●数年前 かつてアークに『回転翁』と呼ばれるリベリスタがいた。 ホーリーメイガスとして名高く、道を踏み外しそうな革醒者を見れば指導する教官でもあった。厳しく、しかし優しく成長を見守り、よく笑う好々爺としてよく知られている。決戦となれば、戦いの終わったリベリスタを癒すべく数多の戦場に駆けつけて回復してくれる。そんな老人だ。 「ワシは一線を退く。腰が痛くてのぅ」 だが近年高齢の為、北の地に隠居したという。 「そっか、爺さん田舎に帰るのか」 「うむ。息子が家に来ないかと誘ってくれてな。可愛い孫がおってのぅ、おぬしの三つ下で……あ、やらんからな」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉に翁は警戒するように答える。 「爺さんの孫!? 爺さん、そういうのは悪い虫がつく前にこの俺が保護しよう。お兄ちゃん、と呼ぶことが条件だ」 「待て竜一。孫が男か女か分からんぞ」 『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が身をただせば、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が冷静に突っ込みを入れる。 「何が腰が痛いだ、ジジイ。昨日の模擬戦でひょいひょいオレの拳避けてたくせに」 「御主の拳は真っ直ぐすぎるからのぅ。それが宮部乃宮の長所であり短所じゃな」 『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が少しイライラした口調で告げれば、顎鬚を撫でながら爺は答える。職業と姿から想像がつかないが、前線に出ても遜色ない身体能力を持っている。 「しかし寂しくなるのは事実です」 『朔ノ月』 風宮 紫月(BNE003411)は系統こそ違えど、魔術の教員が去ることを嘆いていた。決戦などで名を上げた術士ではないが、救護部隊として戦いつかれた皆を癒していたホーリーメイガスだ。彼の癒しを受けた回数は、片手の指では足りない。 「後身も育っとる。直ぐに賑やかになるわい」 「私!? え、あの!」 ホールーメイガスの『後身』として肩を叩かれた『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が、慌てて手を振る。その様子を見て、爺は笑みを浮かべてくつくつと肩を震わせた。楽しそうに。嬉しそうに。 それから、数年後―― ●現在 『恐怖神話・現』と呼ばれる戦いがある。 日本全国に同時召喚されたアザーバイド。ラトニャと呼ばれるミラーミスの世界から来た恐怖の軍団。『万華鏡』の予知も遅れ、アークはその対応に追われていた。 陸に上がる魚人の群。人よりも力ある彼らが漁村に入れば、悲劇は確実だ。そこを拠点に辺りを襲撃するだろう。 「……まさかこの老骨に、一花咲かす機会が生まれようとはな」 だが魚人たちの進行は、わずか十数歩で潰えることになる。 鎧を着た老人。『回転翁』と呼ばれた一人のリベリスタ。それが魚人の群に身を躍らせ、瞬く間に命を奪ったのだ。鎧は血肉を食らって力を増し、さらなる戦いを求めて活力を増す。敵がいなくなった程度では鎧は止まらない。 だが、それで世界が守れるのなら構わない。そのためにこの鎧は作られたのだから。 「『The Terror』……その喉元に食らいつくには、この程度では足りぬか」 ――鎧の呪い。一度着用すれば死を持ってしか外すことができず、死ぬまで戦い続ける。だが命を奪い続ける限り、無限に強くなるのだ。 『万華鏡』の予知を元にやってきたリベリスタは、魚人の死体とそこに立つ鎧武者の姿に驚く。敵か味方か、だがそれはすぐに分かる。 『現地のリベリスタさん! 予知の変更がありました! 十分後の魚人襲撃の予知確率は2%をきりました。