗く窓が視界に入った。窓の外を見ると快晴だ。空は青く鳥たちは悩み事もないかのように飛んでいる。 隼人は自分も鳥になれたらすばらしいと思って、マンションの五階の部屋から飛び降りた。 隼人は自殺する気は全くなかった。自分は飛べるとなぜか思っていたのだ。 そして、隼人は空を自由に飛べたのだ。自分の考えは間違っていなかったのだと思った。 しばらくして、サイレンが聞こえてくる。警察だ。 隼人は、現場が野次馬でいっぱいでも、自分は空の特等席から見られる。 パトカーを追いかけると、自分の部屋の下にたどり着いた。 飛び降り自殺だという声が聞こえてくる。 このときはまだ、誰かの死体が転がっている程度の認識だった。それが次第に、自分の体だったものだと理解すると、頭がおかしくなりそうになる隼人。 『俺は死んだのか!』 足元に落ちていたジュースの空き缶を蹴飛ばすと、捜査している警官にぶつかった。 「誰ですか? 捜査の邪魔しないでください!」 警察は辺りを見回しても、それらしい人物が見つからない。苛立ちながら、現場検証をして、隼人の体だったものを持ち去っていった。 『ものに触ったりできるじゃん……。この力で、俺は天下取るぞ!』 ●ブリーフィング 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちに事務的に話し始めた。 「ここ最近になって、グループで遊んでいる若者たちが立て続けに大けがを負わされる事件が続いていいます。被害者の話では突然、近くのものが飛んできたり、人によっては止まっていた車に轢かれたという証言が得られています。こちらでエリューション事件と確認が取れましたので撃破に向かってください。場所は、工事途中で放棄されたビルです。骨組しか作られていなくて、建材がそのまま転がっています。また、駐車場代をケチって、この場所に違法駐車している車両も少なくありません。気をつけてくださいね」 和泉はコンソールを操作してモニタにエリューションの姿を表示する。 「見ての通り、実態を持っていません」 エリューションは視認性が悪い。蜃気楼のような存在感がモニタからでもうかがえる。 「健闘を祈ります」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:わかまつ白月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月08日(日)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●隼人の怨念 現場に向かうには時間が早く、滑落事故現場にアズマ・C・ウィンドリスタ(BNE004944)は来ていた。 「ここが現場か。まったく自分勝手なヤツだな。うまくいかないからって、死んだあげくにエリューションなんかになりやがって」 リベリスタになるべく研鑽を積んできたアズマにとって、現実逃避し、世間に迷惑をかける隼人は許せる存在ではなかった。 「気の毒っていえば、まあ、気の毒なんだけどね。人生、全部うまくいく人なんていないし。でも、エリューションになったら私たちがすることは一つなんだけど」 エイプリル・バリントン(BNE004611)は隼人の行動にさして感銘を受けるでもなく、リベリスタとして戦うことに疑問を感じていない。 「迷惑ねー。エリューション化して、人を襲う定めになったとかならかわいそうって思ったかも知れないけど。自己主張とか、ストレス発散で人を襲うなんてチンピラと同じじゃない」 『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)は呆れていた。 「どうせ、話してわかる相手じゃないんだし、あたしのストレス発散がてらにボコボコにぶちのめしてあげるわ」 「なにか、矛盾を聞いた気がするけれど……。 自分の気持ちを押さえ込むって、きっと難しいことなんだと思います。私は運良くリベリスタになったけれど、こちらの世界に生まれて、何も知らないまま覚醒したらどうなっていたか……」 『龍の巫女』フィティ・フローリー(BNE004826)は同情的だ。 