● ブリーフィングルームに呼び出された最上 レナは、不機嫌だった。 リベリスタとしての厳しい修行に二年間耐え、帰宅してから半月。 真白イヴ(nBNE000001)に呼び出され時折、ここへ来るのだが、いつも兄が同席しているのだ。 アーク本部勤務なので不自然ではないのだが、昔、格好良かったのに、なぜかヌイグルミのようなずんぐりむっくりの体型になっている。 しかも彼が同席している時に提示される依頼は、レナが受ける気も起こらないような、とびきりくだらないものばかりなのだ。 今日も、そんな調子だろうと、最初からムカムカしながら入室をした。 「あの」 口を開きかけたイヴを無視し、兄がレナの眼前でノック式ボールペンをフリフリしてきた。 「ボールペンだよ、ボールペン、よくなくすだろう?」 「はあ、何言ってんの?」 レナは、ココア色の髪をやる気なさげにいじっている。 「胸ポケットに入れたつもりだろうが、筆立てに立てたつもりだろうが、いつの間にかなくなっているのがボールペンってもんなんだよ! 不思議に思った事はないか? なぜ、あれほどまでになくなるのか」 「別に。 今は百均に行けば三本百円くらいで売っているじゃない、いくらなくなっても問題ないわ」 「その油断が、世界の破滅を導くんだよ!」 兄はボールペンを、折れそうなほどの勢いで机に叩きつけた。 「いいか! 俺たちはボールペンを無くしているんじゃない! ボールペンが勝手にいなくなったんだ!」 「おもちゃをなくした、子供の言い訳みたいね」 「奴らは、E・ゴーレムなんだよ! メーカーから出荷される段階で、すでにエリューション化したものが、紛れこんでいるんだ!」 「それが本当なら聞き捨てならないけど、どんな被害をもたらすの?」 ● 「まず最初に勝手になくなる。 そして数日後、なぜか隣の席の奴が、自分がなくしたものに、そっくりなボールペンを使っているんだ! 返してもらいたいが、違ったら気まずいので何も言えない! 聞いたら聞いたで『俺を泥棒扱いするのか』みたいな変な雰囲気になる! 共にエリューションに抗すべき人間同士が疑心暗鬼に陥るんだ! ああ、恐ろしい!」 レナは、冷めたココア色の目で兄を見ている。 「それ、貸しておいて、返してもらうの忘れているだけじゃないの?」 「違う! 夜中にエリューションが自律行動して、隣りの奴の筆入れに紛れ込んでいるんだ!」 「へー」 平坦な返事をするレナに構わず、兄は言葉を続けた。 「それはまだいい、初期段階だ。 フェイズが進むとさらに恐ろしい事になる。 奴らは人間を、操るようになってくる」 「握った人間を操って、ペン先で人を刺させるようになるってわけ? それは見過ごせないわね」 兄は、重々しく首を横に振った。 「そんな自分の正体を晒すような真似はしない! 奴らは狡猾だ」 「じゃあ何を?」 「ボールペンで字を書いていると、勝手に筆先が滑る事がないか? “な”を“た”と書いてしまったり、あるいは一つ先に書くべき文字を、なぜか先走って書いてしまう事が」 「はいはい、それもエリューションの仕業なのね」 「そうだ! 会社の新人君が、得意先の企業宛の書類に“ありがとうございました”と書くべきところを“ござまた”と書いてしまったりする。 『しまった』と思い、“ま”と“た”の間に、無理やり小さく“し”を書いたりするんだが、チェックした上司に『なんだねチミ! 全部かきなおしたまへチミ!』とか怒られて、ショックを受けて退社する! ニートが増える! 日本経済が廻らなくなる! 日本経済が崩壊すると、連鎖的に世界経済が崩壊する! 小さなボールペン一本から、世界が終わりを迎えてしまうんだ!」 「へー、一大事だー」 棒読みだった。 「奴らは五条商事にかなりの勢力を送り込んでいる! その数、なんと三本! そのうち一本は、三つの威力を操り攻撃してくる恐るべき三色ボールペンだ! 世界崩壊を防ぐため、退治してきてくれるな、レナ!」 「行かない」 レナが退室したため、イヴは溜息をつき、他のリベリスタを招集する事にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:スタジオi | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月26日(月)22:56 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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● 五条商事本社社屋は、小さな駅近くの裏通りにあった。 