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コンクリート・ジャングル

●都会の大猩々
「……けっこう、デカイなぁ」
 『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ(nBNE000277)は、モニタに映り込む異形の姿に、ううむ、とひとつうめく。
「こいつは、ゴリラのE・ビースト、ってところかな」
 彼の言葉の通り。画面の中で、パンプアップした太く長い豪腕を窓枠に引っ掛けながら、高いビルの壁をよじ登っているのは、まさしく、一頭のゴリラに見えた。しかしながら、モニタの中、ロッククライマーよろしく灰色の壁を登っていくその姿には、一般的なそれとは、いささかの相違点が見られることに気づく。
 まず一つには、大きさ。見るからに、ゴリラというには、そいつは巨大に過ぎた。背を伸ばして立てば、全長は、数メートルにも達するだろうか。
 二つ目は、肩口から前方へと向かって伸びる、二本の奇妙な、筒状の器官。太く、大きく、先端に暗い穴を開けたそれは、砲身のように見えた。
「ええ。フェーズは2、まさに、ゴリラのE・ビーストね。先日、動物園から逃げ出したメスのゴリラ……名前は確か、ウェンディ。それが、どういう理由か、革醒してしまったものみたい。あなたたちも、新聞やテレビで見たかも知れないわね」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が言うには、つい先ごろに報じられたそのニュースは、新聞の片隅で、あるいはテレビの報道番組で、少しばかり取り上げられたものらしい。器用に芸などこなして見せるメスのゴリラは、動物園ではちょっとした人気者で、その行方に関係者は気をもんでいるそうだが、こんな形で戻って来られても困るというものだろう。
「なるほどつまり、ボクらにこいつを何とかしてくるように、ってわけだね」
「ええ、そういうこと」
 イヴは頷く。
 場所は、一般人の往来も激しいビル街であり、元々気性の激しい性格だというこのゴリラを放っておけば、どのような被害を及ぼすかは想像に難くない。
「ま、せっかく手にした自由を謳歌しているところ、悪いけれど。残念ながら彼の居場所は、この世界には……」
「メスだってば」
「……彼女の居場所は、この世界には、無いからね。ボクらの手で、始末をつけてあげることにしようか」
 そう言って、ブリーフィングルームを後にするルリと共に。リベリスタたちもまた、手を振るイヴに見送られ、任務へと出かけて行った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:墨谷幽  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月25日(日)22:05
 墨谷幽です、よろしくお願いいたします~。
 獣をハンティングする系のカンジなやつです。



●作戦目標
・E・ビースト、ウェンディゴウェンディスの撃破


●失敗条件
・参加者全員の戦闘不能


●ロケーション
・とある地方都市のビル街。主戦場となりそうな交差点付近には、7~8階程度の高さのビルが林立しています。
・時刻は平日の昼間で、それなりに人通りがあり、周囲のビルには多数の一般人がいる模様。


●敵性キャラクター
○ウェンディゴウェンディス
・背中に二門の大砲のような器官を発達させた、ゴリラのE・ビースト(フェーズ2)。一応、メスだそうです。
・ゴリラ特有の大きな体躯は更に巨大化しており、豪腕による殴打は強烈です。また背中の大砲からは、冷気を伴う砲撃を繰り出してきます。
・ビルの壁をよじ登ったり、壁から壁へと飛び移ったりと、地形を生かした機動力は高く、場合によっては近接攻撃が届かない状況も考えられます。
・【パンチ】物/近/単
・【三角蹴り】物/遠/単
・【咆哮】神/遠/全/圧倒
・【155mm氷結榴弾砲(EX)】物/遠2/複/氷結/背の大砲から、氷塊で形作られた砲弾を発射する。砲弾は目標地点の手前で炸裂し、無数の鋭利な氷柱となって標的へ襲いかかる。


●同行NPC
○『濡れた瞳で空を見る』鳴沢ルリ(nBNE000277)
・何かしら指示があれば、それに従って行動しますので、どなたかのプレイング内にでも、ちょろっと記載していただければ。
・何も無ければ、皆さんの邪魔にならない程度に、彼なりに考えて攻撃行動を行います。