「事故現場って聞いたから何かしら後でも残っているかと思ったけれど、見事に綺麗にされているな」 アズマは現場をきょろきょろしている。事故の形跡らしい物は特に見当たらない。 「日本の警察は優秀だから、こういう事故現場はすぐに封鎖して綺麗にしちゃうよ。他殺か自殺か判断するにも、情報が大事だからね。綺麗さっぱりって状態でも不思議はないよ」 エイプリルは現場が綺麗なことに、警察組織の優秀さを感じ取っていた。 「今回のエリューションって周りにある物を飛ばしてくるだけの小物でしょう? 生前も程度が知れるわよ。献花の一つも無いじゃない」 セレアは現場に何もない違和感の元を鋭く指摘する。 「たしかに……。いわれてみれば花や供えすらないじゃないか。これでは気の毒だ。隼人は嫌われ者だったのか?」 フィティは哀れに思い現場に向かって手を合わせる。 「隼人ってヤツが利己的になった背景には、人間関係になにかあったのかも知れないな。仲間に囲まれて楽しく過ごしているヤツなら、遊んでいる集団に嫌がらせしたりしないだろ。今更、調べてもどうしようもないことだけどね」 アズマは隼人という人物像が何となく見えてきた気がした。 「弱い人だったのかも知れないね。だから、エリューションになって力を持ったら抑えが効かなくなったのかも知れない。なら、私たちが早くエリューションを退治することが隼人さんの供養になるんじゃないかな?」 エイプリルは、いった。 放置された建築現場の様子見に『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は来ていた。 隼人が現れる予定時刻より数時間早い。 エリューションと戦う前に現場を見ておこうと思ったのだ。 「死にたかったというわけではなかったのでしょうね。ただ、どこか壊れていた。正確には壊れたからエリューションになったのでしょう」 目の前に広がる骨組だけの建物を見て、退廃的なムードの漂うこの場に隼人の存在はふさわしい気がした。 「悲しいわね。エリューションになっても、社会からつまはじきで、行き着いた所がこんな場所なんて」 『いつか迎える夢の後先』骨牌・亜婆羅(BNE004996)は人をやめた隼人のなれの果てに同情する。 「悲しんでばかりもいられません。隼人さんはすでにフェーズ2ですよ。力を自分の思うがママに使っているんです。それって、彼が最後に夢想した姿なのではないでしょうか。凶暴性がある以上、早急に処理する必要があります。」 藤枝 薫(BNE004904)は隼人の危険性を案じる。 「近くの物が飛んできたり、勝手に動くんですよね? 完全にポルターガイストじゃないですかぁ……。別に怖いとかはないですけど、不気味ですよ」 エリューションが相手といえども、起きている現象は心霊現象のように見える。如月・真人(BNE003358)は気味悪さを感じずにはいられなかった。 「そのポルターガイストで飛んできそうな物が、この辺りは多いのが問題ですよね」 レイチェルは現場を見まわしながらいう。 「一般人はいない? ポルターガイストに巻き込まれたら二次被害が出るわ」 亜婆羅は辺りを注意する。 「作戦ではセレアさんがある程度は廃材を封じてくれそうですけれど、実際どうなるかわかりません。人払いはしておきたいですね」 薫は亜婆羅と一緒に周囲を歩き、一般人の有無を確認する。 「どうやら、ここには一般人はいそうにないわね。土地もどん詰まりだから、わざわざ来る人もいないでしょう」 亜婆羅は大丈夫そうだと判断を下す。 「セレアさんに廃材を処理して貰おうって作戦だけれども、違法駐車や放置された車が多すぎない、ここ?」 レイチェルは現場をみながらいう。 「そういえば、盗難車とかを海外に出す前に一度ナンバーを変えたり、塗装を変えて移動させるのに、こういう場所を使うって聞いたことがありますよ」 真人はテレビで聞きかじった情報を思い出した。 「じゃあ、ナンバーがなかったり、やたら高級車が多く転がってるのって……」 「たぶん、盗難車なんじゃないかと。