「地味な会社だね~」 『スターダストシュヴァリエール』水守 せおり(BNE004984)は三階建て社屋を見上げて呟いた。 年齢的には高校生であり、さらには人魚である彼女だが、それを隠すためのメイクが幸いし、大学生程度には見えた。 「ここに、ボールペン三本へし折りに行くだけなんだから地味な任務だよね」 月杜・とら(BNE002285)も、うんざりしたような顔をする 「このような会社に戦後日本の経済成長は支えられて来たのです。 ここで働く方たちの安全をないがしろには出来ませんね」 外見からは信じがたいが八十三歳だという、『フロントオペレイター』マリス・S・キュアローブ(BNE003129)の言葉に、仲間たちは重みを感じた。 マリス自身、十年以上前の記憶はないのだが、千九百三十年生の言葉だと思うと、何となくありがたみを感じるものだ。 「あの、ここに僕が入るの、浮いてないかな?」 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、短すぎるスカートで必死に太ももを隠した。 本日のキーマンの一人、柏木部長。 彼の愛人に変装するため、昨晩、下調べをし、愛人女性そっくりな扮装をしてきた。 それは賞すべきことなのだが、その愛人は水商売、とにかくケバく、格好も際どい。 それを模した智夫も少し動けば、胸もお尻も丸見え、という状態だった。 あまりにも目立つので苦心の調査でコピーした変装は解除した。 夜八時、四人は入口で分かれ、配属が決まっている各部署に向かった。 ● 圧倒的最年長であるマリスが入ったのは庶務課。 待っていたのは、四十代の女性社員・栄子、ただ一人だった。 一目見てわかるほどの鬱状態だった。 「栄子さん、何か辛いことあったのですか? 私でよければ聞きますよ? 一日アルバイトですから、後腐れなしです」 マリスは、校閲対象の書類をチェックしながらそう尋ねた。 栄子は一瞬、驚いたようだが、意外と勢いよく話を始めた。 お局様だけに、様子がおかしくとも、他の社員が遠慮したあげく放置されていた様子だった。 「ようやくよ、二十年付き合ってようやく、結婚なんて話が出始めたの!」 栄子の彼氏は、あまり稼ぎが良くなかったらしい。 そんな中でも栄子との結婚資金を、秘かにコツコツ貯めていてくれた。 結婚は諦めかけていた栄子にとって、この上ない幸せだったという。 「そこに、あの女が再び現れたのよ。 二十年前、アイツを虜にしたあの女が! しかも、二十年前と変わらない姿で!」 「歳を取っていなかったんですか?」 「より美しくなっていたわ。 二十年前は努力して彼女に近づけるよう私も努力をしたけど、今はもう無理。 不平等すぎるわ、あんな存在」 その言葉に、マリスは気まずい思いを禁じ得なかった。 マリスも、普通の人間とは異なる年齢の取り方をしているのだ。 「アイツは貢いで貢いで、ようやく貯めた結婚式を使い果たしたわ、それどころか、私に借金の申し出までしてきたの。 さらに貢ぐためにね! バカにすんなって話よ!」 栄子がようやく掴みかけた幸せは、奪い取られてしまったのだ。 おそらくはマリスと、同種の人間に。 安易な言葉で慰める気にはなれず、心の中で丁寧に言葉を紡ぎ、ようやく口を開いた。 「個人的に思うに――悲しみを知った女性はとても魅力的になるとおもうのですよ。 健気に毎日を過ごしている女性には、素敵な男性が現れると思うのです。 それが何時になるのかはわかりませんが、人と人の出会いには、無駄な出会いは1つとしてないし、今は、幸せになる試練みたいなものなのかもしれません」 栄子は涙をハンカチで拭うと笑顔を浮かべた。 「若いのに深みのある事を言うのね、年下の子と話しているとは思えないわ」 栄子は、胸にわだかまっていたものを口に出せてすっきりしたのか、どこか晴れ晴れとした顔だった。 「このタイミングでリメイクなんかする事ないわよね、あのアニメ」 「アニメ?」 栄子の言う『あのアニメ』とは、日本人なら誰しもタイトルくらいは聞いた事のある、美少女バトルものの先駆的作品だった。 