 以上になります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております~!
参加NPC
鳴沢 ルリ (nBNE000277)
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ハイジーニアスクリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ギガントフレームプロアデプト
鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)
メタルフレームデュランダル
メリッサ・グランツェ(BNE004834)
メタルフレームマグメイガス
シエナ・ローリエ(BNE004839)
ギガントフレームクリミナルスタア
緒形 腥(BNE004852)
ハイジーニアスアークリベリオン
二十六木 華(BNE004943)
ジーニアスアークリベリオン
国包 畝傍(BNE004948)

●自由の代償
 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が運転する大型バンに同乗したリベリスタ一同が、迅速に現場へと急行した時には、既に、件の異形を取り囲む一般人たちによって、波状の人垣が生まれていた。
 路肩に止めた車を降りたあばたは、そいつを、水晶のようにきらめく瞳で眺める。
 体長は数メートルにも及び、立ち上がれば、その巨躯には誰もが圧倒されることだろう。丸太のごとくパンプアップした巨腕による殴打の破壊力は、それを経験せずとも、想像に難くなく。背にそびえる二門の砲身は、異形の存在としての己を、これでもかと主張しているかのようだ。
 革醒したメスのゴリラ、名は、ウェンディ。彼女は今、ビル街の交差点のど真ん中、ざわめく人々の思惑もそ知らぬふりで、のんきに日向ぼっこでもしているかのようにくつろいでいた。
「……さて。害獣は、駆除されねばなりませんね」
 幸いにして、まだ被害や混乱が広がっている様子は無いが、それとていつまで持つかは分からない。あばたの一言で、リベリスタたちは、行動を開始する。
 『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)が身に纏った変装セットは、彼女を、いささか童顔の可愛らしい婦警さんに仕立てている。周囲の一般人たちの中には、この異常な事態に戸惑いつつも、無用な混乱を収めるべく雑踏の整理を始めた本物の警察官たちの姿も見受けられ、シエナは彼らの仲間を装って誘導し、人々を、異形からできるだけ遠ざけていく。
(彼女も、自由になって、みたかった……のかな?)
 降ってわいたような『自由』に、未だ戸惑うシエナにとって。ウェンディの求めた『自由』は、その意思は、理解しがたくもあり……それでいて、どこか、眩しくも見えた。
 『御峯山』国包 畝傍(BNE004948)は、あばたと共に、シエナや警察官たちが広げている人の輪を再び縮めないよう、用意してきた、『この先、通行止め』の立て看板やカラーコーン、テープなどを設置していく。
「ゴリラちゃんは、悪く無いのでしょうが……それでも戦わなければならないのが、悲しいところですね」
 畝傍は、赤いカラーコーンにテープを結び付けつつ、そう漏らす。リベリスタとしての立場と使命は重々理解すれど、なかなか、割り切ることは難しい。それは彼のみならず、他の数人のリベリスタたちも思うところではあった。
 とはいえ。異形を前に、彼らの成すべきことは、変わらず。
「それでは、鳴沢さんは、結界の形成をお願いします」
 『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)は、傍らの『濡れた瞳で空を見る』鳴沢 ルリ(nBNE000277)に言ってから、ウェンディの巨躯を遠巻きに眺める。
 彼女は、動物園では、なかなかの人気者だったのだという。
「ですが……人に仇成すとあらば、容赦はいたしません。あなたのその手が、無辜の人々の血によって汚れてしまう、その前に……」
 細身の剣を引き抜けば、ひゅ、と風を切って鳴き。
 同じく、剣を抜き放って構えた、『咢』二十六木 華(BNE004943)は、
「負ける気はせんがな……敵はともかく、この状況こそが悪手だな。ルリって言ったか、期待してンぜ?」
「了解、一般人対策は、こちらに任せてくれていいよ」
 メリッサの指示に従い、結界の展開準備に入るルリに、ひらひらと手を振ってから。華は前衛を担う仲間たちと共に散り、ウェンディを包囲していく。
 ぴくり。近づく敵意を鋭敏に感じ取ったのか、ウェンディは身を起こすと、じろりと、剣呑な武器を構えた人間たちをひとつ、見回す。
 『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)は、付近を通りがかった警察官へ、近くの一般人たちの誘導指示を、鋭い眼光と共に飛ばしてから、
「やれやれ……こいつはまるで、B級映画の世界だな」
 ぎらつく黄金色のリボルバーの銃口を、す、と異形へと向け、そうつぶやいた。確かに。多くの観衆が溢れる中、現実味の薄い目の前の光景は、低予算でちゃちな映画の撮影風景にでも見えたかもしれない。
「自由を手にした矢先に、これとは。ツイて無かったな、お前……同情するが、これも仕事だ。悪く思うなよ」
 くわえたキャンディの棒が、くん、と跳ねたのを皮切りにするかのように。
 ウェンディが、吼えた。

