● インドのとある山中にある隠れた小村。 そこには『癒し手』と呼ばれる老人が住んでいた。 彼は人の怪我を癒す、奇跡の人として知られ、村の人々からも慕われていた。 神秘の世を知る者には言うまでもないことだが、彼はリベリスタだ。ホーリーメイガスとして革醒した彼は、自身が運命の加護というか細い糸で世界につなぎ止められているに過ぎないことを自覚していた。 リベリスタ組織『ガンダーラ』との関係はあったが、それは緩やかなもの。彼は神秘の力で身近な人々を守ることを選んだのだ。 だがしかし、その平穏な生活を破る者が現れたのだった。 「がはっ」 「大丈夫ですか、村長さん。お前達……なんと非道な真似を……!」 『癒し手』の足下にはまだ若い村長が血塗れで転がっていた。明らかに拷問を受けた跡だ。 拷問を行ったのはボロボロの外套に身を包んだ男達である。 「神秘の本質は破壊、生命の本質は闘争! 弱者が淘汰されるのは必然。これも当然の道理よ」 「その言葉……まさか!」 集団の長と思しき男が放った言葉に、『癒し手』は思い出す。先日、『ガンダーラ』から警告のあった最近急速に成長を遂げた魔術結社の話だ。破壊と殺戮の女神カーリーを盲信する、少人数構成の過激派グループである。よもや、こんな所にまでは来るまいと油断をしていた。 「いかにも! 我が名は『カーリーの使徒』サルマンダ。この名を冥土への土産にするが良い!」 「させぬ!」 名を名乗るサルマンダに『癒し手』は攻撃魔術を放とうとする。いざという時のために学んだ、彼の切り札だ。 だが、その詠唱は途中で止まる。 サルマンダの横にいる副官の腕の中に、泣きじゃくる子供の姿があったからだ。『癒し手』の術はその子を巻き込まずに使える代物ではない。 そして、その隙が仇となる。 完成されたサルマンダの術が『癒し手』の胸を穿ったのだ。運命の炎を燃やして立ち上がれるほどに、彼には恩寵は与えられていなかった。 「邪術の使い手は屠ったが、これを機に革醒者が生まれぬとも限らぬ。この村を焼き尽くせ!」 動かなくなった『癒し手』を蹴飛ばして死亡を確認すると、死体に泣きつく子供を尻目に部下達へ名を降す。すると、それに従って、部下が散開して村の中に散って行く。 残ったサルマンダは、この場の生き残りを屠るための術を詠唱する。 それがその名の知れぬ小さな村の最期だった。 ● まだ夜風の冷える5月のある日。『ホリゾン・ブルーの光』綿谷・光介(BNE003658)を始めとするリベリスタ達は、ブリーフィングルームで事件への対策を練っていた。 「まったく……許せない話ですね」 光介の表情は厳しい。 この度、彼らに持ちかけられた任務は『ガンダーラ』からのフィクサード討伐依頼。現代日本人の感覚からすると「気難しい」空気の『ガンダーラ』であるが、『アーク』のことはそれなりに信頼している。しかし、それを考えても彼らに与えられた仕事は、やや無茶振りと言えるものであった。 「ホリメ狩りのフィクサード連中ですか……(カチッ)どう考えてもやばげな連中じゃないですか、ヤダー!」 スイッチを切り替えた『二つで一人』伏見・H・カシス(BNE001678)が悲鳴を上げる。 無理なからぬ所だ。 そう、ホーリーメイガス狩り。 ホーリーメイガスは、癒しの術を使いこなす神聖術師。貴重な回復能力を持つ革醒者達だ。多くの組織において、重宝される存在である。 そのホーリーメイガスが闇討ちに合うという事件が、インドの各地で確認されているのだ。『ガンダーラ』所属の中堅ホーリーメイガスや、傭兵として現地入りした支援部隊。果ては鍛錬に集まった新米の回復係から、フィクサード側のホーリーメイガスまで次々と戦線離脱を余儀なくされているのだ。隠れ住んでいたリベリスタが村人ごと殺された例もある。 「犯人と目されるのは、『カーリーの使徒』と名乗る組織なのですね。たしかに、彼らにとってワタシ共の存在は邪魔そのものなのでしょう」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)が資料にあるその名を読み上げる。『ガンダーラ』の調査で明らかになった過激派魔術結社の名前だ。破壊と殺戮の女神カーリーを盲信する彼らは「破壊の術者」は一般人をはじめとする弱者を殺戮し、人類を強者の集団へと再編すべきだと信じている。危険で偏った思想――歪曲された優生主義の再来とでもいえようか。 そんな彼らとホーリーメイガスの存在が相容れるはずもない。「破壊」を信条とする彼らにとって、癒しの力は相容れないどころか、神秘の歪み、誤りである。