「二十年ぶりに新作作るんだって! 今の技術だから当然、画も綺麗に、ヒロインも魅力的になって帰ってきたのよ。 そりゃあ、アイツが夢中になるはずよね」 「あの、もしかして、彼氏さんが貢ぎまくったというのは」 「旧作のブルーレイBOXやら、新作フィギュアやら再販されまくったんで、結婚資金崩して全部買っちゃったみたいなの! バカバカし過ぎて、周りの誰にも話せずウジウジしていたのよ。 貴方が話を聞いてくれてなんかすっきりしたわ」 マリスは、とりあえず頷くしかない。 「なんか許してやろうって気になってきたわ、元々、その手のサークルに入っていてコスプレ仲間として出会ったくらいだし、嫌いじゃないの、新作始まったら一緒に観てやろうかしら」 いくら八十代でも笑顔が貼りつく話である。 「ああ、ごめんなさい、長話でバイト始められなかったわね」 「と、赤ペン貸していただけませんか? 校正作業が捗るので!」 栄子はあっさりと、引き出しから赤ボールペンを取り出し、あっさりと貸してくれた。 これがE・ゴーレムなのかは確証が持てないが、とにかく確かめるしかあるまい。 マリスは、お腹を抑えた。 「済みません、化粧室に」 「あらごめんなさい、長話して我慢させちゃった?」」 「いえ、実は今日――きりがないので、半分優しさで出来てるお薬飲んできます」 栄子は、気にしないでいいのでゆっくりどうぞと言ってくれた。 マリスは赤ボールペンを握り、廊下へと駆け出した。 ● マリスが栄子の話を聞き始めたのとほぼ同時刻、とらとせおりは、営業部にいた。 「桜田さーん、緑のボールペン持ってたら貸してくださーい♪」 「えー、探すのめんどくさいなあ」 若手社員・桜田は自分の机を開けた。 文房具、書類、お菓子、ゲームソフト、TVのリモコン、DVD、飲み薬、漫画本、履き古した靴下。 その他諸々が無秩序に、机の引き出しに詰め込まれている。 「そもそも、せおりちゃん、なんで緑のボールペンなんか使うのさ?」 「お礼状、綺麗な筆ペン書きだけだとご年配受けはすこぶる良いけど相手によっては堅苦しく感じるし、若い女性の方には可愛いお花とかあればと思いまして。 葉っぱ色が足りないんです。 お願いできませんか?」 「茶色のボールペンなら出て来たよ、これでどう?」 「葉っぱ、枯れちゃうじゃないですか!」 「とらちゃんは何に使うの?」 「お礼状の周りにクローバーを描こうと思って。 クローバーは幸運のシンボルなんですよ♪ 良いご縁になりますようにって、おまじないで描いておけば喜んで貰えるかなって思って」 「今の女の子って葉っぱ推しなんだねー、まあいいや、探しておくから他の部分を書いておいてよ」 仕方なく、お礼状の文字の部分をい書き始める、せおりととら 「せおりちゃんの字、超キレーイ♪ 手描きのメッセージって萌えですよね♪」 せおりは丁寧に書くことに凝り始めた。 さした枚数があるわけでもなく、暇を持て余し始めたのだ。 探し物に飽きた桜田が、二人の女の子に食いついてくる。 「本当だ、いいね! とらちゃんも字が綺麗だね~」 「武家のたしなみとかお父さんやおじいちゃんが言うから、幼稚園のときから書道をやってて、字を書くのは得意だよ」 「そうなんだ~、僕、字が下手なんだよ、真面目に書いてもこんな感じ、ほら見て、ほらほら」 そう言い、何かの書類に自分の名前を書き始めた。 どうでもいいし、字も雑であろうのは、察しがついていた。 だが、問題はその字を書いているボールペンだった。 「桜田さん――それ緑のボールペンだよね?」 とらに指摘され、ようやく桜田は気付いた。 「あれ、本当だ? 緑のボールペンなんか使い道ないから、どうでもいい事にインクを使いきろうと思って、メモ用で胸ポケに差していたの忘れていたよ。 はい、どーぞ」 流石に何かツッこもうとした時、二人の携帯が同時に震え始めた。 今回は人数が少ないので、打ち合わせ直後に互いのアドレスを交換し、マナーモードにして、いつでも助け合えるようにしておいたのだ。 携帯の画面を見ると、マリスからだ。 あちらも、ボールペンを入手したらしい。 「桜田さん、すみません、私たちちょっと」 「お花摘みに行ってきまーす♪」 「え、こんな夜中に? どこに咲いているの? 車で送ろうか?」 良い人なのは確かだが、あまりモテそうにはない桜田くんだった。 ● 総務課には、他の二課とは異なり、何人かの社員が残っていた。 「一日アルバイトの内薙智夫です、宜しくお願い致します」 智夫は、しっかりと彼らに挨拶をした。 そして、五十三歳の柏木部長に、仕事用データを受け取りにゆく。 その時、部長の机上のペン立てに三色ボールペンが一本だけあるのを見つけた。 「部長さん、作業に使うのでそのボールペン貸していただけますか?」 穏やかだった部長の顔が、ドーベルマンに睨まれたチワワの如く怯え始めた 「な、なんだねチミは! 盗聴器でも仕掛ける気かね?」 震える掌でボールペンをガッチリガードしてしまう。 浮気の後ろめたさから、智夫を興信所の人間かと警戒しているらしい。 それならばと、部長の耳元に小声で呟く。 「部長さん、奥さんに関してお話があります」 その言葉を受けた部長は、荷馬車がお迎えに来た時の子牛のような目になり、うなだれた。 智夫は周囲の社員たちの注目が薄れるよう、結界をフル活用した。 その中で、小声で囁く。 「部長は奥様の事は愛しておられるんですよね? 部長、もし些細な事が原因で奥様と喧嘩したというのであれば、仲直りの為にも奥様ともう一度話し合われてはどうでしょうか?」 部長は難しい顔をしている。 ちゃんと調査したわけではないが、理由は遠くなかったらしい。 「奥様も、謝るタイミングを掴めないのかもしれません。 浮気した事も正直に話せば許して下さると思います」 にこっと微笑む智夫。 それに対し、部長は警戒色を薄めない。 「証拠は?」 「はい?」 「正直に話せば許してくれるという証拠だ」 なるほど、まんまと浮気を認めたら、離婚裁判に討って出られ、大量の慰謝料を請求されかねないと思っているのだろう。 智夫は、自然に機転を利かせた。 「一筆書いて下さい『今後一切、浮気はしません』と、それをいただればこの浮気の件に関しては奥様も部長も全てを忘れ、一切口外しない、その約束でいかがでしょう?」 部長はとにかく安心したいらしく、さきほどの三色ボールペンで妻への誓いをしたためた。 「では、バイトに戻ります、顧客リスト作成に使うので、このボールペンはお預かりします、よろしいですね」 後ろめたさから解放され、ホッとした部長は何の疑いもなく頷いていた。 ● 四人のリベリスタは、携帯で合図を送り合い、屋上へと集った。 その手には合計三本のボールペンが握られている。 とらは強結界を展開。 さらにドアノブをとらロープで縛って固定し、人が入ってこられないようにした。 「一本ずつ処理していく?」 せおりの言葉に全員が頷く。 多数による少数の各個撃破は、戦術の基本と言えた。 「その前に、戦闘力を可能な限りあげておきましょう、相手の力は未知数ですからね」 マリスは印を結び、防御結界を展開した。 さらには、矜持を熱に変えて纏う事で自身の力を高める。 せおりも、魂を激しく燃やし、果敢なる闘気を纏い始めた。 準備が整ったところで、とらが桜田に預かった緑のボールペンを大きく振りかぶる。 「やあ!」 屋上のコンクリに、力一杯叩きつける! これで砕け散ってくれるなら話は早かったのだが――叩き付けられる直前に、ボールペンは怪しい輝きを放ち、浮力を得た。 そのまま、マリスの右掌をめがけて、蜂の鋭さで突進した。 「危ない!」 防御結界がわずかに勢いを鈍らせてくれたおかげで、直撃は避けた。 だが、ペン先は彼女の手の甲をかすめた。 「くっ」 ごく短いものの、緑色の線が引かれた。 緑のボールペンに引かれた線は、猛毒をもたらす。 マリスの掌は猛毒に蝕まれ始めた。 「心配しないで下さいまし、鋭さは相当なものですが、重さはありません。 まだ戦えます」 気丈な表情のマリス。 「そうだね、相手が一本なら、注意すれば!」 智夫は、宙に浮かぶ緑のボールペンと睨み合うが如く凝視した。 だが、危険は背後からもたらされた。 背中に、一瞬、冷たい感触が走った。 「ん?」 智夫が振り向く前に、せおりが叫んだ。 「智夫君!」 智夫の服の背中に「死」という赤い文字が大きく書かれていた。 そして、そこから大量の血液が噴出してくる。 「うやぁあ!」 「い、いつのまに!?」 「服の上からでも効果があるだなんて!」 智夫の頭上には、赤いボールペンが小気味良さげに浮かんでいた。 そう、マリスが栄子から借り、その後はずっと握っていたものだ。 