●憐れみの獣
 びりびりと、肌に感じる衝撃と共に、爆音があたりに伝わり。にわかに周囲へ、恐慌の波が広がっていく。
「あのビルに走りなさい、早く!」
 腰を抜かした一般人の若い女に、指差しながら鋭い声を飛ばしてから。真っ先に飛び出したメリッサが、細剣を水平に構えながらウェンディの巨体へ肉薄すると、
「蜂の一刺し……その巨躯を、貫いてみせましょう!」
 全てを射抜くような連突きを、目にも止まらぬスピードで繰り出す。堅牢さを増したその肌に、細剣は深くは突き立たないが、鮮血がぱっと散ると、ウェンディは轟くような呻きをあげて怯む。
 背後を取った華が、
「ゴリラ風情が、手間かけさせやがってェ……これでも、喰らいなッ!!」
 地を砕くほどに踏みしめつつの突進から、振り上げた剣を、その勢いを乗せたままに、背の砲身の根元あたりへと叩き込む。がきん、と鈍い音が響き、ぐらりとゴリラは態勢を崩す。
 人間めいて、苦しげな声をもらす、ウェンディ。その様に、『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の心情はと言えば、やはり複雑だ。
「ゴリラと言うのは、本来はとても繊細で、温和な生き物だというのにな……」
 風を切って愛刀を一振りしつつも、眉を寄せ、思わず彼はつぶやく。
 人に近しくありながら、恐ろしげな大きな拳やその風貌によって、ゴリラと言う生き物は、長く、粗暴で気性の荒いものだと思われてきた。が、近年ではむしろ、義衛郎の言葉通り、知能の高さゆえに恐怖心や痛みの感覚に敏感であり、穏やかで臆病な性質を持つ者が多いことが分かってきたのだという。
 ウェンディは元々、強い警戒心や敵愾心からか、それなりに荒い気性の持ち主ではあったらしい。リベリスタたちの先制に対して、彼女が浮かべた表情は、恐れや脅えた様子などでは無く、恐ろしげな眼光で睨みつける、明確な攻撃の意思。しかしそれは、革醒によって、攻撃性が助長された故にだったのかもしれない。
「とはいえ。こうなってしまった以上、致し方あるまい。引導を渡してやるとしますか……」
 気は進まないながら、手をこまねいている訳にもいかない。義衛郎は、愛刀の柄を握り締め、時の流れすら切り裂いてしまいそうなほどの速度で、ぎらと剣呑な光を反射する刃を翻すと。生まれた微細な氷刃の群れがウェンディを包み込み、次々と傷を刻み付けていく。
 後方に位置するルリが、結界を押し広げて周囲をあまさず包み込んでいくのを確認してから。福松は真正面から、ゴリラの鼻っ面めがけ、真っ直ぐに拳を叩き込む……が。
 一瞬怯んだウェンディの双眸が、ぎら、と赤く輝いたかと思うと、
「ぐッ、あ……!」
 豪腕の一振り。強烈な殴打の直撃を浴びた福松の、小柄な体躯が宙を舞い、コンクリートの上へと落下する。
「っつ……やってくれるな……!」
 何とか態勢を立て直しつつ。衝撃の余波か、思わず奥歯で噛み砕いてしまったキャンディに舌打ちする福松に、
「大丈夫かい? やれやれ、見世物風情が、随分な仕打ちをしてくれるな」
 緒形 腥(BNE004852)は声をかけつつ、ずいと前へ出る。
 黒ずくめのスーツに、真っ黒なシールドの下りたフルフェイスヘルメット。表情はちらとも見えず、だがその言葉尻からは、どこか、この状況を楽しむようなそぶりも垣間見え。
「しかし、面白い革醒の仕方しちゃってまぁ。冷気を操るのか、ウェンディゴみたいな特徴を備えてるようだね」
 ウェンディ、その内面の深淵を覗き込むかのように、シールドの奥から見つめる腥は、北米地方に見られる伝承になぞらえて、彼女をそう評する。
「さて。大人しくしておいで。そんなに暴れると……ちょきちょき斬って、石を詰めるぞう?」
 踏み込み、鉄塊のごとき右腕の拳を叩き込みながらの、その恐ろしげな言葉は、しかしただの言葉ではない。
 彼の四肢……ことに、頑強な機械と化した両足には、それを現実のものとせしめる、怜悧な刃が備えられているのだから。