そのうえ、癒し手たちは殺されるべき弱者を救い、淘汰を妨げてしまいかねない。彼らがホーリーメイガスを殺害するために動いているというのは、あながち間違った推理でも無いだろう。 「この精密さを考えれば、偏執的にホーリーメイガスを狙っていることは明らかですね」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)がふうっとため息をついた。 どうも襲撃者は、ホーリーメイガスを見分ける術を携えているらしく、誤って他ジョブを襲うことも、他ジョブが部隊に紛れているときに襲い来ることもない。癒し手が単身でいる、もしくは癒し手だけが集まっている機会を的確に探り当て、ホーリーメイガスだけを狩ってくる。 少人数でそれなりの隠密性も備えているため、中々アジトを掴むことも出来ない。そこで、彼らの存在が確認された場所に「囮として成立し、かつ迎え撃ちに出来る可能性が高い戦力」を送り込むことになったのだ。 (それにしたって、無茶振りが過ぎるんじゃないかしら?) 「さっちゃん、そう言うことは口に出さなければいいと言うものでもありませんよ?」 『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の念話に『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)が反応する。 確かに、海外からの支援部隊の受け入れは、それなりに目立つ動きではある。襲撃ポイントさえある程度押さえることができれば、敵を釣り出すのには最適だろう。 無論、ホーリーメイガスだけの部隊が、直接戦闘に向かないのは誰もがわかっている。沙希の言う通り、アークの傭兵事業にかこつけた、ある意味での無茶ぶりだ。 だからと言って、このまま放置できるような連中でも無い。 「負けるわけにはいきません、癒し手の矜持と誇りにかけて」 光介の言葉にリベリスタ達、いや癒し手達は頷くのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月29日(木)22:16 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 暗がりの中、闇に紛れるように黒ずくめの集団は駆けていた。 彼らは過激派フィクサード集団、『カーリーの使徒』。 癒しの術を使う神秘術者を全否定し、この世から抹消しようとする狂気の集団だ。この度は、国内に入って来たリベリスタの情報を掴み粛清のために襲撃の準備を行っていた。 「合計で6人……わざわざ殺されに来るとはご苦労なことだ。いや、これも神の導きか」 術で内部を探っていた首領がくつりと嗤う。 「敵」がいるのは都市部から離れた場所にあるホテル。ここであれば、増援が来る可能性は極めて低い。悠々と咎人達を屠った後で撤退する余裕もある。 首領はそう考え、ホテルの中に素早く侵入した。そして、標的を目指して通路を移動する正にその時だった。 「火事だー!」 「!?」 突然、大きな声が響き渡った。予想外の展開に驚きを隠せないフィクサード達。そして、廊下のスピーカーから『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)の凛とした声が流れる。 「我々ホーリーメイガス旅団に襲いかかる謎の集団! ここで決着を付けさせてもらいます!」 ● 時間はわずかに遡る。 『ガンダーラ』の要請を受けてインドにやって来たリベリスタ達は、デリー郊外にあるホテルに宿泊する運びとなった。敵の襲撃を撃退するべく、都合の良い戦場をセレクトした結果だ。 幸い、宿泊客はほとんど来ない場所で、リベリスタ達の出した条件もほぼ満たすことが可能だった。敵の性質を考えれば、一般人がいようとお構いなしの攻撃を仕掛けてくることは想像に難くない。だからこそ、被害を最小限に抑え込む必要がある。 「費用は、時村宛でお願い致します」 凛子はそんなことを考えながら、フロントの人間に応える。 婚約祝いの演出にと、放送施設を借りる算段を成立させたのだ。極論、理由は何でも良かったわけだが、この理由を選んだのは彼女なりの遊び心である。 部屋に戻ると、リベリスタ達はそれぞれの形で、フィクサードの襲撃に備えていた。 『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)は現地語の本を開き、言語の学習をしている。