代わりに鎧武者が殺戮を行う予知が上昇中! おそらく『善悪相殺』と呼ばれる破界器を着たものが、力を得るために村人を襲撃する模様です!』 幻想纏いから送られてくる情報に、リベリスタたちは呻きを上げる。止める為には殺すしかない。そして『殺害数』が少ない今ならまだ止めることができる。 だが殺せるのか? かつての仲間を。彼もまた世界のために戦うリベリスタなのに。 鎧の力が真実なら、かのミラーミスに牙を突き立てることができるかもしれない。アークとしてはそのほうが都合がいいのだ。 そんな損得勘定が頭の中の冷静な部分で行われ、 「帰るんじゃ、ワシの意識がまだまともなうちに。功を焦った老人が愚かな真似に出た。そう思ってくれ。 ……手を汚すのはワシ一人でいい」 『回転翁』の言葉が浜辺に響く。気がつけば、リベリスタは臨戦態勢をとっていた。鎧の進行を阻むように立ち、破界器を構える。 ●十五年前 ナイトメアダウン。 日本の神秘事件において、大きな事件をあげろといわれればこれをあげざるを得まい。ミラーミス襲来により多くのリベリスタの命を奪い、数多の傷跡を残したあの事件。 この事件の後、神秘界隈は大きく揺れた。心折れたもの、傷つき倒れたもの、悪事に走るもの。多くの革醒者の人生を歪めたのだ。その中の一人に、アーティファクトを作製するタイプの革醒者がいた。 彼はただ、鉄を打った。ミラーミス襲来に備え、それに対抗する為の破界器を。 執念か、怨念か、妄念か。『それ』は五年の歳月を経て完成する。 曰く、それを身に付ければ、神や仏すら斬る事すら叶う様になると言う。その甲冑は殺傷を行い、血を吸う度に力を増すのだという。 しかして、甲冑の呪いはそれに留まらない。装着者が死なぬ限り脱ぐ事は許されず、憎い相手を殺せば真逆に思う誰かを斬る事を強制される。意識は飛び、全ては甲冑の呪いがままに動く。 善悪相殺。 ──その甲冑が一度戦場に現れる事があれば、勝者も、敗者もなく。ただ、血の河と血を吸った甲冑が残るのみ。 世界を殺す。それだけのために打たれた鎧は、しかしその禍々しさゆえに誰も着ようとはしなかった。敵も味方もすべて滅ぼす呪いの鎧。数少ないリベリスタはその効果に嫌悪し、フィクサードは自分の組織に被害が出るのを恐れ。 善も、悪も、中立も。全てを滅ぼす鎧は、しかし誰も求める者はなく闇に封じられることになった。 そして―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月27日(火)22:33 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「嘘だろ? 爺さん。なにしてんだよ……っ!」 目の前にいる人間が誰だか理解できない、とばかりに首を振る『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)。分かっている。相手が誰かだなんて間違えるはずがない。だからこそ、否定したかった。悪い夢だと思い込みたかった。 それでも現実は変わらない。アークでの思い出が胸に去来する。叱るべき時は厳しく叱り、褒める所は褒める。それが自分達を思っての行為なのだと理解できる程度には成長した。だから今度在ったら感謝の言葉を送ろうと思っていたのに。 「……理解はできる。それがじーさんの判断だということは」 『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は角田の選択を、愚かだとは笑わなかった。 崩界を防ぐために、時に犠牲をも許容する。ノーフェイスを許さず、命を立つのがリベリスタの使命。それとかわらない話だ。 ナイトメアダウン経験者である角田は、ミラーミスの脅威を身をもって体験している。R-TYPEとは異なるが強大な力を持った世界そのもの。それを討つ為に全てを捨てて鎧を着たのだろう。 「どうにも呆けたらしいな。