●登城
 幻影を纏い翻弄しながら、義衛郎は、迸る剣気と共に刀身を煌かせ、打ち込む。
 肉を抉る、深い一撃。
 と、
「ッ!」
 唐突に、ぱか、とウェンディは口を開くと。
 爆音めいた咆哮が義衛郎を貫き、空気を震わせながら走り抜け、轟く。

 空に低く響き渡る、巨大な音。アクセス・ファンタズムを通じ、福松から届いた連絡に、シエナが振り返れば。
 前衛陣の包囲をこじ開け、跳躍し、ビルのガラス窓を突き破りながら、巨大な掌で壁へとしがみついた、異形の巨躯が見て取れた。
 避難誘導にあたっていた後衛のリベリスタたちは、そこに一定の目途がついたと判断すると、ひとつうなずき合い、駆け出す。
 やがて、
「……お待たせ、こちらは区切りがついたよ。状況は?」
「見ての通りです。少々、不覚でしたね」
 合流したルリの報告と問いに、メリッサが頭上を見上げ、短く述べる。
 がしゃがしゃと瓦礫やガラス片を階下へ撒き散らしながら、巨体は、頭上のビルを登っていく。
 同じように見上げた、畝傍。先ほどまでは、マイナスイオンを放って一般人たちを落ち着かせ、その柔和な笑顔で、人々の誘導にあたっていた彼だが。今、手に取るのは、美しく日の光を照り返す、白銀の剣。
「さて……私たちも始めましょうか。ゴリラちゃん、私は非力ですが。非力なりに、立ち回り方というものがあるのですよ?」
 言うなり。掌の上で膨れ上がったオーラが球状を成し、彼はそれを、頭上のウェンディ目がけ、腕を振り抜いて投げつけた。
 光球が、窓枠にぶら下がった巨躯の程近いビル壁に接触し、炸裂し……驚いたのか、ウェンディは高い一声をあげ、びくりと身を震わせるが。衝撃は僅かに浅く、巨体を地に落とすには至らない。
「……ん。やっぱり、身軽な格好のほうが、いい……な」
 ふわりと。身に纏っていた婦警の扮装を颯爽と脱ぎ捨てたシエナは、脳裏で開始する高速演算により、魔術理論を構築し、それを解き放つ。多層を成す魔術陣が、現代の魔女たる彼女の身に内包する魔力を、爆発的に高めていく。
「まずは、堕ちてもらうよ……そこは、空に近すぎる」
 ルリの振るう蒼い長剣から放たれ、空間を走った暗黒の波動を避け、跳躍し。巨体が衝撃と共に、反対側のビルへと飛び移ったところで、
「おっと、これはいけませんね。皆さん、退避を……!」
 あばたは、ウェンディと相対した時点から、その精神を読み取ろうと試みていた。人の心のように、言語で組み立てられたそれとは異なる動物の思考から引き出せる情報は、さほど多くは無かったが。その瞬間、感じ取れたのは……膨れ上がる、巨大な敵意のようなもの。
 あばたの叫びに反応し、リベリスタたちは物陰へ飛び込もうと試みるが、数人が遅れを取り。
 がしゃり、と、金属めいて硬い音と共に、ビル壁にぶら下がったままのゴリラの背中、その二門の長大な砲身が、眼下へ向けて狙いを定め。
 腹に響く轟音が、二回。放たれたのは、氷塊で形作られた砲弾。
 中空で破裂し、無数の氷柱をばら撒き貫いていく様は、まさに、榴弾のごとく。
「あう……っ!」
「くッ……痛いじゃないか、おっさんちょっと、怒っちゃったぞ……?」
 直撃を浴び、痛撃を受けたのは、シエナと腥。それに、
「おいっ、無事か!?」
「……ッ。何とか……まだ、やれます……ッ!」
 駆け寄った華に助け起こされた、畝傍。彼の傷は特に深く、抉り取られた肩口には肉が覗き、凍り付いて、白い冷気をたなびかせている。
 榴弾砲による被害の余波は、周囲のビル郡のそこかしこにも刻まれていた。一般人たちの誘導に手を割いていなければ、今頃出来上がっていたのは、惨たらしい挽肉の山だっただろう。
 突き刺さったおびただしい数の氷柱を、詰まらなさそうに一瞥すると。あばたは物陰から飛び出し、手にした銃の矛先を、頭上の巨躯へと定める。
「……そう。わたしは、人類の敵の敵。だから、遠慮なく来るといい」
 構える二丁の銃は、拳銃と呼ぶには余りに大きく、無骨で、そして恐るべき威力を発揮する。
「その肉体から、技量まで。余すところ無く貪り食って、綺麗に、始末して差し上げる」
 音も無く飛翔し、巨躯を貫く弾丸は、純粋なる殺意そのものだ。