英語が通じる土地でもあるが、主要言語が多い土地でもあるし、敵対フィクサードが使えるとも思えない。それに「任務には忠実」と普段から言っているように、こういう時に手を抜く性格ではない。 そして、凛子の遊び心のダシにされた形になる『贖いの仔羊』綿谷・光介(BNE003658)は外への警戒に余念がない。普段は『万華鏡』の精密予知で敵の襲撃タイミングを精確に知ることが出来る。しかし、今回はその恩恵の無い海外だ。わずかの油断も出来ない。 普段与える温厚な印象と違って、光介の表情が与える印象は険しい。警戒の故かと言われればそれまでであるが、逆にそれ以上の何かを感じさせる。 そして、リベリスタ達の準備も済み、日も落ちてきたころだった。 光介の瞳が鋭く光る。 「来ました」 「ルビィ」 合図を受けてリベリスタ達は行動を開始した。 沙希は、先ほどまで読んでいたぱたんと本を閉じて立ち上がる。 『二つで一人』伏見・H・カシス(BNE001678)は式神のルビィを魔力鉱石から召喚した。つい先ほどまで幻視で角を隠しておどおどとしていたが、既に『スイッチ』は切り替わっている。 「貴方は火をつける係。このライターで火をつけて。発煙筒も、こすってみて。つけたら逃げて。戸惑う人がいたら、誘導してあげてね」 式神に対して丁寧に説明すると、カシスはすぐにその場を離れる。 そして持ち場に付くと、息を吸い込んで大きく叫んだ。 ● 沙希はフィクサードの姿を見かけると、追い込むために念話を送る。 おそらく、敵方も誘き出されたことには気付いていることだろう。それでも、話に聞いた性質を考えればリベリスタ達の元に来ることは間違いない。少なくとも、この場にホーリーメイガスしかいないことは分かっているはずだ。 元より人の少ないホテルであったが、場に結界は張ってある。発煙筒で火事を偽装することで、「この場を去る理由」を一般人に与えた以上、余計な人間がやって来る可能性は極めて低い。この場、この瞬間こそ、魔術世界に波乱をもたらさんとする者達を討ち取る最大のチャンスだ。 そして、リベリスタとフィクサード、癒し手と破壊者は戦場へ集う。 ホテルの本館と別館を繋ぐ渡り廊下だ。ここならば、人目を気にせず戦える。 「因果応報、奇妙なご縁は『見えざる神の手』の如し。あなた方との邂逅も……全ては神様のお導きでしょう」 『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は巻物を胸に抱くと、現れたフィクサード達に向かって告げた。 「ほう、極東の『箱舟』か。何を考えているかと思えば……如何な者を揃えようと、癒し手だけで我らをどうにか出来ると思うなど、片腹痛い」 何人かの名だたるホーリーメイガスの存在、及び状況からリベリスタ達の思惑を察したのだろう。フィクサードは哄笑を浮かべる。 しかし、そんな彼らの表面しか見ない発言にこそ、光介にとっては皮肉げな笑みで応えた。 「随分とボクらの術が『良いもの』に見えているのですね、貴方達には」 「ホーリーメイガスは癒すだけ……皆さんがそうお思いなのでしたら、その考えは一変する事でしょう」 『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)は鉄扇をすっと開くと、フィクサード達に向かって構える。既にフィクサード達と対話が通じないのは自明の理。なれば、粛々と目的を果たすだけだ。 「リサリサ、推して参りますっ」 狭い通路を塞ぐようにリサリサが前に進み出る。フィクサード達は意外そうな顔を浮かべるが、すぐさま攻撃を開始する。何をして来ようと、ホーリーメイガスは癒し手に過ぎないと高をくくっているのだ。 「癒しなどにすがり付く弱者が吠えよって。弱者はただ淘汰されればよいのだ!」 フィクサードが地獄の炎を放つ。 しかし、その様なものを恐れる凜子ではない。 「人は信条を相容れない時に争うものです。あなたたちがその信条をもって戦うのならば、私も戦場医としての矜持をもって弱き者を助けるだけです!」 凛子とて命の儚さは良く知っている。如何な医術を以ってしても、人の死を止めることは出来ない。だからこそ、彼女は人を癒すのだ。人の命と向き合うために。 凜子が呼んだ小さな翼が戦場を舞う中、光介はポエトリー形式の魔道書を紐解く。 「術式、堕ちた羊の殲滅歌!」 印の命じるままに集束された魔力が矢となって解き放たれる。 光介の研鑽する「万式実践魔術」は神秘の技を合理化していった先に生まれた術式。