緑のボールペン最初の一撃は、猛毒による死を狙ったものに非ずそこ握られた仲間を救出するためのものだった。 すると、智夫を狙った意味は! 「三本、揃ってしまわれましたね」 痛みで緩んだ智夫の掌から、三色ボールペンが解放されてしまっていた。 リベリスタたちの各個撃破プランは崩れ、三体の敵と同時に戦わねばならなくなった。 「こいつら、生意気に考えてるじゃん!」 とらが癪に障れられたような顔をする。 「それより、智夫くん、大丈夫!?」 「ああ、でもこのままじゃまずい」 智夫が、邪気を退ける神々しい光を放ち味方全体を包みこんだ。 「これで大丈夫です、でも!」 毒や流血は消えても、その根源は消えていない。 マリスが緑ボールペンに、せあらが赤ボールペンに同時にアクセルクラッシュを放った。 ――当たらない! 速く、そして的が小さすぎるのだ。 「一撃の威力より、こうだ!」 とらが全身から放つは、気の糸! それが宙を舞うボールペンたちを追い、絞めつけようとする。 だが、敵の方が速い。 気糸の手を、ことごとくすり抜けてしまった。 「くっ、一度掴まえてしまえばどうにでもなるのに」 そうしている間に、三色ボールペンが自らをノックし、隠していたペン先を顕にした。 何色かは視認出来ない。 一瞬の睨み合いの後、機先は三本のボールペンたちがとった! 三色ボールペンが智夫に、緑と赤がせあらに襲い掛かる。 智夫の額に緑色で『毒』の文字が、せあらの右頬に赤と緑でお花が描かれた。 「ばかにしてぇ!」 営業室で花を描こうとした事へのあてつけなのだろう。 「これ酷いですよ! 毒夫ですよ、毒夫!」 額に毒の文字を書かれた智夫が嘆いたが、シャレですませられる事態ではない。 せあらと智夫は共に、毒と流血の二重苦に陥ったのだ。 「智夫くん、まだブレイクフィアーや天使の歌は放てる?」 「それは、いくらでも……倒れなければだけど、」 とらの問いかけに、智夫が頷いた。 「だったら、持久戦だよ! とにかく粘って!」 「それで、どうにかなるのでしょうか?」 「とらなりに、意図はあるから信じて!」 とらがウインクをした事で、皆は悟った。 せあらがパワードデュエルを放つ。 マリスがアクセルクラッシュと陰陽・星儀を交互使用。 とらは、デッドリー・ギャロップの糸を放つ。 素早い動きに翻弄され、どれもが当たらなかった。 敵の攻撃は、全てではないものの有効に働き、追い詰められてゆくリベリスタ。 智夫がスキルで回復をしてゆくものの、一時しのぎに過ぎない。 だが、この場合、追い詰められているように見える方が、追い詰めていた。 一見、有効には見えなかった大振りな攻撃も、とらが辺りに張り巡らせた気の糸に絡め取るための罠だったのだ。 とらの意図通り、蜘蛛の糸にかかったボールペン――E・ゴーレムたち。 リベリスタたちは、お返しとばかりに渾身の一撃を放った。 「いけないボールペンめ、こうしてくれるっ」 帰り際、とらは代わりの緑ボールペンをせあらも、新緑色の万年筆を桜田の机上に置いた。 それぞれ、置手紙を残して。 『不注意で壊しちゃったので代わりを買ってきました。先輩が優しく丁寧にお仕事教えてくださったお陰で、短い間でしたがとても楽しくお仕事出来ました。ありがとうございます。これからもずっと笑顔の素敵な先輩で居てくださいね♪ せあら』 『お借りしたボールペンを壊してしまったこと、深くお詫びいたします お詫びとしてささやかですが、同品とこちらの万年筆をお受け取り下さい 一日のみでしたが、優しいご指導有難うございました 今後も頑張って下さいね マリス』 「桜田さん、モテモテだね。 そんなにイケメンだった?」 二人は同時に首を横に振った。 どうせ、このプレゼントも、彼はどこかにしまい込んでなくしてしまうだろう。 だが、どうにも放っておけなかったのだ。 営業課の壁を見て気付いたのだが、意外にも桜田は営業課中ダントツのトップなのである。 人間、ダメすぎると、周囲の人がたまりかねて助けてくれるという事らしい。 それが証拠に、マリスは栄子に、智夫は部長に、同じようなプレゼントをなんとなく用意してしまったのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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