私の敵なら殺すまで」 無表情に『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が角田の愚考を責める。徹底した合理主義にして毒舌。冷たく殺害を宣言するが、それもまたそれが合理的であるため。ここで殺すことが、最も犠牲が少ないからだ。 角田が呪われた鎧を着た理由を思うことに意味はない。その思いを知っても行動は変わらない。敵も味方も自分自身さえ一つの駒として思考し、戦局をコントロールする。それが自分の役目だと心に刻みながら、ユーヌは破界器を構える。 「手を汚すのはワシ一人でいい、と言いましたね。私、そういうの大嫌いなんです」 怒りとやるせなさ。その二つが入り混じった声で『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が拳を握る。老い先が短いから構わない、などと言わせるつもりはない。未来があるから、という理由でおいていかれて嬉しいはずがない。 術の媒介であるフィアキィの存在を紫月は感じる。異世界から流れ込んでくる柔らかい力。異世界を救った戦いの時にも、あの老人は戦いで疲れた人たちを最前線まで走って癒しに回っていた。 「…………」 どうして? 『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の表情は言葉なくそう語っていた。嘘だと叫ぶほど強くもなく、世界の為に仕方ないと納得するほど割り切れず。そして現実を否定するほど弱くもなれず。ただ表情で問う。 沢山怒られ、沢山褒められ、そして沢山笑った『先生』。方向性こそ違えど同じホーリーメイガスとして鍛えてくれた人。ずっと人を癒し続けると信じていた。癒しを捨てないと信じていた。どうして? 問いは言葉にならず、そして答えは返ってこない。 「……まさか爺。テメェこの期に及んで……ざけんじゃねぇぞ」 何をやってるんだか、とため息をついていた『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が、何かに思い至ったかのように眉を顰める。奥歯をかみ締めて言葉を飲み込み、拳を強く握り締める。 思えばふざけた爺だった。引退の理由は腰と言ったが、並のリベリスタでは捕らえきれぬほど俊敏な動きだった。一戦を引いていたとはいえ、その気になれば鎧なしでも自分自身は死なずにすんだだろう。……だからか。 「……引かぬか。まったく、老人はいたわるものじゃぞ」 何かを諦めたように、角田はため息をつく。そしてその表情は、どこか安堵していた。 魔力が渦を撒く。角田の周りに魔力球が飛びまわる。 『回転翁』『善悪相殺』……回転と両極と。二つの名を持つ殺戮者が、リベリスタに牙をむく。 ● 体術と、魔力で生んだ小さな盾。それで攻撃を塞ぎながら仲間を癒す。その癒しの手を最前線に届かせる為に。それが角田のホーリーメイガスとしての理念だ。癒し、時に壁になる。 「まだまだ現役で行けそうじゃねぇか。腰のキレはどうよ?」 「孫が揉んでくれたことも会ってな、良好じゃよ」 拳を握った火車の問いかけに、腰を叩きながら角田が答える。両腕で正中線を護るような構えで距離をつめて、間合にはいるや否や拳を振るう。炎に包まれた拳が一直線に角田に迫る。その一撃を、魔力の盾が遮った。 その防御は想定済みだったのか、火車は足を動かし攻撃を続ける。一歩動いて腰を沈め、、跳ね上げるように拳を振るう。同時に相手の顔を狙う拳。アッパーフックのコンビネーションブローが魔力の盾の隙を抜き、角田に一撃を与える。 「まだまだァ!」 「ここで終わらせるぜ、ジーサン!」 火車と同時に竜一が二刀を構える。青を基調とした刀と、無骨な西洋剣。重量の違う破界器を手に角田に迫る。踏み込むと同時に全身の筋肉を引き絞る。砂浜を踏みしめ、腰に力を篭め、両手の武器を強く握り締める。 