回復は元より、攻撃においても十二分な効果を発揮する。 炎が通路を焼く中で、シエルの持つ北極紫微大帝乃護符がうっすら光を放ち、主の身を護る。 フィクサード達の攻撃力は高い。破壊こそ真理と考えているのだから、当然の話だ。しかし、そこで倒れない、倒れてはいけないのがホーリーメイガスである。 「癒し手を一撃で斃せないと……どうなるか教えて差し上げます」 そう言ってシエルは大きく翼を広げる。 「魔風よ……濁流となりて敵を呑み込め!」 魔力を帯びた風が渦となってフィクサード達へと襲い掛かる。そこに来てフィクサード達は今更ながら自分達の誤算に気が付く。 ホーリーメイガスは癒しの術を使う神聖術師だ。当然、その力の多くは癒しの力に注がれる。しかし、同時にその魔力は破壊の力にも転用可能だ。こと、アークという組織はアクセス・ファンタズムの恩恵によって他の技術も学びやすい環境にある。 何よりもアークのリベリスタ達は、ここ数年は崩界の最前線で戦っているのだ。それは既にただのホーリーメイガスとは別の何かである。 そして、フィクサード達の驚きはここに留まらなかった。 「あの……本を、読みませんか?」 前衛に立つカシスがフィクサードの前で両手を上げて対話の続行を試みる。 何のかんのと言いながら、話し合いで決着がつくのならそれに越したことはない。 「知識や、意見は、人に押し付けるものじゃありません。本を読むように、自然に入ってくるものだと思うんです」 「それこそ弱者の戯言だ!」 しかし、当然フィクサードは聞く耳を持たない。その言葉を聞いて、カシスのスイッチが入る。 「だぁから! 力押しでないと通せないものが! 本物なわけ無いでしょ!! あたし達が教えてあげる!」 カシスが腕を薙ぎ払うと、彼女の怒りが炎となってフィクサード達に襲い掛かる。これにはフィクサード達も混乱の色を隠せない。「魔術による攻撃を行うホーリーメイガス」なら相手にしたことはある。しかし、ここまでかけ離れた戦法を用いるホーリーメイガス等出会ったことが無い。 混乱をむりくり立て直そうと、強引に攻撃を仕掛けてくる。しかし、攻撃はそれゆえ散漫。沙希は防御の魔法陣を形成し、軽々といなしてしまう。 (鬼さん、こちら) からかうように念話を送り込む沙希。相手も相応の実力を持ったデュランダルだ。一撃が当たればただでは済むまい。しかし、彼女に恐れの色は無い。これも彼女の抱えた闇故にか。 「ひとえにホーリーメイガスといってもその性質は人それぞれ……ワタシ達にはワタシ達の戦い方がありますっ」 デュランダルの剣を幾度も受けながらリサリサの口元には微笑みが浮かんでいた。 斬り付けるデュランダルの「常識」ならば、ここで大抵のホーリーメイガスは倒れるはずだ。しかし、彼女の足はふらつきもしない。 「ホーリーメイガスは後衛で守られるべき存在、そうとばかりは限りません……」 普段は仲間にもっと高い耐久力を持つ者が多いため回復に徹するものの、それは単に適材適所を考えた結果に過ぎない。リサリサの本分は前に立って人を護ることにある。 「ワタシの鉄壁の守りと絶対者の力、とくとお見せ致しましょうっ」 そして、お返しとばかりに翼をはためかせる。すると彼女に斬りかかろうとしたデュランダルは大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるのだった。 ● 癒しの力と破壊の力。 それは世界に生み出された相反する力だ。その2つがホテルの通路でせめぎ合う。 地の利ははっきりとリベリスタ達にあった。開かれた戦場で、フィクサード達が自由に戦術を選べる環境だったのならこのようには行かなかったろう。しかし、リベリスタ達は限られた手札を十全に活用して戦いを有利に進めていた。 「ご自慢の銀の銃弾は私迄届くのでしょう? されどそんな事で怖気づく位なら癒し手は務まらないのです」 いつものように微笑を浮かべるシエル。どうやらフィクサードの首領はそれを挑発と受け取ったようだ。高位魔法陣を形成すると、魔術の弾丸で彼女を襲わせる。 狙いは違わず心臓を狙い撃った。 廊下を派手に血が濡らす。 それでも、シエルは微笑を浮かべていた。 「存分にどうぞ……それでも斃れてなんてあげません! 最後迄詠唱を止めません!」 (仕方がないわね、元より防御だけで勝てるなら苦労しないわ) シエルと沙希が詠唱を紡ぎ上げると、高位存在の力が顕現する。 その力はリベリスタ達に力を与えて行く。 当然攻撃力はフィクサード達の方が勝る。