普通はこういう車はこんな場所に止めておきませんよね……」 レイチェルの考えを読んだように真人が言う。 「こういう車は一度持ち主の手を離れると戻ってこないと聞きます。壊してしまっても、おとがめはないのではないでしょうか?」 亜婆羅が思い切ったことをいう。 「フェーズ2のエリューションが相手なんですから、最悪壊してしまっても仕方ないですよね……、うん、仕方ない」 ●隼人のポルターガイスト 予定の時刻、リベリスタたちは建設放棄されたビルに来ていた。階層は一階で、壁はない。 風はないが、周囲の石膏ボードが浮かび上がる。石膏ボードが竜巻のように空中を舞う。 その中心に、薄い影のような存在を見つけることができた。 隼人だ。 リベリスタたちに気がつくなり、隼人はいきなり石膏ボードをリベリスタたちに向かって、飛ばしてきた。勢いはすさまじい。 アズマの体に石膏ボードが強烈に叩き込まれる。打ち所が悪く、思いの外ダメージを受けた。 「このやろう! 不意打ちかよっ!」 卑怯な攻撃に隼人に対しての嫌悪感が強まる。 セレアの顔面に硬い石膏ボードがバチンッと当たり、石膏ボードに顔の形が残りそうな衝撃が首に来る。 「いたーい。か弱い吸血鬼の顔狙うなんて信じらんない!」 地味だが、痛みがそこそこある攻撃に苛立つセレア。 レイチェルの後頭部に衝撃が走った。 石膏ボードがレイチェルの後ろから飛んできたのだ。前からだけではないということだ。 後頭部に当たって石膏ボードが砕ける。 レイチェルは後衛の位置をキープするために、あらかじめ距離をとっていた。それでも普通にポルターガイストの被害に遭ってしまった。 「……エリューションの射程は思ったより広いのですね。頭に石膏ボードためらいなくをぶつけてくるなんて。少し同情していましたけれど、そっちがその気なら、こっちもやらせて貰いますよ」 亜婆羅の頭上からコンクリの塊が落ちてくる。上の階の一部が壊れたのだ。 亜婆羅はコンクリの下敷きになった。 「ぐふう、攻撃自体は地味なのに、不意打ちばかりで避けきれないじゃない!」 隼人の陰湿な攻撃に手を焼く亜婆羅。 薫のいた場所の床が抜ける。 一瞬足を取られて、バランスを失ったところに石膏ボードが顔面を直撃した。 「つぅ! コイツ、顔面ばっかり狙ってきて、なんかの嫌がらせですか? 生前にコンプレックスでもあったのですか!? 地味に痛いじゃないですか!」 石膏ボードがぶつかった顔が赤くなっていた。 真人にも石膏ボードが襲いかかる。 「顔なの? 顔に来るんだよね!?」 腕で顔をガードする。するとみぞおちに石膏ボードがガツンと当たった。 「うう、痛いー。完全に遊ばれている気がするんですけど……」 エイプリルは飛んできた石膏ボードをたたき壊して、隼人を睨む。 「悪ふざけはこの辺にしてもらうよ。気の毒だけど討伐するから」 フィティも床が抜けるのを察知して、サイドステップで回避し、飛んできた石膏ボードを躱した。 「いきなり襲ってくるなんて、ずいぶんと凶暴だね。倒すしかないよ」 フィティはいった。 隼人から二五メートル離れた位置にレイチェルはいた。すでに隼人の射程圏内だとわかっている。それでも特に位置を変えるつもりはない。 戦場全体を見回せるからだ。 「クェーサードクトリン! さあ、私たちの勝利を掴みましょう。みなさん、この戦いは私たちの勝利であると、いま証明しました。さあ、哀れな敵を屠りましょう」 戦闘エリア全体に、レイチェルの言葉が真のように感じる雰囲気ができあがった。 リベリスタ達はレイチェルの声を聞いてから、力がわき上がってくるのを感じる。 フィティは素早く石膏ボードの竜巻の中に飛び込んでいく。 体に石膏ボードが多少当たっても気にしない。 フィティは事も無げに時を切り裂く。周囲の物理法則が瞬時にして崩れ去った。 「受けなさい!」 氷の刃が隼人を中心とした周囲に飛び交う。 宙を舞っていた石膏ボードは粉々に砕け、視認しにくい隼人の像が苦痛に歪んだように見えた。 エイプリルは一枚の人形の紙を取り出した。 「私たちが相手で運が悪かったね」 紙は小鬼の姿に形を変えて、エイプリルを護るようにして立ち上がる。 