弓を強く引き絞り、放つイメージ。刀と剣の二つの刃が魔力盾とぶつかり合い、拮抗する。竜一はさらに力を篭めて、破界器を振り払おうとする。限界を超えたさらなる領域。自らの体を傷つけながら、刃は鎧の一部を砕く。 「鎧を脱がせないのなら、壊せばいい!」 「相変わらず甘いの。それでは救えぬ命もあるじゃろうに」 「甘いって思う、それでも……っ!」 夏栖斗は砂をかむような表情をしながら、角田を見る。鎧を壊せば助けることができるかも知れない。根拠のない希望だとわかっていても、それにすがりたい。それほどに角田との思い出は多かった。 トンファーを握り締めながら、脱力するように力を抜く。脱力した状態から繰り出される最小限の動き。振るわれたトンファーの軌跡をなぞる様に衝撃が飛ぶ。強い衝撃が角田を襲い、その動きを一瞬止める。 「こんな再会だなんて……ふざけんなよ!」 「全くだな。呆けるにも程がある」 角田から距離を離した場所からユーヌが符を構える。善悪相殺により強化され、魔力盾で身を護る角田。その動きを注視する。なるほど引退前よりも動きは鋭くなっている。だが時間が流れているのはこちらも同じだ。 無表情のまま、無言で角田の動きを見る。正中線を真ん中とした魔力盾と角田自身の二重の円。わずかな隙を見出し、ユーヌは符を放った。相手の動きを封じる縛鎖の術。魔力の盾を潜り抜け、『回転翁』の腕を抜け、術は角田の動きを止める。 「年寄りの冷や水だったな」 「さすがじゃな。前と比べてキレがあがったのぅ」 「私達も成長しているんです」 幻想纏いの護り刀『月標』を手に紫月が応える。巫女装飾を身に纏い、異世界の術を行使する。手の平に集う緑色の淡い光。世界樹の葉の色を想起させる光球を鋭く研ぎ澄ませて、角田に解き放つ。 八十五歳の角田からすれば、紫月はその五分の一しか生きていない。だからといって覚悟が負けているとは思わない。その覚悟を示すように、緑の矢は放たれる。砕くべきは角田ではなくその身を問う鎧。 「何故その様な物に手を出す前に、一言でも良かった。仰って下さらなかったのです!」 「ワシはアークを引いた身じゃ。おぬしらに頼るのは筋違い――」 「そんな悲しいこといわないでよ!」 角田の一言に弾けるようにアリステアが叫ぶ。視界が涙で滲む。泣かないと心に刻みながら、それでも目頭が熱くなるのはとめようがなかった。角田の放つ魔力の矢。その傷を癒すべくアリステアは癒しの術を行使する。 癒す理由を忘れるな。『先生』はいつも言っていた。理由なく術を行使することは強くなれば誰でもできる。何故、癒すか。何故、戦場に立つか。術ではなく心で癒せ。魔力ではなく信念で挑め。そう教えてくれたホーリーメイガス。 「おじいさま。私、皆を護りたいから、怖くても頑張ってるよ。まだまだ、目指すものには程遠いけど」 「……歩いていくんじゃ。例えたどり着けなくとも。歩いていくことに意味はある」 アリステアの言葉にどこか満足するような言葉を返して、『回転翁』は攻撃を繰り出す。懐かしい思いはある。語りたいことはある。だがそれを全て飲み込み、角田は攻める。 ミラーミスに一撃を与える。この世界を護る。そのために。 リベリスタとリベリスタ。同じ危機に相対しながら、しかし信念の違いで刃を交える。 ● 角田は回復を捨て、攻撃に特化している。それは彼なりの覚悟だったのかもしれない。聖なる矢を放ち、裁きの光を天から降らす。効率の問題から全体攻撃を優先させ、トドメをさせると辺りをつけた人物がいれば単体攻撃に切り替える。それが角田の戦略だった。 「……く……!」 集中砲火を受けた紫月が、膝を突く。まだ負けないと覚悟を決めて運命を燃やす。 「させっかよ、じーさん!」 「夏栖斗おにいちゃん!?」 アリステアを狙った聖矢を夏栖斗が庇って護る。善悪相殺で強化された一撃が、夏栖斗の運命を削り取る。 「時間稼ぎにはなるか」 ユーヌが作った影人が、弱っている人間を庇いに向かう。