しかし、その差を補って余りある癒しの力こそが、リベリスタ達の武器だった。 「忌々しい。癒しの力に頼らねばなにも出来ぬ弱者が……!」 「貴方方の道理には根本的な誤りがあります」 傷を抑えながらリサリサはフィクサード達を睨みつける。何度傷つけられても、彼女は膝すら折らない。フィクサードの刃も、炎も、彼女を倒し切ることは出来なかった。 「弱者を護る力こそが強者の証……そして貴方達の望む世界では、護るべき対象は居ない。すなわち、強者など存在しないのですからっ」 「弱者を踏みつぶすことこそが、強者の証よ!」 首領が叫ぶ。しかし、誰の目にもどちらが強者なのかは明らかであった。 「あなた達の言いたいことは分かりますよ」 凜子の瞳にわずかに哀しみの色が浮かぶ。 彼女は軍医としてもリベリスタとしても、様々な経験をしてきた。だから、こうした人間を見ることは初めてではない。 「ですが、その信条を解する事はできても、それを良しとはできません。 弱き者たちの命も助けたい、私の信条をもって受け立ちます。 喩え、争いになろうとも!」 そう、これこそが彼女の信念だ。 だから、凜子は全力を尽くす。それこそが彼女の戦いなのだ。 凜子の放つ裁きの光がフィクサード達を焼いていく。神聖な裁きは確かに下ったのだ。 「ひ、ひぃっ」 「何をしておる! 戦わぬか! それでも貴様、カーリーの使徒か!」 リベリスタ達の攻撃の苛烈さにフィクサードの1人が逃げ出そうとする。それを首領が叱咤するが、それ以上に怒りを見せたのはカシスだった。 「勝手を言うな!」 その怒りは真っ直ぐ首領に向けられている。 「力も技もないあたしだけど、自分が正しいって何かを押し付ける人は嫌い!」 怒りのままに首領に炎の拳を叩きつける。 「それがたくさんの人の命を奪うことに繋がるなら、あたしは何度だって立ち上がる! 傷ついたって構わないっ!」 首領の持つ杖を掴んで勢いよく言葉をぶつけるカシス。二重人格的に見られる彼女だが、別の人格を持つわけではない。単にその表れ方が違うだけ。カシスはカシスなのだ。 「偉そうに……そこまで言うのなら、何故力を求めない? 弱者等構う必要も無かろう!」 苦し紛れに首領が言葉を吐き捨てる。 何故ホーリーメイガスとなったのか。もし、カシスの中に迷いがあったのなら、彼女の力も緩んだかもしれない。しかし、その言葉に対する答えは彼女の中にあった。 『そうありたいと祈ったからよ!!』 2つの声が唱和する。 そして、思い切り首領を突き倒す。 「大差ないんですよ。破壊の術も癒しの術も」 倒れた首領に向かってゆっくりと光介が語る。その手の中では術式が紡がれていた。 所詮はどちらもエゴを為す力に過ぎない。癒しの力とて相手を「選んで」支える以上、弱者のための力と言うことなど出来はしない。 だが、光介の癒し手としての、ホーリーメイガスとしての矜持はその先にある。 誰かを癒す力がエゴに過ぎない、その現実を噛みしめてなお「癒し」を名乗る。そこに矜持がある。 「貴方達にはその覚悟が見えてない……!」 「ほざけ、若造が!」 「安易な二元論で語るな!」 崩れた姿勢から首領が高位魔法陣を形成し魔力の弾丸を放つ。光介の術はほんのわずかに速く完成する。 魔力の矢と銀の弾丸がぶつかり火花を放つ。 しかし、初速の差が勝敗の差を分けた。魔力の矢が首領の胸に突き刺さる。そのまま、首領は動きを止めるのだった。 ● 戦いが終わるとリベリスタ達は『ガンダーラ』に連絡を取り、すぐさま事件の収拾を図った。結果として、人が少ない場所を選んだこともあり、騒ぎは最小限にとどめられた。 (私達の役目は「撃破」、傭兵なんてこんなもの) 沙希はフィクサード達のアジトを突き止めると、『ガンダーラ』に報告して素知らぬ顔だ。後のことは『ガンダーラ』の仕事。自分達の仕事は終えたし、美味しい所も譲れば彼らの面子も立つと言うものだ。 これで南アジアを騒がせた魔術世界の喧騒も静かになるだろう。 癒しも破壊もエゴを貫き通す力。だとすれば、「破壊」を信条とするフィクサードのエゴに、平和を守ろうとするリベリスタ達のエゴが勝った、ということなのかも知れない。 世界は今日も無数の人々のエゴがせめぎ合っている。 だからこそ、ホーリーメイガス達は矜持を掲げる。傷付いた世界を癒す、世界が与えた力と共に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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