●失墜
「っ、しまっ……!?」
 壁を蹴り、巨体の超重量をそのままに乗せた一撃が、畝傍を直撃し。浅くない傷を負い、体力の限界だった彼へ、それがトドメとなり……吹き飛ばされた先で、畝傍は倒れ伏したままに、その動きを止める。
 自在に、周囲のビル街を飛びまわり、リベリスタたちの隙を突いて襲い来る攻撃は、彼らを翻弄し。届かぬ手管が、焦燥に駆り立てる。遠距離攻撃が幾度もウェンディの体躯を捉えるが、素早い身のこなしもあり、致命打とはならず。地へと叩き落すには至らない。
 そんな中で。
「一瞬の不意を、永遠にも等しい後悔に代えて……自由を求める、その代価。少々、重たいですよ?」
 早撃ちのごとくに、研ぎ澄まされたメリッサの突きが生み出した衝撃波が、一点、撃ち抜く針となり……ウェンディの片腕を、射抜くと。
「……寝ている場合では、ありませんね……!」
 彼とて、運命に愛されているのだ。立ち上がった畝傍は、満身創痍、しかしその瞳に抱いた意思は、揺らぐこと無く。
 再び投げ放った光球は、巨体をかろうじて壁へと掴まらせ支えている、ウェンディの残った無傷の片腕にぶつかって、弾け。凝縮された衝撃が解放されると、爆風と共にその体躯を大きく弾き……宙を舞った彼女は、やがて、轟音と共に、コンクリートの路面を抱き締め。蜘蛛の巣状のヒビを走らせ、沈み込んだ。
「さあ、畳み掛けましょう!」
 白銀の刃を閃かせて駆ける畝傍に、仲間たちも続いていく。