降り注ぐ一撃が全ての影をなぎ払う。そして、 「鎧が強化された!」 「影人殺しても強くなるのかよ!?」 間近で角田と戦っている竜一と火車が鎧の手ごたえが変わったことに気付く。攻撃が鋭くなり、鎧の硬さが増す。 「とはいえ影人顕現の一時間だけだろうがな。この状況ではそれは慰めにならんか。 ほれ、しっかり避けるんじゃ」 白光が砂浜にいるリベリスタを凪いた。 「ジーさんには及ばないかもしれないが、俺だって死線を潜り抜けてきたんだ、まだまだ!」 「実力の半分は鎧の呪いだがな」 竜一とユーヌが光を受けて、膝を突く。倒れ伏す運命を捻じ曲げ、何とか立ち尽くす。 「エンジンかかってきたぜ!」 追い込まれて力を発揮するタイプの革醒者。火車はまさにその典型だった。口を笑みの形に変えて、炎の拳を叩きつける。盾に阻まれたら、狙いを定め。何度も、何度も。 「糞爺が! オレ等は十分解ってんだ!」 「……鎧に身を通したのは、ジーさんの判断だ。手を汚す覚悟もあるんだろう。 だが、俺にも覚悟はある!」 竜一の攻撃は鎧ではなく角田本人に向けられていた。鎧は壊せない。ならば着用者を殺すしかないのだ。じーさんの手は汚させない。ここで殺す覚悟。汚させない覚悟。二刀を持つ竜一の手が、角田の血で汚れていく。 「守る世界の中に自分は居ないのかよ! ふざけんな!」 アリステアを守りながら夏栖斗が叫ぶ。迫ってくる神秘の光をトンファーで弾き、あるいはその身で受け。角田の攻撃で受けた傷よりも、自分の心が痛い。この手で救えない命がある事が、夏栖斗には痛かった。 「泣かないって……決めたから」 庇われた状態でアリステアが気丈に顔を上げ、回復の神秘を放つ。。全てを癒す天使になりたいと思っていた。いや、今でもなりたいと思っている。だけど現実はいつだって非情だ。現実を前にして癒しを捨てた角田。そして癒しを捨てぬアリステア。その事実が、悲しい。 「ナイトメアダウンの様な悲劇をまた起きぬ様に力を研鑽して来た心算です。その力を持って、その力を砕きます!」 護り刀『月標』を手に紫月が癒しの光を放つ。彼女の持つ護り刀は母の遺品。ナイトメアダウン時に託された刀。その思いを引き継ぎ、今ここにいる。それは方向性こそ真逆だが、『善悪相殺』と同じ想いだった。 攻めるよりも相手の攻撃を避けることに趣を置く『回転翁』との戦いは、自然と長期戦の流れになる。相手の真芯を捉えるために狙いを定める必要があり、それが攻撃の手を遅らせる。中衛から攻撃していた夏栖斗が防勢に回ったことで、攻撃手が一つ減ったことも要因の一つだ。 純粋な持久戦になれば、計られるのは継戦能力。それはつまり、 「祈るよ。皆の為に」 「これが……これが私達の培って来た力です」 アリステアと紫月の二重の癒し。それが善悪相殺の呪いを超えて、リベリスタを癒していた。 「皮肉だな。回復を捨てて攻めに回ったのに、こちらの回復により攻めきれないとは」 「全くじゃ。……ふふ、憎らしい。立派に育ちおって」 身を縛るユーヌの符術に動きを制限されながら、角田が笑う。憎らしいと口にしながら、穏やかに。 「安心しろよ、じーさん、『第四位』は僕らが倒すから」 「いずれは『R-TYPE』まで倒してやる。だから!」 「ふふ。無謀じゃが、それを口にできるのも若さの特権か。老いて子に学ぶとは、よく言ったものじゃ」 夏栖斗と竜一が角田を安堵させるように言葉を紡ぐ。返ってくる言葉に生気は薄い。それでもなお、歩みを止めないのは呪いゆえか。 「はっ! もう喋るなよ、ジジイ! 今楽にしてやるぜ!」 炎の拳を構え、火車が角田に迫る。常人なら倒れそうなほどに身を屈め、相手の死角から拳を放つ。地を這うような炎の拳が、跳ね上がるように角田の胸部を穿つ。 「もう充分 解ってんだよ……!」 炎が鎧を包み込む。その一撃で糸が切れたかのように、『回転翁』は地面に崩れ落ちた。 ● 寄せては帰す波の音が、耳に響く。 