エイプリルは隼人に向かって走り出し、仲間へ近づくことができないように立ちふさがった。 隼人とエイプリルの間には小鬼がいて、隼人が直接エイプリルに危害を加えることは難しいだろう。 「どうせ、近くにある物を飛ばす程度なんでしょう? こうしたらどうするのかしら?」 セレアが少し指を動かすと辺りの空間が歪み始める。 セレアを中心として大きな特殊空間が広がる。セレアが望まない人物は何人たりとも侵入できない特殊空間ができあがった。 ポルターガイストにどの程度効果があるかわからない。ただ、メリットとしてこの場で何があったとしても、一般人に迷惑はかからないだろうということは確かだった。 アズマはガーデンオブドリームにより、闘志と生命の力が体からあふれかえり、ちょっとやそっとの攻撃では倒れることがない境地に達した。 「天下とるってんなら、オレを倒してみろよ!」 一気に隼人に駆け寄るアズマ。大業物で隼人を斬りつける。 隼人の体から霧のような物が舞い上がり、隼人という存在にダメージを与えていた。 隼人はアズマを睨むようにしている。怒りに燃えているのだ。 薫は神秘の閃光弾を投擲した。辺りが一気に白色に染まる。 強烈な光りが辺りを包み込んだ。 隼人はどうなったか、光りが収まってから見ると、自在に宙を舞っていて、効果があったようには見えなかった。 建材が多く放置されているこの場ならば、隼人が緊急でバリケードを作り、閃光弾の光りから逃れたことが想像できる。 亜婆羅は並ならぬ集中力で動体視力を極限まで上げる。 世界がコマ送りのように亜婆羅には見えていた。 ビルの外に止めてある、車が動き出すのが視界に入る。 どうやら、建材だけではなく、自動車も攻撃に使おうというのだろう。 ビルに向かって突っ込んでくる自動車を狙う。 魔力で練り上げた業火を帯びた矢を突っ込んでくる自動車に向けて撃ち放つ。 轟音と共に熱風が巻き上がり、自動車の何台かはガソリンに引火したのか爆発した。 部品がはじけ飛んできて、ビルの床に転がる。 真人は癒やしの詠唱を口ずさむ。 癒やしの息吹がリベリスタたちを包み込んだ。 「まだ、これからですよ。落ち着いて対処していきましょう」 真人はリベリスタたちを気遣って回復に専念する。 「俺の……俺の天下取りを邪魔すんなァアアア!」 突如、ビルに耳をつんざくような大声が広がる。 どうやら隼人が叫んだらしい。 隼人は、存在自体が希薄で、自己主張が強い行動とちぐはぐだったが、ここに来て実態がはっきりと目視できるようになる。 隼人の怒りが存在の力を強くし、像をはっきりと結ばせたのだった。 「お前らみんな、ひき殺してやるぜ!」 隼人がいうと、放置自動車や違法駐車された自動車のライトが一斉にハイビームになる。 けたたましい音が鳴り大量の車が一斉にリベリスタたちに襲いかかってきた。 真っ先に狙われたのはアズマだった。 ざっくりと切られた怒りをぶつけるかのごとく、何台もの自動車がアズマを轢く。 最高スピードの自動車にはねられて、アズマは呻いた。 他のリベリスタたちも次々に自動車にはねられていく。 ビルの中という狭いスペースに、破損覚悟で突っ込んでくる自動車すべてを回避することはできなかった。 レイチェルは隼人を睨んだ。 凍り付く最高の眼力で睨まれた隼人はかすかにひるんだ。 すると、自動車の動きが一気に弱くなる。 フィティは再びすさまじいスピードによる斬撃を隼人に浴びせた。 時が切り裂かれ、時空が歪む。 すさまじい冷気と共に霧状の氷の刃が散った。 隼人の像はバラバラに切り裂かれ、今度は完全に像が消滅したのだった。 「暴力しかできなくなった人をとやかく言うことはできないけど、私はリベリスタ。あなたは成仏しなさい」 フィティの一撃の後、ボロボロになった自動車の残骸と、建設途中のビルが一部傷んだ景色だけが残った。 終わってみれば、隼人は惨めなエリューションだったとリベリスタ達は思うのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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