 ゆらり、陽炎のように揺らめく剣先の動きは、ウェンディの視線を惑わし、
「隙を見せたな……そこだッ!」
 義衛郎の振るう刀身の軌跡は、甲殻めいて堅牢な皮膚の隙間、薄い部分をなぞるように弧を描き、ぱしん。赤い飛沫が、扇状に散る。
 ぐぐ……と、身をもたげたウェンディは、跳躍し、再び空へと逃れようとするが、
「おっと。曲撃ちは、趣味じゃないんだが……なッ!」
 瞬間。追いすがるように、横っ飛びに身を捻りながら翻った福松の手元、黄金の光と共に銃声が二度響くと、二門の砲身を的確に潰されながら、巨体は再び地を舐める。
「悪いな。そろそろ、幕引きの時間だ」
 着地し、刹那に宙を舞った白いハットをキャッチすると、彼はそれをかぶり直し、断ずる。
「お前の墓は、今、この場所だ。どこにも行かせねェ。俺みたいな不幸なヤツを、これ以上作らねェためにも、な……ッ!!」
 華の心に背負った傷は、痛みもそのままに彼の意思となり、力となる。突撃の衝撃と共に薙ぎ払った剣が、ウェンディの厚い胸板に、抉り取るような真一文字の傷を刻み込む。
「これ以上、あなたの存在を許しておくことは、出来ませんね」
「悪いけれど。ここらで、始末をつけさせてもらうよ?」
 あばたの指先から鋭く伸びた気糸が、全身を貫き、絡め取ったところへ。握り締めたルリの左拳が腹へと叩き込まれると、纏う冷気が殴打と共に弾け、凍りつかせる。
 動きを止めたウェンディに、もはや、高々と跳躍してみせる余力は、残されておらず。
「まぁ、何だね。自由とは、何もそうして、暴れ回ることだけじゃあ無いさ。そら……おっさんが、お前さんを解放してやろうじゃあないか?」
 ふ、と幻像のように掻き消えた腥の姿が、巨体の背後に現れたかと思うと。小さく跳躍し、先の宣告の通り、刃と変じた右足を薙ぎ払い、後ろから、首元を切り裂いて見せる。
 ぱくりと開いた、肉色の亀裂。激しく噴出する紅。
「構成展開……型式、灰空の月鎌……」
 シエナの手に収束する、莫大な魔力の奔流。やがて、織り成すようなそれらが構築するのは、
「――composition」
 禍々しくも美しい、濡れたような漆黒の、刃。
 回転する大鎌が飛翔し、三日月のごとき弧を描きながら、致命の一撃を、深々と刻み入れると。
 異形の獣は、再び空へ逃れることも無く。
 掴みかけた自由を、その掌からこぼれ落としながら……ゆっくりと傾き。やがて、どう、と倒れ込む頃には、彼女は既に。事切れていた。

 ぼんやりと見つめる、一般人の取り巻きたちに。華は、これは、映画の撮影だから。などと、説明してやっている。いかにも無理やりなその嘘も、彼らが今見た、非現実の記憶も。やがて、展開された神秘の結界によって押し流され、いずれは忘れてしまうのだろう。
 倒れ伏した、傷だらけの体躯を眺め、
「……おやすみなさい。ウェンディ」
 メリッサの、そんな小さなつぶやきに。リベリスタたちは神妙な顔を浮かべ、その中の幾人かは、ひっそりと、心の内で祈りの言葉を述べた。
「さて。終わったな、帰るか」
 取り出した、オレンジ味の棒つきキャンディをくわえ直した、福松が促すと。彼らは再び、あばたの運転するバンに乗り込み、その場を後にした。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした! 『コンクリート・ジャングル』のリプレイをお届けします。

 ゴリラというのは、本当に頭の良い生き物なのだそうでして。
 中には、手話で人間と意思疎通を図ることができる、なんてゴリラもいるそうですね。彼女は、大切な友達であった子猫の死を知ると、涙を流して嗚咽したんだそうです。
 調べれば調べるほど、興味深いです。ゴリラ。

 それでは、今回は、ご参加ありがとうございました!
 またの機会にお目にかかれますこと、心よりお待ちしております~。