リベリスタ六人は血を吐き倒れた角田に近づき、仰向けにする。もう助からない。幾多の『死』を見てきた彼らには、それが分かってしまう。 「満足か不満かは知らないが、遺言程度なら聞いてやろう」 ユーヌが角田を見下ろし、静かに告げる。護るべきものを護り、討つべき者を討った。その選択に後悔はない。 「なに、トチ狂った馬鹿騒ぎ後だ。世迷い事でも誰も気にしはしない」 「ふふ、相変わらず厳しいの」 ユーヌの毒舌に、むしろ笑みを浮かべる角田。 「老人の話は長いからお茶でも……といいたいが、そうもいかんようじゃな」 「……崩界を塞ぐ為に、時に犠牲をも許容する。じーさんは最後までリベリスタだ。その手は、汚れちゃいない」 破界器を幻想纏いにしまいながら竜一が告げる。世界のために罪がなくともノーフェイスを倒すのがリベリスタの使命だ。そして『The Terror』は世界を滅ぼしかねない。 「そう言ってくれるか。優しいの、御主は」 「じーさん、褒めてよ。よくやったって。僕、じーさんが褒めてくれるの嬉しかったんだ」 拳を握り、夏栖斗が何かを抑えるように語りかける。本当はもっとほかのことを言いたかった。たくさん話もしたかった。でも、そんな時間はない。そう思うと、その一言が口から出ていた。 「ああ……よく止めた。強くなったな、お前達は」 「そうです。私たちは強くなりました。……それをこんな形で証明することになるなんて……!」 紫月は瞳に涙を溜めて、角田を攻める。鎧を着た理由は痛いほどに理解できる。世界の為、ひいては家族の為に自らを犠牲にしたのだ。だけど、置いていかれる人間の悲しみはどうすればいいのか。 「すまんの。先走ったワシが間抜けだったということか」 「爺テメェ、オレ等が来るって分かってあの鎧着装したな……?」 火車は角田を見下ろし、静かに告げる。その表情からは何も読み取ることはできない。だからこそ、火車は理解していた。自分の言葉が正しいことに。肯定の言葉は返ってこない。火車は鼻を鳴らし、背を向けた。 「いいさ、勘違いなら勘違いで。だから、安心して逝けよ!」 「おじいさま。私、後悔はしない。『日常と大切な人達』を守るって決めたから。だから……おやすみなさい」 アリステアが微笑んで、角田を優しくなでる。本当は泣き出したいのを我慢しながら、それでも笑みを浮かべる。大切な『先生』との決別。だから安心して眠って欲しい。私達は、大丈夫だから、 「ああ、お休み。……いい夢が、見れそうじゃ」 角田はそのまま瞳を閉じ、そして永遠の眠りにつく。 装着者の死を示すように、善悪相殺の鎧が砕けて消えた。 一人のリベリスタが今、息を引き取った。この世界のことを想い、家族のことを想い、多くのリベリスタを指導したリベリスタが。 寄せては帰す波の音が、静かに響く。 ● それは十年前の会話―― 「……五年かけてできたのは、呪いの鎧か。情けない。この国はこのままリベリスタが消える運命なのかもしれないな」 「そんなことはないぞ。確かに今は小さいが、正義の心は確実に燃えておる。その鎧も、正しき心を持つもが使えばよき道具となるはずじゃ」 「『回転』の。慰めはいらん。善も悪も殺すこの鎧は災厄しか生まぬ」 「否。それは善も悪もわけ隔てなく扱う鎧じゃ。おぬしが五年かけた想いを、無駄とは思わん」 「ならば、お前にこの鎧を託そう。世界の役に立ててくれ」 「この国にリベリスタの火が蘇れば……そうすればこの鎧は役に立つ。 だから友よ、安らかに眠れ。世界を救いたいと思うおぬしの意思、この鎧と共に確かに『回転翁』が受け取った」 想いは受け継がれる。人が人を想い続ける限り。 命尽きても、きっと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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